著者
住田 裕子 森 敏昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.40-53, 2019-03-30 (Released:2019-12-14)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

本研究では,小学校の算数科授業において個々の児童の深い概念理解を促すペア学習中の相互作用プロセスについて検討した。まず,小学4, 5年生の児童を算数問題解決のペア学習中になされた発話の種類に基づいて「自己中心性タイプ」「他者視点取得タイプ」「協調タイプ」の3タイプに分類した上で,ルール評価アプローチを援用したプレテストとポストテスト課題における平均得点を比較した。その結果,発話のタイプによって解決方略変容の生起に有意な差が見られ,調節的発話の発現を特徴とする協調タイプ群の児童が課題に対してより適応的な方略をとるようになり,調節的発話の生起が相互作用の効果を促進させることが示唆された。次に,それぞれのタイプ群の発話の推移を分析し,共同注意の観点に基づいて分類した3種類の発話(誘導的・未追跡的・追跡的)から次の3種類の発話(誘導的・未追跡的・追跡的)への推移確率を比較した。その結果,協調タイプ群は追跡的発話から追跡的発話への推移が他の2群に比べて有意に多く,相互作用プロセスにおいて追跡的発話の循環が概念理解を促すことが示唆された。
著者
直原 康光 安藤 智子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.116-134, 2021-06-30 (Released:2021-07-21)
参考文献数
48
被引用文献数
1 8

本研究の目的は,親が認知する離婚後の父母コペアレンティング,ゲートキーピングを測定する尺度を作成し,信頼性・妥当性を検証すること,離婚後の父母コペアレンティング,ゲートキーピングと子どもの適応との関連を検討することであった。離婚後の父母コペアレンティング,ゲートキーピング尺度は,離婚後9年未満の親432名を対象に分析を行った結果,一定の信頼性・妥当性を備えており,同居親・別居親で測定不変性を有していることが確認された。作成した尺度を用いて,2―17歳の子どもと同居する母親166名を分析対象として仮説モデルを検証した結果,葛藤的なコペアレンティングは,SDQの「総合的困難さ」との間に直接正の関連が認められた。一方,協力的なコペアレンティングは,SDQとの間に直接の関連は認められなかったものの,面会交流の促進を介して,同居時の父親の子どもに対する暴力が高かった場合のみ,SDQの「総合的困難さ」との間に正の関連が認められた。以上の結果を踏まえ,離婚後の父母や親子関係の在り方,親に対する心理教育プログラム等への示唆について,考察した。
著者
大村 彰道 撫尾 知信 樋口 一辰
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.174-182, 1980-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

To investigate the relationships between content structure of prose and information processing abilities, one group of 61 college students read passages with lots of words explicitly describing conjunctive relations among sentences and some other 61 students read passages with few such words. A memory test, a vocabulary test and an inference test Were administered to measure the relevant abilities. An immediate cued recall, a delayed cued recall and a delayed free recall were measured as dependent variables. Results strongly suggest the existence of a disordinal interaction between passage type and inference ability. That is, a number of connectives stating explicitly conjunctive relations among sentences influenced the understanding and retention of content differentially according to the reader's inference ability. Implications of this aptitude-treatment interaction to education were discussed.
著者
上長 然
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.370-381, 2007-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
51
被引用文献数
2 1

本研究は, 思春期の身体発育のタイミングと抑うつ傾向との関連において, 身体発育のタイミング (以下, 発育タイミング) を客観的な発育タイミングと主観的な発育タイミングの2つの観点から捉え, 発育タイミングが直接抑うつ傾向に影響するのか, 媒介要因を介して関連するのかを検討することを目的として実施した。中学生503名 (男子252名, 女子251名) を対象に思春期の身体発育の発現状況, 主観的なタイミングの認知, 現在の体重に対する評価, 身体満足度, 露出回避行動, 抑うつ傾向について測定した。その結果, 1) 男女とも発育タイミングから抑うつ傾向には直接的な関連はみられず, 媒介要因を介して関連していた。2) 男子は主観的な発育タイミングが, 女子は客観的な発育タイミングが身体満足度と結びついていた。3) 男子は早熟なほど身体満足度が高く, 抑うつ傾向が低いが, 早熟な女子は身体満足度が低く, 抑うつ傾向が高かった。4) 男子では公的自意識の高さは身体満足度, 露出回避行動と結びつき, 抑うつ傾向と関連していたが, 女子の公的自意識の高さは身体満足度と結びつかず, 露出回避行動と結びついて抑うつ傾向と関連していた。
著者
深谷 達史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.237-252, 2023-09-30 (Released:2023-10-06)
参考文献数
32

教訓帰納は,問題解決後に学習者が教訓を引き出す学習方略であり,その有効性が示唆されている。ところが,国語,中でも文章読解の学習における教訓帰納の介入研究は,学習者の実態からその必要性が示唆されているにもかかわらず,ほとんど行われてこなかった。そこで,本研究では,認知カウンセリングの事例から,文学的文章の学習において学習者が教訓帰納を身に付ける過程で,どのようなつまずきを示し,そのつまずきに対してどのような介入が求められるかを分析することを試みた。クライエントは,文学的文章の心情理解や記述問題を苦手とする小学4年生の女子で,読むコツ(読解方略)や問題を解くコツ(問題解決方略)を教訓として抽出することはしていなかった。そこで全10回の学習相談を通じ,カウンセラーとのやりとりを通じて抽出した教訓を用いて問題解決を促すとともに,学習方略として自ら教訓帰納を活用できるよう支援を行った。その結果,教訓帰納を学習方略として意識化できるようになり,学習意欲や学習観の面においても改善が認められた。考察では,文章読解において教訓帰納を促すための介入のポイントや研究の課題が論じられた。
著者
岡安 孝弘 高山 巌
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.410-421, 2000-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
9 16

本研究では, いじめ防止対策およびいじめ被害者・加害者の精神的健康を改善する方法を考案する上での基礎資料を得るために, 中学生のいじめ被害・加害経験と心理的ストレスとの関係について検討した。6,892名の中学生に対するいじめ被害・加害経験の頻度, ストレス症状および学校ストレッサーに関する調査結果から,(a) 中学生のいじめへの関わり方は, 無視・悪口被害群, 全般的被害群, 無視・悪口加害群, 全般的加害群, 非関与群の5つのグループに類型化できること,(b) 全般的被害群にはストレス症状が全般的に高い者が多く, 関係性攻撃の被害者も特に抑うつ・不安傾向が高いこと, また両者とも学業に関するストレッサーの経験頻度が高く, それを嫌悪的と感じている者が多いこと,(c) 全般的加害群には不機嫌・怒りや無気力のレベルが高い者が多く, さらに先生との関係が良好でない者が多いこと, などが明らかにされた。最後に, いじめ被害者および加害者への心のケアのあり方といじめの実態を査定する上での問題点について論議した。
著者
伊藤 崇達
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.340-349, 1996-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
28
被引用文献数
33 10

The purpose of this study was to investigate the relationships among self-efficacy, causal attributions and learning strategy in an academic achievement situation. The Self-Regulated Learning Strategies, self-efficacy and intrinsic value scales developed by Pintrich and De Groot (1990) were translated into Japanese and administered to 251 junior high school students. On the basis of the results of the factor analysis, five learning strategies subscales were constructed: general cognitive, review-summarizing, rehearsal, giving attention and connecting. These subscales were positively correlated, and there were gender differences in three subscales, self-efficacy and intrinsic value. All these subscales were strongly related to self-efficacy and intrinsic value. The relationships among self-efficacy, causal attributions and learning strategy were analyzed, and the findings suggested that learning strategies had a greater influence on self-efficacy than effort attribution for their failure.
著者
西川 一二 雨宮 俊彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.412-425, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
61
被引用文献数
6 15

本研究では, 知的好奇心の2タイプである拡散的好奇心と特殊的好奇心を測定する尺度の開発を行った。拡散的好奇心は新奇な情報を幅広く探し求めることを動機づけ, 特殊的好奇心はズレや矛盾などの認知的な不一致を解消するために特定の情報を探し求めることを動機づける。研究1では, 大学生816名を対象とした予備調査を行い, 50項目の項目プールから12項目を選定し, 知的好奇心尺度とした。次に大学生566名を対象とした本調査を行い, 予備調査で作成した知的好奇心尺度の因子構造の検討を行った。因子分析の結果, 各6項目からなる2つの因子が抽出され, 各因子の項目内容は, 拡散的好奇心および特殊的好奇心の特徴と一致することが確認された。2下位尺度の内的整合性は, 十分な値(α=.81)を示した。研究2では, 知的好奇心尺度の妥当性を, Big Five尺度, BIS/BAS尺度, 認知欲求尺度, 認知的完結欲求尺度と曖昧さへの態度尺度を用いて検討した。相関分析と回帰分析の結果, 拡散的好奇心と特殊的好奇心の共通性と対比について, 理論的予測とほぼ一致する結果が得られた。知的好奇心尺度の含意と今後の研究の展望について議論がなされた。
著者
本田 真大 新川 広樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.173-189, 2023-09-30 (Released:2023-10-06)
参考文献数
34

本研究の目的は児童青年の援助要請認知,援助要請スキルを測定する尺度開発に向けて,COSMINチェックリストに基づいて内容的妥当性の高い尺度開発を行うことであった。研究1(PROM開発研究)では小学4年生から高校3年生1,029名を対象に質問紙調査を実施し,内容分析を行った結果,援助要請認知に関する18個(援助要請期待感9個,援助要請抵抗感9個),援助要請スキルに関する12個の構成概念が得られた。研究2(内容的妥当性研究)では,関連領域の専門家(研究者及び実践家)9名に半構造化面接を行い,専門家視点からの尺度の関連性と包括性が支持された。研究3(内容的妥当性研究)では,当事者である児童青年484名を対象とした質問紙調査により,両尺度の教示文,想起期間,反応選択肢,及び各項目について90%以上の採択率が得られた。よって,関連性,包括性,わかりやすさが支持された。これらの結果を踏まえて,本尺度の特徴と限界,今後のCOSMINに基づく信頼性,妥当性,反応性の検証の必要性が議論された。
著者
清水 健司 海塚 敏郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.54-64, 2002-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
11 13

本研究は, 青年期における対人恐怖心性と自己愛傾向との関連について検討することを目的とした。大学生336名を対象として対人恐怖心性尺度と自己愛人格目録の質問紙を施行した。分析の結果, 対人恐怖心性と自己愛傾向には有意な負の相関が見られた。これは, いくつかの対人恐怖心性と自己愛傾向の関連のパターンが混在している状態であるという解釈可能性を示していた。また, クラスター分析を行った結果, 対人恐怖心性と自己愛傾向のパターンには4つサブタイプがあることが示された。これらは, 臨床的な知見を参考にすると第1クラスターは,「純粋な」対人恐怖であり, 第2クラスターは,「過敏型」自己愛人格であり, 第3クラスタ」は,「ふれ合い恐怖的心性」に類似したものと推測され, 第4クラスターは,「無関心型」自己愛人格であるとそれぞれ解釈された。このなかで第2クラスターと第4クラスターは, 対人恐怖心性が自己愛の影響を大きく受けていることが分かり, 自己愛の高まりが対人恐怖心性を増大させていることを示した。
著者
松本 じゅん子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.23-32, 2002-03-31
被引用文献数
1

本研究では,大学生を対象に,悲しい時に聴く音楽の性質や,聴取前の悲しみの強さと音楽の感情的性格による悲しい気分への影響を調べた。予備調査の結果,悲しみが強い場合ほど,暗い音楽を聴く傾向が示され,悲しみが強い時に悲しい音楽を聴くと悲しみは低下するが,悲しみが弱い時に悲しい音楽を聴くと悲しみが高まる,または変化しないことが予測された。実験1,2の結果,音楽聴取後の悲しい気分は,音楽聴取前の悲しみの強さにかかわらず,聴いた音楽によって,ほぼ一定の強さに収束した。結果的に,非常に悲しい時に悲しい音楽を聴いた場合,音楽聴取後の悲しい気分は低下し,やや悲しい時には変化しないことが示唆された。つまり,悲しい音楽は,悲しみが弱い時には効果を及ぼさないが,非常に悲しい気分の時に聴くと悲しみを和らげる効果があり,状況によっては気分に有効に働くことが推察された。
著者
織田 揮準
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.38-48, 1970-09
被引用文献数
14

This study is on the developmental changes in meanings of the Japanese qualitative and quantitative words (most of them are adverbs) by means of the paired-comparison method. The qualitative and quantitative words are classified on the basis of the following four categdries of meanings : (1) 18 words which express degree of common things (TEST I) ; sugoku, hljoni, taihen, totemo, kanari, etc. (2) 16 words which express degree of probability (TEST II) ; zettaini, kanarazu, kitto, tashikani, tabun, etc. (3) 16 words which express degree of frequency (TEST III) ; itsumo; yoku, tabitabi, tokidoki, mareni, etc. (4) 18 words which express degree of psychological time-distance (TEST IV) ; a. 10 words which express the future ; suguni, imani, mamonaku, yagate, etc. b: 9 words which express the past : toni, senkoku, sakihodo, ima, etc. The subjects are required to answer the following questions.
著者
大江 由香 亀田 公子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.467-478, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
81
被引用文献数
1 1

本稿では, 再犯防止を図るための効果的な指導法を探索することを目的として, 近年重要性が認識されつつあるメタ認知と自己統制力, 自己認識力, 社会適応力との関連について文献研究を行った。メタ認知能力が低い者ほど, 必要な情報を察知できず, 視野の狭い短絡的・感情的・主観的な判断・行動をしやすいと言う。そして, メタ認知能力に乏しいと, 衝動性が高くなり, 自己に関連する情報や他者の非言語的なメッセージを読み誤りやすくなる傾向があることが分かり, 文献研究の結果, メタ認知の能力の乏しさが犯罪・非行への準備性を高める得ることが推察された。メタ認知能力は, 知的障害や発達障害などがあってもトレーニングによって鍛えることができ, マインドフルネスを含む第三世代の認知行動療法などによっても涵養し得ることから, 今後犯罪者・非行少年の処遇にメタ認知の向上を目的とした指導法を積極的に取り入れていくことが重要と考えられた。
著者
岡田 有司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.419-431, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
30
被引用文献数
18 3

本研究の目的は, 運動部と文化部を区分して捉え, 部活動への積極性に注目しながら, (1) 部活動への参加が学校生活の諸領域, 学校への心理社会的適応とポジティブな関係にあるのか, (2) 対人関係領域の心理社会的適応への影響が部活動への参加状況によって異なるのか, について検討することであった。質問紙調査によって得られた中学生894名のデータから, 以下のことが明らかになった。まず, 部活動に積極的な生徒は全体的に部活動に所属していない生徒に比べ, 学校生活の諸領域や心理的適応の得点が高くなっていた。一方で, 部活動に積極的でない生徒は全体的に学校生活の諸領域や心理的適応の得点が無所属の生徒よりも高いという結果は得られなかった。また, 運動部の生徒は反社会的傾向が高いことが明らかになった。対人関係領域が心理社会的適応に与える影響については, 「クラスへの意識」「他学年との関係」に関しては部活動の参加状況によって影響の仕方に違いがなかったが, 「友人関係」「教師との関係」について違いがみられた。これらの知見をもとに, 学校生活における部活動のポジティブ・ネガティブな面について議論がなされた。
著者
小塩 真司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.280-290, 1998-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
24 18

本研究の目的は, 自己愛傾向と自尊感情との関わりを検討すること, そしてその両者が, 青年期における友人関係とどのように関連しているのかを検討することであった。自己愛人格目録 (NPI), 自尊感情尺度 (SE-1), 友人関係尺度が265名 (男子146名, 女子119名) に実施された。NPIの因子分析結果から, 「優越感. 有能感」「注目・賞賛欲求」「自己主張性」の3つの下位尺度が得られた。NPIとSE-1との相関から, 自己愛は全体として自尊感情と正の相関関係にあるが, 特に「注目・賞賛欲求」はSE-1と無相関であり, SE-1の下位尺度との関係から, 高い自己価値を持つ一方, 他者の評価に敏感であり, 社会的な不安を示すといった特徴を有していることが明らかとなった。これらの結果は, NPIの妥当性を示す1っの結果であると考えられた。また, 友人関係尺度の因子分析結果から, 友人関係の広さの次元と浅さの次元が見出され, その2つの次元によって友人関係のあり方が四類型された。この友人関係のあり方と NPI, SE-1との関係が分析された。結果より, 広い友人関係を自己報告することと自己愛傾向が, 深い友人関係を自己報告することと自尊感情とが関連していることが明らかとなった。このことから, 青年期の心理的特徴と友人関係のあり方とが密接に関連していることが示唆された。
著者
藤間 友里亜 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.99-115, 2021-06-30 (Released:2021-07-21)
参考文献数
35
被引用文献数
2

場面緘黙経験者は,場面緘黙が改善した後にも不適応に陥ることがあると指摘されており,場面緘黙寛解後のアプローチも課題とされているが,これまで十分に研究されていない。場面緘黙寛解後の困難を軽減させるための研究も必要であると考えられる。本研究では,場面緘黙経験者の寛解後の具体的な困難や,現在の状態に至るまでのプロセスを明らかにすることを目的とし,場面緘黙経験者19名を対象に面接調査を行った。M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)により分析を行った結果,〈気質〉,〈緘黙時のネガティブな経験〉,〈寛解後不適応〉,〈不適応の改善〉,〈適応〉の5つのカテゴリー,合計21の概念から成るモデルが生成された。元々の気質と緘黙時のネガティブな経験が寛解後不適応につながっており,寛解後不適応は不適応の改善によって適応に至るというプロセスが見出された。概念として,『話す必要性を減らす』や『不安や緊張を軽減させる』,『発話能力を向上させる』など,不適応の改善に役立つ行動も見出された。本研究によって得られた知見は不適応状態に陥っている場面緘黙経験者にとって,不適応の改善のために有益な情報であると考えられる。
著者
佐々木 掌子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.313-326, 2018-12-30 (Released:2018-12-27)
参考文献数
38
被引用文献数
4

本研究では,性的指向(sexual orientation)や性同一性(gender identity)をはじめとする性の諸要素の多様性を中学校の授業で教育することで,生徒の同性愛やトランスジェンダーに対する嫌悪(以下,嫌悪)が低下するのか否か対照群を設けたデザインで検討した。協力者は,授業実施群が公立中学の生徒397名,対照群が同地域同規模の公立中学の生徒328名である。その結果,交互作用(F(2, 1336)=4.77, p<.01)が有意であったため多重比較を行うと,授業実施群のみ,教科授業後及び道徳授業後に有意に嫌悪の減少が認められた。対照群には得点変化はなく,授業実施群は対照群よりも有意に嫌悪得点が低かった。なお,自尊感情と嫌悪とは無相関であり,どれだけ自尊心が高くなろうとも嫌悪は変わらないことが示唆された。また,男子においては,多様な他者の理解や対等な意識の向上が嫌悪の低減と関連していた。
著者
植阪 友理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.80-94, 2010
被引用文献数
17

自己学習力の育成には, 学習方略の指導が有効である。中でも, 複数の教科で利用できる教科横断的な方略は, 指導した教科以外でも活用できるため有用である。指導された学習方略を他の教科や内容の学習に生かすことは「方略の転移」と呼べる。しかし, 方略の転移については, 従来, ほとんど検討されてきていない。そこで本研究では, 方略の転移が生じた認知カウンセリングの事例を分析し, 方略の転移が生じるプロセスを考察する。クライエントは中学2年生の女子である。非認知主義的学習観が不適切な学習方法を引き起こし, 学習成果が長期間にわたって得られないことから, 学習意欲が低くなっていた。このクライエントに対して教訓帰納と呼ばれる学習方略を, 数学を題材として指導し, さらに, 本人の学習観を意識化させる働きかけを行った。学習方法の改善によって学習成果が実感できるようになると, 非認知主義的学習観から認知主義的学習観へと変容が見られ, その後, 数学の異なる単元や理科へ方略が転移したことが確認された。学習方略を規定する学習観が変容したことによって, 教科間で方略が転移したと考えられた。また, 学習者同士の教え合いが多いというクライエントの学習環境の特徴も影響したと考えられた。
著者
寺澤 孝文 吉田 哲也 太田 信夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.510-522, 2008-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
2

本研究は, 一般の学習内容の習得プロセスに潜在記憶が関わっている可能性に着目した。特に, 潜在記憶研究で報告されている, わずかな学習の繰り返しの効果が長期に保持される事実から, 一般的な学習の効果が長期にわたって積み重なっていくことを予測し, その予測の検証を目指した。具体的には, 習得に時間がかかり, 何度勉強してもなかなか憶えられないと感じる英単語学習について, 高校生を対象に8ヵ月にわたる長期学習実験を実施した。実験では, 1000を超える英単語の一つ一つについて, 学習とテストがいつ生起するのか, また, 学習とテストのインターバルがほぼ等しくなるよう学習スケジュールをあらかじめ制御する新しい方法論が導入された。学習者はコンピュータを使った単語カード的な学習を自宅で継続した。膨大な反応データを集計, 分析した結果, 自覚できないレベルで, 学習の効果が積み重なっていく様子が明確に描き出された。考察では, この事実と潜在記憶の関係性が指摘され, 新たに導入されたスケジューリング原理の有効性が確認された他, 本研究の教育的意義が示された。
著者
原谷 達夫 松山 安雄 南 寛
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-7, 1960-06-30

1.12の民族的国家的集団に対する大阪市在住学徒のステレオタイプが質問紙法によって求められ,各集団ごとに上位5特性を表示した。2.Katz & Bralyの手法により,中学生,高校生,大学生という標本群ごとにステレオタイプの一致度指数を求め,それぞれ.24,.28,.26という平均値を得た。3.民族的好悪感情の順位を測定した結果から,ステレオタイプを通して示された好意性との関連を考察した。とくに注意されたのは,日本人学生の自己帰属感における知的感情的両側面の不一致である。4.対照的な結果として朝鮮人に対するステレオタイプの非好意性と選択順位の低さとの合致が指摘され,検討が加えられた。5.われわれが得た成果を理論的に次の2点に集約してみた。i)本邦楽徒の一致度指数があまり高くない根拠としては,知的文化という面のほかに,民族的無関心という面が指摘されよう。ii)欧米的資本主義的先進国に対する日本人学徒の劣等感は,朝鮮人のステレオタイプ像へ投射される可能性があり,客観的理性にもとづく認識により偏見を克服する必要が感じられる。