著者
谷本 奈穂 渡邉 大輔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.55-69, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本稿の目的は,近代家族の理念の出発点ともいえるロマンティック・ラブ・イデオロギーが,現在どうなっているかを検討することである.ロマンティック・ラブ・イデオロギーの概要をふりかえった後,雑誌記事の分析および別れの語彙の分析から仮説を立てた.(1)ロマンティック・ラブ・イデオロギーは90年代以降に衰退し,(2)代わりに「ロマンティック・マリッジ・イデオロギー」と名付けるべきものがせり出してきている,という仮説である.量的データから,仮説(1)(2)とも検証された.またとくに,ロマンティック・マリッジ・イデオロギーは,若い女性や恋愛機会の多い人に支持されていることも分かった.ただし,ロマンティック・マリッジ・イデオロギーは,恋愛を解放しても結婚は解放しなかった.結婚へのハードルは高いものといえる.
著者
谷本 奈穂
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.3-14, 2017 (Released:2018-06-13)
参考文献数
29

美容整形は「劣等感」や「他者に対するアピール」のために行われると信じられてきたが、むしろ実践者たちは「自己満足」を最も重視する。ただし同時に、「他者」による外見の評価を気にしてもいた。先行研究では、この他者を「異性」や、より一般的な「社会」(一般化された他者)と措定し、日常生活において「具体的に誰なのか」は見落としてきた。そこで、本論は、美容整形希望者・実践者が外見について準拠する「具体的な他者」を明らかにすることを試みる。なお、先行研究では実践者の「動機」に注目されがちだったが、本稿では実践者たちの「コミュニケーション」のレベルに注目した分析を行う。さらに先行研究の調査は、美容整形経験者だけを対象としたものが主だが、本論では実践者へのインタビューを行いつつも、希望者/非希望者や、あるいは経験者/非経験者の比較分析も行う。実際に「美容整形経験と何が結びつくか」は、両者の比較をしてこそ見出しうるからだ。さて分析から明らかになったのは、希望者・実践者が重視する他者とは、第一に「同性友人」であり、次いで「母」や「姉妹」であることだ。美容整形にコミットするのは男性より女性が多いことを踏まえるなら、「女性同士のネットワーク」が重要であるともいえる。女性にとって、異性や社会(一般化された他者)ではなく、「身近にいる同性」とのコミュニケーションの中に、外見を変える「地平」が成立しているのである。
著者
小林 盾 谷本 奈穂
出版者
成蹊大学文学部学会
雑誌
成蹊大学文学部紀要 (ISSN:05867797)
巻号頁・発行日
no.51, pp.99-113, 2016-03

この論文では、人びとの容姿がキャリア形成、家族形成、心理にどう影響するのかを分析することで、社会的不平等における容姿(ルックス、身体的魅力)の役割を解明する。そこで、人びとは美容資本に時間や労力を人的資本として自分に投資し、地位達成の向上などで回収すると仮定した。エビデンスとして、ランダムサンプリング調査を実施してデータ収集した(有効回収数297人、有効回収率60.9%)。20 歳時の容姿(とくに顔)について、1下から10上の10段階で、主観的評価を測定した。分析の結果、以下が分かった。(1)容姿の分布は、男女ともにランク5と7~8の二山をもった。男女で分布に違いはなかった。(2)容姿の規定要因では、性別による違いはなかった。(3)容姿の帰結では、容姿がよいと、役職につきやすく、所得が増えた(所得は男性のみ)。多くの人から告白され、交際人数や結婚のチャンスや子どもの数が増えた。さらに、高い階層にいると感じ、自信があり、幸福だった(幸福は男性のみ)。(4)このように、男性ほど容姿の影響が強かった。これは、男性のほうが美容資本への投資が不均等なため、容姿が社会的不平等につながりやすいからかもしれない。以上から、容姿はライフチャンスを拡大させたり制約しうる。この点で、容姿は社会的不平等の一要因といえよう。
著者
谷本 奈穂 渡邉 大輔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.55-69, 2016

本稿の目的は,近代家族の理念の出発点ともいえるロマンティック・ラブ・イデオロギーが,現在どうなっているかを検討することである.ロマンティック・ラブ・イデオロギーの概要をふりかえった後,雑誌記事の分析および別れの語彙の分析から仮説を立てた.(1)ロマンティック・ラブ・イデオロギーは90年代以降に衰退し,(2)代わりに「ロマンティック・マリッジ・イデオロギー」と名付けるべきものがせり出してきている,という仮説である.量的データから,仮説(1)(2)とも検証された.またとくに,ロマンティック・マリッジ・イデオロギーは,若い女性や恋愛機会の多い人に支持されていることも分かった.ただし,ロマンティック・マリッジ・イデオロギーは,恋愛を解放しても結婚は解放しなかった.結婚へのハードルは高いものといえる.
著者
谷本 奈穂
出版者
日本マス・コミュニケーション学会
雑誌
マス・コミュニケーション研究 (ISSN:13411306)
巻号頁・発行日
no.51, pp.168-181, 261, 1997-07-31

This paper focuses on the attractiveness of popular Comics. At first, in previous studies and the questionnaires sent to the readers of comics, I suppose readers (high school students) felt uncomfortable. Secondly, I tried to examine the contents of the most popular comics, paid more attention to the readers' interests. And the popular comics show the development of youth, their social relations and provide bracing laughter. Lastly , I concluded that the readers, situation and comic contents have a relationship. Instead of "true satisfaction", the readers seem to be satisfied with the world of comics. The popular comic is instrument of healing for readers.
著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.57-67, 2007-07

社会学の領域において,「身体」というパースペクティブが注目されている。そこでまず本論では特にAデiddensによるボディプロジェクト(body projects)概念を検討した.次に,アンケート調査から,一般的な身体加工に関する意識を分析し,次のことを明らかにした.一つは身体加工において準拠されているのは,「自己自身」,「他者の視線」,「社会の視線」であること((1)自己系,(2)他者系(消極)系,(3)他者(積極系),(4)社会系と命名).もう一つは一般的な身体加工は,他者のため((2)(3)),社会への配慮のため((4))だけでなく,自己満足のため,自分らしくあるため((1))に行われることが多いことである.また,そこにはジェンダー差があり,同じ「他者の視線」を意識するのでも((3)他者(積極)系),男性は不特定多数な異性を,女性は自分の好きな特定の人だけを念頭においている.さらに女性は,自己満足や自分らしさといった「自己自身」を準拠することが多い.そして,外見の良し悪しでも差異が見いだせ,外見をほめられる経験の多い人は,(1)自己系,(3)他者(積極系)の理由を挙げ,ほめられる経験が少ない人は,(2)他者(消極系)の理由を挙げる.(1)自己系の理由を多く挙げるのは,女性であり,外見をよくほめられる人であった.このような一般的身体加工に関する意識は,他の身体における現代的現象と関連している.
著者
谷本 奈穂
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.418-433, 2005-03-31

本稿では複数ある「ものの見方=視覚モード」を整理する.<BR>「言葉」をモデルにして対象に潜む意味や物語やイデオロギーなるものを「読解」するというモードや, 「芸術作品」をモデルにして対象と (論理を媒介にしない) 「直接的交流」をするモードが考えられる.<BR>しかし現代においては, メディア (広告ポスター, テレビ, マンガ, インターネットの動画) をモデルにした視覚モードもある.本稿ではそのモードを〈イメージ〉の生成と名づけた.<BR>このモードは「じっくり鑑賞する」というより「ちらっと・ぼんやり散見する」点, 対象に表層と深層があるとするなら「深層」ではなくて「表層」に焦点を当てる点に特徴がある.<BR>また〈イメージ〉の生成の登場は, 人が魅惑に対してむしろ醒めて麻痺したような態度を取るようになったことを意味している.
著者
高井 昌吏 谷本 奈穂 石田 あゆう 坂田 謙司 福間 良明 村瀬 敬子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ポピュラー・カルチャーのなかで形成される戦争の表象を、ジェンダーの視点から考察した。たとえば、男らしい戦争イメージの形成では、『男たちの大和』『連合艦隊』などの映画、さらに「大和ミュージアム」や知覧という観光、あるいはプラモデルなどが大きく絡んでいる。女らしさやこどもらしさについては、むしろ『ガラスのうさぎ』『火垂るの墓』などの児童書・アニメの影響が大きい。こうした点を考慮し、それぞれの戦争(沖縄戦、原爆、空襲など)が社会的に受容されるうえで主に寄与したポピュラー・カルチャーに着目し、それらを横断しながら構築される戦争イメージについて分析した。
著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学
雑誌
関西大学視聴覚教育 (ISSN:13431099)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.63-64, 2005-03-31
著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.37-59, 2012-09-20

本論文は,美容整形や美容医療(プチ整形)が普及する現代社会において,それらの施術を受けたいと思う人々の①属性,②身体意識を明らかにする.また,以前行った調査で,美容整形を希望する理由に「自己満足のため」が最も多かったという結果をうけ,③美容実践が,身体を自分の所有物と感じてアイデンティティを再定義するような主体的な経験なのかも明らかにする.25~65 歳の男女800 人に調査票調査を行い,分析した結果は次の通り.①美容施術を望むのは男性よりも女性である.性別以外の,年代,世帯年収,学歴,既婚・未婚といった属性では有意差が見られなかった.②美容実践はあくまでも第一義的に「自分の心地よさ」(=自己満足)のために行われる.自分の心地よさという理由は,美容実践でない行為においても,美容実践を望む人が,望まない人より使用している.ただし,美容実践を望む人ほど「他者」の評価も求める傾向ももつ.③美容実践は,性別と世帯年収に規定される.また自己アイデンティティの再構築を目指すような主体的な行為というより,むしろ「外見の老化を感じる」こと,「身体に関する社会の常識を守るべきという考えを持たない」ことに規定される行為でもある.したがって,美容実践は,第一に「自分」という位相で語られる行為である.ただし,自分の心地よさの背後には「他者」の評価期待が含まれる.そして身体に関わる常識という意味での「社会」的影響は後景に退いている行為である.\nThis paper analyses people intending to undergo cosmetic surgery or cosmetic medical care in contemporary Japan. It aim to explore (1) their attributes, and (2) their body consciousness. The study found that the most popular motivation for cosmetic surgery was “self-satisfaction”. ーFollowing this, the study investigated (3) whether cosmetic practices can be regarded as subjective experiences, which promote the re-definition of identities. The results of this later survey (involving 800 informants) as follows.First, more women want to have cosmetic interventions than men. Other attributes, including age, academic background, income, and marital-status, did not show any significant influence on motivations. Second, some people want to have cosmetic interventions because of a sense of self-satisfaction, however, they tend to want positive evaluations from “others” too. Third, “awareness of aging” and “lack of a conviction to maintain common sense in relation to one’s body” are more likely to inderpin a desire to undergo cosmetic intervention than “the intention to reform self-identity.”Therefore, cosmetic interventions should be understood in terms of “the self,” positive evaluations by “the other,” and “self-comfort.” Although cosmetic practices are social practices, they are not significantly influenced by “the social.”
著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.37-59, 2012-09-20

本論文は,美容整形や美容医療(プチ整形)が普及する現代社会において,それらの施術を受けたいと思う人々の①属性,②身体意識を明らかにする.また,以前行った調査で,美容整形を希望する理由に「自己満足のため」が最も多かったという結果をうけ,③美容実践が,身体を自分の所有物と感じてアイデンティティを再定義するような主体的な経験なのかも明らかにする.25~65 歳の男女800 人に調査票調査を行い,分析した結果は次の通り.①美容施術を望むのは男性よりも女性である.性別以外の,年代,世帯年収,学歴,既婚・未婚といった属性では有意差が見られなかった.②美容実践はあくまでも第一義的に「自分の心地よさ」(=自己満足)のために行われる.自分の心地よさという理由は,美容実践でない行為においても,美容実践を望む人が,望まない人より使用している.ただし,美容実践を望む人ほど「他者」の評価も求める傾向ももつ.③美容実践は,性別と世帯年収に規定される.また自己アイデンティティの再構築を目指すような主体的な行為というより,むしろ「外見の老化を感じる」こと,「身体に関する社会の常識を守るべきという考えを持たない」ことに規定される行為でもある.したがって,美容実践は,第一に「自分」という位相で語られる行為である.ただし,自分の心地よさの背後には「他者」の評価期待が含まれる.そして身体に関わる常識という意味での「社会」的影響は後景に退いている行為である. This paper analyses people intending to undergo cosmetic surgery or cosmetic medical care in contemporary Japan. It aim to explore (1) their attributes, and (2) their body consciousness. The study found that the most popular motivation for cosmetic surgery was “self-satisfaction”. ーFollowing this, the study investigated (3) whether cosmetic practices can be regarded as subjective experiences, which promote the re-definition of identities. The results of this later survey (involving 800 informants) as follows. First, more women want to have cosmetic interventions than men. Other attributes, including age, academic background, income, and marital-status, did not show any significant influence on motivations. Second, some people want to have cosmetic interventions because of a sense of self-satisfaction, however, they tend to want positive evaluations from “others” too. Third, “awareness of aging” and “lack of a conviction to maintain common sense in relation to one’s body” are more likely to inderpin a desire to undergo cosmetic intervention than “the intention to reform self-identity.” Therefore, cosmetic interventions should be understood in terms of “the self,” positive evaluations by “the other,” and “self-comfort.” Although cosmetic practices are social practices, they are not significantly influenced by “the social.”
著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.47-55, 2015-02-28

本論の目的は,美魔女を批判する言説を分析し,外見に関わる「常識」や「規範」を明らかにすることである.結果,女性には「若く美しくあれ」と「若作りの禁忌」という相反する二重の規範が課されていることが分かった.そこに,性差別とエイジズムの結託が見られる.The purpose of this study is to determine ‘the premise’ or ‘the norm’ that is related to appearance, analyzing the critical discourse about ‘bimajo’(middle‒aged women who look young). The results of the study state that there are double standards that operate in the critical discourse, ‘women should be beautiful and young’ and ‘women must not wear make up to look younger’; furthermore, the concepts of sexism and ageism seem to collide with each other.
著者
小林 盾 山田 昌弘 金井 雅之 辻 竜平 千田 有紀 渡邉 大輔 今田 高俊 佐藤 倫 筒井 淳也 谷本 奈穂
出版者
成蹊大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

この研究は,「人びとがどのように恋愛から結婚へ,さらに出産へと進むのか」を量的調査によってデータ収集し,家族形成における格差を解明することを目的としている.そのために,「人びとのつながりが強いほど,家族形成を促進するのではないか」という仮説をたてた.第一年度に「2013年家族形成とキャリア形成についての全国調査」をパイロット調査として(対象者は全国20~69歳4993人),第二年度に「2014年家族形成とキャリア形成についてのプリテスト」(対象者204人)を実施した.そのうえで,第三年度に本調査「2015年家族形成とキャリア形成についての全国調査」を実施した(対象者1万2007人).
著者
谷本 奈穂 東 園子 猪俣 紀子 増田 のぞみ 山中 千恵
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.37-50, 2013-08-10

本論は,日本アニメが海外でどのようにして読み取られるかについて,キャラクターの図像に焦点を当てながら考察するものである.具体的にはフランスの学生に対し,キャラクターを10種類提示して出身地を予測させた.その結果,出身地をキャラクターの外見に基づいて判断する場合と,マンガ・アニメに関する知識に基づいて判断する場合があると分かった.日本では「自然主義的リアリズム」と「まんが・アニメ的リアリズム」の二つがあり,その二つが作品の消費形態を規定するとされるが,フランスでも二つの読み取りが行われている(二つのリテラシーがある)ことが確認できた.This paper examines and investigates how Japanese animation is being interpreted in France. To this end, we focus on character iconography interpretation. We presented French students with ten types of characters and asked them to predict the fictional birth places of these characters. The results showed that the students came to their conclusions based on either the appearance of the characters or their knowledge of manga and anime. In Japan, “naturalistic realism” and “manga or anime-istic realism” are thought to define how works of art are consumed, and we identified these two forms of interpretation (literacies) in France.