著者
青井 良平 清水 茂雅 山崎 浩司 澤辺 智雄 川合 祐史
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.483-489, 2011-10-15

ECO636プローブは <I>E.coli</I> と <I>Shigella</I> 属に対して特異性を示した.汚染指標として <I>E. coli</I> を検出するためのFISHFC法におけるマイクロコロニー形成のための培養時間はSEL液体培地で7時間が最適であった.<BR> <I>E. coli</I> 新鮮培養菌を用いた FISHFC 法と平板塗抹法での生菌数には有意差は認められず(<I>p</I> >0.05),さらに,<I>E. coli</I> を接種した食品サンプル(8種類)からの検出でも,FISHFC 法と平板塗抹法での生菌数値に有意差は認められなかった.<BR> したがって,本研究で設計した ECO636 プローブを用いた FISHFC 法による <I>E. coli</I> の定量検出法は,培養時間7時間およびFISH操作2時間の合計9時間で,<I>E. coli</I> を平板塗抹法と同等の精度かつ迅速に検出·定量できる方法であり,汚染指標としての <I>E. coli</I> 定量検出に有用な方法であることが明らかとなった.
著者
村上 隆之 桑原 拓郎 佐々木 堯 谷口 肇
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.531-535, 1995-07-15
被引用文献数
4 3

Bio-Gel P-6DG担体を用いた親和性クロマトグラフィーとToyopearl HW-55Sゲル濾過クロマトグラフィーを併用し糸状菌Robillarda sp. Y-20の培養濾液より,エンド-1, 4-β-キシラナーゼ(1, 4-β-Xylano-hydrolase, EC 3.2.1.8)を簡易に精製することができた培養濾液からの精製酵素の回収率は約40%であった.SDS-PAGEによって測定した分子量は23400Daであった.pIは9.5で,至適pHおよび温度はそれぞれpH4.5-5.5と55℃であった.キシロオリゴ糖の加水分解物をパルスドアンペロメトリー検出によるHPLCで分析したところ,主生成物はキシロビオースであり,また,本酵素が転移酵素活性を持つことが解った.キシロ3-6糖に対するKmおよびVmaxを求め,これらのデータより本酵素が5個のサブサイトを持つことが推察された.また,本酵素はキシロオリゴ糖の存在下でBio-Gelカラムに対して特異的なアフィニティーを持つことが確認された.

1 0 0 0 OA ナイシンA

著者
島 純
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.37-37, 2008-01-15 (Released:2008-02-29)
参考文献数
3
被引用文献数
1

ナイシンAは,バクテリオシンと総称される抗菌性ペプチドの1種であり,乳酸球菌Lactococcus lactisにより生産される.2005年にCotterらが提唱した分類に従うと,バクテリオシンは抗菌特性や化学構造からクラスIおよびクラスIIに分類される.ナイシンAが含まれるクラスIバクテリオシンは,ランチビオティクと呼ばれる細胞膜攻撃性の耐熱性低分子ペプチド(<5kDa)である.ランチビオティクの特徴は,デヒドロアラニン,デヒドロブチリン等の修飾アミノ酸を含むことである.また,デヒドロアラニン,デヒドロブチリンの一部は,システインとの分子内縮合によりモノスルフィド結合を有するランチオニンや3-メチルランチオニンを形成する.ナイシンAの抗菌スペクトルは,他のクラスのバクテリオシンと比較して広く,他種乳酸菌やグラム陽性の食中毒細菌の多くに抗菌活性を示す.また,ナイシンAと部分的に構造が異なる天然類縁体であるナイシンZ及びナイシンQの存在が報告されている.ナイシンAの化学構造を模式的に図1に示した.一方,クラスIIバクテリオシンは,ランチオニン等の修飾アミノ酸を含まない低分子ペプチド構造を有するバクテリオシンの全てを包括するとされている.乳酸菌の生産するバクテリオシンが注目される大きな理由は,バイオプリザベーションへの応用の可能性が大きいことにある.有害食品微生物の制御の代表的手法は加熱であるが,全ての食品素材に加熱処理を適用することは出来ない.その場合には,食品保存料の使用が必要となるが,消費者の安全性指向の高まりにともない,化学合成された食品保存料の使用を敬遠する傾向にある.このようなことから,生物由来の安全な抗菌作用を有する天然抗菌物質を活用して,有害食品微生物を制御しようとするバイオプリザーベーション技術の開発が期待されている.バイオプリザーベーションに用いる保存料はバイオプリザバティブと呼ばれ,食経験が十分にあることや有害作用がないことが確認されている必要がある.ナイシンA等を生産する乳酸菌は,ヨーグルトやチーズ等の発酵乳製品や味噌,醤油等の発酵食品の製造に用いられてきており,長年に及ぶ食経験を有していることから,安全が確保されているGRAS(Generally recognized as safe)微生物と認識されている.そのような観点から考えて,ナイシンAをはじめとする乳酸菌バクテリオシンは,バイオプリザバティブとして最適な条件が揃っていると言える.バクテリオシンの食品への利用には,様々な手法が考えられる.1つは,精製したバクテリオシンを食品添加物として利用する手法である.また,バクテリオシン生産菌を発酵食品のスターターとして用いることで,発酵を行いながらバクテリオシンを生産させて有害細菌の増殖を防ぐ手法も考えられる.これらの方法ばかりでなく,食品の種類や形態等に合わせて,多様なバイオプリザベーション手法の構築が可能である.ナイシンAを代表とするクラスIバクテリオシンは,バイオプリザバティブとしての活用が最も期待されている天然抗菌物質であると思われる.実際に,ナイシンAは世界50カ国以上で既に食品保存料として使用されている.我が国においては,現段階ではナイシンAの食品添加物としての使用は認可されていないが,食品安全委員会においてナイシンAに係る食品健康影響評価が進められており,今後の動向が注目される.バクテリオシン生産能を含めた乳酸菌の潜在機能を有効活用することにより,食品の安全性向上が強く期待できる.
著者
上野 真理子 寺島 晃也 多田 耕太郎 山口 静子
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.118-127, 2007-03-15 (Released:2007-10-04)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

富山県の伝統食品かぶらずしの品質と食味特性の関係を明らかにするため,県下の代表的な10社の市販品の理化学的分析と官能評価を行い,主成分分析による総合的な解析を行った.市販品は微生物数から推察される発酵状況や有機酸,糖組成に差があり,発酵を主とする伝統的製法タイプ,発酵度合い不十分タイプ,甘味添加を主とする食味調整タイプの3つに大別された.さらに,理化学特性と官能特性を総合した主成分分析の結果,消費者には 2つの価値観が同等の重みを持って存在することが明らかになった.1つは甘味中心に調整された食味を高く評価する価値観で,もう1つは伝統的製法に基づき熟成された食味を高く評価する価値観であり,少なくともいずれかの価値観を満たさない食味は消費者嗜好に適合しないことが示唆された
著者
佐藤 秀美 畑江 恵子 島田 淳子
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.904-909, 1996-08-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
6
被引用文献数
1

食パンを赤外線ヒータで加熱した時の内部の水分分布が経時的にどのように変化するかを,特にクラムに着目し,調べるとともに,この水分分布の変化に及ぼすヒータの放射波長特性の違いの影響を検討した.その結果,以下のことが明らかになった.(1) 上下2層に分けて測定したクラムの水分含量はともに,加熱直後に一旦低下し最低値をとった後,加熱前の水分含量よりも高くなった.この加熱過程において,上層の方が下層よりも水分含量は早く,しかも大きく変化した.(2) ヒータの放射波長特性は食パン内部の水分分布に影響を及ぼした.長波長領域の赤外線を放射するヒータで加熱した場合ほど,食パンの部位により,水分含量は大きく異なった.
著者
相良 泰行
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.429-443, 2009-08 (Released:2011-03-05)
著者
大鶴 勝 堀尾 拓之 升井 洋至 武田 威真雄
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.12, pp.806-814, 1999-12-15
被引用文献数
2 9

マイタケを飼料重量に対して,10%と20%になるように調製した実験区を設け,高血圧自然発症ラット(SHR)に投与し,ラットの体重,血圧及び血液の性状,臓器に及ぼす影響について検討した.さらに,試料マイタケの加熱,エタノール抽出,水抽出による操作の影響をウイスター系ラットの体重増加により調べた.<BR>その結果,マイタケ投与によるラットの顕著な体重増加抑制効果と血圧上昇抑制効果が見られた.臓器の重量の比較ではマイタケ投与群で肝臓に僅かな低下が見られたが,他の臓器では影響は見られなかった.血液の性状では,マイタケ投与群で,血漿総コレステロール,中性脂肪の低下が見られ,20%投与群では,糞中へのコレステロールの排泄の増加も見られた.<BR>マイタケ中には血圧上昇抑制を示すなど各種の生理活性を有する成分が含有され,特に体重増加抑制を示す成分は,水可溶性で熱に不安定であることが明らかとなった.
著者
柴田 真理朗 杉山 純一 蔡 佳瓴 蔦 瑞樹 藤田 かおり 粉川 美踏 荒木 徹也
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.196-201, 2011-05-15 (Released:2011-06-30)
参考文献数
12
被引用文献数
6 3 6

糊化させた米のパンの品質への影響を評価するため,小麦粉パン,米粉パンに加え,糊化させた米粉を添加したパン(糊化米粉パン),お粥を加えたパン(お粥パン)を調製し,それぞれの形状,粘弾性係数,および気泡パラメータを計測した.(1) お粥パンが最も膨張し,糊化米粉パンも小麦粉と同等に膨張したことから,糊化処理した米の添加によってパンの膨張が促進されることが分かった.(2) 糊化させた米を添加したパンは,小麦粉,米粉パンより粘弾性が低い,つまり柔らかいことがわかった.(3) 4種類のパン試料の気泡構造は同一であったことから,粘弾性の差は気泡壁(固相)の違いに依るものと推察された.以上より,糊化処理をした米粉または米の配合が15%の場合,グルテンなどの品質改良剤や,特別な前処理なしで従来の小麦粉100%のパン,または米粉パンより膨張性が良く,柔らかい食感を持つパンを調製することが可能であることが確認された.
著者
佐藤 秀美 畑江 恵子 島田 淳子
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.904-909, 1996-08-15
被引用文献数
2

食パンを赤外線ヒータで加熱した時の内部の水分分布が経時的にどのように変化するかを,特にクラムに着目し,調べるとともに,この水分分布の変化に及ぼすヒータの放射波長特性の違いの影響を検討した.その結果,以下のことが明らかになった.<BR>(1) 上下2層に分けて測定したクラムの水分含量はともに,加熱直後に一旦低下し最低値をとった後,加熱前の水分含量よりも高くなった.この加熱過程において,上層の方が下層よりも水分含量は早く,しかも大きく変化した.<BR>(2) ヒータの放射波長特性は食パン内部の水分分布に影響を及ぼした.長波長領域の赤外線を放射するヒータで加熱した場合ほど,食パンの部位により,水分含量は大きく異なった.
著者
石井 現相 森 元幸 梅村 芳樹
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.962-966, 1996-08-15
被引用文献数
6 7

着色ジャガイモ塊茎から抽出したアントシアニン色素について以下の食品化学的特性を色素溶液で測定した.<BR>耐熱性は赤色系統が紫色系統よりも高かった.一方,耐光性は紫色系統が若干,赤色系統より勝った.<BR>二価鉄イオン耐性は系統により異なるが,同イオン添加はいずれも退色させた.pHの発色への影響は低pHで発色が高く,高pHで低いが,その程度は系統に依った.<BR>リノール酸からの過酸化物生成に対する抑制力をロダン鉄法で測定した結果,抗酸化力はα-トコフェロールよりも強く,BHAやBHTに匹敵する能力が認められた.
著者
岩附 聡 木島 佳子 塩野谷 博
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.236-244, 2011-06-15 (Released:2011-07-31)
参考文献数
44
被引用文献数
2 3

ヒト病原菌に対する抗体の摂取により,腸内細菌叢の改善が期待できるが,その情報は乏しい.我々は,ヒト病原菌に対するミルク由来の自然抗体を多く含む乳清蛋白を中高年健常人ボランティアに投与し,糞便細菌叢の変化をT-RFLP法とFISH法により解析した.T-RFLP法では,腸内細菌は29のOTU(菌の分類群)に分けられ,ミルク抗体の3週間の摂取により減少した菌はOTU369(クロストリジウムクラスターIV),OTU469(バクテロイデス),OTU853(バクテロイデス)であった.また,増加した菌はOTU366(バクテロイデス),OTU443(菌名未定),OTU995(クロストリジウムサブクラスターXIVa)で,ビフィズス菌,乳酸桿菌その他には影響が見られなかった.FISH法による解析は,ミルク抗体の影響を8週にわたり行った.全細菌数およびビフィズス菌には影響しなかった.大腸菌,ディフィシル菌,ウエルシュ菌は減少したのに対し,バクテロイデスとプレボテーラ,フラジリス菌,乳酸桿菌は増加した.ミルク抗体の糞便中への回収を測定すると,摂取したミルク抗体320mgの800μg (0.24%)が糞便中に回収された.ミルク抗体による腸内細菌叢への影響をエンドトキシンのトランスロケーション,関節リウマチの改善作用との関係について考察した.本研究を行うにあたり,WPCの自然抗体の研究にご協力いただきました女子栄養大学衛生学教室桑原祥浩教授・上田成子教授,本論文の作成にご助言いただきましたChondrex Inc. 寺戸国昭博士,また,本研究に参加していただいたボランティアの皆様に感謝申し上げます.
著者
石川 健一 加藤 丈雄 小宮 孝志
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.361-364, 2003-08-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1

発酵漬物の製造において,乳酸菌を添加した漬物を検討した.スターターカルチャー用乳酸菌の選択と発酵条件について,以下のような結果を得た.(1) 36株の乳酸菌から発酵漬物に適したものを検索したところ,生育速度が速いこと,好ましい酸味や香りを生産することなどから,8菌株を選択した.(2) 最も好ましい香気を生成した,Leuconostoc paramesenteroides DA-1株について性質を検討した結果,最適発酵温度は10°Cで,食塩0∼3%,グルコース無添加のモデル漬物中でよく発酵した.(3) 大根を用いて低食塩の漬物を調製した結果,Leuc.DA-1株を接種することで,腐敗や変色がおこらず,梅酢様の良好な香気,うま味を生成した.
著者
大坪 研一 中村 澄子 諸岡 宏 藤井 剛 布施 隆 川崎 信二
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.262-267, 1999-04-15
被引用文献数
10 12

最近需要が増加しつつある市販のおにぎりや弁当,調理済み米飯類の原料米の品種表示と内容の確認をするための客観的技術の開発を行った.<BR>国内作付け上位10品種の精米を簡易炊飯し,それぞれの米飯1粒を試料とし,α-アミラーゼおよびプロテイナーゼKによって処理した後に,DNAをフェノール抽出し,10量体5種類および12量体1種類のプライマーを用いたPCRによって増幅した後,電気泳動に供し,パターンの比較を行った.その結果,米飯1粒を試料として,国内産上位10品種の品種を識別することが可能となった.
著者
津志田 藤二郎
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.448-449, 2006-08-15

<B>1.食事バランスガイドの制定</B><BR>食事は,運動やストレス,喫煙,飲酒などとともに,私たちの健康に大きな影響を与える要因の一つになっており,健康を維持するためにはそのバランス,すなわち「フードバランス」あるいは「食事バランス」が重要であると考えられるようになった.アンバランスな食事を続けると高血圧や糖尿病,心疾患,脳血管疾患,アレルギーなどの免疫系失調等の生活習慣病に陥る確率が高くなり,生活の質が低下するのみならず早死にを招く結果となることは,誰もが理解するところである.しかし,理解しながらもその実践となると,心もとないのが現実である.こうした事態を打開するため,平成12年に制定した「食生活指針」を具体的な行動に結び付け,国民一人ひとりがバランスのとれた食生活を実現していくことができるよう,食事の望ましい組み合わせやおおよその量を分かりやすくイラストで示した「食事バランスガイド」を,農林水産省と厚生労働省が共同で平成17年6月に決定・公表した.主食(米やうどん,パン)と副菜(野菜やいも,キノコ,海藻等の料理),主菜(肉や魚,卵,大豆等の料理),そして牛乳・乳製品と果物の5つのグループの望ましい摂取量をコマの体積からイメージできるように図案化し,摂取バランスが悪いとコマが倒れ,いわば生活習慣病などの不測の事態が生じることをイメージさせるガイドである.コマの上の軸にはコップがあり,水やお茶などの飲料水摂取の重要性も意識させ,さらにコマの上を走る人間の姿も図案化され,食事のみならず普段からの運動の重要性も見て取れ,世界的に見ても分りやすくユニークなガイドになっている(図1).この「食事バランスガイド」は,同時期(平成17年6月)に制定された「食育基本法」を実践するための教材ともなっており,わが国に健全な食生活を定着させるために大きく役立つものとして期待されている.<BR><B>2.マクガバン報告から現在まで</B><BR>食事と健康の関係について注目し,それを行政的な課題として取り上げた最初の事例は,1977年の「マクガバン報告」である.米国の上院議員であったマクガバン氏は,1960年代の米国民一人当たりの医療費が世界のどの国よりはるかに高いにも係わらず,平均寿命が世界26位であることに失望を覚え,アメリカ上院栄養問題特別委員会を設置して世界から学者を集めて食事と健康に関する調査を行い,膨大な調査結果(マクガバン報告)を1977年に発表した.その中で,(1) 炭水化物摂取の奨励,(2) 脂肪摂取の抑制,(3) 飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸摂取の推奨,(4) コレステロール摂取の抑制,(5) 砂糖摂取の抑制,(6) 食塩摂取の抑制を取り上げ,タンパク質(P)と脂質(F),炭水化物(C)摂取の比率は,当時の日本の食事が理想的であり,米国の食事は間違っていることをすなおに認め,以後積極的な食事改良政策を展開した.その後,米国農務省は1992年に各食品群別に食べる量をピラミッドに示した面積から推定できるフードガイドピラミッドを制定し,2005年には個人の事情に合わせることが可能なマイピラミッド型のフードガイドを制定するに至っている.なお,米国でのフードガイドピラミット制定以来,オーストラリアやカナダ,イギリス,オランダ,ポルトガル,中国等でもそれぞれ独自の図案によるフードガイドが制定され,各国が生活習慣病の予防に向けた取り組みを活発に行う時代が到来している.<BR><B>3.国民栄養調査と「日本食事摂取基準(2005年版)」の制定</B><BR>こうした「フードガイド」制定の科学的な根拠としては,わが国で毎年実施している国民健康栄養調査がある.それによると3大栄養素であるPFCについては,30歳以上69歳までの人の摂取目標量がそれぞれエネルギー比で20%未満,20以上25%未満,50以上70%未満となっている.また,脂肪については飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けてその摂取基準を定めており,18歳以上の男性では飽和脂肪酸の目標量(エネルギー)が4.5~7.0%,n-6系脂肪酸の摂取目標量(エネルギー)が同様に10%未満,n-3系脂肪酸の摂取目標量(エネルギー)が男性の18歳以上49歳までが9.4%以上,50~69歳までが11.6%以上,70歳以上が8.8%以上となっている.この他,ビタミン,ミネラルなど微量栄養素についても,それぞれ摂取量の基準が「日本食事摂取基準(2005年版)」に示されており「食事バランスガイド」には,この食事摂取基準を満たすための役割も期待されており,当面はわが国において摂取量が不足している野菜の摂取目標値1日350gと果実の摂取目標値1日200gの実現が重要な課題になっている.
著者
大久 長範 千葉 紘子 長谷川 勇治 高畠 聡 秋山 美展
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.547-550, 2002-08-15
被引用文献数
3 4

1) 稲庭うどんのグループ(7種類)の断面には,長く延びた気泡が観察された.<BR>2) 供試乾麺の食塩の初期溶出速度と体積表面積比(S/V)との関係を求めた.稲庭うどんグループのS/V比は,2.5~3.4の範囲にあり,一分間の茹でにより30~60%の食塩が溶出した.<BR>3) 茹で麺のαアミラーゼ消化は,稲庭うどんがナンバーワンうどんより早かった.
著者
梶原 良 中津 沙弥香 塩野 忠彦 柴田 賢哉 石原 理子 坂本 宏司 武藤 徳男
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.183-185, 2008-04-15
被引用文献数
8

高血圧自然発症ラット(SHR)にモリンガ葉の10倍水抽出物を強制経口投与し,血圧上昇抑制効果について検討を行った.その結果,単回投与試験では血圧の有意な低下は認められなかったが,長期投与試験では,投与後25日目以降有意な血圧上昇抑制作用が認められた.また,モリンガ葉は,抗高血圧作用を有するGABAを高含有していた.モリンガ葉を長期間継続的に摂取することで高血圧発症を予防できる可能性があることが示唆された.
著者
手塚 正教 小野 伴忠 伊東 哲雄
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.8, pp.556-561, 1995-08-15
被引用文献数
2 12

ダイズの主要なタンパク質である7S及び11Sグロブリンの組成比の異なる6種類のダイズを用いて豆乳を調製し,粒子組成,フィチン含量,カルシウム及びマグネシウムに対するタンパク質の溶解度などについて測定し豆乳の凝固との関連を検討した.<BR>(1) 6種類の豆乳いずれも,加熱処理によりタンパク質よりなる大粒子が減少し,中粒子が増加した.しかし,7SグロブリンリッチのGILMでは中粒子の増加が少なかった.<BR>(2) 11Sリッチの刈系434は塩化カルシウム濃度6-8mMでタンパク質溶解度が減少し,ミヤギシロメも同様であった.IOMは6-10mMで,刈系423とナンブシロメ+オクシロメは8-10mMで,7SリッチのGILMでは10-12mMで減少した.<BR>(3) 各豆乳の塩化カルシウムによるタンパク質溶解度減少時のpHは,7SリッチのGILMではpH 5.9,他の5種類の豆乳ではpH 6.1付近であった.<BR>(4) 各豆乳に塩化マグネシウムを加えた場合,タンパク質溶解度の減少開始のモル濃度は塩化カルシウムとほぼ同様であったが,その減少割合はゆるやかであった.<BR>(5) 各豆乳のタンパク質溶解度が減少するpHは塩化カルシウムよりも塩化マグネシウムの方が約0.1 pH高かった.<BR>(6) 豆乳のフィチン含量が多いほど塩化カルシウムを加えたときのpH低下は大きいことが示された.
著者
貝沼 やす子 田中 佑季
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.620-627, 2009-12-15
被引用文献数
6 11

(1) 米ペーストには粒径が6μm付近のでんぷん微粒子の存在が殆どを占めていた.米粉は粒径10~100μmにかけて広く分布していた.また,米ペーストの吸水率は50~60%と強力粉より少なかったのに対し,米粉は100%を超えており,強力粉より大きかった.<BR>(2) パン生地のファリノグラム解析において,米ペースト添加生地はコントロール生地と同等程度の硬さであったが,米粉添加生地はコントロールより明らかに硬かった.<BR>(3) 走査型顕微鏡観察では,米ペースト添加パン生地はコントロールパン生地に比べるとグルテン形成が少なくなっているものの,米粉添加パン生地よりもグルテンが形成されており,でんぷん粒とよく絡み合っていた.米ペースト添加パン生地は発酵させた際の体積増加率がコントロールパン生地より大きかったが,米粉添加パン生地は明らかに小さかった.<BR>(4) 米ペースト添加パンは米粉添加パンよりもパンの膨化状態・内相の品質・テクスチャーが改善されており,コントロールパンに近い,柔らかくきめの整った良好なパンとなっていた.<BR>(5) 米ペースト添加パンは米粉添加パンよりも低温に保存した場合のパンの硬化が抑制されており,コントロールパンと同等の変化を示した.<BR>これらのことから,米をペースト状にし,そのままパン生地に添加するという新たな米添加パンの調製法は,米の調理特性を活かした有用性のある調製法であると考えられる.また,パン以外の小麦粉調理で代替利用できる可能性も秘めており,米粒,米粉に次ぐ,米の新たな活用法としての有効性が期待できる.現時点では研究室規模の実験であったが,今後は実用化に向けて米ペーストを効率的に製造できる機器の開発,米ペーストを添加した業務用生地の調製法などの検討を行っていく予定である.
著者
塚越 芳樹
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.548-551, 2014

平成23年度の生産工程プロ参加試験室に対して技能試験を行い,その回答結果を得た.多くの場合は試験結果のzスコアは満足であったが,疑わしいまたは不満足であった試験室もあった.そのような参加者は,初めて参加する試験者にも多かったが,連続して同一の試験室が外す場合や,前年度は満足な結果が得られたにも拘わらず翌年度の結果のzスコアは疑わしいまたは不満足であるなど,その様子は様々であることが明らかになった.また,細菌数と大腸菌群数では報告値の分布が異なっており,zスコアの算出のもとの<i>σ</i><sub>p</sub>として,NIQR法によるロバスト推定量とFEPASが採用している経験則により固定する場合を比較すると,大腸菌群数ではほぼ同様のzスコアになるが,細菌数では大きく異なることが分かった.本技能試験では試料の保存について細かい条件を置かなかったため,安定性を担保している技能試験に比べて<i>σ</i>が大きくなっている可能性があるが,その他の技能試験と比べて結果に大きな差異はなかった.技能試験は,研究成果および試験結果の信頼性確保のために有用であったことと共に,その継続が必要であることが確認された.
著者
柴原 裕亮 岡 道弘 富永 桂 猪井 俊敬 梅田 衛 畝尾 規子 阿部 晃久 大橋 英治 潮 秀樹 塩見 一雄
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.280-286, 2007-06-15 (Released:2007-10-04)
参考文献数
16
被引用文献数
7 15

ブラックタイガー由来精製トロポミオシンを免疫原として,甲殻類トロポミオシンに特異的に反応するモノクローナル抗体を作製し,甲殻類トロポミオシン測定用のサンドイッチELISA法を確立した.本法では,甲殻類に分類されるえび類,かに類,やどかり類,おきあみ類のトロポミオシンとは交差率82~102%と全般的に反応したが,軟体動物に分類されるいか類,たこ類,貝類トロポミオシンとの交差率は0.1%未満であった.また,食品全般においても甲殻類以外で反応は認められなかった.検出感度は甲殻類由来総タンパク質として0.16ppmであり,食品表示に求められる数ppmレベルの測定に十分な感度であった.再現性もCV値10%未満であったことから,精度よく測定できると考えられた.さらに,食品由来成分の存在下においてもマトリックスの影響を受けないこと,加熱により変性を受けた場合にも測定可能なことを確認した.したがって,本法は甲殻類由来トロポミオシンに対して特異的であり,加工食品における甲殻類検知法として使用可能であると考えられた.