著者
井元 章 増田 大介 小倉 健 瀧井 道明 梅垣 英次 樋口 和秀
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.835-841, 2013-12-31 (Released:2014-01-23)
参考文献数
27
被引用文献数
2

セフトリアキソン(CTRX)の投与が胆泥形成に関わることは,主に小児を中心に報告され,広く知られている.我々は,細菌性髄膜炎に対するCTRXの高容量・長期間投与により胆石が形成され,投与の中止により自然消失を確認し得た高齢者の2例を経験した.1例は総胆管結石による閉塞性胆管炎を併発したため,内視鏡的ドレナージを要したが,1例は経過観察のみで自然消失を確認し得た.CTRX中止から胆石消失に要した期間はそれぞれ21日間,38日間であり,両者ともそれ以後胆石の再発は認めていない.CTRX投与時には胆泥が形成されやすく,小児だけでなく高齢者にも発症し,時には重症化しうる合併症を併発する可能性のあることを念頭において診療にあたることが必要である.
著者
洞口 淳 藤田 直孝
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.698-702, 2009 (Released:2009-11-27)
参考文献数
18
被引用文献数
2

要旨: USやEUSといった超音波検査は,胆嚢病変の存在診断や質的診断を行う上で重要な検査法の一つである.特にEUSは胆嚢病変の詳細な観察が可能であるため,腫瘍の形態と胆嚢壁層構造の関係から癌の壁深達度診断が可能である.EUSで有茎性の病変であることが確認されれば,深達度は粘膜内にとどまる早期癌と診断できる.一方,病変が広基性の場合には病変部の胆嚢壁の詳細な観察を行い,外側高エコー層に変化が生じているか否かで深達度診断を行う.外側高エコー層に不整がみられる場合には漿膜下浸潤が考えられるが,外側高エコー層に影響のない症例では癌浸潤が粘膜層,粘膜固有筋層,漿膜下層までのいずれの場合も存在するため,鑑別には他のモダリティの併用が必要である.最近ではUSでドプラ法や造影法を用いて腫瘍部の血流解析を行うことで,深達度を診断する試みがなされており,今後EUSでの応用が期待される.
著者
山本 隆久 内田 清久 斉藤 洋一
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.49-60, 1987-06-30 (Released:2012-11-13)
参考文献数
30

ラットに回腸広範囲切除を行い,最長12カ月までの胆汁酸代謝の変化につき検討した.回腸切除により糞中胆汁酸排泄量は増加し,胆汁中胆汁酸分泌量,胆汁酸プールサィズ,胆汁酸の腸肝循環回転数,胆汁酸の吸収効率は低下した,これらの変化は術後4週よりみられ,術後12ヵ月経過しても改善されなかった.肝では回腸切除により,胆汁酸特にCAの生合成が亢進し,CA系胆汁酸:CDCA系胆汁酸の比は術後6ヵ月まで増加した.反転小腸を用いた胆汁酸の吸収実験では,回腸切除後6ヵ月経過しても残存上部小腸に胆汁酸の能動吸収は認められなかった.以上の結果より,回腸広範囲切除により招来された胆汁酸吸収障害は,長期経過後も改善され得ないと結論される.
著者
山下 万平 黒木 保 佐伯 哲 北里 周 三原 裕美 三浦 史郎
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.758-763, 2020

<p>症例は64歳男性,検診の上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚に隆起性病変を指摘された.精査にて粘膜下に限局する10mm大の副乳頭部腫瘍を疑うもEUS下穿刺吸引細胞診で確定診断には至らなかったため,内視鏡的副乳頭部切除術による切除生検を行った.病理組織診にてInsulinoma-associated 1(INSM1)陽性,核分裂像0/10HPF,Ki-67<1%で副乳頭部神経内分泌腫瘍(NET)G1の診断,筋層への浸潤と腫瘍細胞の断端露出を認めたため,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本は断端陰性,No.6,14,17bリンパ節への転移を認めた.副乳頭部NETは腫瘍径が小さくてもリンパ節転移を高率に認めるため,腫瘍径にかかわらず膵頭十二指腸切除術と標準的リンパ節郭清を基本とした術式が妥当である.</p>
著者
中原 一有 片倉 芳樹 奥瀬 千晃 足立 清太郎 中津 智子 高木 麗 伊東 文生
出版者
一般社団法人 日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.107-112, 2011 (Released:2011-06-13)
参考文献数
18
被引用文献数
1

要旨:症例は62歳,63歳,72歳の男性.原疾患は胆管結石2例,慢性膵炎1例といずれも良性疾患の正常胃症例で,ERCP時にスコープによる十二指腸穿孔をきたした.穿孔部位は下行脚が2例,上十二指腸角が1例で,穿孔方向は後腹膜が2例,腹腔内が1例であった.原因はいずれもスコープのストレッチ操作によるものであった.術者はいずれもERCP経験が40件未満であった.2例は穿孔後早期に腹部症状の増悪と腹膜刺激症状の出現を認め外科手術を要したが,後腹膜穿孔の1例は腹部症状が軽微で保存的加療のみで改善した.なお全例軽快退院した.ERCP時のスコープのストレッチ操作で十二指腸穿孔を来す恐れがあり,特に腹腔内穿孔や腹部症状が増悪傾向を示す場合は早急な外科手術による対応を要する.一方,身体所見や血液検査の炎症所見に乏しい後腹膜穿孔では保存的加療のみで改善が得られる場合がある.
著者
田中 穣 小松原 春菜 野口 大介 市川 健 河埜 道夫 近藤 昭信 長沼 達史
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.667-672, 2016-10-31 (Released:2016-11-10)
参考文献数
16
被引用文献数
2

【目的】急性胆嚢炎に対するPTGBD後の腹腔鏡下胆摘術(以下LC)を安全に行うために,PTGBD後LC63例を対象として,その手術難易度の評価を行った.【結果】術前CRP最高値20mg/dl以上やCRP値低下までに長期間を要するもの,USでの胆嚢動脈血流Vmax値(以下Vmax値)30cm/秒以上,CTでの胆嚢壁厚5mm以上,術前PTGBD造影での胆嚢管閉塞,発症からPTGBD挿入までの時間が24時間以上,PTGBD後手術まで14日以上では術中出血量が多かった.【まとめ】急性胆嚢炎において術前の血清CRP値,胆嚢動脈血流Vmax値,PTGBD前のCTにおける胆嚢頚部壁厚,PTGBD造影の胆嚢管閉塞の有無が手術難易度の評価に有用で,発症後24時間以内にPTGBDを行い,14日以上経過してから手術を行うことが,術中出血量の軽減につながると考えられた.
著者
木暮 道夫 今泉 俊秀 増田 浩 松山 秀樹
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.119-124, 2003-07-30 (Released:2012-11-13)
参考文献数
19

60歳男性.以前より,胆嚢にびまん性のコンステローシスを指摘されていた.右上腹部の腫脹・疼痛を主訴に,当院を受診した.腹部エコーにて胆嚢の腫大,壁肥厚に加え,全域にわたる最大径2mm程度の hyperechoic な小隆起性病変を多数認め,胆嚢炎,コレステローシスと診断した.結石やポリープは指摘できなかった.切除標本で胆嚢全域にコレステローシスが見られ,胆嚢は腫大し,壁はやや肥厚していた.胆嚢頸部から胆嚢管にかけての内腔に, 折れ重なるように黄白色のコレステローシスが群生していた. 胆嚢管壁も一部肥厚が見られた.これらのことから,胆嚢管から胆嚢頸部にかけてのコレステローシスにより,胆嚢内の胆汁の流出が妨げられ,胆嚢炎を生じたものと考えられた.胆嚢管,胆嚢頸部のコレステローシスの存在は,コレステロールポリープの脱落・嵌頓例と共に, 胆嚢炎の原因となりうると考えられた.
著者
笹田 雄三 菊山 正隆 仲程 純 大田 悠司 松橋 亨 平井 律子 小出 茂樹
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.534-539, 2007-10-31 (Released:2012-11-13)
参考文献数
15

症例は71歳, 女性. 検診の腹部超音波検査で胆嚢底部に長径2cm の隆起性病変を指摘され,当科を受診した.腹部CT検査では胆嚢の隆起性病変は動脈相で濃染した.超音波内視鏡検査では胆嚢底部の隆起性病変は実質様エコーを呈していた.また,胆嚢壁の構造は保たれていた.以上より,StageIの胆嚢癌と診断し,開腹下に胆嚢摘出術を施行した.病変は亜有茎性の腺癌で,内部に著明なコレステローシスがみられた.本症例は特異な病理所見を呈した胆嚢癌であり,興味深いと考え報告する.
著者
小井戸 一光 向谷 充宏 水口 徹 福井 里佳 木村 康利 信岡 隆幸 平田 公一
出版者
Japan Biliary Association
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.607-613, 2004

胆嚢,総胆管に同時に発生した重複早期胆道癌の1例を報告した.症例は70歳, 女性.当科に入院の2年前から指摘されていた胆嚢壁肥厚が腫瘤様となったため,精査目的に当科入院となった.US,CT,EUSの画像所見から固有筋層にとどまる早期胆嚢癌と診断し手術が施行されたが,術中ゲフリールにて胆嚢管断端陽性のため肝外胆道切除術D2郭清と胆管空腸吻合が施行された.膵・胆管合流異常は認められなかった.病理組織学的に胆嚢体底部と胆嚢管,さらに中部胆管に,それぞれ独立した早期乳頭状腺癌を認めた.胆嚢体底部,胆嚢管と中部胆管病変は,それぞれ大きさが3×1.5cm,0.7×0.5cm,0.2×0.2cmで,胆嚢管と中部胆管病変は画像・肉眼上確認できなかった.これらの病変問に連続性はなかった.胆嚢癌に遭遇した場倉,重複胆道癌を念頭において診断を進める必要がある.
著者
福村 由紀 仲程 純 高瀬 優 齋浦 明夫 石井 重登 伊佐山 浩通
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.89-95, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
23

胆嚢腺筋腫症(以下ADM)はRokitansky-Aschoff sinus(RAS)が増殖し,筋層肥大・壁肥厚を伴う後天性病変で,上皮過形成を伴うことが多い.本稿では,病理学的側面を中心にADMの現在の知見と自験例をまとめた.ADMは病変の広がりによりびまん型,分節型,底部型,混成型に分類されるが,組織形態は基本的に同じである.ADMでは筋層肥大を見るが,RASの底辺に至る筋層増殖は見られない.分節型ではADMの部位よりも底部側で筋層肥大がより高度となることも多く,底部型における中央陥凹部はRASではなく胆嚢壁の陥凹である.RASの増殖からADM形成に至る組織学的変化に関し異論は少ないと思われるが,その成因に関しては意見の一致をみていない.ADMを前癌病変とする報告は殆ど見られないが,特に分節型をリスク因子とする報告は散見される.さらなるエビデンスの集積が待たれる.
著者
野田 剛広 新毛 豪 清水 潤三 畠野 尚典 堂野 恵三
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.682-688, 2016-10-31 (Released:2016-11-10)
参考文献数
29

急性胆嚢炎に対する診療ガイドラインにおいては,発症後72時間以内の早期手術が推奨されているが,72時間以上経過した症例に対する手術成績は不明である.今回我々は,72時間以上経過した症例に対する緊急腹腔鏡下胆嚢摘出術の手術手技と治療成績について検討した.2005-2014年の間に急性胆嚢炎と診断し,緊急腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した233例を対象とした.発症後72時間以内の早期群(n=193)と72時間以降の後期群(n=40)に分類し解析を行った.平均手術時間は,早期群83分,後期群87分と差を認めなかったが,平均出血量は,早期群69mlに対し,後期群140mlと増加を認めた(p=0.0084).術後合併症,開腹移行率,術後在院日数は差を認めなかった.発症後72時間以上経過した急性胆嚢炎に対する緊急腹腔鏡下胆嚢摘出術は,安全に施行可能であり許容可能と思われた.
著者
白井 良夫
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.723-731, 2008-12-31 (Released:2009-03-27)
参考文献数
21

進行胆嚢癌の手術成績は概して不良であるが, pT2 (ss) 癌では根治手術により治癒が期待できる. 胆嚢癌進展の自然史 (natural history) からみると, pT2 (ss) 癌の主要な進展様式はリンパ節転移であり, その根治手術ではリンパ節郭清を重視すべきである. 一方, pT2 (ss) 胆嚢癌に対する標準術式は未だ定まっていない. 当科では, 1982年以来, pT2 (ss) 胆嚢癌の根治術式として胆摘+胆嚢床切除+肝外胆管切除+D2郭清からなる拡大根治的胆嚢摘出術 (Glenn手術変法) を基本とし. 膵頭周囲リンパ節転移が高度な症例では膵頭十二指腸切除を追加してきた. 本稿では, 主として自験例の成績に基づき, pT2 (ss) 胆嚢癌の根治手術について考察する. さらに, 胆石症などの良性疾患に対する胆摘後に発見されたpT2 (ss) 胆嚢癌に対する根治手術 (再切除) の適応, 術式についても考察したい.
著者
中沼 安二
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.73-81, 2010 (Released:2010-05-07)
参考文献数
30

要旨:胆道病理を従来とは異なった観点から検討した.胆道と膵臓は,ほぼ同じ時期に前腸から派生し,胆道と膵臓の発生と形成に共通の遺伝子の関与することが注目されている.また胆道周囲には生理的に付属腺があり,これに混在して膵外分泌腺が同定されることがある.これらの知見から胆道と膵臓は潜在的に相互に変化しうる可能性があると考えられる.胆道と膵臓には多種類の疾患がみられるが,共通した病態を示す疾患がある.IgG4関連硬化性疾患,管腔内乳頭状腫瘍が代表的である.これらの疾患の病態の理解には,胆道と膵臓の病態生理の共通性と可塑性を考えると理解しやすい.従来とは別の観点から胆道病理を観察することにより,これらの疾患以外にも,胆道と膵臓の相互の可塑性により理解あるいは考察できる胆道疾患が存在すると思われる.
著者
北島 知夫 赤司 有史 山口 泉 北島 正親 大久保 仁 井上 啓爾 小原 則博 前田 潤平
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.223-228, 2009 (Released:2009-06-25)
参考文献数
20
被引用文献数
4

胆嚢捻転症の1例を経験した.胆嚢捻転症は,特異的な症状に乏しく比較的希な疾患であるが,画像診断の進歩により術前診断例も増えてきている.一方で,捻転により血行障害を来し,壊死性変化が急速に進むこともあり治療は緊急を要する.症例は高齢の女性で,急性胆嚢炎症状で発症し,手術時の所見で胆嚢捻転症と診断した.360°の捻転を呈する完全型の胆嚢捻転症で壊疽性胆嚢炎に陥っていた.胆嚢捻転症においては,高齢の痩せた女性に多いなどの特徴的な疾患背景や画像所見上,著明な胆嚢腫大に胆嚢管の先細り様の途絶や渦巻き像の描出などがないかを念頭におき診療にあたることが重要であると考えられた.また,胆嚢捻転症の根本は遊走胆嚢であることから,治療に際しては胆嚢穿刺は控え,緊急での手術,特に腹腔鏡下胆嚢摘出術の良い適応になると考えられた.
著者
山崎 元
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.178-183, 2007-05-31 (Released:2012-11-13)
参考文献数
9

近年,総胆管結石に対する治療法においてESTやEPBD等の内視鏡治療が標準的治療と認識されてはいるが,実際には患者各人によって最適と考えられる治療法は異なっており,しかも内科と外科,さらには各施設内でも治療方針が異なることもあり,標準化されたとは言い難いのが現状である.我々は胆嚢結石の落石による胆嚢胆管結石症ではその成因と考えられる胆嚢結石に対しては胆摘術が必要であるとの立場より,胆摘,胆管切石を一期的に行なえ,乳頭機能が温存でき,しかも低侵襲手術と考えられる腹腔鏡下胆管切石術を第一選択とし1992年7月より施行してきた.腹腔鏡下胆管切石術としては胆嚢管法(腹腔鏡下経胆嚢管的切石術)と胆管切開法(腹腔鏡下胆管切開術)があり,前者は胆嚢胆管結石に対する理想の手術と考えられるが胆嚢管が拡張し三管合流部より乳頭側に数個の小結石が存在する場合が適応とされる.後者は如何なる場所,如何なる大きさ,如何なる数の結石でも対処可能な術式と考えられ,我々は当初より胆管切開法を総胆管結石に対する基本術式と位置付けて施行してきた.しかし,腹腔鏡下胆管切開術は胆管切開,除石,縫合,胆道減圧と多くの手技が要求され難度の高い術式であるため,胆管結石症に対する標準術式とはなかなか成り得ず,多くの施設で施行されていないのが現状である.本稿では患者にとって利点の多い本法が普及することを願って我々の行なっている腹腔鏡下胆管切開,一期的縫合,Cチューブドレナージの手技の工夫を提示する.
著者
岡島 正純 佐伯 修二
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.745-750, 2011 (Released:2012-01-30)
参考文献数
14
被引用文献数
2

要旨:見えない傷の手術とも呼ばれる単孔式内視鏡手術は,その名の通り,術創が臍の中に隠れてしまうため,整容性に優れた手術である.一方で従来の腹腔鏡手術の基本的なトロッカー配置を崩しており,手技が困難であることは否めないが,胆嚢摘出術を単孔式で行ってみると,技術的に不可能ではなく,むしろ実地臨床で行うことができることがわかった.このような経緯から,その症例数は着実に増加している.今後は単孔式内視鏡手術研究会などの活動を通じて,より安全,確実な手技と機器,器具の開発が望まれる.また,整容面だけではない本術式の利点についての研究も今後の大きな課題であろう.
著者
安部井 誠人 冨永 達郎 池田 和穂 丸山 常彦 小田 竜也 轟 健 正田 純一 松崎 靖司 田中 直見
出版者
Japan Biliary Association
雑誌
胆道 = Journal of Japan Biliary Association (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.73-78, 2002-03-25
参考文献数
20
被引用文献数
1

症例は85歳, 女性. 発熱と右悸肋部痛のため, 本院に緊急入院となった. 腹部超音波およびCT検査にて,胆嚢は15mmを越える大胆石6個以上の充満と胆嚢管への嵌頓が認められ,急性胆嚢炎と診断された.洞不全症候群,糖尿病,糖尿病性腎症,慢性気管支炎等,複数の重度合併症を持つ高齢者であり,手術には危険が予想されたこと,石灰化のないコレステロール石であること,PTGBDチューブが挿入され胆嚢炎が軽快したこと等の理由より,胆嚢結石の治療としてMTBEによる直接溶解療法を試みた.その結果,計28時間の治療により完全溶解が得られた.MTBE直接溶解療法は,手術リスクの高い急性胆嚢炎合併コレステロール石例に対して,PTGBDによる炎症改善後に考慮すべき治療法と考えられた.
著者
田妻 進
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.153-160, 2007-05-31 (Released:2012-11-13)
参考文献数
38

胆石症は消化器疾患の中でも最も頻度の高い疾患の一つであり,日本人の胆石保有率は人ロの高齢化とともに上昇している.胆石保有者数の増加は食生活習慣の変化,特に脂肪摂取量増加と繊維食摂取の減少による胆汁中コレステロール濃度の上昇に起因すると推定されている.また,胆石は女性に比較的多く,その成因として女性ホルモンの関与が推測されている.胆石は胆道に局在する結石であり,その構成成分と存在部位により,背景因子や生成機序が,臨床症状や重症度・治療の緊急性など臨床病態も多彩となる.胆石はその主要構成成分によりコレステロール結石と色素結石に大別され,両者の成因や形成過程も異なる.本稿では,その胆汁成分の肝・胆道における代謝異常とそれに基づく物性化学的変化や,胆道における運動生理機能異常を中心に胆石生成機序を解説する.
著者
猪股 正秋 照井 虎彦 遠藤 昌樹
出版者
日本胆道学会
雑誌
胆道 = Journal of Japan Biliary Association (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.448-457, 2005-10-31

内視鏡的十二指腸乳頭括約筋切開術(EST)における切開方向は11時から12時の間とする. 出力波形は原則的に切開波を選択する. 通電は断続的に行い, 切開線周囲の凝固層の幅をコントロールしながら切開するイメージを持つ. ハチマキ襞付近までは膵管口へのダメージの防止を優先し, 凝固層の範囲を最小限にとどめる. このためには, 比較的迅速な切開が必要である.ハチマキ襞より口側への切開では径の太い動脈枝の存在する可能性に配慮し, 十分な幅の凝固層を形成させつつゆっくりと切開する.切開の過程で最も注意すべきなのは「メスが走る」事態である.「メスが走る」のを避けるには, いつでも切開線の伸張を止められる態勢を整えておくことに加え, 切開が通電開始後可及的すみやかに始まることが重要である.切開線の伸張をいつでも止められるようにするには, 必要以上のブレードの張りや過度の押しつけは禁忌である.さらに, 連続的な通電・切開は行わないことが大切である.切開が通電開始後すみやかに始まるようにするには, (1)漏電を回避すること, (2)ブレードと組織の接触面積を極力小さくすること, (3)「Counter traction」を意識的に活用することの3点を意識することがポイントとなる.
著者
新本 修一 林 泰生 土山 智邦 小林 泰三 片山 寛次 広瀬 和郎 山口 明夫 中川原 儀三
出版者
Japan Biliary Association
雑誌
胆道 = Journal of Japan Biliary Association (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.245-252, 1996-07-25
参考文献数
13

悪性胆道閉塞26例にstentによる27回の内瘻化を施行した.使用stentは12Frのtube stentと,expandable metallic stentのうちZ-stent,Strecker stent,Wallstentである.Wallstentは肝内胆管から総胆管まで屈曲した走向でのstent,胆管と十二指腸の間のstent,Z-stent閉塞に対するstent in stentに使用した.stentの種類と留置場所により再閉塞や感染等の成績を比較した.24例(88.9%)で外瘻tubeを抜去でき,22例(91.7%)が退院できた.8例が1~24カ月間無黄疸で生存中で,9例が2~15カ月後に無黄疸で原病死した.再閉塞や感染は7例(29.2%)に認められ,胆管と消化管との間のstentに多く認められた.stentの種類別では,tube stentの50%とStreckerの33.3%に認めWallstentでは11.1%と有意に少なかった.悪性胆道閉塞の内瘻化に,屈曲した走向での留置や下部胆管閉塞の内瘻化にも適応でき再閉塞や感染が少ないWallstentは有用と思われた.