著者
明土 真也
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.65-74, 2011-07-31 (Released:2017-08-31)
参考文献数
30

音は記号であり、様々な事物を示し、種々の事象を誘引する。このような性質を「音の記号性」と呼ぶ。聴取音は、原音、音源、意味を示し、心理、生理、活動を誘引し、これらが多面的に作用して、時間や価値等の指示も行う。これに従い、本論文では、サウンドスケープ"場"を「音の記号性が作用する"場"」と定義する。サウンドスケープ"場"の構成要素は、空間及び場所、音源、外界の音、聴取者、触媒、音の記号性が聴取者に作用した結果である。触媒とは、空間及び場所、音源、音、聴取者以外に、音の記号性に影響を及ぼす事物である。また、サウンドスケープ・デザインとは、「サウンドスケープ"場"及びこれと交わりを持つ"場"のデザイン」である。そして、その目的は、記号性の最適化であり、直接のデザインの対象は、空間及び場所、音源、聴取者、触媒である。
著者
張 英裕 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.63-72, 2001-11-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
27

「剪黏」とは、割れた茶碗の破片や色ガラスなどを利用して必要な形に刻み、作品の表面に一つ一つ丁寧に貼ることによって制作される、寺廟建築の屋根装飾である。本稿では、文献調査ならびに中国南部沿岸地域および台湾における現地調査に基き、「剪黏」の起源・変遷・制作過程について考察した。その結果、次の諸点を明らかにした。(1)中国大陸における「剪黏」は、南部沿岸の泉州地域において、清時代1700年前後に生誕したと思われる。また、ほぼ同時代に、その制作方法が台湾に伝えられた。(2)「剪黏」制作の主たる素材は、かつては茶碗や花瓶などの破片であったが、最近では、専用陶片が使用されるようになっている。専用陶片の出現は、「剪(切る)」と「黏(貼る)」からなる本来の「剪黏」造形における「剪(切る)」の作業を不要にし、職人の即興的創作性を喪失させた。この傾向は、台湾において著しい。(3)「剪黏」の主たる制作過程は、針金による原形制作、筋肉材の原形への付着、外観材の粘着に分けられる。
著者
李 卓 中野 豪雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_31-1_40, 2023-07-31 (Released:2023-08-03)
参考文献数
37

「内景図」という人体図像が,中国に古代より伝わる多領域の印刷物に掲載されてきた。本稿は,現存する印刷物にある「内景図」を中心に,版式や図像要素の変化を分析することにより,「内景図」の視覚伝達デザインの特徴を検討したものである。古代の印刷物における「内景図」の変遷,印刷文化の背景,「内景図」に関連する印刷物の紙面的特徴を探究することにより,以下の諸点を明らかにした。(1)「内景図」は印刷文化の発展とともに,最初に道教の書物に掲載され,医学の書物と日用類書に普及した。(2)現存する「内景図」を載せた書物には,4つの版式が存在することを明確化した。なお,「内景図」が木版の半分即ち書物の1ページを占める掲載の版式が最も頻度が高い。(3)「内景図」を構成する情報要素は,文字,象徴記号,具象的な図像に分類される。道教の書物における「内景図」の図像要素が最も複雑であり,医学の書物と日用類書における「内景図」の図像要素は次第に簡略化されていった。
著者
髙城 光
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_1-1_10, 2023-07-31 (Released:2023-08-03)
参考文献数
39

本稿は,列国金文書体の一つである蔡侯盤書体の字形と書き手の書きぶり(身体の動き)の関係の考察である。 字形と書きぶりの相関は書芸術と書体デザインの両方において重要である。書芸術においては書き手の唯一性が書きぶりを通して文字に表れるとされ,字形のばらつきも尊重される。一方,書体デザインにおいては用筆や書きぶりは書き手個人と区別され,字形のばらつきを抑えながら書体の様式を解釈・表現するための手がかりである。書体デザイナーたちは一般的な用筆と書きぶりをイメージしながら書体を共同制作する。 蔡侯盤書体は用筆法の成立以前の書体であるため,書き手たちは用筆法から様式を解釈することができない。用筆に代わる手がかりを考察するため,拓本資料のトレースによって字形の書きぶりを観察した。結果,蔡侯盤書体においては手の自然な握り込みにともなう規則的な動きが,様式を解釈し書きぶりを統一するガイドとしてはたらいている可能性があることを確認した。
著者
内藤 郁夫 昇 愛子 車 政弘
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.19-28, 2004-07-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
35

庄内地方(鶴岡と酒田)・会津若松市・長岡市は絵蝋燭の産地として知られている。これらの地域で絵蝋燭業者や技術者に聞き取り調査を行い、伝統的絵蝋燭の図案を中心にその歴史や製造における特徴や利用法を研究した。絵蝋燭は18世紀中頃に庄内地方と会津で開発された。会津若松には3つの絵蝋燭のタイプがあった。一つは、牡丹や菊の絵が描かれた日本画タイプ、一つは、筆・笥・巻物の形に似せた細工蝋燭、あと一つは蒔絵タイプである。庄内の伝統絵蝋燭は御所車の図柄で代表される日本画タイプである。ー方長岡の絵蝋燭は会津若松より伝播したといわれ、牡丹・菊・甕・台の図柄で特徴すけられる。この中で、甕と台は会津若松で忘れられた図柄である。いずれの産地の伝統的絵柄は花篭模様が多<、磁器の影響が示唆される。これらの地域では、江戸時代より仏事に絵蝋燭が使用される。これが絵蝋燭製造の統いた理由である。
著者
高 瑞禎 釜池 光夫
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.29-38, 2004-05-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
23

台湾は何故、スクーターが特異に普及していているのであろうか。本研究の目的は、台湾におけるスクーターの利用実態を明らかにし、その要因を考察することにある。はじめに、スクーターの推移に関する文献調査を行い、産業保護政策が大きな影響を与えたことが明らかになった。さらに、使用状況の観察・インタビュー調査を行い、普及要因と思われる項目を整理した。この要因項目をベースに、台湾の代表的都市である高雄市において利用実態調査を実施した。アンケートデータおよび各要因項目間の関係性を分析し、考察を行った。その結果、国民所得の増加、通勤労働者の急増を背景とする人の生活の変化、スクーターの軽便性、経済性などの製品特性、公共交通機関の衰退、約10kmを範囲とする都市の地理条件、温暖な気象など環境要素が主な普及の要因であることがわかった。台湾は、「ひと-もの-環境」に係わる要因の相乗効果から発展、普及したことがあきらかとなった。
著者
増成 和敏 石村 眞一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.33-42, 2009-07-31 (Released:2017-06-29)
参考文献数
21
被引用文献数
2

本論は,家具調テレビのデザイン成立過程を明らかにすることを目的として,テレビ受像機「嵯峨」に関し,主として文献史料調査より,以下の内容を明らかにした。1)広告記述で使用された「家具調」の表現が「家具調テレビ」のデザインを誘発する要因のひとつとなった。2)家具調の意味は,使われ始めた当初,和風,日本調と必ずしも一致するものではなかった。3)「嵯峨」は,特徴的なデザインと和風ネーミングの大量広告により,家具調テレビの典型となった。4)「嵯峨」の特徴は,張り出した天板,スピーカーグリル桟,本体と一体感のある脚,天然木の木質感表現である。5)「嵯峨」は,シリーズ展開されており,初代「嵯峨」とは差別化された多様なデザインが展開されている。
著者
鵜飼 達彦 長尾 徹 永田 喬 釜池 光夫
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.111-120, 2002-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
12
被引用文献数
5

鉄道路線図は、公共性の高さにも関わらず、公的な基準がなく、路線図デザインの先行研究も少ない。本論は鉄道路線図デザインの基本となる路線網の普遍的な位相図化における路線結節部の駅シンボル表記方法の確立を目的とした。本論におけるシンボル単体の図形記憶実験と路線図上での記憶実験から路線図の記憶に関して駅表記方法の影響はないことが判明した。また結節駅に求められる要素を含んだ6種の表記方法の検索実験の結果にも差がみられなかったことから、路線図の記憶・検索性は位相図としての形状が適切であれば良いことが確認された。つまり、駅に必要な情報が含まれていればデザイナーの裁量で形状を決定しても差し支えないと言うことである。次に「親しみやすい」「美しい」を評価項目として結節駅に求められる情報を含んだサンプルに対し一対比較を行い、真円表記で路線の位置関係が示されている形式が最適な表記法であることが判明した。
著者
高橋 紀哉 原田 利宣 吉本 富士市
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.5_27-5_36, 2002-01-31 (Released:2017-11-08)
参考文献数
11

自動車のフロントマスクデザインは,ヘッドランプのことを'目'といったり,エアインテーク形状のことを'口'というように,よく人の顔に例えられる.つまり,自動車のフロントマスクと人の顔の認知においては,何らかの類似関係があるという仮説をたてた. そこで,本研究ではイメージという視点から自動車のフロントマスクや人の顔の形態要素間の類似関係を明らかにすることを目的とした.具体的には,主成分分析,クラスター分析を用いて自動車のフロントマスクと人の顔を4つのクラスターに分類を行い,また,古屋らの研究(1993)における誇張画作成の考え方を応用し,各クラスターにおける誇張画の特徴を考察した.その結果,各クラスター内の自動車のフロントマスクと人の顔との間には,一致する形態的特徴が数多く存在することが明らかとなった.
著者
楊 寧 須長 正治 藤 紀里子 伊原 久裕
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.2_19-2_28, 2019-09-30 (Released:2019-12-25)
参考文献数
9

本研究では,小画面ディスプレイ,特にApple Watchを想定し,その画面表示環境下にて,日本語フォントの可読性と判別性を測定した。さらに,フォントの形態属性および差分についても調査を行い,小画面表示に適した読みやすく見やすいフォントの属性を探った。可読性に関しては,短文,連続文(大),連続文(小)の3つの提示条件ともに,濃度と字面面積の大きさから影響を受けていることがわかった。ただし,白背景か黒背景かによって,字面面積と濃度の直接影響の有無はまちまちであった。判別性に関しては,混同しやすい文字対を選定し,文字対を特定できる実験方法を用いて実験を行った。その結果,各フォントの特定の文字対の判別性を確認できた。また,差分分析を行った結果,ひらがなより,カタカナや英数字のような単純な文字対については,差分からの影響が明確であり,特定の文字対の字形の特徴も確認できた。
著者
田中 遵 石田 憲 強矢 大輔 日高 單也
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.2_19-2_28, 2012 (Released:2012-09-20)
参考文献数
20

東京都品川区荏原地区の街区公園には,既存の遊戯施設以外に,家庭で使用されなくなったおもちゃが地域住民によって設置され再利用されることで,こどもの視点で遊び場が形成された東中延公園・二葉公園・旗の台なか公園がある。本研究では,この3つの公園とその周辺の街区公園を調査研究することにより,大人の視点で作られた為にこども達が創造的に遊んだり学んだりする場としての機能が失われている公園に,どのように地域住民が関与すればこども達や地域住民の為の街区公園になり得るかを探究することを目的とした。調査研究により,街区公園において,おもちゃの設置がこども達を楽しませるだけではなく,親同士,散歩にくるお年寄り,休憩にくる人々にコミュニケーションの場を提供することが明らかになった。今後は,地域住民主体の活動を評価し,それを推進していく新たな指針を策定していくことが重要な課題になると考えられる。
著者
山田 浩子 原田 利宣 吉本 富士市
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1-8, 2003-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
3

今日,ゲームやアニメ作品等に登場する2次元(2D)キャラクターが3次元(3D)CG化や立体造形(以下、フィギア)される傾向にある。また,アニメ等の作品自体の人気をも左右するキャラクターデザインは,今後益々重要になると考えた。そこで,本研究ではフィギア,日本人形,およびリカちゃん人形の顔の造形にはどのような相違があり,また人の顔と比較することによりどのように人の顔を抽象化しているかを明らかにすることを目的とした。まず、人や人形の顔の形状を3次元計測し,顔の曲面を構成するキーラインとして顔の特徴点における断面線7箇所を抽出した。次に,それらにおける曲率半径とその変化の仕方の分析結果と,高速フーリエ変換による曲率半径の周波数分析からそれぞれの顔の特徴分析を行った。また,その解析結果を人形の顔作りに応用し,評価を行った。その結果,それぞれの人形の特徴を作り分けることができ,その指針の有用性を確認した。
著者
長尾 幸郎 大井 美喜江
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.3_41-3_50, 2023-01-31 (Released:2023-02-15)
参考文献数
27

研究目的は、デザイン思考(Design Thinking)に関して学術分野でこれまでどのような研究テーマが展開されてきたかの変遷を時系列で分析し、全体像を捉えることにある。Web of Scienceに収録された学術論文の書誌情報を対象に、ネットワーク分析を用いてクラスタリングを行い、1,986本の論文から16のクラスターおよび各クラスターの中心論文を特定しながら考察を深めた。論文は3分野に分かれる。第一は理論体系化研究である。1991年から2003年までの主要な研究は工業デザインのデザインプロセスに関する理論研究であった。その後も研究が継続的に行われ今日ではデザイン思考によるプロジェクトの評価についての研究もおこなわれるようになってきている。第二に、教育分野への活用を試みる研究が2004年から始まった。2015年以降はより幅広い分野で創造性を育むためにデザイン思考の研究が活発に行われている。第三に、ビジネス分野への活用が2004年から始まり、様々な業種での研究が拡がり最も論文数の多い分野となっている。今日では組織研究、医療業界関連の研究が急増し、サステナビリティ、政策立案へ適用する動きも論文数はまだ少ないが徐々に増加してきている。
著者
松岡 由幸 庭野 敦也 森田 敦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.65-72, 2001-01-31 (Released:2017-07-21)
参考文献数
14
被引用文献数
3

座り心地の向上を目的として, 尻滑り力を防止するシートスウィング機構が注目されている.しかしながら, この尻滑り力防止に関する力学的解明がなされていないため, シートスウィング機構は的確な設計が行われておらず, その機能が十分に発揮されていない.そこで, 本研究では, 人体モデルを用いて力学シミュレーションを行い, 導出した設計解をもとにシートスウィング機構の設計を行うことを目的とする.本研究では, まず, 人間工学的, 解剖学的な見地から人体モデルを構築した.つぎに, そのモデルを用いて尻滑り力の推定式を立て, 尻滑り力の力学シミュレーションを実行することで最適なバックアングルとクッションアングルの関係を導出した.その結果, バックアングルが45°付近でクッションアングルが最大値をとる尻滑り防止曲線を導出した.さらに, 導出した尻滑り防止曲線をもとに, シートスウィング機構に対する各構成要素の仕様を決定し, 同機構の設計を行った.
著者
李 煕周 植田 憲 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.1-10, 2007-01-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
65
被引用文献数
1

「閨房歌辭」は、朝鮮時代後期の女性たちが日々の暮らしを綴つたものである。本稿では、「閨房歌辭」にみられる「針仕事:バヌジル」の観察を通して朝鮮時代後期の「針仕事文化」の特性を考察し、次の諸点を明らかにした。(1)「針仕事」は、女性が16歳までに習得しなければならない大切な徳目として位置づけられていた。そして、一着の衣服をつくれることが一人前の成人女性としての証そのものとされた。(2)「針仕事」を通して、母と娘は、技術伝承だけでなく、女性に対する厳しい社会環境を共に越えようとする連帯性を培った。(3)「針仕事」は、女性自身の存在を表現する手段のひとつであった。また、「針仕事」の仕上がり具合が、女性の存在を社会的に認証する礎となっていた。(4)結婚生活は辛い家事労働の集積そのものであった。女性は、夜を徹して、「針仕事」を中心とする家事労働を貫徹した。(5)女性は、「針」と自分自身とを同等化することによって、辛い家事労働を乗り越えようとした。また、このような志向は、針仕事が韓国女性の生活そのものであったことを示している。
著者
山中 敏正
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.73, pp.111-116, 1989-05-15 (Released:2017-07-25)

本研究では,カメラのデザインをおこなう際に参照する基本的な要件を整理し,その体系的な把握のためにグラフ理論を応用し,構造的な分析を行った。1)グラフ理論を現実のデザインの場に持ち込む際に障害となるいくつかの問題点のうち,階層化と構造化の難しさを,「変形骨格行列」と「構造行列」を導入することにより容易にした。その結果,視覚的であり直感的に理解しやすく,デザイナーにとってなじみやすいという構造モデルの特徴の応用性を高める可能性が見いだせた。2)デザインを行う際のチェックリストの構造を最適化して表現することが可能であったばかりでなく,調査解析のプロセスにデザイナー自身が参加することが出来るため,デザイン要件を実感として構造的に意識するために効果的であることが判明した。
著者
寺内 文雄 大釜 敏正 増山 英太郎 久保 光徳 青木 弘行
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.7-12, 1995-07-31 (Released:2017-07-25)
参考文献数
2
被引用文献数
1

木目模様の方向の嗜好とその背景にある心理的要因を明確にするために,模様の方向の官能評価実験およびイメージの解析を行った。官能評価実験には(1)木目模様の複写,(2)木目模様を連想させる線模様,(3)山形模様の3種類の模様を用い,これらの方向の嗜好を一対比較法によって評価した。評価に寄与する心理的要因はカード間の評価の相関関係と,数量化理論III類によるイメージ構造の解析結果から検討を行った。その結果,木目模様では方向の嗜好が水平・垂直方向に偏り,なかでも上方向と右方向の評価が高いことが確認できた。また,数量化理論III類によって,模様イメージはI)緊張感,II)親近感,III)活動感の3要因で構成されることが明確となった。これらの結果を併せて検討したところ,模様イメージのI)緊張感とII)親近感が木目模様の方向の嗜好に影響を及ぼすことが示唆された。
著者
朱 寧嘉 植田 憲 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1_39-1_48, 2012 (Released:2012-07-11)
参考文献数
34

本稿は、中国・浙江省の嘉興地域において繰り広げられてきた船上生活を取り上げ、前報において導出した「ものづくり」「生活づくり」のデザイン指針である「少物」デザインが、どのように体現されてきたかを明らかにすることを目的としたものである。調査・考察の結果、以下を明らかとした。(1)船上生活をする人びとは、陸上生活者にとっては廃材・端材とみなされるものですら資源と認め、徹底的に使い尽くす知恵を培ってきた。(2)人びとは、きわめて限られた「もの」「空間」「エネルギー」「風水」を、それぞれの特質を見極めつつ、「混用」「多用」「代用」「転用」「愛用」に基づいて循環的に利活用しながら生活を構築してきた。(3)陸上生活者との交流は、陸の民に水環境の存在を身近に引き合わせる貴重な機会を創出する役割を担ってきた。今日の中国において求められている「節約型社会」の構築にとって、きわめて優れた「少物」デザイン要素が認められた。
著者
森下 あおい 中村 顕輔
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.6_53-6_58, 2015-03-31 (Released:2015-07-31)
参考文献数
12

服飾デザイン画に施されるデフォルマシオンを解明するため,実際の作品に描かれた人物像について頭身示数とプロポーションの関係を分析した.装苑賞の候補作品のうち,自然な立位姿勢の人物像が描かれたデザイン画131点を試料とした.デザイナーに試料の人体を推定させて,2次元骨格モデルを適応した.骨格モデルからプロポーションに関する人体寸法13項目を抽出した.頭身数および寸法を分析したところ,(1) 頭身数と各寸法の相関係数が小さいこと(r = 0.01~ 0.41),(2)高さ項目の寸法のばらつき割合(標準偏差/平均)は8.00%~16.68%であり,幅項目に比べて半分程度であること,また(3) 幅項目はばらつきが大きいが,互いに相関が大きいため(r = 0.72~0.87),ひとつのパラメータでひとつのパラメータで概ね説明できることなどが分かった.これらの結果より,試料のプロポーションのデフォルマシオンは頭の大きさおよび身体の幅で基本的に説明できると考えられる.