著者
堀野 緑 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.140-147, 1997-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
11 15

This study explored the structures of learning motives and strategies, and examined a model positing that motives affected strategy selection, which in turn influenced performance in English learning of high-school students. Six scales for learning motives were employed, which had been made through a classification of students' free responses. Correlation analysis revealed that the six scales could be divided into two groups, i. e.,“content-attached” and “content-detached” motives. On the other hand, factor analysis showed that learning strategies for English words were classified into the following three: organization, imaging, and repetition. The content-attached motives correlated significantly with each of the strategies, but the content-detached motives did not. Moreover, only the organization strategy had a significant effect on performance which was represented by three scores in an achievement test. That was consistent with theories and experimental findings in cognitive psychology, and supported the effectiveness of organization strategies in verbal learning. It was concluded that content-attached motives were needed to use organization strategies, and that the framework of so-called “intrinsic motivation” should be reexamined.
著者
鈴川 由美 豊田 秀樹 川端 一光
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.206-217, 2008-06-30
被引用文献数
1

わが国の生徒は数学の知識や技能を日常生活の場面で活かす能力が弱いと言われている。OECDが実施している生徒の学習到達度調査(PISA)は,このような生活に関係する課題を活用する能力を測ることを目的とした国際的な学力調査である。この調査の結果から,他の国と比較したわが国の特徴を分析することができるが,国の成績の順位や各項目の正答率はその国の教育水準を反映するため,知識を日常場面で活かす力という観点からはそれを直接比較することはできない。本論文では,PISA2003年調査の「数学的リテラシー」の結果を反応パターンから分析し,多母集団IRT(Item Response Theory)によるDIF(Differential Item Functioning)の検討を行うことで,それぞれの国に所属する同一水準の学力の生徒の反応パターンの違いを明らかにした。分析の対象は,オーストラリア,カナダ,フィンランド,フランス,ドイツ,香港,アイルランド,イタリア,日本,韓国,オランダ,ニュージーランド,アメリカの13か国である。分析の結果,この13か国のうち,わが国は最も特異な困難度のパターンを持っているということが明らかになり,またその特徴として,日常生活に関連する項目を解く力が弱いということが示された。
著者
ト部 敬康 佐々木 薫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.283-292, 1999-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
7 2

本研究の目的は, 授業中の私語の発現程度とそこに存在している私語に関するインフォーマルな集団規範の構造との関係を検討することであった。中学校・高校・専門学校の計5校, 33クラス, 1490名を対象に質問紙調査が実施され, 私語に関するクラスの規範, 私的見解および生徒によって認知された教師の期待が測定された。私語規範の測定は, リターン・ポテンシャル・モデル (Jackson, 1960, 1965; 佐々木, 1982) を用いた。また, 調査対象となった33クラスの授業を担当していた教師によって, 各教師の担当するクラスの中で私語の多いクラスと少ないクラスとの判別が行われ, 多私語群7クラスと少私語群8 クラスとに分けられた。結果は次の3点にまとめられた。(1) 多私語群においては少私語群よりも相対的に, 私語に対して許容的な規範が形成されていたが,(2) 生徒に認知された教師の期待は, クラスの規範よりはるかに私語に厳しいものであり, かつ両群間でよく一致していた。また,(3) クラスの私語の多い少ないに拘わらず, 「規範の過寛視」 (集団規範が私的見解よりも寛容なこと) がみられた。これらの結果から, 私語の発生について2つの解釈が試みられた。すなわち結果の (1) および (2) から, 教師の期待を甘くみているクラスで私語が発生しやすいのではなく, 授業中の私語がクラスの規範と大きく関わっている現象であると考察され, 結果の (3) から, 生徒個人は「意外に」やや真面目な私的見解をもちながら, 彼らの準拠集団の期待に応えて「偽悪的」に行動する結果として私語をする生徒が発生しやすいと考察された。
著者
小野田 亮介 篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.115-128, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
35
被引用文献数
7 3 1

本研究では, 大学の講義型授業において使用されているリアクションペーパー(以下 RP)に着目し, 授業者の働きかけとRP記述の関係について検討を行った。まず, 予備調査を実施し, 学生が「RPをどのようなツールとして捉えているか(RP観)」に関する質問紙尺度を作成した。その結果, 学生のRP観としては, 「内容記憶志向」, 「記述訓練志向」, 「理解度伝達志向」, 「私的交流志向」の4因子が抽出された。次に, 本実験として, 1)授業者以外の読み手に, 自分の記述が読まれることを予期させる「読み手追加予期介入」と, 2)授業者が学生の記述した質問に対して補足説明を行うなど, RPの内容をいくつか抽出して応答を行う「授業者応答介入」を2つの大学で実施し, その効果を比較検討した。その結果, 授業者応答介入は用語の確認などの「低次質問」を抑制し, 授業内容をさらに深める「高次質問」の記述を促進することが示された。ただし, RP観との交互作用を検討した結果, 内容記憶志向の高い学生に対しては, 低次質問の抑制効果は見られないことが示された。一方, 高次質問の促進効果は, 私的交流志向が極端に高い学生を除き, 多くの学生に見られることが示された。
著者
山森 光陽 徳岡 大 萩原 康仁 大内 善広 中本 敬子 磯田 貴道
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.297-316, 2021-09-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
48
被引用文献数
4

クラスサイズ及び目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度による,小学校第4, 5学年の2年間にわたる社会科の学力の変化の違いを検討した。第4, 5, 6学年開始前後の標準学力検査の結果を児童個別に結合したパネルデータに,第4, 5学年時のクラスサイズ,目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度を連結したパネルデータのうち,第4, 5学年間で学年学級数の変動が起こらなかった50校,1,672名の児童を分析対象とした。第4学年,第5学年の各1年間,第4, 5学年の2年間の,過去と後続の学力の違いに対するクラスサイズ,目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度,及びこれらの交互作用の影響を,児童,クラス,学校の3レベルを仮定したマルチレベルモデルによる分析を行った。その結果,第4, 5学年の2年間で見ると,在籍したクラスのサイズが小さく,かつ目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度が高い学級担任による指導を受け続けた場合,過去の学力が相対的に低い児童については,これ以外の場合の児童と比べて後続の学力が高いことが示唆された。
著者
古畑 和孝
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.11-22, 1954

従来の双生児法とはやや観点を異にして, 所謂同一環境において生育したEZ対偶者間において発現して来る性格差異を, その相互関係との関連において研究することを志したものである。<BR>そこで箪者は, 卵生診断の確実な東大附属中学校1年在学双生児20組 (EZ12組・ZZ4組・PZ2組・U K2組) を研究対象として, 学校並びに集団合宿生活での行動観察, 種々の性格診断法を併用して, 各対の性格特徴を把捉し, その差異を検出することに努めた゜<BR>その結果, 従来の諸研究が, いずれも性格における高度の類似を強調しているにも拘らず, その社会的契機を重視していく限りにおいては, 案外差異を見出したし, 諸テストの結果でも, ZZに比すればやや類似しているとはいえ, A・B間に可成りの開きがみられた。而も大凡の傾向としては, その開きの大小, 反応の一致慶の高低が, 性格差異評価の一資料たり得ると解せられる。<BR>ところで, その差異の原因としては, 固より先ず, 身体的. 生理的条件が考えられるべきであろうし, 事実, 一般的にみて, 身体的差異の大なる対に, 性格差異も亦大なる傾向が認められ, その差小なる対は, 性格差異も小であつた。<BR>それ以外に差因の原因を求めるならば, 心理学的な環境的要因として, 相互依存関係との関連において, 多少とも兄弟的取扱いを受け, 又自らもかかる意識を有するところから成立する兄-弟的な関係が考えられる。そしてこれ等の明確な対においては, 矢張り差異が比較的顕著である。<BR>この関係の表出を計つた困難な課題解決場面での実験の結果によつて, 危機的場面での行動的特性として, 一般的にみて, 主導的一従属的関係が看取され, 加えてその相互関係における協力一競争関係について若干の知見を得た。<BR>EZにおける相互依存関係は, 性格における間柄的関係として問題になつたものであるが, これはZZに比するならば, 一般には意思疎通も円滑・良好であり, 所謂双生児共同体意識をも見出し得た。が, この"二人なるが故に"の特徴は, 両者が全く平等. 対等な関係としてあるのではなく, 寧ろ先にも見た如く, 多少とも相倚り (B) 相倚られる (A) 関係ににおいてあるようである。其の他, この間が極く自然的・円滑である対から, 何らかの摩擦・抵抗を感ずるような対に至るまでの存在や, その原因, 或いは同一視の問題等についても考察を進めた。<BR>最後に, 教育的見地から, 今後この観点からの研究の推進のためにも, 一・二の点に簡単に触れておきたい。<BR>EZが, 遺伝質同一とされているところからも明らかなように, 心的構造の下層部においては, 極めて高度の一致を示すのは当然である。が, 現実の生活においては, 遺伝的な規定に因りつつも, "上層部の世界が意識的には優勢を占め, 自らの行動を統御し, 主権性を担つている"(6) ことを思うならば, EZにおける兄一弟的関係が, 一その行動面において, Aの主導的Bの従属的な傾向への分化に導いていつたことは, 望ましい性格の形成を考慮するに当つても, 充分注目せられてよいであろう。この意味でも, EZにおける性格差具は, 今後大いに追究されてよかろう。<BR>EZにおける主導一従属的関係は, 知的要因によつて規定されるとの論があるようである。(8) 確かに対象双生児について, その学業成績や知能検査結果をみても, 現象的にはそうである。成績の相対的によい方は, 主導的とされる者に, 大体相当しているからである。<BR>が, 遺伝質同一の仮定が正しく, 身体的器質的条件が特に具るところないならば, 主導的であり成績の良好な者は, 多くはA児で易るところからみても, 主導的一従属的関係の成立が, 逆に学業成績などにも影響を及ぼしているのではなかろうかとの推論も可能であろう。とに角, 一般に, 学業成績と心的構えとの連関を考察するに当つても, この種研究が一つの素材を提供することが期待される。<BR>これ等, 問題の今後の展開のために, その一二を指摘するだけでも, 一層充実した精細な実証的研究を, 長期に亘り, 発達史的に続けることが必至と思われる。そうする時はじめて, ここに提供された問題も, 進展するかもしれないであろう。<BR>稿を終るに臨み, 終始懇篤な指導を忝けなうした指導教官三木安正教授はじめ諸先生方, 並びに直接材料蒐集其の他に援助を与えられた嘱託木村幸子氏, 附属学校関係各教官に対し, 謹んで感謝する。
著者
千島 雄太 水野 雅之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.228-241, 2015 (Released:2015-11-03)
参考文献数
36
被引用文献数
5 5

本研究の目的は, 大学入学前に持っていた複数の領域に渡る大学生活への期待と, 実際に経験した大学生活に関して探索的に把握し, 大学適応への影響について実証的に明らかにすることであった。文系学部の大学生84名を対象とした予備調査によって, 大学生活への期待と現実に関して探索的に検討し, それぞれ項目を作成した。続いて, 文系学部の新入生316名を対象とした本調査を行い, 探索的因子分析の結果, 大学生活への期待は, “時間的ゆとり”, “友人関係”, “行事”, “学業”の4つの領域が抽出された。対応のあるt検定の結果, 全ての領域において期待と現実のギャップが確認された。さらに, 大学環境への適応感とアパシー傾向を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。その結果, “時間的ゆとり”と“友人関係”において, 期待と現実の交互作用が認められ, いずれにおいても現実得点が高い場合に, 期待得点はアパシー傾向と負の関連が示された。特に, 期待したよりも時間的ゆとりのある大学生活を送っている場合に, アパシー傾向が高まることが明らかにされ, 大学における初年次教育の方向性に関して議論された。
著者
川島 亜紀子 眞榮城 和美 菅原 ますみ 酒井 厚 伊藤 教子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.353-363, 2008-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34
被引用文献数
5 8

本研究は, 青年期の子どもがいる家族を対象に, 両親の夫婦間葛藤が子どもによる両親間葛藤認知を媒介として子どもの抑うつ傾向と関連するかどうかを検討することを目的として実施された。父親, 母親, および子どもを対象に, 質問紙調査を実施し, 両親回答による夫婦間葛藤の深刻さ評価と子ども回答による両親間葛藤認知, 父母への情緒的つながり, および抑うつ傾向を測定した。その結果, 男女ともに両親間葛藤が深刻なほど葛藤への巻き込まれ感が強まり, さらに両親の夫婦間葛藤に対する自己非難や恐れの認知につながっていた。男子については, こうした自己非難や恐れの認知が抑うつに関連していたが, 女子についてはこうした相関は見られなかった。一方, 両親間葛藤の深刻さは両親への情緒的つながり, 特に, 父親への情緒的つながりにより強い関連が見られた。抑うつとの関連では, 同性の親との情緒的つながりが重要であることが明らかになった。母親による夫婦間葛藤認知は子どもの葛藤認知に有意に関連していたが, 父親のそれは有意ではなく, いずれも子どもの抑うつ傾向とは直接関連しなかった。
著者
森田 愛子 髙橋 麻衣子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.12-25, 2019-03-30 (Released:2019-12-14)
参考文献数
37
被引用文献数
3 1

本研究の目的は,文章の読解時に,音声化と内声化が文章理解や眼球運動にどのような影響を及ぼすかを検討することであった。黙読時に内声化を行う程度の個人差により,文章理解や眼球運動が異なるかを併せて検討した。実験1では,大学生24名に文章を読ませ,文章内容問題と逐語記憶問題に解答させた。音読,黙読,すべてを内声化する黙読(内声化強制),なるべく内声化しない黙読(内声化抑制)の4条件を設けた。内声化強制条件と内声化抑制条件を比較した結果,内声化によって逐語的な情報を保持しやすくなることが明らかになった。実験2では,大学生23名に,逐語記憶問題を課さずに同様の実験を行った結果,内声化を抑制すると文章内容問題の成績が低下し,内声化が文章理解に寄与することが示唆された。ただし,通常の黙読時に内声化を多く行う者とあまり行わない者に分けて成績や眼球運動のパターンを比較したところ,内声化をあまり行わない者の場合,内声化を抑制しても文章内容問題の成績の低下が比較的小さかった。また,このような読み手は内声化を多く行う者より黙読時の理解成績が高く,黙読時に視線を自由に動かす読み方を有効に利用できていることが示唆された。
著者
佐藤 誠子 工藤 与志文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.135-148, 2021-06-30 (Released:2021-07-21)
参考文献数
18
被引用文献数
2 2

本研究は,既有知識の変化の困難さについて学習者の推論過程の側面から検討するものである。従来の合理的モデルに従えば,既有知識が変化するには,誤概念など既有知識からの「直観的判断」とルールに基づく「仮説的判断」とが同等におこなわれ,それらが比較対照される必要があるが,実際には後者の判断に困難があることが佐藤・工藤(2015)により示されている。これらを踏まえ,本研究では三角型四角形(三角形の直観的イメージに近い四角形)の分類課題を取り上げ,大学生を対象に仮説的判断の重要性とその方法を教授する授業をおこなうことで,課題に対する判断の転換がみられるかどうかを検討した。その結果,①推論の出発点を直観的判断にしか置けず,それを支えるための説明を生み出す方向にしか推論が展開されない「自己完結的推論」が存在すること(研究1,研究2),②仮説的判断を推論の俎上に載せることができれば,自己完結的推論が抑制され,双方を比較対照する検証過程に持ち込める可能性が高まること(研究2)が示された。これらの結果から,従来の誤概念修正ストラテジーの効果および概念変化達成のための教授学習条件を再考した。
著者
安藤 寿康
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.96-107, 1992-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
92
被引用文献数
1 1

The present paper reviews the methodology and findings of recent human behavioral genetics in relation to education. Under “interactionism”, genetic factors in human development and education have been minimized or treated as taboo. Genetic effect is, however, mainly additive and, heritabilities of IQ and various personality traits are considered to be about 50% in adulthood. Further more, concerning IQ, genetic effects tend to increase from infancy to childhood because of genotype-environment correlation. Recent behavioral genetics are also focusing on environmental effects and the concepts of shared / nonshared environment have been introduced. These findings suggest that genetic factors, are not only related to learning and development but also play an important role in the making of one's individuality. Finally, the educational implications of human behavioral genetics are making the topic for a discussion.
著者
櫻庭 隆浩 松井 豊 福富 護 成田 健一 上瀬 由美子 宇井 美代子 菊島 充子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.167-174, 2001-06

本研究は, 『援助交際』を現代女子青年の性的逸脱行動として捉え, その背景要因を明らかにするものである。『援助交際』は, 「金品と引き換えに, 一連の性的行動を行うこと」と定義された。首都圏の女子高校生600人を無作為抽出し, 質問紙調査を行った。『援助交際』への態度(経験・抵抗感)に基づいて, 回答者を3群(経験群・弱抵抗群・強抵抗群)に分類した。各群の特徴の比較し, 『援助交際』に対する態度を規定している要因について検討したところ, 次のような結果が得られた。1)友人の『援助交際』経験を聞いたことのある回答者は, 『援助交際』に対して, 寛容的な態度を取っていた。2)『援助交際』と非行には強い関連があった。3)『援助交際』経験者は, 他者からほめられたり, 他者より目立ちたいと思う傾向が強かった。本研究の結果より, 『援助交際』を経験する者や, 『援助交際』に対する抵抗感が弱い者の背景に, 従来, 性非行や性行動経験の早い者の背景として指摘されていた要因が, 共通して存在することが明らかとなった。さらに, 現代青年に特徴的とされる心性が, 『援助交際』の態度に大きく関与し, 影響を与えていることが明らかとなった。
著者
高橋 麻衣子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.538-549, 2007-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
25
被引用文献数
3 5

本研究は, 黙読と音読での文理解に違いを生み出す要因を検討し, 黙読と音読の認知プロセスを明らかにすることを目的とした。認知プロセスにかかわる要因として (1) 読解活動中に利用可能な注意資源,(2) 黙読における音韻変換をとりあげ, 二重課題実験によって検討した。読解活動中に利用可能な注意資源の量を操作するために, 読解活動中に読み手にタッピング課題を課した。黙読における音韻変換の要因を検討するために, 読解課題中に読み手に構音抑制課題を課し, 音韻変換を阻害した。その結果, 音読での文の理解度は読み手の注意資源の量にかかわらず, 一定の成績を保てるのに対し, 黙読での文の理解度は, 読み手の注意資源が奪われると低下することが示された。また, 黙読において音韻変換が阻害されると, その理解度は常に音韻変換を行っている音読での理解度よりも低下することが示された。これらの知見から, 読み手に利用可能な注意資源の量と, 黙読で音韻変換を行うかどうかという要因が, 黙読と音読での理解度の差を生み出すことが考えられた。以上の結果から音読と黙読の認知プロセスモデルを提案し, これまで提出された多様な現象を統合的に説明できる可能性を指摘した。
著者
内海 しょか
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.12-22, 2010-03-30
被引用文献数
1 9

本研究では,青年期の子どもにおけるネットいじめの特徴を調べ,親の統制に対する子どもの認知とネット行動との関連を示すモデルを検討した。中学生487名を対象にした質問紙調査を行い,パソコンと携帯電話によるネット使用時間,インターネットを通して攻撃を行った経験・受けた経験,関係性攻撃,表出性攻撃,親のネット統制(実践,把握,接続自由)認知を測定した。その結果,ネットいじめ非経験者の割合は67%,いじめの経験のみ8%,いじめられの経験のみ7%,両方経験は18%であった。両方の経験を持つ者は,どちらも経験していない者に比べ関係性攻撃や表出性攻撃が有意に高く,携帯電話によるインターネット使用時間が有意に長かった。いずれの統制認知もネットいじめ・いじめられ経験を直接予測しなかったが,実践認知は間接的に,把握認知と接続自由の認知は直接的に子どものネット使用時間を予測した。ネット使用時間および,関係性攻撃はネットいじめ・いじめられ経験の両方に直接関連することが明らかとなった。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.92-105, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
65
被引用文献数
12 7

我々は学習を行う際, 人の説明を一度聞くだけ, 本を一度読むだけで, その内容を理解できるわけではなく, 事前や事後に適切な方略を用いて学習することで, 理解を深め, 知識の定着を図っている。そこで, 本稿では, 事前学習, 本学習, 事後学習の各フェイズにおいて適切な方略を使用しながら理解を深めていく学習プロセスのモデルを「フェイズ関連づけモデル」とし, そのモデルを用いて学習方略に関する先行研究の概観を行った。フェイズ関連づけモデルに基づいて先行研究を分類した場合, これまでの学習方略研究は, 1)フェイズの区別をせずに方略使用について測定した「フェイズ不特定型」, 2)フェイズを特定した上で方略使用を測定した「フェイズ特定型」, 3)複数のフェイズの関連に焦点を当てた「フェイズ関連型」の3つに分類することができる。本稿では, これらの先行研究から効果的な学習の在り方について示唆を得るとともに, 学習フェイズの関連づけの視点から見た場合に明らかになる課題を指摘し, 今後の学習方略研究に向けた枠組みを提案した。また, 最後には, 本稿の示した枠組みの実践的意義と学術的意義について論じた。
著者
詫摩 武俊
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.237-240,254, 1968-12-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
4 5

延べ組数にして543組のMZ, 134組のDZに集団式知能検査を実施した。どの知能検査の結果においても, またほとんどすべてのサブテストの結果においてもMZ間の相関はDZ間の相関より高く, 知能検査の成績を規定している機能に遺伝性が働いていることは疑い得ない。しかし, 遺伝性の強さは, サブテストの種類によって差があり, 一般に精神作用の速度をとくに必要とする問題, 言語記憶に関する問題, 計算に関する問題, 図形の空間的配置に関する問題では, 遺伝性係数が高く, これに対して過去の経験にてらして判断する問題では低かった。この資料は知能を構成する下位機能の特色について知る一つの手がかりであるが, このデーターの一義的な解決はまだ困難である。
著者
菅沼 慎一郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.265-276, 2013 (Released:2014-03-03)
参考文献数
21
被引用文献数
3 1

「諦める」は多くの人が日常的に体験することであるが, 心理学における一貫した定義はこれまでなく, その否定的側面が報告されることが多かった。本研究の目的は, 青年期における「諦める」の構造を明らかにし, 仮説的に定義すると共に, 「諦める」ことの精神的健康に対する機能に関する示唆を得ることである。後青年期(22~30歳)の男女15名を対象に, 過去の諦め体験に関して半構造化面接を行い, 29エピソードを得た。修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した結果, 11の概念と3つのカテゴリーが生成された。青年期における「諦める」は, 達成・実現を目指して努力してきた<諦めた内容>に関して, 目標の達成・実現困難度の認識という<諦めたきっかけ>を契機に, 目標や望みの放棄という<諦め方>に至る。これに基づき, 「諦める」は, 「自らの目標の達成もしくは望みの実現が困難であるとの認識をきっかけとし, その目標や望みを放棄すること」と定義された。「諦める」は否定的な側面のみならず, 建設的な側面を有しており, そこに「諦める」という概念の独自性があること, 精神的健康に対して多様な機能を有することが示唆された。
著者
斉藤 誠一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.336-344, 1985-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17

The purpose of this study was to investigate the relationship between pubertal growth and sex-role formation. In a first study, a sex-role scale for early adolescents, containing 9 masculine items and 6 feminine items, was constructed. In a second study, recognition and acquisition of masculine traits and feminine traits were related to variables concerning pubertal growth. The main results were as follows: 1) Height had little influence on either recognition or acquisition of masculine traits and feminine traits. 2) Mature boys showed significantly higher level of masculine trait acquisition than immature boys. 3) Both boys and girls who were satisfied with the important parts of their bodies showed significantly higher level of masculine and feminine trait acquisition. 4) It was found in both males and females that the level of acquisition of masculine traits and feminine traits were associated with some of the variables concerning pubertal growth, without recognition of them.
著者
池田 浩 三沢 良
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.367-379, 2012 (Released:2013-06-04)
参考文献数
32
被引用文献数
2 5

本研究は, 失敗に対する捉え方や価値観を意味する失敗観尺度を作成し, その信頼性と妥当性の検討を行った。研究1では, 自由記述の回答からKJ法を用いて失敗観の構造を明らかにし, それと関連する先行研究を基に尺度の原案を作成した。そして, 大学生246名を対象に調査を実施し, 失敗観はネガティブ感情価, 学習可能性, 回避欲求, 発生可能性の4因子で構成されていることを見出した。研究2では, 759名の大学生を対象に調査を実施し, 尺度の内的整合性と時間的安定性を含めた信頼性, そして関連する尺度との関係性から妥当性を確認した。最後に, 研究3では, 大学生187名を対象に場面想定法による調査を実施したところ, どのような失敗観を持つかによって, 失敗に対する原因帰属やその後の対処行動が規定されることが示唆された。