著者
山口 真季子
出版者
日本音楽学会
雑誌
音楽学 (ISSN:00302597)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.78-93, 2018 (Released:2019-03-15)

指揮者ヘルマン・シェルヘンは、シェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》の初演ツアーでデビューを果たし、新ウィーン楽派の音楽をはじめとする多くの同時代作品を積極的に演奏したことで知られている。彼に関する研究においては、彼の「現代音楽」に対する理解や、ラジオや音響実験に対する取り組みが着目されてきたが、彼の古典作品に対する態度を検討したものはほとんど無い。 しかし、シェルヘンが未完、未出版のまま残した原稿の中には、シューベルトの交響曲ロ短調D759「未完成」及びハ長調D944について論じた一連の原稿(「シューベルト・ブック」)が存在する。本論は、このベルリン芸術アカデミー・ヘルマン・シェルヘン・アルヒーフに残された「シューベルト・ブック」を基に、シェルヘンのシューベルトの音楽に対する解釈を明らかにしようとするものである。 シェルヘンはシューベルトの交響曲を、来るべきものへと突き進むベートーヴェンの交響曲とは対照的なものとして、すなわち一瞬の中にすべてを内包しようとするような音楽として捉える。彼の考えによれば、それは多様なシンメトリー、音楽構造の意味を明らかにしていくような表現記号の役割、そして動機操作ではなく和声や音色の変化による主題の変容によって実現される。 興味深いのは、シンメトリー構造や形式における平面構成、音空間の音色における開拓など、シェルヘンが指摘する音楽的特徴が、彼と同時代の作曲における問題意識に通じている点である。シェルヘンは、シューベルトの音楽が20世紀の作曲に対してアクチュアリティを持つものとして示そうとしたのである。そしてそのことが、シェルヘンをしてシューベルトの音楽を新たな側面から照らし出すことを可能にしたといえる。
著者
伊藤 駿 数実 浩佑 岡田 拓郎 山口 真美 Ito Shun Kazumi Kosuke Yamaguchi Manami Okada Takuro イトウ シュン カズミ コウスケ ヤマグチ マナミ オカダ タクロウ
出版者
大阪大学未来戦略機構第五部門未来共生イノベーター博士課程プログラム
雑誌
未来共生学
巻号頁・発行日
no.4, pp.225-242, 2017-03

研究ノート筆者らは2015 年4 月より関西圏のB 小学校において、「書く力」を子どもたちに養い、ひいては学力格差の是正を目的とするアクションリサーチに取り組んでいる。本研究は、その取り組みから得られた知見を教育社会学的視点から分析したものである。本稿はリサーチの途中経過であり、得られた知見の速報としての側面を持つ。子どもたちが書いた作文を中心に量的研究、質的研究の両面から現状、課題の把握を行った。その結果、かつてBernstein が指摘した階層による言語格差がB 小学校においても見られるとともに、既習漢字の使用が学力と有意な関連として見られた。また、教師たちは、語彙数や文量を重視せず、子どもたちの学校生活の様子と乖離した作文を肯定的に評価するという傾向が見られた。今後は量的研究としての妥当性を高めるためにより多くのサンプルを収集するとともに、子どもたちの作文を継続的に分析していく。また、質的研究としては参与観察を続け、子どもたちの「書く」ことへの姿勢や教師たちがどのような指導をしていくのか、ということの変化を捉えていく予定である。
著者
坂口 洋英 山口 真一 彌永 浩太郎 田中 辰雄
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.143-153, 2017

<p>ネットワーク効果は情報通信産業の発展の重要なファクターであり、様々な研究がなされてきた。しかしながら、先行研究ではネットワークの大きさは財・サービスの総ユーザーとされており、ネットワークの構成ユーザーへの注目がない。そこで本研究では、ネットワーク効果がその構成ユーザーにより異なるあり方をする可能性に注目し、モバイルゲームを対象に有料ユーザー数と無料ユーザー数が支払額にそれぞれ別の影響をもたらすモデルを構築し、分析を行った。</p><p>分析の結果、有料ユーザー数が有意に支払額に正の影響をもたらし、有料ユーザーが1%増加すると支払額は0.06%増加することがわかった。一方、無料ユーザー数は影響を与えているとはいえない結果となった。このことから、ネットワーク効果はその構成ユーザーにより異なり、無料ユーザーのもつネットワーク効果は限定的であるという示唆が得られた。</p>
著者
山口 真美
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.47-52, 2016-09-30 (Released:2016-10-25)
参考文献数
28
被引用文献数
1

In this paper we discuss two topics of infants' studies. First is typical and atypical development of face processing. There are many studies on the atypical social development, especially infants' development with high risks is current topic in developmental disorders. In these studies under 12 month olds who have an older sibling diagnosed with the disorder were selected for high-risk infants. Many studies have documented that impairments of the face processing was found in individuals with autism spectrum disorders (ASD). And recently, abnormal development of a subcortical system originates in the magnocellular pathway of the primate visual system was primary trigger to impairments of higher visual processing. McCleery, Allman, Carver, & Dobkins (2007) reported that contrast sensitivity of the high-risk infants exhibited greater than that of normal infants. Second topic is development of face processing. In these studies we found similarity in the developmental pattern between languages and face processing. Further, we discuss importance for infant's learning faces in poor resolution. Infant's face learning model showed that poor image faces (low-pass faces) made facial learning easily, additionally this low-pass face learning could generalize to process the normal faces. In a sense, infant's poor acuity decreases the information in the face processing during infancy and this promote face learning.
著者
山口 真人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P3271, 2009

【目的】拘縮は、我々理学療法士が日々の臨床において古くから最も頻繁に出くわす代表的な障害の一つであり、それ自体が患者にとって大いに苦痛であると同時に、日常生活において多大な不具合をもたらす.拘縮の病態は時代を追うごとに解明されてきている一方で、その予防に関しては本邦の臨床現場において充分な効果が得られていない現状がある.特に、脳血管疾患や中枢神経系難病によって重度の障害を負った患者において顕著である.こういった問題意識から、リハビリ及びケアの分野において先駆をなす国の一つであるスウェーデンにおける中枢神経疾患患者に対する拘縮予防のあり方について知るべく、同地を訪れて事例を調査して考察を加えたので報告する.<BR><BR>【方法】2000年から2008年にかけて、スウェーデンの複数の自治体において、主に回復期にあたる患者が滞在しているリハビリセンター、いわゆる維持期の障害者が暮らすサービスアパート、ケア付き特別住宅、住み慣れた自宅といったさまざまなシテュエーションで、以下に掲げる何れも痙性の強い患者に対する拘縮予防のための療法内容を抽出した.<BR><BR>【結果】いずれの患者も機能障害は重度であったが、拘縮はごく軽度に抑えられていた.そこで、拘縮予防に繋がるメニューを抽出した.1.療法士による定期的な治療だけでなく、ケア看護師(日本における准看護師に相当)によってケアの一環として日々におけるルーティーンのリハビリが施行されていた.2.体幹及び四肢における万遍ない持続的なストレッチングが施されるように工夫して療法士によって作成されたリハビリメニューが、ケア看護師やその他のケアスタッフにより励行されていた.3.手関節、手指、足関節といった拘縮を特に引き起こしやすい部位に対しては、拘縮予防を目的とした各種装具が医療的治療の一環としての扱いで無料もしくは極安価で処方されていた.4.オイルを用いた充分な時間(30分程度)をかけてのマッサージも拘縮予防を目的として無料で処方されていた.5.数十分に及ぶプール療法も、必要と判断されれば一般的に処方されている.6.大型の専用機器(レンタル代は無料)を用いた立位練習が自宅内において日常的に行われていた.<BR><BR>【考察】先行研究において、持続的なストレッチングは拘縮の予防に効果があるとされている.今回スウェーデンで経験した症例におけるリハビリの特徴は、生活のあらゆる場面において身体の各部位がストレッチングされる機会が確保されるように療法内容が工夫されている点にあると考えられた.こういった療法を施行できる背景には、保健医療法(HSL)という法制度面による裏付けがあることも明らかとなった.
著者
山口 真里子
出版者
北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院 = Graduate School of International Media, Communication, and Tourism Studies, Hokkaido University
雑誌
国際広報メディア・観光学ジャーナル
巻号頁・発行日
vol.6, pp.69-89, 2008-03-21

This paper analyses complex sentences consisting of an initial clause including a benefactive auxiliary verb and a second clause including an expression of thanks. The study focuses in particular on sentences using kudasaru or itadaku. Complex sentences of this kind show grammatical constraints as illustrated by oshiete (*moratte/kurete) arigatoo. However, if the verb morau is changed to the object-honorific itadaku, the whole sentence is rendered as oshiete itadaite arigatoo gozaimasu. This kind of expression sounds natural and is in common use, appearing even in Japanese textbooks. Based on the above facts, the paper examines how the usage of honorific and polite expressions affects the grammaticality of sentences containing benefactive auxiliary verbs. First, the paper investigates prior research related to te-form conjunctive sentences expressing appreciation. Second, the paper suggests three possible factors which affect grammaticality, based on analysis of acceptance criteria for the expressions *V-te moratte arigatoo and V-te itadaite arigatoo gozaimasu. Finally, the paper concludes that honorific and polite expressions affect the acceptability of sentences through cancelling the inherent directionality of benefactive expressions.
著者
山口 真悟 宮本 俊幸 内平 直志 葛 崎偉 本位田 真一
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1_58-1_65, 2008-07-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

学生チームが企業から提供された課題「マルチカーエレベータの群管理制御問題」を解決するアルゴリズムを競い合う「CSTソリューションコンペティション2007」を実施した.本稿ではその活動を通じて得たアルゴリズムの知見と評価ツールなどについて解説する.
著者
山口 真美
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.47-52, 2016

<p>In this paper we discuss two topics of infants' studies. First is typical and atypical development of face processing. There are many studies on the atypical social development, especially infants' development with high risks is current topic in developmental disorders. In these studies under 12 month olds who have an older sibling diagnosed with the disorder were selected for high-risk infants. Many studies have documented that impairments of the face processing was found in individuals with autism spectrum disorders (ASD). And recently, abnormal development of a subcortical system originates in the magnocellular pathway of the primate visual system was primary trigger to impairments of higher visual processing. McCleery, Allman, Carver, & Dobkins (2007) reported that contrast sensitivity of the high-risk infants exhibited greater than that of normal infants. Second topic is development of face processing. In these studies we found similarity in the developmental pattern between languages and face processing. Further, we discuss importance for infant's learning faces in poor resolution. Infant's face learning model showed that poor image faces (low-pass faces) made facial learning easily, additionally this low-pass face learning could generalize to process the normal faces. In a sense, infant's poor acuity decreases the information in the face processing during infancy and this promote face learning.</p>