- 著者
-
Santo Tetsuo A
- 出版者
- 東京大学地震研究所
- 雑誌
- 東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
- 巻号頁・発行日
- vol.38, no.2, pp.241-254, 1960-07-10
前橋では,ある場所の脈動振巾が最大になつた時の台風や低気圧の速度,位置および中心示度などの間には,ある関係式が成立つことを述べたが,さらに本橋では,まづ低気圧や台風の中心のまわりに,ある領域を考え(第2b図)脈動観訓点付近の海岸に最高の波浪として到達する波がこの領域のへりから送り出されたと考えるとうまく説明のつく新しい関係式を導いた(式(1)).この領域の半径は,低気圧や台風の進行方向の左側では,中心示度が1000ミリバール以上の低気圧では数十キロメートル,中心示度が985ミリバール位以下の台風では300~400キロメートル位のもので,進行方向の右側ではこれ等よりもやや大きい.つまり,さうした領域のふちから出た波浪が,観測点付近の海岸に最高の波浪として到達し,それと同時にそこの脈動が一番大きくなる,ということで,ある場所の脈動と,それをおこすエネルギー源である低気圧や台風の速度や大きさ,およびその位置などに関係した時間的空間的な相互関係がうまく説明されてくる.そこでつぎには,果してそれならば,ある場所での波浪が一番高くなつた時に,その同じ場所での脈動も同時に一番大きくなるだろうか,という点に関する直接の確証が望まれてくる.そこで今回,千葉県銚子市の名洗港(第5図)で脈動を観測し,その振巾の最大時が同じ場所で運輸省第二港湾建設局の行なつている波浪観測の波高の最大時と果して一致するかどうかを調べて見た.その結果は予想通りであつて,この両者はかなりよく一致した(第8図).さらに,今度の観測で認められたことは,a)防波堤に直接打ち当る衝撃力は,脈動にはならないこと(第10図のA).b)少なくとも日本では,ある場所の脈動振巾は,ほとんどその場所の近くの波浪の高さで左右され,広い範囲にわたつて一様な地殻構造をもつた大陸で従来認められているようには脈動は伝播してゆかないこと.c)観測点周囲の複雑に入りこんだ崖や,妨害物等によつて,局部的な定常波が方々で見られたが,脈動による地面の動きも,これ等の局部的な定常波発生源を脈動源と考えて差支えないこと(第10図のB).等である.また,脈動の周期がいつも波浪の周期の約半分になつているという点を説明する定常波説をより一層確認する目的で,波浪の波形の中には第二高調波がほとんどないことを,最近気象研究所の海洋研究部で完成されたスペクトル分析器による結果で確めた(第9図).以上三部にわたつて,いろいろの角度から脈動の発生する場所についての究明を試みて来たが,結局帰するところは,脈動は波浪が海岸に到達し,海岸線上のどこか,十分な反射波が生じうる場所で入射波と反射波との間に起る定常波によつて発生する,ということである.このような発生源は,当然それぞれの場所における波浪の反射率の大小,定常波発生領域の広狭,さらには,その領域の海底における弾性波の吸収係数の大小等に左右される「強さ」を一つ一つ持つているであろう.しかも,これ等の異つた強さをもつ発生源の一つ一つからやつてくる脈動波自体が,また一定の振巾ではありえない.何故ならば,それぞれの発生源に送りこまれる波浪の高さ自体が,それぞれ独立に絶えず変動をくり返す性質のものだからである.したがつて,局部的に脈動を観測する限り,脈動波は全く不規則にあちこちからやつてくるように見える.また,特に強い発生源がある方向に存在する場合には,海上をエネルギー源(低気圧や台風)が移動しても,この強い発生源からの脈動波が終始卓越して観測されることも当然ありうる.