著者
山田 雅子
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.109-120, 2015-05-01

肌の記憶色は,実際よりも高明度であるとの研究があるが(児玉, 1975),自分自身の肌の場合も同様に,より明るい色がイメージされることが報告された(山田, 2010).本研究では特に自己の肌のイメージと実際との差異における個人差に注目し,当該ずれのパタンの抽出とその背景要因の分析を試みた.日本人女子学生82名を対象として実験調査を行った結果,化粧肌,素肌の何れの場合も,色相のずれの方向性と明度のずれの大小において個人差が抽出され,また,これらのずれの特徴は自身の理想や他者としての男女の肌のイメージの傾向としてもほぼ一貫して現れることが判明した.更に,こうした個人差が生じる背景要因を探ったところ,化粧時間や肌の悩みとの関係は不明瞭であったが,予想と実測の明度差が比較的小さい対象者は,ジェンダーに対して伝統的な価値観を持つことが明らかとなり,視覚的な接触時間以上に肌という対象の中心性の影響が推察された.
著者
内田 洋子
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.106-113, 1990-09-21
被引用文献数
8

1986年にCIEが正式に白色度式を推奨した。日本色彩学会では白色度表示方法研究委員会(以下, 委員会)を設置し, CIE白色度式がJISとして採用できるものであるがどうかを検討した。本稿では委員会の実験データを用いて, 主成分分析・因子分析をし, 試料及び被験者の関係を分析した。また前報のデータも同様に分析し, 比較検討した。次にCIE白色度式の800と1700という2つの係数を変化させ被験者毎の最適係数を捜し, 各被験者が何色好みであるかを分類した。さらに被験者の職種と視感評価の関係について調査した。主成分分析の結果, 白布試料では(1)視感反射率(2)色み量(3)純度, 白紙試料では(1)視感反射率(2)蛍光性(3)色み量, 前報の実験では(1)色み(2)純度(3)色み量(4)視感反射率の各因子が白さを評価する主要因であることが判った。次に委員会のデータでは各被験者の多くが緑み好みであったが, 青み好みについて調べてみると白紙試料の方が白布試料に比べて3倍も増加していた。また専門家と一般に多少相違がみられ, 一般は一人一人が種々の基準で白さを評価しているようであった。
著者
稲垣 卓造 飯島 祥二
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.308-318, 2009-12-01
被引用文献数
1

室内仕上げ面の光沢が、室内の雰囲気評価とそこで想定される行為の選択にどのような影響を与えるかを実験で確かめた。実験変数として、光沢以外にも両者に大いに影響を与えると考えられる色彩、光源、家具配置などを組み込んだ。9要因を組み合わせた27の室内模型をプロジェクターで投影し、20人の被験者を対象に実験を行った。実験計画は、直交配列により9つの主効果と2つの交互作用が吟味できるよう割り付けた。雰囲気評価の結果を因子分析にかけたところ、3因子が抽出された。ぬくもり、静穏さ、清新さと名付けた。壁と床の色相、壁の光沢、パーティションの高さと家具配置の交互作用が雰囲気評価に大きな影響力をもたらすことが明らかとなった。行為の選択についても3因子が抽出された。くつろぎ、知性、孤独と名付けた。ここでも、床の光沢の主効果と、パーティションの高さと家具配置の交互作用が目立った効果を示した。双方の結果から、半光沢の仕上げが「中途半端であいまいな」印象を与えるためか、好ましくない結果を与えることが明らかにされた。また、パーティションの高さと家具配置の交互作用も大きなウエイトを占め、光沢とともに空間構成と人間の行動に大きな影響力を与えることも明らかとなった。
著者
池田 光男 芦澤 昌子
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.140-147, 1993-01-01
被引用文献数
6

夜間の交通事故の一つの原因として, 歩行者がドライヴァーにとって見えにくいということがある。そこで目立つ色を歩行者の衣服に採用するという観点から目立つ色を検討し, マンセル色相で8Rが明るいところで目立ち, 8BGが暗いところで目立つことを明らかにしてきた。その応用として両者を配置した衣服も提案した。ところでこれらの実験では被験者は視線を自由に動かしてよいという条件であった。しかし交通の実際の場面では, ドライヴァーはむしろ周辺視野でまず対象物を捉えるという状況にあるので, 周辺視野での色の目立ちを知る必要があると考えられる。そこで本研究は刺激色票を中心から視角で10度, 20度, 30度, 35度の4位置に呈示し目立ち得点を測定した。刺激色票は12種類, 測定した照度レベルは0.01 lXから1000 lxにかけての6段階である。その結果, 明るいところでは赤系の色が目立つ, 逆に青系は目立たない, 暗いところでは青系が目立ち, 赤系は目立たないという以前の結果を確認したが, 視野周辺に刺激を呈示しても明るいところで赤系の色がやや得点を減らす被験者があるとはいうものの, 概して呈示視野位置の影響はないことが明らかになった。
著者
池田 光男 久住 亜津沙 小浜 朋子 篠田 博之
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.113-124, 2003-06-01
被引用文献数
24

高齢者の視覚をシミュレートし、若齢者が高齢者の見る世界を体験するために開発された白内障擬似体験ゴーグルを取り上げ、色票がどのように見えるかを3種類の実験によって検討した。このゴーグルはかずみと色の2種類のフィルターから構成されている。実験1は、ゴーグルありとなしで同じ色に見える色票対の決定であるが、彩度の高い色票はゴーグル着用によって彩度が落ちることが示された。実験2は、JIS標準色票のシートの上でその色の領域を決定するもので、ゴーグルありでは全ての色において色領域が狭くなることが示された。実験3は、無彩色の参照刺激と同じ明るさになる色票の輝度を測定するもので、ゴーグルありでは、なしより高い輝度が必要であることが示された。以上の実験結果で共通して示されたことは、全ての色票において見えの彩度が低下することであったが、その原因は、かすみフィルターによって環境からの白色光が眼内に入り、色票の網膜像の上にかぶさることと推測した。それを確かめる混色実験をし、環境光の照度を上げると色票の彩度は全ての色票において低下することを示した。
著者
佐川 賢 清水 豊
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.19-28, 1995-02-01
被引用文献数
13

CRT画面上に呈示したパターンを用いて色彩パターンに対する人間の心理評価を(1)色彩領域の占有面積, (2)配色数, (3)色彩領域の分布, の点から検討した。全体で7つの色(赤, 緑, 青, 黄, シアン, マジェンタ, 白)が16×16のマトリクスパターン上に種々の面積, 配色数, 色彩領域の分布の規則度を変えながら配分され, 観測者はこれらのパターンについての心理評価をパターンの物理的な特性に関する評価として規則性(色彩配置の周期性), まとまり(色彩配置のかたまり具合)の2評価, さらに視覚心理の高次な判定に関する評価として, 調和, 好み, 快適性, の3評価の合計5つの項目について10点尺度で答える。実験は実験1〜4に分かれ, それぞれ(1)単一色の面積率の効果, (2)配色数の効果, (3)分布の規則度の効果, (4)これら3つの複合効果, の4つ効果を検討した。結果を総合すると, 快適性の評価値は占有面積が増えるとともに, また配色数が多くなるとともに低下するが, 分布の規則度が増すととも上昇することを示した。分布の規則度と快適性評価値との高い相関は, パターンの自己相関係数と観測者の評価値との比較においても確認された。また, 本研究で採用した5つの評価項目は, 主成分分析の結果いずれも快適性と相関が高いことが判明し, 色彩パターンの心理的な快適性の評価に有効であることが判明した。
著者
粟野 由美
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.42-45, 2007-03-01

本稿では芸術系大学でデザインを学ぶ学生を対象に開講している「デジタルカラー演習」という授業を題材に、色彩学、造形心理学、デザイン実習とコンピュータ演習を重層化したデジタル色彩学のカリキュラムの開発に取り組んできた過程を整理することで、「Computer Aided Design」時代の色彩教育のありかたを検討する。演習型授業の基本技術として「与える」「引き出す」「整える」のバランスおよびタイミングは重要である。「デジタルカラー演習」は、デジタルとカラーというキーワードを併置してコンピュータと色彩におけるフィジカル面とメンタル面のリテラシーを双補完的に向上するよう設計している。コンピュータ・リテラシーが今日のデザイナーの基本技術となったのはコマンドのGUI化に負うところが大きい。一方で、色彩学習の基礎が自然の色彩体験の再現すなわち絵の具による色の発現に立ち会うところから始まるのだとすれば、アルゴリズムから色・形・動きとして視覚化されるプロセスに立ち会うことがこれに相当すると考えられる。"デジタル/カラー"から"デジタル・カラ-"へ、この概念を具体化することが今後の課題である。
著者
三宅 正夫 眞鍋 佳嗣 浦西 友樹 池田 聖 千原 國宏
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.3-14, 2012-03-01

近年,カラーユニバーサルデザインの概念のもと,色弱者のための研究や製品の開発が盛んである.しかし,視覚障がい者,特に全盲の人が利用できるものは少ない.視覚障がい者の自立生活と社会参加を促すには,身につける衣類の色と模様に関しても自ら認識できることが重要である.本論文では,衣類の色と模様に関する情報を組み合わせて音声出力するシステムを提案する.色認識では,PCCS表色系にカテゴリカルカラーの概念を取り入れて,簡潔な色の出力表現を行い,全盲の人が理解しやすいように工夫した.また,大域的な色の把握のために,カメラで撮影した画像を色空間でクラスタリングし,限られた少数の色数での出力を可能とした.模様認識では,衣類によくあらわれる縦縞,横縞,チェックを主たる模様とし,これ以外の模様は,無地か無地でないかの認識を可能とした.評価実験により,本システムの出力結果の妥当性を確認した.また評価実験の結果を踏まえて,認識精度向上のための対策について考察した.
著者
三浦 久美子 齋藤 美穂
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.163-175, 2004-09-01
被引用文献数
9

色彩嗜好は具体的形態を伴った場合に変化すると考えられる。本研究では<身につける色>及び<周辺の色>という2つのカテゴリに着目し、両カテゴリの共通点と差異を検討した。刺激は色見本を使用し、335名(男性136名/女性199名)に対し、身につけたい色、周辺にあって欲しい色/身につけたくない色、周辺に欲しくない色をそれぞれ3色ずつ選択すると同時に選択理由の解答を求めた。選択された色に対しては、両カテゴリの嗜好色と嫌悪色における一般的な嗜好傾向の特徴を明らかにする為に双対尺度法(Dual-Scalina)による分析を施し、χ^2検定により有意差を検討した。その結果、両カテゴリにおける共通点は白嗜好、差異は黒に対する嗜好の差異である事が分かり、また色相やトーン別に有意差が認められた。また、年代や性、調査時期も色彩嗜好における重要な要因であることが示唆された。
著者
下村 香理 芦澤 昌子 佐川 賢
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.15-26, 2012-03-01
被引用文献数
1

日常生活においては,商品タグやパンフレットなどに様々な色の文字が用いられており,これらは高齢者に読みづらい場合も多い.本研究では,物体色モードの色文字の視覚的な読みやすさを実験的に検討した.文字色は赤,黄,緑,青と黒,灰,白の計7種類,背景色は黒,灰,白の3種類,文字サイズは4〜90ポイントの間で13種類,照度は0.01lxから1000lxまでの6段階として実験を行った.被験者は高齢者14名と若年者18名で,読みやすさの評価には5段階評定法を用いた.ただし読めない場合は別途"読めない"という評価を加えた.照度レベルが低下すると,一定の読みやすさを得るために必要なフォントサイズは大きくなる.この変化は文字色と背景色の組み合わせで変化し,ここでは明所視では明所視輝度コントラストが,暗所視・薄明視では暗所視輝度コントラストがそれぞれ影響し,どちらも輝度コントラストが高いほど読める文字サイズが小さくなる.高齢者は全体的にみると,若年者の約1.5〜2倍の文字サイズが必要であり,その結果高齢者が若年者と同じ読みやすさを得るためには,例えば薄明視レベルでは,約10倍の照度が必要であることがわかった.さらに文字の読みやすさは背景そのものによっても影響され,同じ輝度コントラストでも黒背景より,白背景の方が読みやすいことが分かった.これらの結果および分析から,色文字の読みやすさは,年齢,照度,輝度コントラスト(明所視輝度又は暗所視輝度),さらに背景色が大きく影響し,これらの要因によって読めるために必要な文字サイズが決まることが明らかとなった.
著者
伊藤 久美子
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.3-15, 2004-03-01
被引用文献数
16

色彩感情の観点から、2色配色の配色効果を追究した。ファッション関係で使われる10尺度について、各10色相から、同一色相配色を系統的に選び、合計70配色について、OsgoodのSD法を用いて、41名の女子短大生に配色効果を評価させ検討した。大山の用いた多重回帰分析法を、9尺度の配色効果の分析に適用した。全般的に、決定係数は大きく、その回帰式はよく適合した。配色の評価は、単色の評価に大きく依存した。「調和」尺度については、明度差1〜3と彩度差2〜8を共に満たす配色が、ほぼよい調和であると評価された。色相環のうち、寒色の青を中心とした色相で調和しやすく、暖色の橙を中心とした色相で調和しにくいことがわかった。
著者
高橋 晋也 羽成 隆司
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.14-23, 2005-03-01
被引用文献数
10

色嗜好を心理学的に位置付け、明らかにするためには、「何色が好まれるか」といった色視点の研究だけでなく、「どのように色を捉えるか」といった人視点の研究が必要である。本研究では、色嗜好における人(主体)要因の重要性を示すことを目的として、認知的操作の有無による個人内の色嗜好の変動性を分析した。260名の被験者に対し、4週間を挟み2度の色嗜好調査を実施した。色嗜好の測定は、色名で呈示される12色に対し、visual analog scale (VAS)上でそれぞれの好嫌度を答えさせる方法で行った。2度目の調査時に被験者は2群に分けられ、統制群は1度目と同じ色嗜好調査を繰り返したが、実験群の被験者に対しては色嗜好調査の前に、特定の色の好嫌を強く意識させるという認知課題が与えられた。2度の調査間における色嗜好の個人内変動を群間で比較したところ、12色に対するVAS評定平均値の変化量や、評定結果の順位相関には差がなかったが、好嫌のばらつきの指標となる標準偏差変化量において有意な群間差が認められ、実験群の方が統制群よりも好嫌のばらつきが増大することが示された。この結果は、認知課題を行った実験群の被験者が、"好き/嫌い"という対立的な認知図式を活性化した状態で12色の評定を行ったためと考えられ、色嗜好表出過程における認知処理の影響の大きさが明らかにされた。また、このような実験群のデータ変動(好嫌のばらつきの増大)は、12色に対する最高評定値の上昇より、むしろ最低評定値の低下として顕著にあらわれており、個々人の"色嗜好スキーマ"における「嫌いな色」の位置付けの重要性が示唆された。これらの実験結果に基づき、色嗜好における主体要因(トップダウン要因)の重要性が議論され、さらに、人視点で色嗜好にアプローチする際の具体的測定手続きとして、従来型の色選択法にはないVAS測定の有効性が主張された。
著者
田辺 弘子 杉本 賢司
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.220-231, 2005-09-01

タージ・マハルは、ムガール帝国時代に5代皇帝シャー・ジャハーンによって建設された霊廟で、1632年から毎日2万人が働き20年の歳月をかけて完成した。この建物はインド・イスラム建築の最高峰のデザインでウッタルプラデシュ州アーグラに位置する。世界遺産のなかでも美しさの点でこれほど抜きん出ている建物はなく、貴石象嵌と赤色砂岩および白大理石を使用した建物は、皇帝の王妃であるムムターズ・マハルのために建造された。国の財力を注ぎ込みすぎた王は、幽閉され亡くなったのちに王妃とともにタージ・マハル廟に祭られた経緯をもつ。皇帝は、タージ・マハル廟が完成後にヤムナ川を挟んだ対岸まで橋をかけ、自分のために同じ形の霊廟を黒大理石で造り二つの霊廟を橋でつなぐ壮大な計画をもっていた。本研究はタージ・マハル廟の白色大理石、赤色砂岩、宝石象嵌、ラコウリー・イートン煉瓦、白色目地などタージ・マハル廟の古代建築と色彩について検討したものである。さらに、この結果を踏まえて、新たに大理石を変色させない高度な吸水切断法を世界に先駆けて確立し、複雑な象嵌を高出力レーザーでつくり巨大な壁画を制作した。