著者
大門 信也
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
vol.14, pp.155-169, 2008

<p>本稿の目的は責任実践の観点から,近隣騒音の被害を訴えることの意味について考察し,この問題への適切な制度的対処のあり方を探ることにある。この目的のために「騒音被害者の会」に関する文献資料および聞き取り調査のデータを分析したところ,1970年以降,この会が個々の会員の解決へ取り組みを支援してきたことがわかった。とりわけ騒音被害者の会は,会員たちが粘り強く相手に責任を問い,応答を求め続けることを促してきた。こうした活動は,〈問責-答責関係〉を構築する努力として理解できる。このような実践において「責任」は,何か負担すべき実体や誰かへの配慮としてのみならず,責任を問いそれに答える人々の関係および過程としての特徴を色濃く有していると理解できる。このような考察にもとづき筆者は,近隣騒音問題に対処するためには,〈問責-答責関係〉を維持するという観点のもとに行政制度を再吟味する必要があると提言する。また〈問責-答責関係〉の視座が,環境社会学にとって重要な規範理論的枠組みであることを指摘する。</p>
著者
大門 信也
出版者
法政大学サステイナビリティ研究センター
雑誌
サステイナビリティ研究 = Research on Sustainability : The Academic Journal of the Research Center for Sustainability (ISSN:2185260X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.47-63, 2019-03-15

サステイナビリティ概念は、現在と未来との世代間公正を実現する観点から、今日グローバルな政治を動かすまでの支配力をもった言葉となっている。他方でこの言葉は、現在世代への支配を正当化する概念にもなるため、草の根からの批判を呼び起こす可能性も有している。そこで本稿では、草の根から進められるサステイナビリティの可能性を見出すために、滋賀県の「粉せっけん」推進運動の経緯を辿った。同運動は、資本と対峙する労働組合の経験に原点があり、革新自治体をつくる政治的取り組みとも関連が深い。単に環境負荷の少ない消費財を提案するものではなく、より根本的な物質循環に根ざす取り組みであった。こうしたダイナミックな運動は、責任を引き受け、受動的不正義を克服し、そして異を唱える他者の声を受け入れる姿勢に支えられてきた。サステイナビリティ概念が、ただ未来世代を掛け金として現在世代を支配するだけの空虚な概念とならないためには、「受動的不正義」や「複眼」など、草の根から立ち上がってきたこれらの契機に着目する必要がある。
著者
永幡 幸司 大門 信也
出版者
The Institutew of Noise Control Engineering of Japan
雑誌
騒音制御 (ISSN:03868761)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.128-136, 2003-04-01 (Released:2009-10-06)
参考文献数
13

福島県下の全自治体を対象としたアンケート調査より, 各自治体における防災無線の設置状況, 及び, その運用状況を明らかにし, それらと, 各自治体の特徴を表す指標である市町村勢との関係について検討した。その結果, 防災無線の有無と市町村勢の間には直接的な関係がないこと, 防災無線を用いて放送される内容の間には, 防災情報, 行政情報, 農林水産情報, 学校情報, 選挙結果の順に社会的に容認されやすいという構造関係があり, 都市化の進んだ自治体であるほど, 社会的に容認される放送内容が少ないことが明らかとなった。
著者
加藤 眞義 舩橋 晴俊 正村 俊之 田中 重好 山下 祐介 矢澤 修次郎 原口 弥生 中澤 秀雄 奥野 卓司 荻野 昌弘 小松 丈晃 松本 三和夫 内田 龍史 浅川 達人 高木 竜輔 阿部 晃士 髙橋 準 後藤 範章 山本 薫子 大門 信也 平井 太郎 岩井 紀子 金菱 清
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、東日本大震災のもたらす広範かつ複合的な被害の実態を明らかにし、そこからの復興の道筋をさぐるための総合的な社会学的研究をおこなうための、プラットフォームを構築することである。そのために、(1)理論班、(2)避難住民班、(3)復興班、(4)防災班、(5)エネルギー班、(6)データベース班を設け、「震災問題情報連絡会」および年次報告書『災後の社会学』等による情報交換を行った。
著者
大門 信也
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.9, pp.92-106, 2003-10-31
被引用文献数
1

本稿では市街地で流されるBGMやマナー放送,あるいは防災無線放送などにより生じる拡声器騒音被害について考察する。拡声器騒音は主観的な被害現象であることから従来の工学的騒音研究とは異なる視点からの分析が必要となる。そこで,拡声器騒音問題を人々の拡声器音に対する意味づけの対立と捉え以下の分析を行った。まず拡声器騒音をめぐる言説を概観したところ,この問題が受容者=多数派/被害者=少数派という図式で認識されていることが確認された。次に防災無線に関する意識調査結果と街路に流されるBGMに関する意識調査結果を分析したところ,拡声器騒音被害についての人々の認識は音を肯定する人と音を聞いていない人を同一視し,音をうるさいと感じる人をマイノリティ化させることにより立ち現れていることが明らかになった。こうした分析をつうじて受容者=多数派/被害者=少数派という認識自体が被害を生みだしていること,そしてそうした認識を現出させてしまう不特定多数の人々に音を聞かせる行為自体の加害性を指摘する。
著者
舩橋 晴俊 寺田 良一 中筋 直哉 堀川 三郎 三井 さよ 長谷部 俊治 大門 信也 石坂 悦男 平塚 眞樹 小林 直毅 津田 正太郎 平林 祐子 金井 明人 仁平 典宏 土橋 臣吾 宮島 喬 壽福 眞美 池田 寛二 藤田 真文 鈴木 宗徳 羽場 久美子 茅野 恒秀 湯浅 陽一 須藤 春夫 佐藤 成基
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-05-31

本年度は, 年度途中で廃止になったが, それでも, 下記の研究実績を上げることができた。【公共圏とメディアの公共性班】法政大学サスティナビリティ研究所内の「環境報道アーカイブス」に蓄積した東日本大震災及び福島原発関連の映像に付されたメタデータの分析を行った。分析から, 震災・原発関連番組の論点の変化や報道対象地域の偏りなどを見出した。【エネルギー政策班】『原子力総合年表一福島原発震災に至る道』を2014年7月に公刊した(すいれん舎刊)。また, 青森県下北半島における核燃料サイクル事業の動向を把握するため, 『東奥日報』を基に詳細年表を作成し, 地域社会の長期的な構造変動を追跡可能な情報基盤を整えた。エネルギー戦略シフトに関し, 各地の市民団体の調査および支援を実施した。【年表班】英文環境総合年表(A General World Environmental Chronology)を刊行した。英文による包括的な年表は世界初の試みであり, 環境問題に関する国際的なデータベース構築の第一歩を記した。また, その年表の成果をもとに, 7月に国際シンポを開催し, 各国の研究者との交流を図った。【基礎理論班】2013年12月に開催した国際シンポと講演会を基に, 論文集『持続可能な社会に向かって―ドイツと日本のエネルギー転換(仮題)』(法政大学出版局, 2015年)の編集作業を継続している。並行して, 『ドイツ・エネルギー政策の形成過程1980~2014―資料集』(新評論, 2015年)の本文編集作業はほぼ終了し, 現在は巻頭論文を執筆中である。【食・農と包括的コミュニティ形成班】学内の「食・農」に関する社会的活動拠点でもある「スローワールドカフェ」の活動に関与しながら, 個別に研究を進めてきた。研究成果は, 社会学部授業科目「社会を変えるための実践論」と「多摩地域形成論」に一定程度反映させてきている。