著者
糟谷 司 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.291-303, 2011-04-30
被引用文献数
1

典型的な夏季静穏日を抽出し,中国・四国地方と瀬戸内海におけるGPS可降水量の地域的な日変化傾向と熱的局地循環について調査した.日中のGPS可降水量,日照時間,地上風の分布から,四国山地で2つ,中国山地で3つの小規模な熱的低気圧の形成が見られた.両山地の可降水量の日変化とは全く対照的に,瀬戸内地域では海風卓越時に可降水量は減少,陸風時には増加していた.瀬戸内海は中国山地と四国山地に挟まれることで,日中には内海と周囲の陸地との間で顕著な熱的局地循環が形成され,その循環に伴う下降流が瀬戸内海上で卓越し,上空からの乾燥移流と海風による水蒸気の水平発散が午後から夕方にかけての地上混合比の減少をもたらしていると示唆される.日中に日本海側と太平洋側の沿岸部では海風の水平温度移流によって地上気温の上昇が抑制されるが,瀬戸内海ではその抑制効果が働かず,15時〜22時頃に瀬戸内地域は相対的に3℃程度高温となっている.内海と外洋間で生じたこのような熱的コントラストが瀬戸内海上に最大1.3hPa程度の熱的低気圧を生じさせたと考えられる.
著者
川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.1009-1027, 1998-12-25
参考文献数
30
被引用文献数
16

1973年から1995年までのNCEP/NCAR再解析データを用いて、夏季アジアモンスーンとENSOとの相互作用を調べた。インド亜大陸上の20°Nを境とした、対流圏上層(200-500hPa)の夏季平均層厚偏差の南北傾度で定義されるモンスーン・インデックスとモンスーンに先立つ春季のNino-3地域のSST偏差との相関はかなり高い。これはENSOに伴うSST forcingの変化が間接的に夏季アジアモンスーンに影響を与えていることを示唆する。エルニーニョ現象によるウォーカー循環の弱化は、冬季から春季にかけての熱帯インド洋北部・海洋大陸上の積雲対流活動を抑制する。春季におけるこの熱帯対流活動の弱化から、赤道から離れた対流加熱に対するロスビー型応答により、チベット高原西方に低気圧性循環が生じる。誘引された低気圧性循環は陸域の降水量増加、土壌水分の増加をもたらし、インド亜大陸北西の中央アジア地域の地表面温度を減少させる方向に作用する。一方、モンスーンのオンセット前の春季後半に、熱帯インド洋では、下層の北東風偏差の卓越と雲量減少に関係した、海表面の熱フラックスやwind forcingに対する海洋の力学的応答の変化により、SSTの高温偏差が形成される。陸域と海域にみられるこれら異なる二つの物理プロセスは共に、海陸間の熱的コントラスト(あるいは対流圏気温の南北傾度)を弱める方向に作用し、夏季アジアモンスーンの弱化をもたらす。モンスーンが強い年は全く逆のシナリオになる。このようなプロセスで、夏季モンスーンがそのモンスーン前期に一旦弱く(強く)なると、熱帯インド洋SSTの高温(低温)偏差はさらに発達する。本研究で提案されたメカニズムは、モンスーンの強弱年が分類された1970年代後半から1990年代前半までの時期において有効である。この時期Nino-3地域のSST偏差は、先行する冬季から夏季にかけて異常に持続する傾向にあり、冬季に卓越するENSOと夏季モンスーン偏差をつなぐブリッジとして働いていた。しかしながら、モンスーンとENSOのカップリングの如何にかかわらず、ウオーカー循環の強弱と関連した春季の熱帯インド洋に卓越する外向き長波放射量偏差と下層風偏差は、夏季アジアモンスーンの予測可能性の観点から、依然として重要な因子であることも確かである。
著者
グエン ミン テイ 川村 隆浩 大須賀 昭彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J96-D, no.12, pp.2970-2978, 2013-12-01

本論文は,実世界での人々の行動を分析し,状況に応じた適切な情報提示などへ役立てることを目的に,Twitterなどソーシャルメディアから行動ネットワークを構築する研究の一環である.ソーシャルメディアからの行動抽出にあたっては,さまざまな理由から呟かれなかった行動が数多く存在し,結果として行動ネットワークがスパースになってしまうという問題が存在する.そこで,行動の性質とユーザのゴールを考慮した行動ベース協調フィルタリング手法を提案し,欠損行動の推測を試みる.また,協調フィルタリングによる頻度の原理の副作用としての低頻度だが価値のある情報が埋もれてしまう問題に対して,人が成功している人や行動にどのように影響を受けるか,を単純にモデル化し,一定の重み付けを行う方法を提案する.そして,東日本大震災発生時のtweet 337,958件を対象に評価実験を行った結果,提案手法を用いることで行動ネットワーク内の欠損行動ノードを一定程度,補完できることを確認した.
著者
大橋 喜隆 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.277-291, 2006-04-30
参考文献数
28
被引用文献数
9

1996年から2003年の典型的な夏季静穏日を抽出して,中部日本域の山岳域とその周辺の沿岸域についてGPS可降水量の日変化傾向を調べた.可降水量の日較差は,山岳域は5〜8mm,沿岸域は2〜4mmであった.熱的低気圧に伴う地上風収束の最盛期とGPS可降水量の極大には3時間ほどの遅れが生じていた.日変化では,山岳域で可降水量の増加が減少よりも急激である傾向を示し,増加期は山岳斜面に沿う水蒸気輸送とその収束,減少期は山岳上空での一様な水平発散を主に捉えていると考えられる.沿岸域や内陸では可降水量の日変化は一般に不明瞭であったが,濃尾平野や静岡県沿岸においては夜間に可降水量が増加する傾向がみられた.また,盆地内では夜間の可降水量の漸増あるいは一定値を保つ傾向が観測され,局地循環に伴って輸送される水蒸気が盆地上空で局所的に収束している可能性が示唆された.
著者
児玉 安正 佐藤 尚毅 二宮 洸三 川村 隆一 二宮 洸三 川村 隆一 吉兼 隆生
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

亜熱帯域には3つの顕著な降水帯(亜熱帯収束帯)があり,梅雨前線帯はそのひとつである.本研究では,各収束帯の生成メカニズムについて研究した.SACZ(南大西洋収束帯)について,ブラジル高原の影響をデータ解析と数値実験の両面から調べた.亜熱帯ジェット気流の役割に関連して,ジェット気流に伴う対流圏中層の暖気移流と降水の関係を論じたSampe and Xie(2010)仮説が梅雨前線帯だけでなく,SACZとSPCZ(南太平洋収束帯)にも当てはまることを示した.梅雨前線帯が南半球の収束帯に比べて向きや緯度が異なることについて,黒潮の影響を論じた.
著者
中井 専人 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.895-905, 1998-12-31
参考文献数
30
被引用文献数
1

1992年6月5日09UTC(00UTC=09JST)から18日06UTCに梅雨前線付近に現れた74個のメソスケール雲クラスターの出現特性を調査した.雲クラスターの寿命と最大雲域面積との間には正相関があり, 平均値はそれぞれ12.4時間, 7.1×10^4km^2であった.これらは日本付近の雲クラスターについて過去に報告された値に近く, 熱帯や北米大陸上で報告された値より小さかった.メソαスケール雲クラスター(MACC)の多くは13時間以上の寿命を持ち, 前線付近に出現するものが多かった.また, 夜間から早朝にかけて多く出現する弱い傾向があった.メソβスケール雲クラスター(MBCC)は12時間以下の寿命を持つものが多く, 出現には日変化も前線との位置に対する依存性も明瞭ではなかった.MACCの多かった期間は, 雲クラスター出現域で前線の影響と考えられる強い鉛直シアーが見られた.MBCCの多かった期間は, 雲クラスターの出現域が前線から離れた亜熱帯高気圧の勢力下にあった.
著者
ミン テイ グェン 川村 隆浩 中川 博之 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. AI, 人工知能と知識処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.386, pp.19-24, 2010-01-15
被引用文献数
1

本論文の目的は,日本語Webページの文中に現れる行動の基本属性(行動主,動作,対象,時刻,場面,場所)と行動間の遷移を自動的に抽出することである.しかし,先行研究では,抽出のための準備コストが大きいことや,抽出できる行動属性が少ないこと,適用可能な文の種類が少ないこと,行動属性間の係り受け関係を十分に考慮されていないこと,そしてプライバシーなどといった問題がある.そこで本論文では,条件付確率場(Conditional Random Fields)と自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)を用いて,行動属性と行動間の遷移を自動的に抽出する手法を提案する.提案手法では,人手でラベル編集,初期インスタンスの作成,行動のドメインの定義などの必要がなく,一回のテストで文中に現れる行動属性と行動間の遷移を漏れなく全て抽出でき,高い精度が得られる(行動:88.9%,基本行動属性:90%以上,行動間の遷移:87.5%).
著者
間瀬 久雄 辻 洋 絹川 博之 川村 隆雄
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.127-128, 1993-03-01

プログラム開発の効率向上の一方法である,かな漢字プログラミングの研究を進めている.これまでに,単語分かち書きのカナ文字列で記述可能なCOBOLプログラミング用簡易言語CORALを開発した.CORALは大型計算機VOSシリーズ上で稼動している.我々は,開発効率をさらに向上させるべく,より可続性に優れた非単語分かち書きかな漢字文による記述を検討し,形態素解析によってかな漢字プログラムを既存のCORALに変換するプリコンパイラのプロトタイプを開発した.これによりデバッグ効率が向上するほか,プログラムを仕様書として利用できる.なお,本プロトタイプにおけるかな漢字プログラムの構文は,従来のCORALの構文をほぼ継承している.本稿では,本プロトタイプの構成および機能について述べ,また,テストプログラムを用いた評価結果について考察する.
著者
三代 謙仁 川村 隆浩 中川 博之 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.94, no.11, pp.1791-1799, 2011-11-01
参考文献数
19

近年,食や環境への意識の高まりから野菜作りやインテリアグリーンに関心が集まっている.しかし,都市の限られた環境で緑を育てるのは容易ではなく,その環境に適した植物を選択するには専門的な知識が必要ということもあり,不用意に繁茂させたり,逆に枯らしてしまうケースも多い.また,インテリア/エクステリアとしては周辺環境との調和が気になるが,成長時の生い茂った姿を想像するのは素人には難しい.そこで本論文では,携帯電話のセンサを用いて,植裁スペースの環境(日照,温度,気温等)に適した植物を推薦するエージェントシステムの開発について述べる.また,本システムでは,推薦した植物の成長した姿を3DCGで表示するという拡張現実手法を用いて,周辺の景観とマッチするかどうかを視覚的に確認することもできる.これにより,植物や園芸に関する特別な知識がなくとも,環境に適しており,かつ周辺の景観との調和のとれた植物を選ぶことが可能となる.今回の実験では約70%の精度で適した植物を推薦できることを確認できた.
著者
グェンミン テイ 伊藤 雅博 川村 隆浩 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. AI, 人工知能と知識処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.70, pp.39-44, 2011-05-19

本研究の最終目的は,計算機がユーザの状況を把握し,それに応じて皆の経験に基づく最適な行動パターンを推薦することである.これを実現するために,皆の経験に基づく行動パターンの集合知(行動パターンの構成要素,行動パターン間の関係)が必要である.そして,これらの行動パターンの表現,参照,更新の方式が必要である.しかし,皆の経験に基づく行動パターンの集合知を人手で構築するには膨大なコストがかかる.そこで,本論文は行動パターンの集合知である意味ネットワークの自動構築手法を提案する.まず,webコーパスから取得した行動文の中に現れる行動属性を自動的に抽出する.次に,抽出された行動データ(行動属性と行動属性間の関係)をN3で記述する.最後に,行動主と行動間の関係(遷移関係,因果関係)で,行動間のリンクを付け,意味ネットワークを構成する.
著者
松本 淳 遠藤 伸彦 林 泰一 加藤 内藏進 久保田 尚之 財城 真寿美 富田 智彦 川村 隆一 浅沼 順 安成 哲三 村田 文絵 増田 耕一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

1950年代以前のアジアモンスーン諸国における紙媒体気象データをデジタル化したデータセットを作成し,20世紀全体でのアジアモンスーンと台風の活動や経路の長期変動を解析した。その結果,日本の冬季モンスーンが弱まり,冬の期間が短くなる傾向や,フィリピンで夏の雨季の開始時期が近年遅くなる傾向,東南アジアで降雨強度が強まる傾向,台風発生数の数十年周期変動,台風の低緯度地方での経路の長期的北上傾向等が見出された。
著者
佐々木 健太 長野 伸一 長 健太 川村 隆浩
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.25, 2011

近年,ライフストリームと呼ばれるWebデータ(Twitter,ブログなど)が注目を浴びている.ところが,これらにはユーザが実際に体験した出来事以外に,単なる事実や感想なども多く含まれる.そこで,本研究ではライフストリームから,ユーザが主体的に行った行動に関する情報のみを抽出する手法を提案する.そして,Wikipedia上のデータとの比較による手法評価について述べる.
著者
川村 隆一 植田 宏昭 松浦 知徳 飯塚 聡 松浦 知徳 飯塚 聡 植田 宏昭
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

大気海洋結合モデルならびに衛星リモートセンシングデータ等の観測データを併用して、夏季モンスーンのオンセット変動機構の重要な鍵となる大気海洋相互作用及び大気陸面相互作用のプロセスを調査した。標高改変実験からは亜熱帯前線帯の維持のメカニズム、植生改変実験からは降水量の集中化と大気海洋相互作用の重要性が新たに見出された。また、オンセット現象と雷活動との相互関係、夏季東アジモンスーン降雨帯の強化をもたらす台風の遠隔強制やモンスーン間のテレコネクションのプロセスも明らかになった。
著者
大橋 喜隆 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.541-554, 2007-06-30
参考文献数
15
被引用文献数
1

1996年から2004年の夏季に北陸地方でフェーン現象が発現した日を抽出し,中部地方を対象にフェーンとその状況下で形成される熱的局地循環の傾向と, GPS可降水量変動について考察した. GPS可降水量分布は,北陸地方の東部ではフェーンによる大気下層の乾燥傾向を反映するが,西部では太平洋側と同様に高い値を示した.フェーンが発現するような一般風が強い環境であっても,中部山岳域に熱的低気圧が形成される場合には北陸地方で日中に海風や谷風が生じ,フェーンの中断または弱化(フェーンブレイク)が生じる.熱的局地循環に伴うGPS可降水量の日変化は,夏季静穏日と同様にフェーン発現日においても夕方に中部山岳域で極大を示した.北陸地方沿岸域の中で日中にフェーンブレイクが見られる地域では,夕方にGPS可降水量の増加が顕著であり,フェーンに伴う南風と海風の間で水蒸気収束が発生していると考えられる.夜間にはGPS可降水量の高い領域が山岳風下側の新潟県の平野部へ移動する傾向が見られ,熱的局地循環によって山岳上空に輸送された水蒸気が,フェーンをもたらす南から南南西の一般風によって風下側へ輸送されたと考えられる.フェーンブレイクが生じていない事例では太平洋沿岸の可降水量が高く,中部山岳の風上斜面で降水頻度が高くなっており,熱的低気圧も形成されなかった.
著者
グェン ミンティ 川村 隆浩 中川 博之 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.166-178, 2011 (Released:2011-01-06)
参考文献数
31
被引用文献数
2

In our definition, human activity can be expressed by five basic attributes: actor, action, object, time and location. The goal of this paper is describe a method to automatically extract all of the basic attributes and the transition between activities derived from sentences in Japanese web pages. However, previous work had some limitations, such as high setup costs, inability to extract all attributes, limitation on the types of sentences that can be handled, and insufficient consideration interdependency among attributes. To resolve these problems, this paper proposes a novel approach that uses conditional random fields and self-supervised learning. Given a small corpus sample as input, it automatically makes its own training data and a feature model. Based on the feature model, it automatically extracts all of the attributes and the transition between the activities in each sentence retrieved from the Web corpus. This approach treats activity extraction as a sequence labeling problem, and has advantages such as domain-independence, scalability, and does not require any human input. Since it is unnecessary to fix the number of elements in a tuple, this approach can extract all of the basic attributes and the transition between activities by making only a single pass. Additionally, by converting to simpler sentences, the approach can deal with complex sentences retrieved from the Web. In an experiment, this approach achieves high precision (activity: 88.9%, attributes: over 90%, transition: 87.5%).
著者
川村 隆一
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究課題はエルニーニョ南方振動(ENSO)現象がどのようなメカニズムで夏季アジアモンスーンの変動に影響を与えるのかを解明することを主たる目的としている。本研究課題の成果は以下の二つの項目にまとめられる。1.ENSO赤道対称・非対称インパクトとアジアモンスーン循環南アジア夏季モンスーン変動とENSOを関係づけるプロセスとして、ENSO発達期の赤道対称インパクトと衰退期の赤道非対称インパクトが存在することが観測・モデルの解析から見出された。1970年代後半以降、長周期ENSOが頻繁に出現し春季に終息しないで持続傾向になったことで、冬季から春季にかけてインド洋にENSOシグナルが伝わり、海面水温と積雲対流活動の赤道非対称構造を生成するのを容易にさせた。このような非対称構造が維持されるためには、風-蒸発-海面水温(WES)フィードバックが重要な働きをしていると考えられる。この赤道非対称インパクトは中央アジア地域の陸面水文過程も関係する間接的なインパクトで、モンスーン循環へ与える影響はモンスーン前期(6-7月)において有意である。別の解析結果から、二年周期的なENSOが発達する8月から11月にかけて、熱帯インド洋上の対流圏下層循環と降水量偏差に顕著な赤道対称構造がみられることがわかった。これはインド洋から西部太平洋へ東進するウォーカー循環偏差の一部をなすものであり、このようなインパクト(空間構造から赤道対称インパクトと呼ぶ)の実態は、準二年周期的なENSOの大気海洋結合システムが熱帯インド洋から太平洋へ発達しながら東進する過程において形成される、赤道対称構造であると解釈できる。赤道対称インパクトはむしろモンスーン後期(8-9月)に顕著である。準二年周期的なENSOの発達期にみられる赤道対称インパクトが1970年代後半以前の強いENSO-モンスーン関係をもたらしていると考えられる。2.日本を含む東アジア夏季の天候に影響を与える力学プロセス日本の夏季天候との関係に注目すると、赤道対称インパクトが明瞭であった1960年代から70年代中頃までの期間では、フィリピン付近の対流活動偏差の局在化は不明瞭で典型的なPJパターンもあまり卓越しなかった。その結果、日本の夏季気温変動の振幅は小さく比較的安定した夏が続いた。逆に1970年代後半から90年代にかけての長周期ENSOの卓越により、ENSO衰退期の赤道非対称インパクトが顕在化し、フィリピン付近の対流活動偏差の局在化とPJパターンの励起が頻繁にみられるようになった。これにより日本の夏季気温変動の振幅は大きくなり不安定な夏が続いたと解釈できる。最近では1999年から2001年まで3年連続で猛暑の年が続いたが、春季から夏季のインド洋・西太平洋の大気・海洋の状態はKawamura et al.(2001b)の模式図と非常に類似しており、赤道非対称インパクトの卓越と関連してフィリピン付近で積雲対流活動が活発化した、まさに典型例であると言える。