著者
河原 利和 杉万 俊夫
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.101-119, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
26
被引用文献数
3 5

強い保守性, 閉鎖性を有し, かつ, 少数の有力者が集落運営を支配する体制を引きずる, ある過疎地域で進行している住民自治システム創造の試みを, アンケート調査によって検討した。その過疎地域にある89集落のうち, 住民自治システム創造のための運動に取り組んで4-5年が経過した14集落の全住民 (青少年を含む) を調査対象にした。その結果, これらの14集落は, 同運動に「積極的-中間-批判的」という軸にそって, 分類できることが見出された。また, 同運動に積極的な集落では, 同運動によって導入された新しい集落運営システムが, 古い伝統的な運営システムと対等の地位を獲得しつつあること, 同運動に批判的な集落では, 新しいシステムが古いシステムにのみこまれて, 古いシステムの下位システムに位置づけられていることが見出された。
著者
森下 雅子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.162-172, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本稿では,「共振」という概念を用い,フィールドワークが何を意味するのかということを探究する。ここでの「共振」とは,調査者とフィールドとの間に成立していると観察される相互関係を指す。それは必ずしも同調ではなく,むしろ多層・多面的に共同構築される現実の政治的な現れ方であり,葛藤・軋轢を経て相互の変容をもたらしたり,あるいはそれらが背景となり現実をつくったりする。 本稿ではこの概念を利用し,地域の日本語支援現場における筆者自身の体験に基づきながら,(a)フィールドワークの再定義,(b)フィールドワークの過程における自身の変容,(c)フィールドエントリーを通じて見えてきた種々の境界,さらに,(d)フィールドにおける行為者のポジションとその変化に伴う「共振」,について議論する。その上で,フィールドワークというのは集合的な学習経験であり,そのプロセスの中で学習を阻む特定の問題を協働で可視化しているのだということを,事例報告を交えながら示す。
著者
黒川 雅幸 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.45-57, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
35
被引用文献数
3 2

本研究の目的は,小学校5・6年生を対象に,授業の班活動における仲間の効果と個人の集団透過性の効果を明らかにすることであった。個人の集団透過性とは,仲間集団以外の学級成員と相互作用することに対する態度を示す概念である。分散分析の結果,仲間が同じ班にいる場合はいない場合よりも,学習活動は明るく,優しい雰囲気のもとで行われ,さらに班成員から受けるサポートは多いことが示された。女子では,同じ班に仲間がいる場合はいない場合よりも,学習活動は規律ある雰囲気のもとで行われ,授業への集中や活動への意欲的な態度は高いことが示されたのに対して,男子ではそのような結果はみられなかった。個人の集団透過性が高い児童の方が低い児童よりも,明るく,優しい雰囲気のもとで学習活動を行っており,班成員から受けるサポートは多いことが示された。さらに,個人の集団透過性が高い児童の方が低い児童よりも,規律ある雰囲気のもとで学習活動を行っており,授業への集中や授業への意欲的な態度も高いことが示された。
著者
杉本 久美子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.137-144, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
9

本研究では, 極化したプロトタイプに同調するという準拠情報的影響過程の立場から, Group Polarization (集団成極化: 以下GPと略す) の生起過程を明らかにすることを目的とした。プロトタイプは内集団の類似性と外集団との差異性を考慮したメタ・コントラスト比 (MCR) で規定される。内集団と外集団の態度が同質の場合には, 内集団の位置づけをより明確にしようとするためプロトタイプが極化し, そのプロトタイプに同調することでGPが生起する, また態度が異なる場合では方向性にかかわらず生起しないと仮説を立て, 実験検証を行った。外集団の態度は内集団と同質, 同方向だがより極端, 逆方向の3水準に設定し, VTRで操作した。VTRを呈示した後, 実験参加者に討論を行わせた結果, 仮説は支持される傾向を示した。また, 従来のGP研究の従属変数である態度変化量と本研究で用いた準拠情報的影響過程による同調との関連性を検討した結果, 外集団が同質な条件ではプロトタイプへの同調が生起し, 実際の態度変化も生起したことから, GPを準拠情報的影響過程で説明することの妥当性が示唆された。
著者
深町 珠由 伊藤 由香 中川 正宣 前川 眞一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.123-139, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
22

従来の相互作用論におけるパーソナリティは質問紙法で測定され,動態的相互作用という時系列変化過程を測定していなかった。本研究は,コンピュータ制御による相手との相互作用過程から動態的個人特性を測定し,従来の質問紙法による静態的指標と比較した。課題では,コンピュータ内の相手が反省エネ行動を繰り返し行う中で,被験者に省エネ行動と相手との友好関係維持という二律背反の目標を与えた。対人協調・非協調行動と対人友好感情評定値の時系列変化を測定し,この2変数相関を個人で求めて動態的個人特性とみなし,得点から高・低群に分類し,各群の代表的時系列特徴を主成分分析で求めた。実験条件には,相手が反省エネ行動を反復することを共通として,相手の攻撃的口調条件と非攻撃的口調条件とを設定した。結果として,対人友好感情評定値の時系列変化が動態的特性の高・低群と各実験条件とで変化傾向が異なり,相手の表面上の口調の影響と,口調と反復される反省エネ行動との一致感の認知の影響を受け,それが時間経過で変化する傾向が示された。動態的指標と静態的指標とを比較したところ,実験条件を通じて一貫した相関は確認されず,動態的指標が質問紙法で測定できない独自の個人特性を表現している点が示された。今後も動態的相互作用に基づく個人特性の測定研究が多くなされる必要がある。
著者
岡本 香 高橋 超
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.85-97, 2006 (Released:2006-12-28)
参考文献数
18
被引用文献数
3 1

本研究は,コミュニケーション相手との親密度が高い群と低い群におけるメディア・コミュニケーション観の差異を,3種類のコミュニケーション形態(対面,携帯電話,携帯メール)で比較検討した。実験は,大学生の男女301名を対象に,質問紙を用いて行った。その結果,対人緊張,親和感情,情報伝達という3つのメディア・コミュニケーション観因子が抽出された。また,2(親密度:高群,低群)×3(コミュニケーション形態)の分散分析の結果,親密度高群と低群とのメディア・コミュニケーション観の差は,コミュニケーション形態ごとに異なることが明らかになった。さらに,親密度の違いによって,メディア・コミュニケーション観因子の因果関係が異なることが明らかになった。この結果から,メディア・コミュニケーション評価を測定する際には,コミュニケーション相手を特定することが必要であるといえる。
著者
遠藤 由美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.134-145, 2008 (Released:2008-03-19)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

関係者に対し共通した効果をもたらすような状況を共有状況と呼ぶ。人は時に,そのような共有状況が他者よりも自分に対してより強く影響すると判断する。本研究では,このような判断バイアスが自己中心性に由来するものか,もしそうであるなら,それは比較判断過程においてどのように作用するかを検討した。研究1では,大学生を対象とした試験に関する共有状況についての実験において,直接法による自己の相対順位判断で判断バイアスが認められ,他者にとっての有利・不利よりも自分への影響に注目する傾向がみられた。研究2においては,自己・他者への影響の絶対判断ではどちらも同程度とみなし均衡していたが,直接相対判断では自分により大きく影響するという判断バイアスが認められた。また,自己と他者に対して各状況の影響があると判断した後に直接法により相対順位への影響を判断する場合は,バイアスの大きさは縮小するが,なおも有意な効果が認められた。このような結果に対して,共有状況についての社会的比較判断をおこなう際に,自己中心性がはたしている役割の観点から考察が加えられた。
著者
谷辺 哲史 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.10-21, 2021 (Released:2021-10-16)
参考文献数
28

本研究は自動運転車による交通事故を題材として,人工知能が人間に危害を与えたときの原因と責任の帰属を検討した。自動運転車が歩行者を轢いて死亡させるというシナリオを提示し,自動車のメーカーとユーザーに対する原因帰属と責任帰属の判断を求めた。人工知能への原因帰属はメーカー,ユーザーへの原因帰属と正の関連を示し,さらに,自律的な機械に意図などの心の機能があると知覚する傾向が高い人ほど,メーカーに事故の原因を帰属した。これらの結果から,人工知能が高い自律性を備えたとしても,人間から独立した行為主体として認知されるわけではないことが示された。また,問題責任(問題を発生させたことへの責任)の帰属はメーカー,ユーザーそれぞれへの原因帰属によって規定されたが,メーカーの解決責任(生じた問題を解決する義務)の帰属は人工知能への原因帰属とも関連しており,原因の所在とは別に開発者という立場ゆえに問題に対処する義務があると判断されることが明らかになった。最後に,人工知能の開発・利用に関する制度設計を議論するために,一般の人々の態度について実証的な知見を得ることの意義を議論した。
著者
黒川 雅幸 本庄 勝 三島 浩路
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1907, (Released:2020-03-14)
参考文献数
27
被引用文献数
4

本研究の目的は,高校生・高専生用スマートフォン利用によるインターネット依存傾向尺度を作成することであった。高校生および高専生371名を対象に,オンライン調査を実施した。そのうちの134名は,再検査信頼性を確かめるために,約1か月後に2回目のオンライン調査に回答してもらった。また,1回目のオンライン調査に協力してもらった人のうち,109名に対してスマートフォン利用の実測値の測定を約2週間行った。スマートフォン利用によるインターネット依存傾向尺度は,4因子38項目から構成された。4つの因子は,中毒性のある情緒問題を引き起こす「情緒」,やめようと思ってもできない「統制不全」,実生活を犠牲にしてでもスマートフォンの使用を優先する「スマートフォン誘因」,ソーシャルメディアによって承認を求めようとする「承認欲求」であった。尺度得点は安定しており,再検査信頼性は高いことが示された。また,実測値の測定により,土日における1日あたりの利用が600分以上の人は,200分未満の人よりも「統制不全」や「スマートフォン誘因」が高かった。さらに,いずれの下位尺度も依存の自覚症状や抑うつと正の相関があることも示され,妥当性を備えた尺度であることが示された。
著者
酒井 明子 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.74-88, 2020 (Released:2020-03-10)
参考文献数
37
被引用文献数
3 1

本研究は,災害という大きな困難に直面した被災者が新たな安定状態を回復する過程に着目した質的研究である。災害時の心理的ストレスは,単線的な心理的回復過程が暗黙のうちに前提とされている。しかし,今日の大規模な災害による被害の甚大さや避難所・応急仮設住宅の設置期間の長期化等は,大切な家族や住み慣れた家を失い生きる意欲を失った人々や自力で生活展望を考えることが困難な高齢者の孤立死や自殺,閉じこもり問題を加速化させており,心理的回復過程も長期化し複雑さを増していると考える。そこで,本研究では,東日本大震災後7年間の心理的回復過程を被災者の語りから分析した。その結果,被災者の心理的変化の特徴は6つのパターンに分類された。また,心理的回復過程には,潜在的な要因及びストレスを慢性化させる要因が影響していた。そして,個々の被災者の心理的変化ラインの時間軸を重ね合わせた結果,1年目,4年目,7年目の回復過程には調査回によって異なる特徴が見出せた。これらの結果を踏まえ,慢性化する可能性のあるストレスを抱えた被災者の長期的な心理的変化と影響要因について論じた。
著者
礒部 智加衣 浦 光博
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.98-110, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本研究では, 社会的比較において情報を好ましい意味へと再構築するスキルが劣っているのかもしれないといわれている低自尊心者でも (Taylor, Wayment, & Carrillo, 1996), 優れた内集団成員との比較による脅威から回避することが可能となるのはどのような状況かについて検討した。我々は, 集団間上方比較状況 (内集団が外集団より劣っている状況) では, 低自尊心者でさえ, 優れた内集団成員との比較による状態自尊心の低下が低減されるという仮説をたてた。95名の女性被験者に対し, IQテストを実施した後, 集団間上方比較が有るもしくは無い状況において, 内集団成員の優れたもしくは同等な個人間比較を想像によりおこなわせた。結果は仮説を支持し, 低自尊心者は集団間上方比較状況の無い時において, IQテストで優れた得点を得た内集団成員との比較後は同等比較後よりも状態自尊心が低下していたが, 集団間上方比較条件が有る条件ではこのような差が認められなかった。高自尊心者は, 集団間上方比較状況の有無に関わらず, 内集団成員との上方比較後に状態自尊心の低下はみられなかった。
著者
中山 由紀子 松本 芳之
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.61-68, 2007 (Released:2008-01-10)
参考文献数
13

本研究は,コンピュータの音声ガイドが使用者に及ぼす影響を検証したものである。音声ガイドのあるコンピュータは自律的に作動し,使用者の課題に対する統制感を低下させるため,リアクタンスを経験する。そこで,使用者は統制感を維持するために,コンピュータの評価を低め,課題の失敗を外的要因,特にコンピュータに帰属するであろう。この考え方が実験で検証された。66名の男女大学生からなる被験者は,質問形式の問題を提示され,回答とは無関係に成功,失敗のフィードバックを受けた。文字呈示条件では,テキストは画面上に表示された。音声ガイド条件では,画面表示に加え,テキストは合成音声で読み上げられた。仮説通り,音声ガイド条件の被験者は,コンピュータに対する評価を低下させた。しかしながら,被験者が失敗すると,文字呈示条件では次回は成功すると予測したのに対し,音声ガイド条件では成功を予測しなかった。この結果は,統制感の低下を反映したものであると解釈された。
著者
川西 千弘
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-10, 2011 (Released:2011-08-30)
参考文献数
18

本研究の目的は,好ましい顔と好ましくない顔の認知的表象における構造的特性の相違を探ることであった。92名の女子大学生が実験に参加し,4人の刺激人物(好ましい顔の刺激人物2名と好ましくない顔の刺激人物2名)について,各々15個の行動(好ましい行動5個,好ましくない行動5個及び中立的な行動5個)をする可能性を評定した。その結果,好ましい顔の人物がポジティブ行動をする可能性のほうが,好ましくない顔の人物がネガティブ行動をする可能性より高いというポジティビティ・バイアスが確認された。また,多次元尺度法の分析から,好ましい顔におけるポジティブ行動情報間のほうが好ましくない顔におけるネガティブ情報間より緊密に体制化されていることが示された。
著者
繁桝 江里 村上 史朗
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.52-62, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
22

本研究は,安全行動を促進する要因として,仕事のやり方や態度に対して否定的な評価を示す言語コミュニケーションである「職務遂行に対するネガティブ・フィードバック(以後職務NFと表記)」を受けることの効果に着目し,化学プラントの研究員に対する質問紙調査による検討を行った。第1の目的として,職務NFの安全行動促進効果を職務NFの形態間や安全会話など他のコミュニケーションとの比較において検討した結果,安全職務に対するNF,一般職務に対するNFのアドバイス型,指摘型の順に効果があるが,不満型には効果がないことが示された。また,安全職務に対するNFは,安全会話とは独立の最も強い効果を持っていた。さらに,第2の目的として,職務NFは効用を持つ一方で,受け手への脅威というネガティブな効果を持つという議論に基づき,NFがもたらすフェイス脅威度に着目し職務NFが機能する条件を検討した。その結果,送り手が親しいという関係特性や,送り手の不満は含まれないというメッセージ特性の効果に加え,職場の組織風土が,より強くフェイス脅威度を弱めていた。考察では,安全マネジメントにおいてNFという特定のコミュニケーションに着目する意義や,組織風土の重要性を論じた。
著者
高口 央 坂田 桐子 黒川 正流
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.40-54, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
29
被引用文献数
2 1

本研究では, 集団間葛藤・協力の文脈からなる仮想世界ゲームを用いて, 複数のリーダーによるリーダーシップが, 集団にどのような影響を及ぼすのかを検討した。各集団における公的役割を持ったリーダーを公式リーダーとし, 集団内の1/3以上の成員から影響力があると評価された人物を非公式リーダーとした。両リーダーのリーダーシップ発揮形態に基づき, 全集団を次に挙げる2つの基準で5つに分類した。分類の基準は, a非公式リーダーの有無, bリーダーシップ行動 (P機能と集団内M機能, 及び集団間M機能が統合された形 (PMM) で発揮されているか) であった。この分担形態を用いて, 集団へのアイデンティティ, 個人資産について検討を行った。さらに, 本研究では, 集団間文脈において検討を行ったため, 特にリーダーシップの効果性指標として, 他集団からの評価, 集団間関係の認知を採用し, それらについても検討を行った。その結果, 複数のリーダーによってリーダーシップが完全な形で発揮された分担統合型の集団が, もっとも望ましい状態にあることが示された。よって, 集団間状況においては, 複数リーダーによるリーダーシップの発揮がより効果的であることが示唆された。
著者
林 文俊 大橋 正夫 廣岡 秀一
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.9-25, 1983-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
46
被引用文献数
6 2

本研究では, 個々人が他者のパーソナリティを認知する際に働かせる次元の数やその意味内容を, 個別尺度法を用いて分析することを目的とした.被験者は大学生男子44名 (うち, 分析の対象としたのは33名). 各被験者は, 32名の刺激人物を個人ごとに構成された個別尺度上で評定することを求められた (調査SPR). また, 各被験者の個別尺度に含まれている特性をSD法でいうコンセプトとして扱い, それぞれを大橋ら (1973) による20対の共通尺度上で評定させた (調査TIF).調査SPRの資料より, 個人ごとに因子分析を行なった. そして, 抽出された諸因子を, 調査TIFの資料を媒介として分類・整理した. 得られた主な結果は, 次の3点である.1) 認知的複雑性の指標となる個々人の因子数は, 1~7の範囲に分布し, かなりの個人差が認められた. ただし, 人が他者のパーソナリティ認知に際して働かせる次元数としては, 最頻値として一応4次元程度を想定するのが適当であると考えられた.2) 抽出された因子の意味内容は, かなり多岐にわたっていたが, 多くは評価的色彩を帯びたものであった. また, 評価次元とは独立な形で力本性に関する因子もいくつか見いだされた.3) 個別尺度法により抽出された因子の多くは, 林 (1978a, 1978b) の提唱するパーソナリティ認知の基本3次元 (個人的親しみやすさ, 社会的望ましさ, 力本性) の枠組から分類・整理することが可能であった
著者
野呂 千鶴子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.125-136, 2013 (Released:2013-03-09)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

本研究では市町村合併を経験した保健師集団を対象に,環境変化とともにその活動システムが変化する過程を追跡することを目的とした。研究方法はインタビュー調査を用い,活動理論を参考に分析を行った。その結果,次の3点が明らかになった。1)合併前は,地域に出向き住民に出会う活動を展開してきた「周辺市町村活動システム」と法で課せられた活動を展開してきた「中心市活動システム」に分類できた。2)合併調整では,全市統一した活動を行う方針となったが,これが既存システムとの間でダブルバインドになった。3)合併後の「合併混乱期活動システム」は,ダブルバインドの突破をめざし「住民」を対象とした活動を模索する中で,保健師の専門能力として求められている「地域診断とそれに基づくビジョンの策定」を改めて意識することになった。以上より,この環境変化は,組織や人口規模に柔軟に対応できる,保健師の専門能力を意識した活動システム創出のための拡張的学習のプロセスだったと言える。
著者
鈴木 雄大 山川 樹 坂本 真士
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2021, (Released:2022-03-16)
参考文献数
12

本研究では,感情的視点取得(i.e., 他者の視点にたって,その人の感情を想像すること)と認知的視点取得(i.e., 他者の視点にたって,その人の考えを想像すること)を区別し,これらを他者にされたと知覚すること(i.e., 被感情的視点取得の知覚と被認知的視点取得の知覚)が被共感の知覚に及ぼす影響を検討した。参加者は自身の意見を述べるエッセイを書くよう求められ,それを読んだ別の参加者(実際には存在しなかった)が感情的視点取得および認知的視点取得をしたかどうかがフィードバックされた。その結果,被感情的視点取得の知覚および被認知的視点取得の知覚は,ともに被共感の知覚を促進することが示された。ただし,被共感の知覚を生じさせるかどうか検討したところ,被感情的視点取得の知覚のみが被共感の知覚を生じさせることが示唆された。他者に感情的視点取得および認知的視点取得をされることの効果について考察した。
著者
渥美 公秀 杉万 俊夫 森 永壽 八ツ塚 一郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.218-231, 1995-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
3
被引用文献数
2 1

本研究は, 1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神大震災の被災地・被災者を救援するために組織された2つのボランティア組織-西宮ボランティアネットワークと阪神大震災地元NGO救援連絡会議-について参与観察法を用いて検討したものである。まず, 各組織の成立過程, および, 活動内容の概略を紹介した。次に, ボランティアに関する一般的な考察を行った上で, 両組織を災害救援における広域トライアングルモデルを用いて比較考察した。両組織には, 地元行政との関係, および, 将来への展望において明確な違いが見られた。
著者
Mai Shimoda Shunsuke Shimoda
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.28-33, 2021 (Released:2021-10-16)
参考文献数
12

This study examined how self-affirmation influences people’s intention to improve health behaviors after reading messages about health risks from physical inactivity. A usual physical activity level, measured by a smartphone app, was used as a moderator. Participants (103 Japanese undergraduates) reported their usual physical activity (average walking and running distances) measured by a health management app. They then completed a writing task, in which they affirmed (or did not affirm) important personal values. After the task, they read health risk messages about physical inactivity and reported their intention to increase their daily physical activity. The results revealed that participants with low physical activity levels displayed a significantly stronger intention to increase their daily physical activity when they self-affirmed than when they did not. Conversely, participants with high levels of physical activity did not show a significant effect of self-affirmation. These results suggest that the effect of self-affirmation on improving physical inactivity is moderated by the level of usual physical activity, highlighting the significance of the relevance of the health messages.