- 著者
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岡棟 亮二
宮下 浩二
谷 祐輔
太田 憲一郎
小山 太郎
松下 廉
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.0502, 2017 (Released:2017-04-24)
【はじめに,目的】臨床において胸郭へのアプローチが肩関節機能の改善に奏功することは多い。実際,胸郭は肩複合体の構成要素であり,肩挙上に伴い胸郭の前後径,横径拡大が生じることが報告されている(花村ら1977)。しかし,その胸郭拡大が制限された際の肩関節運動の分析は十分になされていない。本研究の目的は,胸郭拡大制限が肩前方挙上運動に与える影響を三次元動作分析で明らかにすることである。【方法】対象は肩関節に疼痛のない男子大学生19名(20.0±1.3歳)とした。体表のランドマーク上に反射マーカを貼付した。その後,胸郭拡大制限の有無の2条件で立位両肩前方挙上運動を動画撮影した。胸郭拡大制限は,最大呼気状態の胸郭の肩甲骨下角直下と第12胸椎レベルに非伸縮性コットンテープを全周性に貼付するという方法で行った。撮影動画から動画解析ソフトにより各反射マーカの三次元座標値を得た後,宮下らの方法(2004)に準じて角度算出を行った。算出角度は肩屈曲角度(肩最大前方挙上時の体幹に対する上腕のなす角度),肩甲骨後傾角度,肩甲上腕関節(GH)屈曲角度とした。胸郭拡大制限の有無の2条件における各角度を,対応のあるt検定を用いて比較した。また,対象ごとに胸郭拡大制限の有無による肩甲骨後傾角度およびGH屈曲角度の増減を検討した。【結果】肩屈曲角度は制限なし148.9±16.3°,制限あり141.0±15.5°で有意差を認めた(p<0.01)。肩甲骨後傾角度は制限なし56.1±11.4°,制限あり53.3±11.6°で有意差を認めた(p<0.01)。GH屈曲角度は制限なし91.2±15.1°,制限あり89.7±14.5°で有意差はなかった(p=0.44)。対象ごとに胸郭拡大制限の有無による肩甲骨後傾角度およびGH屈曲角度の増減を検討すると,制限なしに比べ制限ありで(a)肩甲骨後傾角度が減少し,GH屈曲角度が増加(7例),(b)肩甲骨後傾角度が増加し,GH屈曲角度が減少(4例),(c)肩甲骨後傾角度,GH屈曲角度ともに減少(8例)の3パターンに分類された。【結論】肩甲骨の運動は胸郭の形状に影響を受けるといわれる。肩挙上時,胸郭には拡大運動が生じるため,胸郭の形状も変化すると考えられる。本研究においては,胸郭拡大制限により肩前方挙上に伴う胸郭の形状変化が妨げられたと推察される。その結果,肩甲骨運動が制限され,肩屈曲角度の減少につながったと考えた。しかし,肩甲骨,GHの動態を対象ごとに分析すると,胸郭拡大制限によりいずれかの動きを増加させ代償を行うパターン(a,b)と,いずれの動きも制限されるパターン(c)が存在し,その動態は対象により様々であった。肩関節障害発生の面から考えると,パターンaのような代償方法はGHへの負担を増加させるためリスクが高いことが推察される。不良姿勢,胸郭周囲筋群の作用,加齢による肋軟骨の骨化などにより胸郭拡大は制限されるが,その際の対象ごとの肩甲骨,GHの動態の違いが肩関節障害の発生リスクと関連する可能性がある。