- 著者
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福本 拓
蘭 哲郎
氏原 理恵子
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.100096, 2013 (Released:2014-03-14)
Ⅰ はじめに外国人人口の急減は,「多文化共生」施策の実現だけでなく,とりわけ人口減少の進む地方都市を考えた場合,持続的な地域発展という点でも問題といえる。その意味では,むしろ「定住」を政策目標とするような方向性が求められよう。そこで本発表では,特に就業形態の側面に着目し,「定住」を促進/阻害する要因について検討する。Ⅱ 飯田市の概況とアンケート調査の概要飯田市の外国人登録人口は2,313人(2012年6月末)で,総人口の2.3%を占める。同市は,「外国人集住都市会議」の参加自治体であるが,他市とは異なり「中国」籍の割合が高い(約48%)という特徴を有しており,「中国」籍の一定割合をいわゆる中国帰国者が占める。その他,機械工業での派遣労働に従事するブラジル人,女性の比率が8割を超えるフィリピン人(日本人の配偶者が多い)がこれに次ぐエスニック集団を構成している。 本研究では,住民基本台帳を元に,同市に在住する20歳以上の外国人全てを対象としたアンケート調査を実施した。郵送による配布・回収の結果,配布数1,727通に対し回収数477通(回収率27.6%)であった。このうち,分析対象は,特別永住者が多数を占める「韓国・朝鮮」を除く453通である。本研究では,「定住」の代用指標として,特に「現在よりも良い仕事が見つかった場合に他地域へ引っ越すか」という設問の回答に着目する。Ⅲ 調査結果の概要(1)飯田市来住の経緯:「飯田市へ来た理由」について尋ねたところ,「家族との同居」が60.0%,「本人・家族の仕事」が32.7%と前者の割合が高い。この違いは,特に国籍別に顕著に表れており,中国人・フィリピン人で前者が,ブラジル人では後者の割合が高くなっている。中国人の32.5%は「祖父母または父母に日本人がいる」と回答しており,「帰国」が重要な契機になっている。また,フィリピン人は,日本人との結婚の多さが大きく影響している。(2)就業形態:既存研究において,派遣労働の不安定さが度々指摘されてきた。飯田市で実施したヒアリングでは,短期(数ヶ月)の仕事に不定期に従事する者が一定数いるという情報を得た。実際,労働力人口に該当する334人のうち,1年を通じ1箇所で就業した者は180人(53.9%)と過半数程度にとどまる。パート・アルバイトを除いても,不安定な就業形態の者が多いといえる。(3)他地域への引っ越し意志との関連:こうした就業形態が,外国人の「定住」に及ぼす影響を把握するため,二項ロジスティック回帰分析を用いた統計解析を行った(従属変数は,4区分の回答を,「引っ越す(1)」「引っ越さない(0)」の2値に割り当て)。性別・年齢階層・滞日年数・子ども有無の各変数で統制したところ,就業形態のうち,「派遣労働」が5%水準で有意なカテゴリーとして析出された一方(その他,年齢(50代以上)が5%水準,子どもの有無が1%水準で有意),飯田市移住のきっかけは有意な変数とならなかった。この結果については,国籍(4区分)変数を加えてもほとんど変化が見られなかった。従って「派遣労働」形態は,移住のきっかけの影響を統制してもなお,外国人の「定住」にとってマイナス要因になっているといえる。Ⅳ まとめ 「定住」については,就業形態以外にも,コミュニティの形成や地域社会との関係,セーフティネット等の関連が予測される。就業形態の安定化はもちろん不可欠だが,今後の分析課題として,不安定な状況下で居住を継続可能にする諸要因の検討が求められる。