著者
満武 巨裕 石川 智基 佐藤 淳平 合田 和生 喜連川 優
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.189-194, 2020-04-20 (Released:2021-04-26)
参考文献数
8

OECD,WHO,国連等の国際機関は,保健医療分野における政策立案に資する国際統計報告として様々な保健医療指標の迅速な提供を各国に求めている.2015年に日本がOECDに提出した保健医療指標の数は35加盟国中最低で,改善が望まれる. 本研究は日本の保健医療指標の提出項目数の増加を目的として,既存の公的統計やレセプト情報・特定健診等情報データベースを活用して未報告の保健医療指標の推計を行う.さらに,今回の推計から得られたわが国における手術および画像検査の実施状況について考察する.最後に,保健医療指標推計にレセプト情報・特定健診等情報データベースを利用する際の課題について述べる.
著者
荒牧 英治 四方 朱子 冨井 美子 矢島 弘士
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.17-23, 2016 (Released:2017-05-08)
参考文献数
13
被引用文献数
1

【背景】近年,多くの患者がSNSに参加し,彼らの体験を共有し,互いにサポートできる効果を期待しているが,その効果の検証は十分になされていない.本研究では,SNS参加者のうち,一定の利用がある患者とない患者について,QOLの変化を2時点に渡って調査し,積極的なSNS活動によって,QOLが好転するかどうかを調査した.【材料】LifePalette参加者27名について,積極的な活動を行うエキスパート患者(7名)と,行わない一般患者(20名)について,2014年7月と2015年3月の2点でSF36v2によるQOLの調査を行った.【結果】初回において,エキスパート患者は一般患者より社会的QOLが有意に低かった(p=0.04).2回目の調査では,一般患者の社会的QOLは有意に低下し(p=0.05),逆に,エキスパート患者の社会的QOLは有意でないものの僅かに上昇し,実験終了時には,一般患者とエキスパート患者の社会的QOLの有意差がなくなった.【考察】社会的QOLが低いユーザがエキスパート患者となっており,SNSに登録していても,活動を行わない場合,社会的QOLは低下する.これにより,SNSに入ったならば,SNS活動に積極的に参加することが,QOL低下を防ぐ一助となる可能性が示唆された.
著者
國方 淳 十河 智昭 谷川 雅俊 横井 英人
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.319-329, 2020-06-26 (Released:2021-07-28)
参考文献数
13

近年,多くのサービスやアプリケーションにおいて,それらの機能を外部から利用する際にWeb APIが用いられている.Web APIは汎用的なHTTPプロトコルによってリクエストした結果をJSONなどの処理しやすい形のレスポンスデータとして返すことにより,柔軟なデータ処理を可能としている.この仕組みは電子カルテからのデータの取得においても有用であり,HL7 FHIRやopenEHRなどの標準規格においてもデータの送受信のインターフェースとして採用されている.しかし,当院の電子カルテシステム上ではこれらの標準規格のAPIを利用できる状況になく,また比較的単純なシステム連携を行う上ではこれらの標準規格の仕様は過大であり,個々の医療機関が独自に実装するのは現実的ではない. そこで,今回われわれは当院の電子カルテからデータを取得するためのシンプルな構成のWeb APIの構築を試みた.その結果,Webサーバ上にAPIを構築することで,電子カルテシステム本体には改修を加えることなく電子カルテのデータを汎用的なHTTPリクエストで取得することが可能となり,また実証実験ではいくつかのWebアプリケーションと連携し実運用で利用することができた.Web APIはデータ交換のインターフェースとして非常に有用であり,今後の電子カルテには標準規格のWeb APIの実装とともに,ユーザの裁量でWeb APIで取得するデータを指定できる機能の提供が望まれる.
著者
佐藤 康仁 吉田 雅博 山口 直人
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.39-46, 2008 (Released:2015-03-20)
参考文献数
5
被引用文献数
5

Minds(Medical Information Network Distribution Service)は,診療ガイドラインおよび関連する医療情報を提供するWeb上のデータベースシステムである.Mindsを定期的に利用している者の特徴を明らかにすることで,診療ガイドライン等の医療情報を提供するWebデータベースシステムに求められる要件を明らかにすることができると考える. 方法:対象はMindsのユーザ登録者とした.調査は2006年3月から4月にかけて実施した.アンケート調査への協力のお願いは電子メールで送信し,Webサイトにて調査を実施した.解析では,はじめに,定期的アクセスに関連する因子の探索をカイ二乗検定で行った.続いて有意差のみられた因子と定期的アクセスとの関連をロジスティック回帰モデルで分析した. 結果:コメディカルでは「患者・家族への説明のため(Odds ratio=2.05)」「Webサイトの使いやすさの満足度(OR=3.07)」に定期的アクセスと有意な関連が観察された.医師・歯科医師では「患者・家族への説明のため(OR=2.13)」「最新情報取得のため(OR=1.72)」「Mindsを診療に利用している(OR=2.88)」「Webサイトのコンテンツの満足度(OR=2.31)」に定期的アクセスと有意な関連が観察された. 結論:定期的にMindsを利用する者は,診療の現場において利用している者が多いことが明らかとなった.一方で,診療の現場ではインターネットへの接続が難しい場合が多い.今後は,インターネットに接続しない状態で情報提供を行う仕組みについても考慮する必要がある.
著者
佐藤 康仁 畠山 洋輔 奥村 晃子 清原 康介 小島原 典子 吉田 雅博 山口 直人
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.35-43, 2014 (Released:2016-04-20)
参考文献数
24
被引用文献数
3

Mindsサイトは,診療ガイドラインを中心とした医療情報を2002年より継続してインターネット上に提供している.本研究は,Mindsユーザを対象に実施したユーザ満足度に関するアンケート調査結果を分析することで,Mindsサイトの今後の課題を明らかにすることを目的として実施した.調査方法は,インターネット上の自記式アンケート調査とした.調査対象は,Mindsサイトにユーザ登録をしている者とした.アンケートへの回答者は2,940名(回答率8.2%)であった.「利用目的は達成されたか」について,達成できた割合が高かったのは,医療系学生の「学習や知識習得のため23名(53.5%)」,コメディカルの「診療のため82名(50.0%)」となっていた.利用目的を達成できた者は,利用したことがあるコンテンツの種類が多く,それぞれのコンテンツが役に立ったとする割合が高くなっていた.本研究により明らかとなったMindsサイトの課題は,システムや運用における対応を実施することで順次改善していきたい.
著者
津久間 秀彦 名田 信之 森本 徳明 天野 秀昭 田中 武志 岩田 則和 野村 祐仁 片山 文善 石川 澄
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.127-135, 2002 (Released:2017-08-14)
参考文献数
2
被引用文献数
1

地域に開かれた病院を目指して,地域医療機関に役立つ支援と,患者に対する直接的な支援を両立させることは,医療情報システムが果たすべき今後の一つの方向性として重要である. この観点から,従来の手作業での院外処方せんのFAX送信サービスのあり方を見直し,患者の利便性向上のためのナビゲーションシステムと,保険薬局での調剤の安全性向上のための院外処方情報の自動FAX送信システムを開発した.本論文では,まずシステムの開発目的と機能の概要を説明する.更に2001年10月より広島大学医学部附属病院で開始した運用の実績に基づいて,本システムの有用性を示す.
著者
花田 英輔 工藤 孝人 高杉 紳一郎 加納 隆
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 = Japan journal of medical informatics (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.239-247, 2006-03-03
参考文献数
21
被引用文献数
1

携帯電話は高い普及率を示しているが,一方で一律に電源断を求めている医療機関もまだ多い.患者や訪問者は医用電子機器,特に人工心臓ペースメーカに対する影響に関する情報が広く知られていることからそれに従っているが,中長期にわたって入院する患者にとっては通信手段の途絶を意味することから患者の心理面での負担になっている場合も見受けられる.<br/> 本稿では,患者サービスの面から要望が強いが,これまでその安全性に関する情報不足から医療機関における使用の是非の判断が行われてこなかった携帯電話について,具体的な解禁例およびこれまでに得られた知見から,安全な導入に向けた注意点と手法を示す.
著者
黒田 知宏 佐藤 純三 矢崎 晴俊 竹村 匡正 長瀬 啓介 加藤 康之 吉原 博幸
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.157-164, 2010

電子カルテ上で定型データの入力を行う際のツールとして,テンプレート機能が広く利用されている.テンプレート上で入力された情報をカラムに切り分けしてデータベースに蓄積すれば,電子カルテ利用の向上と臨床研究の効率改善に寄与することが期待される.<br/> 京都大学病院では,電子カルテ導入時に,電子カルテ上にテンプレートを用いて入力された情報をデータベース化する仕組みの導入を行った.導入の結果,がん登録や臨床研究データ入力などに加え,医事会計算定のための情報検索など広くテンプレートが利用され,多くの情報が蓄積された.一方,臨床研究などのための出力作業は,人手による情報出力サービスを提供していることなどもあり,広く利用されるには至らなかった.今後,利用を拡大するためには,各研究者が有する既存のデータベースとの相互接続性を高めたり,アクセスを容易にしたりするなどの工夫が必要であることが示唆された.
著者
大原 達美 成清 哲也 松村 一
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.233-239, 2010

本院医療情報室では,2009年7月に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4版」を参考に,新型インフルエンザ(influenza A : H1N1)パンデミックに備えた業務継続計画(以下BCP)を策定した.同年11月に病院情報システム(HIS)と接続された1部門システムが故障し,1週間部門システムが使用できなくなる経験をしたことから,HISに接続される部門システム全体を視野に入れたBCPの見直しを図った.<br/> 具体的には部門システムのBCP策定に向けて,①部門システムの範囲・機能調査,脆弱性調査,②フェーズ別対策の検討,③ケース別BCPへの展開,に分けて課題の抽出を行った.<br/> この結果,HISと部門システムとの情報システム全体のBCPの策定に際しては,①部門システムが設定する業務再開目標時間(RTO)にはビジネス・インパクト分析(BIA)を実施した上で明確にする,②フェーズ別対策では,システム脆弱性対策チェックシートを使用して共有認識を図る,③ケース別対策については,中長期的対策を視野に入れて策定を進める,との結論に至った.
著者
花田 英輔 工藤 孝人 高杉 紳一郎 加納 隆
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.239-247, 2005 (Released:2015-07-17)
参考文献数
20

携帯電話は高い普及率を示しているが,一方で一律に電源断を求めている医療機関もまだ多い.患者や訪問者は医用電子機器,特に人工心臓ペースメーカに対する影響に関する情報が広く知られていることからそれに従っているが,中長期にわたって入院する患者にとっては通信手段の途絶を意味することから患者の心理面での負担になっている場合も見受けられる. 本稿では,患者サービスの面から要望が強いが,これまでその安全性に関する情報不足から医療機関における使用の是非の判断が行われてこなかった携帯電話について,具体的な解禁例およびこれまでに得られた知見から,安全な導入に向けた注意点と手法を示す.
著者
飯嶋 久志 宇野 弘展 大石 憲司 木村 浩二 西橋 由紀子 寺内 信夫 西岡 直人 田畑 義弘 吉川 清史 黒川 慎吾 石野 良和
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 = Japan journal of medical informatics (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.31-37, 2008-08-17
参考文献数
8

医薬分業とITの進展に伴い,薬局で扱う情報は年々大きくなっており,その効率化にはITの活用が有用な手段といえる.また,国民のIT推進状況も考慮すると,患者への医薬品情報提供にはITの活用が望まれる.そこで,携帯電話のWeb機能を利用した医薬品情報提供と収集を試みた.<br/> システムはクライアントアプリケーションとWebアプリケーションで構成し,サーバとの通信にはSSLを用いた暗号化通信とした.情報提供はE-mailによる能動的情報提供,サーバへアクセスする受動的情報提供とし,さらに患者から服薬状況をサーバへ報告するシステムを構築した.また,本システムをモニター調査等で評価した.<br/> 本システムへのアクセス数は「服用履歴」,「次回服用内容」,「登録情報」などが多かったが,患者からの報告は調査が進むにつれ減少した.また,薬剤師は調剤完了メール,服用履歴などに対する利便性を高く評価した.一方,本システムはレセプトコンピュータよりデータ抽出することから,データ入力の負荷なくデータ収集が可能であった.<br/> 本システムは服用履歴によるコンプライアンスの確認が期待されるが,継続した服用状況の確認には困難が生じた.今後はこれら問題点を改善し,患者利便性と薬物療法の質向上に寄与する必要があろう.
著者
堤 幹宏 黒田 尚宏 山下 和夫 大家 英治 中新 茂 堀 有行
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 = Japan journal of medical informatics (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.11-14, 2004-04-01
参考文献数
3
被引用文献数
2

<p> 金沢医科大学病院では,2000年から電子カルテシステムを用いて診療を行ってきており,この3年間で15万人のすべての医療情報がデジタル化され,蓄積された.そこで,これらの患者の医療情報を地域の各医療機関に還元するためのネットワークシステム(KORMIN: Kanazawa Medical University Oriented Regional Medical Information Network System)を独自に開発した.KORMINの構築に際しては,セキュリティとプライバシーに重点をおいたが,その特徴は,患者の基本情報を置換したことと医療情報の公開期限を制限したことにある.基幹病院で得られた豊富な医療情報を地域医療機関に積極的に提供することが地域医療の質の向上に繋がると考えられるが,そのためにもKORMINはきわめて有用であると考えられた.</p>
著者
宇都 由美子 熊本 一朗 村永 文学 宇宿 功市郎
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.119-123, 2001 (Released:2017-08-21)
参考文献数
6
被引用文献数
1

鹿児島大学医学部附属病院においては,2001年1月より病院情報システムのレベルアップを行ったが,医療事故防止活動の一環として,患者に安全な診療や看護を提供するためのリスクマネジメント支援機能としてのシステム開発を行った.本院で既に開発した物流システムや手術オーダリングシステムのバーコードをスキャナーで読み取るという実施入力の経験を活かし,新しいリスクマネジメント支援システムについても迅速,簡便で正確なバーコード入力を利用して開発した.新システム稼働後,輸血製剤の実施入力を開始したため,本稿においては,その運用概要と評価について報告する.また,今後開発予定の他のリスクマネジメント支援機能についても述べる.
著者
赤羽 智幸 保坂 良資 室橋 高男
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.15-25, 2013 (Released:2014-10-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1

病院内では,小型の輸液ポンプやシリンジポンプなどが随所で稼働している.これらの小型ME機器は病院のMEセンターで周期的に検査され安全性が維持されている.しかしながら,病棟が多忙な際などにはそれらが行方不明となることがある.もしもこれらの機器の検査が不十分であった場合,患者は危険な状況に置かれる可能性がある.そのため,これらの機器がMEセンターで定期的に管理されることが重要といえる.本論文では,これらの機器の所在管理に,UHF帯パッシブRFIDタグシステムを提案する.このシステムにより,医療職者の業務負担を増大させることなく,小型ME機器の所在管理が可能となる.本研究では,このシステムの実用性の確認のため,札幌医科大学附属病院で検証実験を行った.病院での応用を前提とした実験結果から,UHF帯パッシブRFIDタグを付した輸液ポンプが,院内で簡便かつ確実に定位できることがわかった.
著者
川上 洋一 松村 泰志 笹井 浩介 安永 晋 稲田 紘 木内 貴弘 黒田 知宏 坂本 憲広 竹村 匡正 田中 博 玉川 裕夫 仲野 俊成 朴 勤植 平松 治彦 宮本 正喜
出版者
Japan Association for Medical Informatics
雑誌
医療情報学 = Japan journal of medical informatics (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.421-429, 2006-06-20
参考文献数
8
被引用文献数
3

近年,セマンティックウェブ技術を医療支援に応用するための技術が注目されている.本研究では,過去の画像診断レポートから抽出された症例データをエレメント化し,RDF(Resource Description Framework)で関連づけた症例データベースから支援情報を提供することができるシステムの実現可能性を見極めることを目的とした.<br/> 兵庫医科大学病院のMRIにおける脳血管障害のレポートを利用し,部位や基本所見,診断といったデータエレメントを抽出し,それぞれのデータエレメントを関連付けて症例データベースを構築した.その症例データベースから読影するレポートに応じた支援情報を適切に提供できるかについて過去のレポートから推定した結果,作成できるレポートの範囲およびレスポンスについて概ね満足できる見込みを得た.また構造化したデータモデルが胸部CRにも応用できることを大阪大学医学部附属病院のレポートから推定した.
著者
香川 正幸 吉田 悠鳥 鈴木 哲 栗田 明 松井 岳巳
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.85-94, 2010

電波防護指針に準拠した小電力24 GHzマイクロ波レーダーを使用して,高齢者を対象とした非接触の呼吸・心拍見守りシステムを開発した.寝具用マットレスの下部にレーダー装置を設置し,呼吸・心拍に伴う体表面の微振動を計測するシステムであり,精度を向上するため2つのレーダー出力信号を組み合わせる特徴をもつ.最大の課題は,目的とする微弱な呼吸・心拍信号を四肢などの不規則な体動信号から分離抽出することであった.呼吸信号最大値および心拍信号最大値を事前に設定し,その最大値より大きい信号を体動ノイズと判定し振幅減少するAutomatic Gain Control方式をFFT周波数解析の前処理として導入した.また,レーダー信号の出力電力強度から体動の継続を判定し,体動が継続していない時間帯の呼吸・心拍数をより信頼性の高い情報として区別することにより,全体として体動に強い高精度計測が可能となった.本システムを実際に特別養護老人ホームで評価し,非接触見守りシステムの有用性を確認した.高齢者の介護では,在宅の場合も施設介護の場合も高齢者の状態変化の早期検出と介護者の身体的精神的負荷の軽減が求められており,本システムは高齢者安否確認システムの新しい方法として期待される.