著者
林 三千雄 中井 依砂子 藤原 広子 幸福 知己 北尾 善信 時松 一成 荒川 創一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.317-324, 2015 (Released:2015-12-05)
参考文献数
13
被引用文献数
3 7

2007年1月から2012年12月までに当院血液内科病棟の入院患者より分離されたmetallo–β-lactamase (MBL)産生緑膿菌24株について細菌学的,遺伝子学的解析を施行すると共に,その患者背景を調査した.POT法を用いた遺伝子タイピングでは24株すべてが同一株と判定された.患者リスク因子では抗緑膿菌活性のある抗菌薬使用が21例,末梢静脈カテーテル留置が20例,過去一年以内のクリーンルーム入室歴が18例であった.器具の洗浄消毒方法の見直し,手指衛生や抗菌薬適正使用の徹底などを実施したが血液内科病棟における新規発生は減少しなかった.環境培養の結果などから伝播ルートとして温水洗浄便座を疑い,同便座ノズルの培養を行ったところMBL産生緑膿菌保菌者が使用した便座ノズルの27.2%から同菌が検出された.2013年1月,温水洗浄便座の使用を停止したところ新規のMBL産生緑膿菌検出数は減少した.その後,同便座の使用を再開したところ再び増加したため,2014年1月以降使用を停止した.血液内科病棟への入院1000 patints-daysあたりの新規MBL産生緑膿菌検出数をMBL産生緑膿菌感染率とすると,温水洗浄便座使用時は0.535,中止中は0.120であった(p=0.0038).血液内科病棟における温水洗浄便座の使用はMBL産生緑膿菌院内伝播の一因となり得ると考えられた.
著者
藤原 広行
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.67-71, 2014-03-25 (Released:2014-05-20)
参考文献数
20

There is a similarity between the distribution of prime numbers and the pattern of earthquake occurrence. Earthquakes occur in a discrete manner in time and space. When viewed as a whole, however, we find some laws, such as Gutenberg-Richter law, that govern the entire earthquakes that seem to be individually independent. A similar phenomenon can be observed also in the world of number. The most basic example is the distribution of the prime numbers in integers. We consider a correspondence between earthquakes and prime numbers. We parameterize occurrence time of earthquakes as the prime numbers and magnitude of earthquakes as the interval of prime numbers. Then we obtain a relationship similar to Gutenberg-Richter law. We call the model obtained by this correspondence as “arithmetic seismic activity model”. If we can parameterize earthquakes using prime numbers, knowledge that has been cultivated in the number theory can be used for understanding of earthquakes. The distribution of prime numbers is related to the distribution of zeros of Riemann zeta function. Researches are in progress to understand the zeros of the Riemann zeta function as an eigenvalue problem of quantum dynamical system. Earthquake may be modeled as a phenomenon corresponding to a change in the energy level of a quantum dynamical system associated with prime numbers.
著者
先名 重樹 長谷川 信介 前田 宜浩 藤原 広行
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.5_143-5_162, 2012 (Released:2012-11-07)
参考文献数
15
被引用文献数
2 7 1

東北地方太平洋沖地震では、東京湾岸だけでなく、利根川流域においても多数の液状化現象が発生し、場所によっては、ライフラインの寸断、住宅基礎の破壊や不同沈下など、甚大な被害が発生した。本報告では、利根川流域における液状化被害の全体像をとらえることを目的として、茨城県・千葉県内の主に利根川流域における計29市町について現地調査を実施した。調査内容は、各市町の情報を収集したのち、現地においての写真撮影、住民へのヒアリング等を実施した。利根川流域における液状化の特徴として、激しい液状化が見られたのは、ほとんどが海や池、河川を埋め立てた人工地盤であった。しかしながら、ごく一部では、自然地盤でも液状化現象が見られた。また、本報告では、参考までに、関東地方全体の液状化地点情報と微地形区分毎の液状化発生頻度および確率についても計算し、結果の検討を行った。今回の地震における液状化は、過去の液状化被害のあった地震と比べて、微地形区分に基づく液状化発生確率が、非常に大きくなることが分かった。
著者
石川 裕 奥村 俊彦 藤川 智 宮腰 淳一 藤原 広行 森川 信之 能島 暢呂
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.4_68-4_87, 2011 (Released:2012-01-31)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

本論文では、時間軸の起点を1890 年から30 年ごとに変化させた確率論的地震動予測地図を作成し、同じ期間に実際に発生した地震によるハザードマップと対照させることで確率論的地震動予測地図の確からしさの検証を試みた。その結果、全国の地震ハザードの総量として確率論的地震動予測地図はおおむね実績と調和的であると評価された。また、最大影響カテゴリーがIとIIの地域では、事前の超過確率が高い地点ほど震度6 弱以上を経験した割合が多く、確率論手法の有用性を支持する結果を得た。一方、最大影響カテゴリーがIIIの地域はそもそも事前の超過確率が低い地点が多く、震度6 弱以上を受ける具体的な地域を事前の超過確率の高低から予測することは難しいことが明らかとなった。これらより、地域の地震環境に応じてリスクマネジメントの考え方を使い分ける必要性を指摘した。
著者
藤原 広臨 上床 輝久 内藤 知佐子 小西 靖彦 上本 伸二 村井 俊哉 伊藤 和史
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.46-51, 2017-03-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
15

近年,特に若年者においてうつ病が多様化し,医学教育の現場でも対応困難な場面を体験することは多い.本稿では,「ゆとり世代」の特徴も踏まえたうえで若者のうつ病について概説し,医学生・研修医のメンタル面での初期対応に資する情報を提供する.
著者
井元 政二郎 森川 信之 藤原 広行
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.15, no.7, pp.7_173-7_179, 2015 (Released:2015-12-25)
参考文献数
9
被引用文献数
1

地震調査委員会による相模トラフ沿いの地震活動の長期評価において、地形・地質データに基づいたM8クラス地震発生確率がBPT分布を用いて推定されている。本稿では、歴史地震と地形・地質データとを統合処理する方法を提案し、大正関東地震(1923)、元禄関東地震(1703)、明応関東地震(1495) 、永仁関東地震(1293)を含めた場合について確率値を試算した。明応地震を含めない場合、30年確率は長期評価された値と大きく変わらないが、明応地震を含めた場合、有意に大きな値となる。BPT分布と指数分布との尤度比について検討を加えた結果、明応関東地震を含む場合では指数分布の適合度がBPT分布より高いことが判明した。明応関東地震の認識論的不確実性は、確率値の評価に大きな影響を及ぼすと考えられる。
著者
岩城 麻子 前田 宜浩 森川 信之 武村 俊介 藤原 広行
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

地震ハザード評価において、長周期(ここでは周期およそ1秒以上を指す)の理論的手法による地震動計算では一般的には均質な層構造からなる速度構造モデルが用いられることが多いが、現実の地下構造には様々なスケールの不均質性が存在する。長周期地震動ハザード評価の対象周期を周期1~2秒まで確保するためには、特に数秒以下の周期帯域で媒質の不均質性の影響を評価することは重要である。本研究では、首都圏の詳細な地盤モデルを用いて、深部地盤以深の媒質のランダム不均質性がVS=350m/s程度の解放工学的基盤上での長周期地震動へ及ぼす影響とその周期帯域を評価する。首都圏の浅部・深部統合地盤モデルの深部地盤構造部分(地震本部, 2017)(最小VS=350m/s)のうち、上部地殻に相当する層(VS=3200, 3400 m/s)の媒質物性値に、指数関数型の自己相関関数で特徴づけられるランダム不均質を導入した。相関距離aは水平、鉛直方向で等しいと仮定し、1 km, 3 km, 5 km の3通りのモデルを作成した。標準偏差εは本検討では5%に固定し、物性値に不均質性を与える際、平均値±3ε を上限・下限値とした。地震波散乱の影響は不均質の相関距離と同程度の波長に対応する周期よりも短周期の地震動に表れると考えられる(例えば佐藤・翠川, 2016)。波長1、3、5 km に対応する周期はそれぞれおよそ0.3、0.9、1.5秒であり、周期1秒以上の長周期地震動の計算結果に対する系統的な影響は大きくはないことが予想されるが、不均質性の導入による地震動のばらつきを見積もることも必要である。異なる震源位置やパルス幅(smoothed ramp関数で3.3秒および0.5秒幅)を持つ複数の点震源モデルを用いて、3次元差分法(GMS; 青井・他, 2004)で周期1秒以上を対象とした地震動計算を行った。パルス幅が3.3秒の場合、震源から放出される波の波長はおよそ10 kmとなり、不均質媒質の特徴的な長さaよりも長い。パルス幅が0.5秒の場合、波長はおよそ1.7 kmであり、aと比べておおむね同等から短い波長となる。各震源モデルについて、不均質媒質を導入していないモデルによる計算結果に対する不均質媒質を導入したモデルによる計算結果の比(不均質/均質比)をPGVや5%減衰速度応答スペクトルについて調べた。不均質/均質比の空間分布は地震動の強さそのものには寄らずランダム不均質媒質に依存することが分かった。不均質/均質比は計算領域全体の平均としてはほぼ1になった。つまり、領域全体で見た場合、この条件下でこの周期帯では不均質媒質によって系統的に地震動が大きくまたは小さくなるということはほとんどなかった。一方、不均質/均質比のばらつき(標準偏差)は震源距離に応じて大きくなった。また、パルス幅の短い震源モデルの方が、パルス幅の長いモデルと比べて不均質性の影響が大きく、比のばらつきも大きかった。パルス幅の短いモデルでは震源から放出される波の波長が媒質の特徴的な波長に近く、パルス幅の長いモデルと比べて同じ伝播距離に対する波数が多いため、不均質媒質の影響がより強く出るものと考えられる。同じ震源距離で見ると比のばらつきは地震動の短周期成分ほど大きいことも分かった。今回検討した範囲では、地殻内のランダム不均質媒質が周期1秒以上の長周期地震動の計算結果におよぼす影響として、計算領域全体の平均値への系統的な影響よりもむしろ、予測問題における地震動ばらつきを生じさせる影響がより顕著に認められた。今後はパラメータ範囲を広げた検討や、より浅い地盤構造の不均質性をモデル化した検討も必要であると考えている。
著者
久木田 水生 大澤 博隆 藤原 広臨 林 秀弥 平 和博 伊藤 孝行 大谷 卓史 笹原 和俊 中村 登志哉 村上 祐子 唐沢 穣
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、第一に、インターネット上の悪質な情報の流通とそれに起因する現代の諸問題の根本的な要因・メカニズム・影響を明らかにする。第二に、そのような問題に対処するための新しい情報リテラシーの概念を探求し、その基礎になる技術哲学理論を構築する。第三にその概念と理論に則した情報リテラシー向上のための方法を探求する。このことによって本研究は情報技術と社会が互いに調和しながら発展していくことに貢献する。
著者
藤原 広行 功刀 卓 安達 繁樹 青井 真 森川 信之
出版者
JAPAN ASSOCIATION FOR EARTHQUAKE ENGINEERING
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.2-16, 2007 (Released:2010-08-12)
参考文献数
5
被引用文献数
6 8

1995年兵庫県南部地震以後, 日本における地震観測網, 特に, 強震観測網は大きく変化し, 世界でも希な高精度・高密度強震観測網が構築されることとなった.K-NETは, その代表的なものの1つである.兵庫県南部地震からほぼ10年が経過し, 地震直後に整備された観測網の機器の更新が必要となってきている.この10年間における, データ通信, 計算機関連技術の発展は目覚ましく, 様々な新しい技術が利用可能になってきた.防災科学技術研究所では, 強震記録をオフラインで利用する従来のスタイルの強震動研究だけでなく, 地震直後の即時対応にも利用可能な強震動データリアルタイムシステムの構築を目指し, 新型K-NET システムを開発し, 新型K-NET 強震計の整備を実施した.
著者
〓刀 卓 青井 真 中村 洋光 藤原 広行 森川 信之
出版者
日本地震学会
雑誌
地震. 2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.243-252, 2008-03-31
被引用文献数
5
著者
㓛刀 卓 青井 真 中村 洋光 鈴木 亘 森川 信之 藤原 広行
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.223-230, 2013-01-31 (Released:2013-07-19)
参考文献数
7
被引用文献数
14 17

We present an improved implementation of the approximating filter for real-time seismic intensity calculations proposed in previous work. As earthquake early warning (EEW) systems become ever more widely used, the current method of computing a JMA (Japan Meteorological Agency) seismic intensity shows a serious problem since it introduces a time delay resulting from frequency domain filtering. In order to improve this method to permit real-time calculations suitable for EEW systems, we have proposed a real-time seismic intensity computed using an approximating filter in the time domain. For a simple computing system such as a strong-motion seismograph, it is straightforward to calculate the real-time seismic intensity because the approximating filter consists of only four first-order filters and one second-order filter. Based on testing using K-NET and KiK-net strong-motion seismographs, we have found that a strong-motion seismograph has enough computational capacity to undertake more sophisticated filtering. Here, we develop an approximating filter consisting of six second-order filters applied in the time domain for accurate real-time seismic intensity calculation. The relationship between the JMA seismic intensity and the real-time seismic intensity calculated using the improved approximating filter is examined using a large number of strong motion records. The results show that the differences between the JMA seismic intensities and the real-time seismic intensities are less than 0.1 for 99% of all records. Although the improved filter requires twice as much computation power as the previous approximating filter, it is suitable for EEW systems that require more accurate real-time calculations of seismic intensity.
著者
森川 信之 神野 達夫 成田 章 藤原 広行 福島 美光
出版者
JAPAN ASSOCIATION FOR EARTHQUAKE ENGINEERING
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.23-41, 2006 (Released:2010-08-12)
参考文献数
36
被引用文献数
10 7

異常震域を表現するための距離減衰式に対する補正係数の改良を行った。基準の式をKanno et al.(2005) によるものに変更し、応答スペクトルにも対応するようにしている。海溝軸に替えて、火山フロントまでの距離を導入することにより、一部地域に対して過大評価となっていた問題点を解決するとともに、対象地域を関東・甲信越地方まで拡大した。さらに、基準式では考慮されていない震源特性に関する検討を行った。地震動強さに関して震源の深さ依存性は見られなかったが、プレート間地震とスラブ内地震では明瞭な違いがあることが確認された。そのため、両タイプの地震に対する補正係数も新たに求めた。
著者
先名 重樹 松山 尚典 神 薫 藤原 広行
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

1.はじめに防災科研では、南関東全域においてボーリングデータ等の地質・地盤資料に基づく初期地質モデルの構築と、そのモデルを基に地震記録と微動観測記録により、物性値(主にS波速度)を調整し、周期・増幅特性を考慮した浅部・深部統合地盤構造モデルの試作を行ってきている。これらは広域地盤モデル構築手法の標準化の取組として、地震本部にて「地下構造モデル作成のレシピ」を構築している。さらに、地盤モデル高度化の検討として、詳細な地盤モデル(詳細地盤モデル)の構築時に必要となる、活断層近傍における地震動評価やモデル作成時の地盤の不整形性の検討および強震動時の非線形特性を評価できる地盤構造モデルの構築等の構築を検討している。本検討では、南関東地域に存在する深谷断層帯・綾瀬川断層帯を例として詳細地盤モデル構築の検討結果について報告する。2.断層帯周辺の既往調査と地質構造の概要深谷断層帯・綾瀬川断層は、地震本部の長期評価見直しで関東平野北西縁断層帯から変更されている。この断層自体の活動度は低いが、連動するとM8クラスの地震が発生すると予測される。深谷断層は、明瞭な重力異常分布境界となっている。なお、深谷断層については杉山・他(2009)により、反射法地震波探査、ボーリング、トレンチ等の調査を行われており、断層の構造や活動性の検討がなされている。反射法探査や既往の反射断面の解釈により、深谷断層から北東側では、基盤岩上面が深度3km付近まで落ちていること、その上に中新世以降の地層が厚く堆積していることが確認されている。深谷断層は、南側の平井断層、櫛引断層と合わせて地質構造の形成過程が検討されている。3.調査概要上記の断層近傍の地盤構造モデルを構築するために、地震観測および微動観測を実施した。観測は断層を挟むように5測線を展開し、単点微動約200m間隔、極小アレイ1km間隔、大アレイが2km間隔で実施している。大アレイの位置には地震観測も実施した。5測線のうち1測線は、杉山他(2009)における反射法地震波探査断面の測線近傍で実施している。なお、断層の北東側は沖積低地、南東側がローム台地で構成されている。(1)地震観測断層近傍の14か所において臨時地震観測を実施した。観測した記録について、フーリエスペクトルを地点ごとにまとめたところ、地震によって異なる特性が確認できるが、地点ごとにスペクトルに一定の傾向が確認出来た。そこで、各地点とのスペクトル比を取ったところ、各地点ともスペクトル比は地震に寄らず安定しており、サイト増幅特性として利用できる。(2)常時微動観測微動観測の結果、単点のH/Vスペクトルのピーク周期は、断層の両側で異なる傾向を示す。断層の落ち側(北東側)では、上がり側(南西側)に比べて、H/Vスペクトルのピーク周期が周期の長い方へシフトする(周波数が小さくなる)傾向が確認出来た。微動探査(アレイ)地点に近い、地震動のR/Vスペクトルと比較したところ、低周波数域のスペクトル特性も調和的であることを確認している。微動アレイ解析で得られたS波速度構造とJ-SHISの深部地盤モデルのS波速度構造を比較すると、地震基盤相当のVs=3.2km層の上面は、今回の結果の方が全体的に約500m程度深くなっている。一方で、Vs=1.5Km層の上面は、断層落ち側で300~500m程度浅くなっている。また、Vs=0.9km層の上面は、断層落ち側で最大で900m程度深くなることが分かった。工学的基盤以浅の地盤構造では、断層落ち側の断層直近でVs=0.3kmないし0.2km以下の層が厚い(十数m)。同様の傾向は、現在作成中の防災科研の南関東地盤モデルでも確認されている。断層周辺のボーリングデータでみると、本数が少ないので、詳細は不明であるが、断層落ち側の断層直近でN値の小さい完新統(粘性土層など)が厚くなっている傾向があるようにみえ、前述のS波速度構造分布と調和的である。4.まとめと今後の検討本研究の結果、断層の落ち側では、上り側に比べて微動のH/Vスペクトルの周波数が小さくなる傾向が明瞭で双方の構造の変化が比較的良く確認でき、観測された地震動のR/Vスペクトルも同様の特性を示すことがわかる。また、深谷断層を挟む両側の地盤では、スペクトル特性、S波速度構造にも相違が明瞭にみられ、ボーリングデータからも判別できることから、この断層においては地震観測記録・微動記録による詳細地盤モデルの構築・検証は十分に可能であることが分かった。今後、地震観測データを用いた、スペクトルインバージョン等による、断層両側の地盤での地震動の増幅特性の定量的な検討および、ボーリングデータから読み取れる地下浅部の地質構成、地質構造や重力探査結果をふまえた浅部・深部地盤の速度構造モデルの作成を試み、観測された地震動の作成した地盤モデルを用いた検証や工学的基盤の不整形性の影響評価を実施する予定である。
著者
森川 信之 神野 達夫 成田 章 藤原 広行 福島 美光
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.23-41, 2006
被引用文献数
7

異常震域を表現するための距離減衰式に対する補正係数の改良を行った。基準の式をKanno et al.(2005) によるものに変更し、応答スペクトルにも対応するようにしている。海溝軸に替えて、火山フロントまでの距離を導入することにより、一部地域に対して過大評価となっていた問題点を解決するとともに、対象地域を関東・甲信越地方まで拡大した。さらに、基準式では考慮されていない震源特性に関する検討を行った。地震動強さに関して震源の深さ依存性は見られなかったが、プレート間地震とスラブ内地震では明瞭な違いがあることが確認された。そのため、両タイプの地震に対する補正係数も新たに求めた。
著者
森川 信之 神野 達夫 成田 章 藤原 広行 福島 美光
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.14-26, 2003
被引用文献数
4

異常震域が現れる、やや深発地震を対象とした地震動の最大振幅の予測を経験的手法によって行う上で、距離減衰式に対して補正係数を導入することを提案する。ここでは、東北日本 (東北及び北海道地方) を対象として、司・翠川 (1999) による最大加速度、最大速度の距離減衰式を基準に、(1) 太平洋側と日本海側の地震動強さの違いに対応する係数、(2) 遠方の地域まで地震波があまり減衰せずに伝わることに対応する係数、の二種類の補正係数を求めた。これらは、いずれもプレート沈み込み帯における特異な減衰 (Q) 構造に起因する伝播経路特性の地域性を補正するものである。ここで求めた新たな補正係数を適用することにより、やや深発地震を対象とした経験的手法による地震動予測において、非常に広域にわたって最大加速度及び最大速度の予測値の精度が大幅に向上する。
著者
藤原 広美
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.99-108, 2016 (Released:2017-02-06)
参考文献数
34

本研究は、民主主義に必要な「言論の多様性」に米国新興デジタル・ニュース・メディア(以後、新興メディア)が貢献しているのかを実証研究を通じて分析する。本稿では、新興メディアのジャーナリズムを、主流ジャーナリズムと異なる視点や情報源でニュースを発信し、多元的民主社会で必要な「代替的公共圏」の形成に寄与する AM を継承したものと捉えている。そして、新興メディアが AMの特徴を持つならば、言論の多様性に貢献するのではないかとの仮説を立てた。ランダムに選択した米国東部地域の新興メディアに質問票による選択回答と自由回答方式の聞き取り調査を実施したところ、送り手側の実践に AM の特徴と重複するものがいくつか確認され、新興メディアが「言論の多様性」へ寄与している可能性が示唆された。また主流・新興の両者は常に対抗的でなく、同質化の傾向も示された。
著者
上床 輝久 藤原 広臨
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、発達障害の傾向を持つ大学生において、社会的能力やコミュニケーション能力のアンバランス等の特性が就職および就労能力に与える影響について、その精神的健康における要因及び環境的な要因を明らかにすると同時に、特性や能力に応じた就職/就労支援プログラムを開発し、その効果を科学的に検証することを目的としている。本年度も、引き続き健康診断会場での質問紙調査および二次面接調査を実施し、大学生における心理発達傾向と修学状況、就職活動・就労への不安および期待、必要な支援環境等についての調査を行った。二次面接調査については、来年度以後も引き続き実施すると共に対象者を追跡し、長期的な結果について観察を継続する予定である。また、これまで集積した知見を通じて、具体的な支援プログラムとして、スマートフォンを活用した認知行動療法に焦点を当て、京都大学医学研究科との共同研究を通じてその効果検証を行うことを目的とした介入試験を開始した。さらに、集団による心理教育および研修からなる支援プログラムの実施については、引き続き学内外の支援機関との協力を元に介入試験の実施準備を進めている。本年度までの研究成果として、昨年度実施した就労支援機関における予備研究の結果について、共同研究者と共にその成果を日本児童青年精神医学会にて発表した。また、日本学生支援機構および発達障害学生修学支援体制構築に関する合同研究協議会の招聘講演において、研究結果の一部を発表するとともに、支援関係者との情報交換を通じてより効果的なプログラム開発に向けての知見の収集及び協議を行った。次年度は、本研究計画を総括し、その成果を学術集会等にて発表し、学術誌等への公表を行う予定である。
著者
功刀 卓 青井 真 中村 洋光 藤原 広行 森川 信之
出版者
SEISMOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
地震 第1輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.243-252, 2008
被引用文献数
20

A new calculation method is proposed for a real-time seismic intensity indicator (<i>I</i><sub>r</sub>), whose concept is similarly to the JMA seismic intensity (<i>I</i><sub>JMA</sub>)defined by Japan Meteorological Agency. With the increasing requirements of earthquake early warning (EEW) system, it is much more obvious that <i>I</i><sub>JMA</sub> has a real-time delay since the <i>I</i><sub>JMA</sub> needs a filtering operation in frequency domain. In order to improve the real-time calculation suitable for the EEW system, a new real-time seismic intensity indicator, <i>I</i><sub>r</sub> (real-time seismic intensity), is defined by using an approximating filter in time domain instead of the original filter in frequency domain. This indicator, <i>I</i><sub>r</sub>,can be calculated as a time series on real-time and its maximum value, <i>I</i><sub>a</sub> (approximate seismic intensity), corresponds to an approximate value of <i>I</i><sub>JMA</sub>. The relationships between <i>I</i><sub>JMA</sub> and <i>I</i><sub>a</sub> value are examined by means of using a large number of strong motion records. Results show that <i>I</i><sub>a</sub> value estimates <i>I</i><sub>JMA</sub> with reasonable accuracy in wide intensity ranges. For a small computing system like a strong-motion seismograph, it is easier to process <i>I</i><sub>r</sub> than processing <i>I</i><sub>JMA</sub>. Therefore, <i>I</i><sub>r</sub> is suitable for using in an EEW system based on the concept of JMA seismic intensity.
著者
藤原 広行
出版者
SEISMOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
地震 第1輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.67-71, 2014

There is a similarity between the distribution of prime numbers and the pattern of earthquake occurrence. Earthquakes occur in a discrete manner in time and space. When viewed as a whole, however, we find some laws, such as Gutenberg-Richter law, that govern the entire earthquakes that seem to be individually independent. A similar phenomenon can be observed also in the world of number. The most basic example is the distribution of the prime numbers in integers. We consider a correspondence between earthquakes and prime numbers. We parameterize occurrence time of earthquakes as the prime numbers and magnitude of earthquakes as the interval of prime numbers. Then we obtain a relationship similar to Gutenberg-Richter law. We call the model obtained by this correspondence as "arithmetic seismic activity model". If we can parameterize earthquakes using prime numbers, knowledge that has been cultivated in the number theory can be used for understanding of earthquakes. The distribution of prime numbers is related to the distribution of zeros of Riemann zeta function. Researches are in progress to understand the zeros of the Riemann zeta function as an eigenvalue problem of quantum dynamical system. Earthquake may be modeled as a phenomenon corresponding to a change in the energy level of a quantum dynamical system associated with prime numbers.