著者
藤林 真美 神谷 智康 高垣 欣也 森谷 敏夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.129-133, 2008 (Released:2009-01-27)
参考文献数
21
被引用文献数
12 19 4

現代人の多忙な生活の中で,簡便で即効性のある栄養補助食品が求められている。本研究では,GABAを30 mg含有したカプセルの経口摂取によるリラクセーション効果を,自律神経活動の観点から評価することを試みた。12名の健康な若年男性(21.7±0.8歳)を対象に,GABAとプラセボカプセルを摂取させ,摂取前(安静時),摂取30分および60分後の心電図を胸部CM5 誘導より測定した。自律神経活動は,心拍のゆらぎ(心電図R-R間隔)をパワースペクトル解析し,非観血的に交感神経活動と副交感神経活動を弁別定量化した。その結果,GABA摂取前と比較して,総自律神経活動は摂取30分後 (p<0.01) および 60分後 (p<0.05)に,副交感神経活動も摂取30分後 (p<0.05)に顕著な上昇を示した。これらの結果から,30 mgのGABA経口摂取は,自律神経系に作用しリラクセーション効果を有する可能性が示唆された。
著者
喜多村 尚 小原 郁夫
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.291-296, 2009 (Released:2010-01-29)
参考文献数
24
被引用文献数
1

基本4味に対する味覚感度の月経周期における変動については明らかにはなっていない。本研究は, ヒトの月経周期による基本4味 (甘味, 酸味, 苦味, 塩味) に対する味覚感度の変動について検討した。卵胞期と黄体期が明らかである基礎体温パターンを示した11名の健常女子大生を, 被験者とした。味覚感度の測定部位は, 舌の前2/3の茸状乳頭が散在し, 鼓索神経支配を受けている舌の7カ所とした。ついで, 舌の先端部中央における4基本味に対する味覚感度の測定を行った。甘味の味覚感度は, 卵胞期および黄体期が月経期および排卵期より上昇し, 酸味の味覚感度は, 黄体期が排卵期より低下した。しかし, 塩味および苦味の味覚感度は, 月経周期による変動は観察されなかった。これらのことから, 甘味は, 代謝リズムが急激に変わる月経および排卵期に味覚感度が低下するが, 基本4味すべてにおいて卵胞期と黄体期の間で変動がないことが示唆された。
著者
福井 健介 桑田 五郎 今井 正武
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.273-278, 1997-08-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
20
被引用文献数
5 3

10%食塩水処理により脱脂大豆から脱フィチン酸大豆タンパク質 (PFS) を作成した。成長期の雄ラットに20%のPFS, 分離大豆タンパク質 (SPI) またはCaseinを含む食餌を与え, ミネラル吸収性に及ぼす大豆タンパク質のフィチン酸除去の影響を検討した。食餌中の総リン (P) 量は無機P (P1) を添加して0.59%になるよう調節した。また, PFS食中のPがほとんど外因性のP1であったため, P1添加量を0.59%にした群をさらに設定した (各SPI-IおよびCasein-I群とした)。結果概要を以下に示した。1) カルシウム (Ca) 吸収率に及ぼす大豆タンパク質のフィチン酸除去の効果は, 1%程度の上昇傾向にとどまった。2) 一方, マグネシウム (Mg) および亜鉛 (Zn) の吸収率においては, 大豆タンパク質のフィチン酸除去により5~10%程度の有意な改善または改善傾向がみられた。3) ミネラル吸収に関するCasein, SPIおよびPFSの関係は, 食餌中のPの合わせ方の違いによって影響を受けなかった。またP1量の多い群でミネラル吸収率が低くなる場合が多くみられた。4) SPIのCa, MgおよびZnの吸収率は, Caseinと同等あるいは上回る数値であった。これらの結果より, 大豆タンパク質のミネラル吸収率はCaseinと同等であるが, フィチン酸を除去することでMgおよびZnの吸収性がさらに改善される可能性が示唆された。
著者
松井 徹
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.211-219, 2019 (Released:2019-10-28)
参考文献数
43

日本を含め先進諸国ではマグネシウム (Mg) 摂取不足が問題となっている。本稿では, われわれが行ってきたMgを中心としたミネラル栄養に関する基礎的研究を紹介する。溶解性はMg吸収に大きな影響を及ぼすが, 海藻や飲用水中Mgの吸収を検討し, 溶解しているMgの形態や消化管内滞留時間もMg吸収に影響を及ぼすことを示した。Mg欠乏は肝臓中マスト細胞数を増加させることを明らかにした。肝臓および肝臓を構成する細胞のモデル培養系を用いた代謝物の網羅的解析によって, Mg欠乏により生じる新奇な代謝異常を明らかにした。Mg欠乏時の肝臓中金属類の網羅的解析を行い, モリブデンなど8種の金属類濃度が変動することを見出した。また, Mg欠乏による肝臓中亜鉛トランスポーター (Zip14) とメタロチオネインの発現増加が肝臓中亜鉛を増加させること, Mg欠乏は鉄過剰に対するヘプシジン発現応答を抑制することによって鉄代謝を撹乱することを示した。加えて, アクチビンBやインターロイキン-1βが, ヘプシジン発現亢進を生じる分子機構を解明した。
著者
小机 ゑつ子
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.49-53, 1986 (Released:2010-02-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

本研究はタケノコの貯蔵適性を追究するため, 収穫直後のタケノコを1℃の低温下と20℃に貯蔵し, 貯蔵中の状態を観察するとともに, 数種の化学物質の変化を調べたものである。1) タケノコを1℃の低温下に貯蔵した場合, かなり長期間にわたって品質を保持しえたが, 20℃貯蔵では約2日間程度であることがわかった。2) 20℃における当初のエチレン生成量は416μ1/kg/hrと高く, カビの発生する5日後まで急減したのに対し, 1℃では当初120μ1から8日後まで減少しつづけ, 以後変動は見られなかった。一方, 炭酸ガスは20℃においては133mg/kg/hrから2日後に少し減少したが高い値を維持した。しかし1℃では非常に低レベルであった。3) 当初アスコルビン酸は100g中8.4mg (還元型3.9, 酸化型4.5mg) であったが, 20℃貯蔵では還元型の減少が著しいが, 1℃貯蔵で酸化型の減少が大きかった。4) タケノコに含まれる有機酸は主としてシュウ酸, クエン酸, コハク酸であるが, そのうちシュウ酸は全有機酸の83%を占めた。シュウ酸は両温度区とも, 4日以後急減したがクエン酸は漸減した。また, 当初まったく検出されなかったリンゴ酸が, 20℃貯蔵7日後から検出された。5) 糖については当初フラクトースが100g中約500mg, グルコースが400mg, ショ糖220mg含まれていた。1℃貯蔵ではフラクトースおよびグルコースは4日後まで急減したが, 以後増加に転じた。一方, 20℃では両糖とも貯蔵中減少した。6) 遊離アミノ酸については当初チロシンが全アミノ酸の約57%を占めた。20℃貯蔵下で急減し, 10日後では当初の1/3に低下したが, セリンフラクションは逆に増加した。一方, 1℃貯蔵下では各アミノ酸の変動は少なく, わずかにスレナニンの減少が観察された。
著者
山下 広美
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.171-176, 2014 (Released:2014-08-25)
参考文献数
26

酢酸は, 生体において空腹時に脂肪酸からβ酸化により生成される内因性の成分であり, 骨格筋などで生体燃料として利用される。一方, 外因性に酢酸を摂取すると酢酸は容易に血中に移行し組織に速やかに取り込まれた後, その代謝過程でAMPを生成し細胞内のAMP/ATP比を増加させてAMPキナーゼ (AMPK) を活性化させる。2型糖尿病の病態モデル動物に酢酸を継続的に摂取させると, 肥満が抑制され耐糖能を改善させる。また肝臓において脂肪合成関連遺伝子の転写量を低下させることから, 酢酸は脂肪合成を抑制するように作用すると示唆される。その他エネルギー消費割合の増加, 白色および褐色脂肪組織においては脂肪滴肥大化の抑制が見られる。以上より酢酸は空腹時には内因性の成分として生成され生体燃料として利用されるが, 摂食時に酢酸を摂取すると脂肪合成の抑制による肥満の抑制, さらに肥満に起因した2型糖尿病予防効果をもたらすと示唆される。
著者
河合 光久 加藤 豪人 高田 麻衣 星 亮太郎 西田 憲生
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.75-78, 2021 (Released:2021-04-14)
参考文献数
11

我々は弊社独自のプロバイオティクスLactobacillus casei Shirota株 (LcS) の腸内環境改善作用に着目し, 脳腸軸を介する機能に関する研究を進めてきた。これと並行して, 脳腸軸に対するLcSの効果を最大限に引き出す発酵乳飲料を開発するため, 使用原料や培養技術等の改良を行い, これまでの飲料に含まれるLcSの菌数・菌密度をさらに向上させることに成功した。そこで, 学術試験の受験による心理的ストレスを感じている健常な医学部生を対象とした二重盲検並行群間比較試験にて, 高菌数および高密度化したLcS発酵乳飲料の効果を検証した。その結果, LcS飲料はプラセボ飲料に比べ, 学術試験が近づくにつれ増加するストレスの体感を軽減し, 唾液コルチゾール濃度上昇を有意に抑制した。また, LcS飲料の摂取は, 睡眠の質を向上させることにより学術試験ストレスに伴う睡眠状態の悪化を軽減することを見出した。以上の成果を活用し, 「機能性表示食品」として届出を行い, 商品の保健機能表示が可能となった。
著者
小田 裕昭
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.137-149, 2007-06-10 (Released:2009-01-30)
参考文献数
41
被引用文献数
2 4

必須アミノ酸, 非必須アミノ酸という命名法の問題点は古くから指摘されてきたが, 特に非必須アミノ酸の定義には曖昧さもあり, 厳密にすればするほど複雑になってしまう。必須アミノ酸の必須性は, 主にその炭素骨格に依存しているが, 必須アミノ酸を生体内で合成するには長いステップを必要とするため, 進化の過程でその合成系が失われたと推測される。原核生物, 植物, 菌類は, すべてのアミノ酸合成能をもっているため必須アミノ酸をもっていない。一方, ヒトを含むすべての動物から原生生物の細胞性粘菌は必須アミノ酸をもち, その必須アミノ酸はほとんど同じである。原生生物の進化のあるときに10種ほどのアミノ酸合成能が一斉に失われたようである。ゲノム情報からもこのことが裏付けられる。原生生物の進化過程の限られた時期に複数のアミノ酸合成能を欠落させた原因は不明である。
著者
藤原 葉子 秋元 浩二 二宮 伸二 坂口 靖江 脊山 洋右
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.221-228, 2003-08-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

ビタミンC (アスコルビン酸), L-システインおよびビタミンE (コハク酸d-α-トコフェロール) の併用による色素沈着抑制効果を, 褐色モルモットに経口摂取して検討した。背部を除毛後, 紫外線 (UV-B) を照射した褐色モルモットの皮膚色はメラニン色素の沈着によりL*値 (明度) が低下したが, ビタミンC単独摂取ではL*値の上昇傾向を示し, ビタミンCとL-システインの併用またはビタミンC, L-システインとビタミンEを併用することにより, 紫外線照射によるL*値の低下はいずれも有意に抑制された。紫外線照射部の表皮ではDOPA反応陽性のメラノサイト数が増加したが, ビタミンCとL-システインの併用またはビタミンC, L-システインとビタミンEの併用では, 対照群に比べて有意に減少した。L*値の低下抑制効果およびDOPA反応陽性メラノサイト数増加の抑制効果の程度は, いずれも (ビタミンC+L-システイン+ビタミンE群)>(ビタミンC+L-システイン群)>ビタミンC群であった。以上の結果から, ビタミンやシステインを組み合わせることによって, 経口摂取によってもUV照射によるメラニンの沈着を抑制できることがわかった。
著者
金子 真紀子 三宅 正起
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.255-259, 2013 (Released:2013-10-21)
参考文献数
15

キュウリに含まれるギ酸の分布および味覚特性を明らかにするため, まず, HPLC法による分析法とキュウリ試料調製法について検討を行った。設定したHPLC分析法のギ酸定量限界は0.5 mg/Lであり, 再現性も良好であった。キュウリは, 果皮, 維管束, 果肉および種子, それぞれの部位に分け, HPLC分析試料を調製した。HPLC分析の結果, ギ酸は果肉と種子では検出されず, 果皮と維管束に局在することが示された。ギ酸標準水溶液の味覚特性を調べた結果, 低濃度 (<10 mg/L) では渋味を感じ, 濃度が高くなるに伴って渋味とともに苦味と酸味も強くなった。キュウリの渋味とギ酸濃度との関係については, 特に果皮を食したときに感じられる渋味は, ギ酸によるものと推察された。さらに, ギ酸を各種濃度に調整したキュウリの官能結果からも, ギ酸がキュウリの渋味の主な要因であることが示唆された。
著者
斎藤 雅文 堀 由美子 中島 啓
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.69-75, 2013 (Released:2013-04-19)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

人工甘味料の摂取が糖代謝に及ぼす影響を明らかにすることは,糖尿病患者や減量に関心のある人々にとって重要である。しかし,わが国では人工甘味料に関する疫学研究が進んでおらず,その摂取状況の把握と評価は困難であり,適否を判断することが難しい。そこで我々は,国内外の文献検索データベースから人工甘味料と肥満や糖尿病に関する論文を抽出し,研究デザインごとに内容を整理することとした。観察研究では,人工甘味料入り飲料の飲用習慣が肥満や糖尿病の発症に影響すると報告されており,介入研究では,人工甘味料の負荷は糖代謝へ影響しないこと,ショ糖を人工甘味料に代替した食事は体重や糖代謝に影響しないことが報告されていた。これらは欧米人を対象としたものであり,結果についても一様ではなかった。今後は,人工甘味料に関するわが国でのエビデンスを蓄積するために,日本人での記述疫学や観察研究などによる情報の集積が求められる。
著者
脇坂 しおり 松本 雄大 永井 元 村 絵美 森谷 敏夫 永井 成美
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.19-25, 2011 (Released:2011-05-27)
参考文献数
30
被引用文献数
6 2

胃電図は, 腹部表面から皮膚電極を用いて胃筋電活動を記録する方法である。本研究では, 摂取する水の温度と量が朝の胃運動に及ぼす影響を検討するため, 胃疾患を有さない27名の女性を無作為に3群に割り付け, 15ºC, 250 mLの冷水 (Cold250) と65ºCの同量の湯 (Hot250), 65ºCのカップ1杯 (150 mL) の湯 (Hot150) をそれぞれの群に負荷した。前夜から絶食した被験者に, 午前9時に試験サンプルを負荷し, 飲水前20分間, および飲水後35分間の胃電図を測定した。得られた胃の電気信号を解析し, 1分間に約3回発生する胃運動正常波の出現頻度と, 胃運動の強さの指標として正常波をパワースペクトル解析して得られた正常波パワーを飲水前後の増加比で評価した。飲水負荷後の正常波出現頻度は, Hot250では一過性に増加, Cold250では一過性に減少し, 経時変化のパターンには有意な差が認められた (p=0.001) 。Hot150負荷後の正常波出現頻度においてもHot250と同様の変化が認められた。正常波パワー増加比は, 水の温度, 量にかかわらず飲水後に同程度の増大が認められた。以上より, 65ºCで150 mL以上の湯は飲水後の胃運動正常波の出現頻度を増加させること, および胃運動正常波の強さは本研究で用いた水の温度と量にかかわらず一過性に増大することが示唆された。
著者
関野 由香 柏 絵理子 中村 丁次
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.101-106, 2010 (Released:2010-07-22)
参考文献数
20
被引用文献数
14 4

社会環境の変化にともない, 夜間生活が一般化してきている。本研究では, 夜遅い時刻の食事摂取が, 食事誘発性熱産生 (DIT) に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。喫煙習慣のない健康な女子大学生 (平均年齢20.5±1.2歳) 33名を対象に, 一律500 kcalの食事を, 7: 00, 13: 00, 19: 00に摂取する朝型と, 13: 00, 19: 00, 1: 00に摂取する夜型の2種類設定し, クロスオーバー法にてDITを測定, 評価した。朝型では7: 00の食事のDITが, 他の時刻の値に比べて有意に高く (p<0.05), 夜型では深夜1:00の食事のDITが, 他の時刻の値に比べて有意に低くなった (p<0.01) 。3食分のDITを合計した3食合計DITは, 夜型が朝型より有意に低くなった (p<0.01) 。このことから, 朝食を欠食し夜食を摂取した夜型化は, DITの低下により1日のエネルギー消費量を減少させ, 肥満の一要因になる可能性が示唆された。
著者
森滝 望 井上 和生 山崎 英恵
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.133-139, 2018 (Released:2018-06-15)
参考文献数
22
被引用文献数
5 4

日本食の風味を支える出汁は, 心身への健康機能を有することが最近の研究により明らかにされてきているが, いずれの報告も長期摂取による効果に着目しており, 短期的な影響については知見が乏しい。本研究では, 出汁の単回摂取による効果を明らかにすることを目的とし, 鰹と昆布の合わせ出汁の摂取および香気の吸入が自律神経活動および精神的疲労に及ぼす影響について検討を行った。24名の健康で非喫煙のボランティアが本研究に参加した。被験者は, 9: 00に指定の朝食を摂取し, 10: 30—11: 30に実験を実施した。自律神経活動は心拍変動解析により評価し, 疲労の評価では, 一定の疲労負荷として単純な計算タスク (内田クレペリンテスト) を30分間課し, その前後でフリッカー試験を実施した。加えて, Visual Analogue Scale (VAS) を用い, 主観的な疲労度および試料に対する嗜好度を評価した。出汁の単回摂取では, 対照の水と比べて, 心拍数低下と副交感神経活動の一過性上昇が認められた。また, 出汁の香気吸入でも同様の効果がみられた。さらに, 出汁の単回摂取により, 計算タスク後のフリッカー値低下が抑制され, VASの結果より主観的な疲労度も軽減されていることが示された。これらの結果から, 出汁の摂取は副交感神経活動を上昇させる作用を介して, リラックスと抗疲労の効果を誘起する可能性が示唆され, その作用における香気成分の重要性が示された。
著者
齋藤 衛郎
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.219-231, 2008 (Released:2009-01-27)
参考文献数
90

ドコサヘキサエン酸(DHA)に代表されるn-3系高度不飽和脂肪酸は,特有な生理効果が明らかとなっているが,化学構造上きわめて酸化しやすく,多量摂取した際の生体内での過酸化が懸念される。われわれは,「健常な生体内では,高度不飽和脂肪酸に対する巧妙な過酸化脂質の生成抑制と解毒・排泄機序が存在するために過酸化脂質の蓄積が抑制される」との仮説を立て,最も不飽和度の高いDHAに着目し,ラットをモデル動物として研究を開始した。その結果,組織過酸化脂質(LPO)はDHA投与量依存的に増加するが一定レベル以上の投与ではプラトーになる,過酸化されやすさの指標Peroxidizability Indexから計算されるほどには増加しない,多量投与でもリポフシン(lipofuscin)のような脂質過酸化終末産物の生成がみられない,かつ,組織細胞傷害も認められない,こと等を観察した。ここに本仮説の妥当性を確信し,その解明を進めるに至った。まず,抗酸化機序としては,1)抗酸化剤としてのビタミンE(VE),アスコルビン酸(AsA),グルタチオン(GSH)の必須性,2)DHA投与によるAsAとGSHの生成亢進,これに伴うVEの抗酸化性増加,3)組織ごとに異なるDHAの取り込みと,それに伴う細胞膜脂質不飽和度の変化の重要性,4)組織ごとに異なるリン脂質種への取り込みの変化とフォスファチジルエタノールアミンへの優先的取り込みに伴う酸化抵抗性増加の可能性,5)DHA多量摂取では,一過性に組織中性脂肪への取り込み増加とそれによる酸化抵抗性の上昇,等を明らかにした。一方で,脂質過酸化終末産物の生成や細胞傷害等の有害作用の惹起には至らないことから,LPOの蓄積抑制と解毒・排泄機序の解明を試みた結果,1)脂質過酸化分解生成物である反応性アルデヒド類と高分子化合物とのシッフ塩基形成抑制と終末産物リポフシンの生成抑制,2)有害なアルデヒド類のグルタチオンとの抱合体化と,その代謝物としてのメルカプツール酸の尿中への排泄亢進を見出した。抱合体の排泄に至る過程では,肝臓では膜輸送タンパク質としてのABCトランスポーターファミリーの一つ,MRP3(ABCC3)の介在を初めて見出した。また,アルデヒド類のヒスチジン付加体の尿中排泄亢進,3)アルデヒドの代謝に関わるアルデヒドデヒドロゲナーゼやアルドースレダクターゼの活性亢進,等が明らかになった。
著者
野田 聖子 山田 麻子 中岡 加奈絵 五関‐曽根 正江
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.21-29, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
38
被引用文献数
1

アルカリホスファターゼ (ALP) はリン酸モノエステルを加水分解する酵素であり, 小腸に局在する小腸型ALPは食事性因子との関わりが大きいが, その生理機能は未だ不明な点が多い。本研究では, ヒト結腸癌由来細胞で, 培養後に小腸上皮様細胞に分化するCaco-2細胞を用いて, ビタミンDがALP発現および腸の分化マーカーである加水分解酵素の発現に及ぼす影響について検討を行った。コンフルエント後14日間培養し, Caco-2細胞にビタミンDを添加した結果, 添加後3, 5, 7日目において1,25-ジヒドロキシビタミンD3濃度100 nMのALP活性およびヒト小腸型ALP遺伝子のmRNA発現量が0 nMと比べて有意に高値を示した。一方, スクラーゼ・イソマルターゼの遺伝子発現はビタミンDにより増強されなかった。本研究において, ヒト小腸上皮様細胞でのビタミンDによる小腸型ALP発現の増強作用を示すことができ, 小腸型ALP発現調節を介したビタミンDの新たな生理機能の解明につながることが期待された。
著者
藤林 真美 神谷 智康 高垣 欣也 森谷 敏夫
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.129-133, 2008-06-10
被引用文献数
3 19

現代人の多忙な生活の中で,簡便で即効性のある栄養補助食品が求められている。本研究では,GABAを30 mg含有したカプセルの経口摂取によるリラクセーション効果を,自律神経活動の観点から評価することを試みた。12名の健康な若年男性(21.7±0.8歳)を対象に,GABAとプラセボカプセルを摂取させ,摂取前(安静時),摂取30分および60分後の心電図を胸部CM<SUB>5</SUB> 誘導より測定した。自律神経活動は,心拍のゆらぎ(心電図R-R間隔)をパワースペクトル解析し,非観血的に交感神経活動と副交感神経活動を弁別定量化した。その結果,GABA摂取前と比較して,総自律神経活動は摂取30分後 (<I>p</I><0.01) および 60分後 (<I>p</I><0.05)に,副交感神経活動も摂取30分後 (<I>p</I><0.05)に顕著な上昇を示した。これらの結果から,30 mgのGABA経口摂取は,自律神経系に作用しリラクセーション効果を有する可能性が示唆された。
著者
岡崎 由佳子 片山 徹之
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.151-156, 2005-06-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
46
被引用文献数
4 7

フィチン酸は, ミオイノシトールに六つのリン酸基が結合した化合物であり, そのリン酸基が無機質の吸収抑制に関与すると考えられ, 一般的に抗栄養因子と位置付けられている。一方, ビタミン様物質であるミオイノシトールは, 抗脂肪肝作用を有することが知られている。著者らは, フィチン酸のイノシトール骨格に着目し, フィチン酸がミオイノシトールと同様に抗脂肪肝作用を有することや, フィチン酸によるこの効果が現実に摂取しているレベル付近で発揮されることを明らかにした。また, ミオイノシトールとフィチン酸が共通して抗がん作用を有することも報告されている。さらに, 最近の研究からフィチン酸が哺乳動物細胞内における常成分で, 哺乳動物の脳に結合タンパク質が存在し, 細胞内小胞輸送に関与している可能性が考えられている。著者らは, これらの結果からフィチン酸が栄養的にみてビタミン様物質の前駆体あるいはビタミン様物質そのものとして機能しうるのではないかと考えている。
著者
上西 一弘 江澤 郁子 梶本 雅俊 土屋 文安
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.259-266, 1998-10-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
19
被引用文献数
9 10

健康な成人女性9名を対象に出納法による食品および食品別のカルシウム吸収比較試験を行った。被験者にカルシウム約200mgを含む基本食を3日間摂取させた後, 基本食にカルシウム約400mgを含む添加食を加えた試験食を4日間摂取させた。添加食は牛乳, 小魚, 野菜の3種類のいずれかであり, 1月経周期以上の間隔をおいてランダムに摂取させた。試験期間中は毎日, 採尿, 採便を行い, 尿中, 便中および食事中のカルシウム量を測定し, カルシウム出納を算出した。また, 各試験開始時と試験食移行時, 試験終了時に採血を行い, 血清のカルシウム関連物質を測定した。その結果, カルシウム出納は基本食摂取時にはマイナスとなったが, 試験食摂取時にはプラスとなった。各食品および食品群別のカルシウム吸収率は牛乳39.8%, 小魚32.9%, 野菜19.2%となった。牛乳は, 乳糖およびCPPがカルシウム吸収を促進し, 野菜は, 食物繊維やシュウ酸が吸収を阻害していると考えられる。血清のカルシウム関連物質では, 血清カルシウム, 副甲状腺ホルモン, カルシトニンには試験期間中変化はみられなかったが, 1,25(OH)2D3は基本食摂取後に上昇がみられ, 試験食摂取後には元に戻っていた。これは低カルシウム食に対する反応と考えられる。
著者
桒原 晶子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.257-262, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
37

脂溶性ビタミンの栄養状態と疾患との関係について, これまで欧米を中心に報告されており, ヒトを対象とした栄養研究において, 摂取量と生体指標を同時に調査することが当然のように行われていた。しかし, わが国においてはそのような研究が限られている。著者らは, 脂溶性ビタミン摂取必要量を検討するための摂取量と血中濃度を同時に測定した横断研究, またビタミンDについてはヒトを対象とした介入研究も行った。その結果, 日本人の食事摂取基準 (2015年版) のビタミンD目安量が, 少なくとも日照の限られた集団では不足を招くこと, また不足の回避のためには現行の目安量の3倍程度は摂取すべきことを明らかにした。また, 効率良く脂溶性ビタミンを摂取するためには, 脂質摂取についても考慮すべきであることも示した。その他, ビタミンKの骨での作用に対する必要量や, ビタミンE摂取量と高血圧症との関係についても報告し, 脂溶性ビタミン類のヒトの健康に対する臨床的意義を示した。