- 著者
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衛 飛
- 出版者
- 岩手大学
- 巻号頁・発行日
- pp.1-208, 2014
小型2 ストロークエンジンは燃料と潤滑油を混合して,一緒にシリンダー内に供給する混合潤滑方式をとるものが多数である.この潤滑油から,燃焼室堆積物(CCD :Combustion Chamber Deposit)が多量に生成し,その一部が剥離し,摺動面に入り込むことも摩耗促進の一因であるとされている.さらに燃焼室内にCCD が堆積することによって生じる影響として,排気孔やマフラー周辺の汚れ,排気ガス悪化,異常燃焼,出力低下,要求オクタン価の増大など様々な影響がある.シリンダーの摩耗は,シリンダーとリングの機械的な摺動,温度,圧力,トライボケミカル反応など多くの要因が関係する.そのため,実機実験では各要因の影響を個別に判定し難く,そのために,往復摺動試験機を用いた模擬実験が有効となってくる.また,近年の資源枯渇問題や環境問題から代替燃料への取り組みとしてメタノール燃料が注目されている.しかし,メタノール燃料を用いた場合,メタノールが極性を持つため市販の2 ストローク用潤滑油とは混合せず,シリンダー壁面での潤滑油特性はガソリンを燃料とした場合とは異なってくる.そこで本研究では2 ストロークエンジンの燃料の差異が摩耗に与える影響を明らかにするため,以下の三つ実験を行った.1) 実機エンジンにおいて,ガソリンおよびメタノールを燃料としたときの運転経過によるシリンダー摩耗の進行状況について調べ,2)壁面潤滑油特性について,運転中にシリンダー壁面に存在する油を採取し,エンジン内での潤滑油の状態について検討し,3) 往復摺動試験機による摩耗進行試験を行ない,小型2ストロークエンジンの運転状況を模擬し,潤滑油新油とその劣化油および新油と劣化油の混合液を用いて,シリンダー壁面の摩擦と摩耗特性を研究した.本論文の構成は以下のとおりである.第1 章 諸論 本論文の背景とその位置付け,研究目的について述べる.第2章 実機運転における摩耗の進行 摩耗試験により得られた結果をまとめることにより,2ストローク機関におけるシリンダーおよびリングの摩耗特性を考察する.燃料には市販レギュラーガソリンおよびメタノールを用い,汎用の空冷単気筒2ストローク火花点火機関を長時間運転し,シリンダーおよびピストンリングの摩耗進行について比較を行う.シリンダーは円筒形状を高精度で測定できる真円度測定器を用いた測定を試みる.これより,任意の摺動方向八方向のみの摩耗量測定であったものが,全体の形状変化として円周方向も詳細に捉えることが可能となる.また,ピストンリングの摩耗形態を調査するため,摺動面にビッカース痕を付け,レーザ顕微鏡を用いて,圧痕の深さを測定することにより摩耗量を調査する.第3 章 シリンダー壁面における潤滑油特性 メタノール燃料を用いた場合,市販の2ストローク用潤滑油は混じり合わないため,シリンダー壁面での潤滑状態がガソリン燃料と異なると思われる.そのため,運転中にシリンダー壁面に付着した油膜を採取し,ガソリン燃料およびメタノール燃料を用いたときの粘度測定および熱重量分析,示差熱分析を行い,エンジン内での潤滑油の挙動を推定する.このことより得られた結果と第2 章での摩耗実験の結果を比較し,市販のガソリン用に用いられる2ストローク用潤滑油がメタノール燃料を用いた場合でも使用可能であるかを判断する.粘度測定にはカップアンドコーン型粘度計を用いて,温度-粘度特性を調べ,潤滑状況を検討する.第4 章 往復摺動試験機による摩耗試験 実機エンジンにおいて摩擦摩耗に及ぼす影響因子を明らかにするために,往復摺動試験機で実験を行う.摺動試験片には実機エンジンのシリンダーとピストンリングから切り出したものをもちい,その摺動面に2ストローク用潤滑油と燃料を混合したものを供給する.供給燃料としてはガソリンおよびメタノールを用いる.摺動試験機の負荷を変化させ摺動試験の時間経過による,摩擦係数および摩耗量を測定して,その結果に及ぼす潤滑油混合割合や燃料種類の違いによる影響を調べ,実機機関における摩擦摩耗との関係を検討する.第5 章 実機実験と摺動試験の関係 実機実験と摺動試験の実験結果を比べて,摺動試験の実機実験における有効性を検討する.また,実験条件と同じ場合の得られた結果の関連性を分析する.さらに実機実験と摺動試験の関係を得られた.第6 章では,本論文で得られた結論を述べた.これらの実験的研究により,小型2 ストロークエンジンに代替燃料としてメタノールを用いた場合のシリンダートライボロジーについて実機運転と往復摺動試験機を用いた実験の両面から研究を行い,その成果として,市販2ストローク用潤滑油を分離潤滑方式で供給を行えば,メタノール燃料を用いた場合でも十分運転が可能であると思われ,ガソリンの代替燃料として期待できることが分かった.