著者
西田 芳正
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.35, pp.38-53, 2010-10-01

格差,貧困が深刻さの度合いを増すなかで,非行,犯罪の増加が懸念されている.雇用の喪失が希望の喪失につながり問題行動が増加するという議論が典型例だが,従来から非行との関連が高かった貧困・生活不安定層の若者に焦点を当てたものではない.本論文は,03年,09年に行ったインタビュー調査をもとに,貧困・生活不安定層の子どもから大人への移行過程の特徴とその変容を検討する.早期の学校からの離脱,非行を含む遊び中心の生活,不安定で困難な大人の生活への早期の移行が本人にとって身近な世界への「自然な移り行き」として進行していること.そして,近年,そうした移行を可能にしていた「受け皿としての第2部労働市場」が経済変動により縮小,不安定化しつつあることが明らかとなった.非行,犯罪の増加をもたらす主な要因の一つが「自然な移り行き」の困難化であり,対策,支援策はここに焦点化したものである必要がある.安定した雇用の減少が「希望の喪失」と非行,犯罪の増加につながるとする議論とそれにもとづく対策だけでは,貧困・生活不安定層が直面する困難に対処することは不可能であり,若者の多様な存在形態を踏まえた支援策が求められる.
著者
西田 芳正
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.41-50, 2003-05-24 (Released:2017-09-22)

日本人、日本社会と在日韓国・朝鮮人の民族関係を検討する際、被差別部落の問題を避けることはできない。戦前、多数の朝鮮人が部落およびその周辺地域に流入、定着したことが知られており、職業、地域、学校などさまざまな場面で両者が近接して生活することになった。本論文では、特定地域での両者の関係史をたどり、他地区の事例も踏まえつつ両者の関係性を整理した。日本社会の差別性のゆえに職住において両者は接近せざるを得ない構造的な与件があり、職業において競合する立場に置かれることにもなる。差別的な意識を双方が抱いていることも事実であるが、日常生活場面では良好な関係が成立していたことを示す記録が多数残されている。貧困、生活苦のなかでの密接な関わりは、民族関係成立の条件を考える上で一つの手がかりとなるだろう。また、マイノリティ集団を相互に比較検討する視点もさまざまな知見をもたらすはずである。それぞれの集団に課せられた障壁=バリアのあり方、その認識と対応のあり方を比較によって検討することは、それぞれの集団の特性を浮かび上がらせるだけではなく、日本社会の差別的構造をも明らかにするはずである。
著者
西田 芳正
出版者
Japan Association for Urban Sociology
雑誌
日本都市社会学会年報 (ISSN:13414585)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.40, pp.8-24, 2022-09-05 (Released:2023-09-16)
参考文献数
23

In America and European countries the interest in neighborhood effects has accelerated after the publication of W.J.Wilson's The Truly Disadvantaged. The purpose of this paper is to consider neighborhood effects in Japanese society. Based on researches in public housing areas and a wooden apartment area, I find local community culture which has a negative effect on residentsʼ life chances. At the same time, however, the culture has an important function to support the process of transition from childhood to adulthood in the strained circumstances.     By calling for more comparative studies of diversified neighborhoods and poverty, effective support measure can be found.
著者
志水 宏吉 棚田 洋平 知念 渉 西田 芳正 林嵜 和彦 二羽 泰子 山本 晃輔 榎井 縁 内田 龍史 石川 朝子 高田 一宏 園山 大祐 堀家 由妃代
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究の目的は、「マイノリティ集団に対する排除と包摂」という視点から、現代日本の学校教育システムが有する制度的・組織的特性とそこから生じる諸課題を把握し、その改革・改善の方途を探ることにある。そのために、「被差別部落の人々」「外国人」「障害者」「貧困層」という4つのマイノリティ集団を設定し、彼らに対する教育の場における排除を、1)彼らの教育機会の現状、2)それに対する当事者の経験や評価の2側面から把握する。
著者
西田 芳正
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.3-19,182, 1992-10-31 (Released:2017-02-15)

This paper examines the identity of young people in a Buraku community where the liberation movement has been actively engaged. For this purpose their life histories are analyzed. Young people in such an active Buraku community hold positive identity because they have received since their childhood such messages as "the outer society is to be blamed" and "Buraku people should fight discrimination and form forward-looking identity." However, as they grow up and face discrimination in the outer society, their once-acquired positive identity is likely to be destabilized. The concept of identity politics refers to an aspect of social movements among the discriminated-against minority groups that becomes more visible as they seek to repudiate forced negative identity and to create positive identity for themselves. The Buraku liberation movement has such an aspect. However, the moral career of young Buraku people suggests a difficulty of identity politics. We can develop two hypotheses as follows from the observations of the destabilization process of their identity.1 ) Because the success in struggle over competing social definitions, namely, stigma contest is confined within in-group, the conventional definition of Buraku people continues to prevail in the outer society.2) Younger generation of Buraku people growing up in the environment of institutionalized liberation movement acquire positive identity within a protective capsule. Therefore, their identity becomes more vulnerable to discrimination as they are placed outside the capsule.
著者
西田 芳正
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.41-50, 2003

日本人、日本社会と在日韓国・朝鮮人の民族関係を検討する際、被差別部落の問題を避けることはできない。戦前、多数の朝鮮人が部落およびその周辺地域に流入、定着したことが知られており、職業、地域、学校などさまざまな場面で両者が近接して生活することになった。本論文では、特定地域での両者の関係史をたどり、他地区の事例も踏まえつつ両者の関係性を整理した。日本社会の差別性のゆえに職住において両者は接近せざるを得ない構造的な与件があり、職業において競合する立場に置かれることにもなる。差別的な意識を双方が抱いていることも事実であるが、日常生活場面では良好な関係が成立していたことを示す記録が多数残されている。貧困、生活苦のなかでの密接な関わりは、民族関係成立の条件を考える上で一つの手がかりとなるだろう。また、マイノリティ集団を相互に比較検討する視点もさまざまな知見をもたらすはずである。それぞれの集団に課せられた障壁=バリアのあり方、その認識と対応のあり方を比較によって検討することは、それぞれの集団の特性を浮かび上がらせるだけではなく、日本社会の差別的構造をも明らかにするはずである。
著者
鰺坂 学 浅野 慎一 岩崎 信彦 杉本 久未子 西田 芳正 西村 雄郎 文 貞實 魁生 由美子
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

日本の大都市では2000年を画期として、長らく続いた人口の郊外化がおわり、人口が都心部に向かう都心回帰といわれる状況がみられる。その原因は、不況により都心地域の地価が下がり、オフィス需要が減少し、余った土地に大型のマンションが建てられ、新しい住民の居住が促進されたためである。本研究では、これらの人口の都心回帰により大阪市における地域社会の構造変容について調査分析を行った。特に都心区における新しい住民と古くから住んでいた住民との関係について、大阪市特有の地域住民組織である「地域振興会」(振興町会や連合振興町会)に焦点をあて、その連合会長らに面接調査を行った。結果として、新住民の地域振興会への参加は少なく、旧住民中心に運営されてきた振興町会の側も新住民への対応に苦慮していること、新旧住民間の交流やコミュニティの形成が課題となっていることが判明した。
著者
稲月 正 谷 富夫 西村 雄郎 近藤 敏夫 西田 芳正 山本 かほり 野入 直美 二階堂 裕子 高畑 幸 山ノ内 裕子 内田 龍史 妻木 進吾 堤 圭史郎 中西 尋子
出版者
北九州市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

在日韓国・朝鮮人と日系ブラジル人との生活史の比較分析からは(1)「移民」第1 世代の多くは周辺部労働市場に組み込まれたこと、(2)しかし、移住システム、資本主義の形態などの違いが社会関係資本の形成に差をもたらし、それらが職業的地位達成過程や民族関係(統合)の形成過程に影響を与えた可能性があること、などが示されつつある。また、在日韓国・朝鮮人の生活史パネル調査からは、(1)1990 年代後半時点でも見られた祖先祭祀の簡素化やエスニシティの変化が進んでいること、(2)その一方で 「継承」されたエスニシティの持続性自体は強いこと、などが示された。