著者
植阪 友理 内田 奈緒 佐宗 駿 柴 里実 太田 絵梨子 劉 夢思 水野 木綿 坂口 卓也 冨田 真永
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.404-418, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
44
被引用文献数
1

自立的に深く学ぶ力の育成は,新教育課程において強調されている重要な教育目標である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により,家庭で自ら学習する時間が増加したことから,以前にもましてこの力の重要性か゛高まっている。一方で,学習者はこうした力を十分に身につけていないという実態か゛ある。本研究て゛は,大学関係者と高校教員か゛連携し,新型コロナウイルス感染症拡大の影響をうけて休校中であった公立高校において,公立高校1年生33名を対象に,自学自習を支援する「オンライン学習法講座(全6回)」を実践した。本実践を開発するにあたり,オンラインならではの指導上の工夫を導入するとともに,オンラインを前提としない従来の指導法上の工夫をどのように統合すべきかについても検討した。講座を実施した結果,オンラインて゛の実施ではあったが,生徒に講座の趣旨か゛十分に伝わっている様子が確認されるとともに,高い満足度が得られた。また,一部の生徒ではあるものの複数の講座を統合的に利用する様子や,学校現場の指導法の変化も確認された。
著者
新井 雅 余川 茉祐
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.389-403, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
47

本研究では,小学生を対象に,自殺予防の保護因子としての援助要請に焦点をあて,それらに関わる態度やスキルの向上をねらいとする心理教育プログラム(SOS の出し方・受け止め方に関する教育)の効果を検討し,今後の自殺予防教育への示唆を得ることを目的とした。計2回の授業から構成されるプログラムを学級単位で実施し,友人・教師に対する被援助志向性,援助要請スキル,友人に対する援助スキルを測定する尺度を用いた自記式質問紙により効果検討を行った。対象となった小学5, 6年生111名のデータを用いて解析を行った結果,援助要請スキルや友人に対する援助スキルなどにおいてプログラムの肯定的な効果が示された一方,友人に対する被援助志向性の一部の下位尺度では男子児童と女子児童で効果の及び方に違いが生じていた。また,プログラムの実施前後における援助・被援助のスキル(援助要請スキルと友人に対する援助スキル)と友人・教師に対する被援助志向性の変化の関連について,部分的に有意な結果が示され,これらの関連は特に女子児童において特徴的であった可能性が推察された。以上の結果を踏まえて,今後の小学生を対象とした自殺予防教育に関する実践および研究の発展可能性について考察した。
著者
榊原 彩子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.92-101, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
25
被引用文献数
4 4

According to previous theories, effects of repeated exposure of music on pleasingness depend on uncertainty of the music. In this study,“redundancy of rhythm pattern” and “prototypicality of harmony” were manipulated as the factors of uncertainty. The purpose of the following study is to examine effects of repeated exposure on pleasingness determined by the two above mentioned factors. Subjects heard tone sequences that represented four levels of redundancy and four levels of prototypicality, nd rated them on 7-point scales of “complexity” and “pleasingness”. Pleasingness was shown to be an inverted U-function of redundancy and prototypicality. And then, each tone sequence was repeated and rated pleasingness after each repetition. In a case of sequence whose redundancy caused most pleasingness before repetition, pleasingness of that sequence was decreased by repetition. But, in a case of sequence whose redundancy was too low to cause pleasingness before repetition, pleasingness was seen increased by repetition. On the other hand, pleasingness determined by prototypicality was not affected by repetition, and kept initial pleasingness during repetition.
著者
内田 奈緒
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.366-381, 2021-12-30 (Released:2021-12-28)
参考文献数
45
被引用文献数
7

本研究の目的は,英語語彙学習において効果的な方略は学年により違いがあるのではないか,また,実態としてはどのような方略がとられているのか,その既定要因は何かを検討することであった。中学1―3年生233名,高校生1―3年生304名を対象に,学習目標,学習観,方略使用に関する質問紙調査および語彙サイズテストを実施した。分析の結果,方略使用については,反復方略は一貫して多く使われる一方,より深い処理を伴う関連づけ方略および表現・活用方略の使用は停滞するか減少する傾向が示された。しかし,語彙サイズと関連づけ方略の間には中3以降で正の相関が見られ,ある程度学習が進んだ段階で関連づけながら学習することの有効性が示唆された。さらに,多母集団同時分析を行った結果,高校生では,学習方略と学習目標から語彙サイズへの影響が見られたのに対し,中学生では語彙サイズへの有意なパスは確認されなかった。特に関連づけ方略が有効となる高校においてその使用が増えていかない実態が明らかになり,そのことを考慮した上で指導する必要性が示唆された。
著者
藤村 宣之 太田 慶司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 = The Japanese journal of educational psychology (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.33-42, 2002

本研究では,算数の授業における他者との相互作用を通じて児童の問題解決方略がどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。小学校5年生2クラスを対象に「単位量あたりの大きさ」の導入授業が,児童の倍数関係の理解に依拠した指導法と従来の三段階指導法のいずれかを用いて同一教師により実施された。授業の前後に実施した速度や濃度などの内包量の比較課題と,授業時のビデオ記録とワークシートの分析から,以下の3点が明らかになった。1)倍数関係の理解に依拠した指導法は従来の指導法に比べて,授業時と同一領域の課題解決の点で有効性がみられた。2)授業過程において他者が示した方法を意味理解したうえで自己の方略に利用した者には,他者の方法を形式的に適用した者に比べて,洗練された方略である単位あたり方略への変化が授業後に多くみられた。3)授業時の解法の発表・検討場面における非発言者も,発言者とほぼ同様に授業を通じて方略を変化させた。それらの結果をふまえて,教授・学習研究の新しい方向性や方略変化の一般的特質などについて考察した。The present study examined how children change their problem-solving strategies through social interaction in mathematics classrooms. A mathematics teacher taught a lesson on intensive quantity to 2 fifthgrade classes by means of either a method based on children's intuitive strategies or a conventional method. Children in both classes were asked to solve proportion problems before and after the lesson. Videotaped records of the lesson, and worksheets used by the children, were analyzed. Instruction based on children's intuitive thought was more useful when children were solving near-transfer tasks than was conventional instruction. Those who understood others' ideas presented in the classroom and incorporated those ideas into their own strategies used a sophisticated strategy (a unit strategy) on the posttest more often than those who superficially imitated others' ideas. Both children who had not said anything during the lesson and those who had made comments benefited from the experimental instruction method. A new direction of research in cognition and instruction, and general characteristics of strategy change, were discussed.
著者
清河 幸子 伊澤 太郎 植田 一博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.255-265, 2007-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
10 3

本研究では, 他者との協同の中で頻繁に生じると考えられる, 自分自身での課題への取り組み (試行) と他者の取り組みの観察 (他者観察) の交替が, 洞察問題解決に及ぼす影響を実験的に検討した。具体的には, Tパズルを使用し,(1) 1人で課題に取り組む条件 (個人条件),(2) 20秒ごとに試行と他者観察の交替を行いながら2人で課題に取り組む条件 (試行・他者観察ペア条件),(3) 1人で課題に取り組むが, 20秒ごとに試行と自らの直前の試行の観察を交互に行う条件 (試行・自己観察条件) の3条件を設定し, 遂行成績を比較した。また, 制約の動的緩和理論 (開・鈴木1998) に基づいて, 解決プロセスへの影響も検討した。その結果, 試行と他者の取り組みの観察を交互に行うことによって, 言語的なやりとりがなくても, 解決を阻害する不適切な制約の緩和が促進され, 結果として, 洞察問題解決が促進されることが示された。その一方で, 試行と観察の交替という手続きは同一であっても, 観察対象が自分の直前の試行である場合には, 制約の緩和を促進せず, ひいては洞察問題解決を促進することにはならないことが明らかとなった。
著者
稲垣 佳世子 波多野 誼余夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.191-202,251, 1968-12-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
13 11

The present study aimed at investigating motivational influences on epistemic observation of a physical phenomenon. Two experiments, which followed Pre-test-Instruction-Post-test paradigm, were undertaken. Ss of 2 experimental groups were motivated for observation by receiving information discrepant with their prior beliefs.One hundred and twenty-five 3rd-graders served as Ss of the 1st experiment. In the Instruction session, they observed and confirmed by a scale conservation of weight under deformations of a clay ball, and under changes of man's posture. Immediately before the observation, pupils of a group termed “Discrepant Information Group” (DI) were shown a table of response frequencies about conservation by an experimenter. Distribution of responses, which were pretended to be opinions of pupils of another, was markedly differnt from theirs, Ss of a “Discussion Group” (D) were required to anticipate conservation or non-conservation and to debate on the question. Control Group (C) Ss were given neither of these experimental manipulations.The results were as follows:1) Ss who observed the event after incongruity was aroused (as in DI) could recognize the event more accurately and could more readily generalize the principles of conservation.2) If Ss were strongly committed to a certain belief (as in D), they often conceptualized ambiguous results in a biased manner, making them consistent with the belief.As to generality of learning, however, performance of D Ss did not differ significantly from that of C Ss. This result was an unexpected one. Its interpretation was that there was low incongruity in D, because proponents of conservation were highly predominant at the discussion.In order to verify the interpretation mentioned above, the 2nd experiment was undertaken. Eighty-seven 4th-graders observed and confirmed by a scale conservation of weight under dissolution of sugar into water. One school class was assigned to C. Two groups of 22 pupils, of whom 2/3 were non-conservers, were selected from 2 other classes and served as D. They were expected to experience high incongruity during the discussion.The results showed that, compared with C, improvement of performance was greater among D. They could state adequate explanations of conservation of weight, generalize more readily the principles of conservation, and resist extinction (the observation of an apparently non-conserving event). Furthermore, Ss of D reported high epistemic curiosity.
著者
芳賀 道匡 高野 慶輔 羽生 和紀 坂本 真士
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.77-90, 2017 (Released:2017-04-21)
参考文献数
31
被引用文献数
5 6

本研究の目的は, 2つの研究を通して, 33項目から構成される大学生活における主観的ソーシャル・キャピタル尺度(SSCS-U)の開発と, 信頼性および妥当性を検討することにあった。本研究では2つの調査を通じて, SSCS-Uを構成する項目を選定し, 開発されたSSCS-Uの因子構造の再現可能性, 内的一貫性と再検査信頼性の検討, そして他の心理社会的要因との関連を検討した。その結果, SSCS-Uは, 仲間, クラス, 教員に関する主観的ソーシャル・キャピタルという3因子によって構成され, 因子構造の再現可能性があることが示された。また, 内的一貫性と再検査信頼性があること, ソーシャル・スキルおよび主観的ウェルビーイング, ソーシャル・キャピタル関連行動と関連があることが分かった。本尺度は, 学生が主観的に認知しているソーシャル・キャピタルを包括的に測定する尺度として, 大学生活のソーシャル・キャピタルに関する研究の更なる発展に寄与すると考えられる。
著者
秋山 隆 豊田 秀樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.250-265, 2020-09-30 (Released:2021-02-18)
参考文献数
47
被引用文献数
1

テストデータを対象として,受験者の潜在的な特性と項目特性を分離して分析するためのテスト理論に項目反応理論(IRT)がある。通常,IRTでは受験者が所属する下位集団に拘らず,同じ特性に関する値を有していれば,同一項目に正答する確率も同じである仮定される。もし,性別や人種といった属性別で,同一項目に対する正答確率が変化する場合,当該項目は特異項目機能(DIF)を有するといわれる。測定の公平性の観点からDIFは望ましくないため,DIFの分析は大きな関心を寄せられてきた。IRTに基づいたDIFの検討において,広く用いられてきたDIF検出法は統計的仮説検定に基づいている。本研究では,ラッシュモデルにおける均一DIFを対象として,ベイズモデリングに基づいたDIF検討方法を提案する。提案手法を用いることで,下位集団ごとに項目母数を別々に推定し,更に等化係数を推定するという手順を一括して扱うことができる。また,DIFの大きさとそれに対する確信度を考慮可能な指標の提案も行う。
著者
藤井 恭子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.146-155, 2001-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
11 6

本研究では, 青年期の重要な友人との関係における心理的距離をめぐる葛藤について検討する。具体的には, 青年が友人との心理的距離をめぐり,「近づきたいけれども近づきすぎたくない」,「離れたいけれども離れすぎたくない」というように,「適度さ」を模索して生じる葛藤である。本研究ではこの葛藤を,「山アラシ・ジレンマ」として捉え,(1) 青年期の友人関係における「山アラシ・ジレンマ」を抽出する,(2)「山アラシ・ジレンマ」に対する心理的反応の仕方を明らかにする,(3)「山アラシ・ジレンマ」とそれに対する心理的反応の仕方の関係について, 心理的距離の程度から明らかにする, ことを目的として研究を行った。その結果, 近づくことに対するジレンマ, 離れることに対するジレンマにおいて, 心理的要因がそれぞれ2つずつ抽出された。それらは, 対自的要因によるジレンマと, 対他的要因によるジレンマであると整理された。また, 生じた「山アラシ・ジレンマ」に対して,「萎縮」,「しがみつき」,「見切り」という3つの心理的反応があることが明らかとなった。さらに, 対自的要因による「山アラシ・ジレンマ」ほど, 心理的反応に結びつきやすく, その傾向は相手との心理的距離を遠く認知しているほど強まることが明らかとなった。
著者
大谷 宗啓
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.480-490, 2007-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
9 1

本研究は, 高校生・大学生を対象に, 従来, 深さ・広さで捉えられてきた友人関係について, 新観点「状況に応じた切替」を加えて捉え直すことを試み, その捉え直しが有意義なものであるかを質問紙調査により検討した。因子分析の結果, 新観点は既存の観点とは因子的に弁別されること, 新観点は深さ・広さの2次元では説明できないものであることが確認された。また重回帰分析の結果, 新観点追加により友人関係から心理的ストレス反応への予測力が向上すること, 新観点による統制の有無により既存観点と心理的ストレス反応との関連に差異の生じることが明らかとなった。
著者
伊藤 美奈子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.251-260, 2003-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
9 1

本研究では, 中学校における保健室登校の実態を調べるとともに, それに対する養護教諭の意識について明らかにすることを目的とした。小・中・高校の養護教諭285人に対し,(1) 保健室登校についての悩み,(2) 保健室での相談活動に関する意識と相談満足度,(3) スクールカウンセラー (以下sc) 配置の有無,(4) 昨年度と今年度の保健室登校児童生徒についての質問 (人数, 期間, 不登校のタイプ, 来室頻度, 経過, 他の教師との連携の様子など) からなる質問紙を実施した。研究1では, 回答が得られた保健室登校生徒男子106 人, 女子206人の回答を分析した。その結果, 保健室登校児童生徒の実態とそれに対する養護教諭の対応とその経過は, 校種によって異なるのであり, 不登校のタイプによっても差異のあることが明らかになった。研究IIでは, 保健室登校に関する悩みには〈多忙感〉〈連携の悩み〉〈対応上の不安〉という3つがあることが見出された。保健室登校を多く抱えるほど多忙感が大きく, 保健室登校に悩んでいる養護教諭ほど, 相談役割 (SC役) を兼ねることへの不安も大きいことが示唆された。さらに, 保健室登校とSC の有無の組み合わせによる3群を比較する中で, SCが配置された学校では, 保健室登校の人数が多いが, 対応上の不安は小さく, 養護教諭の相談活動満足度は高いことが明らかになった。それより, 養護教諭とSCとの連携の意義が検討された。
著者
蔵本 真紀子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.146-162, 2022-06-30 (Released:2022-07-12)
参考文献数
51
被引用文献数
3

本研究では,日本で思春期以上の子どもを育てている国際結婚夫婦26名に面接調査を行い,子どもの文化的アイデンティティの発達過程を親の視点から探り,子どもと親が経験した課題,そして親の子育てのアプローチの軌跡を検討することを目的とした。データの分析には,グラウンデッド・セオリー・アプローチを援用した。その結果,アイデンティティの発達に影響を与えるさまざまな要因,文化的アイデンティティの発達と言語発達のパターン,そして子どもが経験した困難が浮き彫りになった。親については,文化継承,いじめ・溶け込みにおける闘い,安全基地としての役割,自律性の促進のカテゴリーが抽出された。獲得された文化的アイデンティティは様々であるが,子どもがアイデンティティに充実感を覚える最大の要因は親から尊重され見守られているという実感であることがうかがえた。また子どもが幼少期に活発的だった文化継承について,成長と共に子どもが次世代の文化継承の担い手になっていくという世代交代が示唆された。重要な点は,異文化間の子どもたちが文化的アイデンティティを育むための単一の方法があるわけではないこと,そして異文化間に育つ子どもたちと親の独自のニーズや課題を把握することがますます求められることである。
著者
高橋 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.65-75, 1970-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
8
被引用文献数
2

本研究は, すでに報告した大学・高校生の結果と比較しつつ中学生の依存性の様相をとらえ, 青年期における依存性の発達的変容を考える資料を得ようとするものであった。その結果, 明らかにされたのは次の点であった。1) 依存構造対象間の機能分化の程度は, 一般的にいえば中学生では, 高校・大学生に比べ明確ではなかった。その証拠としては, まず第1に対象間の機能分化がすすみ, よく構造化された, 単一の焦点を持つF型は中学生では25%でしかなく, 高校・大学生に比べて少ない。そして, 第2に, F型と判定される場合にも他の型における同じ対象よりはという相対的な意味では, 焦点となっている対象が中核的とはいえるが, 大学生の同じ型にくらべれば, 機能分化が明確でないと思われる型がみられた。たとえば, 愛情の対象型では, 得点からいえば焦点と判定される愛情の対象であるが, たしかに, 他の型における愛情の対象とは明らかに機能が異なり, 中核的であるとはいえ親友もまた重視されていて, 〈愛情の対象-親友〉型という2F型的な特徴をもっていたのである。また, 親友型でも, 親友よりも母親の方がより中核的と思われるところがあった, という具合である。また, 依存構造の発達の指標のひとつとして, 依存の対象の数の増加・範囲の拡大ということが考えられたのであるが (高橋, 尊1968a), 中学生では, 高校一大学生に比べ, 愛情の対象, 敬する人などに対しての無答が多いことが注目された。つまり, F型でも, そして同じ焦点のF型でも, また型としてのよい構造的特性をそなえていても, 中学生ではそこに含まれる要素がまだ少なく, 発達につれて変化する可能性があるといえるのである。2) 依存要求の強度依存要求の強度は予想どおり, 中学生が高校・大学生に比べて高いということはなかった。母親型が上位・下位群に同程度出現するのに対し, 愛情の対象は上位群でのみ出現しやすいということからすれば, 依存要求の強度は, 幼少時に獲得されたものが一定不変であるとか, 成長につれて減少していくとか考えるのは妥当ではなく, むしろ, ある対象, たとえば愛情の対象に出会ったということにより, 逆にそれ以前より依存要求が強くなるということすらあると考えられよう。3) 中学生女子における依存性依存構造の内容についてみれば, 中学生における依存の対象には次のような特徴がみられた。(1) 単一の焦点となる対象としては, 中学生では, 母親が特に多く, 次が愛情の対象, ついで親友が多く, 父親, きょうだいは焦点になりにくい。 (母親は女子においては一貫して重要な依存行動のむけられる対象であるが, 中学生ではまたいちだんとそうである。(3) 逆に, 父親は女子においては一貫して依存行動をひきおこしにくい対象であるが, 中学生では大学生や高校生, とくに後者に比べれば, かなり重要な対象に近いといえる。しかし, この傾向も, 1年生で顕著なだけで学年の上昇につれて父一娘間には心理的な距離がでてくるし, また, 母親とともになら対象になりうるという高校生でみられた特徴がやはりすでに現われている。父親はなぜ単一では依存の対象になりにくいのであろうか。ひとつには, 父親が「たよりにしている」とか, 様式 (4) とかの道具的あるいは間接的ニュアンスの強い依存行動の向けられる対象になることを考えると, 父親は情緒的な依存行動の対象にはもともとなりにくいのかもしれない。父一娘関係は依存行動というものではなく, 別の角度からとらえることがふさわしいものとも考えられる。が, また一方では, 母親とともにしか対象になりにくいということが, 母一娘関係の中に, 母・父の夫婦関係が微妙に影響していることを示唆していると思われる。(4) MFないし準MF型でも, 母親は対象のうちのひとりになることがもっとも多く, また, 2F, 準2F型では<母親-父親>という組合わせが, また, 3F, 準3F 型では<母親-父親-X>というものが多くなっており, 中学生では依存行動の対象としては, なによりも母親が, そして母親に伴なわれるという条件つきで父親が, 重要だといえる。(5) 親友は, 高校生にくらべ全般的には中学生ではあまり重要な対象ではない。焦点となった親友の場合でも, 必ずしも中核的とはいえないものもあった。(6}愛情の対象は, 中学1年生からすでにわずかながら出現している。が, 全般的には, 現実にもいないし, いると仮定もできないというものが多い。そして, 愛情の対象が焦点になった型においても, 愛情の対象は, 次に重要な親友とともに中核になっているという未熟さをもっていた。
著者
牧野 由美子 田上 不二夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.52-57, 1998-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
2 3

The purpose of the present study was to examine whether significant relationships were found between subjective well-being and social interactions, and also whether a revised program through a writing method adopting a cognitive approach could increase the quality of social interactions and subjective well-being in adolescents. In the first study, we examined the relations between social interactions and subjective well-being. Social interactions were tested by the Rochester Interaction Record (RIR). The quality of social interactions implied closeness, enjoyment, responsiveness, influence, and confidence. The quantity of social interactions implied the number of other people with whom a subject related in a day. In the second study, we produced a revised program into which a program, through a writing method adopting a cognitive approach,(Nedate & Tagami, 1994) was modified. We examined the effects of the program on the quality and the quantity of social interactions and subjective well-being. Results indicated that the quality of social interactions related to subjective well-being and the revised program increased the quality of social interactions and subjective well-being and decreased the quantity of social interactions.
著者
外山 美樹 湯 立 長峯 聖人 三和 秀平 相川 充
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.321-332, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
54
被引用文献数
10 8

本研究の目的は, ポジティブなプロセスフィードバック(以下, PosiProFB)とネガティブなプロセスフィードバック(以下, NegaProFB)が受け手の動機づけに与える影響において, 制御焦点が調整変数となりうるのかどうかを検討することであった。実験参加者は大学生64名であった。本研究の結果より, プロセスフィードバックが受け手の動機づけに及ぼす影響は, 制御焦点によって異なることが示された。促進焦点の状況が活性化された場合には, NegaProFBよりもPosiProFBが与えられた方が次の課題への努力が高く, 課題への興味が向上することが示された。一方で, 防止焦点の状況が活性化された場合には, 逆に, PosiProFBよりもNegaProFBが与えられた方が次の課題への努力が高く, 課題への興味が向上することが示された。また, 自由時間中の課題従事の有無においては, 制御焦点およびフィードバックの影響が見られなかった。獲得の在・不在に焦点が当てられている促進焦点は, PosiProFBが与えられた時に制御適合が生じる一方, 損失の在・不在に焦点が当てられている防止焦点は, NegaProFBが与えられた時に制御適合が生じ, その結果, 動機づけ(次の課題への努力, 課題への興味)が高まるものと考えられる。
著者
浦上 涼子 小島 弥生 沢宮 容子 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.263-273, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
21
被引用文献数
14 5

本研究では, 現代において男性社会にも広がっていると考えられる痩身願望の存在に注目し, 体型への損得意識を媒介に痩身願望が規定される心理的メカニズムのモデルを検討した。体型の損得意識においては, 自己肯定感のような自己の視点からみたメリット感と対人関係のように他者の視点からみたメリット感があるのではないかと仮定した。青年期男子224名を対象に質問紙調査を実施し, 体型への損得意識に影響を及ぼすと考えられる個人特性と痩身願望との関連について検討した。現在の体型よりも痩せることが魅力的だとする男子学生131名について分析した結果, 「賞賛獲得欲求」「拒否回避欲求」「身体満足度」などが痩身願望と関連のあることが示された。これらの関連を検討したところ, 痩せれば自分に自信がもてるといった「自己視点からの痩身のメリット感」が痩身願望に直接影響し, それ以外の変数はこの「自己視点のメリット感」を媒介として痩身願望に影響することが明らかにされた。痩身願望に至るルートとして, 第1に自己顕示欲求から発する痩身願望, 第2に自己不満感や不安感から発する痩身願望, 第3に自分の意識する肥満度から発するルートが見出せた。
著者
櫻庭 隆浩 松井 豊 福富 護 成田 健一 上瀬 由美子 宇井 美代子 菊島 充子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.167-174, 2001
被引用文献数
4

本研究は,『援助交際』を現代女子青年の性的逸脱行動として捉え,その背景要因を明らかにするものである。『援助交際』は,「金品と引き換えに, 一連の性的行動を行うこと」と定義された。首都圏の女子高校生600人を無作為抽出し, 質問紙調査を行った。『援助交際』への態度 (経験・抵抗感) に基づいて, 回答者を3群 (経験群・弱抵抗群・強抵抗群) に分類した。各群の特徴の比較し,『援助交際』に対する態度を規定している要因について検討したところ, 次のような結果が得られた。1) 友人の『援助交際』経験を聞いたことのある回答者は,『援助交際』に対して, 寛容的な態度を取っていた。2)『援助交際』と非行には強い関連があった。3)『援助交際』経験者は, 他者からほめられたり, 他者より目立ちたいと思う傾向が強かった。本研究の結果より,『援助交際』を経験する者や,『援助交際』に対する抵抗感が弱い者の背景に, 従来, 性非行や性行動経験の早い者の背景として指摘されていた要因が, 共通して存在することが明らかとなった。さらに, 現代青年に特徴的とされる心性が,『援助交際』の態度に大きく関与し, 影響を与えていることが明らかとなった。
著者
市下 望 野田 哲朗
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.87-99, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
54
被引用文献数
5

本研究は,感謝の対象を人への感謝である対人的感謝によるものと,こと・ものへの感謝である非対人的感謝によるものに統制した上で,感謝の筆記と読み上げが,反すう,楽観性,悲観性,ストレス反応に及ぼす効果について検討したものである。小学5・6年生183名を対象とし,87名を対人的感謝群,96名を非対人的感謝群に割り付けた。研究協力者は,3週間にわたり,感謝対象と内容を記載し,読み上げる活動を行った。時期はpre,post,follow-upの3水準で変化を比較した。その結果,対人的感謝群においては,感謝と楽観性の有意な上昇が見られた。非対人的感謝群においては,感謝の有意な上昇とストレス反応の有意な低下が見られた。以上の結果を踏まえ,今後の課題について考察を行った。
著者
及川 智博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.48-66, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
30
被引用文献数
5

幼児は1人から2人,そして複数人のグループへと仲間関係を形成していく。しかし,時に幼児はそのプロセスで課題を抱え,“ひとりぼっちの幼児”となったり,それ以上は仲間関係が広がりにくい“親密すぎる二者関係”を形成したりすることがある。本研究は,そうした課題を抱えた仲間関係の変容を促す保育者の援助の実践知を検討した。保育者30名に対して“ひとりぼっちの幼児”と“親密すぎる二者関係”及びその両方が登場する3つの架空の事例を提示し,援助プロセスを尋ねる半構造化面接を行った。語りはグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析された。結果,6つの援助プロセスを伴う計16のカテゴリーが導出された。次に,各カテゴリーと援助プロセスを共通性に注目し統合することで,保育者の実践知に関する仮説モデルを生成した。この仮説モデルから,保育者は課題に直面した際,5段階の援助プロセスにより幼児たちの遊びを育てることで,仲間関係の変容を促そうとしていることが考えられた。最後に,従来のSSTに関する諸研究および実践記録・研究の知見と比較しつつ,仲間関係の援助に関する保育者の専門性について論じ,課題と展望を述べた。