- 著者
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中川 純一
Junichi Nakagawa
- 巻号頁・発行日
- pp.93-104, 2019-03-05
サーチュインは健康長寿を支える遺伝子とされ,ほとんどの生物にある。その実体は,有核生物では,主としてヒストン,p53他のアセチル化タンパク質を基質とするNAD+依存性リジン脱アセチル化酵素,原核生物では,コバラミン合成に関するcobBとして同定された後,代謝酵素,転写制御因子及び走化性タンパク質の脱アセチル化に関わると報告された。一方プロバイオティクスとして注目されている乳酸菌もサーチュインを持つが,その役割は不明であった。乳酸菌自身にとっても,サーチュインは健康維持の長寿遺伝子なのか?それが本研究の出発点であった。プロバイオティクスや醗酵のスターターに用いられてきたLactobacillus paracaseiを対象として,まず遺伝子sirAをクローニングすることから手掛け,組換えタンパク質LpSirAを作成した。次にLpSirAのリジン脱アセチル化酵素反応を検証し,その細胞内基質の一つが30Sリボソームタンパク質S4であることを見出した。続いて,抗LpSirA抗体を作り,菌体細胞内のサーチュインの局在を,免疫染色法及び蛍光タンパク質融合による生細胞の観察,最終的には免疫電子顕微鏡撮影したところ,細胞全長にわたる緩めの螺旋状の局在,または細胞分裂面と細胞極に濃密に局在することを発見した。更にsirA欠損株,sirA過剰発現株を作成してみると,野生株に比べてsirA欠損株は細胞長が短く,逆にsirA過剰発現株は細胞長が長いことが判明した。これらの結果は,タンパク質合成制御に加えて,サーチュインが細胞分裂と細胞形態形成という,生命維持に本質的な機能を持つことを示した。更にストレス耐性に関与するデータも得て,乳酸菌サーチュインを人為的に制御することができれば,プロバイオティクスとしての機能を高め,ひいては宿主の健康長寿維持にも役立つ可能性があるのではないかと考えるに至った。