著者
三木 健
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.240-251, 2006-12-05 (Released:2016-09-10)
参考文献数
86
被引用文献数
3

生態系の中でエネルギーと物質の動態は、一次生産者、消費者、分解者などのさまざまな機能群によって担われている。各機能群は複数種の生物によって構成されており、機能群全体の特性がどのような要因で決まっているかを明らかにするために、これまで多くの研究がなされてきた。その一つは、「被食-捕食関係」を基本とした機能群間の相互作用に注目した食物連鎖・食物綱解析であり、もう一つは、資源競争を基本とした機能群内の種間相互作用に注目した「生物多様性-生態系機能」研究である。これらの研究は、進化・個体群・群集生態学と生態系生態学との統合へ向けて進んでいる。本論ではまず、これらの研究、とくに「生物多様性と生態系機能の関係」の研究が抱える問題点を3つに分けて整理する。次にこれらの問題を解決するために現在発展しつつある新しい方法論を紹介する。これは、1.注目する機能群を相互作用綱の中に位置づけ、2.機能群内の生物多様性(種数・種組成・種の相対頻度)を所与のものとは仮定せず、生物多様性を決定する要因→生物多様性→物質循環過程という一連の過程に注目し、3.適切な単位を用いて生物多様性・群集構造を記述する、という方法論である。これにより、環境条件の変化→生物間相互作用の変化→群集構造・生物多様性の変化→物質循環過程の変化というステップで、環境条件に対応して形作られる生物群集の構造と群集が担う物質循環過程の特性をともに説明・予測することができる。実験的研究および数理モデルを用いた研究を例に挙げながら、メタ群集過程や間接相互作用網、生物多様性の中立説との関係などの今後さらに解決すべき問題について議論し、群集生態学に基づく物質循環研究の新たな方向性を探る。
著者
小野 勇一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, 1997-08-25
著者
池田 啓 江口 和洋 小野 勇一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-48, 1979-03-30
被引用文献数
10

Pattern of habitat utilization, home range and food habits of a raccoon dog are studied in a small islet, Takashima, western Kyushu. The home range and the number of individuals in the area are established by means of a bait-marking method which is a new technique developed in this study taking notice of the peculiar behaviour or the raccoon dog to defecate its feces daily on a definite fecal pile site. The size of home range estimated by the method ranged from 1.1 to 4.3 ha (2.8 ha av.) and the total number of individuals in this islet was 8.6-16.1,0.46-0.86 per ha in density. The individual home ranges overlapped closely to each in four seasons. The small population size and high population density in this islet are explained by the confined circumstances of habitat in the one hand and by the specific modes of life of the raccoon dog, that they can live together in a small area with cooperative utilization of the habitat on the other.
著者
葛原 武典
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.193-201, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
7

ポスドクスタイル(株)は、博士号取得者に向けた転職支援サービスを提供する民間事業者である。本稿では、主に文部科学省 科学技術・学術政策研究所の公表データに基づき、博士号取得者の雇用環境を説明したたうえで、ポスドクスタイルの活動の事例を簡単に紹介する。
著者
恩藤 芳典
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
生態誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.159-167, 1959
被引用文献数
1

The analyses of the behavior reactions to the vibrating stimuli have been attempted only on some aquatic insects and terrestrial spiders. There have been some reports of direct reactions (taxes) to the vibrating stimuli, for example, by EGGERS (1926,1927) on Gyrinus ; by SHIMA (1940,1942) and by HONJO (1945) on Dineutus ; afterwards by BAERENDS (1950) on Notonecta. On the other hand, MORI (1938,1950) recorded the tidal rhythmic activity of a small bivalve, Donax semignosus, a sandy-beach inhabitant with a rhythmic behavior evoked with the stimuli of mechanical vibrations caused by waves. No direct reaction to the vibrating stimuli, however, has been investigated on a small terrestrial crustacean. It is no doubt due to the difficulties of controlling and measuring the conditions and evolving technique as accurate and precise as that can be used when mechanical vibration is the stimulus. The author has shown that the shore sowbug, Tylos granulatus, takes a characteristic behavior under natural conditions, to and from the water edges, accompanied with the periodic movement of waves in the night (ONDO, 1958). The present work is attempted to analyse the mechanisms in a behavior qualitatively, in terms of elementary animal behavior. Experimental analyses were carried out in the laboratory, using fresh and reared materials from 1954 to 1956. The material, apparatus and methods to relaese the direct reactions to the vibrating stimuli used in the study have been discribed in the previous paper (ONDO, 1958). Some results obtained will be stated in this paper. 1. Animals exhibit a turning locomotion avoiding the stimuli when the substratum of vibrating plate was vibrated and an approaching to the region of low intensity. In such behaviors, it is confirmed by means of the two-stimuli-source experiment and the unilateral removal of receptors, that negative tropo-taxis does occur, i.e., being removed the left (right) antenna, animals move round in general leftwards (rightwards) just like a circus movement. 2. When seven distal segments of both the second antennae were removed, animals still were able to response to the stimuli of mechanical vibration caused by electric tuning fork, but if the second basal segments of both antennae were removed, the sense of vibrating stimuli was lost. These results may only be understood, when it is assumed that the receptor of vibrating stimuli is located on the second basal segments of both antennae. 3. Periodic behavior accompanied with the periodic movement of waves is based upon the sense of the mechanical vibrating stimuli, therefore, such a periodic behavior exhibited by the shore sowbug has an endogenous feature in its nature. 4. The present writer is in the opinion that the periodic behavior accompanied with periodic movement of waves exhibited by the shore sowbug, may be one of the physiological adaptations in individual level to the inorganic waves, from thee. g., periodic movement of environmental elements, ecological viewpoint.
著者
中西 晃 東 若菜 田中 美澄枝 宮崎 祐子 乾 陽子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.125-139, 2018 (Released:2018-08-02)
参考文献数
133

林冠生物学は、生物多様性や生態系機能が局在する森林の林冠において、多様な生物の生態や相互作用、生態学的な機能やプロセスの理解を目指す学問である。林冠は高所に存在し複雑な構造を有するため、林冠生物学研究の飛躍的な進展は1980年代以降の林冠アクセス手段の発達に拠るところが大きい。様々な林冠アクセス手段の中でも、ロープテクニックを駆使して樹上にアクセスするツリークライミングは道具を手軽に持ち運べることから移動性に優れ、対象木に反復してアクセスすることが可能である。また、林冠クレーンや林冠ウォークウェイなどの大型アクセス設備に比べて経済的であるという利点が活かされ、林冠生物学研究に幅広く適用されてきた。近年では、ツリークライミングの技術や道具の発展によって安全性や作業効率の向上が図られており、今後ますます活用されることが期待されている。本稿では、ツリークライミングを用いた林冠生物学の研究例を紹介しつつ、樹上調査における林冠アクセス手段としてのツリークライミングの有用性を示す。さらに、ツリークライミングを用いた林冠生物学研究の今後の展望および課題について議論する。移動性、経済性、撹乱性に優れたツリークライミングは、場所の制限を受けないため、あらゆる森林での林冠生物学研究において今後も重要な役割を担うと考えられる。また、他の林冠アクセス手段や測定機器と併用することでさらなる進展が期待される。一方、安全かつ有効なツリークライミングが普及するためには、研究調査以外の領域も含めたツリークライミング・ネットワークの形成と情報共有のためのプラットフォームづくりが急務である。
著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.37-50, 2008
参考文献数
139
被引用文献数
4

軟体動物門に属するイシガイ類二枚貝(イシガイ目:Unionoida)は世界各地の河川や湖沼に広く生息し国内では18種が報告されている。特に流水生の種は土地利用の変化や河川改修の影響で国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念されている。これまで国内でイシガイ類に関する様々な優れた知見が蓄積されているが、その多くが基礎生態の観点から行われたものである。特に北米地域では高いイシガイ類の種多様性(約280種)を背景にして、基礎から応用にいたる様々な有用な研究事例が報告されており、イシガイ類の分布に影響を与える環境条件として、洪水時における生息場所の水理条件や、宿主魚類の分布が重要であることが明らかにされつつある。また、その生態的機能も評価され、底生動物群集や水質に大きな影響を持つ可能性も指摘されている。既往のイシガイ類二枚貝に関する生態学的研究の整理から、国内では、稚貝の生態や餌資源等に関する基礎的研究、さらに好適生息場所環境条件や生態的機能等に関する応用的側面からの研究が不十分であることが明らかになった。イシガイ類を介して成立する陸水生態系全体の保全のためこれらの分野における研究の進展が必要であることを示した。
著者
上野 裕介 増澤 直 曽根 直幸
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.229-237, 2017 (Released:2017-08-03)
参考文献数
29

生物多様性に関する行政施策は、転換期を迎えている。その最大の特徴は、生物多様性の保全や向上を通過点ととらえ、豊かな社会の実現をゴールに据えている点である。本論説では、地方自治体が策定する生物多様性地域戦略を軸に、生物多様性を活かした地域づくりに関して地方自治体が策定する計画や政策の現状と可能性を紹介する。その上で、生態学者と行政(環境部局と他部局)、民間、地域社会の連携による経済・社会と生物多様性の統合化に向け、生態学者はどのような点で期待され、社会に貢献できるのかを考える。
著者
酒井 昭
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.35-42, 1974-03-30 (Released:2017-04-11)

Dormant one-year-old twigs of about 60 tree species were collected from mature trees growing in different altitudes on Yakushima Island in early January. Evergreen broad-leaf trees growing in the low altitudes below 200 m above sea level, resisted freezing between -3 and -15℃, with the exception of Ficus retusa and Kandella Candel. Most of the tree species growing near the top of Mt. Taichu (1511 m) resisted freezing to -20℃. Three species, Sorbus commixta, Pieris japonica, Rhododendron Metternichii survived freezing down to -25℃ or below. Abies firma collected at about 1200 m altitude was hardy to about -25℃. This fir was found to be nearly as hardy as those of the northern boundary of its natural ranges, Fukushima Prefecture. A similar trend was observed in most of the evergreen broad-leaf trees from between Yakushima Island and Ibaraki Prefecture. However, slight intraspecific differences were observed in the freezing resistance among the evergreen broad-leaf and coniferous trees tested. These differences generally appeared to be closelv related to the winter coldness of their native habitats.
著者
杉浦 真治
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.313-316, 2012-11-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
29

島嶼生物地理学は、島に分布する種や生物相の起源、分散、絶滅を再構築しようとする視点(歴史生物地理学)と、生物と島嶼環境との相互作用に注目し、現在生息する種の多様性や分布の地理的な変異を説明しようとする視点(生態生物地理学)から研究されてきた。本特集では、相利共生関係や、捕食-被食関係といった生物間相互作用を考慮し、歴史的、生態的な視点から島嶼生物地理学を論じる。従来は、種間の相互作用をあまり考慮せず、個々の種の系統地理や、特定グループの種数-面積関係などが研究されてきた。しかし、他種との相互作用なしに生息する種は存在しない。相互作用する複数種を同時に扱うことで切り拓かれる島嶼生物地理学の新たな展開を紹介する。
著者
土屋 一彬 斎藤 昌幸 弘中 豊
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.179-192, 2013-07-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
150

都市生態学は、人間活動が優占する都市生態系のふるまいの解明にとりくむ研究分野である。近年、国際的に進行している都市人口の増加と、それにともなうさまざまな環境問題の拡大を背景に、都市生態学への注目が高まっている。とくに都市生態学には、生物相保全や生態系サービス向上へ向けたとりくみの科学的基盤となることが期待されている。本稿では、日本国内における研究者のさらなる都市生態学への参入と議論の深化のきっかけとなることを企図し、国際的な都市生態学研究の進展状況と今後の主要な研究課題について、主に1)都市において環境問題の解決に生態学が果たす意義、2)都市に特徴的な生態学的パターンとプロセスおよび3)社会経済的要因の影響の3点から論述した。都市において環境問題の解決に生態学が果たす意義を取り扱った研究は、生物相保全を通じた環境教育への貢献や、都市生態系が提供する生態系サービスのうちの調整サービスおよび文化サービス、そして負の生態系サービスの評価を多くとりあげていた。都市生態系の特徴の解明にとりくんだ研究についてみると、都市から農村にかけての環境傾度に沿った種群ごとの個体数の変化や、都市に適応しやすい生物とそうではない生物の比較といった、生態学的なパターンについての知見が多くみられた。一方で、そうした生態学的なパターンをもたらすプロセスについては、十分に研究が進んでいなかった。都市生態系を規定する社会経済的要因を取り扱った研究については、社会経済的要因も含めた都市生態系の概念的なモデルの追求や、生態系の状態に影響が強い社会経済的要因の特定にとりくんだ研究が多くみられた。他方で、生態系の状態と管理などの具体的な人間の行為との関係や、その背後にある制度などの間接的な社会経済的要因との関係については、十分に明らかにされていない状況であった。今後の都市生態学には、都市生態系の構成要素や社会経済要素が相互にどう関係しているか、すなわち都市における社会生態プロセスに対して、さらに理解を深めていくことが求められよう。その実現のためには、生態学者が中心となった都市の生態学的プロセスの解明や、社会科学者と協働することによる分野横断的な研究アプローチの開発が鍵となろう。
著者
大黒 俊哉 松尾 和人 根本 正之
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.245-256, 1996-04-25
被引用文献数
34

Successional patterns of vegetation on abandoned paddy fields and their levee slopes were analyzed in mountainous regions of central Japan. The samples were classified into two types, the Miscanthus sinensis type and Phragmites australis type, at the first division level of TWINSPAN, based on the dominant species regardless of location or fallow duration. The M. sinensis type occurred at dry sites on convex slopes and the P. australis type at wet sites on concave slopes. M. sinensis and P. australis have dominated paddy field stands for 20 years. Both the clump size and litter accumulation of M. sinensis increased with fallow duration, and this litter effect would be one of the important factors related to the long-term dominance of M. sinensis. During 20 years of fallow in the M. sinensis type, however, woody species invaded the gaps among the M. sinensis clumps. As individuals of M. sinensis become clumped and form heterogeneous spatial patterns including gaps, seeds dispersed from the levee slope vegetation and surrounding forests and /or buried seeds may establish themselves. On levee slopes, most stands were of the M. sinensis type, and dominated by woody species except in those that had lain fallow for three years. These results suggest that the succession of abandoned paddy fields in the surveyed regions is affected by soil moisture conditions related to micro-landform, litter accumulation, the growth form of dominant species and the levee slope vegetation as a seed source.
著者
古賀 庸憲
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-12, 2007-03-31 (Released:2016-09-10)
参考文献数
106

カニ類の配偶行動についての生態学的研究は、まず主に水産重要種を含む海生のグループで行われたが、行動生態学の興隆とほぼ時を同じくして陸生・半陸生のグループで盛んになった。特に干潟に高密度で棲息するスナガニ科には行動生態学の実証的研究に適した特徴を幾つも持つものが多く、配偶行動や繁殖戦略に関連した研究が数多く行われている。シオマネキ属を含むスナガニ科の配偶行動は変異に富み、代替交尾戦術の頻度や雄間競争・雌の配偶者選択の程度が、空時的にまたエサ条件や捕食のリスクに反応して変化することが示されている。本稿ではカニ類の配偶行動および生態学的に関連の深い分野について最近の動向をまとめ、今後の展望を述べる。
著者
羽田 健三 寺西 けさい
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.100-109, 1968-06-01
被引用文献数
5

This report deals with migration, pair formation, nest building, egg laying, incubation, hatching, feeding, fledging and family stage of the Eastern Great Reed Warbler during 1965 to 1966 along the reed bed of the Chikuma River, Zenkoji basin, Nagano Prefecture.
著者
入江 貴博
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.1-15, 2018 (Released:2018-04-06)
参考文献数
54

表現型の種内変異に対する研究者の興味は、生態学はもとより分類学・遺伝学・進化生物学といったマクロ生物学の発展と常に共にあった。本稿では、特に海産腹足類を対象とした研究に焦点を絞り、1930年代から現在に至るまでの各時代の研究者が貝殻形態の種内変異をどのように捉え、対象種が示すパターンの理解に織り込んできたかを概説する。生物学的種概念や新体系学の提唱、集団遺伝学と総合進化説の確立といった、現代生物学像へと直結する重要な概念が次々に登場した時代にあっても、軟体動物学の種分類は主に貝殻形質の観察に基づいて進められていた。本稿の前半では、貝殻形態に著しい種内変異を示すMonetaria属のタカラガイについて、個体発生を中心とした生態的特徴を踏まえた上で、激動の1930年代ドイツにおいて進められた種分類と種内分類の内容とその思想的背景を簡単に紹介する。その上で、Ernst Mayrによって提唱された生物学的種概念に準拠する分類がなされるためには、その根拠形質の示す特徴が表現型可塑性の産物でないことが必要であり、それを確認するためには飼育実験の実施が必要であることを強調する。後半では、タマキビ(Littorina属)とチヂミボラ(Nucella属)の貝殻形態に見られる種内変異と捕食者(カニ)に対する誘導防御の関係を明らかにするべく、北米や北欧の研究者によって精力的に進められた一連の研究を振り返る。これらの系は、海産腹足類を対象とした飼育実験が生物現象の理解に大きく貢献した好例であり、生態学の見地からも情報の整理と再評価が必要な内容だ。最後に、野外で観測された表現型分散が問題となった場合に、それに対する寄与として遺伝(G)と環境(E)の影響を定量的に切り分けることは、分類学において生じる上述のような問題だけでなく、自然選択に対する進化的応答を考える上でも重要であることを強調したい。
著者
奥野 良之助
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.93-101, 1985-03-30 (Released:2017-05-23)

OKUNO, Ryonosuke (Dept. Biol., Fac. Sci., Kanazawa Univ., Ishikawa). 1985. Studies on the natural history of the Japanese toad, Bufo japonicus japonicus. V. Post-metamorphic survival and longevity. Jap. J. Ecol., 35 : 93-101. Post-metamorphic survival rates of the Japanese toad, Bufo japonicus japonicus, inhabiting the Botanical Gardens of Kanazawa University were as follows : Survival rate between 1 and 2 years of age was about 40% ; between 2 and 3 years of age was 40-70% ; between 4 and 5 years of age was 65-80%. Survival rates were decreased gradually after age 5,although they were kept over 50% to age 8. Four out of 178 individuals, which had been marked at age 1 in the autumn of 1973,were still surviving in the spring of 1981 (9 years old). Longevity of the males was presumed to be 11 years, and that of the females was estimated at 8 or 9 years. Sex ratio (♂/♀) of matured toads was 2.71.
著者
多田内 修 大石 久志 鈴木 まほろ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.27-35, 2014-03-30 (Released:2017-05-19)
参考文献数
60
被引用文献数
1

最も主要な送粉昆虫であるハナバチ類と訪花性双翅目について、それぞれの分類群の概要と送粉者としての重要性、日本におけるインベントリーの現状と課題を整理した。現在、日本産ハナバチ類の分類は総括的段階にあり、日本産全種を含む『日本産ハナバチ類図鑑』の出版が間近であるほか、アジア産ハナバチ類データベースの構築と公開も進行中である。これまで一般研究者にとって一部の分類群を除くハナバチ類の同定は困難であったが、これらによってかなりの程度まで同定が可能になり、生態学的研究が飛躍的に進むことが期待される。一方、訪花性双翅目は従来その送粉者としての重要性が軽視されてきたため、分類およびインベントリー作成は世界的にも遅れているが、送粉者の多様性に注目が集まっている昨今では、その必要性がますます高まっている。こうした中、日本ではハナアブ科やクロバエ科など一部の分類群についてはインベントリーの作成が徐々に進み、一般研究者でもある程度までは同定が可能になってきた。双翅目昆虫の送粉機能は温帯地域においても決して小さくはなく、今後は日本でも組織的なインベントリー整備を積極的に推進する必要がある。
著者
田中 嘉成
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.249-253, 2010-07-31 (Released:2017-04-21)
参考文献数
21
被引用文献数
2

生物多様性と生態系機能の関係性の解明と、それに基づいた生態系の影響評価のための新たなアプローチとして、生物の機能形質(生態形質)に基づいた枠組みが進展している。理論的な面では、群集レベルでの機能形質の動態や、生態系機能の応答の定式化のために、集団遺伝学や量的遺伝学の進化理論が応用されている。実証データと理論的枠組みの連携がさらに進めば、生物の分布情報、環境要因データ、生態形質のデータベースに対する統合的な解析から、生態系影響評価が可能になると期待される。
著者
宮崎 佑介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.237-246, 2016

新興の学術領域であるCitizen Science(市民科学)の発展は、情報科学技術の発展と不可分の関係にある。生物多様性に関連する分野においても、その可能性はとみに高まっている。本稿では、市民科学に関連する生物多様性情報データベースの現況と課題を、国内外の事例から概観することによって、今後の生物多様性情報データベースを活用した市民科学の在り方を考える。
著者
佐々木 顕
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.73-77, 2006-04-25 (Released:2016-09-06)
参考文献数
15
被引用文献数
2

本特集をまとめるにあたり、軍拡競走の理論と検証の統合を目指す研究のモデルケースになると考えられる3つの例を論じることにする。第一の例は、本特集でとりあげたSasaki-Godfrayモデルのきっかけになったショウジョウバエ抵抗性と寄生蜂ビルレンスの軍拡競走に関する飼育実験、第二は本特集および第52回生態学会のシンポジウムを組織する理由となった東樹と曽田によるヤブツバキとツバキシギゾウムシの防御・攻撃形質の軍拡競走の野外研究と津田によるマメゾウムシの穿孔深度と寄生蜂の産卵管長の共進化に関する理論的研究、そして最後にバクテリアの抵抗性とその溶菌性フアージ病原性軍拡競走に関するBucklingの共培養進化実験についてである。