著者
村中 洋介 ムラナカ ヨウスケ
雑誌
静岡文化芸術大学研究紀要 = Shizuoka University of Art and Culture Bulletin
巻号頁・発行日
vol.21, pp.33-40, 2021-03-31

2020年4月に,香川県は子供のゲーム時間などを制限することを内容に含む条例を施行した。その背景には,「ゲーム障害」を病気として位置づけ,ゲーム依存症対策を行うべきだとする動きがある。ゲームやインターネットをすること,スマートフォンの利用などは本来人々にとって自由とされるものであるはずで,それを制限することは憲法上問題があるともいえる。香川県条例はそうした自由を制限する内容を含むもので,憲法上このような条例制定が認められるか疑問が残る。そのような中で施行された香川県の条例について,他の人権を制約する可能性のある条例との比較を通じて,香川県条例の憲法適合性について検討する。
著者
衛 飛
出版者
岩手大学
巻号頁・発行日
pp.1-208, 2014

小型2 ストロークエンジンは燃料と潤滑油を混合して,一緒にシリンダー内に供給する混合潤滑方式をとるものが多数である.この潤滑油から,燃焼室堆積物(CCD :Combustion Chamber Deposit)が多量に生成し,その一部が剥離し,摺動面に入り込むことも摩耗促進の一因であるとされている.さらに燃焼室内にCCD が堆積することによって生じる影響として,排気孔やマフラー周辺の汚れ,排気ガス悪化,異常燃焼,出力低下,要求オクタン価の増大など様々な影響がある.シリンダーの摩耗は,シリンダーとリングの機械的な摺動,温度,圧力,トライボケミカル反応など多くの要因が関係する.そのため,実機実験では各要因の影響を個別に判定し難く,そのために,往復摺動試験機を用いた模擬実験が有効となってくる.また,近年の資源枯渇問題や環境問題から代替燃料への取り組みとしてメタノール燃料が注目されている.しかし,メタノール燃料を用いた場合,メタノールが極性を持つため市販の2 ストローク用潤滑油とは混合せず,シリンダー壁面での潤滑油特性はガソリンを燃料とした場合とは異なってくる.そこで本研究では2 ストロークエンジンの燃料の差異が摩耗に与える影響を明らかにするため,以下の三つ実験を行った.1) 実機エンジンにおいて,ガソリンおよびメタノールを燃料としたときの運転経過によるシリンダー摩耗の進行状況について調べ,2)壁面潤滑油特性について,運転中にシリンダー壁面に存在する油を採取し,エンジン内での潤滑油の状態について検討し,3) 往復摺動試験機による摩耗進行試験を行ない,小型2ストロークエンジンの運転状況を模擬し,潤滑油新油とその劣化油および新油と劣化油の混合液を用いて,シリンダー壁面の摩擦と摩耗特性を研究した.本論文の構成は以下のとおりである.第1 章 諸論 本論文の背景とその位置付け,研究目的について述べる.第2章 実機運転における摩耗の進行 摩耗試験により得られた結果をまとめることにより,2ストローク機関におけるシリンダーおよびリングの摩耗特性を考察する.燃料には市販レギュラーガソリンおよびメタノールを用い,汎用の空冷単気筒2ストローク火花点火機関を長時間運転し,シリンダーおよびピストンリングの摩耗進行について比較を行う.シリンダーは円筒形状を高精度で測定できる真円度測定器を用いた測定を試みる.これより,任意の摺動方向八方向のみの摩耗量測定であったものが,全体の形状変化として円周方向も詳細に捉えることが可能となる.また,ピストンリングの摩耗形態を調査するため,摺動面にビッカース痕を付け,レーザ顕微鏡を用いて,圧痕の深さを測定することにより摩耗量を調査する.第3 章 シリンダー壁面における潤滑油特性 メタノール燃料を用いた場合,市販の2ストローク用潤滑油は混じり合わないため,シリンダー壁面での潤滑状態がガソリン燃料と異なると思われる.そのため,運転中にシリンダー壁面に付着した油膜を採取し,ガソリン燃料およびメタノール燃料を用いたときの粘度測定および熱重量分析,示差熱分析を行い,エンジン内での潤滑油の挙動を推定する.このことより得られた結果と第2 章での摩耗実験の結果を比較し,市販のガソリン用に用いられる2ストローク用潤滑油がメタノール燃料を用いた場合でも使用可能であるかを判断する.粘度測定にはカップアンドコーン型粘度計を用いて,温度-粘度特性を調べ,潤滑状況を検討する.第4 章 往復摺動試験機による摩耗試験 実機エンジンにおいて摩擦摩耗に及ぼす影響因子を明らかにするために,往復摺動試験機で実験を行う.摺動試験片には実機エンジンのシリンダーとピストンリングから切り出したものをもちい,その摺動面に2ストローク用潤滑油と燃料を混合したものを供給する.供給燃料としてはガソリンおよびメタノールを用いる.摺動試験機の負荷を変化させ摺動試験の時間経過による,摩擦係数および摩耗量を測定して,その結果に及ぼす潤滑油混合割合や燃料種類の違いによる影響を調べ,実機機関における摩擦摩耗との関係を検討する.第5 章 実機実験と摺動試験の関係 実機実験と摺動試験の実験結果を比べて,摺動試験の実機実験における有効性を検討する.また,実験条件と同じ場合の得られた結果の関連性を分析する.さらに実機実験と摺動試験の関係を得られた.第6 章では,本論文で得られた結論を述べた.これらの実験的研究により,小型2 ストロークエンジンに代替燃料としてメタノールを用いた場合のシリンダートライボロジーについて実機運転と往復摺動試験機を用いた実験の両面から研究を行い,その成果として,市販2ストローク用潤滑油を分離潤滑方式で供給を行えば,メタノール燃料を用いた場合でも十分運転が可能であると思われ,ガソリンの代替燃料として期待できることが分かった.
著者
韓 東育 Dongyu HAN
雑誌
北東アジア研究. 別冊 (ISSN:13463810)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.147-187, 2013-05-31
著者
小坂谷 聡 上原 哲太郎
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.1444-1457, 2020-09-15

刑事手続きにおいてデジタル証拠が扱われる際に,しばしば提出されたデジタル証拠が警察や検察の手によって改ざんされたものではないのか問題となることから,我々は,ブロックチェーンを用いた証拠の改ざん防止システムについて提案する.提案システムでは,利用者・参加者に対してトークンを付与することにより一定のインセンティブとして有効かつ効果的に活用されることを想定しているが,そのためには,トークンを活用して価値ある一定の経済圏,すなわち,トークンエコノミーが構築されることが必要であると考えらえる.本論文では,提案システムに対するリスクについても検討し,実装によりその有効性を検証したうえで,提案システムによって構築すべきトークンエコノミーについて考察する.
著者
廣澤 龍典 上原 哲太郎
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.1859-1870, 2020-12-15

インターネットやスマートフォンの普及により,オンラインサービスにおいてゲームや懸賞などにおける抽選の機会が増えている.しかし,抽選に用いられる乱数の生成手法は非公開であることが多く,抽選結果もその乱数の生成結果を正しく反映しているか確認は難しい.そのため,ユーザは抽選の結果に納得できない場合がある.そこで我々は,ブロックチェーンを用いた透明性のある抽選システムを提案する.スマートコントラクトによって乱数の生成手法は公開され,乱数の生成結果としての賞品などの対応付けはブロックチェーン上に記録・公開されるため,ユーザは抽選の正当性を確認することが可能となる.Ethereum上に実装したプロトタイプシステムによって,本提案手法が実用的な時間およびコストで実装可能であることを示した.
著者
中谷 彪 Kaoru Nakatani
雑誌
武庫川女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09163115)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.9-20, 2008-03-31

The Prime Minister Shinzo Abe Administration advocates“break away from the postwar regime”. As a part of measures crystallizing his idea,the government party occupying an absolute majority of the Diet forced to amend the fundamental law of education completely,and enforced the new fundamental law of education,on December 22,2006. The original law was made in 1947,based on the educational philosophy and principles which profoundly criticized and denied the prewar educational system under the imperial rescript on education. In addition,the government party passed three education- related bills(school education law,teacher license law,organization and management of the local educational administration). What is the true purpose of successive amendments on educational laws? What kind of problems in terms of educational science do they have? This paper examines the new fundamental law of education carefully,and,pointing out the problems of the law,clarifies the real figure of“break away from the postwar regime”in the field of education. This paper also proposes some viewpoints to overcome the problems.
著者
大出 彩 松本 文子 金子 貴昭
雑誌
じんもんこん2013論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, no.4, pp.103-110, 2013-12-05

本研究では,日本レコード大賞及び優秀作品賞を受賞した楽曲の歌詞について計量テキスト分析を行った.1978年から2012年に発表された全344曲の年代ごとに表れる歌詞の変化を読み取った結果,全年代を通してラブソングが流行する傾向にあると分かった.また,1990年代後半から2000年代にかけてネガティブな内容からポジティブな内容への変化が見られ,1997年が変化の境界になっていることが分かった.その要因には当時の社会背景が関係しており,失業率の増加や凶悪犯罪の増加などから人々の社会に対する不安が増大したこと,流行の発信者が若者へと移行していったことが影響していると考えられる.
著者
松野 隆則 Takanori MATSUNO
雑誌
昭和女子大学生活心理研究所紀要 = Annual bulletin of Institute of Psychological Studies, Showa Women's University (ISSN:18800548)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.31-40, 2012-03-31

Handwriting samples of a given Japanese text were collected from female student participants (N=50). Affective impressions regarding the appearance of the handwriting samples were assessed using the Semantic Differential technique. A factor analysis revealed three dimensions of impressions about handwriting, which were semantically similar to the dimensions of person perception. Another panel of female students inferred the big-five personality traits of the writers from the handwriting samples. All inferred personality traits were moderately or strongly correlated with at least one dimension of the impressions about handwriting. However, there were no satistically significant correlations between the dimensions of impressions about the handwriting and the writer's actual personality traits as assessed by the Big-Five Scales. The process and the fallaciousness of naive graphological inferences are discussed.
著者
柴原 直樹
雑誌
近畿福祉大学紀要
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-11, 2006-06-15

A great Greek philosopher, Aristotle once said that laughing is a nature of human beings. Since then, agreat number of scholars such as philosophers, linguists, psychologists, literati, and writers have tried toexamine the mechanisms of laughter from their unique viewpoints, although a satisfactory explanation of thecause of laughter has not yet been made. In this paper, I first presented the classification of laughing intoseveral types such as a pleasurable laughter, a social smile, and so on, from phylogenetic and ontogeneticperspectives. Then, I overviewed various interpretations of the cause of laughter from philosophical,linguistic, and psychoanalytic viewpoints, presenting concrete examples of wit, humors and jokes,whichleads to an investigation of how and why people could laugh. Finally, the mechanisms of a smile andlaughter an a physiological level were discussed in terms of the brain systems and its relation to facialexpressions.
著者
清松 大
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:24343110)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.91-106, 2022-03-31

高山樗牛の唱えた「美的生活論」は、登張竹風による解説を一つの契機として、その「本能主義」的側面がニーチェの個人主義思想と強固に結びつきながら理解された。樗牛の美的生活論は文壇内外で多くの批判や論争を呼ぶとともに、同時代の文学空間を熱狂的なニーチェ論議へと駆り立てていった。 なかでも、坪内逍遙が「馬骨人言」において創出した「滑稽」な戯画的ニーチェ像は、『中央公論』や『新声』、『文庫』、『饒舌』といった、文学志向の青年たちを主たる読者層としていた雑誌において、その姿形を変えながら増殖していくことになる。そこでは、美的生活論の思想や樗牛という存在自体が「滑稽」化され、時には「滑稽」的なニーチェ像をつくりだした張本人たる逍遙をも組み込みながら、ニーチェ思想や美的生活論をめぐる論争そのものが戯画化された。 こうした現象は、「文閥打破」を掲げて既成文壇の批判者を自任し樗牛とも敵対関係にあった青年雑誌の特質を反映したものとみなすことができる。そして、中央文壇や論壇への対抗意識を燃やす青年たちの武器として選び取られた「滑稽」や「諷刺」への問いと実践は、美的生活論争以前にほかならぬ樗牛・逍遙によってたたかわされていた「滑稽文学(の不在)」をめぐる論争以降の文学空間に伏在していた要求であった。「馬骨人言」以後の「滑稽」的なニーチェ像の再生産や美的生活論の戯画化は、そうした時代の要求が表出したものとしても意味づけられる。 従来、高山樗牛という存在は明治期の青年層から敬慕された対象として語られることが多かったが、本稿では、中央文壇に対する明確な敵対意識を有していた青年雑誌と樗牛との間に緊張関係を見出し、「青年」と樗牛との関係性をとらえ直す契機を提示する。また同時に、明治期の文学空間において「滑稽」や「諷刺」といった問題がどのような意義を有していたかを問い直す視座を開こうとするものである。
著者
熊木 俊朗 福田 正宏 國木田 大
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.202, pp.101-135, 2017-03-31

柳田國男が一九〇六年の樺太紀行にて足跡を残した「ソロイヨフカ」の遺跡とは、南貝塚(別名、ソロイヨフカ遺跡)であり、この遺跡はその近隣にある鈴谷貝塚と共に、サハリンの考古学研究史上最も著名な遺跡の一つになっている。これらの遺跡の出土資料を標式として設定された「南貝塚式土器」と「鈴谷式土器」のうち、本論では後者の鈴谷式土器を対象として年代に関する再検討をおこなった。鈴谷式土器は、時代的には続縄文文化とオホーツク文化の、分布や系統の上では北海道とアムール河口域の狭間にあって、これら両者の関係性を解明する上で重要な資料であると考えられてきたが、特にその上限年代が不明確なこともあって年代や系統上の位置づけが定まっていなかった。本論でおこなった放射性炭素年代の測定と既存の測定年代値の再検討の結果、鈴谷式土器の年代はサハリンでは紀元前四世紀〜紀元六世紀頃、北海道では紀元一世紀〜紀元六世紀頃と判断された。この年代に従って解釈すると、鈴谷式土器はサハリンにおいて先に成立し、しばらく継続した後に北海道に影響を及ぼしたことになる。この結論を従来の型式編年案と対比させるならば、以下の点が検討課題として浮上してこよう。すなわち、サハリン北部での最近の調査成果に基づいて提唱されたカシカレバグシ文化、ピリトゥン文化、ナビリ文化といったサハリン北部の諸文化や、アムール河口域と関連の強いバリシャヤブフタ式系統の土器は、古い段階の鈴谷式土器と年代的に近接することになるため、これら北方の諸型式と鈴谷式土器の型式交渉を具体的に検討することが必要となる。また従来の型式編年案では、古い段階の鈴谷式土器は北海道にも分布すると考えられているため、その点の見直しも必要となる。鈴谷式土器を含む続縄文土器や、サハリンの古金属器時代の土器の編年研究においては、今後、これらの問題の解明が急務となろう。