著者
岡本 卓也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.26-36, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

本研究は既存集団のもとへ他の集団(参入集団)が参入した時,既存集団成員が内集団の影響力を過小評価することを確認し,この過小評価の発生量の規定要因として内集団アイデンティティ(内集団Id)と共通内集団アイデンティティ(共通集団Id)の効果を明らかにした。実験1では,実験参加者36名から12個の3人集団を構成し,半数を既存集団に,残りを参入集団に割り当てた。集団ごとにある課題について討議・決定させた後,既存-参入集団を組み合わせた6人集団(上位集団)を構成し,再度同一課題について意思決定を求めた。その結果,既存集団は参入集団に比べて再決定時の自分達の影響力を過小評価していた。実験2では参入集団をサクラが演じ,49名の参加者を全て既存集団とし内集団Id(高・低)と共通集団Id(形成・無し)を操作した。その結果内集団Id高群で影響力の過小評価が認められた。共通集団Idの高さは過小評価の発生には影響を与えず,相手集団との対立度を低く認知させた。両実験の結果に基づき,既存集団における影響力の過小評価および対立度の認知と集団Idとの関係について考察した。
著者
宮崎 弦太
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.60-70, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
18
被引用文献数
1

親密関係では共同規範に従った恩恵の授受を行うことが理想とされる。本研究は,我々は親密関係において常に共同規範を遵守するわけではなく,関係相手の応答性に応じて共同規範を柔軟に調節していること,また,そのプロセスが愛着不安によって調整されることを検討した。2つの調査(調査1の参加者は150名,調査2の参加者は188名)の結果,親密関係において相手が自分に対して非応答的であった過去の出来事を想起した人は,想起しなかった人よりも,共同規範を弱めていた。ただし,愛着不安の強い人は,恋人の非応答性を想起すると共同規範を強めていた。これらの結果は,親密関係におけるリスク制御という点から考察された。
著者
八ッ塚 一郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.103-119, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

日本社会における「ボランティア」と「NPO」の普及・興隆という現象を,社会的現実の生成と変容のプロセスとみなし,社会的表象論に依拠してその機制を検討した。各々の語を含む新聞記事の量の経年的変化を検討したところ,いずれの語も記事量を増大させていた。さらに,各々の語について,助詞を付して用いられる比率を算出する「助詞分析」を試みた。ボランティアは,阪神大震災以前には高かった主語としての用法の比率を,震災後には相対的に低下させていた。一方,NPOでは,主語としての使用比率は一貫して高かった。このことから,NPOは,生成の渦中にあるものの,社会的現実としては未だ単調であり,生活世界にとって疎遠であることが示唆された。それに対しボランティアは,震災を契機にその多層性を確立し,豊かな意味をもつ社会的現実として,生活世界の細部へと浸透しつつある。このことは記事内容に関する分析によっても支持された。2つの社会的現実について今後の変容可能性を展望するとともに,新聞記事を活用した分析技法について,社会的表象論に基づく展開の方向性を考察した。
著者
川名 好裕
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.67-76, 1986-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
19
被引用文献数
5 5

本研究の目的は, 対話状況において聞き手が話し手に与える相づちや, うなずきと言った社会的強化が, 相互の対人魅力にどのような影響を及ぼすものであるかを調べることであった。40人の大学生が, 自分の作った話をする話し手の役割か, その話を聞く聞き手の役割のどちらかを演じた。話し手と聞き手との対人的認知の違いを対照するために, 各々の被験者は, 終始それぞれの役割を演じた。話し手は二人の別の聞き手に, 同じ話を同じ調子でした。聞き手のうちの一人は, 相づちや, うなずきなどの社会的承認を与えて話し手の話を聞いた。もう一人の聞き手は, そうした社会的強化を話し手に与えずに話を聞いた。聞き手の方も, 二人の話し手の話を聞いたが, 一人の話し手には社会的強化を与え, もう一人の話し手には社会的強化を与えなかった。実験の結果, 明らかになったことは次の4点である。1. 話し手は, 相づちのある聞き手の方を, 相づちのない聞き手より好意的に評定した。2. 聞き手は, 自分が相づちを打った話し手の方を, 相づちを打たなかった話し手より, 好意的に評定した。3. 相づちの有無の違いによって変化する対人魅力特性は, 感情的・社交的魅力であり, 知的・道徳的魅力ではなかった。4. 対話状況においては, 話し手の方が, 聞き手より対人感受性が敏感であることも明らかになった。また, 多次元展開法が多変量の従属変数を全体的にかつ視覚的に表わすのに有用であることが示唆された。
著者
山中 咲耶 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.141-149, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本研究では,他者の面前におけるパフォーマンスの抑制メカニズムについて認知的,感情的側面に着目して検討した。本研究で想定したメカニズムは,課題遂行中に目標とする水準を達成できていないと認知することによって,感情体験が上昇する結果,さらなるパフォーマンスの悪化が生じる,というものである。実験の結果,課題遂行時に自己の成績が目標よりも劣っていると認知した遂行者は,認知後の成績が低下し,自己報告による感情得点が高くなった。一方,自己の成績が目標よりも優れていると認知したものは,成績の変化は見られず,感情得点は低下した。以上の結果より,本研究で想定したパフォーマンスの抑制メカニズムは概ね支持された。なお,行動指標と主観的に報告された感情指標の変化傾向が概ね一致した一方で,生理指標は時間推移に沿った変化しか示されなかった。生理指標の変化傾向が,失敗数,感情指標と一致しなかったことより,生理的覚醒が直接的にパフォーマンスを抑制するわけでなく,状況へのネガティブな認知と感情体験の上昇がパフォーマンスに影響する可能性が示唆された。
著者
菊地 雅子 渡邊 席子 山岸 俊男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.23-36, 1997
被引用文献数
1 20

他者一般の信頼性についての信念である一般的信頼の高さが必ずしもその人の騙されやすさを意味しないというRotter (1980) の議論, および高信頼者は低信頼者よりも他者の信頼性 (ないしその欠如) を示唆する情報により敏感であるという小杉・山岸 (1995) の知見を, 情報判断の正確さにまで拡張することによって導き出された「高信頼者は低信頼者に比べ, 他者の一般的な信頼性についての判断がより正確である」とする仮説が実験により検討され, 支持された。この結果は, 他者一般の信頼性の「デフォルト推定値」としてはたらく一般的信頼の高低と, 特定の他者の信頼性を示唆する情報が与えられた場合のその相手の信頼性の判断とは独立であることを示している。すなわち, 高信頼者は騙されやすい「お人好し」なのではなく, むしろ他者の信頼性 (ないしその欠如) を示唆する情報を適切に処理して, 他者の信頼性 (ないしその欠如) を正確に判断する人間であることを示唆している。最後に, 社会環境と認知資源の配分の観点からこの知見を説明するための一つのモデルが紹介される。
著者
渡辺 匠 唐沢 かおり 大髙 瑞郁
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.11-20, 2011 (Released:2011-08-30)
参考文献数
30
被引用文献数
4

本研究では,家族介護と公的介護に対する選好度の規定要因および関係性について検討を行った。一般成人331人を対象とした調査研究の結果,家族介護意識が家族介護・公的介護に対する選好度を規定していること,および,両者の選好度の間には背反的な関係があることが明らかになった。具体的には,調査対象者が被介護者の立場に立って回答した際に,家族介護への選好は介護サービス等の公的介護の利用抑制につながり,介護への態度が公的介護導入を制限する要因になることが認められた。一方,家族介護に伴う負担の懸念が高い場合は公的介護利用を志向して,介護サービスに対する税金使用への賛意が高まることが示唆された。しかし,以上の仮説モデルは心理的負債感によって調整されており,心理的負債感が低い人は返報義務を感じにくいために,介護受容における選択的選好や公的介護を利用する上での積極的関与が観察されなかった。以上の結果に基づき,介護選択と介護政策に対する態度の関連性や,介護受容における家族介護意識と心理的負債感の役割について議論した。
著者
矢守 克也 飯尾 能久 城下 英行
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2009, (Released:2020-12-24)
参考文献数
42
被引用文献数
3

巨大災害による被害,新型感染症の世界的蔓延など,科学(サイエンス)と社会の関係の問い直しを迫られる出来事が近年相次いでいる。本研究は,このような現状を踏まえて,地震学をめぐる科学コミュニケーションを事例に,「オープンサイエンス」を鍵概念として科学と社会の関係の再構築を試みようとしたものである。本リサーチでは,大学の付属研究施設である地震観測所を地震学のサイエンスミュージアム(博物館施設)としても機能させることを目指して,10年間にわたって実施してきたアクションリサーチについて報告する。具体的には,「阿武山サポーター」とよばれる市民ボランティアが,ミュージアムの展示内容に関する「解説・観覧」,地震活動の「観測・観察」,および,その結果得られた地震データ等の「解析・解読」,以上3つの側面で地震学に「参加」するための仕組みを作り上げた。以上を踏まえて,「学ぶ」ことを中心とした,従来,「アウトリーチ」と称されてきた科学コミュニケーションだけでなく,科学者と市民が地震学を「(共に)なす」ことを伴う,言いかえれば,「シチズンサイエンス」として行われる科学コミュニケーションを実現することが,地震学を「オープンサイエンス」として社会に定着させるためには必要であることを指摘した。
著者
松原 敏浩
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.55-65, 1984-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本研究の目的は, リーダーシップ行動の部下のモラールへの影響が, 部下のパーソナリティ, 部下の職務特性, 部下の職位水準によってどのように規定されるかを検討するものである。リーダーシップ行動は, PM式リーダーシップ測定尺度によって測定された。モデレーターである部下のパーソナリティ特性は, YG性格検査, 職務特性は質問紙によって測定された。そして部下のモラールも質問紙によって測定された。得られた主な結果は, 次の通りであった。1. 部下によって認知された上司の目標達成行動 (P行動) と部下のモラール (満足感次元) との関係は, 情緒的に安定した部下の方が, そうでなひものよりもより高い正の相関を示した。2. P行動と部下のモラールの凝集性次元との関係は, 社会的活動性に富む部下の方がそうでないものよりもより高い正の相関を示した。3. P行動と凝集性次元との関係は, 多様性に富む職務, 協力の必要性のある職務のものの方がそうでないものよりもより高い正の関係を示した。4. P行動と部下のモラールとの蘭係は, 部下の職位水準の上昇とともに増加した。5. 部下によって認知された上司の集団維持行動 (M行動) とモラールとの関係におよぼすモデレーターとしての部下のパーソナリティ特性の役割は, P行動の場合ほど明確でなかった。6. M行動とモラールとの関係は, 多様性に欠ける職務の方が富む職務よりもより高い正の相関を示した。7. 部下の成長欲求は, モデレーターの役割が明確でなかった。結果は, Houseのパス・ゴール理論, 三隅のPM理論から考察された。
著者
戸塚 唯氏 深田 博己 木村 堅一
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.83-90, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
11

本研究の目的は, 脅威アピールを用いた説得メッセージにおいて, 脅威に晒されていることを強調する脅威ターゲットとして受け手自身と受け手にとって重要な他者である家族を用いた場合の説得効果を比較検討することであった。独立変数は, (1) 脅威ターゲッ (受け手, 家族), (2) 脅威度 (高, 低), (3) 対処効率 (高, 低) であった。249人の女子大学生を8条件のうちの1つに無作為に配置した後, 被験者に説得メッセージを呈示し, 最後に質問紙に回答させた。質問紙では, 勧告した2つの対処行動に対する実行意図と肯定的態度を測定した。その結果, 脅威度や対処効率が大きいほど, 実行意図と肯定的態度の得点が大きくなることが明らかとなった。また実行意図の得点は, 受け手ターゲット条件よりも家族ターゲット条件の方で大きいことが明らかとなった。本研究で得られた知見によって, 重要な他者を脅威ターゲットとする説得技法が, 説得効果を高めるために有用であることが示唆された。
著者
Mizuka Ohtaka Kaori Karasawa
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.111-115, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
16
被引用文献数
3

Although previous studies have verified that perspective-taking differs according to the individuals involved and their relationships, the balance between individual and relationship effects remains unclear. Thus, we examined perspective-taking in families based on the social relations model (Kenny, Kashy, & Cook, 2006). We conducted a triadic survey of 380 undergraduates and their fathers and mothers. We analyzed the triadic responses of the 166 families in which all three members completed the survey. It was found that perspective-taking in families is affected by the family itself, each actor, fathers as partners and all dyadic relationships. The relative contributions of individual effects and relationship effects differed between parent-child relationships and marital relationships. We discuss the implications of our findings for enhancing perspective-taking.
著者
平川 真 深田 博己 樋口 匡貴
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.15-24, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
23

本研究の目的は,Brown and Levinson(1987)のポライトネス理論に立脚し,要求表現の使い分けに及ぼす社会的距離,社会的地位,要求量の影響について検討することであった。本研究では,要求表現の丁寧度と間接度を区別し3要因の影響を検討するとともに,理論の重要な媒介変数であるフェイスに対する脅威度の認知を取り上げ,理論の検討を試みた。265名の大学生に対して場面想定法による実験を行った結果,3要因の認知が高まると丁寧な表現が使用されることが明らかとなったが,3要因の認知は使用される要求表現の間接度には影響を及ぼさないことが示された。また,その影響過程については,Brown and Levinson(1987)の見解とは異なり,社会的距離,社会的地位の認知に関しては直接影響を及ぼす過程も存在することが示された。本研究で得られた結果は,3要因が要求表現の使い分けに影響を及ぼすというBrown and Levinson(1987)の主張の根幹を支持するものであったが,影響を及ぼす次元やその影響過程については理論の妥当性に疑問を投げかけ,再考を促すものであった。
著者
藤森 立男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.35-43, 1980-10-01 (Released:2010-11-26)
参考文献数
33
被引用文献数
5 5

本研究は, 魅力次元を明らかにし, 各魅力の主要次元における態度の類似性と話題の重要性が対人魅力におよぼす効果を検討した.実験Iは, 5~7日の間隔で実施され3セッションからなっていた. 第1セッションでは, 予備調査に基づき, 8つの重要な話題 (質問紙α) と8つの非重要な話題 (質問紙β) を態度尺度として選び, 70人の被験者に6ポイント・スケールで評定させた. 第2セッションでは, 被験者の半分は, 同じ8つの重要な話題に反応している5人の質問紙αを提示され, その後で26の魅力評価尺度にそれぞれの人の評定を求められた. 5人の反応は, 被験者の反応と0%, 25%, 50%, 75%, 100%の類似性に操作されていた. ここで言う類似性とは, 8項目に対して占める被験者と提示人物との類似反応の比率のことであった. 非類似反応は, 被験者の反応から3ポイントずれており, 類似反応は常に同じであった. 第3セッションでは, 被験者は, 8つの非重要な話題に反応している5人の質問紙βを提示され, それから, それぞれの人の評定を求められた. 残りの被験者は, 第2セッションでは, 5人の質問紙βを, 第3セッションでは, 5人の質問紙αを提示された.実験IIは, 実験Iとほぼ同じであったが次の2点が異なっていた. (1) 被験者は, 3人の反応 (0%, 50%, 100%の類似性) を提示された. (2) 非類似反応は, 1ポイントずれていた.主要結果は, 以下のとおりであった.1. 魅力評価尺度の相関行列をprincipal componentanalysisに掛け, 有意味な因子と考えられる4因子をvarimax法により直交回転させたところ, 親密, 交遊, 承認, 共同などの因子が見出された.2. 両実験において, Byrneによって提出された態度の類似性-魅力理論は, 十分に確証された. すなわち, 態度の類似性の効果は, 各魅力次元において非常に有意であり, 態度の類似性が高くなるにつれて, 他者に対する魅力も高くなる傾向が見出された. しかし, 項目の重要性の効果は, 全般的に見られなかった.
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.1-15, 2001-12-25 (Released:2010-06-04)
参考文献数
45
被引用文献数
4 1

阪神・淡路大震災の後, それまで, 特殊な専門用語に過ぎなかった「活断層」という言葉が, 広く人々に知られるようになった。本研究は, 社会的表象理論 (Moscovici, 1984) に依拠して, この言葉が, 地震にともなう新奇な事象を「馴致 (familiarize) 」し, 人々の日常世界に取り込まれる過程について検討した。この目的のため, 新聞, 雑誌に掲載された関連報道の内容分析を行ない, Moscoviciが提起した2つの馴致メカニズム-係留 (anchoring) と物象化 (objectification) -のそれぞれについて実証的に検討した。具体的には, 係留過程については「活断層」に関する比喩表現の分析に, 物象化過程については地震前兆証言の分析に焦点をあてた。この結果, 特に, 地震前兆証言は, その独特の発話形式 (回顧的発話形式) に負うて, 社会的表象研究が抱える困難-社会的表象が確立した時点で, 未確立の時点における様相を記述することの原理的困難-を克服する有力な研究対象の一つであることを示唆した。さらに, 社会的表象の概念と認知社会心理学的な諸概念との異同についても論じた。
著者
伊藤 君男
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.137-146, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
20
被引用文献数
4 3 1

本研究の目的は, ヒューリスティック-システマティック・モデル (Chaiken, 1986) に基づき, 説得的メッセージのヒューリスティック処理とシステマティック処理との加算効果と減弱効果に対する関与の程度の影響を検討するものである。実験は関与 (高・中・低) ・論拠の質 (強・弱) ・説得者の信憑性 (高・低) を操作して行った。実験の結果, 話題への関与が高い場合には, 説得効果は論拠の質のみの影響を受けたのに対して, 話題への関与が中程度の場合には, 論拠の質と説得者の信憑性の影響が共に認められた。また, 話題への関与が低い場合には, 説得効果は説得者の信憑性のみの影響を受けていた。これらの結果より, 高関与はヒューリスティック処理の影響を減弱させる効果を導き, 中関与はヒューリスティック処理とシステマティック処理の加算効果を導くことが示唆された。
著者
田端 拓哉 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.75-88, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
50

自尊心の研究はさまざまな自尊心調節機制が相互に代替可能であることを示唆している。人はある領域で自尊心が脅かされてもその領域とは関連しない領域でその脅威に対処することができる。このことから,能力次元における自尊心への脅威は,集団成員性の活性化および所属集団の実体性を高く認知することによる所属感の強化を引き起こしうると考えた。この予測を検討するため,大学生を対象に,想起法(研究1)と課題フィードバック法(研究2)を用いて自尊心への脅威の水準を操作する2つの実験を行った。実験1では,能力次元における自己評価が脅威を受けると,脅威を受けない場合に比べて,個人がかかわるあらゆる集団の実体性評価を高めることが,高特性自尊心者についてのみ示された。一方,実験2ではそのような集団実体性評価の高揚が特性自尊心の水準にかかわらず示された。これらの結果から,自尊心維持機制における領域間補償の一般化可能性が論じられた。
著者
相馬 敏彦 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-16, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
45
被引用文献数
2 1 2

本研究では,親密な関係における特別観が関係の相手に対する行動にどのような影響を及ぼすのかを検討した。大学生474名を対象とする調査研究を行った。親密な関係での特別観は関係内での協調的な志向性を高め,他方非協調的な志向性を抑制することが示された。さらに,特別観が協調的・非協調的志向性に及ぼす影響は,相互依存諸変数(代替肢の質,満足度,投資量,コミットメント)が志向性に及ぼす影響と独立したものであることも示された。これらの結果より,親密な関係に対して強い特別観をもつ者は非協調的な行動がとれないことが示唆された。親密な関係における特別観がその当事者に不適応を生じさせる可能性について議論した。
著者
坂田 桐子 藤本 光平 高口 央
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.109-121, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

本研究では,リーダーの影響力の「強さ」と「範囲」に及ぼす集団プロトタイプ性の効果について検討した。仮説は次の通りである。(1)集団同一視の高い参加者群において,集団プロトタイプ性の高いリーダーの方が低いリーダーより承認されるであろう。(2)高プロトタイプ・リーダーの影響力が,ある外集団との比較による脱個人化された社会的魅力に由来することを考慮すると,高プロトタイプ・リーダーが低プロトタイプ・リーダーの影響力を上回るのは,その外集団と関連する課題に従事する場合だけであろう。ただし,外集団関連課題における高プロトタイプ・リーダーの影響力は,たとえフォロワーの意向に沿わない指示であっても応諾させるほど強いであろう。実験参加者124名に他集団との対立状況を描いたシナリオを呈示し,質問紙への回答を求めた。その結果,直接的な応諾度指標ではなく,間接的な応諾度指標について,仮説は概ね支持された。本研究の結果の一部は,社会的アイデンティティ理論や自己カテゴリー化理論の視座からの予測とは必ずしも一致しないものであった。最後に,本研究の知見の解釈,本研究の限界,および今後の課題について考察した。
著者
宮本 匠 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.35-44, 2012
被引用文献数
1

研究者と研究対象の間に一線を画して,対象を客観的に記述しようとする自然科学に対して,人間科学は研究者と当事者による恊働的実践として進められるが故に,アクションリサーチとしての性格を宿している。本稿は,人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる独特な視点とその役割を,新潟県中越地震の被災地で継続しているアクションリサーチの事例から理論的に明らかにしたものである。その際,大澤(2005)による,柳田國男の遠野物語拾遺の説話についての解釈を援用し,われわれの経験の社会的構成が「言語の水準」と「身体の水準」による複層的な構成をとっていること,それが当事者の「個人の内的な世界」と当事者の内属する「共同体の社会構造」の両者に存在していることを述べたうえで,当事者の「身体の水準」に留まっている他者性を回復させることでベターメントを図ることが人間科学のアクションリサーチにおける研究者の役割であり,その二重の複層的な構成をみる「巫女の視点」が人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる視点であることを論じた。最後に,アクションリサーチにおける研究者は,その実践過程を言語によって回顧的に報告し,次の実践やさらなる共同体のベターメントへつなげていくところまでを射程としていることを指摘した。<br>