著者
森 晃
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.69-77, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1

ナマズは近年,生息環境の悪化により個体数が全国的に減少しているが,幼魚期の知見は不足しているため,生活史全体を考慮した効果的な保全は困難である.絶滅が危惧されている淡魚の生態解明には,PIT タグ(以下,タグ)が活用されている.しかし,タグをナマズの幼魚に適用し,野0外でタグ個体を追跡した例はみられない.そこで,本研究では野外においてタグを用い,ナマズのとくに幼魚から生態学的情報を収集することを目的とした.そのために,第 1 にタグの装着が幼魚に及ぼす影響を評価し,第 2 にタグを装着した個体を放流し追跡調査を実施した.第 3 に今後の課題について検討した.まず,タグの装着が幼魚に与える影響を屋内の水槽において検証した.その結果,タグを装着した 18 尾のナマズ幼魚のうち,死亡した個体はなく,切開痕についても約 20 日後には自然治癒した.また,タグの脱落がなかったこと,コントロール群とタグ群の間に成長の差がなかったことから,ナマズの幼魚に対するタグの装着は可能であると考えられた.次に,栃木県宇都宮市の谷川において追跡調査を実施した.合計 21 尾のナマズにタグを装着したのちに放流し,読取機とポータブルアンテナを用いてタグ個体の位置情報や利用環境について記録した.その結果,探査可能距離などの制限があったにもかかわらず 12 尾の個体の追跡に成功したことから,タグを用いた追跡が本種の生態学的情報を得ることが可能であることが示された.今後の課題としては,追跡の成功率を上げるために調査労力(頻度や範囲)を増やすこと,成魚には検出範囲の広い大型のタグを装着することが挙げられた.これらの改善点を適用することで,探査効率は向上し,ナマズの移動特性や選好環境などの情報を効率的に収集できると考えられる.
著者
森本 英樹 柴田 喜幸 森田 康太郎 茅嶋 康太郎 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.13-24, 2020

<p><b>目的:</b>社会保険労務士(以下,社労士)は事業場のメンタルヘルス課題に関わるものの,社労士が事業場のメンタルヘルス課題に関わる際に期待されるコンピテンシーが明確ではない.よって本研究では,メンタルヘルスにおける社労士に期待されるコンピテンシーを同定することを目的とした.<b>対象と方法:</b>デルファイ法を用いた調査を行った.第1ステップとして対象となる社労士に半構造化面接を行い,面接結果と過去の予備調査をもとにコンピテンシー(案)を作成した.第2ステップとして,メンタルヘルスが関連すると考えられる事例の相談件数が10件以上の社労士にアンケート調査への協力呼びかけを行い,重要度(メンタルヘルス関連業務を行う際にどの程度重要と思うか)と達成度(自らがどの程度達成しているか)を問うた.また提示したコンピテンシー以外に必要と考えられるものを問い,コンピテンシー(案)の追加項目として加えた.第3ステップとして,第2ステップで有効回答をした者に対しステップ2の結果を提示した上で同意率(コンピテンシーに含めることを同意するか)を3件法で問い,同意率80%以上の項目をコンピテンシーとして設定した.また第2ステップで作成した追加項目について重要度と達成度を問い,この中で重要度が中央値以上にもかかわらず達成度が中央値を下回る項目を抽出した.<b>結果:</b>ステップ1では8名の社労士から協力を得,20領域68項目のコンピテンシー(案)を作成した.ステップ2では,57名の社労士が参加し45名の協力を得た(回答率78.9%).新たに追加すべきコンピテンシー(案)として7項目を追加した.ステップ3では,34名から協力を得た(応答率75.6%).同意率80%未満の2項目を除外し,その結果20領域73項目がコンピテンシーとして同定された.同意率が100%の項目として「立案は労使双方のメリットとデメリット(リスク)を踏まえた内容になっている」などがあげられた.<b>結論:</b>本研究により事業場のメンタルヘルスに社労士が関わる際に期待されるコンピテンシーを提示できた.本結果は,今後社労士を対象とした体系的な研修カリキュラムの開発の参考になることが示唆された.</p>
著者
楠本 朗 梶木 繁之 阿南 伴美 永田 智久 永田 昌子 藤野 善久 森 晃爾
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.385-395, 2021

<p>This study examines how psychological distress (measured by the K10 screening test) and presenteeism (measured by the quality and quantity method) change in the six months after returning to work from having taken a sick leave because of a mental illness. In a manufacturing company with approximately 2,600 employees, 23 employees returned to work after experiencing mental illness between April 2015 and March 2016, and all 23 agreed to participate in the study. We analyzed 18 cases for which we had sufficient data. Two of the employees were absent from work in the sixth month. We performed multilevel analysis for K10 and presenteeism over time on the 16 without recurrence. A significant decreasing trend was observed for both K10 and presenteeism. Eleven of the 16 employees were consistently below the K10 cutoff value of 10 for six months, and 5 had zero presenteeism in the sixth month, whereas 6 employees showed improvement in presenteeism that stopped midway through the study. An occupational physician judged that the employees could work normally with presenteeism of zero. After returning to work, it is important to monitor not only psychiatric symptoms but also presenteeism.</p>
著者
田中 莉沙子 重國 聖羅 松田 清香 小林 千尋 森 晃 平田 孝道
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.380, 2017

<p>近年注目を集めているプラズマ医療は、多くがメカニズム不明のまま臨床応用されているのが現状である。そこで、本研究ではプラズマの創傷治癒促進作用に着目し、プラズマ照射による火傷部位の治癒メカニズム解明を目指す。先行研究では、大気圧プラズマは活性酸素種(ROS)を生成することや、軽度の酸化ストレスは細胞の増殖を促進することが報告されており、プラズマ照射が火傷の治癒を促すメカニズムには、酸化ストレスが大きく関与している可能性が示唆される。これらのことを踏まえ、本研究ではまず、ラットの背面に人為的に作製した火傷部位において、酸化ストレスマーカーであるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性を測定した。これにより、化学的に不安定で反応性が高いため生体内での測定が極めて困難であるROSを、半定量的に測定することが出来る。今回は、プラズマ照射時と未照射時それぞれについてSOD活性の違いを比較、検討した結果を中心に報告する。</p>
著者
古屋 佑子 高橋 都 立石 清一郎 富田 眞紀子 平岡 晃 柴田 喜幸 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.54-62, 2016-03-20 (Released:2016-06-07)
参考文献数
20
被引用文献数
8 9

目的:疾患を持つ労働者への就業支援において,労働者本人,治療医,企業(産業保健スタッフ)間の連携は欠かせないが,どのような要因が関係者の連携を促進または阻害するのか,その詳細は明らかではない.本研究の目的は,産業医と治療医の連携場面に着目し,治療医のどのような行動が産業医による就業配慮を促進・阻害するのか明らかにすることである.方法:産業医科大学の卒業生である産業医のうち,4年間の卒後修練コース修了者および産業医実務研修センターの教員・元教員計43名に対して自記式質問紙調査を実施した.質問紙では,個人属性(年齢・産業医経験年数・臨床経験年数など)と,職場での就業配慮に役立った治療医の行動(良好事例),結果的に妨げとなった行動(困難事例)を質問し,事例は自由記述で回答を得た.事例の内容は,KJ法を参考にして質的に分析した.結果:2013年12月17日~2014年1月18日までの調査期間中に,33名から回答(有効回答率76.7%)があった.回答者の平均年齢は37.4±6.1歳,60.6%は専属産業医であった.良好事例は32例,困難事例は16例提供された.連携のタイミングは全48例中35例(72.9%)が復職時であった.就業配慮に影響した治療医の行動の内容は,「治療経過および今後の治療計画の提供」,「健康情報の提供」,「復職・就業配慮の妥当性」,「提供情報の一貫性」,「文書の発行」,「産業医の存在を意識したコミュニケーション」「本人が知らない情報の提供」の7種に大別された.考察:本研究により,治療医のどのような行動が産業医の実施する就業支援に関連しているか,明らかとなった.また,産業医と治療医との情報共有の必要性も,明確にすることができた.調査対象者から寄せられた良好事例と困難事例は互いに表裏の関係にあり,良好事例に準じた行動を治療医がとることで,円滑な情報共有および就業配慮に結びつく可能性が高いと考えられた.
著者
永田 昌子 堤 明純 中野 和歌子 中村 純 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.1111230078, (Released:2011-11-28)
被引用文献数
2

職域における広汎性発達障害者の頻度と対応:産業医経験を有する精神科医を対象とした調査:永田昌子ほか.産業医科大学産業医実務研修センター-目的:近年,産業保健スタッフが対応するメンタルヘルス不調者の中に広汎性発達障害を抱える,もしくは疑い例に遭遇する事例が報告されている.本研究は,産業医経験を有する精神科医を対象に,職域で広汎性発達障害の事例対応に遭遇する頻度や広汎性発達障害を抱えるメンタルヘルス不調者に対して行われている就業上の配慮について,職域での実態調査を行った.対象と方法:産業医科大学精神医学教室員および同門医師122名に対して,記名式の郵送法調査を実施した.回答者の産業医経験,臨床経験,臨床場面での広汎性発達障害の経験,産業医活動のなかで広汎性発達障害の診断を受けているメンタルヘルス不調者の事例対応をした経験の有無,また,事例対応開始時に主治医より受けている診断名は広汎性発達障害ではないが,回答者自身が広汎性発達障害を疑った事例の経験の有無,事例対応の経験があるものには,職場で行った具体的な配慮,困難だった事例,成功した事例等について自由記述形式で回答を求めた.結果:56名から回答が得られた.そのうちメンタルヘルス不調者の職域での事例対応経験のある医師35名の回答を分析した.広汎性発達障害の「診断」を受けているメンタルヘルス不調者の経験を有するものは7人(20.0%),広汎性発達障害の「診断」を受けてないものの回答者自身が広汎性発達障害を疑ったメンタルヘルス不調者の経験を有するものは15人(42.9%),両方の経験を有するものが3人(8.6%)であり,どちらかの経験も有するものが19人(54.6%)であった.今回報告された40例のうち,事例対応開始時に診断名がついていたものが12例,回答者が疑った事例が28例,そのうち調査票回答時までに診断に至っていたものが7例であった.広汎性発達障害の「診断」を受けてないものの回答者自身が広汎性発達障害を疑った理由として多かったのは,職場での対人関係のトラブルを起こすというエピソードであった.「診断」を受けている事例は,産業医が疑った事例より具体的な配慮が行われていた.また,就業上の配慮として上司に対しての障害特性についての説明や業務内容の変更などが実施されていた.地域の社会資源の活用状況として,広汎性発達障害の診断を受けている,または疑った事例対応経験のある回答者19人のうち,発達障害支援センターや地域障害者職業センターの利用した経験を有する回答者は2人(10.5%)であった.考察:調査対象となった産業医経験のある精神科医の半数に広汎性発達障害の診断がついたもしくは疑った事例の対応の経験があり,職域で広汎性発達障害を持つ労働者の事例対応をすることは稀ではないことが示唆された.産業保健スタッフは,広汎性発達障害の知識,職場での適切な配慮の仕方,利用出来る社会資源についての理解を深める必要があると考えられた.
著者
松岡 朱理 立石 清一郎 五十嵐 侑 井手 宏 宮本 俊明 原 達彦 小橋 正樹 井上 愛 川島 恵美 岡田 岳大 森 晃爾
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.263-271, 2015-12-01 (Released:2015-12-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

自然災害や工場事故などの危機事象が発生した企業においては,労働者はさまざまな対応を余儀なくされ,直接的に傷病を負う労働者だけでなく,緊急対応や復旧作業に従事する労働者も多様な健康障害リスクに曝される.そのような健康障害リスクに対して,産業保健専門職の予防的介入に役立つ危機対応マニュアルの開発を行った.危機対応マニュアルの開発は,先行研究において8つの危機事象を分析して作成した危機事象における産業保健ニーズリストを用い,危機事象後の時間軸(フェーズ)ごとに発生しうるニーズについて,具体的な解説を施すことを基本とした上で,各ニーズの発生の可能性を表現するため,8事象での発生頻度で記述方法を変えるなどの工夫を施した.作成過程においては,危機対応マニュアルβ版を実際の危機事象で利用に供するとともに,危機管理分野の専門家の意見聴取を行って妥当性の検討を行い,危機対応マニュアルβ版に一部改善を施した上で完成版とした.完成した危機対応マニュアルには,全フェーズ合計で99のニーズに対して解説が加えられており,網羅性は高く,多くの危機事象において利用可能と考えられる.新たな危機事象において,異なるニーズが発生する可能性があるため,汎用性を高めるために今後も継続的に情報を収集して,改善を施していく必要があると考えられる.また,危機事象が発生した際に危機対応マニュアルを入手できるように,ウェブ上でダウンロード可能とするとともに,危機対応マニュアルの存在を広く周知していくことが今後の課題である.
著者
大森 晃
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.976-1023, 2019-03-15

本論文では,少なくとも以下のような内容を含む「所与の文が要求を表現しているか否かを判別するための言語学的知識」を与えた.(1)文レベルでの要求概念の定義,(2)所与の文(特に単文と複文における主節)が要求を表現しているか否かを判別するために必要な言語学的知識,(3)複文の接続節における要求表現に関する言語学的知識.本論文では上記(1)~(3)の内容からなる言語学的知識を「要求文同定論」という.要求文同定論は,様々な産業において要求に携わる技術者・研究者などの助けになるものと期待できる.そのため本論文では特定の産業分野に限定せずに要求文同定論を提供することを目指した.上記(1)については,日本語モダリティ論を手がかりとして要求とは何かについて考察し,文レベルで要求概念を定義した.上記(2)については,1つのまとまった言語学的知識として「要求の態度」を明らかにした.上記(3)については,どの接続節が要求を表現しえて,どの接続節が要求を表現しえないかに関する言語学的知識を明らかにした.また,要求を表現しうる接続節がどのような場合に要求を表現するのかに関する言語学的知識も明らかにした.上記(2)と(3)は所与の文(単文と複文)が要求を表現しているか否かを判別するための豊かな言語学的知識を与える.本論文では要求文同定のための言語処理技術についても言及した.さらに擬似要求文について検討し,「疑似要求文同定論」への発展の可能性を示唆した.
著者
森本 英樹 柴田 喜幸 森田 康太郎 茅嶋 康太郎 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2019-007-E, (Released:2019-08-20)

目的:社会保険労務士(以下,社労士)は事業場のメンタルヘルス課題に関わるものの,社労士が事業場のメンタルヘルス課題に関わる際に期待されるコンピテンシーが明確ではない.よって本研究では,メンタルヘルスにおける社労士に期待されるコンピテンシーを同定することを目的とした.対象と方法:デルファイ法を用いた調査を行った.第1ステップとして対象となる社労士に半構造化面接を行い,面接結果と過去の予備調査をもとにコンピテンシー(案)を作成した.第2ステップとして,メンタルヘルスが関連すると考えられる事例の相談件数が10件以上の社労士にアンケート調査への協力呼びかけを行い,重要度(メンタルヘルス関連業務を行う際にどの程度重要と思うか)と達成度(自らがどの程度達成しているか)を問うた.また提示したコンピテンシー以外に必要と考えられるものを問い,コンピテンシー(案)の追加項目として加えた.第3ステップとして,第2ステップで有効回答をした者に対しステップ2の結果を提示した上で同意率(コンピテンシーに含めることを同意するか)を3件法で問い,同意率80%以上の項目をコンピテンシーとして設定した.また第2ステップで作成した追加項目について重要度と達成度を問い,この中で重要度が中央値以上にもかかわらず達成度が中央値を下回る項目を抽出した.結果:ステップ1では8名の社労士から協力を得,20領域68項目のコンピテンシー(案)を作成した.ステップ2では,57名の社労士が参加し45名の協力を得た(回答率78.9%).新たに追加すべきコンピテンシー(案)として7項目を追加した.ステップ3では,34名から協力を得た(応答率75.6%).同意率80%未満の2項目を除外し,その結果20領域73項目がコンピテンシーとして同定された.同意率が100%の項目として「立案は労使双方のメリットとデメリット(リスク)を踏まえた内容になっている」などがあげられた.結論:本研究により事業場のメンタルヘルスに社労士が関わる際に期待されるコンピテンシーを提示できた.本結果は,今後社労士を対象とした体系的な研修カリキュラムの開発の参考になることが示唆された.
著者
野田 康太朗 中島 直久 守山 拓弥 森 晃 渡部 恵司 田村 孝浩
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.165-173, 2020-03-28 (Released:2020-04-25)
参考文献数
26
被引用文献数
3

本研究では,トウキョウダルマガエルを対象とし,第一に PIT タグの個体へおよぼす影響およびタグリーダーによる探知能力の両面から,越冬個体の探知に適した手法か検討した.第二に,対象地にて PIT タグを挿入した個体の越冬場所の探知を試みた.さらに,栃木県上三川町の水田水域において越冬個体の探知を試みた.PIT タグが個体へおよぼす影響を調べるため,PIT タグを挿入した群と挿入していないコントロール群を 15 日間飼育したところ,斃死及びタグが脱落した個体はおらず,体重の増減にも両群間に有意な差は見られなかった.探知能力の検討では PIT タグを土中に埋める試験区を設け実験した.その結果,深度 20 cm までの読み取りは可能であったが,30 cm より深くは読み取れなかった.さらに,栃木県上三川町で実施した水田水域における越冬個体の探知では,30 個体の越冬場所を確認した.Neu 法により解析したところ,30 個体の越冬地点は,畑地に集中していることが明らかとなった.また,越冬深度は 7.4-27.0 cm,平均 18.3±4.7 SD [cm] であった.この結果から,水田水域に生息するカエル類と比較し,本種はより深い地中で越冬する生態を有する可能性もあった.一方で,越冬深度の違いが PIT タグと掘削という手法の違いに起因する可能性もある.なお,本研究の結果は冬期湛水水田が卓越した地域において実施された事例的な研究である.今後は PIT タグを用いた越冬個体の探知方法により,異なる気象条件の地域,営農方法や圃場構造等が異なる地区での知見を集積することが望まれる.
著者
豊田 裕之 森 晃爾
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.153-159, 2017

<p>大規模災害が発生した際,災害対応を行う労働者は,日常業務とは異なる健康障害要因に曝される恐れがある.そのような課題に対して適切な準備や対応を行うためには,過去の大災害の知見を参考にすることが有効と考えられるが,公開されている情報は少ないことが現状であるので,大規模災害発生時の労働衛生活動の在り方を検討するために,関連情報が比較的多く報告されている世界貿易センター倒壊テロ事件(WTCテロ)と福島第一原子力発電所事故(第一原発事故)を対象に文献上の知見について,比較検討を行った.WTCテロについて7編の文献が抽出され,1. 労働衛生管理を含む緊急時体制に関連したもの,2. 健康影響や労働衛生面の改善・予防に関連したもの,3. 健康影響の緩和を目的としたケアに関連したものに分類された.一方,第一原発事故については,先行レビューで整理された文献を用いた.大規模災害発生時に対応する労働者の健康確保のためには,防災基本計画に関連した諸規程に労働衛生に関する規定を盛り込むとともに,長期にわたって支援を行うことを前提とした実務的な支援機能,災害対応に関わる可能性のある労働者に対するトレーニングの仕組み,健康影響の緩和を目的としたケア体制などを構築することが必要と考えられた.</p>
著者
金森 晃 土信田 文隆 町田 充 高田 哲秀 中嶋 真一 神 康之 守屋 達美 的場 清和 藤田 芳邦 矢島 義忠
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.147-150, 2000-02-28 (Released:2011-03-02)
参考文献数
10

49歳, 男. 罹病歴17年の重症の糖尿病性トリオパシーを合併した2型糖尿病. 足のしびれ感を癒す目的で両足趾および足蹠部に市販温湿布薬を貼付して車の運転を長時間行った. その後, 貼付部に水疱を形成し, 感染を併発して両足壊疽をきたした. 高血糖是正, 抗生物質投与, 免荷, デブリードマンなどの保存的治療により右足壊疽は治癒したが, 左V趾は中足骨切断術を余儀なくされた. 用いられた温湿布薬にはカプサイシンと同様の作用をもつノニル酸ワニリルアミドが比較的高濃度に含有されている. 本症例では温湿布薬が的確に使用されなかったために, ノニル酸ワニリルアミドによる接触皮膚炎が惹起され, さらに糖尿病性神経障害が存在するために皮膚刺激症状の認知が遅れ水疱形成をきたしたと考えられた, カプサイシンは糖尿病性表在性疼痛に対する治療効果が認められているが, 使用法を誤まると足皮膚潰瘍などの糖尿病性足病変の誘因になる可能性があり注意を要する.
著者
村田 茂 森 晃 和多田 雅哉 平田 孝道 筒井 千尋 近藤 朱音 高橋 玄宇
出版者
The Japan Society of Applied Electromagnetics and Mechanics
雑誌
日本AEM学会誌 (ISSN:09194452)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.260-265, 2013 (Released:2014-02-25)
参考文献数
6

Traditional ways of using plasma for medical application are blood coagulation and sterilization and etc. Recently, plasma has been used for medical treatment at Drexel University in USA. In their study, sever burn has been treated by using plasma irradiation. If plasma medicine is established, it is possible to start new regenerative medicine. They study therapies by using plasma irradiation, but the examination of safety for living body is not enough. Therefore, in this study, I investigate the effect of plasma irradiation treatment for the living body. The first step of my study, I report the changing of the Cardiovascular System by plasma inhalation.
著者
永田 昌子 堤 明純 中野 和歌子 中村 純 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.29-29, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1

職域における広汎性発達障害者の頻度と対応:産業医経験を有する精神科医を対象とした調査:永田昌子ほか.産業医科大学産業医実務研修センター―目的:近年,産業保健スタッフが対応するメンタルヘルス不調者の中に広汎性発達障害を抱える,もしくは疑い例に遭遇する事例が報告されている.本研究は,産業医経験を有する精神科医を対象に,職域で広汎性発達障害の事例対応に遭遇する頻度や広汎性発達障害を抱えるメンタルヘルス不調者に対して行われている就業上の配慮について,職域での実態調査を行った.対象と方法:産業医科大学精神医学教室員および同門医師122名に対して,記名式の郵送法調査を実施した.回答者の産業医経験,臨床経験,臨床場面での広汎性発達障害の経験,産業医活動のなかで広汎性発達障害の診断を受けているメンタルヘルス不調者の事例対応をした経験の有無,また,事例対応開始時に主治医より受けている診断名は広汎性発達障害ではないが,回答者自身が広汎性発達障害を疑った事例の経験の有無,事例対応の経験があるものには,職場で行った具体的な配慮,困難だった事例,成功した事例等について自由記述形式で回答を求めた.結果:56名から回答が得られた.そのうちメンタルヘルス不調者の職域での事例対応経験のある医師35名の回答を分析した.広汎性発達障害の「診断」を受けているメンタルヘルス不調者の経験を有するものは7人(20.0%),広汎性発達障害の「診断」を受けてないものの,回答者自身が広汎性発達障害を疑ったメンタルヘルス不調者の経験を有するものは15人(42.9%),両方の経験を有するものが3人(8.6%)であり,どちらかの経験も有するものが19人(54.6%)であった.今回報告された40例のうち,事例対応開始時に診断名がついていたものが12例,回答者が疑った事例が28例,そのうち調査票回答時までに診断に至っていたものが7例であった.広汎性発達障害の「診断」を受けてないものの,回答者自身が広汎性発達障害を疑った理由として多かったのは,職場での対人関係のトラブルを起こすというエピソードであった.「診断」を受けている事例は,産業医が疑った事例より具体的な配慮が行われていた.また,就業上の配慮として上司に対しての障害特性についての説明や業務内容の変更などが実施されていた.地域の社会資源の活用状況として,広汎性発達障害の診断を受けている,または疑った事例対応経験のある回答者19人のうち,発達障害支援センターや地域障害者職業センターの利用した経験を有する回答者は2人(10.5%)であった.考察:調査対象となった産業医経験のある精神科医の半数に広汎性発達障害の診断がついた,もしくは疑った事例の対応の経験があり,職域で広汎性発達障害を持つ労働者の事例対応をすることは稀ではないことが示唆された.産業保健スタッフは,広汎性発達障害の知識,職場での適切な配慮の仕方,利用できる社会資源についての理解を深める必要があると考えられた.
著者
森 晃 水谷 正一 後藤 章
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.121-130, 2014-04-25 (Released:2015-04-25)
参考文献数
41

近年,ナマズは一時的水域における産卵場所の減少と産卵場所への移動阻害により生息数は減少している.本研究では,栃木県宇都宮市における圃場整備後の小排水路を対象に,ナマズの産卵から稚魚までの成育過程を調査し,繁殖および成育場所として成立する要因を考察した.小排水路はコンクリートフリューム構造で,水路内には複数の落差工が存在する.しかし,水路底には泥が堆積し,水位差は降雨によって一時的に解消することから,水路はナマズの繁殖場所として機能していたことを確認した.幼魚は1ヶ月間で全長は約2.6倍となり,その後接続河川へ降下した.水路は成育場としても機能し,このことは幼魚の餌生物が豊富であることや泥底が存在に関連するものと考えられた.
著者
貝森 晃司 中川 匡弘
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NLP, 非線形問題 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.458, pp.125-129, 2010-03-02

生体信号のフラクタル性に関する研究は,医療や通信など様々な分野で進められている.脳波や音声信号においては,フラクタル性を用いた手法が,従来の手法よりも深い情報を得られる可能性が示唆されている[1-2]. これより,本研究では,感情が含まれる音声のマルチフラクタル解析を行う.これにより,感情によって音声のフラクタル性に違いが見られるかという比較を行った.解析の結果,通常/怒り/悲しみ/楽しみのそれぞれの感情によって,音声のマルチフラクタル性が異なる様子が確認された.
著者
森 晃徳 佐分利 柾寿 斎藤 泰一 山本 和彦
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会誌 (ISSN:03866831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.1583-1588, 1991
被引用文献数
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約5〜60秒以下の短期記憶の容量は, 感覚や対象の種類によらずほぼ一定7±2で, 魔法の数7±2と呼ばれている.ここでは, 10〜60分以上の長期記憶の一種である近時記憶においても, 魔法の7±2を限界とする現象が存在することを未知の経路の認知地図に関して明らかにした.まず, 分岐点数が7,8,9,12,13,14の6個の経路の位相構造(分岐点群とその出現順序)の把握の実験を行い, その限界が分岐点数約8であることを示した.続いて, 1つの経路をいくつかの区間に分割してランダムに提示し, それを正しい順序に並べ換えるという1次元ジグソパズル的実験を行った.そして, 並べ換え可能な限界が, 分割数7と10の間にあることを明らかにした.また, 経路の位相構造を把握できなくなると, 作図された地図の形にどんな変化が生じるかを単調順行率なる量を導入して調べたところ, 地図の形に一定の偏りが現れることを明らかにした.前者の結果は, 魔法の数7±2が, 脳における情報表現の基本構造を反映している可能性を示唆し, 後者は, 定型の振舞いをするデフォルトシステムの存在の可能性を示唆していると考えられる.