著者
富岳 亮 田中 惠子
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.395-400, 2013-04-01

はじめに Stiff-man/person症候群(SPS)は,1956年にMoerschとWoltmanが筋硬直と歩行障害を呈する13例に対してstiff-man症候群と命名した疾患である1)。1963年にはHoward2)が本症でジアゼパムが有効であることを初めて報告し,1971年には,病理学的に脳幹と脊髄に炎症所見を呈する例が報告された3)。 1999年,BrownとMarsdenはstiff-man症候群に加え,経過や主たる症候が異なるSPSを3群に分けてstiff-man plus症候群という名称を提唱した4)。すなわち,①亜急性の経過で生じる筋硬直・脳幹症状と進行性脳脊髄炎を呈するprogressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus(PERM),他の2群は比較的慢性の経過で,②脳幹由来のミオクローヌスを主とし四肢にも波及していくjerking stiff-man症候群と,③四肢末梢優位に有痛性痙攣と硬直を認め,特に下肢に優位で体幹の症状が少ないstiff-limb症候群を区別して示した。硬直が一側下肢から始まった場合stiff-limb症候群と診断される。多くの症例では経過とともに硬直は全身に広がっていくが,一部に下肢の硬直が際立っている症例が存在する。 SPSでは,経過中に種々の神経症候を呈する症例が存在しSPS-plusとされるが,Dalakas5,6)の経験では10%に小脳症状を伴い,5~10%にてんかん,眼球運動障害を伴う。SPSに小脳症状を伴う症例では,強い硬直と痙縮を呈し,小脳症状は体幹失調と構音障害,歩行は下肢と体幹に強い硬直を伴う運動失調性歩行を呈し,急速眼球運動の障害と追跡眼球運動障害,さらには水平注視時の眼振を認めた。以上のように,SPSは古典的なstiff-man症候群に加え,stiff-man plus症候群,さらに傍腫瘍症候群としてのSPSが加わり徐々に本症候群の概念が確立されていった。 本症では神経組織に炎症所見を生じる例があることから,ステロイドホルモン投与7),血漿交換療法が試行され8),奏効する例が報告されたことより,自己免疫学的機序の可能性について検討が加えられた。Solimena, De Camilliら9,10)はSPSの約60%にグルタミン酸脱炭酸酵素(glutamate decarboxylase:GAD)に対する自己抗体の存在を見出した。また,悪性腫瘍を背景とし,SPSを呈する傍腫瘍性神経症候群で抗アンフィフィシン(amphiphysin)I抗体が検出された例が報告され11),縦隔腫瘍にSPSを合併した1例でゲフィリン(gephyrin)抗体が見出されたとの報告もある12)。
著者
Yoshikazu Matsuoka Hiroshi Morimatsu
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Journal (ISSN:13469843)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.432-440, 2019-01-25 (Released:2019-01-25)
参考文献数
29
被引用文献数
2

Background: Pulmonary embolism (PE) is a serious complication during the perioperative period. However, because most previous studies on the incidence of postoperative PE are based on symptoms, asymptomatic occurrences of PE have been overlooked, and the absolute incidence of postoperative PE remains unknown. The aim of this study was to investigate the incidence of perioperative PE, regardless of its symptoms, by reviewing the clinical interpretations of the diagnostic images obtained during the postoperative period. Methods and Results: This study included all patients aged at least 18 years who underwent operations under general and/or neuraxial anesthesia in our institution from 2013 to 2016. We reviewed all interpretations of the diagnostic imaging performed in the postoperative period. We analyzed the 90-day cumulative incidence of postoperative PE and the characteristics, risk factors, and symptoms of patients with and without postoperative PE. Among 21,763 operations, postoperative diagnostic imaging was performed in 1,168 patients, which found PE in 217 patients. Symptoms appeared in 11.1% (24/217) of the PE patients, and 66.7% of these symptoms were decreased levels of SpO2alone. Mortality from PE was 0.5% (1/217). Conclusions: Diagnostic imaging found a number of postoperative PE cases, regardless of the presence of symptoms. Although symptomatic PE was not a frequent occurrence, these findings suggest that clinicians should be aware of postoperative PE even under current prophylaxis.
著者
樋口 美智子
出版者
東洋大学
雑誌
東洋法学 (ISSN:05640245)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.219-249, 1993-09-10
著者
山本 昭夫
出版者
農林水産省農業生物資源研究所
雑誌
農業生物資源研究所研究資料 (ISSN:09156836)
巻号頁・発行日
no.16, pp.21-118, 2001-03
被引用文献数
3

「生物の多様性に関する条約」の発効により、遺伝資源の国際移転を行う際には、その利用から生ずる利益を遺伝資源提供者と利用者の間で公平・衡正に配分することとなった。FAOの「植物遺伝資源に関する国際的申し合わせ」は、現在、同条約との整合性を図るべく改定交渉中である。交渉における核心は、現実的な利益配分の仕組みを組み込んだマルチラテラルな遺伝資源交換の仕組みを構築することである。
著者
伊吹 友秀 児玉 聡
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.47-55, 2007
参考文献数
52
被引用文献数
1

昨今、デザイナー・ベビーやスポーツにおけるドーピングなど、医科学技術のエンハンスメント的な使用に対する倫理的な懸念が高まっている。だが、「エンハンスメントとはそもそも何なのか」という議論が十分になされているとはいいがたい。そこで、本研究では、1)「エンハンスメント」という語の用いられ方を系統的な文献調査によって明らかにし、これを基に、2)「エンハンスメント」という語の整合的な定義はどのようなものか、3)その様に定義された場合に、エンハンスメントに対するさまざまな懸念に対してどのような含意があるのかということを考察した。その結果、エンハンスメントとは治療の対概念と定義されることが多く、治療との区別の仕方には、a)医学的な区別、b)政治哲学的な区別、c)社会学的な区別の三種類があることが明らかになった。しかし、そのいずれも欠点を抱えており、治療とエンハンスメントを判然と区別するには至らないことを示した。他方、治療とエンハンスメントの区別を重要視しない立場には、保守的なものとラディカルなものに分類されることを示したが、これらはいずれも直観との不整合が見られた。これらの結果より、エンハンスメントと治療は概念的な連続性があること、そして、エンハンスメントは、「医科学的介入のうち、医療の目的にあまり強く合致しない改善目的の介入」と定義すると整合的であることを示唆した。その上で、エンハンスメントに対して向けられている懸念は、医科学技術全般に対して当てはまる懸念であり、本来は治療にも当てはまる懸念であるが、治療は医療の目的をより強く満たしているためにその懸念が相殺されていると論じた。
著者
宇城 輝人
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.54-63, 2015

本稿は、反レイシズムのありようが第2次大戦後に大きく変化したことをふまえ、その戦後反レイシズムの特質を理解するために、歴史的起源にさかのぼって、その政治的・理論的な含意を考察する。ふたつの対象の検討を試みる。第1に、戦後反レイシズムの強い動機となったナチズムに対抗する3つの対抗運動の試みを紹介し、その特質を考察する。(1)イグナツ・ゾルシャンの反レイシズム・ネットワークとシオニズム。(2)フランツ・ボアズが主導した「科学者たちの宣言」をきっかけに広がったアメリカの大学人世界と学会による公式見解を表明する運動。(3)左派の遺伝学者たちが優生学の立場からナチズムを批判した「遺伝学者たちの宣言」。第2に、戦後まもなくユネスコが開始した反レイシズム・キャンペーンの出発点であるふたつの声明(1950年、1951年)について考察する。そこには、人種の概念の大きな転換と、それに連動して人間集団にかかわる差異についての考えかたの変化があり、それが戦後反レイシズムの核をなしていることが理解される。戦後反レイシズムは、「人間と人間集団の差異を肯定するための普遍性」を支えるメタ政治的な制度として特徴づけることができる。そのような差異を肯定する普遍的なメタ政治への懐疑あるいは挑戦、その制度化されたメタ政治の綻びという視点から、現代のレイシズムを捉えることができるのではないか。
著者
吉田 真紀 光成 滋生 藤原 融
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.527, pp.1-5, 2004-12-17
被引用文献数
1

タイムカプセル暗号とは,復号時刻が指定された暗号文を受け取った人(復号者)が,時報局が放送する署名付き時報を復号時刻に受け取ることで,その暗号文を復号できる方式である.著者らはこれまでに,楕円曲線上のペアリングを用いた署名方式を基に,タイムカプセル暗号を構成し,実装を行った.この方式の特長は,署名付き時報の放送と暗号文の送付以外に,通信を必要としないことである.ただし,復号者は,復号時刻の署名付き時報を逃すと,それ以降の署名付き時報を用いても暗号文を復号することができない.これに対する自明な対策として,放送された署名付き時報を全て保管し公開する機関を用意することが考えられるが,効率が悪い.本稿では,保管する署名付き時報の量を減らすことを目的とし,解除信号を導入する.解除信号は一定期間ごとに公開され,その直前の期間を復号時刻とする暗号文を全て復号可能とする.
著者
西 雄大
出版者
日経BP社
雑誌
日経コンピュータ (ISSN:02854619)
巻号頁・発行日
no.809, pp.56-63, 2012-05-24

1996年前後に生まれた中学・高校生。PCはもちろんスマートフォンを身近に感じ、当たり前のようにITを使いこなす「スマホ世代」こそ、10年後に企業のIT活用を背負って立つ"宝"だ。彼ら・彼女らの可能性の芽を摘むことなく、いかに戦力となるIT人材として育成するか。喫緊の課題に向けた取り組みが始まっている。まずは大人顔向けの活躍ぶりを見せる4人のスマホ世代を紹介しよう。
著者
奈良 和重
出版者
慶應義塾大学法学研究会
雑誌
法学研究 (ISSN:03890538)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.21-61, 1973-03

一 はしがき : 政治とヒューマニズム二 カミュ対サルトル三 サルトル対メルロ=ポンティ四 マルコヴィッチとペトロヴィッチ五 コラコフスキー論説
著者
奈良 和重
出版者
慶應義塾大学法学研究会
雑誌
法学研究 (ISSN:03890538)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.90-92, 1974-08

紹介と批評表紙の記述: M・マルコヴィッチ著 『豊かさから実践へ : 哲学と社会批判』

2 0 0 0 OA 脾臓と鉄代謝

著者
佐藤 中
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.138-144, 1969-02-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
20

脾臓が造血機能と密接に関連していることは古くより知られている.しかし脾臓が鉄代謝にいかなる意義を有するかは,従来余り追求されていない.著者は,単なる鉄の貯蔵臓器としてのみならず,脾臓が鉄代謝に複雑密接に関与することを想定し,その事実を究明しようと企てた.方法としては,いわゆる脾性血球減少症患者に摘脾を行ない,その前後に鉄吸収試験および静注鉄(59Fe)の動態検索を行ない,比較検討した.その結果,摘脾により鉄吸収阻害の回復および体内鉄の骨髄への取り込み-造赤血球機序への利用障害の改善される場合のあることを確認した.以上より,脾臓は鉄の吸収および体内鉄の造赤血球機序への利用に重要な意義を有することが明らかと思われる.