著者
由留木 裕子 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab1060, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 アロマテラピーは芳香療法とも呼ばれ、代替療法として取り入れられるようになってきた。アロマテラピーは、リラクゼーションや認知機能への効果、自律神経への影響から脈拍や血圧の変化、そして脳の活動部位の変化が示されてきている。しかし、アロマテラピーが筋緊張に及ぼす影響についての検討はほとんどみられない。本研究では鎮静作用や、抗けいれん作用があると言われているラベンダーの刺激が筋緊張の評価の指標といわれているF波を用いて、上肢脊髄神経機能の興奮性に与える影響を検討した。【方法】 対象は嗅覚に障害がなく、アロマの経験のない右利きの健常者10名(男性7名、女性3名)、平均年齢25.9±6.0歳とした。方法は以下のとおり行った。気温24.4±0.8℃と相対湿度64.3±7.1%RHの室内で、被験者を背臥位で酸素マスク(コネクターをはずしマスクのみの状態)を装着し安静をとらせた。その後、左側正中神経刺激によるF波を左母指球筋より導出した。この時、上下肢は解剖学的基本肢位で左右対称とし、開眼とした。F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数は30回とした。次にビニール袋内のティッシュペーパーにラベンダーの精油を3滴、滴下し、ハンディーにおいモニター(OMX-SR)で香りの強度を測定した。香りの強度が70.7±7.7のビニール袋をマスクに装着し2分間自然呼吸をおこない、F波測定を吸入開始時、吸入1分後、ビニール袋をはずし吸入終了直後、吸入終了後5分、吸入終了後10分、吸入終了後15分で行った。F波分析項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。統計学的検討は、kolmogorov-Smirnov検定を用いて正規性の検定を行った。その結果、正規性を認めなかったために、ノンパラメトリックの反復測定(対応のある)分散分析であるフリードマン検定で検討し、安静時試行と各条件下の比較をwilcoxonの符号付順位検定でおこなった。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 出現頻度においては、安静時と比較して吸入開始時、吸入1分後ともに増加傾向を示した。安静時と比較して吸入10分後は有意に低下した(p<0.01)。振幅F/M比はラベンダー吸入開始時、吸入1分後は安静時と比較して有意に増加した(p<0.05)。吸入終了直後からは安静時と比較して低下する傾向にあった。立ち上がり潜時は、ラベンダー吸入前後での変化を認めなかった。【考察】 本研究より、ラベンダー吸入中は出現頻度、振幅F/M比が促通され、吸入後は抑制された。出現頻度、振幅F/M比は、脊髄神経機能の興奮性の指標といわれている。そのため、本研究結果から、吸入開始時、吸入1分後には脊髄神経機能の興奮性が増大し、吸入後には抑制されたと考えることができる。吸入開始時、吸入1分後の脊髄神経機能の興奮性増大に関しては以下のように考えている。小長井らによると、ラベンダーの香りの存在下では事象関連電位P300の振幅がコントロール群と比較して増加したとの報告されている。事象関連電位P300は認知文脈更新の過程を反映するとされており、振幅の増大は課題の遂行能力が高いことを示している。感覚が入力され、脳内で知覚、認知、判断され、行動を実行するという能力が高いということであると考える。行動を実行するには運動の準備状態が保たれていることが推測され、脊髄神経機能の興奮性が高まっていることが考えられた。この報告と本研究結果から、ラベンダーの吸入時には大脳レベルの興奮性の増加が促され、その結果、脊髄神経機能の興奮性が増大したと考えることができた。脊髄神経機能の興奮性が吸入後から抑制されたことについては、ラベンダーが体性感覚誘発電位(SEP)に及ぼす影響を検討した研究で、ラベンダー刺激中から刺激後に長潜時成分の振幅が持続的に低下したと報告されている。これは、ラベンダーの匂い刺激が嗅覚系を介して脳幹部、視床、大脳辺縁系および大脳にそれぞれ作用し、GABA系を介して大脳を抑制したものと考えられた。今回の被験者は、アロマ未経験者を対象にしたが、アロマ経験者での結果と異なることも想定できる。また、アロマの種類によっても、効果の違いがあることが考えられる。今後、研究を行うことで、運動療法に適したアロマを取り入れ、新しい形の理学療法を展開したいと考えている。【理学療法学研究としての意義】 アロマ未経験者を対象とした筋緊張に対するラベンダーを用いたアプローチは以下のように考えることができる。上肢脊髄神経機能の興奮性を高めて筋緊張の促通を目的とする場合はラベンダー刺激中に、抑制したい場合はラベンダー刺激終了後に理学療法を行えば、治療効果を高める一助となる可能性があると考える。
著者
木田 知宏 伊藤 陸 藤本 将志 大沼 俊博 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.34-41, 2019 (Released:2019-12-26)
参考文献数
11

In patients with musculoskeletal and central nervous system diseases, even if the sitting and standing postures can be maintained to some extent, the instability of the hip joint and pelvic area may limit the muscle activity when the lower limbs are raised. By presenting electromyographic studies and images of the hip joint and pelvis during the above-mentioned movements, this study introduces points of clinical evaluation and treatment.
著者
鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-9, 2005 (Released:2006-01-26)
参考文献数
9
被引用文献数
4

Understanding the spinal neural function is important in physical therapy for patients with neurological disease, especially the control of spasticity. We introduce our research and that of others about the spinal neural function for motor control using evoked EMG. The excitability of the spinal neural function, especially that of the spinal reflex is influenced by central and peripheral nerve function due to muscle contraction and muscle stretching at different parts. In this report, we introduce researches into the spinal reflex rearding: 1) Presynaptic inhibition in healthy and neurological diseases; 2) Excitability of the spinal neural function of an affected arm with muscle contraction of the leg in patients with cerebrovascular diseases (CVD); 3) Excitability of the spinal neural function of an affected arm at the distal part with muscle stretching of the affected arm at proximal parts in patients with CVD; and 4) Excitability of the spinal neural function of an affected arm with direct muscle stretching in patients with CVD. From these reports, it is suggested that the excitability of the spinal neural function is changed by several factors: muscle contraction, muscle stretching and others of the affected muscle and different parts.
著者
髙森 絵斗 水口 真希 早田 恵乃 渡邊 裕文 文野 住文 鈴木 俊明
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.939-943, 2015 (Released:2016-01-09)
参考文献数
9

〔目的〕脳血管障害片麻痺患者の麻痺側母指球筋の筋緊張抑制に対する手太陰肺経の尺沢への経穴刺激理学療法の効果を明らかにすることとした.〔対象〕本研究に同意を得られた脳血管障害片麻痺患者7名とした.〔方法〕尺沢への経穴刺激理学療法施行の前後に麻痺側母指球筋からF波を測定し,安静試行と他の試行との間で振幅F/M比,出現頻度,立ち上がり潜時をそれぞれ比較した.〔結果〕振幅F/M比は安静試行と比較して,経穴刺激理学療法試行中,終了直後,5分後,10分後,15分後に有意に低下した.出現頻度,立ち上がり潜時は,経穴刺激理学療法試行前後の変化を示さなかった.〔結語〕筋緊張抑制目的の経穴刺激理学療法では,脊髄神経機能の興奮性を抑制することが示唆される.
著者
安井 重男 藤本 将志 渡邊 裕文 大沼 俊博 赤松 圭介 中道 哲朗 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.69-73, 2008 (Released:2009-01-15)
参考文献数
5
被引用文献数
3

We have experimented with physical therapy for patients with difficulty of body weight transfer due to hyperactivity of the latissimus dorsi and muscular contractions. For lateral body weight transfer, training changed the distance of lateral transfer in the sitting position. Recent electromyographic (EMG) studies on the latissimus dorsi reported activities in its upper and lower fibers in the scapular brachial joint during trunk exercise. However, the activities of this muscle on lateral transfer in the sitting position have not been analyzed. In this study, we examined the influence of changes in the distance of lateral transfer in the sitting position using the EMG of the upper and lower fibers of the latissimus dorsi. Initially, in the end-sitting position (starting limb position), in which the bilateral arms were folded, we measured integrated EMG (iEMG) for the upper and lower fibers of the bilateral latissimus dorsi. Subsequently, the shoulder girdle was transferred in the lateral direction at distances of 5, 10, 15, and 20 cm without inclining or rotating the line between the bilateral acromions, while maintaining the head in the vertical position, with both feet placed on the ground from the starting limb position. We determined the respective iEMGs. There were no significant lateral transfer distance-related changes in the relative iEMG for the upper and lower fibers of the mobile side latissimus dorsi. Furthermore, the value for the upper fibers of the non-mobile side increased with the distance of lateral transfer. In addition, the value for the lower fibers of the non-mobile side also elevated with the lateral transfer distance; at a distance of 20 cm, the value was significantly higher than those at distances of 5 and 10 cm. Based on the results of this study, it may be important to evaluate the abdominal oblique muscles, dorsolumbar muscles, and latissimus dorsi in performing lateral body weight transfer. Training chang the distance of lateral transfer in the sitting position of patients with difficulty of lateral transfer . In addition, the actions of the upper fibers of the latissimus dorsi differed from those of the lower fibers, suggesting the necessity of assessing these fibers individually.
著者
金井 一暁 米田 浩久 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.123-129, 2004 (Released:2005-03-11)
参考文献数
8

In this study, It was found that there was a relationship between poorcoordination of the limbs and trunk and instability of the lower trunk and pelvic girdle in a stroke patient. It was clarified that instability of the lower trunk and pelvic girdle caused by lower muscle activity of the obliquus internus abdominis made the backmuscles tone higher, and that this condition made the poorcoordination. The effect of treatment for lower muscle activity of the obliquus internus abdominis was verified using a force-measuring platform and surface electromyogram. As a result, the trunk muscle tone in this patient got closer to normal, and the poorcoordination was alleviated. It was suggested that the approach to improve the instability of the lower trunk and pelvic girdle was effective in controlling the poorcoordination.
著者
三浦 雄一郎 福島 秀晃 森原 徹 鈴木 俊明
出版者
日本腰痛学会
雑誌
日本腰痛学会雑誌 (ISSN:13459074)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.122-128, 2008 (Released:2008-12-22)
参考文献数
6
被引用文献数
2 1

腰椎椎間板ヘルニアと診断された慢性腰痛症患者2名に対し,歩行時における体幹筋の筋活動について表面筋電図を測定し,健常群と比較,検討した.症例Aでは内腹斜筋の筋活動は歩行周期を通して平坦化していた.また,腰背筋筋活動パターンは立脚期中期,遊脚期にも筋活動が増加し,多相性を呈した.常時腰背筋の筋緊張を高めることが脊柱可動性低下の一要因であると考えられた.症例Bにおける歩行時の腰背筋筋活動パターンは左側多裂筋,最長筋,腸肋筋ともに多相性パタ-ンを呈した.運動療法後は最長筋,腸肋筋,多裂筋ともに健常群のパターンに類似したが,多裂筋は立脚期中期および遊脚期中期の筋活動増大が残存した.ラセーグ徴候陽性,SLR角に変化を認めなかったことからブレーキング作用が生じたと考えられる.慢性腰痛症患者に対して表面筋電図を用いて問題点を明確にすることが運動療法の内容,治療効果判定を判断するために重要であると考える.
著者
鷹﨑 和義 和田 敏裕 森下 大悟 佐藤 利幸 佐久間 徹 鈴木 俊二 川田 暁
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.41-51, 2018 (Released:2019-03-20)
参考文献数
30

2015年5月~2016年11月に,福島県内の阿武隈川水系の13定点においてさし網や延縄などを用いた調査を行い,716個体(体長9.9~65.0 cm)のチャネルキャットフィッシュが採集された。本種は阿武隈川の本流で採集され,特に発電用ダム(信夫ダム,蓬莱ダム)の貯水域やその下流域で多く採集された。信夫ダムでは,2008年に比べて CPUE が著しく増加していることや,GSI の高い成熟個体や未成熟の小型個体が多く採集されたことから,近年,ダム周辺の水域を中心に,再生産により本種の個体数が急激に増大している可能性が考えられた。雌の GSI の季節変化より,本水系における産卵期は5~6月ごろと推定された。信夫ダムにおいて,さし網および延縄により採集された魚類のうち,本種が占める割合は非常に高く(各64.2%および100%),本水系における適切な駆除手法の確立が急務であると考えられた。
著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 布谷 美樹 田中 伸幸 山本 栄里 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0635, 2005 (Released:2005-04-27)

【はじめに】我々は、肩関節疾患患者の肩甲上腕リズムの乱れに関して、肩関節屈曲に伴い肩甲骨には力学的に前傾方向へのモーメントが加わり、これを制動できない場合は、肩甲骨の安定した円滑な上方回旋に支障が生ずるのではないかと考えている。そこで、第44回近畿理学療法学術集会にて、屈曲30°位において僧帽筋下部線維は上部・中部線維と比較して有意に筋活動が増大したことから、この前傾モーメントを制動するには解剖学的に僧帽筋下部線維が有効であると報告した。このことから、上肢の運動に伴い肩甲骨には力学的なモーメントが生じ、また運動方向の違いによって肩甲骨にかかるモーメントも異なることが示唆された。今回、肩関節外転運動に着目し、肩関節屈曲運動と比較して肩甲骨に生じるモーメントが異なると仮定し、肩関節初期屈曲・外転角度における僧帽筋の肩甲骨安定化機能を筋電図学的に比較・検証したので報告する。【対象と方法】対象は健常男性7名(平均年齢28.7±4.2歳)、両上肢(14肢)とした。運動課題は端座位姿勢での上肢下垂位、屈曲30°位および外転30°位をそれぞれ5秒間保持し、それを3回施行した。測定筋は僧帽筋上部・中部・下部線維とし筋電計myosystem1200(Noraxon社製)を用いて測定した。分析方法は下垂位の筋積分値を基準に屈曲30°位と外転30°位の筋積分値相対値を算出し、各線維ごとに対応のあるt検定を行った。なお、対象者には本研究の目的・方法を説明し、了解を得た。【結果と考察】僧帽筋上部・中部線維の筋積分値相対値は、屈曲位と比較して外転位において有意に増大した(p<0.01)。一方、下部線維の筋積分値相対値は屈曲位と比較して外転位において減少傾向となった。肩甲上腕リズムでは屈曲60°、外転30°までは肩甲骨の運動なしに肩甲上腕関節固有の運動でなされるsetting phaseの時期である。本研究における運動課題もsetting phaseの時期であり、この時期での僧帽筋の活動は肩甲骨と体幹を固定するための活動であると考える。山本らは正常な肩甲骨の動きは胸鎖関節を支点として三次元的に制動方向が導かれることとなるが、その動的な制御は肩甲骨と胸郭を連結している筋群のバランスと肩鎖関節の安定性により決定されるとしている。僧帽筋上部・中部線維については解剖学的に鎖骨外側1/3・肩峰・肩甲棘上縁に付着しており上肢の外転運動に伴う肩甲骨の下方回旋モーメントへの制御に機能したと考える。一方、下部線維については解剖学的に肩甲棘内側下部(肩甲棘三角)に付着しており上肢の屈曲運動に伴う肩甲骨の前傾モーメントへの制御により機能したと考える。以上より、上肢の運動方向が異なれば肩甲骨に生じる力学的なモーメントも異なり、そのモーメントに応じて選択的に僧帽筋の各線維がより活動し肩甲骨を制御することが示唆された。
著者
吉岡 芳泰 谷埜 予士次 鈴木 俊明
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.555-559, 2014 (Released:2014-09-25)
参考文献数
19

〔目的〕膝伸展直後に最大努力で膝屈曲を行わせ,その際のハムストリングスの筋活動と膝屈曲トルクについて検討した.〔対象〕健常男子学生9名とした.〔方法〕角速度60°/secで,膝屈曲30°から80°までの膝屈曲を対象者の最大努力で行なわせ,その直前に収縮様態と強度,および角速度を変化させた膝伸展課題を行った.〔結果〕各膝伸展課題直後の筋電図の平均振幅値は内側ハムストリングスで有意に減少し,腓腹筋は有意に増加した.また,膝屈曲ピークトルクに有意差はないが,その発揮角度は有意に低値となった.〔結語〕ハムストリングスの筋収縮を促したい場合は,膝屈曲のみを行った方が良いということが示された.
著者
大沼 俊博 渡邊 裕文 蔦谷 星子 三好 裕子 山口 剛司 赤松 圭介 藤本 将志 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0551, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】臨床場面において歩行の立脚期に体幹・骨盤・下肢に不安定性を認める患者の理学療法を経験することがある。この時立脚側の支持性向上を図る目的で、片脚立位にて非支持側股関節を外転させての練習を実施することがある。我々は先行研究にて前方台へのステップ保持が、体幹筋や下肢筋の筋積分値に与える影響について検討してきた。今回我々は片脚立位における非支持側股関節外転角度を変化させた場合の両側外腹斜筋、内腹斜筋および腰背筋群の筋積分値変化について検討し、若干の知見を得たので報告する。【対象と方法】対象は、整形外科、神経学的に問題のない健常男性7名、平均年齢は28.9歳であった。まず被験者に安静立位保持をさせた。この状態で筋電計ニューロパック(日本光電社)を用いて、双極導出法にて両側外腹斜筋、内腹斜筋、腰背筋群の筋積分値を測定した。外腹斜筋の電極は第8肋骨下縁に電極間距離2cmにて配置し、内腹斜筋は両側上前腸骨棘を結ぶ線より2cm下方の平行線と鼠径部との交点、および2cm内方へ電極を配置した。さらに両側腰背筋群の電極は第3腰椎棘突起側方3cmおよび上方2cmの位置へ配置した。測定時間は10秒間とし、3回測定した。次に非支持側の下肢において股関節外転角度を0°、15°、30°、45°、60°と変化させ、同様に筋積分値を測定した。この時の股関節外転角度は非支持側上前腸骨棘を通る床面への垂線を基本軸とし、大腿中央線を移動軸とした。また骨盤の傾斜角度を確認するため、両側の上前腸骨棘にマーカーを貼付し、前方よりビデオ撮影した。【結果および考察】骨盤傾斜角度は、股関節外転角度の増大に伴い増加した。外腹斜筋の筋積分値は両側共に有意な変化を認めなかった。内腹斜筋、腰背筋群については両側共に股関節外転角度の増大に伴い増加した。三浦らによると、外腹斜筋は動作と同期して活動しやすく、体幹回旋時の求心性収縮作用に関与すると述べている。またSnijdors、三浦らは、片脚立位や歩行の立脚期において、仙腸関節へ生じる剪断力に対して内腹斜筋の筋活動はそれを防ぐ効果があると報告している。さらに市橋らは立位での非支持側股関節外転時、支持側の中臀筋に筋活動の増加を認めたと報告し、またCastaingは片脚立位の場合、支持側の中臀筋、大臀筋、大腿筋膜張筋が骨盤の非支持側への傾斜を制御すると報告している。本結果から両側外腹斜筋に関しては、本課題では体幹回旋動作がなく、求心性収縮の要素がなかったため筋積分値に変化を認めなかったと考える。また両側内腹斜筋に関しては、非支持側股関節外転位での片脚立位時に生じる仙腸関節への剪断力の増加に対して筋積分値の増加を認めたと考える。さらに両側腰背筋群に関しては、本課題では支持側中臀筋、大臀筋、大腿筋膜張筋と共に骨盤の非支持側への傾斜に対する制御に関与したと考える。
著者
鈴木 俊明 谷 万喜子 浦上 さゆり 文野 住文 鬼形 周恵子
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-6, 2012 (Released:2012-12-27)
参考文献数
3

We describe the following 3 important points in muscle tone evaluation. (1) It is important to examine the tension of the skin and other soft tissues as well. (2) The results of research into the rectus abdominis indicate that muscle tone in the central belly may not reflect the overall tone of that muscle. (3) Detailed evaluation of the function of all abdominal and back muscles should be performed.
著者
池澤 秀起 井尻 朋人 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0386, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】肩関節疾患患者の上肢挙上運動は,肩甲骨挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つに,僧帽筋下部線維の筋力低下が挙げられるが,疼痛や代償運動により患側上肢を用いた運動で僧帽筋下部線維の筋活動を促すことに難渋する。そこで,上肢の運動を伴わずに僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として,腹臥位での患側上肢と対側の下肢空間保持が有効ではないかと考えた。腹臥位での下肢空間保持は股関節伸展筋の活動が必要となる。一方,骨盤の肢位を保持するために空間保持側の骨盤と脊柱などに付着する筋肉の活動が必要となり,同様に脊柱の肢位を保持するために空間保持側と対側の脊柱と肩甲骨などに付着する筋肉の活動が増大するのではないかと考えた。先行研究にて筋活動を検証した結果,腹臥位での下肢空間保持時の対側の僧帽筋下部線維の活動と,腹臥位での肩関節外転145度位保持側の僧帽筋下部線維の筋活動は同程度であった。先行研究では肩関節外転角度などの肢位を変え僧帽筋下部線維の活動を測定したが,全て肘関節屈曲位での測定であった。そこで,肘関節肢位の変化が僧帽筋下部線維の活動に与える影響を明確にし,僧帽筋下部線維の活動を促すためのトレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は健常男性14名(年齢24.6歳,身長170.1cm,体重61.9kg)とした。測定課題は,利き腕と反対側の下肢空間保持とした。測定肢位は,腹臥位で両股関節中間位,両膝関節伸展位,両肩関節外転90度,両前腕回内位とし,肘関節伸展0度と肘関節最大屈曲位で測定した。測定筋は,下肢空間保持側と反対の僧帽筋上部・中部・下部線維,三角筋後部線維,棘下筋,両側多裂筋とした。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は,1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。算出された筋電図積分値相対値は正規分布を認めなかったため,Wilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較した。比較は,肘関節屈曲,伸展位条件間で行い,危険率は5%未満とした。【結果】僧帽筋下部線維,三角筋後部線維の筋電図積分値相対値は,肘関節伸展位と比較し屈曲位で有意に増加した。僧帽筋下部線維,三角筋後部線維の中央値は肘関節屈曲位で10.2,28.0,肘関節伸展位で5.2,17.0であった。その他の筋電図積分値相対値は肘関節肢位の変化による有意差を認めなかった。【結論】腹臥位での下肢空間保持課題は,肘関節伸展位と比較し屈曲位で僧帽筋下部線維の筋活動を促せる可能性が高いことが示唆された。また,肘関節伸展位と比較し屈曲位で三角筋後部線維の筋活動も有意に増大した。このことから,肩関節水平外転運動に作用する三角筋後部線維の筋活動の増大に対して,起始部の肩甲骨の安定性を高めるために僧帽筋下部線維の筋活動も有意に増大したのではないかと考える。
著者
池澤 秀起 井尻 朋人 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab1307, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 肩関節疾患患者の肩関節挙上運動は、肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして、僧帽筋下部線維の筋力低下による肩甲骨内転、上方回旋運動の減少が挙げられる。そのため、患側上肢の運動により僧帽筋下部線維の筋活動を促すが、可動域制限や代償運動により難渋する。そこで、患側上肢を用いない運動として、腹臥位での患側上肢と反対の股関節外転位空間保持が有効と考えた。腹臥位で股関節外転位空間保持は、股関節に加え体幹の安定を得るための筋活動が必要になる。この体幹の安定を得るために、股関節外転位空間保持と反対側の僧帽筋下部線維が作用するのではないかと考えた。そこで、僧帽筋下部線維のトレーニングに有効な股関節外転角度を明確にするため、外転保持が可能な範囲である股関節外転0度、10度、20度位における外転保持時の僧帽筋下部線維の筋活動を比較した。また、各角度での僧帽筋下部線維の活動を、MMTで僧帽筋下部線維の筋力測定に用いる腹臥位での反対側の肩関節外転145度位保持時の筋活動と比較した。これにより、僧帽筋下部線維の活動がどの程度得られるかを検証した。【方法】 対象は上下肢、体幹に現在疾患を有さない健常男性14名(年齢23.1±3.7歳)とした。測定課題は、利き足の股関節外転0度、10度、20度位空間保持と、利き足と反対側の肩関節外転145度位空間保持とした。測定肢位は、ベッドと顎の間に両手を重ねた腹臥位とし、この肢位から股関節屈伸0度位で設定角度まで股関節外転させ、空間保持させた。肩関節外転位空間保持は、MMTでの僧帽筋下部線維の測定肢位である、肩関節145度外転、肘関節伸展、手関節中間位で空間保持させた。測定筋は利き足と反対側の僧帽筋下部線維とした。筋電図測定にはテレメーター筋電計(MQ-8、キッセイコムテック社製)を使用した。また、肩関節、股関節外転角度はゴニオメーター(OG技研社製)で測定した。測定筋の筋活動は、1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。さらに、股関節外転位空間保持において、股関節外転角度の変化が僧帽筋下部線維の筋活動量に与える影響を調べるために、各外転角度での僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した。加えて、僧帽筋下部線維の活動量を確認するため、腹臥位での肩関節外転145度位保持時と、股関節外転0度、10度、20度位保持における各々の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した。比較には一元配置分散分析及び多重比較検定を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的及び方法を説明し、同意を得た。【結果】 股関節外転位空間保持での僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、股関節外転0度で14.6±10.9、10度で17.1±12.3、20度19.9±16.6となり、股関節外転角度の増減により有意な差を認めなかった。また、肩関節外転145度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は17.6±9.9となった。股関節外転0度、10度、20度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値と、肩関節外転145度位保持時では全てにおいて有意な差を認めなかった。【考察】 腹臥位での股関節外転位空間保持で、僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、股関節外転角度の増減により有意な差を認めなかった。この要因として、ベッドによる体幹支持、体幹筋や僧帽筋下部線維を含めた肩甲骨周囲筋の活動など、様々な要素が脊柱や骨盤の固定に作用したためではないかと考える。 一方、腹臥位での肩関節外転145度位保持時と股関節外転0度、10度、20度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した結果、有意な差は認めなかった。つまり、全てにおいて同程度の僧帽筋下部線維の筋活動が生じていたといえる。このことから、腹臥位での股関節外転0度、10度、20度位保持は、上肢の運動を伴わずに反対側の僧帽筋下部線維の活動を促せるため、可動域制限や代償動作により筋活動を促すことに難渋する対象者の治療に活用できる可能性がある。しかし、股関節外転位空間保持による反対側の僧帽筋下部線維の活動は脊柱の固定に作用することが考えられるため、起始部付近の活動が主であることが推察される。そのため、上肢挙上時の僧帽筋下部線維の筋活動に直結するかは検討の余地が残ると考える。【理学療法学研究としての意義】 腹臥位での股関節外転0度、10度、20度位保持は、反対側上肢の僧帽筋下部線維のトレーニングに有効であることが示唆された。これは、可動域制限や代償動作により僧帽筋下部線維の活動を促すことが難しい対象に対して有効であると考えられた。
著者
池澤 秀起 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0690, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】肩関節疾患患者の上肢挙上運動は,肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして,僧帽筋下部線維の筋力低下が挙げられるが,疼痛や代償運動により患側上肢を用いた運動で僧帽筋下部線維の筋活動を促すことに難渋する。そこで,上肢の運動を伴わずに僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として,腹臥位での患側上肢と反対側の下肢空間保持が有効ではないかと考えた。その結果,第47回日本理学療法学術大会において,腹臥位での下肢空間保持と腹臥位での肩関節外転145度位保持は同程度の僧帽筋下部線維の筋活動を認めたと報告した。また,第53回近畿理学療法学術大会において,両側の肩関節外転角度を変化させた際の腹臥位での下肢空間保持における僧帽筋下部線維の筋活動は,0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大したと報告した。一方,先行研究では両側の肩関節外転角度を変化させたため,どちらの肩関節外転が僧帽筋下部線維の筋活動に影響を与えたか明確でない。そこで,一側の肩関節外転角度を一定肢位に保持し,反対側の肩関節外転角度を変化させた際の僧帽筋下部線維の筋活動を明確にする必要があると考えた。これにより,僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す因子を特定し,トレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は上下肢,体幹に現在疾患を有さない健常男性16名(年齢25.6±2.1歳,身長168.5±2.5cm,体重60.4±6.7kg)とした。測定課題は,利き腕と反対側の下肢空間保持とした。測定肢位は,腹臥位でベッドと顎の間に両手を重ねた肢位で,下肢は両股関節中間位,膝関節伸展位とした。また,空間保持側の上肢は肩関節外転0度で固定し,反対側の上肢は肩関節外転角度を0度,30度,60度,90度,120度と変化させた。肩関節外転角度の測定はゴニオメーター(OG技研社製)を用いた。測定筋は,空間保持側と反対の僧帽筋上部,中部,下部線維,広背筋とした。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は,1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。また,5つの角度における全ての筋電図積分値相対値をそれぞれ比較した。比較には反復測定分散分析及び多重比較検定を用い,危険率は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し,同意を得た。【結果】僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は,肩関節外転角度が0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大した。広背筋の筋電図積分値相対値は,肩関節外転角度が30度,60度,90度,120度に対して0度で有意に増大した。僧帽筋上部線維,僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は,全ての肢位において有意な差を認めなかった。【考察】先行研究と今回の結果から,腹臥位での下肢空間保持における僧帽筋下部線維の筋活動は,空間保持側と反対の肩関節外転角度の影響が大きいことが判明した。つまり,腹臥位での下肢空間保持は,空間保持側と反対の肩関節外転角度を考慮することで僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことが出来る可能性が高いと考える。まず,腹臥位での下肢空間保持は,下肢を空間保持するために股関節伸展筋の筋活動が増大する。それに伴い骨盤を固定するために空間保持側の腰背筋の筋活動が増大し,さらに,二次的に脊柱を固定するために空間保持側と反対の腰背筋や僧帽筋下部線維の筋活動が増大することが考えられる。このことを踏まえ,僧帽筋下部線維の筋活動が肩関節外転0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大した要因として,肩関節外転角度の変化により脊柱を固定するための筋活動が広背筋から僧帽筋下部線維に変化したのではないかと考える。広背筋の筋活動は肩関節外転30度,60度,90度,120度に対して0度で有意に増大したことから,肩関節外転0度では脊柱の固定に広背筋が作用したことが推察される。一方,肩関節外転角度の増大により広背筋は伸長位となり,力が発揮しにくい肢位となることが推察される。また,広背筋は上腕骨,僧帽筋下部線維は肩甲骨に停止することに加え,肩甲上腕リズムから肩関節外転角度の増大に対して,広背筋は僧帽筋下部線維と比較し伸長される割合が大きいことが推察される。その結果,肩関節外転角度の増大に伴い脊柱を固定するために僧帽筋下部線維の筋活動が増大したのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】腹臥位での下肢空間保持において,僧帽筋下部線維の筋活動は先行研究と同様の結果であったことから,空間保持側と反対の肩関節外転角度が僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す要因となる可能性が高いことが示唆された。
著者
池澤 秀起 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100556, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩関節疾患患者の肩関節挙上運動は、肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして、僧帽筋下部線維の筋力低下による肩甲骨内転、上方回旋運動の減少が挙げられる。理学療法の場面において、患側上肢の運動により僧帽筋下部線維の筋活動を促すが、可動域制限や代償運動により難渋する。そこで、僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として、腹臥位での患側上肢と反対側の股関節外転位空間保持が有効ではないかと考えた。その結果、第47 回日本理学療法学術大会において、腹臥位での股関節中間位空間保持と腹臥位での肩関節外転145 度位保持は同程度の僧帽筋下部線維の筋活動を認めたと報告した。一方、先行研究では下肢への抵抗負荷を用いない自重負荷であったことから、下肢への抵抗負荷を考慮することで僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促せるのではないかと考えた。腹臥位での股関節中間位空間保持において下肢への抵抗負荷の有無が僧帽筋下部線維や肩甲骨周囲筋の筋活動に与える影響を明確にし、僧帽筋下部線維のトレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は上下肢、体幹に現在疾患を有さない健常男性22 名(年齢25.4 ± 2.4 歳、身長168.9 ± 2.2cm、体重60.6 ± 4.0kg)とした。測定課題は、利き腕と反対側の股関節中間位空間保持とした。測定肢位は、ベッドと顎の間に両手を重ねた腹臥位で股関節中間位とした。測定筋は、股関節中間位空間保持側と反対側で利き腕側の僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維、僧帽筋下部線維とした。股関節中間位空間保持側への抵抗負荷量は、対象者の体重の0%、10%、30%、50%の重さを抵抗負荷量として設定し、Isoforce(オージー技研社製)を用いて測定した。抵抗負荷をかける位置は、大腿骨内側上顆と外側上顆を結んだ線の中点と坐骨を結んだ線分の中点とし、鉛直下方向に抵抗を加えた。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は、1 秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。また、抵抗負荷が無い場合(0%)、抵抗負荷が体重の10%、30%、50%とした場合の測定筋の筋電図積分値相対値を算出し、4 群全ての筋電図積分値相対値をそれぞれ比較した。比較には一元配置分散分析及び多重比較検定を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し、同意を得た。【結果】僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%に対して、抵抗負荷が30%、50%において有意に増加した。また、僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%、10%、30%に対して、抵抗負荷が50%において有意に増加した。【考察】腹臥位での股関節中間位空間保持において、空間保持側と反対側の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%に対して、抵抗負荷が30%、50%において有意に増加した。この要因として、脊柱の固定には体幹筋や肩甲骨周囲筋の選択的な筋活動ではなく、全ての筋群の協調的な筋活動により脊柱の固定を図るのではないかと推察する。このことから、腹臥位での股関節中間位保持における下肢への抵抗運動において僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことは難しいのではないかと考える。また、僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%、10%、30%に対して、抵抗負荷が50%において有意に増加した。低負荷での股関節中間位空間保持では、骨盤や脊柱を固定するために両側の腰部多裂筋の筋活動が作用したと推察する。一方、高負荷での股関節中間位空間保持では、骨盤や脊柱を固定するためにより大きな力が必要になる。そのため、腰部多裂筋など骨盤と脊柱に付着する筋群に加え、空間保持側と反対側の僧帽筋など脊柱と肩甲骨に付着する筋群の筋活動が増大することで脊柱の固定を図ったのではないかと考える。一方、肩関節挙上時に肩甲骨内転筋の筋緊張低下により肩甲骨外転位を呈する対象者は、高負荷での抵抗運動により僧帽筋上部・中部・下部線維の筋活動を総合的に促すことが可能となるため効果的なトレーニングになるのではないかと推察する。しかし、肩関節挙上時に僧帽筋上部線維の過剰な筋活動を認める対象者は、高負荷での抵抗運動は効果的ではないと考える。【理学療法学研究としての意義】腹臥位での股関節中間位空間保持課題において、抵抗負荷の増減により僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことは難しいが、高負荷での抵抗運動は、肩関節挙上時に肩甲骨の内転運動が乏しい対象者のトレーニングとして効果的であることが示唆された。
著者
星川 典子 小野 恭司 塩田 寛子 鈴木 俊也 猪又 明子 守安 貴子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.139, no.1, pp.135-140, 2019-01-01 (Released:2019-01-01)
参考文献数
14

Nail tips are nail art materials that can be attached to the nail with adhesives. Recently, nail/finger injuries related to nail tips have been reported and one of the causes is considered to be the adhesives used for attaching nail tips. The components of nail adhesives are mostly cyanoacrylate, which is also used as an industrial instant adhesive. During curing, cyanoacrylate adhesives release formaldehyde through hydrolysis. When it is marketed as a nail adhesive, there is no regulation regarding its formaldehyde amount nor obligation to indicate its ingredients in Japan. Additionally, a biological safety test is not required for nail adhesives. Thus, because the safety of nail adhesives is inadequately confirmed, it is necessary to investigate their biological safety. Therefore, we purchased 5 commercially available nail adhesives and 1 medical adhesive and examined their formaldehyde content and cytotoxicity. We examined the cytotoxicity of the adhesives in V79 cells by a colony forming assay. In this test, 5 nail adhesives showed higher toxicity than 1 medical adhesive. Formaldehyde concentrations in the extract of adhesives were as follows: 17.5 to 24.2 μg/mL for nail adhesives and 7.4 μg/mL for medical adhesives. Cyanoacetate did not elicit cytotoxicity at the final concentration up to 1000 μM. However, formaldehyde showed cytotoxicity, with an IC50 of 79 μM (2.4 μg/mL). Taken together, the cytotoxicity of nail adhesives could be due to the formaldehyde generated by the hydrolysis of cyanoacrylate. It seems important that nail adhesives will be regulated by obligation and enhanced safety in the future.