著者
梅津 千佳 富田 望 南出 歩美 武井 友紀 朴木 優斗 熊野 宏昭
出版者
日本スポーツ心理学会
雑誌
スポーツ心理学研究 (ISSN:03887014)
巻号頁・発行日
pp.2022-2102, (Released:2022-04-22)
参考文献数
24

In this study, we analyzed the process of maintaining and changing thoughts and behaviors between the experience of failure in a specific game and the next game based on the technique of TEM, and we named and discussed the contents of the synthesized TEM diagram from the perspective of metacognitive therapy (MCT). We interviewed nine sports competitors in their student age who had experienced failures in team competitions in the past and had dragged them out until the next game and summarized their experiences in a Trajectory Equifinality Model (TEM) diagram. The results of the analysis showed that the state of Cognitive Attentional Syndrome (CAS) which is regarded as a main problem in MCT, decreases performance. In addition, functional coping behaviors were shown to improve performance, resulting in the acquisition of Detached Mindfulness (DM) states. The results suggest that it is useful to examine the psychological factors that contribute to performance decline and improvement from the perspective of MCT, and to support performance improvement through MCT. In the future, it will be necessary to explore unhelpful coping behaviors in sports situations using behavioral assessment tests for anxiety that deal with unhelpful coping behaviors, and to examine how these behaviors affect performance through psychoeducation and interventions based on DM techniques.
著者
川井 智理 嶋 大樹 柳原 茉美佳 齋藤 順一 岩田 彩香 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.399-411, 2016-09-30 (Released:2019-04-27)
参考文献数
25

本研究は、Acceptance and Commitment Therapy(ACT)が注目する脱フュージョンという行動的プロセスを測定する尺度の作成、その信頼性と妥当性の検討、脱フュージョンに含まれるさまざまな行動の機能の重なりや相違点に基づいた妥当性の高い行動クラスを見いだすことを目的とした。40項目からなる尺度の原案を作成し、首都圏の学生を対象に横断調査を行った。探索的因子分析の結果、本尺度は【自分の自覚】・【選択と行動】・【現在との接触】の3因子18項目から構成されることが示され、脱フュージョンは三つの“機能”を含む可能性が明らかになった。また、それぞれを下位尺度とした場合、十分な内的整合性、収束的妥当性が確認された。今後は、本尺度を用いてACTが介入対象とするほかの行動的プロセスや臨床症状との関連性を検討し、精神的苦痛を緩和する脱フュージョンについての理解をより深めていく必要がある。
著者
富田 望 熊野 宏昭
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.19-28, 2022-11-30 (Released:2022-12-26)
参考文献数
37

社交不安においては,自己注目と他者注目が症状の維持要因とされているが,社会的場面において2つの注意の偏りがどのような関係にあるのかを示した実証的研究は少ない。本稿では,自己注目や他者注目を視線や脳活動によって可視化することで,両者を比較可能な形で捉えることを目的とした,Tomita et al.(2020)とTomita & Kumano(2021;第2回日本不安症学会学術賞受賞論文)の2つの研究を紹介した。研究の結果,右前頭極と左上側頭回の過活動は対人場面で生じる自己注目や他者注目それぞれの客観的指標となることが示唆された。対人場面でこれらの脳活動をリアルタイムに測定することで,社交不安者の自己注目と他者注目の程度を,本人が自覚していない場合でも予測できることが期待される。また,自己注目と他者注目は独立した構成概念であることが脳の観点から示唆された。
著者
嶋 大樹 川井 智理 柳原 茉美佳 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.73-83, 2016-01-31 (Released:2019-04-27)
被引用文献数
1

本研究は、思考内容と現実を混同する「認知的フュージョン」を測定する質問紙である、改訂CFQ13項目版および7項目版の信頼性と妥当性の検討を目的とした。大学生対象の調査の結果、13項目版は改定前同様に2因子構造を示し、7項目版は原版同様に1因子構造を示した。項目分析の結果、各下位尺度は個別に扱うことが適切であると判断された。これまでは第1下位尺度が認知的フュージョン、第2下位尺度が認知的フュージョンから抜け出す「脱フュージョン」に相当するとされてきたが、本研究の結果、第2下位尺度は脱フュージョンの機能の一部に相当する可能性が示唆されたため、第1下位尺度および7項目版を「認知的フュージョン」、第2下位尺度を脱フュージョンの機能の一部としての「自己と思考の弁別」とみなすことが適切である。そして今後は、外顕的な行動指標との関連も検討することで、別の側面から妥当性の有無を確認する方法も必要であると考えられる。
著者
杉山 風輝子 岩田 彩香 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.367-377, 2016-09-30 (Released:2019-04-27)
参考文献数
11
被引用文献数
4

疼痛性障害を呈する患者に対し、マインドフルネスに力点を置いたAcceptance & Commitment Therapy(ACT)を導入したことにより、生活上の問題が大きく改善した事例を報告する。来院当初は、痛みを含む身体症状に対し、医療機関を頻回に受診するなどの援助希求を伴う回避行動をとっており、行動範囲の縮小、心配や反芻を繰り返すことによる抑うつ症状を呈していた。そこで、過去の失敗経験や未来の心配と距離をおく脱フュージョンや、自らの体験を回避せずに観察するアクセプタンスを導入したうえで、今を偏りなく観察するマインドフルネスの促進に力点を置いた。その結果、回避行動の随伴性をモニタリングし、習慣的行動をいったん停止するプロセスとしての自己および文脈としての自己の高まりや、身体症状をアクセプトしながら実生活の中で正の強化が得られやすい行動の拡大が認められ、特性不安や抑うつ感情も大幅に改善した。
著者
高橋 史 大塚 明子 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.23-33, 2012-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
3

本研究は、嚥下失敗を含む身体的症状および窒息恐怖を示す40代男性に対して、内潜的な認知的反応と嚥下の反応連鎖に関する行動分析に基づいて介入を行うことで改善をみた症例の報告である。行動分析の結果、本症例では、口腔内の食塊と窒息に関する認知的反応が同時に提示されることで嚥下失敗が生じ、嚥下失敗が回避行動を強化する結果事象となっている可能性が考えられた。そこで、嚥下中の認知的反応の妨害と、嚥下に伴う身体感覚の単独提示を行った。具体的な治療手続きとしては、飲食物を口に含んでから飲み込みがすむまでの身体感覚を言語的に記述し続けることで、「死ぬかもしれない」といった認知的反応の抑止を行った。介入の結果、症状の軽減が認められ、介入効果は1カ月後および3カ月後のフォローアップ期においても維持されていた。
著者
亀谷 知麻記 富田 望 武井 友紀 梅津 千佳 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.21-022, (Released:2023-01-12)
参考文献数
30

社交不安の特徴として、他者からの否定的評価に対する恐れ(FNE)、他者からの肯定的評価に対する恐れ(FPE)、それらと関わる注意バイアスが挙げられる。注意バイアス研究の多くはFPEやポジティブ刺激を含めていないため、本研究ではFNEとFPEによって表情刺激への注意バイアスがどう異なるかを明らかにすることを目的とした。大学生と大学院生55名を対象に質問紙への回答と、否定顔、中性顔、肯定顔の表情画像を用い、否定顔への注意バイアス得点と肯定顔への注意バイアス得点を算出するドット・プローブ課題を実施した。その結果、FNEが高くなるほど否定顔に対する注意バイアスと有意に関連することが示された一方、LSASとより強い関連を示したFPEは注意バイアスと関係しないことが示された。今後はFPEの影響をさらに検討するために、実際の評価場面を使った研究の実施が望まれる。
著者
大塚 明子 形岡 美穂子 村中 泰子 川村 有美子 鈴木 伸一 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.15-24, 2002-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究では,内科・心療内科標榜の施設Aと、神経科・心療内科標榜の施設Bで、過去5年半に認知行動療法(CBT)に基づくカウンセリングに導入された121例のデータに基づき、心療内科および神経科プライマリーケアでのCBTの適用の実際を報告した。診断では、不安障害と適応障害が両施設とも多い一方で、一般身体疾患に影響を与えている心理的要因と身体表現性障害は施設Aで、摂食障害は施設Bで多いという特徴がみられた。治療法では、両施設で共通して気分障害には段階的タスク割り当て・認知行動論的カウンセリング、不安障害にはエクスポージャー・自律訓練法、身体表現性障害・睡眠障害・一般身体疾患に影響を与えている心理的要因には自律訓練法、適応障害には認知行動論的カウンセリングが多く適用されていた。そして一般身体疾患に影響を与えている心理的要因、適応障害、不安障害は症状が改善して終結となる割合が高かったことから、CBTは心療内科および神経科プライマリーケアでも十分に活用可能であると考えられた。
著者
大塚 明子 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.83-96, 2001-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、幼少時、吹雪の中で突風の向かい風のために息ができなくなるという外湯的体験に関連した予期不安からパニック発作を繰り返す「パニック障害の既往歴のない広場恐怖」に対して、薬物療法と認知行動療法の併用で軽快した症例を報告し、認知行動療法の介入効果について検討した。具体的に用いられた技法は、心理教育、腹式呼吸、自律訓練法、系統的脱感作法、エクスポージャー、認知再構成法であった。本症例の治療経過からは、(1)心理教育やリラクセーション法によって、緊張・過敏さの低減、対処法の獲得、さらなる治療への動機づけがなされた後、(2)系統的脱感作法、エクスポージャーによって外傷的体験に関わる記憶が正常化され、(3)さらに認知再構成法により予期不安が改善されたことによって、広場恐怖全般の軽快に至ったものと考えられた。以上より、本症例のように広場恐怖の維持要因の中核である予期不安の背景に幼児期の外傷的体験が存在する場合には、その影響を緩和するための介入が必要であることが示唆された。
著者
中尾 睦宏 熊野 宏昭 久保木 富房 Arthur J Barsky
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.539-547, 2001-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
14
被引用文献数
6

身体感覚の増幅に関連する心理特性を明らかにするため, 日本語版の身体感覚増幅尺度(Somatosensory Amplification Scale ; SSAS)を作成した.大学病院の外来患者81人(心療内科48人, 内科33人)を対象に10項目からなるSSASを施行し, 身体症状数, 心理社会的ストレス度, 気分状態の心理身体指標を併せて質問紙で評価した.SSASは各項目間の相関がよく(Cronbachのα係数0.79), 他の心理身体指標と有意な関連があった(p<0.05).心身症患者群の方が内科患者群よりSSAS得点が高く(p<0.005), 多重logistic回帰分析で年齢, 性別, 心理身体指標の影響を統制しても両群は有意に識別された(p<0.05).心身症の訴えや機能障害を簡便に評価する指標としてSSASの臨床的有用性が示唆された.
著者
辻内 優子 熊野 宏昭 吉内 一浩 辻内 琢也 中尾 睦広 久保木 富房 岡野 禎冶
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.205-216, 2002-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
28

化学物質過敏症(MCS)とは, Cullenによって提唱され, 化学物質の少量持続暴露か大量暴露を受けた後に, 多臓器にわたって臨床症状が発現する機序不明の病態とされている.本研究ではこのMCS概念に基づき, 心身医学的観点から比較検討(患者18名, 健常者35名)を行った.その結果, 発症および経過には心理社会的ストレスの関与が認められ, 過去1カ月間の飲酒・喫煙歴が少ないという生活習慣の特徴が認められた.発症後の状態として, 患者群は多くの身体症状と精神症状を自覚しており, 精神疾患の合併が83%で, 身体表現性障害・気分障害・不安障害が多く認められた.
著者
貝谷 久宣 金井 嘉宏 熊野 宏昭 坂野 雄二 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.279-287, 2004-04-01
被引用文献数
1

本研究の目的は,社会不安障害を簡便にスクリーニングできる尺度を開発することである.社会不安障害患者97名,パニック障害患者37名,健常者542名を対象に自記式の調査を行った.探索的因子分析の結果,本尺度は「人前でのパフォーマンス不安と他者評価懸念」,「身体症状」,「対人交流に対する不安」の3因子28項目と日常生活支障度に関する項目で構成された.各因子および全項目の内的整合性は高かった.また「人前でのパフォーマンス不安と他者評価懸念」得点,「身体症状」得点,合計得点は,社会不安障害群と他の2群を弁別可能であった.したがって,本尺度は高い信頼性と妥当性を有することが明らかにされた.
著者
Al-Adawi Samir 鄭 志誠 辻内 琢也 葉山 玲子 吉内 一浩 熊野 宏昭 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.933-941, 2005-12-01

国際的にみて, 精神的外傷を引き起こすような死別に対し, 十分に対処がとられている社会は少ない.これにもかかわらず, 死別に対する反応を社会的特性という観点でとらえる人類学的研究はごくわずかであり, 死への悲嘆反応は, 心身医学的問題としてとらえられている傾向がある.本稿では, オマーンの伝統的な社会に存続する不慮の死における死者の生き返り(zombification), そして呪術や魔法に関する信仰(信念)を紹介する.これらの反応は社会的に容認されており, 死者の死の否定を基礎としている.さらに考察では, これらを説明モデルという概念を用いて分析し, 世界各地で観察される類似する悲嘆反応を欧米のタナトロジー(死亡学)研究におけるそれと比較し, 新たな視点で論じる.