著者
関口 由紀 畔越 陽子 河路 かおる 長崎 直美 永井 美江 金子 容子 吉田 実 窪田 吉信
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.340-343, 2013 (Released:2014-05-16)
参考文献数
6

腹圧性尿失禁を有する女性患者10名(平均年齢60.7歳)に対して,麻黄附子細辛湯を4週間内服させ,前後の自覚症状,パッド枚数を比較し評価した。50%の患者の尿失禁の自覚症状の改善が認められた。効果があったグループの平均年齢は,73.2歳,効果がなかったグループの平均年齢は,50.2歳であり。両群間には,統計的に有意な年齢差がある傾向が認められた。改善した症例の中には,著明改善例が含まれていた。麻黄附子細辛湯は高齢者の感冒予防に長期内服が可能な薬だが,構成生薬である麻黄は,エフェドリンを含有しているため,尿道内圧を上昇させて腹圧性尿失禁を改善させる可能性がある。さらに附子はアコニチンを含有し,過活動膀胱症状を改善させる可能性がある。このことから麻黄附子細辛湯は,高齢女性の腹圧性尿失禁のみならず混合性尿失禁にも長期に用いることができる漢方方剤であると考えられる。
著者
大野 修嗣 秋山 雄次
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.319-325, 2013 (Released:2014-05-16)
参考文献数
13

本研究の目的は関節リウマチ(RA)に対する防已黄耆湯とメソトレキサート(MTX)の併用効果と経済的有用性を3年間の後ろ向き検討で明らかにすることである。2006年5月から2011年11月に治療した症例で,1987年のアメリカリウマチ学会(ACR)分類基準で診断された症例を対象とした。抽出された症例は126例であり,その中で3年間継続投与できたMTX-防已黄耆湯併用群(併用群)45例とMTX 単独群(非併用群)48例を比較検討した。併用群は非併用群に比較して低疾患活動性達成率が有意(P=0.0372)に高く,また寛解率も有意(P=0.0093)に優れていた。3年後の活動性の変化も併用群で有意(P=0.0050)に優れていた。3年間の期間中に他の疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)が追加された症例は併用群でより少なく,1人当たりの薬剤費は¥2,145,470であり,非併用群では¥2,301,690であった。従って,防已黄耆湯を併用することによって1人当たり¥156,220の節約となった。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.938-955, 2010 (Released:2011-03-01)

『医界之鉄椎』の初版本が発刊されたのは明治43(1910)年であり,今年は正に100周年である。この警世の書は医学が専門分化の道を辿り統合的な理解が困難となった医療界の現状を憂え,漢方こそが統合的治療の根幹に据え置かれるべきものであることを主張した医療論である。この初版本に対して,論理だった反論を展開した人物が存在した。それが平出隆軒氏である。平出氏は奇しくも当時の名古屋医療界の泰斗である。彼は『医界之鉄椎』を熟読し,これに反論(一部同意)を加えた見識と品格を高く評価したい。この平出隆軒氏の反論を輯録した第二版は大正4(1915)年に出版された。平出隆軒氏の指摘した事項は今日の我々にも突きつけられた刃である。そこで,平出氏の指摘した課題を整理し,私共がその課題にどのように取り組んできたか。将来に解決を待たなければならない課題は何かについて論じた。
著者
秋葉 哲生 荒木 康雄 中島 章 古川 和美 河田 博文 鈴木 重紀
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.149-155, 1991-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

年間に6同以上感冒症状を呈する小児を易感冒児と定義した。これら易感冒児18例に, 治療目的で, 医療用柴胡桂枝湯製剤0.1から0.259/kg/日を投与した。4ヵ月から30ヵ月にわたる服用の結果, 著効4例22%, 有効12例67%, 不変2例11%, 悪化なしという成績であった。服用後に保護者に対し書面にて回答を求めた結果では, 発熱の改善を挙げたものが最も多く, 14例78%に達した。次いで食思の改善が7例39%であった。投与中および投与後にもみとめるべき副作用はなかった。感冒に罹患しやすい状態の改善を目的とする現代医薬品を見い出し難い現状において, 柴胡桂枝湯はその高い安全性からも, 小児の易感冒状態改善にひろく用いられ得る薬剤と考えられる。
著者
篁 武郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.533-537, 2009-09-20

大気とは胸中に居を定めて全身を支持する諸気の綱領である。心身に対する能力以上の負荷,空腹時や病後の重労働,下痢,破気薬の過剰摂取,極度の気虚などが原因となって大気は胸中から下陥し得る。<br>今回瀉下薬によって大気下陥した一症例を報告する。症例は39歳,女性。焦燥,情動失禁の治療中に,随伴する便秘に対して瀉下薬(麻子仁丸)を用いたところ,便秘の改善と共に大気下陥して呼吸困難,無気力などの症状を呈した。昇陥湯加減によりこれらの症状は軽快した。
著者
山田 和男 神庭 重信 大西 公夫 水島 広子 長尾 博司 梅山 千香代 寺師 睦宗 浅井 昌弘
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.603-607, 1997-01-20
被引用文献数
1 1

発病または急性増悪により入院し, 4〜12週間のハロペリドールを中心とした抗精神病薬の治療により活動期症状が改善し, 精神症状が安定した後に抗精神病薬の投与量が最低2週間以上固定された精神分裂病圏の患者10名に対し, 黄連解毒湯を4週間追加投与した。黄連解毒湯の追加投与直前, 投与終了時, 投与終了4週後にそれぞれBrief Psychiatric Rating Scale (BPRS)を用いて症状評価を行なった結果, BPRS総得点は, 黄連解毒湯の追加投与直前と比較して投与終了時, 投与終了4週後ともに有意に減少した。症状別では, 「罪業感」, 「抑うつ気分」, 「疑惑(被害妄想)」, 「興奮」に有意な改善がみられた。さらに, 血中ハロペリドール濃度には変化がみられなかったことより, 精神症状の改善がハロペリドールの血中濃度の変化によるものではないということが示唆された。また, 副作用はみられなかった。
著者
高 鵬飛 宗形 佳織 詹 睿 今津 嘉宏 松浦 恵子 相磯 貞和 渡辺 賢治
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.131-137, 2012
被引用文献数
3

日本の医学部における漢方医学教育と中国の中医薬大学(中医・中西医の教育課程)および医科大学(西洋医の教育課程)における中医学教育を比較した。日本の漢方医学教育は2001年に文部科学省の医学教育モデル・コア・カリキュラムに組み込まれたものの,6年間の約4000コマの講義数に対して,わずか8コマ程度である。一方,中国の中医薬大学では5年間の5割を中医学,残り5割を西洋医学の課程が占めている。また医科大学においても80コマの中医学講義がある。一方,教育内容に関しては日本の漢方教育や卒後教育は「傷寒論」と「金匱要略」を重視しているが,中国の中医学教育は中医陰陽五行学説や臓腑経絡理論などを重視している。現在,日本では卒後教育の強化により専門医数が増えつつある。一方で中国は中医学を専門とする医師が減少している。伝統医学を継承する根源となる教育は両国の伝統医学の発展にとって非常に重要であると示唆された。
著者
鈴木 達彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.609-615, 2008-07-20
参考文献数
11
被引用文献数
2 1

『古今方彙』は甲賀通元により編纂され,江戸時代に最も広く流布した処方集である。著者は,『古今方彙』の各版本を検討し,以下の結果を得た。1.甲賀通元は,『刪補古今方彙』の底本となる『古今方彙』を書肆(書店,出版社)梅村から受け取り,それを編纂した。2.原『古今方彙』は1692年頃に書肆梅村が出版した。本書は縦型の版本で,調査中もっとも処方数が少なく,1263処方を収載している。3.1696年頃に梅村が,原『古今方彙』の増補版を出版した。本書は横型の版本で,本書には原『古今方彙』の処方がほぼ含まれていて,さらに273処方が増補されている。4.梅村の依頼により甲賀通元が,348処方を増補して,1733年に『刪補古今方彙』を出版,さらに,43処方を増補して,1747年に『重訂古今方彙』を出版した。『重訂古今方彙』は,1780,1808,1862年に重版された。
著者
宮崎 瑞明 頼 栄祥
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.813-818, 1997-03-20
被引用文献数
5

発作寛解期での防己黄耆湯証の痛風患者(全例男性, 12人)に対し, 食事療法と運動療法はこれまで通り継続して, 防己黄耆湯エキス5g/日, 木通エキス0.5g/日, 車前子エキス0.5g/日を投与し, その有効性を検討した。本方の12週間の投与により, 有意な体重の減少, 血中尿酸値および中性脂肪値の低減, さらにHDLコレステロールの増加を認めた。体重および血中尿酸値は24週間投与の時点でも再増加せず, 良好な状態であった。全例に副作用はなく, 痛風の発作もみていない。また本方の連用により易疲労感, 多汗, 小便不利, 浮腫などの症状が改善した。
著者
木村 容子 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.722-726, 2010-07-20
参考文献数
7

浅井貞庵の『方彙口訣』中暑門では,暑気あたりは,暑さだけでなく湿も関与し,寝冷え,納涼や冷飲食などで身体を冷やすことが原因であると述べている。湿度の高い暑さは胃腸内の気の巡りを阻害するが,五苓散は水気を取り除くことにより,暑気あたり全般に幅広く応用できる処方と解説している。本報告では暑い夏の最中に冷房室内で冷飲食をした後に心窩部痛を訴え,この心窩部痛に五苓散が有効であった2症例を経験したので提示する。症例1では安中散,また,症例2では六君子湯が無効であった。さらに,夏季の冷飲食後に生じた心窩部痛に五苓散を用いた19症例をまとめて検討したところ,舌苔が白かつ腹診で心下痞鞕を認める場合に効果が高いと考えられた。五苓散の腹証としては心下振水音が有名であるが,心下痞鞕が有効な場合もある。今回,冷飲食を誘引とする心窩部痛,舌白苔,心下痞鞕の併存は五苓散投与の目標となる可能性が考えられた。
著者
島袋 隆
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.435-438, 1994-10-20

瞑眩は「慢性症のとき,漢方薬を飲んで予期しない反応が起き,その後急速に症状が改善すること」であるといわれ,日常の漢方診療中に時に遭遇することがある。一番の問題はそれが,誤治なのか瞑眩なのかの判断をどうするかである。今回,両手足の進行性指掌角皮症の患者の治療中に瞑眩と考えられる症状を経験した。その経過を観察してみると,瞑眩と考えられた顔面のニキビ様発疹の出現と共に,主症状である角質化に幾分かの改善傾向がみられた。そして,温経湯の証であることを再確認して同湯を継続したところ,約1ヵ月後には主症状の角質化も瞑眩と考えた顔面の発疹も消失し,ついで長年の顔面の肝斑も消失した。以上の経過から,漠方薬内服中に予期せぬ反応が起こったとき,それが瞑眩であるかどうかの判断として,証が正しいかどうかの判断は勿論のことであるが,さらに主症状の改善があるかどうかも瞑眩が起こっている時に瞑眩であるかどうかの判断材料になることがあるのではないかと考えられた。
著者
橋本 喜夫
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.819-826, 1997-03-20
被引用文献数
2

尋常性乾癬は, 慢性増殖性炎症性皮膚疾患で, きわめて難治であり, 漢方による治療の試みも多いが, この疾患の証の分布, [オ]血を示す頻度などは不明である。田中の虚実判定用実証スコアと, 寺沢の[オ]血診断基準を参考にした前田の[オ]血チェックリストを用いて, 乾癬患者72例を診察した。虚証(0-8点)が31名(43%), 中間証(9-12点)が36名(50%), 実証(13-18点)が5名(7%)と, 実証の頻度が高いという結果は得られず, むしろ健常人の分布に近いと考えられた。[オ]血スコアでは高度の[オ]血(40点以上)が30名(41.7%), 中程度の[オ]血(21-39点)が30名(41.7%)と, スコア上では高率に[オ]血の病態を示した。スペアマンの順位相関では, [オ]血スコアと治療スコア(過去に多種類の乾癬治療を受けた度合)が有意な正の相関を示した。
著者
木下 恒雄
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.59-63, 1984

症例は昭和52年12月13日当院初診の顔面の熱 (ほてり) 感を主訴とする43才の男性である。52年12月16日よりTocopherol nicotinateを用い, 血圧のコントロールはほぼ良好であったが, 初診以前からある顔面の熱感が持続するので, 53年11月6日より黄連解毒湯を併用したところ, 12月下旬よりこの症状は次第に軽減し, 54年1月には消失した。初診前にみられた狭心症様発作は現在まで出現せず, しばしばみられた最低血圧の上昇も殆んどみられず, 良好なコントロールが得られた。56年11月28日からは証の変化により黄連解毒湯を中止し, 釣藤散に転方したが, その後も順調な経過を辿っている。<BR>本治験を通じ, 熱にも種々のパターンがあり鑑別が重要であること, 西洋薬との併用が有意義な場合があること, 慢性疾患であっても経過中の証の変化に注意すべきこと, 個の医学の重要性等の教訓を得た。
著者
池田 清彦 嶋田 豊
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.173-184, 2006-03-20

広く信じられていることと異なり,科学は真理を追求する営為ではなく,何らかの同一性により,現象を説明する営為である。この立場から,現在の遺伝子還元主義的な生物学を批判し,システムを重視する対抗理論について論じた。