著者
岩本 通弥
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.73-144, 1993-11-10

本稿はこれまで概して「日本独特の現象」ともされてきた〈親子心中〉に関し、韓国におけるその事例を紹介することで、そうした言説に修正をはかるとともに、両者を比較することにより、より深いレベルにおける〈親子心中〉の諸現象、すなわち〈親子心中〉という行為だけでなく、それをめぐる社会や文化のより大きな象徴的システムのうち、何が普遍的であり、あるいは何が日本的であるのか、そのおおよその見通しを得ることを目的としている。そのため本稿では、これまでほとんど日本には報告されてこなかった、韓国における〈親子心中〉を含めた「自殺の全体像」を提示することからはじめるが、資料としては、その代表的な中央紙である朝鮮日報と東亜日報における自殺記事を、一年分収集し、これを分析した。新聞を資料として用いることに関し、方法的な視角を述べるならば、新聞記事というニュースの性質を、単なる情報の〈伝達〉という機能から捉えるのではなく、むしろ、より読み手(decorder)の役割を重視した、神話的な〈物語〉を創出していくものとして、繰り返し語られるニュースのなかの、隠れたメッセージや象徴的コードを読み解いていく。その物語性は、読み手に文化的諸価値の定義を提供しているが、こうした視角で分析してみると、日韓の自殺と親子心中「事件」のコードは類似したものが多い一方、大きく異なる点も存在する。最も相違するのは日本の自殺・親子心中の〈物語〉が「他人に迷惑を掛けること」の忌避を訴えているのに対し、韓国のそれは「抗議性(憤り)」を媒介とした「他者との心情の交流」が主要な価値コードとなっている。正反対の日本の価値コードからすれば、韓国の自殺・同伴自殺は「いさぎよし」とは見做されず、また逆に日本のそれも韓国的コードでは負に位置付けられようが、それは両国の感情表現の方法をはじめ「死の美学」や死生観・霊魂観の相違に起因するものであり、表面的形態的には類似している日韓の〈親子心中〉も、その意味するところは大きく異なっている。
著者
矢野 亮
出版者
中央大学社会科学研究所
雑誌
中央大社会科学研究所年報 (ISSN:13432125)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.59-81, 2022-09-01

This study examines the Social Department of Nagano Prefecture and the history of its establishment through material analysis based on an understanding of how society has worked in rural areas. Thus, the following points were clarified. First, in Nagano Prefecture’s administrative organization, the Social Department established in the administrative reorganization in 2010, traces its roots to the establishment of the Social Department in 1921. Second, after the abolition of the Social Department in 1938, there was no organization for society-related projects in the prefectural offices for about eight years before the establishment of the Ministry of Education and Civil Affairs in 1946 after World War II. Consequently, the Ministry of Education took over projects that were previously under the supervision of the Social Department. Third, after the Social Department was abolished in 1924, it was revived in 1926 to manage funds for the activities of Social Welfare Commissioners. Therefore, as a mechanism that underpins local social projects, the Nagano Prefectural Social Department has been one of the social security systems through repeated cycles of abolition, survival, and transformation before World War II. Hence, by referencing the Social Department, hints were obtained to elucidate how society was conceived.
著者
飯野 希 Nozomu Iino
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2013-03-24

ヒトの速度知覚は,刺激パターンの様々な要因(1)輝度コントラスト,(2)空間周波数,(3)形状などに影響を受ける.すなわち,パターンの速度が物理的に等しくても,知覚量としては異なることがある.この差は錯視量と呼ばれる.これらの視覚特性や要因を再現・説明するために,さまざまな視覚細胞特性や計算論的仮定などを導入した数理モデルが提案されてきた.本研究では,ヒトの視覚細胞特性や計算論的仮定を考慮・導入していない工学的画像処理アルゴリズムでも基本的な知覚特性が再現・説明できることを示す.具体的には時空間微分算法と呼ばれる手法の入出力特性を測定・分析・数理的考察を行い,上記(1)(2)(3)の視覚特性が再現・説明できることを示す.このような工学的観点から考察を行うことで,視覚特性の要因について新たな解釈を与えることを目的とする.具体的な手法としては,MATLABによるシミュレーションにより,上記の視覚特性の再現・説明を試みた.シミュレーションを行った結果,工学的画像処理アルゴリズムでも上記(1)(2)(3)の特性が再現できることを示した.さらに数理的な考察を行い,細胞ノイズ・生体ノイズなどのノイズが速度推定に影響を与え,結果として視覚特性が現れることを示した.また,刺激の形状や,物理的運動方向を定めることで,どの程度の錯視量が生じるか数式上で求められることを示した.これは,刺激の形状によって,錯視量が最大となる運動方向や,錯視が生じない運動方向を計算論的に定められることを意味している.この研究により,工学的観点から視覚特性が再現できることがわかり,視覚特性の要因についても新たな解釈,工学的考察の可能性を与えた.
著者
杉浦 克己 Katsumi Sugiura
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.252(25)-237(40), 1999-03-31

古語拾遺は大同二(八〇七)年、斎部広成が、平城天皇の朝儀についての召問に答えて撰上したものである。国語史の分野では、特に万葉仮名書の語句を貴重な上代語の資料として重視し、この方面からの研究を中心に内容全体の解釈に資する研究が進められてきた。しかし、現存伝本は中世以降のもののみであり、本文に注された訓読そのものを中心とした研究は必ずしも多くはなかった。 今般、主要な伝本の訓読を調査し、相互に比較検討することによってその特色を明らかにする作業に着手し、先ず第一段階として現存最古の完本である「嘉禄本」及び「暦仁本」(共に天理図書館蔵)を取上げ、訓読の歴史的な変遷とたどる上での指標となる、いわゆる「使役句形」の訓読を個々の例について比較することによって、各々の訓読上の特色考える上での見通しを得ることを試みた。 この結果、嘉禄本は中世の吉田(ト部)家ゆかりの『日本書紀』諸伝本に見える訓読に近い性格を持っていること、暦仁本も基本的には同様であるが、若干の部分についてこれとは異なる性格を併せ持つ可能性があること、の二点を明らかにすることができた。 今後この見通しの元、詳細な訓読の比較検討を試みると共に、他の伝本についても考察の範囲を順次拡大して行きたい。
著者
安江 範泰
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 アーカイブズ研究篇 = The Bulletin of The National Institure of Japanese Literature, Archival Studies (ISSN:24363340)
巻号頁・発行日
vol.53, no.18, pp.149-158, 2022-03-18

本論文は、国重要文化財「京都府行政文書」を検討素材として、地方自治体が残す歴史的行政文書の史料学的な分析方法を提起する。 まず、京都府行政文書を個別文書別・時代別・事務別に分節化し、観点ごとにその構成を把握した。次いで、各府県が保有する同様の文書群との比較を通じて、明治期文書や農林・商工関係文書の構成比が小さい、残存する郡役所文書が少ない、昭和戦前期の文書の残存状況が良好、といった特徴が照射された。その上で、明治から太平洋戦争敗戦に至る京都府における行政活動や行政文書の蓄積・廃棄の歴史的経験を参照すると、以上にみた、京都府行政文書の構成上の諸特徴が形成される経緯を特定することがある程度まで可能であることが判明した。また各府県の事例の比較から、文書管理上の経験の共通性と差異、そしてそれが各府県の行政文書の現状にどのような影響を与えたのかも示唆された。 こうした検討事例を踏まえ、文書の内容構成の分析結果、文書の伝来に関する歴史的情報、文書間の比較から判明する情報を有機的かつ効果的に組み合わせるという方法をとることが、当該歴史的行政文書に対する史料学的理解を深め、従来の見解を乗り越える上で必要であることを問題提起する。 This paper proposes an approach to analysis historical documents of local governments, dealing withKyoto Prefectural Administrative Documents, a national important cultural property as example.First, we grasp the construction of the documents from plural viewpoins of kinds of includeddocuments, era and affairs. Secondly, by comparison with documents of other governments, the feature hasbecome clear that a rate of existing documents made in Meiji period, ones related to affairs of commerce,industry, agriculture and forestry, and ones of the Gun-offices is low, on the other hand a rate of ones made inShowa period is high. In addition, referring to the administrative activities and the record of management ofthe documents from Meiji to the defeat in WW2, we can guess to a certain extent how the above feature hasformed. And we can know community and difference of experiences of the management of documents, andwhat effect they had on present condition of each document.Through the above examination, we can say that it is necessary to effectively combine pieces ofinformation gained from analysis of the construction and transmission about the documents and comparisonwith others in order to develop an understanding on historical materials study.

1 0 0 0 OA 2015 4 紀要22

巻号頁・発行日
2015-04-01
著者
西村 惇 松原 豊 高田 広章
雑誌
研究報告組込みシステム(EMB) (ISSN:2188868X)
巻号頁・発行日
vol.2023-EMB-62, no.48, pp.1-8, 2023-03-16

コンテナ型仮想化は,VM 型仮想化より資源効率や処理速度で優れており,組込みシステムを含め,多くの分野で利用が広まりつつある.コンテナを作成する低レベルランタイムはコンテナのアプリケーションの実行性能やセキュリティを大きく左右するため,最適な選択を行う必要がある.一方で,セキュリティ分野を筆頭に評価が十分になされておらず,評価方法も確立されていない.本研究では新たに評価ツールを実装し,x86_64 環境と ARM 環境で,アプリケーションの実行性能,リソース使用量,セキュリティの観点から,runc,crun,gVisor,Kata Containers の 4 つの低レベルランタイムの評価を行った.
著者
千葉 克裕
出版者
文教大学
雑誌
文教大学国際学部紀要 = Journal of the Faculty of International Studies Bunkyo University (ISSN:09173072)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.57-65, 2017-07-31

Extensive reading has recently been recognized as an effective means of enhancing L2proficiency, and there are numerous studies that report statistical significance in reading speed.However, very few studies explain the relation between the number of words read and readingspeed. In this study, the relation between the number of words participants have read and readingspeed was analyzed. A very strong correlation between the two was observed (r=.776, p=.000). Theresults showed that the more words learners read, the faster the learners’ reading speed increases.Moreover, it is found that there is a huge difference in reading speed between readers of five hundredthousand words and readers of one million words; the former is a little faster than the averagereading speed of non-native speakers (128.44 wpm), but the latter (242.67 wpm) is that of nativespeakers. The current article concludes that ER can enhance reading ability which is not measuredby the standardized tests.
著者
白石 太一郎
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.108, pp.93-118, 2003-10-31

古墳時代前期から中期初めにかけての4世紀前後の古墳の埋葬例のうちには,特に多量の腕輪形石製品をともなうものがある。鍬形石・石釧・車輪石の三種の腕輪形石製品は,いづれも弥生時代に南海産の貝で作られていた貝輪に起源するもので,神をまつる職能を持った司祭者を象徴する遺物と捉えられている。したがって,こうした特に多量の腕輪形石製品を持った被葬者は,呪術的・宗教的な性格の首長と考えられる。小論は,古墳の一つの埋葬施設から多量の腕輪形石製品が出土した例を取り上げて検討するとともに,一つの古墳の中でそうした埋葬施設の占める位置を検証し,一代の首長権のなかでの政治的・軍事的首長権と呪術的・宗教的首長権の関係を考察したものである。まず,一つの埋葬施設で多量の腕輪形石製品を持つ例を検討すると,武器・武具をほとんど伴わないもの(A類)と,多量の武器・武具を伴うもの(B類)の二者に明確に分離できる。前者が呪術的・宗教的首長であり,後者が呪術的・宗教的性格をも併せもつ政治的・軍事的首長であることはいうまでもなかろう。前者の中には,奈良県川西町島の山古墳前方部粘土槨のように,その被葬者が女性である可能性がきわめて高いものもある。次に両者が一つの古墳のなかで占める位置関係をみると,古墳の中心的な埋葬施設が1基でそれがB類であるもの,一つの古墳にA類とB類の埋葬施設があり,両者がほぼ同格のもの,明らかにB類が優位に立つものなどがある。それらを総合すると,この時期には政治的・軍事的首長権と呪術的・宗教的首長権の組合せで一代の首長権が成り立つ聖俗二重首長制が決して特殊なものではなかったことは明らかである。また一人の人物が首長権を掌握している場合でも,その首長は大量の武器・武具とともに多量の腕輪形石製品をもち,司祭者的権能をも兼ね備えていたことが知られるのである。
著者
井上 果苗
雑誌
中京英文学 = Chukyo English literature (ISSN:02852039)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.49-70, 2008-01-01
著者
丸山 久美子
雑誌
聖学院大学論叢 = The Journal of Seigakuin University (ISSN:09152539)
巻号頁・発行日
vol.第16巻, no.第2号, pp.189-218, 2004-03