著者
上長 然
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.21-33, 2007-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
44
被引用文献数
4 1

本研究は, 思春期の身体発育と抑うつ傾向との関連について, 思春期の身体発育の発現が直接抑うつ傾向に影響するのか, 思春期の身体発育が発現に対する受容感や身体変容行動を媒介として抑うつ傾向と関連するのかを検討することを目的として実施した。中学生870名 (男子445名, 女子425名) を対象に思春期の身体発育の発現状況, 思春期の身体発育の発現に対する受容感, 身体変容行動 (体重減少行動・体重増加行動), 露出回避行動, 身体満足度, 抑うつ傾向について測定した。その結果, 1) 男子においては思春期の身体発育の発現は抑うつ傾向と直接的にも間接的にも関連していなかった。2) 女子においては, 皮下脂肪がついてきたことにおいて抑うつ傾向と直接的な関連がみられたが, 他の身体発育では見られなかった。3) 女子においては, 思春期の身体発育の発現は, 発現に対する受容感が身体満足度と露出回避行動を媒介にして抑うつ傾向に関連するという構造が示された。
著者
長峯 聖人 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.175-186, 2021-06-30 (Released:2021-07-21)
参考文献数
45
被引用文献数
3

近年では,制御焦点と具体的な他者との関連についての研究が増加している。その中で長峯他(2019)は,競争場面における他者に着目し,特性として促進焦点的な個人にとってはライバル関係が適応的な結果につながることを示した。本研究は長峯他(2019)の知見を踏まえ,競争場面において,特性として防止焦点的な個人にとってはチームメイトとの関係が適応的な結果につながるかどうかを検討した。加えて長峯他(2019)に倣い,制御焦点の差異がチームメイトとの関係による影響を介し,チームへのコミットメントおよび集団的な動機づけに影響するかどうかを併せて検討した。大学生アスリートを対象とした調査研究の結果,まず特性として防止焦点的な個人はチームメイトとの関係によって義務自己の顕在化が生じやすいことが示された。さらに防止焦点的な個人は促進焦点的な個人よりもチームへの規範的コミットメントおよび集団的な動機づけの程度が高いことが明らかになった。加えて,それらの関連は,義務自己の顕在化によって媒介されることが併せて示された。最後に,本研究で制御焦点との関連がみられなかった変数に関する考察が行われた後,課題と今後の展望について議論された。
著者
三和 秀平 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.26-36, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
45
被引用文献数
7

本研究の目的は,小学校教師の動機づけと子どもの動機づけの関連を検討することおよび自律性支援の媒介の効果を検討することであった。そのために,2つの研究を行った。研究1では,90名の小学校教師を対象に質問紙調査を実施し,教師の動機づけと教師の認知する自律性支援との関連を検討した。その結果,内発的動機づけ,子ども志向,義務感と自律性支援との間に正の関連が,承認・比較志向と自律性支援との間に負の関連がみられた。研究2では,教師35名とそのクラスに在籍する子ども1,097名を対象に質問紙調査を実施し,教師の動機づけと子どもの動機づけの関連および自律性支援の媒介の効果を検討した。その結果,教師の子ども志向が子どもの認知する自律性支援を介して子どもの内的調整と正の関連を示すことが示唆された。また,熟達志向は直接的に子どもの取り入れ的調整と負の関連を示していた。研究1,研究2ともに子ども志向が自律性支援や子どもの動機づけと関連しており,“子どものため”といった教師の他者志向的な動機づけのポジティブな側面が明らかとなった。
著者
遠藤 由美 吉川 左紀子 三宮 真智子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.85-91, 1991-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
7
被引用文献数
4 1

When parents scold their children, they give various types of reproaching utterances to them.The purposes of this study were to find out the types of scolding utterances and to see whether same types of information were contained in them. At least1670scolding utterances of parents were collected from306fifth and sixth graders and 302 undergraduates, and were classified into 14 categories. Direct utterances such as ‘do this’ or ‘do not do that’ made about one third of the total data while the others were made of many types of indirect utterances (Study1).The analysis of the verbal reactions of the recipients showed that reactions depended on types of scolding utterances (Study2).It was suggested that vaious types of scolding utterances contained different types of information.
著者
柏木 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.48-59, 1972-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8
被引用文献数
8 6

青年期における性役割の認知構造とその発達過程を明らかにすることを目的として, 質問紙法によって得られた資料について因子分析的手法による処理, 分析を行なった。その結果, 次の諸点が明らかにされた。1. 性役割識別の次元として男性役割に関する次元の第I因子 (知性), 第III因子 (行動力), 女性役割に関する次元の第II因子 (美・従順) が抽出された。2. 次元ごとの因子得点につきグループ間の差の検討を行なった結果, 行動力の次元がもっとも高く, 逆に美・従順の次元はもっとも低いことが見出された。3. 因子得点の平均および分布型から, 各次元の性役割識別性についての発達的変化が検討された。その結果, 行動力, 美・従順の2次元については有意な発達的変動はみられないが, 知的次元は, とくに男子において年齢段階による有意な変化が認められた。4. 性役割の認知パターンとその発達の仕方には, 男女により異なる特徴が見出された。すなわち, 男子は中学生では女性にも美・従順とともに知性も期待する複合的なものが, 高校以上になると, 男性には行動力と知性, 女性には美・従順という風に男女に対して分化した認知パターンが成立する。他方, 女子は, 男性に対しては行動力, 知性を期待するが, 女性に対する役割特性の認知は消極的で, 美・従順次元の性役割識別性は男子に比べて有意に低い。
著者
立林 尚也 田中 敏
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.34-43, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)

Many teachers have seen children behaving peculiarly for scientific materials and events, and believed that a child might have “good sense” as the greatest scientists might have in their childhood. This study was designed to explore factors that disposed peculiarly-behaving children (PBC) for their own activities. Seventy-seven PBC, from grades 3 to 6, were chosen as “peculiar but anything good” from thirty-nine elementary classes and were asked to rate their motivation for each of the fifty-seven behavioral episodes collected from many school informants of other PBC in scientific classrooms. Factor analysis suggested five behavioral factors; expectative and imaginative exploration, impulsive trying action, assimilating to creatures, focusing and concentration, and task creation. Further analysis revealed that these factors were not recognized plainly and teachers would not evaluate them as such.
著者
中垣 啓
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.36-45, 1989-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

A previous study (Nakagaki 1987) has shown that the thematic material effects on logical reasoning, caused by illogical problem-solving strategies, were more apparent than real. This effect has been explained by the degeneration theory proposed by the author. The present study was designed to examine possible degeneration effects on the abstract four card problem (FCP), when the card form or the conditional sentence (p→q) was modified. Three types of abstract FCPs were administered to 88 high school students the standard FCP, a FCP containing a card expressing explicitly the negation of the consequent (q), and a FCP having a conditional sentence with a double negative form (p→q). The subjects performed significantly better on the second and third types of aostract FCPs than on the standard one. This result was in accordance with the prediction of the degeneration theory and confirmed the degeneration effects even on abstract FCP. Based on this evidence, it was concluded that the matching bias in abstract FCP (Evans et al. 1973) could be better interpreted from the standpoint of the degeneration theory and that the thematic material effects on realistic FCP and the high performance of some tasks in abstract FCPs, having been thought to be caused respectively by different reasoning strategies, could both be systematically explained by the degeneration theory.
著者
松村 暢隆
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.169-177, 1979-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
11

本研究の目的は, 形式的課題における, 否定語の理解と生産の発達を調べることである。そのために, 類否定にかんして, 選択課題, 構成課題および言語化課題を行った。いくつかの教示 (下位項目) を組合せて, 被験者各人の否定および肯定の段階を定めた。また, 先行経験 (色・形分類または絵カードでの選択) の, 課題に及ぼす影響を見た。4~6才児54名を対象とした。選択課題は, 4枚の図形の中から「青い丸とちがうもの」や「青いものの中で丸とちがうもの」などを選択する。構成課題は, 色と形を分離した材料を用いて, 選択課題の下位項目に対応するものを構成する。言語化課題は, 指示されたものを, 選択課題の教示に対応する言葉で言語化する。その結果, 先行経験の影響はなかった。否定について, 選択課題と構成課題はほぼ同じ年齢で可能で, 1次元否定は4才ころ, 2次元否定は5才ころ, 部分補クラスは 5才ころ (構成課題では6才ころ) に可能になった。それに対して言語化課題は困難で, 5才ころ1次元否定ができ, 6才でもそこにとどまった。肯定については, 選択課題と構成課題では, 2次元肯定が4才からできた。言語化課題では, 1次元肯定は, 4才からできたが, 2 次元肯定は, 5, 6才ころにできた。肯定の段階は否定の段階より1年ほど先行していた。なお, 別の被験者で, 選択課題の材料の図形が, 4枚の場合と9枚の場合とを比較したところ, 難易に差はなかった。また, 選択課題の材料が, 図形の場合と絵カードの場合とを比較したところ, 肯定についてのみ絵カードの方が困難になった。絵カードの場合は属性によって困難さが異なり複雑になるであろう。
著者
砂田 良一
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.215-220, 1979
被引用文献数
1

Eriksonの自我同一性という概念を実証的に定義し, それを用いて個体と家族, 市民社会, 国家の間の諸規範ずれが同一性混乱をひきおこすことを示すことが本研究の目的である。<BR>Eriksonの理論の中から, 時間的展望混乱, 自意識過剰, 役割固着, 労働麻痺, 同一性混乱, 両性的混乱, 権威混乱, 価値混乱という8つの部分症候を下位概念とする同一性混乱尺度を構成した。長島他 (1967) からの12 の形容詞対を用い, 「現在の私」, 「家族からみた私」, 「大学生活での周囲の人からみた私」, 「世間の人からみた私」「理想の私」, 「家族から望まれている私」, 「大学生活での周囲の人から望まれている私」, 「世間の人から望まれている私」という8つの自己像のを測定し, 諸自己像のずれを諸規範のずれとした。<BR>自己の規範と家族, 市民社会, 国家の規範の間のずれは同一性混乱をひきおこす1つの原因であることが示された。
著者
保坂 亨
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.52-57, 1995-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15

The purpose of this study is to investigate, in a certain city, the actual number and incidence ratio of long absence and school non-attendance on the basis of cumulative guidance records over a 3-year period of all children, in elementary and junior high schools, who were absent from school for more than thirty days in one school year. The results were as follows: from 1989 to 1991, in total, the incdence ratios of long absence were 1.64%, 1.64%, 1.62% and those of school non-attendance were 0.93%, 0.95%, 0.95% respectively. It was revealed that the ratios of long absence in junior high schools was higher compored to those in elementary schools being caused by an increase in school non-attendance. And it was evidently confirmed that the large number of school non-attendance in this investigation compared to the “reluctance to go to school” in the report of Ministry of Education was caused by an ambiguous definition of the term.
著者
飯島 有哉 山田 達人 桂川 泰典
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.388-400, 2020-12-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
39
被引用文献数
3

本研究は,教師の生徒に対する賞賛行動が,生徒の学校生活享受感情および教師自身のワーク・エンゲイジメント(WE)に与える効果とそのプロセスについて検討することを目的とした。公立中学校教師4名に4週間の賞賛行動の自己記録を依頼し,介入に伴う生徒267名および教師自身の変化を測定した。生徒に対する質問紙調査および教師に対する生徒の学校生活の様子に関するインタビュー調査の分析結果から,教師の賞賛行動に伴うほめられ経験の増加がみられた学級において生徒の学校生活享受感情の向上が認められた。教師自身においては,単一事例実験法による検討およびインタビューデータの分析結果から,賞賛行動の増加に伴うWEの向上が認められ,その変化プロセスとして,賞賛行動の実行に伴う【効果の体験】が直接的に【WEの向上】に結びつくものと,【生徒認知の変化】を介するものの2種類のプロセスが見出された。本研究の結果から,教師の賞賛行動が生徒および教師双方の学校適応の促進に寄与することが示され,その効果プロセスにおける相互作用性および,教師の主観的な賞賛行動と生徒のほめられ経験の一致の重要性が考察された。
著者
寺尾 尚大
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.37-51, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
42
被引用文献数
2

本研究の目的は,複数英語文章の読解能力を題材として,テスト項目の困難度パラメタに影響を及ぼす要因を検討することであった。大学生151名に対し,同一のテーマについて述べられた二つの文章を一組の文章セットとして提示し,複数英語文章の読解項目への解答を求めた。本研究では,文章セットに含まれる文章の内容の一部を記述した各文が,どの文章で記述されていたかを問うテスト項目を作成し,制約つき2パラメタ・ロジスティックモデル(2PLCM)を適用して,項目困難度パラメタに影響を及ぼす要因について検討を行った。その結果,二つの文章を読んではじめてわかることがらを記述した文や,いずれの文章にも記述されていないことがらを記述した文の分類に関する項目で困難度が高くなっていた。一方,二つの文章が互いに補い合う関係にある相補的文章セットと,二つの文章の間で主張が対立する関係にある矛盾・対立的文章セットの間では,項目困難度は異ならなかった。本研究から得られた知見は,複数英語文章の読解能力を測るテスト項目の作成に対する指針を提供しうるものであることが示唆された。
著者
山川 賀世子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.476-486, 2006-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
5 5

本研究では, George & Solomon (1990/1996/2000) によって提案された, 子どもの愛着の新しい測定具であるAttachment Doll Playが, 日本の子どもに実施可能であるか, 妥当であるかを検討した。Doll Playの教示を日本の子どもにわかるように変更した後, 5~6歳の幼稚園児56名にDoll Playを実施し, 更に, 母子分離の後の母親との再会場面での子どもの愛着行動を観察した。その結果,(1) 日本の女児も男児も, Doll Playに対して, アメリカの子どもと類似した反応を示したこと,(2) 愛着をA, B, C, Dの4タイプに分類する原手引の基準は, 日本の子どもに対しても適応可能であったこと,(3) Doll Playと母子再会場面での子どもの愛着行動との間には有意な一致がみられ (k=.62; p<.001), 妥当性が確認されたこと, が示された。最後に, 文化がDoll Playに与える影響と, Doll Playを用いた今後の研究について述べた。
著者
山田 旭
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.92-105,133, 1969

精神分裂病患者44名(男子30名,女子14名)および神経病患者25名(男子13名,女子12名)にM.M.P.I.及びロールシャッハ・テストを組み合わせて施行し,その結果を動力学的観点から見た症状類型と関連させて解釈することにより次の所見が認められた.M.M.P.I.を両疾患の患者群に施行した結果からは等しく分裂病とか神経症といってもその症状にいろいろの差がある如くM.M.P.I.の人格プロフィルの型は種々であって殊に例数のあまり多くない場合単に両群の平均プロフィルを求めただけではその疾患を代表する一般的なプロフィルを云々することは困難である.然し動力学的観点に立って両疾患における症状類型を陽性症状のニュアンス強いものとに分けると分裂病においても神経症においても前者の型のものは人格プロフィルが高く表れ後者の型においては低く表れる.これは分裂病的人格変化も神経症的人格変化もM.M.P.I.の上では等しく正常平均からの量的偏奇として示されるので新ジャクソン主義的立場で言うところの2つの機制が両疾患に於いて殆ど同じ様な状況でM.M.P.I.のプロフィル上の差異となって表れるのでこの点については分裂病と神経症の間にあまり差異は認められない.しかしロールシャッハ・テストにおいてPitrowskiのprognostic perceptanalytic signを両疾患について適用すると,分裂病においては人格の低下解体の程度の強弱に応じてサインの予測点が低くなるものと高くなるものとの間にかなり開きが出るのに対し,神経症においては殆ど全部が略々人格解体の少い予後良好な分裂病と同じような値を示し,分裂病の場合のように予測点が低く出るものがなかった.而して分裂病においては陽性症状,陰性症状のニュアンスの差による類型と人格解体の程度の強弱の差による類型の組合せから4つの症状類型を訳動力学的立場からその症状の説明を行い,更にそれ等の症状類型はM.M.P.I.の人格プロフィルの高低の差とPiotrowskiのprognostic perceptanalytic signsの予測点の高いか低いかということの組合せから精神測定的方法である程度推定できることを述べた.最後に神経症においては症状的に陽性症状のニュアンスの強い型と陰性症状のニュアンスの強い型とに分けた2類型の各々についてEichlerのanxiety indexを適用した所,不安のもつ2つの発生機制に応じて不安指標の項目のうち或ものは前者の型に高くあるものは後者の型に高いというように項目のもつ意味に応じて,かなり明確に2つの群に分かれることは認められた.擱筆に際し,御校閲を賜った石橋俊実教授に厚くお礼申し上げます.また終始指導をいただいた佐藤愛講師に深く感謝いたします.(この論文を石橋教授開講10周年記念論文として捧げます.)
著者
豊沢 純子 唐沢 かおり 福和 伸夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.480-490, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
23
被引用文献数
24 13

本研究は, 脅威アピール研究の枠組みから, 小学生を対象とした防災教育が, 児童の感情や認知に変化を及ぼす可能性, および, これらの感情や認知の変化が, 保護者の防災行動に影響する可能性を検討した。135名の小学校5年生と6年生を対象に, 防災教育の前後, 3ヵ月後の恐怖感情, 脅威への脆弱性, 脅威の深刻さ, 反応効果性を測定した。また, 防災教育直後の保護者への効力感, 保護者への教育内容の伝達意図と, 3ヵ月後の保護者への情報の伝達量, 保護者の協力度を測定した。その結果, 教育直後に感情や認知の高まりが確認されたが, 3ヵ月後には教育前の水準に戻ることが示された。また共分散構造分析の結果, 恐怖感情と保護者への効力感は, 保護者への防災教育内容の伝達意図を高め, 伝達意図が高いほど実際に伝達を行い, 伝達するほど保護者の防災行動が促されるという, 一連のプロセスが示された。考察では, 防災意識が持続しないことを理解したうえで, 定期的に再学習する機会を持つこと, そして, 保護者への伝達意図を高くするような教育内容を工夫することが有効である可能性を議論した。
著者
古厩 勝彦
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.65-75,124, 1964

ろう者の手話または口話によつて送話された内容の了解度を,(A) 書記再生,(B) 絵画選択の応答方法により検討した。送話は黒白8<SUB>m</SUB>/m映画により, 送話文は相当平易なものを使用した。口話による低書記再生の場合にはむしろ読み取りともいうべき応答方法であるが, 手話による (A) と手話,<BR>口話による (B) の方法は了解度をみるものと考えられる。ただ,(A) による場合には「言語力」というべきものによつて相当に結果は左右され, 本研究においても結局このような能力によつてSp. R., Si. R. の成績はともに大きく影響を受けていた。(B) の場合には偶然による見かけの成績におわる危険を伴なつているものではあつたが, こうした「言語力」によりあまり大きな影響を受けない方法によつてみた場合, Si. R. の方がSp. R. をうわまわる好成績をあげている。<BR>そして, Si. R. がだれにとつてもある程度までは行なえるものであるのに対して, Sp. R. は個人差が大きく, 成績のよいものは相当の成績をもおさめうるのに, 成績の悪いものはほとんどできないといつたように差がはげしく, その送話文によつてもでき・ふできの差が著しい。
著者
太田 絵梨子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.204-220, 2021-06-30 (Released:2021-07-21)
参考文献数
26
被引用文献数
4

高校数学では,基礎的な概念の理解や数学的表現力の育成が重視されており,テストなどの学習評価でもそうした観点での診断が求められている。一方,概念的理解やその表現を問うテストとは具体的にどのようなものであり,そうしたテストの実施が教育現場の課題の解決にどのように資するかについては十分検討されていない。そこで本研究では,研究者が心理学的な視点を生かして行なった学習評価に関する提案を高校数学の実践場面で検討した。具体的には,(1)高校数学における概念的理解を評価するテストの考案,(2)テストを受験した高校生のつまずきの分析,(3)高校生による概念的理解の実態に対する教師の認識の検討,の3点を行なった。分析の結果,基礎的な概念の理解や数学的表現に課題が見られ,教師が生徒の理解の実態を必ずしも把握できているとは言えないことが明らかになった。また,結果を教師にフィードバックした際のグループディスカッションの様子から,教師が学習者の理解状況に対する認識を修正し,日常的な評価や授業でも概念的理解を問う必要性を感じていたことが示された。最後に,数学における学習評価の研究及び教育実践に対する示唆と展望について論じた。
著者
芳賀 純
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.82-84,132, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

北海道全域から抽出した中学校3年生1267名を被検者にしてNHKラジオ放送によつて英語聞き取り検査を施行し, 標準化した。この検査は6項目の聞き取り能力の下位検査からなり, ペーパーによる英語標準検査とは.780の相関値をもつ。問題の録音吹込みは経験を経た日本人教師によつてなされたために, この聞き取り検査は教室場面で経験を経た英語教師がテープなしに問題を読むことによつて近似的に生徒の能力を測定・評価することも可能である。なお今後の研究は, この結果を基礎として外人教師が問題を吹込んだ場合との比較および分析が必要である。
著者
榊原 彩子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.19-27, 1999
被引用文献数
4

本論文では, 絶対音感を習得するプロセスについて, 考察を加える。1名の3歳児に対し19か月間, 毎日, 絶対音感を習得するための訓練をおこなった。訓練内容は9種の和音の弁別課題である。江口 (1991) によれば, これらの和音が弁別できた時点で全ての白鍵音について絶対音感を習得したことが保証される。本研究の目的は, 訓練プロセス中にあらわれる認知的ストラテジーの変化を, 縦断的に明らかにすることである。音高が「ハイト」と「クロマ」という2次元でなりたつという理論に従えば, 絶対音感保有者は, 音高を判断する際「クロマ」に依存したストラテジーをとることが予想される。結果, 2つのストラテジーが訓練プロセス中に観察され, 1つは「ハイト」に依存したストラテジーであり, もう 1つは「クロマ」に依存したストラテジーであった。また, 絶対音感を習得するプロセスは, 次の4段階に分けられた。第1期: 常に「ハイト」に依存する。第II期:「クロマ」を認識する。第III期:「ハイト」と「クロマ」がストラテジー上, 干渉をおこす。完成期:「ハイト」も「クロマ」も正しく認識する。
著者
竹村 明子 仲 真紀子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.211-226, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
55
被引用文献数
1

二次的コントロール(Secondary Control : SC)(Rothbaum, Weisz, & Snyder, 1982)とは, 状況に合わせて個人が変わる過程を表す概念であり, 集団主義的文化や高齢者心理の特徴を理解するために重要な概念として期待されている。しかし, SC概念は研究者ごとに捉え方が異なり, 研究結果の比較を妨げる障害となっている。本稿は, このようなSC概念に関する研究者間の一致・不一致を整理することを目的に, 関連研究のレビューを行った。その結果, 1) SCの概念構造に関して, 階層構造を想定する立場と単層構造を想定する立場があること, 2)一次的コントロール(Primary Control : PC)とSCの関係において, PCとSCと諦めの位置づけおよびPCとSCの区分基準, PCに対するSCの機能性に関する考え方に研究者間の違いがあること, などを見出した。さらに, 3)統制感の維持に焦点を当てる立場と状況との調和に焦点を当てる立場, 4)行動と結果の随伴性認知を必然と捉える立場と偶然と捉える立場, 5)SCの統制主体を自分以外と捉える立場と自分自身と捉える立場, などの考え方の違いにより想定されるSCの機能性が異なることを明らかにし, 今後の課題について考察した。