著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.54-65, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
19

私たち日本人の多くは,生活圏に蔓延する雑草とその景観に馴らされ,雑草の脅威を肌で感じることはありません.今回の報告は雑草に起因する広義の人身障害について,雑草ウオッチャーならびに雑草インストラクターからの情報を衛生害虫の定義になぞらえ‘ヒトの健康または生活環境を害する雑草類’の視点でまとめました.雑草が関わる公衆衛生学的問題として,1.雑草の構成成分によって発症するアレルギー性炎症,接触性皮膚炎,誤食中毒.2.雑草管理作業によって発生する多様な作業傷害.3.雑草が毀損させた造営・工作物機能によって起きる人身事故.4.雑草地が引き起こしている生活環境被害.5.ヒト感染症に係わる昆虫類・鳥類・哺乳類と雑草との相互関係,および病原菌の生態と雑草の役割,以上五つに類型化して事例を紹介しました.これらの雑草リスク情報から,日本における雑草害の現状と大きさ,そして,なぜ世界貿易機関の加盟国(WTO)が雑草を害虫や病害と同じpest(有害生物)として取り扱い(SPS協定)法規制を行っているかが分かります.地球環境の変動と変貌する雑草のリスクに対して私たちは,平常性バイアス(正しく恐れる)を持ち,‘清潔で健康な植生環境形成’を社会の目標に,科学に裏付けされた知識と多種多様な技術を駆使し対応していくことが求められています.
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.12-27, 2016 (Released:2017-05-31)
参考文献数
11

雑草を化学薬剤で防除するという技術は,明治政府の近代化施策の一つとして欧米から「雑草と戦う学問」として導入された,しかし,日本においては,有害生物を化学的に制御するという考えが定着することはなかった.戦後,連合国軍総司令部(GHQ)の日本における占領政策によって初めて雑草や害虫を化学的に防除するという技術が紹介された.雑草防除を科学として扱い発展してきた欧米の先端除草剤の紹介は,それまでの労力を媒体とする除草法によって制約されていた日本の小農業栽培を大きく転換する技術として捉えられた.除草剤による雑草防除技術は,模倣、改良,国産化と変化しながら発展し,除草労力の軽減と労働生産性(一人当たりの作付面積の拡大)の著しい改善をもたらすことになる.一方,現在の除草剤の利用は,今日の農業就業人口の減少と高齢化のもとでの農園芸栽培を可能にしているものの,本来の使用目的である生産コストの削減,言い換えれば栽培技術の向上や経済的利益追求のための資材として機能していない現状がある.今私たちに必要なことは,生活圏における雑草害と環境的・経済的損失を認識し,除草剤をはじめ機械やマルチなど雑草防除技術を適切に利用した雑草の最良管理慣行を策定することである.
著者
伊藤 幹彌 枡田 吉弘 弓削田 泰弘 高坂 智也
出版者
合成樹脂工業協会
雑誌
ネットワークポリマー (ISSN:13420577)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.89-96, 2012-03-10 (Released:2014-04-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1

近年,鉄道車両の軽量化,破損の防止等を目的として樹脂ガラスの鉄道車両への適用が拡大している。しかし,コストの問題から在来線には積極的に適用はされていないのが現状である。在来線へ樹脂ガラス適用を拡大する うえで,樹脂ガラスの低廉化は重要な課題である。そこで著者らは樹脂ガラスのメンテナンスに関わるコスト削減を目的として長寿命化の可能性を検討した。具体的には,樹脂ガラスとして代表的な材料であり新幹線用の窓ガラスとしても使用実績のあるポリカーボネート樹脂(PC)を主な対象として各種初期特性,耐候性劣化条件における特性変化を測定した。また,劣化評価の手法として色変化に着目し,同評価手法の樹脂ガラスへの適用性についても検討した。
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.16-27, 2013 (Released:2017-06-30)
参考文献数
13

現代社会は,技術がほとんどの問題を解決するという観念を育んできた.しかし,自然の資源が生成されるよりも早く消耗されてしまうという問題は,技術では決して解決することができない.現在,資源の根源と云うべき‘表土と植生’を持続可能に管理していくことが国際的規範となっている.さて,表土とは何か? 表土の機能,表土喪失のリスク,表土資源管理の諸問題を再検討することから,表土保全育成の在り方を考えてみた.
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.38-49, 2021 (Released:2021-12-31)
参考文献数
26

花粉によって起こるアレルギー疾患花粉症(pollinosis)は,欧州のイネ科雑草花粉症,北米のブタクサなど広葉雑草花粉症および日本のスギ花粉症が世界三大花粉症と呼ばれている.雑草花粉症は日本にもあり,とくにヒートアイランド化と地表の不透水化による都市・市街地生態系の近年の変貌は,雑草のバイオマスとそこから放出される花粉の量や動態を通じて花粉症発症に影響していることが推察される.そこで,NPO法人緑地雑草科学研究所の市民科学集団「雑草ウオッチャー」を対象に,抗原性植物として登録のある雑草の分布,ならびにスギ花粉以外の花粉症発症例に関してデータ収集を実施した.得られ結果によると,発症の原因となる抗原(アレルゲン)を産出する抗原性雑草は,生活圏に広く見られ接触する機会も多く,報告者の半数以上がアレルギー性鼻炎の経験者であった.雑草花粉によるアレルギー性疾患は,複数の重症者の存在や家族・知人への広がりからみて,スギ花粉症に劣らず深刻な状況にあることが認められた.この目に見えない雑草花粉粒汚染の実像を理解するために,さらに文献的調査を行い,国内外の経緯とデータを基に特定された雑草アレルゲン(抗原),花粉粒の標的臓器と症状,花粉粒の移動と人体への侵入,花粉粒の大気中での挙動,花粉粒が運ぶ微生物について解説した.本稿の目的は雑草花粉症を「恐怖メッセージ」として受けとられることではなく,生活圏の雑草害の本質とそれを放置するリスクの重大さに気づいていただき,そのリスクの回避に多くの管理者と生活者の目が向けられることにある.そして,私たちの健康と生活環境の改善に係わる持続可能な開発目標(SDGs)の達成に生かされることが大切である.
著者
伊藤 幹夫
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.100, no.3, pp.793(211)-813(231), 2007-10

FamaとSamuelsonが提起した市場効率仮説の是非が, 40年にわたる論争の過程を経て, いまだに決着がつかない理由を, (1)効率的市場仮説の理論内容 (2)採用された統計的検証方法 (3)効率的市場仮説論争の科学方法論上の問題の3点から整理する。This study organizes the reasons behind the lack of conclusions following a 40-year course of controversies on the pros and cons of the market efficiency hypothesis proposed by Fama and Samuelson from three points: (1) the theoretical contents of the efficient market hypothesis; (2) statistical methods; and (3) the scientific methodological issues surrounding the efficient market hypothesis debate.論説
著者
伊藤 幹太 Reijer Grimbergen
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2017論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, pp.183-188, 2017-11-03

囲碁のトップ棋士に人工知能が勝利し,完全情報ゲームにおける強い人工知能の研究はおおむね決着がついた.次の題材として不完全情報ゲームである人狼ゲームが注目されており,人狼知能の研究が行われている.人狼ゲームは一般的に有効とされる通説が存在するが,人間が用いる戦術を分析した研究はあまり行われていない.そこで本研究では人間同士で行われた人狼ゲームの対戦ログの分析を行い,2つの戦術を発見した.1つ目は自身に処刑の投票を誘導する戦術である.2つ目は村人騙りといった戦術である.また,既存の人狼知能ではこれらの戦術を用いていないことを示し,人狼知能に導入する際の方法について提案手法を述べた.その結果,自身に処刑の投票を誘導する戦術は既存の人狼と比較して勝率が5%増加することを示したが,村人騙り戦術は勝率が変化せず有効性を見出すに至らなかった.しかし,勝率が変化しなかったことから有効ではないと断言することはできないが,戦術についてより考察を行うことで有効的に使用できるのではないかと考えた.
著者
村松 成司 藤原 健太郎 伊藤 幹 藤原 健太郎 フジワラ ケンタロウ Fujiwara Kentaro 伊藤 幹 イトウ モトキ Ito Motoki 藤田 幸雄 フジタ ユキオ Fujita Yukio 服部 祐兒 ハットリ ユウジ Hattori Yuji
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.351-358, 2010-03

特徴的なトレーニングゆえに活性酸素・フリーラジカルによる酸化ストレスに強くさらされていると考えられる長距離ランナーの生体酸化ストレス及び呼吸機能・代謝に及ぼす活性水素水の影響について検討した。活性水素水摂取は安静時好中球分画及び絶対数の増加を抑えることから,トレーニングに伴う血中好中球の活性化を抑制または活性化した血中好中球を速やかに正常化する可能性が示された。安静時の血清過酸化脂質の変化より,活性水素水摂取がトレーニング由来の生体酸化ストレス障害を抑え,生体機能の維持に寄与する可能性が示された。酸素摂取量・呼吸商・心拍数の変化から,循環器系及び代謝が向上した可能性が示された。安静時の測定結果より活性水素摂取が生体の抗酸化に寄与する可能性を示す結果が示され,また,運動時の代謝及び呼吸循環機能を向上させ,パフォーマンス向上をもたらす可能性が推察された。This experiment was undertaken to investigate the effect of active hydrogen water ingestion on oxidative stress and respiratory function of university long-distance runners, presumably exposed to active oxygen and freeradical materials induced by their particular training. Seven healthy university students trained for 20 days with 2 liters of active hydrogen water (AHW) per day. We compared blood samples and respiratory function at pre and post experiment. The results obtained suggest the possibility that ingesting AHW may inhibit the activation of neutrophilic leukocytes that occur with exercise training. Further, it is suggested that ingesting AHW appears to normalize an activated blood neutrophilic leukocyte response, because the increases in the ratio and quantity of neutrophilic leukocytes at rest was reduced. The changes in serum lipid peroxide seemed to suggest the possibility that AHW could decrease oxidative stress resulting from exercise and contribute to the maintenance of homeostatic physiological function. Oxygen uptake, respiratory quotient and heart rate results seemed to suggest that respiratory and circulatory functions were improved by ingesting AHW. Results suggest the possibility that AHW ingestion contributed to antioxidant effects during training. Furthermore, AHW ingestion may improve exercise performance through its effects on respiratory, circulatory and metabolic systems.
著者
荒尾 宗孝 今泉 一郎 近藤 三男 伊藤 隆子 伊藤 幹子 栗田 腎一
出版者
Japanese Society of Psychosomatic Dentistry
雑誌
日本歯科心身医学会雑誌 (ISSN:09136681)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-79, 2001-06-25 (Released:2011-09-20)
参考文献数
7

A 45-year-old female patient was referred to us from the Department of Endodontics at Aichi-gakuin University School of Dentistry with a long and complex dental history. Her chief complaint was chronic pain in teeth which had been pulpectomied at other dental clinics. We chose brief psychotherapy and chemotherapy with the use of just one anti-anxiety drug. While at the Department of Endodontics, root canal treatment had also been performed on the teeth with chronic pain. First, we had her come to the hospital once a week and listened to her account of the degree of chronic pain and the related anxiety experienced. Her chronic pain decreased gradually and she started coming to our hospital once in two weeks instead. Finally, root canal filling and prosthodontic treatment were performed without any trouble. She has recently been coming to the hospital about once a month. We let her consult with us about her anxiety and ask questions related to the experience of chronic pain in teeth to prevent the recurrence of her state of fear.
著者
伊藤 操子 伊藤 幹二 小西 真衣 佐治 健介
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-15, 2020 (Released:2021-01-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1

都市・市街地に存在する個々の公園の緑地は,そのさまざまな機能が公園利用上だけでなく周囲の住環境保全にも重要なものとして,生活者に無くてはならない社会的資産である.しかし,近年は増大する雑草の猛威と非科学的かつ粗放な管理の横行で劣化が進行している.本稿では,まず都市公園の整備実態,公園緑地の機能等について概説し,次いで関東・関西地方を中心に77公園で実施した,雑草の繁茂状況と管理に対する現場調査の結果および調査過程で知り得た関連の事実を紹介した.そして,これを踏まえた公園緑地の雑草管理における課題について考察した.記録された発生雑草種数は333種にわたり多様であったが,広域的に多くの発生が見られた種には植栽の種類による特徴がみられた.公園緑地の主要部分を占める広場芝生(広場施設)と景観芝生(修景施設)では,共通的にスズメナカタビラ,シマスズメノヒエ,メヒシバ,オヒシバ,シロツメクサ,オオバコが主要草種であったが,単立木株元ではこれらの他多年生大型種が,低木植込みでは多年草やつる性雑草が目立った.地域による大きな差異は見られなかったが,整備時期が新しい公園で大型多年草の繁茂が多かった.管理は芝地を中心に年間2~4回の刈取りで行われていたが,調査公園の86%が管理のすべて~一部を外部委託していた.結論として,公園管理責任者の地方公共団体と現場の実施者との乖離という体制的不備と関係者の植物(植栽および雑草)への意識レベルの改善が,雑草を知って管理の適切化を図る以前の課題であることが分かった.
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.37-48, 2020 (Released:2021-01-31)
参考文献数
20

昨今目にする水害の現場には,例外なく散乱・滞積する土砂と雑草バイオマスごみが残されている.雑草と豪雨災害の一連の事象との関係について,因果関係をはっきりさせ問題点をしっかり把握・共有し,雑草管理の視点から何が提言できるのかが求められる.そこで,雑草が豪雨被害の発生要因にどのように関わっているのかを検証するために,雑草ウオッチャーによる情報収集を行った.回答総数152の53%が豪雨前に目にする雑草の繁茂状況に関するものであった.河床や堤防には必ずと言ってもよいほどに雑草の繁茂がみられ,川幅の2/3や3/4を雑草が占めている光景から.用水・排水・放水路の内側や両サイド,とくにグレーチングで守られた排水溝を埋め尽くす雑草など,それらの機能が大きく損なわれている様子がうかがわれた. 次いで回答総数の32%が豪雨後の雑草ごみに関わるものであった.ここでは掃流雑草木による橋桁崩壊や護岸工作物崩落の助長,雑草ごみによる排水・放水機能の阻害,土砂・雑草バイオマスごみ量と処理費用,雑草ごみの散乱と景観の悪化などが指摘された.この他鉄道,道路,太陽光発電施設では,斜面崩壊,土砂崩れなど斜面雑草が関わる被害が寄せられた.これらの雑草害は,河川管理,用水・排水路管理,斜面植生管理に関わることであるが,雑草問題は1)河川敷・道路敷・鉄道敷における雑草の異常繁茂,2)豪雨による土砂と雑草繁殖体の流出・拡散,3)雑草バイオマスの増加と雑草管理の欠如,4)雑草害の軽視による豪雨被害の助長,5)豪雨後の土砂・雑草ゴミの清掃に整理することができる.以上の結果から,今後,生活圏のインフラ維持の現場で豪雨災害と雑草害の負のスパイラル拡大を止めるには,雑草対策を優先して取り組む必要性が明らかになった.
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.27-36, 2017 (Released:2018-02-15)

近年,雑草に起因する様々な社会・環境・経済的問題が頻発しています.そこでNPO法人緑地雑草科学研究所が中心になって,市民科学集団“雑草ウオッチャー”を立上げ,様々な問題を市民の目でウオッチしています.今回の報告は,生活圏において人々を傷つける雑草,いわゆる「傷害雑草」についてです.55件の報告内容は,傷害雑草・雑木は27種類,このうちトゲ(あるいは鉤毛)をもつ種は23種で,とくに多かったのは,ワルナスビの7件、アメリカオニアザミ,ノイバラの5件、メリケントキンソウの4件でした.全体として,分類群ではキク科,ナス科,バラ科,タデ科,ウリ科,ユリ科,ヒユ科,マメ科,イラクサ科,グミ科に,生活史では一年生草本,多年生草本,木本と多岐にわたっていましたが.挙げられたトゲ雑草の大半が近年分布を広げている外来種であることは注目すべき点です.傷害雑草の部位としては,茎が最も多く,果実,茎葉,葉,葉腋の順で,葉・茎・花・果実すべてが傷害部位であるのはアメリカオニアザミ1種でした.トゲ以外に負傷の原因になる部分は,鋭い葉縁,長く横走する蔓,硬い切断部,衣服付着果実,刈取り時の粉末(揮発性物質の吸引が原因か)が挙げられました.最もトゲの危険性(ケガの大きさ・痛さの程度)の高い種類は,アメリカオニアザミ,ニセアカシヤ,サルトリイバラ,ノイバラかと思われます.
著者
伊藤 幹二 伊藤 操子 田中 聡 三浦 励一 安斎 達雄 Onen Huseyin
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.176-183, 2005-09-26 (Released:2009-12-17)
参考文献数
6
被引用文献数
6 4

土壌処理剤によるワルナスビの制御法を確立する目的で, 以下の実験を行った。畑地におけるワルナスビの発生は, 耕起によって切断された根片繁殖系からの萌芽によることから, まず畑地で汎用される除草剤アトラジン, アラクロール, ブタミホス, クロロプロファム, トリフルラリン, ペンディメタリンからワルナスビ根片萌芽抑制効果のあるものを, 根片浸漬処理によって選抜した結果, クロロプロファムが最も有効であることが分かった。次にトウモロコシ畑 (土壌:壌土)においてクロロプロファムを播種直前に0.46, 0.92および1.37kg a. i./ha土壌混和処理し, 埋土しておいたワルナスビ根片からの出芽・生長に及ぼす効果を調べたところ, 5~10cm深に埋土した根片については, 出芽は阻害されなかったが, 生長は0.46kg a. i/ha処理でも抑制され, 抑制はとくにシュートの生長において顕著であった。20~25cmに埋土した根片では, 逆に出芽は阻害されたがシュートの生長の抑制は小さかった。ワルナスビ根片からの萌芽・生長に対するクロロプロファムの土壌混和処理効果は, 土壌の種類により著しく異なり, 砂壌土>黒ボク土>埴壌土>壌土であった。クロロプロファムは高い揮発性によって土壌中に拡散し, 処理層を形成する特徴をもつことから, 効果の差には土壌の孔隙率が関係していると推察された。
著者
小西 真衣 伊藤 操子 伊藤 幹二
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.45-54, 2009-05-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
32

近年森林や山岳等自然地域では、レクリエーション利用が増加傾向にあり、それに伴う雑草の侵入の増加は重要な問題の一つとなっている。そこで雑草の侵入に対する人為的なかく乱(通行)と環境条件の効果を明らかにするために、京都大学芦生研究林において、かく乱地(通路:車道・林内歩行路・軌道)および非かく乱地の発生雑草の種類および環境要素を調査した。雑草は主にかく乱地で発生が観察され、特に車道基面では、量・種類共に多く雑草の侵入の成功が推察された。発生雑草種の特徴や生活型から、通路上では踏みつけ耐性を有する種が多く、繁殖体の移入経路は車道では人・車両および風、林内通路では人の持ち込みによるものが多いことが示唆された。環境条件は、相対照度と土壌水分率について、車道と林内の間に有意な差が認められた。しかし車道内では、発生雑草種数は相対照度が高い地点で少なく、また土壌水分率と相対照度との間には負の相関が認められたことから、相対照度の高い地点では、開放度の大きさゆえ風圧や乾燥が雑草の発生の障壁となる可能性が考えられた。また、車道基面-のり面、林内歩行路内-歩行路外での発生雑草種の違いから、非かく乱地では雑草の発生に対するなんらかの障壁の存在が予想された。この障壁に関して、土壌硬度が踏みつけのあるかく乱地で有意に高いことから、踏みつけに伴う土壌の二次的な変化の関与が考えられた。
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.9-20, 2011

今日,日本人の多くは,二酸化炭素濃度の上昇や温暖化が地球環境に影響することを知っていても,身の回りに生育する雑草がこの環境変化にどのように反応し,私たちの生活にどのような影響を与えているか気づくことはない.雑草は,人々が環境を変えることによって始めて生まれる生物である.そして,雑草は,'ふえる''ひろがる''変化することを特徴とし,これを食草とする昆虫・鳥類・哺乳類も同時に増える・広がる・変化する.今日,都市の二酸化炭素濃度の上昇と温暖化は,雑草のバイオマス量を劇的に増大させ,その直接的・間接的環境および経済的被害を拡大させている.この数10年間気づかないうちに,雑草は生活圏の活動の場を征服しかねない脅威的な生き物に変貌しているのである.それにも関わらず,雑草の繁茂やその被害に対する研究機関,国や地方自治体,そして企業などの無関心や無神経さはいったい何に原因しているのか.雑草の変化に原因する経済的,社会的,環境的被害リスクについて考える.
著者
伊藤 幹雄 横地 英治 鬼頭 利宏 鈴木 良雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.419-425, 1981
被引用文献数
2

糸球体腎炎の発症および増悪において,血液凝固系の役割を明らかにするために,liquoid(Liq)を正常あるいは腎炎ラットに反復投与した場合の影響について検討した.正常ラットに Liq 10mg/kg 毎日1回計22回 i.v. 投与(I群)した場合,尿中への蛋白,N-acetyl-β-glucosaminidase の排泄,血中尿素窒素含量は正常対照群と比較して,ほとんど変わらなかった.また,抗ラット糸球体基底膜ウサギ血清(AGS)[0.5ml/150g体重]のi.v. 投与後15日目から Liq を 10mg/kg,3日目毎に計8回 i.v. 投与(III群)しても,毎日1回計22回 i.v. 投与(IV群)しても,これらの生化学的パラメーターは AGS のみを投与した腎炎対照群(II群)との間に有意差を認めなかった.螢光抗体法による糸球体への fibrin あるいは fibrinoids の沈着は弱かったが,10匹中I群およびII群では2匹,III群では8匹,そしてIV群では10匹に認められた.光顕所見ではI群においても係蹄壁とボウマン嚢との癒着,富核,半月体形成や硝子化を示す糸球体が少数例認められた.腎炎ラットに対する Liq の影響に関して,特に硝子化が顕著となり,硝子化を示す糸球体はII群ではわずか17%であるのに対してIII群では14%,IV群では55%であった.他の糸球体変化は富核を除いてII群に比しIII群では変わらなかったがIV群では明らかに増加を示した.しかし富核は逆にIII群,IV群では減少した.糸球体毛細管腔閉鎖はI群でも軽度ながら認められた.また腎炎群においてはII群に比しIV群ではその閉鎖の程度は明らかに強度であった.以上の結果から,糸球体内の血液凝固亢進が,糸球体腎炎の発症,増悪の主要な因子と考えられる.