著者
橋本 英樹 近藤 克則 野口 晴子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

健康・機能状態の社会的格差をライフコースの視点から検証する際、幼少期情報を想起情報に頼らざるを得ないことが多い。代理指標として脚長などの客観的マーカーの利用可能性を検討した。高齢者パネル調査(くらしと健康調査)を用いて脚長(幼少期の栄養状態の代理指標)と親職種、幼少期「生活困難度」との関係を見たが、有意な関係は認められなかった。一方、脚長は、学歴と収縮期血圧の関係を有意に媒介していた。社会経済的要因による社会的選択の影響を考慮し、同朋情報を用いてバイアス補正を検討したところ、同朋との到達学歴の一致・不一致により学歴と健康・生活習慣との関連性が異なっていた。社会的選択の影響を考慮する必要がある。
著者
河口 謙二郎 横山 芽衣子 井手 一茂 近藤 克則
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.79-89, 2022-01-25 (Released:2022-03-08)
参考文献数
31
被引用文献数
2

目的:高齢者の運動習慣定着に有効な運動プログラムのあり方を検討するために,民間スポーツクラブを利用する高齢者を対象にグループでの運動の実践と運動の継続との関連を明らかにすることを目的とした.方法:2017年6月から2019年3月にかけてリソルの森の健康増進プログラム(ウェルネスエイジクラブ)に6カ月以上参加した65歳以上の227人(女性117人,男性110人)を分析対象とした.半年に1回の質問紙調査,体力測定,年1回の健康診断,及び個人の参加プログラムや参加日時のデータを分析に用いた.24週以上に渡る平均週2日以上の運動プログラム参加を「運動プログラム継続」,平均週1回以上のグループプログラムへの参加を「グループプログラム参加」と定義し,グループプログラム参加と運動プログラム継続との関連をポアソン回帰分析により検証した.結果:グループプログラム参加者は,非参加者に比べて運動プログラムを継続する可能性が高かった(Prevalence ratio=3.63[95% CI:1.98~6.65],p<0.01).性で層化しても,女性(8.08[1.94~33.56],p<0.01),男性(2.84[1.39~5.78],p<0.01)ともにグループプログラム参加と運動プログラム継続に有意な正の関連が認められた.結論:本研究は,民間スポーツクラブに通う高齢者において,グループによる運動プログラムは参加者同士の社会的交流やつながりを増やし運動継続を促進する可能性があることを明らかにした.高齢者のグループ運動への参加を促進することで運動継続者が増加する可能性が示唆された.
著者
木村 哲也 石川 鎮清 中村 好一 近藤 克則 尾島 俊之 菅原 琢磨
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
pp.2022.004, (Released:2022-07-29)
参考文献数
13
被引用文献数
1

【目的】近年,時代に即した医療課題の解決のため,適切な社会医学の人材育成がなされているかを,明らかにすることを目的とした。【方法】量的調査と質的調査を行った。量的調査では,近年20年間の社会医学分野の講座名称及び教員数の変化について名簿調査を行った。質的調査では,社会医学分野の研究者・教員9名及び高等教育行政,厚生行政,医学会関係者各1名ずつの計12名に対してインタビュー調査を行った。インタビュー調査は半構造化面接の方法で行い,質的に分析した。【結果】名簿調査では,20年間のうちに,医学教育において社会医学分野の教員数に変化はないが,基礎医学・臨床医学分野を合わせた教員の全体数が増加しているため,社会医学分野の教員の割合は3.0%(521人/17,224人)から2.1%(508人/24,121人)に減少していた。インタビューでは,公衆衛生大学院の創設や社会医学専門医制度などの開始,地方自治体や国際保健において社会医学人材の活躍が期待される一方で,魅力ある教育プログラムやキャリアパスのイメージが示されていないこと,実践現場と研究・教育の乖離などの課題が明らかとなった。【結論】量的・質的分析を合わせた結果,1)新たな課題に取り組む人材育成のため教育・専門医制度などの質の保証の充実,2)社会医学の可能性を伝え参入する若手を増やすための方策強化,3)現場と研究,教育の乖離が見られるためビッグデータやグローバルヘルスを使った現場と教育と研究の統合,の3つの課題を抽出することができた。
著者
辻 大士 高木 大資 近藤 尚己 丸山 佳子 井手 一茂 LINGLING 王 鶴群 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.383-393, 2022-05-15 (Released:2022-05-24)
参考文献数
40

目的 地域診断により要介護リスクを抱えた高齢者が多く居住する地域を特定し,モデル地区として重点的に通いの場の立ち上げや運営を支援することで,地域レベルの指標が改善し地域間の健康格差が縮小するかを検証することを目的とした。方法 神戸市と日本老年学的評価研究は,要介護認定を受けていない高齢者を対象に全市で実施したサンプリング郵送調査データを用い,市内78圏域(1圏域≒中学校区)の地域診断を行った。複数の要介護リスク指標で不良な値を示し,重点的な支援が必要と判断された16圏域を2014~19年度にかけてモデル地区として指定し,市・区・地域包括支援センター・研究者らが連携して通いの場の立ち上げや運営を支援した。さらに,4回(2011, 13, 16, 19年度)の同調査データ(各8,872人,10,572人,10,063人,5,759人)を用い,モデル地区(16圏域)と非モデル地区(62圏域)との間で,中間アウトカム9指標(社会参加3指標,社会的ネットワーク2指標,社会的サポート4指標)と健康アウトカム5指標(運動器の機能低下,低栄養,口腔機能低下,認知機能低下,うつ傾向)の経年推移を,線形混合効果モデルにより比較した。結果 2011,13年度調査では,全14指標中13指標でモデル地区は非モデル地区より不良な値を示していた。その差が2016,19年度調査にかけて縮小・解消し,年度×群の有意な交互作用が確認された指標は,中間アウトカム4指標(スポーツ・趣味関係のグループ参加,友人10人以上,情緒的サポート提供),健康アウトカム3指標(口腔機能低下,認知機能低下,うつ傾向)であった。たとえば,2011年度の趣味関係のグループ参加はモデル地区29.7%/非モデル地区35.0%であったが,2019年度には35.2%/36.1%と地域差が縮小した(P=0.008)。同様に,情緒的サポート提供は83.9%/87.0%が93.3%/93.3%(P=0.007),うつ傾向は31.4%/27.2%が18.6%/20.3%(P<0.001)となり,差が解消した。結論 地域診断により要介護リスクを抱えた高齢者が多く住む地域を特定し,住民主体の通いの場づくりを重点的に6年間推進することで,社会参加やネットワーク,サポートが醸成され,ひいては地域間の健康格差の是正に寄与したことが示唆された。
著者
斎藤 民 近藤 克則 村田 千代栄 鄭 丞媛 鈴木 佳代 近藤 尚己 JAGES グループ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.596-608, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
39
被引用文献数
24

目的 生きがいや社会的活動参加の促進を通じた高齢者の健康づくりには性差や地域差への考慮が重要とされる。しかしこれらの活動における性差や地域差の現状は十分明らかとはいえない。本研究では高齢者の外出行動と社会的・余暇的活動の性差と地域差を検討した。方法 Japan Gerontological Evaluation Study (JAGES)プロジェクトが2010年~2012年に実施した,全国31自治体の要介護認定非該当65歳以上男女への郵送自記式質問紙調査データから103,621人を分析対象とした。分析項目は,週 1 日以上の外出有無,就労有無,団体・会への参加有無および月 1 回以上の参加有無,友人・知人との交流有無および月 1 回以上の交流有無,趣味の有無を測定した。性,年齢階級(65歳以上75歳未満,75歳以上),および地域特性として都市度(大都市地域,都市的地域,郡部的地域)を用いた。年齢階級別の性差および地域差の分析にはカイ二乗検定を実施した。さらに実年齢や就学年数,抑うつ傾向等の影響を調整するロジスティック回帰分析を行った(有意水準 1%)。また趣味や参加する団体・会についてはその具体的内容を記述的に示した。結果 年齢階級別の多変量解析の結果,男性は有意に週 1 回以上の外出や就労,趣味活動が多く,団体・会への参加や友人・知人との交流は少なかった。ほとんどの活動項目で都市度間に有意差が認められ,郡部的地域と比較して大都市地域では週 1 回以上外出のオッズ比が約2.3と高い一方,友人との交流のオッズ比は後期高齢者で約0.4,前期高齢者で約0.5であった。性や都市度に共通して趣味の会の加入は多い一方,前期高齢者では町内会,後期高齢者では老人クラブの都市度差が大きく,実施割合に30%程度の差がみられた。趣味についても同様に散歩・ジョギングや園芸は性や都市度によらず実施割合が高いが,パソコンや体操・太極拳は性差が大きく,作物の栽培は地域差が大きかった。結論 本研究から,①外出行動や社会的・余暇的活動のほとんどに性差や都市度差が観察され,それらのパターンが活動の種類によって異なること,②参加する団体・会や趣味の内容には男女や都市度に共通するものと,性差や都市度差の大きいものがあることが明らかになった。以上の特徴を踏まえた高齢者の活動推進のための具体的手法開発が重要であることが示唆された。
著者
近藤 克則 芦田 登代 平井 寛 三澤 仁平 鈴木 佳代
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.19-30, 2012 (Released:2012-04-28)
参考文献数
28
被引用文献数
12 11

日本の高齢者における等価所得・教育年数と死亡,要介護認定,健康寿命の喪失(死亡または要介護認定)との関連を明らかにすることを目的とした。協力を得られた6自治体に居住する高齢者14,652人(平均年齢71.0歳)を4年(1,461日)間追跡し,要介護認定および死亡データを得た。Cox比例ハザードモデルを用い,死亡,要介護認定,健康寿命の喪失をエンドポイントに等価所得・教育年数(共に5区分)を同時投入して年齢調整済みハザード比(HR)を男女別に求めた。その結果,男性では,最高所得層に比べ最低所得層でHR1.55-1.75,最長教育年数に比べ最短教育年数層ではHR1.45-1.97の統計学的にも有意な健康格差を認めた。一方,女性では,所得で0.92-1.22,教育年数で1.00-1.35と有意な健康格差は認めなかった。等価所得と教育年数の2つの社会経済指標と用いた健康指標(死亡,要介護認定,健康寿命の喪失)とで,健康格差の大きさも関連の程度も異なっていた。日本の高齢男性には,統計学的に有意な健康格差を認めたが,女性では認めなかった。これは健康格差が(少)ない社会・集団がありうる可能性を示唆しており,所見の再現性の検証や健康格差のモニタリング,生成機序の解明などが望まれる。
著者
八木 明男 近藤 克則 早坂 信哉 尾島 俊之
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.67-73, 2019 (Released:2019-10-26)
参考文献数
13

背景・目的 抑うつは高齢者の生活機能低下の原因の一つであり、その予防は公衆衛生上の重要な課題である。本研究では縦断デザインにより高齢者の浴槽入浴頻度と抑うつ傾向発症 ( 以下、うつ発症) との関連を評価することを目的とした。方法 日本老年学的評価研究2010年度版、2013年度版の両質問用紙に回答した高齢者のうち、日常生活動作が自立し、2010年度調査時点でGeriatric Depression Scale (GDS) 4点以下であった4,466人 ( 男性2,159人、女性2,307人) を対象とした。2013年度調査でのうつ発症 (GDS 5点以上) を目的変数、2010年度調査時点での浴槽入浴頻度 ( 夏と冬それぞれ) を説明変数とし、共変量として年齢、性、婚姻状況、就労状況、等価所得、教育年数、治療中の病気の有無を用い、ポアソン回帰分析により解析した。結果 新規うつ発症は、夏の週0-6回で14.1% 、週7回以上で11.5% 、冬の週0-6回で15.1% 、週7回以上で10.8% に生じた。多変量解析の結果、週0-6回を基準とした週7回以上でのうつ発症率比 (95% 信頼区間) は夏で0.84 (0.71-1.00) 、冬で0.77 (0.65-0.91) であった。考察 浴槽入浴頻度が高い高齢者では新規うつ発症が少ないことが示された。高齢者の浴槽入浴はうつ発症の予防につながる可能性が示唆される。
著者
田島 明子 近藤 克則 慶徳 民夫 幸 信歩
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-112, 2020-07-06

目的:本研究では,住民運営通いの場への参加促進要因を質的,帰納的分析により抽出し,その結果から,間接的支援のための支援構造を考察することを目的とした.対象と方法:個別インタビューはサロンの立ち上げに関与したA 氏に行い,フォーカス・グループ・インタビューは,サロン研究やそれに類似する高齢者介護研究を実施してきた研究者4 名に行い,結果を,帰納的に分析し,カテゴリ化を行い,カテゴリを説明する概念を付した.また先行研究を参考にし,さらに作業科学の知見を基にテーマを設定した.結果:people に関わる要因とplace に関わる要因に分類された.People に関わる要因は,作業的存在としてのbelonging とdoing に分けられた.考察:人を作業的存在として捉えたとき,サロンは,健康志向性を持った,高齢者の誰をも受け入れるbelonging を用意し,ソーシャルキャピタルを育成するdoing を提供しているplace であると整理できた.
著者
近藤 克則 JAGESプロジェクト
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.5-20, 2014-04-25 (Released:2014-05-12)
参考文献数
41
被引用文献数
4 1

「健康日本21(第2次)」で,「健康格差の縮小」とソーシャル・キャピタル(地域のつながり)など「社会環境の質の向上」が明示され,介護予防でも地域診断に基づく地域づくりへの重視が謳われるようになった。しかし欧米に比べ我が国ではそれらに必要な「見える化」が遅れている。これらの課題に取り組むため厚生労働科学研究費補助金などで組織されたJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study,日本老年学的評価研究)プロジェクトの取り組みを紹介し「見える化」の可能性と課題を考察することが小論の目的である。本研究プロジェクトでは,まず先行研究レビューに基づきベンチマークの必要性や限界・課題,政策評価ベンチマーク指標群の枠組みと指標選択基準,要介護リスクと保護要因などについてまとめた。次に全国31市町村との共同研究により,要介護認定を受けていない10万人超の高齢者のデータベースを構築して指標群を作成し,保険者にフィードバックするベンチマーク・システムを開発した。さらに縦断研究で解明されたリスク要因や保護的要因,応用研究としての介入研究などに基づく指標群の妥当性の検証などを行った。考察では,行政と研究者の共同の仕組みやデータベース,ベンチマーク・システム開発の多面的な意義と,ベンチマーク指標の妥当性の検証など今後の課題について述べた。健康格差と健康の社会的決定要因の「見える化」による効果的・効率的・公正な介護政策のために総合的なベンチマーク・システムのプロトタイプを開発し,社会保障領域における大規模データ活用の可能性と課題を考察した。
著者
近藤 克則
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.19-26, 2006-01-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
85
被引用文献数
1

世界ではじめて, 全国民に利用時原則無料で医療を保障する制度を作った国がイギリスである. しかし, そのイギリスでは, 長きにわたる医療費抑制政策の結果, 130万人を超える入院待機者に象徴される医療の荒廃を招いた. そこからの脱却を図ろうとブレア政権は, 医療費を5年間で実質1.5倍にし, 医師・看護師を大幅に増員する医療改革に取り組んでいる. 政府の発表によれば最近になりようやくその効果が見え始めている. その過程や改革の内容は, 公的医療費抑制に向けた論議がされている我が国の将来を考える上で, 多くの示唆を与えてくれる.本論では, まず「第三世界並み」とまで表現されたイギリス医療の荒廃ぶりを, 待機者問題などを例に示す. 次に, それと比べる形で, 我が国にも医療費抑制政策の歪みが表れていることを述べる. 例えば, 病院勤務医が労働基準法を遵守すれば病院医療が成り立たない状況にあることを示す. この余裕のない状態から, さらに医療費が抑制されれば, もはや医療従事者の士気が保てず, 医療が荒廃するであろう.後半では, ブレア政権が, どのようにして医療費拡大への国民の支持を得たのか, その医療改革の枠組みや保守党時代との違いを検討する. さらに, ここ数年の改革の軌跡と, それへの政府の立場と批判的な立場の両者の評価を紹介する.これらを通じ, イギリスの医療改革の経験を踏まえ, 日本においても「医療費抑制の時代」を超えて「評価と説明責任の時代」へと向かうための3つの必要条件-(1)医療現場の荒廃ぶりと, その主因が医療費抑制政策にあることを国民に知ってもらうこと, (2)医療界が自己改革をして国民からの信頼を取り戻すこと, (3)「拡大する医療費が無駄なく効率的・効果的に使われる」と国民が信頼し納得できるシステムを構築すること-を述べる.
著者
近藤 克則 戸倉 直実 二木 立
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.46-53, 1994-01-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

発症早期の座位で脳卒中の再発・進行頻度が増えるか否かを検討した.対象は発症後第7病日以内入院の全脳卒中患者384人.入院第14日以内の意識障害,片麻痺などの悪化を再発・進行とした.座位耐性訓練以外に,来院時・診察時・看護上の座位なども座位に含めた.その結果,入院後14日以内の死亡を含めた再発・進行は,(1)早期座位の対象となる入院第1病日の意識障害清明,または1桁の患者281人のうち42人(14.9%)でみられ,(2)入院第1日に座位にした群で21/200人(10.5%)と座位にしなかった群の21/81人(25.9%)よりむしろ低かった.(3)重症度・病型・病巣部位・全身状態の安定度などで層別化しても結果は同様で,早期座位を施行しても再発・進行は増えていなかった.
著者
近藤 尚己 近藤 克則 横道 洋司 山縣 然太朗
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.91-101, 2012 (Released:2012-04-28)
参考文献数
24
被引用文献数
2

物質的に困窮していなくとも,他者と比較して自身の所得や生活の水準が相対的に低いことが心理社会的なストレスとなり健康を蝕む可能性があり,これは相対的剥奪仮説とよばれる。日本人高齢者において相対的剥奪が死亡リスクを上昇させるかを検証した。愛知老年学的評価研究(AGES)2003年ベースラインデータに介護保険給付データに基づく2007年までの死亡に関する情報を個人単位で結合した。調査参加者は愛知県および高知県内の8市町村に住み,要介護認定を受けておらず,基本的なADLが自立している高齢者とした。21,047名のうち主要変数に欠損のなかった16,023名を解析対象とした。同性・同一の年齢階級・同一市町村内在住の3項目の組み合わせで定義した集団内における所得の相対的剥奪をYitzhaki係数の変法で評価してCox比例ハザード分析を行った。平均1,358日間の追跡期間中1,236名の死亡を認めた。性・年齢階級・居住市町村を同じくする集団内における相対的剥奪1標準偏差増加ごとのハザード比(95%信頼区間)は,男性で1.20(1.06-1.36),女性で1.17(0.97-1.41)であった(絶対所得・年齢・婚姻状況・学歴・疾病治療有無で調整)。生活習慣(喫煙・飲酒・健診受診)でさらに調整したところ,ハザード比はわずかに減少した。所得水準にかかわらず,他者に比べて相対的に貧しいことが死亡リスクを高め,特に男性で強い関連がある可能性が考えられた。
著者
相田 潤 近藤 克則
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.1038-1043, 2007-11-10

歯科疾患の社会への負担は,一般に思われているよりも大きい。おもな生活習慣病の国民医療費(2004年度)の金額1)をみると,悪性新生物や糖尿病の医療費はそれぞれ2兆3306億円,1兆1168億円に上る。しかしながら,歯科疾患の医療費(2兆5377億円)は,それらをも上回っている。がんや糖尿病と比較して生命に関わる重篤度は低いが,罹患率が非常に高いため社会にとっては大きな負担となっている。 この歯科疾患にも,社会経済的あるいは地域的な格差がある。そして,科学的根拠があり,健康格差の抑制効果が期待できる予防方法もすでに確立している。 そこで今回は「『健康格差社会』への処方箋―番外編」として,「歯科疾患における健康格差とその対策」を取り上げる。ここでは歯科疾患のなかでも,「う蝕(虫歯)」を中心に話を進めていく。その理由は,歯が抜ける原因を調べた最新の調査結果2)で,う蝕とその続発症による抜歯が43.6%と,歯周病の37.1%よりも多いからである。
著者
岡部 大地 辻 大士 近藤 克則
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.367-377, 2018-07-25 (Released:2018-08-18)
参考文献数
30
被引用文献数
6

目的:高齢者総合機能評価は有用とされ,その一つとして自記式質問紙の基本チェックリストがある.一方,要介護状態の最大原因は脳卒中であり,特定健康診査(特定健診)などで検出しうる糖尿病や脂質異常症などが基礎疾患と分かっている.しかし高齢者において総合機能評価と健診のどちらが健康寿命喪失リスクの予測力が大きいか比較検討した研究はない.そこで本研究では,高齢者総合機能評価と健診のどちらが健康寿命喪失の予測力が大きいか明らかにすることを目的とした.方法:要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)の2010年の自記式郵送調査データを用いた.同年の健診データを得られた6市町において,データ結合が可能で,その後3年間の要介護認定状況および死亡を追跡することができた9,756人を分析対象とした.基本チェックリストから判定される7つのリスク(虚弱,運動機能低下,低栄養,口腔機能低下,閉じこもり,認知機能低下,うつ),メタボリックシンドロームを含む特定健診必須15項目を説明変数とし,要介護2以上の認定または死亡を目的変数としたCox比例ハザード分析をおこなった(性,年齢,飲酒,喫煙,教育歴,等価所得を調整).結果:要介護2以上の認定または死亡の発生率は,19.4人/1,000人年であった.基本チェックリストからは口腔機能低下を除く6つのリスクにおいてhazard ratio(HR)が1.44~3.63と有意であった.特定健診からは尿蛋白異常,BMI高値,AST異常,HDL低値,空腹時血糖高値,HbA1c高値の6項目においてHRは1.37~2.07と有意であった.メタボリックシンドローム該当のHRは1.05と有意ではなかった.結論:血液検査を中心とした健診よりも問診や質問紙を用いた高齢者総合機能評価の方が健康寿命喪失を予測すると考えられた.
著者
市田 行信 吉川 郷主 平井 寛 近藤 克則 小林 愼太郎
出版者
THE ASSOCIATION OF RURAL PLANNING
雑誌
農村計画学会誌 = Journal of Rural Planning Association (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.277-282, 2005-11-30
参考文献数
15
被引用文献数
4 2

This paper investigates linkage between social capital and individual health using multilevel analysis. Data for the analysis is based on 9,248 people over 65 years old living in 28 school districts in Chita peninsula. Results show that school-district-level contextual effects are found for average income and social capital. Importantly, it is argued that without adopting a multilevel approach, the debate on linkage between individual health and social capital cannot be adequately addressed.
著者
徳永 誠 近藤 克則
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.751-759, 2015 (Released:2015-12-17)
参考文献数
21
被引用文献数
5 2

大腿骨頸部骨折患者の訓練単位数と退院時Functional Independence Measure(FIM)との関係を明らかにすることを目的とした.対象は,日本リハビリテーション・データベースに登録された大腿骨頸部骨折患者のうち一定の基準を満たした19 病院の795 例である.他院手術の15 病院(371 例)と自院手術の14 病院(424 例)に分け,病院ダミーと訓練単位数を含む6 項目を説明変数,退院時運動FIMを目的変数とした重回帰分析を行った.他院手術群(訓練単位数は0.8 単位~8.6 単位)の全対象者の解析では,訓練単位数は有意な説明変数ではなかったが,50 例以上の2 病院の患者に限定すると有意(B=2.187)となった.自院手術群では訓練単位数は有意な正の係数(1.427)であった.大腿骨頸部骨折では,訓練単位数が1 単位増えれば,退院時運動FIMが1.4~2 点程度高くなると考えられた.
著者
木村 哲也 石川 鎮清 中村 好一 近藤 克則 尾島 俊之 菅原 琢磨
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.235-243, 2022-08-05 (Released:2022-08-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1

【目的】近年,時代に即した医療課題の解決のため,適切な社会医学の人材育成がなされているかを,明らかにすることを目的とした。【方法】量的調査と質的調査を行った。量的調査では,近年20年間の社会医学分野の講座名称及び教員数の変化について名簿調査を行った。質的調査では,社会医学分野の研究者・教員9名及び高等教育行政,厚生行政,医学会関係者各1名ずつの計12名に対してインタビュー調査を行った。インタビュー調査は半構造化面接の方法で行い,質的に分析した。【結果】名簿調査では,20年間のうちに,医学教育において社会医学分野の教員数に変化はないが,基礎医学・臨床医学分野を合わせた教員の全体数が増加しているため,社会医学分野の教員の割合は3.0%(521人/17,224人)から2.1%(508人/24,121人)に減少していた。インタビューでは,公衆衛生大学院の創設や社会医学専門医制度などの開始,地方自治体や国際保健において社会医学人材の活躍が期待される一方で,魅力ある教育プログラムやキャリアパスのイメージが示されていないこと,実践現場と研究・教育の乖離などの課題が明らかとなった。【結論】量的・質的分析を合わせた結果,1)新たな課題に取り組む人材育成のため教育・専門医制度などの質の保証の充実,2)社会医学の可能性を伝え参入する若手を増やすための方策強化,3)現場と研究,教育の乖離が見られるためビッグデータやグローバルヘルスを使った現場と教育と研究の統合,の3つの課題を抽出することができた。
著者
小林 周平 陳 昱儒 井手 一茂 花里 真道 辻 大士 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-065, (Released:2022-12-23)
参考文献数
37

目的 高齢者の歩行量を維持・増加させることには多くの健康上望ましい効果が期待できる。しかし,健康日本21(第二次)中間評価では,高齢者の歩数が目標値まで達成できなかったことが報告されている。そのため,従来とは異なるアプローチに建造環境(街路ネットワーク,施設や居住密度,土地利用など人工的に造られる環境)を通じた身体活動量や歩数の維持・増加をもたらすゼロ次予防が注目されている。本研究では,建造環境の1つである生鮮食料品店の変化と歩行時間の変化との関連を明らかにすることを目的とした。方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が27市町の要介護認定を受けていない65歳以上を対象に実施した自記式郵送調査データを用いた2016・2019年度の2時点での縦断パネル研究である。目的変数は,歩行時間の2時点の変化(増加あり・なし)とし,説明変数は追跡前後の徒歩圏内にある生鮮食料品(肉,魚,野菜,果物など)が手に入る生鮮食料品店の有無の2時点の変化を5群にカテゴリー化(なし・なし:参照群,なしとわからない・あり,あり・あり,あり・なしとわからない,その他)したものである。調整変数は2016年度の人口統計学的要因,健康行動要因,環境要因,健康要因の計14変数とした。統計分析は,ロバスト標準誤差を用いたポアソン回帰分析(有意水準5%)で歩行時間の増加なしに対する歩行時間の増加ありとなる累積発生率比(cumulative incidence rate ratio:CIRR)と95%信頼区間(confidence interval:CI)を算出した。分析に使用する全数のうち,無回答者などを欠測として多重代入法で補完した。結果 歩行時間の増加ありが13,400人(20.4%)だった。追跡前後で徒歩圏内の生鮮食料品店の有無の変化が「なし・なし」(6,577人,10.0%)と比較した場合,「なしとわからない・あり」(5,311人,8.1%)のCIRRは1.12(95%CI:1.03-1.21)だった。結論 徒歩圏内の生鮮食料品店が増加していた者で,高齢者の歩行時間が増加した者の発生が12%多かった。暮らしているだけで歩行量が増える建造環境の社会実装を目指す手がかりを得られたと考える。
著者
平井 寛 近藤 克則 尾島 俊之 村田 千代栄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.501-512, 2009 (Released:2014-06-13)
参考文献数
37
被引用文献数
15

目的 本研究では,地域在住高齢者9,702人を 3 年間追跡し,要介護認定のリスク要因の検討を行った。方法 2003年10月,東海地方の介護保険者 5 市町の協力を得て,各市町に居住する65歳以上で要介護認定を受けていない高齢者24,374人を対象とした自記式アンケート郵送回収調査を行った。調査回答者は12,031人(回収率49.4%)であった。このうち,性別,年齢を回答していない者(n=1387),歩行,入浴,排泄が自立していないまたは無回答の者(n=905),2003年10月31日までに要介護状態になった者,死亡した者(n=37)を除いた9,702人を分析対象とし2006年10月まで 3 年間追跡した。 目的変数(エンドポイント)は要介護認定とした。説明変数として年齢,家族構成,等価所得,教育年数,治療中の疾病の有無,内服薬数,転倒,咀嚼力,BMI,聴力障害,視力障害,排泄障害,老研式活動能力指標,うつ,主観的健康感,飲酒,喫煙,一日当たりの平均歩行時間,外出頻度,友人との交流,社会的サポート,会参加,就労,家事への従事を用いた。 Cox 比例ハザード回帰分析を用いて,要介護認定についてのハザード比を求めた。分析は男女別に行った。分析にはすべて SPSS 12.0J for Windows の Cox 比例ハザード回帰を用いた。結果 3 年の追跡期間中の死亡は520人,要介護認定838人,重度要介護認定380人であった。転出等による追跡打ち切りが103人であった。男女共通して要支援以上の要介護認定の高いリスクと関連していることが示されたのは,年齢高い,治療中の疾病あり,服薬数多い,一年間の転倒歴あり,咀嚼力低い,排泄障害あり,生活機能低い,主観的健康感よくない,うつ状態,歩行時間30分未満,外出頻度少ない,友人と会う頻度月 1 回未満,自主的会参加なし,仕事していない,家事していないこと,であった。結論 要介護に認定に関連するリスク要因を明らかにした。これらに着目した介護予防プログラムの開発が必要である。