著者
古口 高志 山内 祐一 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.467-474, 2002-07-01

心療内科不登校入院治療例67例をDSM-III-R,IVに準じた形式で多軸評定した.各軸ごとに診断名を1〜8カテゴリーに分類した後,結果を集計,さらにその結果を基に性差と年齢差を検討した.この結果,1軸は摂食障害,不安障害,気分障害,2軸は未熟性,4軸は家庭内問題ストレス,いじめストレスがそれぞれ多症例に確認された.また,3軸になんらかの診断がなされた者は26例(39%)であった.年齢差,性差については, 1 軸診断数(カテゴリー該当数) : 中学生・高校生<大学生, 2 軸になんらかの診断を有する率 : 男<女であった.以上,不登校症例の病態特徴は多様であり,多側面からのアセスメントと対応が必要であると考えられた.
著者
熊野 宏昭 織井 優貴子 鈴鴨 よしみ 山内 祐一 宗像 正徳 吉永 馨 瀬戸 正弘 坂野 雄二 上里 一郎 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.335-341, 1999-06-01
被引用文献数
2 2

がんに罹患しやすいパーソナリティ傾向を測定するShort Interpersonal Reactions Inventory(SIRI)の日本語短縮版を作成した.SIRIと平行検査を含む質問紙調査を, 病院職員485名を対象にして行った.因子分析により, 原版に含まれる4因子20項目からなる日本語短縮版SIRIが作成された.因子分析の結果と平行検査との相関分析の結果より, 従来からがんの発症と関連があるとされてきた合理性・反情緒性と社会的同調性のうち, より関わりが大きいとされる後者を, 日本語短縮版SIRIは測定できることが明らかになった。さらに, 4下位尺度の標準得点を算出することにより, 4つのパーソナリティタイプが識別できる可能性が示唆された.
著者
嶋 大樹 川井 智理 柳原 茉美佳 大内 佑子 齋藤 順一 岩田 彩香 本田 暉 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1-13, 2017-01-31 (Released:2017-10-11)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究では、第三世代の認知・行動療法で重視される行動的プロセスである“アクセプタンス”を測定するAcceptance Process Questionnaire(APQ)を作成し、その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。学生を対象に調査を実施し、因子分析を実行した結果、APQはアクセプタンスの中長期的結果を測定する【行動レパートリーの拡大】と【現実の感受】、行動内容を測定する【私的出来事から回避しない選択】と【リアクションの停止】の4因子パタンをもつ、13項目で構成された。APQは、十分な構造的妥当性、内的整合性を有し、全体でアクセプタンスを測定すると判断されたが、収束的妥当性、再検査信頼性に課題を残した。今後、再検査信頼性についてはサンプルサイズを増やして検討を進めるともに、日常生活下での行動傾向とAPQの尺度得点の関係性を検討し、その有効性を確認する必要がある。
著者
熊野 宏昭
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.53-58, 2022 (Released:2022-10-25)
参考文献数
4

本論文では,どのようにしてマインドフルネスを実現し心を整えていくかを,心を閉じない,呑み込まれない,プロセスとしての自己と「今の瞬間」への気づき,文脈としての自己と「体験の場」への気づきという観点から説明しながら,集中瞑想から観察瞑想に至る方法論上の要点と並行して解説していく.そして,マインドフルネスの実践によって脳がどう変化するかについて,マインドワンダリングの脳波モデルを用いた研究を紹介しながら,臨床的な効果と関連づけて説明してみたい.
著者
南出 歩美 富田 望 亀谷 知麻記 武井 友紀 梅津 千佳 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.47-60, 2022-01-31 (Released:2022-04-01)
参考文献数
35

社交不安症の維持要因として、自己関連刺激への注意バイアスが指摘されている。メタ認知療法によると、注意の向け方に関するメタ認知的信念が注意バイアスや社交不安症状に関与している。本研究では、社交不安症状と表情への注意バイアス、注意の向け方に関するメタ認知的信念の関連性を検討した。大学生55名を対象に、社交不安症状および肯定的/否定的なメタ認知的信念を測定する質問紙尺度と、注意バイアスを測定するドット・プローブ課題を実施した。その結果、社交不安高群において怒り顔および笑顔への注意バイアスが認められた。また、怒り顔への注意バイアスと社交不安症状の関連性は、否定的信念により完全媒介されることが示された。注意バイアスに焦点を当てた介入を行う際は、その過程で否定的信念に働きかける必要があると考えられた。
著者
齊藤 早苗 嶋 大樹 富田 望 対馬 ルリ子 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.339-348, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
23

過敏性腸症候群 (IBS) では, 腹部症状に関連する思考, 感情, 身体感覚などを回避する患者が多いことから, アクセプタンス & コミットメント・セラピー (ACT) の有用性が示唆されている. そこで, ACTの治療標的である体験の回避が, 消化器症状に関連した不安や腹痛頻度および腹満感頻度に及ぼす影響について検討する. 方法 : 便秘を自覚する女性244名 (IBSのRome Ⅲ診断基準を満たした128名を含む) に対して, 腹痛頻度および腹満感頻度, 体験の回避 (AAQ-Ⅱ), 消化器症状に関連した不安 (VSI-J), 抑うつ気分・不安気分 (DAMS) に関する質問紙調査を実施した. 結果 : 構造方程式モデリングの結果, 体験の回避が消化器症状に関連した不安に対して正の影響 (0.30) を示した. さらに, 消化器症状に関連した不安と腹痛頻度および腹満感頻度には有意な正のパス係数 (0.55) が示された (Χ2=1.13, df=2, p=0.57, GFI=0.998, AGFI=0.988, RMSEA=0.000). 結論 : 体験の回避は消化器症状に関連した不安を介して, 腹痛頻度および腹満感頻度に影響を及ぼすことが示された.
著者
川島 一朔 灰谷 知純 杉山 風輝子 臼井 香 井上 ウィマラ 熊野 宏昭
出版者
日本マインドフルネス学会
雑誌
マインドフルネス研究 (ISSN:24360651)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.3-7, 2016 (Released:2022-02-22)
参考文献数
6

瞑想中に行われる注意制御と注意訓練(Attention training technique: ATT)実施中に行われる注意制御は類似していると推測されるが,これらが同質であるかは不明である。そこで,瞑想経験者がATT を実施している際の脳活動を明らかにし,先行研究との比較を試みた。瞑想の経験があり右利きである男女8 名に対し,開眼安静時およびATT 実施時の脳波が測定された。そして,sLORETA ソフトウェアで脳波の発生源を推定し,安静時とATT 実施時の間で比較がなされた。結果,安静時と比較し,注意転換時及び注意分割時に右背外側前頭前野におけるガンマ波の有意な増加が見られた。先行研究から,この結果は,瞑想時に見られる脳活動の一部と一致しており,特定の対象に対する注意維持を反映していると考えられる。今後も参加者数を増やし検討を続けるとともに,引き続き瞑想中の脳活動との比較を進める必要がある。
著者
永井 宗徳 灰谷 知純 川島 一朔 熊野 宏昭 越川 房子
出版者
日本マインドフルネス学会
雑誌
マインドフルネス研究 (ISSN:24360651)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.8-13, 2016 (Released:2022-02-22)
参考文献数
18

マインドフルネスとは,「今ここでの経験に,評価や判断を加えることなく意図的に,能動的な注意を向けること」であり,その訓練は,近年,うつや不安の治療に使用されている。訓練の途上では,能動的に注意を制御する練習が行われ「注意機能」が向上するとされ,また,嫌悪的な自身の感情や身体感覚などを回避しようとする「体験の回避」が低減するとされている。本研究ではマインドフルネス呼吸法を使用し,日常的に行える,短時間かつ短期間の簡易な実習でも,注意機能を向上させ,体験の回避を低減させるのかについて検討した。注意機能の計測にはAttention Network Test を用いた。その結果,訓練により体験の回避が低減されることが有意傾向で示された。この結果は,自己の体験をありのままに受け入れることが促進されたことによると考えられる。しかしながら,注意機能に変化は認められなかった。注意機能を向上させるには本実験のような教示・訓練条件では不十分であったと考えられる。
著者
柳原 茉美佳 嶋 大樹 齋藤 順一 川井 智理 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.225-238, 2015-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、ACTが注目する三つの自己の体験を測定する尺度を作成し、探索的因子分析と共分散構造分析を行うことで、その尺度の信頼性と妥当性を検討すること、そして、三つの自己に含まれるさまざまな行動の機能の重なりや相違点に基づいてより妥当性の高い行動クラスを見いだすことであった。33項目からなる尺度の原案を作成し、首都圏の大学生を対象に調査を行った。探索的因子分析の結果、本尺度は【アクティブ】・【概念化】・【視点取り】・【今この瞬間】の4因子20項目から構成されることが示され、さらに共分散構造分析の結果も踏まえて、三つの自己の体験は二つの行動クラスを含むことが明らかになった。また、それぞれを下位尺度とした場合、十分な内的整合性と収束的妥当性が確認された。今後は、本尺度を用いてACTが介入対象とするほかの行動的プロセスや臨床症状との関連性を検討し、精神的苦痛を促進・緩和する自己の体験についての理解をより深めていく必要がある。
著者
蓑輪 顕量 林 隆嗣 今水 寛 越川 房子 佐久間 秀範 熊野 宏昭
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2018-06-29

仏教分野は文献を中心に、止観の実践と理論とがどのように形成されたか、実践に伴う負の反応にどう対処したのかを明らかにし、また心理学、脳科学(認知行動科学)との接点を探る。脳科学分野では瞑想時の脳活動を熟練者、中級者を対象に計測し、瞑想時の脳活動を計測し、予想される負の側面について、注意機能に与える影響を検証する。心理学分野ではマインドフルネス瞑想のグループ療法の参加者を対象にランダム化比較試験を実施し、媒介変数の絞り込み、意図通りに進まない場合の対処法、有害事象の有無について検討する。さらに初学者に止と観の瞑想の順番を変えて実習させた場合に生じる問題点、およびその対処方法について検討する。
著者
辻内 琢也 鈴木 勝己 辻内 優子 鄭 志誠 熊野 宏昭 久保木 富房
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.799-808, 2006-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2

「医療人類学」は社会・文化人類学の一分野として,健康や病いと社会・文化システムとの関係を探求してきた.本稿では,はじめに病いの経験の社会的・文化的な相互作用を明らかにするうえでとても有用な,(1)多元的ヘルスケアシステム,(2)説明モデル・アプローチ,(3)病いの語りと臨床民族誌,という三つのキーコンセプトについて解説する.次に,われわれがこれまでに取り組んできた,医療人類学的アプローチを応用した質的研究3点を具体的に提示し,物語りに基づく医療(ナラティプ・ベイスト・メディスン; NBM)の理論的骨格の一つとも言える,「医療人類学」の目指す学問的姿勢を明らかにする.