著者
大屋 藍子 槇野 久士 孫 徹 橡谷 真由 玉那覇 民子 大畑 洋子 肥塚 諒 松尾 美紀 河面 恭子 藤井 紀子 金子 春恵 河合 幸枝 福島 佳織 万福 尚紀 細田 公則 武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.748-754, 2019-12-30 (Released:2019-12-30)
参考文献数
19

本研究は,糖尿病に対する回避の程度とセルフケア行動の関連を確認し,心理的柔軟性のパターンによってセルフケア行動に違いがあるか検討を行うことを目的とした.124名の2型糖尿病患者に対し,糖尿病に対する心理的態度やセルフケア行動の程度について質問紙調査を実施した.その結果,糖尿病に対する回避の程度が高い者は糖尿病に関する心理的負担が高く,情動的摂食や外発的摂食の傾向も高かった.また,階層的クラスター分析を行った結果,行動先行型,非行動型,行動柔軟型の3つのクラスターが生成された.中でも人生の価値が明確でそれに応じた行動がとれるが,不安や思考への適切な対処が難しい「行動先行型」の患者は,日常での運動頻度が高い一方,心理的負担や情動的摂食の程度も高く,心理的問題の存在が示唆された.2型糖尿病患者には心理的状態に応じたセルフケア行動の特徴があり,それを考慮した糖尿病教育が必要であることが示唆された.
著者
高橋 良当 高山 真一郎 伊藤 威之 井上 幸子 大森 安恵
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.165-170, 1998-03-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
14
被引用文献数
3

高度な痛みやしびれを伴った治療後有痛性神経障害 (PPN) 86例の病態を報告する. 平均年齢46歳 (19~78歳), 男55名, 女31名.糖尿病罹病期間は推定7.7年 (0~27年) であるが, 平均5年の放置期間が含まれる. 糖尿病治療開始時のHbA1cは平均14%で, 治療後平均2カ月 (2週~5カ月) で8.8%に改善するも, この間に不眠や苦痛を伴った疼痛が下肢-腰背部に突然出現した. メキシレチン, 抗うつ剤, フルフェナジンなどの治療により平均1年で疼痛は軽減し, BMIは18.7から20.7に改善したが, 網膜症は67%が悪化し, 30%は不変であった. PPNの発症機序は不明であるが, 臨床的にきわめて特徴ある病態を呈し, 予後は良好であった. 長期間高血糖状態が続き, 神経障害を有する患者の血糖コントロールは慎重に行うべきである.
著者
大橋 忠将 有山 ゆり 早川 惠理 長沢 美樹 杉山 徹
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.407-413, 2016

49歳男性.鍼治療後14日で僧帽筋膿瘍,DKA(血糖値643 mg/dL,pH 6.916,総ケトン体20600 <i>μ</i>mol/L)を生じ,意識障害で当院に救急搬送となった.抗菌薬投与,デブリードマン,局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:NPWT)にて膿瘍の治療を行い,糖尿病に関しては強化インスリン療法で血糖管理した.感染及び血糖値改善後は基礎インスリン投与と経口血糖降下薬の併用療法(basal-supported oral therapy:BOT)に変更して血糖管理を継続した.もともと無治療の糖尿病(HbA1c 15.1 %)による易感染性があり,鍼治療を契機にして僧帽筋膿瘍,感染に伴うDKAを生じたと考えられた.管理不良の糖尿病の存在下では,鍼治療のような侵襲的医療行為により感染症が引き起こされる危険性があり,注意が必要である.
著者
坂口 一彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.588-590, 2012 (Released:2012-09-12)
参考文献数
5
著者
遠藤 美智子 松岡 孝
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.192-199, 2011 (Released:2011-04-22)
参考文献数
21

食酢は食後血糖値の上昇を抑制すると言われている.一方,食後血糖曲線は同一食品をほぼ同一条件で摂取しても個人差が非常に大きい.そこで健常な21歳の女子大学生13名を対象に,糖質を50 gに統一した検査食に食酢を組合せ,簡易型自己血糖測定器で食後の血糖値を経時的に測定し,個人別に食酢の食後血糖上昇抑制効果を検討した.炭水化物単独で摂取するより食酢を組み合わせた方が,食後血糖値の上昇は抑制された.米飯摂取後の血糖上昇曲線下面積で順位づけし,2分割とした下位の群を血糖低上昇群,上位の群を血糖高上昇群に分け検討した.血糖低上昇群では食酢の効果は軽度であったが,血糖高上昇群では食酢摂取後の血糖値は有意に低下した.また,食酢の食後血糖上昇抑制効果は10 mlでも認められるが,20 mlの方がより効果的であった.血糖高上昇群に食酢の効果が認められたことから,耐糖能異常に対して食酢が有効である可能性が示唆された.
著者
國崎 哲 牧野 圭祐
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.360-365, 2019-06-30 (Released:2019-06-30)
参考文献数
16

症例は71歳女性.56歳時に2型糖尿病と診断され食事療法と経口糖尿病薬にて治療されていた.入院2年前より全身に掻痒疹が出現し,近医皮膚科にてII群クラスのステロイド外用薬が開始となった.入院1カ月前までHbA1c 7 %前後で推移していたが,掻痒疹が増悪したため近医皮膚科に入院となる.入院中にI群クラスのステロイド外用薬へ変更となり,約3週間の入院加療後退院.退院翌日に当科再診した際に随時血糖803 mg/dLと高血糖を認めたため入院.入院精査の結果,1型糖尿病発症,悪性腫瘍,感染症等の関与は否定され,ステロイド外用薬により血糖悪化をきたしたものと診断した.ステロイド外用薬は局所投与では,吸収効率が低いため内臓への作用をきたすことは稀とされているが,本症例のように皮膚バリア機能の障害を認める症例に,高力価のステロイド外用薬を使用する際は,血糖悪化に注意する必要がある.
著者
小林 哲郎 難波 光義 黒田 暁生 松久 宗英 山田 研太郎 今村 洋一 金重 勝博 浜口 朋也 川村 智行 佐藤 譲 高橋 和眞 丸山 太郎 西村 理明 勝野 朋幸 楠 宜樹 清水 一紀 柳澤 克之 粟田 卓也 雨宮 伸 日本先進糖尿病治療研究会
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.403-415, 2014-06-30 (Released:2014-07-02)
参考文献数
79
被引用文献数
1

最近,持続インスリン皮下注入療法(Continuous subcutaneous insulin infusion:以下CSII)と持続血糖モニタリング(Continuous glucose monitoring:以下CGM)が糖尿病の治療機器として普及しつつある.我々はCSIIおよびCGMに関する科学的根拠をもとに,これをコンセンサスステートメントとしてまとめた.CSIIでは適応,臨床効果,リスク管理など,さらに,運用法の実際的な要点,シックデイ,妊娠,食事・運動などに関する注意などについて述べた.CGMに関してもその適応と効果,糖尿病治療への活用法,注意点を述べた.CSIIおよびCGMは1型糖尿病,2型糖尿病の一部や妊娠中の糖尿病症例にも重要な臨床機器であり,このステートメントをもとに内科および小児科領域の患者教育に適応できる具体的なガイドラインの作成が望まれる.
著者
矢部 大介
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.562-564, 2017-09-30 (Released:2017-09-30)
参考文献数
5
被引用文献数
1
著者
永井 成美 坂根 直樹 森谷 敏夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.761-770, 2005 (Released:2008-04-11)
参考文献数
34
被引用文献数
10

本研究は, 朝食欠食や食事中の三大栄養素の比率が食後の血糖値, 満腹感, エネルギー消費量, および自律神経活動に及ぼす影響を肥満関連遺伝子多型とともに比較検討したものである. 若年健常者8名に, 各被験者の体重1kgあたり22kcalに調整した総摂取エネルギーが等しい4試行の朝食と昼食の組み合わせ (CC : ご飯を主食とする高糖質食+高糖質食, SC : 欠食+高糖質食2食, FF : パンを主食とする高脂肪食+高脂肪食, SF : 欠食+高脂肪食2食) を4日間でランダムな順序で負荷し, 朝食前および朝食後6時間まで30分間隔で, 血糖値, Visual analog scaleによる満腹感, 呼気ガス, 心拍変動解析による自律神経活動を測定した. CC試行ではFF試行よりも朝食後3時間の血糖値, 満腹感, エネルギー消費量が有意に高く, 6時間の熱産生も4試行中最も高値であった. 高い満腹感や熱産生には有意差はなかったが自律神経系の関与が推察された. 朝食欠食 (SC, SF) 試行では熱産生が低く, 昼食後に心拍数の著増を認めた. また, UCP 1遺伝子のhomo変異 (GG) を有する者では熱産生が低い傾向が認められた. 以上の結果は, 耐糖能正常者において糖質を主体とする朝食の摂取が肥満予防に寄与する可能性とともに, 遺伝的背景へ配慮した予防の必要性を示唆するものである.
著者
小山 英則
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.227-230, 2010 (Released:2010-05-20)
参考文献数
5

終末糖化産物(advanced glycation end-products, AGEs)の主要な受容体であるreceptor for AGEs(RAGE)は免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜1回貫通型受容体で,AGEや炎症性リガンドとの結合により細胞内活性酸素上昇を初めとする種々の細胞内情報伝達経路を活性化し炎症反応を媒介する.AGE/RAGEは動脈硬化,血管新生反応,血管障害,炎症反応などを介して糖尿病性大血管障害に関与する.ヒト循環血中には可溶性RAGE(sRAGE)が存在し,これには細胞表面から切断されたものと,分泌型を含む.可溶性RAGEは細胞外ドメインを有するため,RAGEのデコイ受容体として作用する可能性が推測され,標的療法の可能性が期待されている.近年可溶性RAGE測定系が開発され,RAGE/sRAGE系の種々の病態における意義が明らかになりつつある.このようにAGE/RAGEは糖尿病性血管障害のバイオマーカー及び治療標的として大変期待されている.
著者
髙間 晴之 太田 明雄 布施 純郎 久保田 章 小花 光夫 関口 信哉 田中 逸
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.753-758, 2013-10-30 (Released:2013-11-07)
参考文献数
19

HMG-Co A還元酵素阻害薬が糖代謝に及ぼす影響を検討する目的で,非肥満の高LDLコレステロール血症を合併する2型糖尿病患者を対象に,ロスバスタチン2.5 mgとアトルバスタチン10 mgのクロスオーバー試験を行った.薬剤開始前および両剤開始3カ月後に,75 g-OGTTを施行して糖代謝の指標を比較した.その結果,FPGとHbA1cは開始前と各薬剤投与後の変化はなかったが,グリコアルブミンはアトルバスタチン服用後で有意に上昇した.75 g-OGTTから得られる血糖とインスリンの変動曲線下面積,HOMA-Rとwhole body insulin sensitivity index,およびinsulinogenic indexは各薬剤投与前後や両剤間での有意差はなかった.さらに膵β細胞機能を示すdisposition indexも投与前後や両剤間での有意差を認めなかった.以上から少なくとも低用量ロスバスタチン(2.5 mg)は非肥満2型糖尿病の短期間の血糖コントロールに影響しない可能性が示唆された.
著者
麻生 好正
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.737-740, 2013-10-30 (Released:2013-11-07)
参考文献数
8
著者
服部 晃広 今井 実 森合 哲也
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.881-885, 2013-11-30 (Released:2013-12-03)
参考文献数
18
被引用文献数
2

症例は87歳女性.2型糖尿病の診断でインスリン治療を受けていたが,高齢のため自己注射が困難となったため,2011年3月,インスリンに変えDPP-4阻害薬であるシタグリプチンの投与を開始した.シタグリプチン投与開始約1ヶ月後に下腿を中心とする多形紅斑が出現し,皮膚科で薬疹の疑いと診断された.被疑薬の中止と皮疹のステロイド治療,血糖コントロール目的で当科入院となった.最も可能性の高い被疑薬としてシタグリプチンを考えた.入院5日後,大腿や手掌に水疱が出現し,皮膚病理像,血清中類天疱瘡抗原の上昇より水疱性類天疱瘡と診断した.ステロイド治療を継続し症状は軽減,入院約5ヶ月後に退院した.近年海外で,DPP-4阻害薬投与後に水疱性類天疱瘡が発症した報告が散見されるが,今回我々は,シタグリプチン投与後に水疱性類天疱瘡を発症した症例を経験したので報告する.
著者
中村 二郎 神谷 英紀 羽田 勝計 稲垣 暢也 谷澤 幸生 荒木 栄一 植木 浩二郎 中山 健夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.667-684, 2016-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
16
被引用文献数
11

アンケート調査方式で,全国241施設から45,708名が集計され,2001~2010年の10年間における日本人糖尿病患者の死因を分析した.45,708名中978名が剖検例であった.1)全症例45,708名中の死因第1位は悪性新生物の38.3 %であり,第2位は感染症の17.0 %,第3位は血管障害(慢性腎不全,虚血性心疾患,脳血管障害)の14.9 %で,糖尿病性昏睡は0.6 %であった.悪性新生物の中では肺癌が7.0 %と最も高率であり,血管障害の中では慢性腎不全が3.5 %に対して,虚血性心疾患と脳血管障害がそれぞれ4.8 %と6.6 %であった.虚血性心疾患のほとんどが心筋梗塞であり,虚血性心疾患以外の心疾患が8.7 %と高率で,ほとんどが心不全であった.脳血管障害の内訳では脳梗塞が脳出血の1.7倍であった.2)年代別死因としての血管障害全体の比率は,30歳代以降で年代による大きな差は認められなかった.糖尿病性腎症による慢性腎不全は,30歳代で,心筋梗塞は40歳代で,脳血管障害は30歳代で比率が増加し,それ以降の年代において同程度であった.50歳代までは脳出血,60歳代以降では脳梗塞の比率が高かった.悪性新生物の比率は,50歳代および60歳代でそれぞれ46.3 %および47.7 %と高率であり,50歳代以降で悪性新生物による死亡者全体の97.4 %を占めていた.感染症のなかでも肺炎による死亡比率は年代が上がるとともに高率となり,70歳代以降では20.0 %で,肺炎による死亡者全体の80.7 %は70歳代以降であった.糖尿病性昏睡による死亡は,10歳代および20歳代でそれぞれ14.6 %および10.4 %と高率であり,それらの年代では悪性新生物に次いで第2位であった.3)血糖コントロールの良否と死亡時年齢との関連をみると,血糖コントロール不良群では良好群に比し1.6歳短命であり,その差は悪性新生物に比し血管合併症とりわけ糖尿病性腎症による腎不全で大きかった.4)糖尿病罹病期間と血管障害死の関連では,糖尿病性腎症の73.4 %が10年以上の罹病期間を有していたのに対して,虚血性心疾患および脳血管障害では10年以上の罹病期間を有したのはそれぞれ62.7 %と50 %であった.5)治療内容と死因に関する全症例での検討では,食事療法単独18.8 %,経口血糖降下薬療法33.9 %,インスリン療法41.9 %とインスリン療法が最も多く,とりわけ糖尿病性腎症では53.7 %を占め,虚血性心疾患での38.9 %,脳血管障害での39 %に比べて高頻度であった.6)糖尿病患者の平均死亡時年齢は,男性71.4歳,女性75.1歳で,同時代の日本人一般の平均寿命に比して,それぞれ8.2歳,11.2歳短命であった.しかしながら,前回(1991~2000年)の調査成績と比べて,男性で3.4歳,女性で3.5歳の延命が認められ,日本人一般における平均寿命の伸び(男性2.0歳,女性1.7歳)より大きかった.
著者
水流添 覚 山元 章 平島 義彰 福田 一起 梶原 伸宏 西田 周平 下田 誠也 荒木 栄一
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.837-842, 2014-11-30 (Released:2014-12-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1

症例は65歳の2型糖尿病男性で経口薬・インスリン併用中だが,高血糖,肥満が是正されないためSGLT2阻害薬を導入すべく入院となった.メトホルミン,利尿薬内服を中止の上でイプラグリフロジン50 mg開始.血糖改善は良好で2日目から約10 %のインスリン減量を実施.3日目に全身性皮疹,腎機能障害(Cr 1.6 mg/dl),ケトーシス(3-OHBA 626 μmol/l),軽度代謝性アシドーシス(PH 7.348, HCO3- 18.3 mmol/l)に加え高度高K血症(7.3 mEq/l)を来した.症例は高K既往,K高含有食品(昆布)常用,ARB内服など高Kを呈しやすい素地があった.これに利尿薬中止,SGLT2阻害薬開始後の腎機能低下,アシドーシス,インスリン作用不足によるK細胞外シフトが加わり高Kを発症したと推察する.高Kを呈しやすい背景の患者へのSGLT2阻害薬導入ではK値に注意を要する.
著者
山内 敏正 神谷 英紀 宇都宮 一典 綿田 裕孝 川浪 大治 佐藤 淳子 北田 宗弘 古家 大祐 原田 範雄 幣 憲一郎 城尾 恵里奈 鈴木 亮 坊内 良太郎 太田 康晴 近藤 龍也 日本糖尿病学会コンセンサスステートメント策定に関する委員会
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.91-109, 2020-03-30 (Released:2020-03-30)
参考文献数
158
被引用文献数
1

「糖尿病診療ガイドライン」は,エビデンスに基づく糖尿病診療の推進と糖尿病診療の均てん化を目的とし,3年ごとに改訂され刊行されている.「糖尿病診療ガイドライン」の策定は然るべきプロセスを踏まえる必要があり,糖尿病診療に必要なアップデート事項を毎年ガイドラインとして刊行することは困難である.そこで,日本糖尿病学会として,今後はアップデート事項を適宜コンセンサスステートメントとして刊行していくことを決定した.そのため,日本糖尿病学会理事会の下に,事務局長,事務局長代行並びに幹事からなる「コンセンサスステートメント策定に関する委員会」を設置し,本委員会が中心となって,アップデートの必要なテーマの選択とその執筆者を選び,理事会の承認を得た後に執筆を行った.本コンセンサスステートメントについては,全理事が査読者を務めた.また,他学会ガイドラインとの整合性の観点から,関連学会に外部評価もお願いした.本コンセンサスステートメントは,我が国における糖尿病診療に関する考え方について,テーマごとにできうる限り新しいエビデンスを含め,我が国の専門家間でのコンセンサスが得られた見解を取り纏めたものとご理解いただき,最善の糖尿病診療を行う上で活用していただきたい.糖尿病患者数は世界のどこよりも急速にアジア地域で増加しており,世界の糖尿病人口の3分の1はこの地域に集中していることから,我が国からコンセンサスステートメントをタイムリーに示していくことは,極めて重要な意義を有することと考えられる.今後,英語版の刊行も予定している.今回は,その第1報として,「糖尿病患者の栄養食事指導」をテーマにコンセンサスステートメントを作成した.我が国における糖尿病患者に対する栄養食事指導の考え方やその指導について,アップデートが必要なフォーカスすべき4つの内容(目標体重および総エネルギー摂取量の設定,炭水化物の摂取量,タンパク質の摂取量,管理栄養士による栄養食事指導)で構成している.主に糖尿病の管理を目的としたものであるが,タンパク質の摂取量においては,糖尿病性腎症やサルコペニア,高齢者の場合に関しても言及している.コンセンサスステートメントは,今後も糖尿病診療について適宜アップデートが必要なテーマを選び,できうる限り最新のエビデンスを盛り込みながら定期的に刊行していく.コンセンサスステートメントが,我が国での糖尿病診療の向上に貢献することを期待するとともに,新しいエビデンスを加えながら,より良いものに進化し続けていくことを願っている.