著者
三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.157-163, 2011
被引用文献数
4

高次脳機能障害をもつ者は運転に関して,認知症のような絶対的欠格事由ではない。しかし,認知機能のどの領域がどの程度保たれていれば運転適性とみなされるかの基準があいまいである。高次脳機能障害者の運転能力を評価する方法としては,実車による路上評価,運転シミュレータ等によるオフロード評価,机上の神経心理学的検査,家族等同乗者による評価が挙げられる。このうち,一応のゴールドスタンダードとみなされるのは実車による路上運転評価であり,今後,医療機関と自動車教習所などとの連携により,高次脳機能障害者の路上運転評価を系統的に進めていくシステム作りが急務である。本稿では,我々が行っている高次脳機能障害者の運転評価の状況について,症例をあげて概説した。高次脳機能障害者の自動車運転については,さまざまな分野の専門家がそれぞれの立場から意見を出し合い,最良の方策を検討していくべき問題である。
著者
三村 將 藤田 佳男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.191-196, 2018

<p>安全な自動車運転を行っていくためには,「認知,予測,判断,又は操作」の領域が十分に保たれていることが必要である.運転安全性の評価には,神経心理学的検査,運転シミュレータ,同乗者による評価,実車による評価を適宜組み合わせていく.認知機能領域に関しては,注意機能と視空間認知機能を中心に,一般的知能,記憶,遂行機能,聴覚―言語機能,感情コントロールといった領域を評価する.</p>
著者
船山 道隆 三村 將
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.845-853, 2008-07-01

はじめに 作話(confabulation)とは,記憶障害を背景に,だまそうとする意図はないが,自己や世界に関する記憶や出来事を作り上げたり,ゆがめたり,誤って解釈して,外界に向けて話をすることである。作話の概念は,Kahlbaum1)が1874年の緊張病論のなかで,意味も脈略もない会話である語唱(Verbigeration)と対比して,空想的かつ生産的な内容である作話(Konfabulation)という語を用いたのに端を発し,Korsakoff2,3)によるコルサコフ症候群の確立によって大きな発展を遂げた。作話にはさまざまな分類があるが,最もよく用いられる作話の生成機転による区分として,促さなくても現れる自発作話(spontaneous confabulation)と,質問に対してのみ受動的に誘発される誘発作話(provoked confabulation)とに大別される。作話は意味記憶領域のもの(例えば「キリンとは何か」に関する作話)もあるが,そのほとんどは自己の生活史と関連した自伝的記憶ないしエピソード記憶領域のものである。 作話の原因疾患は,アルコール性コルサコフ症候群などの中毒性・代謝性疾患,前交通動脈瘤破裂に代表されるくも膜下出血,脳出血,硬膜下血腫,脳腫瘍,脳炎などの感染症,頭部外傷,アルツハイマー病や血管性認知症などの認知症性疾患,低酸素脳症など多岐にわたる。 作話は,妄想や記憶錯誤と類似点があるが,これらとは区別することができる。記憶錯誤は,過去に体験していないのに実際にあったかのように追想することであり,一部の作話は記憶錯誤といえる。妄想は,「主に自己に関する病的な誤った確信であり,訂正不能」であると定義され,基本的には記憶障害に基づくものではない。一方で,作話は背景に記憶障害があり,その確信の程度は低い。作話に基づいて実際に行動してしまう場合も少なくない4,5)が,一般的には妄想に基づく犯罪のような重大な事件に至ることはない。 統合失調症の妄想においては,その形成以前にしばしば離人症が出現し,世界全体の知覚自体にも変化が生じているという考え方6)がある。一方で,作話の場合は,妄想のような世界全体の変容ではなく,記憶障害や現実監視能力の低下といった部分的な欠損から生じているといえる7)。また,嫉妬妄想に代表されるように,妄想性障害は性格や感情の影響が大きいことが知られている。フランスでは恋愛妄想,嫉妬妄想,復権妄想をまとめて熱情精神病と呼んでいる。病的な熱情の上に,強固な信念に支えられ妄想が構築されていき,闘争的で興奮しやすいといわれる。嫉妬妄想の背景には,器質疾患に伴う嫉妬妄想も含めて8),プライドが高い性格や失われたものを取り戻そうとする機制が強く働いている。一方で,作話には性格による影響は少なく,情動的色彩も乏しいと考えられる9)。
著者
中村 泰久 島田 慧人 穴水 幸子 三村 將
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.365-371, 2020-06-15 (Released:2020-06-15)
参考文献数
18

統合失調症の認知機能障害に対しCognitive Remediation Therapy(CRT)の効果が報告されている.さらに介入効果を社会生活能力へ般化する上で発散的思考の影響が注目されている.今回,CRTのVCAT-Jを実施したところ,認知機能の改善に伴い発散的思考の質が高まり,日常生活での行動変容を認めた事例を経験した.介入初期はゲーム課題への取り組みだけであったが,中期以降はゲーム課題から自身の記憶の苦手さを自覚し,工夫する様子が見られ,ブリッジングのグループワークで意見交換が多くなった.介入経過と介入前後の評価尺度スコア変化などから,CRTの介入効果として,認知機能の改善,発散的思考,日常生活の行動変容を認める可能性が示唆された.
著者
秋田 怜香 秋山 知子 三村 將
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.629-638, 2017-06-01

ソマトパラフレニア(SP)は典型的には右半球損傷後の左麻痺に合併し,麻痺肢を別の人のものや別の生き物などに失認する病態のことを指す。比較的広範な病変で出現することが多いため責任巣には諸説あり,文献をもとに解説する。そしてSPとその類縁病態の自験例を3例紹介する。典型例,SPが内臓感覚にまで波及した例,SPが併存する精神疾患に取り込まれ複雑怪奇な幻覚妄想に発展した例をとおし,脳損傷後の身体自己所属感変容に対する理解を深める。
著者
三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.368-375, 2016-09-30 (Released:2017-10-05)
参考文献数
24

前頭側頭葉変性症, 特に行動異常型前頭側頭型認知症 behavioral variant frontotemporal dementia (bvFTD) においては, 一般に多彩な人格変化や常同行為, 固執傾向, 情動障害, 行動異常や精神症状を呈する。bvFTD の鑑別にあたっては, 当然ながら他の一次性認知症性疾患や, 他の器質疾患をきちんと除外していく必要があるが, 日常診療においてbvFTD と鑑別を要する頻度が高いのはむしろ精神疾患である。  もともとbvFTD では, 発動性低下と生気感情の喪失が人格変化の前景に立つ場合, うつ病との鑑別が難しいことはよく知られていた。特に, うつ病の類縁疾患のなかで, 遅発緊張病は初老期以降にうつ状態や意欲低下で発症し, その後, 緊張病性興奮や昏迷, さらに著しい拒絶症やステレオタイプ, 対人接触障害を認めるために, bvFTD と誤診されることが多い。また, bvFTD を疑わせる社会的逸脱行動や精神症状が, 実は双極性障害の躁状態に起因していることもあるし, 統合失調症や強迫性障害もしばしば bvFTD と症候学的に鑑別対象となる。  近年, bvFTD との鑑別で注目に値する病態は発達障害圏である。「成人の発達障害」の重要性はすでに共通認識となっているが, ここで問題にするのは「初老期以降の発達障害」である。これらの症例では, 画像上 bvFTD を疑わせる所見はなく, 生活歴でもともと発達障害傾向を有していた人が, 高齢になって, おそらくは加齢による脱抑制が関与して行動異常や固執傾向が顕在化したものと考えられる。一方, 最近は発達障害と bvFTD の遺伝的, 生物学的共通性にも関心がもたれている。
著者
高畑 圭輔 田渕 肇 三村 將
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.849-857, 2016-07-01

頭部への打撃から数年〜数十年の年月を経て,認知機能低下や精神症状,運動症状などの症候が遅れて出現することがある。こうした遅発性の症候に,外傷を契機とする神経変性が関与していると考えられている。本総説では,頭部外傷によって引き起こされる遅発性後遺症について概説する。特に近年問題となっている慢性外傷性脳症,および頭部外傷に続発するアルツハイマー病について重点的に述べる。また早期診断法としてのタウ・アミロイドPETや予防的介入の可能性についても述べる。
著者
藤田 佳男 三村 將 飯島 節
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.233-244, 2012-06-15

要旨:高齢運転者による事故が増加しており,その対策として免許更新時に認知機能検査が行われている.しかし認知機能と運転適性の関連は明らかでない.本研究では日常的に運転している高齢者20名を対象に認知機能検査,有効視野検査,実車評価を行いその実態とそれぞれの関係を調べた.その結果,認知機能検査の成績とは無関係に,ほとんどの者が高頻度に運転していた.また7名が過去1年間に物損事故を起こしていた.年齢や認知機能成績と運転頻度や運転への自信および実車成績との間には関連はなかったが,有効視野成績と実車成績には関連が認められ,有効視野検査は運転適性を予測する指標の1つとして有用であることが示唆された.
著者
三村 將 佐野 洋子 立石 雅子 種村 純
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.42-52, 2010-03-31 (Released:2011-05-11)
参考文献数
8
被引用文献数
5 4

わが国の失語症言語治療研究を総覧した。エビデンスレベルを評価したところ,無作為条件配置研究は見いだされず,後ろ向きの対象者を統制した研究が 1,統制が行われていない臨床連続例の検討が 35 見いだされた。さらに,効果サイズを算出できる 20 研究について評価したところ,多くの研究において高いレベルの効果が認められた。本邦の失語症言語治療の研究では,実際に高い言語治療成果を挙げているが,科学的に高い水準のエビデンスを挙げ得ていない,と評価された。
著者
三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.157-163, 2011-06-30 (Released:2012-07-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1 4

高次脳機能障害をもつ者は運転に関して,認知症のような絶対的欠格事由ではない。しかし,認知機能のどの領域がどの程度保たれていれば運転適性とみなされるかの基準があいまいである。高次脳機能障害者の運転能力を評価する方法としては,実車による路上評価,運転シミュレータ等によるオフロード評価,机上の神経心理学的検査,家族等同乗者による評価が挙げられる。このうち,一応のゴールドスタンダードとみなされるのは実車による路上運転評価であり,今後,医療機関と自動車教習所などとの連携により,高次脳機能障害者の路上運転評価を系統的に進めていくシステム作りが急務である。本稿では,我々が行っている高次脳機能障害者の運転評価の状況について,症例をあげて概説した。高次脳機能障害者の自動車運転については,さまざまな分野の専門家がそれぞれの立場から意見を出し合い,最良の方策を検討していくべき問題である。
著者
三村 將 藤田 佳男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.191-196, 2018-04-25 (Released:2018-05-18)
参考文献数
12

安全な自動車運転を行っていくためには,「認知,予測,判断,又は操作」の領域が十分に保たれていることが必要である.運転安全性の評価には,神経心理学的検査,運転シミュレータ,同乗者による評価,実車による評価を適宜組み合わせていく.認知機能領域に関しては,注意機能と視空間認知機能を中心に,一般的知能,記憶,遂行機能,聴覚―言語機能,感情コントロールといった領域を評価する.
著者
吉澤 徹 山田 浩樹 堀内 健太郎 中原 正雄 谷 将之 高山 悠子 岩波 明 加藤 進昌 蜂須 貢 山元 俊憲 三村 將 中野 泰子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.459-468, 2016 (Released:2017-03-16)
参考文献数
23

非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬に比べ錐体外路系の副作用などが少なく,また陰性症状にも効果を示すため,統合失調症治療薬の第一選択薬として用いられている.しかし,これら非定型抗精神病薬の副作用として,体重増加や耐糖能異常などが生じることが問題となっている.われわれは抗糖尿病作用,抗動脈硬化作用,抗炎症作用などを示し,脂質代謝異常により減少する高分子量アディポネクチン (HMWアディポネクチン) や増加するとインスリン抵抗性を助長するレチノール結合蛋白4 (RBP4) を指標として非定型抗精神病薬であるオランザピンとブロナンセリンの影響を統合失調症患者において観察した.薬物は通常臨床で使用されている用法・用量に従って投与され,向精神病薬同士の併用は避けた.その結果オランザピンはブロナンセリンに比べ総コレステロールおよびLDLコレステロールに対し有意な増加傾向を示し,HDLコレステロールは有意に増加させた.また,HMWアディポネクチンとRBP4に対してオランザピンは鏡面対称的な経時変化を示した.すなわち,オランザピン投与初期にHMWアディポネクチンは減少し,RBP4は増加した.ブロナンセリンはこれらに対し大きな影響は示さなかった.体重およびBMIに対してはオランザピンは14週以後大きく増加させたが,ブロナンセリンの体重増加はわずかであったが,両薬物間ではその変化は有意な差ではなかった.インスリンの分泌を反映する尿中C-ペプチド濃度に対してはオランザピンはこれを大きく低下し,ブロナンセリンはわずかな平均値の低下であり,有意な差はなかった.血中グルコースおよびヘモグロビンA1c (HbA1c) やグリコアルブミンは両薬剤において有意な影響は認められなかった.このようにオランザピンはコレステロール値や体重,BMIなどを増加させ,さらにインスリンの分泌を抑制し耐糖能異常を示す兆候が認められたが,ブロナンセリンはこれらに大きな影響を与えないことが示された.
著者
浦野 雅世 石榑 なつみ 谷 永穂子 中尾 真理 三村 將
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
pp.17006, (Released:2017-08-25)
参考文献数
29

右半球病変で錯文法を呈した矯正右手利きの症例を報告した.呼称障害はごく軽微でありながら,自由発話/説明発話の別を問わず助詞の誤用が著明であり,脱落は皆無であった.逸脱語順や統語構造の単純化は明らかでなかった.理解面では語義理解は良好に保持されながらも,平易な会話の理解からしばしば困難を呈した.側性化の異なる失文法症例では統語的側面と形態論的側面の障害が共起しているのに対し,本例は形態論的側面のみに障害を呈しており,側性化の異なる失文法とは発現機序が異なると考えられた.本例の錯文法の発現は異常側性化に起因するものとであると推察された.
著者
三村 將
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.9-13, 2012 (Released:2017-04-12)

脳血管病変による血管性失語症と、変性性認知症疾患による変性性失語症については、さまざまな観点から臨床像の相違を指摘できる。本稿では特に、横断面の失語症症候学として、血管性失語症と変性性失語症の異同について論じた。変性性失語症のなかには従来の血管性失語症の臨床分類で十分説明可能な症例もある。その一方、血管性失語症による失語症分類の根幹をなす流暢―非流暢の分類が当てはまらない症例にも少なからず遭遇する。変性性認知症による原発性進行性失語症に関しては、今日、nonfluent/agrammatic型、semantic型、logopenic型の3 亜型に臨床分類することが提唱されている。しかし、最近見い出されてきたlogopenic 型についてもさらなる問題がすでに指摘されてきている。このように、これまで血管性失語症を通じて蓄積されてきた失語症に関する伝統的理解に、変性性失語症の詳細な検討による新たな知見が付加されることにより、ひいては血管性失語症の病像理解もさらに深まってきている。今後は失語症の生じる神経基盤を組織レベルで解明し、背景病理別の好発部位や臨床像の差異を検討していくことも重要であろう。
著者
三村 將 坂村 雄
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.314-322, 2003-05-18
参考文献数
34
被引用文献数
3

Baddeley and Hitch proposed a fundamental framework for working memory in 1974, emphasizing its transiently activated memory aspect for performing various cognitive tasks. This concept of working memory is quite useful in understanding human cognitive processes and has been widely used in the fields of cognitive and developmental psychology and neuropsychology. The idea of working memory has also been introduced to consider cognitive rehabilitation for patients with brain damage. In the present review, we first described a current theoretical framework of working memory and then reported on recent studies on the conceptualization of working memory. We subsequently reviewed neural substrates of working memory subsystems, i.e., the phonological loop, the visuospatial sketch pad and the central executive. We further referred to the contribution of working memory in understanding various language-related symptoms in patients with aphasia, one of the major targets in the field of cognitive rehabilitation. Working memo plays a crucial role in the everyday life of brain damaged patients. Future research is warranted to focus on the improvement of deficient working memory in order to ameliorate clinical problems of brain damaged patients.