著者
武田 和義
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.75-88, 1989-03-01
被引用文献数
1

くびれ米を発生し易いL-45×アキミノリのF_2集団を青森から沖縄に至る14の地域で栽培したところ,くびれ米歩合の集団平均値は1.5〜58.3%の変異を示し,各地域における豊熟初期の温度と密接な負の相関々係にあった.このF_2集団と後代のF_9系統群を平均20℃の制御環境下で登熟させたところ,穎(Cl)と子房(Tl)の長さのアンバランス(Tl/Cl)とくびれ米歩合の相関は密接であり,子房の本来の長さが穎に比べて長すぎることによって,くびれ米が発生するとみられた.その後代の固定系統を様々な環境で栽培したところ,Tlが豊熟初期の温度と密接な負の関係にある反面,Clは出穂後の温度の影響を受けないために,Tl/Clが豊熟初期の温度によって変動し,それに伴ってくびれ米歩合が変化するという環境的な因果関係が明らかにされた.
著者
下間 実
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.235-240, 1963-12-25
被引用文献数
1

スイカの果実および種子の砂質の遺伝現象を栽培種の1品種,地大和(V.No.1)とアフリカ原産の野生型の2系統(V.No.3および5)に一ついて調べた。 野生スイカの果皮には縞模様があり,果肉は白色で苦味物質を含むもの(V.No.3)と含まないもの(Y.Nc,5)があり,種子は白色(V.No.3)あるいは褐色(V.No.5)で大型である。地大和の果皮は縞がたく、果肉は赤色で甘味をもち,種子は褐色で中型である。これらのF_1雑種の果実は結果皮で果肉は白色,種子は褐色,中型で,苦味×無味(または甘味)は苦味,無味×甘味は無味である。果実の大きさおよびおもさに関してはF_1雑種は両親のほぼ中間型である。F_2では果皮の模様は縞(49)と無縞(24),果肉の苦味形質は苦味(47)と無苦味(17),種子の大きさは中型(77)と大型(24)に一分離し,分離比はいずれも3:1でそれぞれ前者が後着に対して優性でメンデル性1因子遺伝をする。果肉色はF_2において白(62),黄(10)および赤(2)の3色に分離し,その分離比は12:3:1である。果肉色の遺伝は2因子が関与し,白色はWY,黄色はwY赤色はwyによって表わされ,WはYに対して上位に働く。
著者
鈴木 洋 山縣 弘忠
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.161-169, 1980-06-01
被引用文献数
1

育種上の観点より,アイリス種子にみられる難発芽性の原因を明らかにし,発芽促進の方法を知るため,キショウブの成熟種子を供試し,発芽環境条件の制御たらびに種皮の除去,溶脱あるいは胚乳の一部切除などの予措を行なって発芽試験を実施した。その結果,内種皮ないし内種皮と胚乳の問に存在する油脂様物質による胚のガス交換の阻害が難発芽性の主要因であること,外種皮除去後クレンザーやキシレンで洗浄すると著しく発芽が促進されることなどが明らかにされた。
著者
斎藤 彰 矢野 昌裕 岸本 直己 中川原 捷洋 吉村 淳 斎藤 浩二 久原 哲 鵜飼 保雄 河瀬 真琴 長峰 司 吉村 智美 出田 収 大沢 良 早野 由里子 岩田 伸夫 杉浦 巳代治
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.665-670, 1991-12-01
被引用文献数
23 92

Restriction Fragment Length Polymorphism(RFLP)法を用いて,主にインド型イネ,Kasalathと日本型イネ,遺伝子標識系統FL134の間でRFLPを示すDNA断片を検索し両品種を親とするF_2集団144個体の分離調査から,遺伝子連鎖地図を作成した.この地図の全長は1,836cMであり,従来の形態,生理-生化学的遺伝子地図(木下1990)及びこれまでに発表されているRFLP地図(McCOUCH et al1988)よりそれぞれ58.5%および32.2%長い.従って,これらのRFLP・DNAマーカーを用いてすでにマップされている遺伝子や末だマップされていない遺伝子を今後効率的に,正確にマップできると推定された.
著者
塚田 義弘 喜多村 啓介 原田 久也 海妻 矩彦
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.390-400, 1986-12-01
被引用文献数
6

ダイズ種子貯蔵タンパク質には,β-コングリシニンとグリシニンの2つの主要成分が含まれ,その食品化学即および物理化学的性質が広く研究されている.しかし,他の豆類の貯蔵タンパク質に比べ,ダイズの貯蔵タンバク質サブユニットの遺伝様式や連鎖関係に関しては,あまり知られていない。 本研究は,この2主要貯蔵タンパク質サブユニット変異を探索し,見い出された変異の遺伝様式とそれらの遺伝子座間の連鎖関係を明らかにしようとした.ダイズ850品種・系統を,β-コングリシニンとグリシニンの変異を探索するために,それぞれSDS-ゲル電気泳動とアルカリ側尿素系電気泳動で分析Lた・その結果,β-コンクリシニンのαサブユニットに2つの変異が見い出された・すなわち,SDS-ゲル電気泳動で電気泳動移動度(以下,単に移動度)が従来のαサブユニットの移動度よりもわずかに遅いバンドを示すタイプ(α-slow-type)と,αサブユニット生産量が低下したタイプ(α-1ow-type)である.これらの変異は,単一座の共優性対立遺伝子によることが示され,従来のαサブユニットの生産を支配する遺伝子およびそれよりも移動度の遅いαサブユニットの生産を支配する遺伝子をそれぞれCgy2aとCgy2bの遺伝子記号で表わした.また,β-コングリシニンは3つの主要サブユニット(α,α'およびβ)から成るとされていたが,βサブユニットよりも移動度カミ連いもう一本の主要バンドを有する変異体が見い出され,この変異バンドをβ'サブユニットと命名した.このβ'サブユニットの存在は,単一慶性遺伝子(Cgy3)に支配され,この遺1公子の劣性ホモ(cgy3ccgy3)によりβ'サブユニットの欠失を生じることが示された.
著者
河瀬 真琴 阪本 寧男
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-9, 1987-03-01
被引用文献数
1

ユーラシア各地から収集されたアワ83系統を供試系統(=)に選び,日本,台湾の蘭嶼,ベルギーの3系統をそれぞれテスターA,B,C(=)として交配した.交配にはピンセット乃至は吸入ポンプを用いて効率的に除雄を行たうことができた.試みた249組み合わせのうち224組み合わにおいて系統間雑種を得ることができ,その雑種第一代および供試系統の自殖個体の花粉稔性と種子稔性を調査した.雑種第一代の花粉稔性は8.2%から99,1%まで観察され様々た程度の不稔性が見られたが,同じ交配組み合わせから得られた雑種の個体間では不稔性の程度に欠きた差はなく,その不稔性の出現は遺伝的たものと考えられる.ほとんどすべての供試系統自殖個体の花粉稔性が75%以上であることから,雑種の花粉稔性においても暫定的に75%以上をもって正常と判定した.3種類すべてのテスターとの雑種を得ることのできた62系統はその花粉不稔性にもとづいて6種類の型に分類することができた.テスターA,B,Cのうち,特定のひとつのテスターとの雑種だけが正常な花粉稔性を示す系統をそれぞれA型,B型,C型と分類した.また,テスターAとの雑種もテスターCとの雑種も正常な花粉稔性を示す系統はAC型,テスターBとの雑種もテスターCとの雑種も正常なものはBC型と分類した、どのテスターとの雑種も正常な花粉稔性を示さない系統はX型と分類した.AB型あるいはABC型と分類されるようた系統は見い出されなかった.種子の不稔性にも同様の傾向が認められたが,不明瞭であり花粉不稔性の方が系統間の遺伝的分化をより直接的に反映していると考えられる.分類された冬型はそれぞれ特異的た地理的分布を示した.A型は日本,韓国,中国の系統に高い頻度で見られ,これらの地域のアワが互いに緊密な関係にあることが示唆された、B型は台湾本島山間部と日本の南西諸島の系統に,C型は特にヨーロッパの系統に,それぞれ集中して見い出された。遺伝的により未分化た段階にあると考えられるAC型とBC型の系統はそれぞれアフガニスタンとインドに分布している.X型の系統は台湾の蘭嶼やフィリピンのバタン諸島に集中して見られたほか各地に点在しており,さらにいくつかの型に分類できるかもしれない.このように冬型の分布は明瞭た地理的独白性を示し,各地域に特異的な地方品種群が成立していることが明らかとなった.冬型の地理的分布と穎果のフェノール着色反応性やエステラーゼ・アイソザイムの分布との間にいくつかの対応関係が見い出された、また,台湾から南西諸島へアワの導入された可能性がフェノール着色性の系統の分布から示唆されていたが両地域におけるB型系統の分布はそれを裏付けるものである.遺伝的により未分化と考えられるAC型とBC型の分布はアワの起原を考えるうえで非常に重要である、すたわち,アワがアフガニスタンからインドにかけての地域で起原し,遺伝的に分化しながら東西に伝播していった可能性が示唆される.この可能性はアフガニスタンの系統が草丈カミ低くきわめて旺盛に分けつし小型の穂をもっといった原始的特徴を示すこととも一致している.
著者
森島 啓子
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.265-274, 1975-10-31
被引用文献数
1

ダリスグラスはアポミクシスを行う多年草で,わが国には牧草として導入される以前から雑草として定着している。本実験はこの種の持つ雑草性,すなわち撹乱環境に対する適応性の機構を知るために行なったものである。熊本・宮崎・静岡の各県で採集した20の自生集団を用いて,1)各種形質の変異,2)ふみつけ反応性,3)スズメノヒエおよびメヒシバとの競争を調査した。得られた主な結果は次のとおりである。 有性生殖する他の種に比べて遺伝的変異は著しく少なかった。しかし集団間および集団内に遺伝的変異が存在することが確められた。さらに,各地区の分布中心の集団より周辺の集団の方が遺伝的変異を多く含む傾向が見出された。このことはまれに起る有性生殖によって遺伝的変異を増した集団が新しい生育地に移住したことを示唆する。また,ふみつけに対する抵抗性を持つこと,表現型可変性が大きいこと,他種が占有している場所では幼植物は死亡しやすいが,混みあっていない場所では旺盛に生長し他種に勝つことなどが明らかになった。 ダリスグラスの雑草性は,ストレス抵抗性,競争力,大きい表現型可変性,無性的な種子による移住力に基づいているのであろう。その雑草性を発現する遺伝子型はアポミクシスによってそのまま繁殖すると考えれる。
著者
関山 太 山県 弘忠
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.p146-151, 1976-06

水稲パーオキシダーゼザイモグラムの器官特異性を検出する目的で,4種類のポリアクリルアミドゲル電気泳動法を比較検討した。このうち垂直カラムによる焦点電気泳動法が優れていたが,市販の泳動分析装置てばアイソエンザイムの分離が不十分であった。そこで著者らは新しくユニット式ポリアクリルアミドゲルカラム電気泳動装置(U-タイプ)を作製した。U-タイプは6本のゲルカラム用ガラス管,これらガラス管を支える上下2枚の支持板,上部および下部電極,支持板と上部電極を支える左右2本の支持棒,および泳動距離の調節装置などから成り,外径10mm以下,長さ50〜200m?のガラス管を泳動目的に合わせて選定できること,泳動途中でゲルカラム毎に通電の中断あるいは開始ができること(ユニット配列),さらに泳動に必要な電極液の量が陽極0.25〜0.6ml(カラム直径3〜5mmの場合),陰極20mlと少量でよいことなどの利点を有する。水稲品種銀坊主の第1.3葉令期(第2葉がその全長の約3分の1まで伸長した時期)の植物体を供試し,U-タイプにより直径3mm,長さ150mmのゲルカラムを用いて泳動し,多数の明瞭なバンドから成る安定なザイモグラムを得た。これら36種の泳動条件を比較した結果,最適泳動条件は電圧が10V/cm,泳動時間が16〜18時間,電極液濃度が0.8%V/V(P)〜2.2%V/V(T)あるいは1.2%V/V(P)〜3.3%V/V(T)であった。
著者
中川原 捷洋
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.232-238, 1972-08-31
被引用文献数
3

連鎖分析に用いられている日本型の標識系統と外国在来のイネとを交配すると、F_2以降で標識形質の分離が乱れることがしばしば観察される。ここでは、第11連鎖群に属するdl(たれば)、bc(鎌不要)およびch(黄緑葉)の3形質について、その分離のゆがみの現象を調査し、遺伝的機構を明かにした。(1)分離のゆがみの型には、F_2分離世代で劣性個体の頻度が有意に減少するもの(減少分離型)と、有意に増加するもの(増加分離型)との2型が認められた。(2)分離のゆがみを生じる各交雑組合せについて、F_1、F_2およびF_3での遺伝行動の分析から、それが標識とした遺伝子自身の重複、不稔遺伝子との連鎖などによって生じたものでないことが判り、さらに正逆交雑の結果にも差がないことから、細胞質因子によって起るとも考えにくかった。また、F_2種子の発芽、生育は正常であったので種子の淘汰によって生じているのでもない。F_2分離集団内での標識形質の表現は、明瞭に正常個体と区別できる。(3)以上の結果から、授精時に花粉の競争が起ると仮定して、授精力の弱い花粉の遺伝子型をga(配偶体遺伝子)とし、gaが諸標識遺伝子と連鎖するために分離がゆがむとすれば、ここでのすべての現象は説明される。さらに、gaを想定してF_2世代での結果から算出したB_1F_1の理論値は観察結果とよく一致した。このことも配偶体遺伝子の存在を支持する。
著者
斎藤 清 金子 幸雄
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.101-108, 1975-04-30
被引用文献数
1

(1) ボケ類にひろくみられる不結実性を明らかにして今後の育種上の知見をうるために市販品種15点および野生種クサポケを用い,数年にわたってフレーム内で素焼鉢作りとして,花粉および胚のう形成について若干の細胞学的観察をおこなった。 (2)開花時期および茎状のちがいによって供試材料を寒咲型(6点)・春咲型(6点)およびクサボケとその類似型(4)点とに区別し,それぞれの根端における染色体数を調査したが,すべて2n=34の二倍体であることが確認された。 (3)花粉母細胞にあらわれた減数分裂像をみると,IMにおいて17_<II>が規則正しく形成される緋の御旗や東洋錦などがみられた反面,黒光・緋赤寒ぼけ・長寿楽などではかなり混乱した染色体対合が観察され,1価や4価染色体も多く現われていた。つづくIIMにおいても後者のものでは異常な分裂が顕著におこっており,四分子期にも奇形の二〜三分子,さらに五〜九分子にいたるものが散見された。 (4) したがって,開花時の充実花粉粒率も前記の異常分裂の傾向と大むね軌を一にしてあらわれており,黒光や長寿楽ではほとんど健全粒の形成がみられなかった。一方舞妓・浪花錦・長寿梅(白花)のようにきわめて良好な健全粒率を示すものもあったが,それらでも完全な果実の着生がみられなかった。 (5)数点の品種について解剖的に観察された胚のう形成については,一般に開花2日前の完全花で比較的多くの健全な卵装置をもつ胚のうが完成しており,その後受粉受精をうけたか否かは不明であるが,約2週間はそのままの状態で存在し,その後しだいに退化崩壊がはじまり,ついに原胚の発生を示す標本をうることはできなかった。一方,クサポケにおけるわずかの標本では受精によって生じた原胚がしだいに細胞分裂をはじめ,開花後2〜3週間目でようやく小さな棍棒状を呈するものが観察された。 (6) ボケ類に普通にあらわれる不結実の原因として,品種成立の過程にからんでいる雑種性による遺伝的な配偶体および接合体の致死,自家および他家不和合現象の存在,さらに限界的な低温などによる環境的要素などが組みあわされているものと考察された。
著者
江口 恭三 岡 克
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.45-50, 1966-03-25

栽培品種ヒックス・ブロードリーフから葉数の4〜5枚多い低度多葉型個体を選抜し,育成固定をはかったが,固定系統が得られなかったので,その遺伝的原因を研究し,つぎのことを明らかにした。1)低度多葉型個体の自殖次代または通常品種との交雑次代において,普通型個体と多葉型個体とがそれぞれ1:2または1:1の割合に単性遺伝の分離を示した。2)多葉型個体は普通品種より高度の短日性を示す劣性遺伝子をもつヘテロ型であり,劣性ホモ個体は出現しなかった。3)劣性ホモ個体は接合体致死作用により不稔種子と在り枯死しているものと考えられた。4)接合体致死作用は劣性の短日性遺伝子がホモの場合にのみ認められ,両者はきわめて密接な関連をもっていた。
著者
猪俣 伸道
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.295-304, 1977-12-01
被引用文献数
4

Brassica campestrisとBrassica oleraceaの種間交配と株問交配の子房の人工培養において,イースト抽出物とカゼイン酸分解物の効果について検討を行なった。用いた実験材料はそれぞれBrassica campestris L.ssp.pekinesis(Lour.) Olsson栽培品種野崎白菜とBrassica oleracea L.. var. capitata L.栽培品種野崎早生と野崎中生であった。各品種の株間交配と種間交配は除雄後2日目に開花した柱頭上に,当日開花した花粉をかけて行なった。交配後4日目の子房を植物体から切り取り,イースト抽出物とカゼイン酸分解物を添加した種々の培地組成を持つ寒天培地に油え込んだ。試験管に植え込んだ子房は,植え込み後36日目に取り出し,莢の長さを測定した。莢における着粒率と得られた種子の発芽率を求めた。野崎白菜の株間交配では,稔実種子の割合は基本培地,2g/lのイースト抽出物と300mg/lのカゼイン酸分解物を含む培地で良かった。野庵早生と野崎中生(キャベツ)の株間交配では,稔実種子はいずれの培地においても低かった。種間交配の野崎白菜×野崎早生(キャベツ)と野崎白菜×野崎中生(キャベツ)では,雑種種子が得られた。また調査時に未発育の種皮を破って露出Lた種雑胚が茨の中に見られた。子房培養における雑種育成の培養条件は基本培地に300cm/lのカゼイン酸分解物を添加した培地で良かった。また基本培地のみで培養した子房からも雑種胚が得られた。得られた胚の発育状態は"魚雷型"から成熟胚までであった。49個体の胚を更に培養したものから7個体,7粒得た種子から2個体がそれぞれ生育し,雑種を示した。根端における染色体数の調査ではいずれの個体も複半数体(2n=19)を示した。得た雑種の形態はいずれも両親の中間を示した。逆交配の野崎早生(キャベツ)×野崎白菜と野崎中生(キャベツ)×野崎白菜では,雑種種子と未発達の種皮を破って発育した胚はいずれの実験区からも得られなかった。ハクサイキャベツの交配では,今まで用いられてきた雑種育成の方法より高い頻度で雑種が得られたので,子房の人工培養による雑種育成は有効な方法と考えられる。
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.195-200, 1996-06

種苗法第12条4・第1項の規定に基づき登録された品種は農林水産省より告示・通達されている.新しく通達された品種について,種苗課の了解を得てその内容の一部を抜粋して紹介する.なお,農林水産省試験研究機関および指定試験で育成された農林登録品種については本誌上で若干くわしく紹介されているので,ここでは登録番号,作物名:品種名,育成地を記すに止める.記載の順序は登録番号・作物名:品種名,特性の概要,登録者(住所):育成者氏名とし,登録者の住所は公的機関については省略し,その他は各号の初めに現れる場合にのみ記載し,登録者と育成者が一致する場合は登録者のみを記載することとする.六号では平成7年3月9日(第4289号〜4348号)及び平成7年3月15日(第4349号〜4408号)に登録された品種を紹介する
著者
長戸 かおる 箱田 直紀
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.439-444, 1984-12-01

サザンカ,カンツバキ,ハルサザンカ,ツバキのエステラーゼアイソザイムの変異に基づき,種間関係を明らかにした。カンツバキでは,バンド4が高頻度に出現したが,野生サザンカには出現しなかった。サザンカ園芸品種では,海外品種や紅色品種にバンド4の出現が見られたが,白色品種には見られなかった。従って,サザンカ園芸品種の成立には野生サザンカの選抜育種だけでなく,一部には,カンツバキの浸透交雑による関与のあったことが考えられる。 一方,ハルサザンカのザイモグラムの出現頻度分布は,ツバキと大変よく似ていて,ツバキとサザンカの雑種起原であることが確かめられた。しかし,一部にカンツバキの関与を受けたと思われるバンド4を持つ品種が見られた。 このように,一部では,カンツバキとの浸透交雑を通じて,多様なサザンカ園芸品種やハルサザンカの品種が作出されてきた様子が明らかとなった。
著者
森 宏一 木下 俊郎 高橋 萬右衛門
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.49-56, 1981-03-01

インド型品種のSurjamukhiにみられる花青素による葉茎節の一部および節間全面着色は,C-A-P基本遺伝子の各座の上位アレーレの共存下で,優性の分布遺伝子Rin_1が関与して発現される形質であることが明らかとなった。また,Pin_1はPn(葉茎節分布遺伝子)とは独立で,Pl座のアレーレPlおよびPl^wとも異なることが知られた。ただし,Pin_1はPl座と同じ第II連鎖群にあり,Plとは30.9%,lgとは40.0%の組換価を示した。3遺伝子は,lg一Pl一Pin_1の順序に位置すると推定された。これまでインド型では,花青素の稲体着色に係わる多数の遺伝子が知られている。しかし,インド型の花青素着色に係わる遺伝子体系は,著者らが日本型で設定したものと著しく異なり,基本道傍子と分布遺伝子の区別も必ずしも明瞭でない。また,遺伝子の多くはII,VおよびXの各連鎖群に含まれている。今回明らかとなったPin_1は第II連鎖群に一属し,DHULAPPANAVAR(1977.1979)によるPin_<a1>やPin_aとは異なるものと考えられるが,日本型とインド型では連鎖群の異同に不明な点が多いため,文献上からの同定は困難である。Pin_1は日本型×インド型交離から知られたので,両品種群を通じて用いうる新たな標識遺伝子として利用できよう。
著者
北野 英巳 蓬辰 雄三
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.9-18, 1981-03-01
被引用文献数
2

水稲砧種フジミノリに^<60>C0,γ線を照射して育成した半矮性突然変異品種レイメイおよび優性突然変異系統ふ系71号を用いて,優性遺伝子の形質発現と生育温度の関係について原品種との比較検討を行った。1977年,これら3品種(系統)を人工気象室において3温度区(高温区;昼間30.C一夜間25℃,中温区;23℃一18℃,低温区;16℃一12℃)を設け,さらに各温度区にそれぞれ3段階の施肥量区(基肥区,1回追肥区,2回追肥区)を設けて栽培を行った。その結果,施肥効果に関しては品種(系統)問で特異的な反応は認められたかったが,生育温度に関しては3系71号が明らかに他の2品種と異った反応を示した。すなわち,フジミノリおよびレイメイは,本実験で用いた温度範囲において,高温になるにしたがって稈の伸長が促進されたのに対し,ふ系71号は,中温区より高温区で短稈化した。また温度の低下に伴って相対的に原品種フジミノリの生長に近づく傾向を示した。1978年,ふ系71号およびフジミノリを用いてきわめて高い温度条件下(45℃一30℃)で処理を行った結果,高温による稈の伸長抑制の効果は両品種(系統)ともに認められたが,ふ系71号でより顕著であった。さらに,このようなきわめて高い温度処理条件下では,穂の伸長も強く抑制され,かなりの不出穂個体が出現した。また生育温度の違いにより両品種(系統)における稈の節間比も大きく変動した。一般に,高温下では上部伸長型を,低温下では下部伸長型の節間比を示し,この傾向はフジミノリよりふ系71号において顕著であった。稈長および穂長以外の他の形質に関しては,ふ系71号と他の品種の問に顕著な温度反応に関する差異は認められなかった。以上の結果から,ふ系71号の矮性遺伝子による稈の伸長抑制作用は高温条件下で強くあらわれ,低温条件下ではほとんどあらわれなくなることを認め,そしてそれにより稈程の伸長に関して他の品種とは異った特異的な温度反応を示すことを明らかにした。
著者
加藤 正弘 上堂 秀一郎 田中 孝
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.475-484, 1990-12-01
被引用文献数
2

自然複二倍体のアビシニアガラシ(Brassica carinata BRAUN 2n=34)にブロッコリー(B.oleracea L.var.italica PLENCK 2n=18)を連続戻し交配して,B_2世代においてB. carinata細胞質を持つ2n=18を作出した.このB. carinata細胞質を持つB_2個体と正常細胞質のブロッコリーとの間で正逆交雑を行い,B. carinata細胞質がブロッコリーに及ぼす影響を調査した.連続戻し交配過程における種子稔性は,染色体数が2n=18に近づくにつれ指数関数的に高くなった.またその過程に現われた花形の変化および雄性不稔性はブロッコリーとの正逆交雑からBrassica carinata細胞質の影響と推定された.両細胞質系統を比較した結果,B. carinata細胞質の個体は正常細胞質の個体よつ,光合成速度,クロロフィル含量などが低下していることが確認された.さらに,寒波による低温(-5〜-6℃,約8時間)に遭遇し,甚だしい寒害が認められ,Cゲノム種がもつ耐寒性の核内遺伝子は異質細胞質のもとでは充分機能し得ないことが分かった.
著者
新城 長有 大村 武
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.226-230, 1962-12-25

10品種の交配不和合性分析品種と,不和合群未知の106品種の間に正逆交配を行たい,柱頭上における花粉の発芽によって,供試品種の所属不和合群を明らかにした。1)106品種のうちA,B,C群にはそれぞれ39,44,18品種が属したが,D群に所属する品種はみられなかった。残余の5品種,すなわち導入5号,護国X七福,スブラン,台農27号および山城は10分析品種とはいずれも交配和合性を示し,上記4不和合群とは別辞であることが判明した。2)供試品種のうち7品種を除いては自家不和合性であった。3)藤瀬ら(1950)のr甘藷品種の不稔群目録」に未記載の品種66・町名で不和合群または形態的特性の異なるもの13品種を確認した。したがって,品種の特性を再調査し,整理したければ育種操作に支障をきだすことを指摘した。
著者
滝田 正
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.171-176, 1982-06-01
被引用文献数
2

自然日長が,作期移動による我が国の水稲品種の出穂期変動に及ぼす影響を明らかにする目的で2つの実験を行なった。早晩性を異にする感光性の高い5品種(ニホンマサリ,峰光,日本晴,中生新千本,黄金錦)に短日処理をした。この結果,7月20日頃に相当する日長(薄明と薄暮の各15分を加えて14時間45分)または8月10日頃に相当する日長(同じく14時間15分)は,夏至(同じく15時間5分)期の自然日長に比較し,出穂を促進させた。つぎに25℃の定温にした人工気象箱を用い,2月から9月まで播種期を移動させて,早晩生を異にする別の5品種(トヨニシキ,喜峰,ニホンマサリ,日本晴,中生新千本)への自然日長の影響を調べた。日長への感応度を調べるために花芽分化期(出穂30日前)における単位日長時間当りの出穂遅延度を調べた。この値の最大となる日長は,通常の栽培で花芽分化期と推定される7月1日頃から8月1日頃の日長であった。また到穂日数は,花芽分化期の日長が4月上旬以前の日長である場合は極端に短縮し,4月下旬以後の日長である場合は通常の栽培条件下の到穂日数に近かった。4月中旬は,短日から長日への移行点に当っており,この時期に花芽分化に入った感光性の高い品種は極端な出穂不揃いを示した。この理由として,短日効果が不十分なため同一株内に花芽分化した茎と花芽分化には至らなかった茎が生じたためと考察した。また4月に播種し屋外で生育させた場合は,長日条件の他に生育初期の低温により出穂が遅延した。 以上の結果から作期移動による出穂期変動は,夏至後の日長の変化によって大きく影響されると結論した。