著者
菊池 良和
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.232-236, 2014 (Released:2015-03-13)
参考文献数
17

小児の吃音の相談のポイントは,過去の誤解された知識と,最新の知識を区別して理解し,それを伝えることにある。「吃音を意識させない」「吃音は親や環境が悪い」「ほっとけば治る」という吃音と向き合わない姿勢から,180度変わって,吃音と向き合う・うまく付き合っていくことが主流となっている。なぜならば,吃音は発症 3, 4 年以内に約 8 割治る言語障害だが,成人になっても人口の 1%存在しているからである。そして,成人の吃音者の約40%は社交不安障害に陥り,不登校・引きこもり・うつ病を併発する疾患である。吃音のある子どもの味方となれる医師やセラピストが必要であり,それには幼少時からの周囲に丁寧な正しい吃音の知識の普及が必須である。
著者
湯田 厚司
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.252-256, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
5

小児(特に未就学児)アレルギー性鼻炎の鼻視診には工夫を要する。耳鏡での診察や小児吸引管の使用も有用である。鼻汁は感染性鼻副鼻腔炎を伴う例が多いので隠れたアレルギー性鼻炎を見逃さないことが重要であり,鼻汁スメアーを自ら検鏡すると有用である。最近になり治療薬は増加しているがまだ充分でなく,問題点も多い。剤型,適応年齢での制限があり,錠剤は 7 歳以上からの適応となる。用量は体重換算と年齢による規定のどちらかであり,年齢によって効果が不十分になる事もある。成人の鼻閉に効果的な抗ロイコトリエン薬は,小児での有効性が明確でない。また,抗ヒスタミン薬は服用法で影響を受け,食事や飲物が血中濃度に影響し得るが,周知されていない。新規治療として舌下免疫療法が保険適応になるが,小児での適応は先送りとなる。我々は小児スギ花粉症に舌下免疫療法を行っているが,効果は良好であり,今後の適応追加に期待したい。
著者
中野 貴司
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.277-283, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
13

おたふくかぜはムンプスウイルスによる全身感染症であり,無菌性髄膜炎や難聴をはじめとして合併症の多い疾患である。したがって予防することが望ましく,おたふくかぜワクチンは広く接種を促進してゆくことが大切と考えられる。かつてのMMRワクチンによる教訓も踏まえて,定期接種化に向けては弱毒生ワクチンの副反応リスクの評価が必要であり,現在も議論が継続されている。これまでに得られたエビデンスや審議の経緯,呈示された論点を考慮すると,以下の3点が重要と考えられる。①早期からの予防と高い接種率につながり,かつ副反応のリスクが低いと考えられる1歳での初回接種を推奨する。②無菌性髄膜炎の発症頻度に影響をおよぼす因子についての検討は継続する。③重篤な副反応の監視とリスクコミュニケーションに力を注ぐ。
著者
菊池 良和
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.231-235, 2019 (Released:2020-04-28)
参考文献数
24

吃音症の遺伝学的研究は,2010年以降GNPTAB,GNPTG,NAGPA,AP4E1の4つの遺伝子が同定された。その4つの遺伝子は,ライソゾーム酵素輸送経路に関係した遺伝子であることが示唆されている。GNPTAB,GNPTGはムコリピドーシスII, III型の原因遺伝子とされているが,変異の場所が異なり,吃音者でそれらの遺伝子を持っても,ムコリピドーシスII, III型を発症する人はいない。遺伝子が特定されたことにより,遺伝子組み換えの吃音マウスの研究発表があり,また,吃音者において遺伝子保有の有無により言語療法の治療効果の差が示唆された。ライソゾーム酵素輸送経路の障害は脳の白質形成異常をもたらすことも示唆され,今後,遺伝子に基づいた研究が展開していくのだろう。
著者
神田 幸彦 佐藤 智生 吉田 晴郎 小路永 聡美 熊井 良彦 高度~重度難聴幼小児療育GL作成委員会
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.8-17, 2022 (Released:2022-07-31)
参考文献数
13

昨年「小児人工内耳(以下CI)前後の療育ガイドライン(以下GL)」が発刊され,先行の厚労省研究結果を抜粋して解説した。全国の調査で,新生児聴覚スクリーニング(以下新スク)を受けたCI小児は2,358名中59.3%未満であり,地域格差が見られた。また,低年齢の両耳装用児が増加していた。補聴器装用開始平均年齢が1歳未満である小児の割合は新スクを受けたCI児(約75%)がそうでないCI児よりも10倍近く多かった。通常小学校に在籍する小児の療育方法では,聴覚活用療育が約70%であり,聴覚活用をすることで通常学校により進学しやすい。新スクにより早期に難聴が診断されることで,難聴児が聴覚を活用できる方向性が明らかになっていた。CI難聴児の療育格差改善のため厚生労働省研究が採択されその成果の一つである「CI装用前後の療育のGL」は,多数のエビデンスレベルの高いCQと解答で構成され,信頼性のある重要な今後も活用できるGLと考えられた。
著者
藤井 可絵 守本 倫子 小森 学 吉浜 圭祐
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.336-343, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
14

当院にて手術加療を行った先天性後鼻孔閉鎖症19例について初回手術時期,ステント留置期間およびサイズ,再手術例についての検討を行った。初回手術年齢平均は両側閉鎖例で生後4か月,片側閉鎖例では5歳3か月と,両側閉鎖例で有意に低年齢での手術を受けていた。ステントの平均留置期間は,両側閉鎖例と片側閉鎖例での比較,および初回手術後開存した例と術後狭窄あるいは閉鎖した症例で比較した結果,有意差はなかったが,ステント径は両側閉鎖例では有意に小さいサイズを選択しており,初回手術年齢が低年齢であることと関連している。再手術した8例中7例は最終的に開存しており,成長と共に鼻腔が拡大することで手術方法やステント径も選択できる事が良好な結果につながると考えられ,症例に応じた手術計画を立てる必要があると考えられた。
著者
大塚 雄一郎 根本 俊光 岡本 美孝
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.376-381, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
6

単純ヘルペスウイルス(以下HSV)初感染症は症状から歯肉口内炎型(単純疱疹性歯肉口内炎)と咽頭扁桃炎型(ヘルペス性咽頭炎)の2つに分類される。前者は歯肉腫脹や口腔の粘膜疹・アフタを生じ,後者は咽喉頭に多発する有痛性の粘膜疹・アフタと高熱のため全身状態が不良となる。HSV初感染症の診断には血清抗体価が有用であるが,HSV-IgMは発症早期には陽性化しないことに注意が必要である。その点に注意して診断した5例の小児の口腔・咽喉頭のHSV感染症を報告する。1例が男児で4例が女児で年齢は2から17歳であった。4例が歯肉口内炎型,1例が咽頭扁桃型であった。後者の咽喉頭病変の把握に喉頭ファイバースコピーが有用であった。全例で38℃以上の発熱を認め,4例が咽頭痛を訴え3例は食事摂取が困難であった。2例は外来で3例は入院加療とした。5例で抗HSV薬を投与し,1例は抗菌薬も投与し後遺症なく治癒した。
著者
冨山 道夫
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.358-363, 2018 (Released:2019-04-05)
参考文献数
24

これまでに報告の少ない急性上咽頭炎を合併したマイコプラズマ肺炎の1症例を経験した。症例は11歳女児。発熱,咽頭痛,頭痛を主訴に受診。内視鏡検査で咽頭扁桃に膿を認めた。白血球数5300/μL,CRP 2.34 mg/dL,A群溶連菌迅速診断陰性で,ウイルス感染として経過をみた。2日後乾性咳嗽が増悪し再診。胸部X線で雲状陰影を認め,咽頭よりマイコプラズマ迅速診断を施行したところ陽性。マイコプラズマ肺炎を疑い,clarithromycinを投与し治癒した。咽頭扁桃より肺炎マイコプラズマが分離され,ペア血清で抗体価の有意の上昇がみられマイコプラズマ感染症と診断した。マイコプラズマ肺炎の初期症状として急性上咽頭炎による頭痛を主訴とする場合があり注意を要する。
著者
留守 卓也 中山 栄一 高山 直秀
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.42-47, 2012 (Released:2012-12-28)
参考文献数
14
被引用文献数
1

UNAIDS(国連合同エイズ計画)によると2009年に新たに世界で発生した母子垂直感染例は37万人と推定されており,日本では現在累計51人となっている。今回我々は反復性中耳炎を契機に発見された HIV 母子垂直感染の 5 歳男児の症例を経験した。患児は小児の HIV 感染における CDC(米国疾病予防管理センター)分類にて A2 象限と認定され HAART(Highly Active Anti-Retroviral Therapy)導入の適応となった。HAART 導入に伴い,HIV–RNA 数は急激に減少し,それに伴い反復性中耳炎の罹患回数も減少した。  小児の中耳炎と HIV 感染についての文献的考察では,HIV 感染児においては高率で中耳炎の合併を認めるという報告や,HAART 導入によって中耳炎の発症が予防されたという報告を認める。今回の症例でも,HAART 導入後に明らかに反復性中耳炎の発症が抑制されており,これらの報告を裏付ける結果となった。  今回の経験から,難治性の小児反復性中耳炎に出会った場合は,HIV 母子垂直感染について考慮に入れるべきであると思われた。
著者
天津 久郎 金村 信明 木下 彩子 中野 友明 植村 剛 副島 千晶
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.56-63, 2018 (Released:2018-07-31)
参考文献数
20

小児では転倒などにより箸や歯ブラシなどの異物による口腔外傷が多く見られる。稀に異物が頚髄,頭蓋内などの深部に刺入するものの発見が遅れることや,異物が刺入しなくても気腫や深頸部感染症を生じること,時に遅発性の内頸動脈閉塞を合併することがある。したがって,小児口腔外傷は患者家族への十分な説明と厳重な経過観察が必要であり,注意を要する疾患である。口腔より箸が刺入し,頭頸部深部に達して異物として残存した小児2症例を経験した。1例は異物が上咽頭粘膜下,斜台前方の頭長筋内まで達して後咽頭間隙に蜂巣炎を併発しており,内視鏡を用いて経鼻的に異物を摘出した。もう1例は異物が頸動脈間隙に達して,周囲の間隙に気腫を生じており,外切開により異物を摘出した。両症例とも術後,遅発性の内頸動脈閉塞などの合併症は認められなかった。自験例と小児の口腔異物症例について,若干の文献的考察を加えて報告する。
著者
坂井田 麻祐子 莊司 邦夫
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.323-328, 2011 (Released:2012-12-28)
参考文献数
11

小児反復性中耳炎の治療法は,鼓膜換気チューブ挿入術,外来抗菌薬静注療法が一般的だが,近年,免疫力向上効果をもつ漢方薬,十全大補湯の有効性が報告されている。今回,小児反復性中耳炎例25例(平均月齢12.5カ月)に約 3 カ月間の十全大補湯内服を指示(0.15 g/kgBW/day)し,投与前後における急性中耳炎罹患頻度,重症度,鼻咽腔細菌検査結果について検討した。投与前の急性中耳炎罹患頻度(平均1.8回/月)と比較し,投与中,投与終了後は平均0.39回/月(p<0.0001)と有意に減少した。重症度は,投与前後で改善する例や不変例など,症例により異なる傾向を示した。鼻咽腔細菌検査結果は特に変化を認めなかった。PRSP の保有率は約75%であった。投与終了後再燃した 3 症例に再投与を行った。うち 2 例は再投与後の経過は良好であったが,1 例は再発を繰り返し,最終的に外来抗菌薬静注療法を選択した。
著者
沖津 卓二
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.241-245, 2016 (Released:2017-03-23)
参考文献数
16
被引用文献数
1

近年,普通学校に学んでいる難聴の児童生徒が増えていると言われている。因みに平成26年度の文部科学省の報告に,聴覚支援学校の在籍者は減少が続いているが,普通学校で通級による指導を受けている小・中学生は平成7年度以降増え続けていることが示されている。最近の仙台市における学校健診の結果から,高度難聴の児童は人工内耳や補聴器による聴覚補償を受け普通学校に在籍し通級指導を受けていること,また軽度・中等度難聴児の一部は発見が遅れ適切に対応されていないことが判明した。補聴器,人工内耳をすでに装用している難聴児および学校健診で発見される難聴の中,学校生活に影響があると考えられている軽度・中等度難聴,一側高度感音難聴,機能性難聴への対応について概要を述べた。文献的考察を踏まえ,難聴の児童生徒が普通学校で不自由なく学校生活を送るために,今後耳鼻咽喉科の学校保健活動として取り組んでいくべき課題を提唱した。
著者
加我 君孝 朝戸 裕貴
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.262-266, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
7

両側小耳症外耳道閉鎖症の術前の両耳骨導補聴器装用下および両耳外耳道形成術後の両耳気導補聴下の方向感がどの程度成立するかこれまで明らかではない。われわれは両側小耳症外耳道閉鎖症例に対して,10歳前後に耳介形成術と外耳道形成術の合同手術を過去20年にわたって実施している。方向感検査を術前に両耳骨導補聴下と術後の両耳カナル型気導補聴器の装用下に実施した。その結果両耳時間差も両耳音圧差も両耳骨導補聴下でもカナル型補聴下でも閾値の上昇を認めはするが成立することがわかった。
著者
氷見 徹夫 高野 賢一 山下 恵司 小笠原 徳子 正木 智之 小幡 和史 堤 裕幸 小島 隆 一宮 慎吾 澤田 典均 横田 伸一
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.239-244, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
7

粘膜防御機構は自然免疫の最前線であり,上皮細胞に加えて免疫系細胞などを含む複合的なシステムで構築されている。耳鼻咽喉科領域では扁桃・アデノイドに代表される粘膜関連リンパ装置は,その抗原捕捉機構を駆使して,免疫記憶の形成と特異的抗体産生機構に関与している。一方,上気道の最前線である鼻粘膜もまた抗原捕捉に伴う免疫反応を行っているとともに,ウイルス・細菌感染やアレルギー炎症の場としても重要である。われわれは,扁桃やアデノイド,そして鼻粘膜の上皮についての研究を行い,機械的バリアを含む自然免疫の新しい概念を提唱してきた。ここでは,われわれの研究より得られた知見をもとに,扁桃,鼻粘膜の基本的な免疫臓器としての機能解析と,それぞれの類似性・相違性,自然免疫・獲得免疫での位置づけについて言及する。
著者
野村 研一郎 片山 昭公 高原 幹 長門 利純 岸部 幹 片田 彰博 林 達哉 原渕 保明
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.58-63, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
6

Video-Assisted Neck Surgery(以下 VANS 法)は,前胸部外側に作成した皮膚切開部から皮弁を吊り上げることでワーキングスペースを作成し,内視鏡補助下で甲状腺切除を行う術式である。創部が衣服で隠れるため,若年女性にとって有益な術式であるが,特殊な手術器具を要するため,小児での報告は少ない。当科で2009年から VANS 法で手術を行った210例のうち15歳以下の小児 3 例を認めた。よって,これらの症例の治療経過と小児甲状腺結節に対する手術適応についての検討を行った。全例甲状腺に約 3 cm 大の充実性の結節性病変を認めており,全例合併症なく成人と同様に手術を行うことが可能であった。3 例とも摘出病理は良性の結果であったが,濾胞腺腫と思われた一例で,実際は濾胞癌であり,術後半年後にリンパ節転移を認めたため,手術を含めた追加治療が行われた。成人同様,3 cm を超えるような甲状腺結節の際には手術治療を念頭におく必要があると考えられ,VANS 法は小児にも適応可能であった。
著者
中川 信子
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.234-238, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
3

1 歳—3 歳時期のことばの遅れは,障害に由来する場合も,生理的な個人差による場合もあって,判別は困難である。  ことばや発達の遅れの可能性のある児については①聴力 ②理解 ③対人関係・コミュニケーション ④こだわりの有無 ⑤落ち着きのなさ などに焦点をあてて観察する。  乳幼児期には,訓練的なかかわりによって言語発達を促進することは困難であり,からだ,こころを含めた全体発達の中で考えてゆく必要がある。ことばの遅い子の保護者は焦って教え込みに走りがちだが,毎日の生活体験の中から分かることをふやすようなかかわり,いっしょに楽しく遊ぶ中でのコミュニケーションの改善,特に,感覚統合的な視点からのからだを使った遊びを提案する。  また,乳幼児期から親子でしっかり目を合わせ,共同注意の成立を図るかかわりが大切である。
著者
益田 慎 長嶺 尚代 福島 典之
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.40-45, 2014 (Released:2014-06-01)
参考文献数
11
被引用文献数
4

発達性ゲルストマン症候群は発達障碍の 1 つで,書字困難と計算困難から重篤な学習障碍に進展する可能性がある。今回,4 歳から10歳までの間経過を追うことができた発達性ゲルストマン症候群の男児を経験したので症例報告する。当科初診時には本例の語彙は少なく,人物画が描けないことが特徴的であった。就学前の 1 年間に言語聴覚療法を実施したところ,語彙は増え読字は可能となったが,書字は困難であり自分の名前すら平仮名で表記することはできなかった。また就学時に 5 つのものを数えることができなかった。就学後すぐに学習に支障をきたしたが,学校現場が学習困難を発達性ゲルストマン症候群と結びつけて認識したのは 9 歳のときであった。本例の経験上,発達性ゲルストマン症候群を早期に診断し,学校現場に障碍特性を理解してもらう上で,人物画検査は有用であった。
著者
湯田 厚司
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.212-218, 2018 (Released:2019-04-05)
参考文献数
18

舌下免疫療法(SLIT)が2018年に小児適用となった。現在スギ花粉とダニの各々に2製剤が発売され,スギ花粉1製剤を除き11歳以下の小児にも投与可能である。著者は12歳以上例で市販後4年間に本邦で最も多い約650例のSLIT治療を行い,臨床研究治療例を含めると1000例(小児例含む)を超える。これまでに,成人スギ花粉SLIT例の報告で効果の高さを示してきた。小児でアレルギー性鼻炎を発症すると自然寛解が少なく長期有症となり,早期からのSLITが望まれる。小児であってもSLIT治療法や投与量は成人と同じであり,成人同様の効果を期待できる。著者が過去に行った小児スギ花粉症SLITの臨床研究結果を明示し,豊富な臨床経験に基づくアドヒアランス向上,長期休薬への対応,副反応軽減への工夫,ダニ治療時の注意点,スギ花粉とダニの重複抗原例の治療などについて,安全で効果的にSLITを行うために概説した。