著者
高橋 仁 柴田 智 田口 隆信 岩野 君夫 小林 忠彦
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.447-455, 2010-11-15 (Released:2011-01-06)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

We developed “Akita-sake-komachi”, which is the rice cultivar suitable for brewing. The refined sake produced from “Akita-sake-komachi” is characterized by the taste of refined sweetness and a light finish. We tried to make “Akita-sake-komachi” local branding. In order to make “Akita-sake-komachi” of high quality, we developed a cultivation method, which enabled us to get grains with low protein content, low expression of white-berry and less crack. Since the protein of “Akita-sake-komachi” had little glutelin, it was recognized that the peptidase activity of koji (malted rice) was stronger, but that there was little amino acid generation from the steamed rice. To develop a new type of sake of “junmai-shu” using the property of “Akita-sake-komachi”, the Aspergillus oryzae “Gin-aji” was selected. The peptidase activity of the koji used by “Gin-aji” was less with “Akita-sake-komachi”. And the yeast “Akita-kobo No. 12 and No. 15” were selected for producing the “Junmai-shu” which fit to “Akita-sake-komachi” and the Aspergillus oryzae “Gin-aji”, and we commercialized “Akita-sake-komachi” brand “junmai-shu”. Accodring to the result, the product amount of the rice “Akita-sake-komachi” increased to about 2 times (2009/2005), and the shipment amount of the “Akita-sake-komachi” brand sake increased to (2009/2005) more than 3 times.
著者
藤井 智幸
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.226-232, 2017-04-15 (Released:2017-04-29)
参考文献数
3

In this paper, the effects of oil bodies, coagulant, pH and enzyme treatment on the aggregation behavior of soymilk were reviewed from the viewpoint of a colloidal dispersion system. The applicability of Einstein's and Krieger-Dougherty's theories of viscosity was examined using soymilk samples. The oil bodies in the soymilk behaved as suspended substances, and it was possible to predict the relative viscosity from the volume fraction of the oil bodies. The coagulation of soymilk with magnesium chloride was also investigated, and the validity of the novel viscous model with the effect of cross-linkage was discussed. The viscosity during coagulation could be predicted by the model, based on particle size as a property of the dispersion system. From the results of the effect of pH on the stability of soymilk using the centrifugal method, the state of soymilk components changed in three steps as a function of decreasing pH. The aggregation of high-fat soymilk digested by papain required heat pretreatment. It was suggested that oleosin, which stabilized the oil body emulsion, was digested by papain and the aggregation was promoted by heat pretreatment.
著者
本間 太郎 北野 泰奈 木島 遼 治部 祐里 川上 祐生 都築 毅 仲川 清隆 宮澤 陽夫
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.541-553, 2013-10-15 (Released:2013-11-30)
参考文献数
53
被引用文献数
5 27

日本は長寿国であり,日本の食事である「日本食」は,健康有益性が高いと考えられる.しかし,ここ50年ほどで日本食の欧米化が進行し,健康有益性に疑問が持たれる.本研究では,健康有益性の高い日本食の年代を同定するため,様々な年代の日本食の健康有益性について,特に脂質・糖質代謝系に焦点を当てて検討した.国民健康・栄養調査に基づき2005年,1990年,1975年,1960年のそれぞれ1週間分の食事献立を再現し,調理したものを粉末化した.各年代の日本食をそれぞれ通常飼育食に30%混合して正常マウスであるICRマウスと老化促進モデルマウスであるSAMP8マウスに8ヶ月間自由摂取させた.その結果,両系統のマウスとも1975年の日本食含有飼料を摂取した群(75年群)において白色脂肪組織への脂質蓄積が抑制された.このメカニズムを探るため,脂質代謝において中心的な働きをする肝臓に対してDNAマイクロアレイ解析を行った結果,ICRマウスの75年群において,エネルギー消費を促進する遺伝子の発現が促進されていた.そして,SAMP8マウスの75年群において,トリアシルグリセロールの分解や脂肪酸合成の抑制,コレステロールの異化を促進する遺伝子の発現が促進されていた.以上より,1975年頃の日本食の成分は,現代日本食の成分に比べてメタボリックシンドローム予防に有効であることが示唆された.
著者
山崎 勝子 村上 哲生 岡田 直己 寺井 久慈 宮瀬 敏男 佐野 満昭
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.87-95, 2013-02-15 (Released:2013-03-31)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

本研究は,プーアル茶に特有な成分の探索を目的とし検討したもので,三次元蛍光スペクトルの解析をもとに,プーアル茶中に特異的な蛍光をもつ成分が存在することを見出した.この成分は,腐植物質と類似しており,微生物発酵による長期の熟成期間で産生するものと考えられ,カテキンなどのポリフェノールや微生物由来のたんぱく質が含まれる可能性が示唆され,高極性の高分子複合物であることを認めた.茶の熱湯抽出液を用い,この特異的な蛍光領域を測定することで,プーアル茶の品質評価や他の発酵茶との分別に利用できるものと考えられた.
著者
田中 充
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.285-293, 2017-06-15 (Released:2017-06-30)
参考文献数
32

This study demonstrated the vasorelaxation effect of small peptides and their underlying mechanisms as a novel function of blood pressure-lowering peptides. In particular, the small peptide Trp-His elicits not only a vasorelaxation effect in isolated aorta but also an anti-atherosclerotic effect in vivo. Viewing the composition of food products as a mixture of many components, the synergistic effect on vasorelaxation by the combination of multi-food compounds was also investigated. In this review article, we summarize the aforementioned beneficial effects of food compounds on vascular functions as well as the intestinal absorption and bioavailability of these bioactive peptides, clarified by using LC-MS and/or MALDI-MS imaging analyses.
著者
中村 彰宏
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.559-566, 2011-11-15 (Released:2011-12-31)
参考文献数
23
被引用文献数
3 3

水溶性大豆多糖類(SSPS)は, 分離大豆蛋白質を製造する過程で副生するオカラから抽出した水溶性の多糖類である.食物繊維含量が高く, 水溶液は低粘度であり, 酸性下でも熱安定性に優れた特徴を持つ.分散安定性, 乳化性, 結着性, 造膜性に優れることから, 食物繊維強化食品への利用のみならず, 様々な食品の物性改良剤として利用されている.本稿ではSSPSの多糖類としての基本的性質と食品における物性改良機能について紹介する.
著者
荒 勝俊 吉松 正 小島 みゆき 川合 修次 大久保 一良
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.377-387, 2002-06-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
38
被引用文献数
1 3

(1) 日本の伝統的発酵食品である醤油から豆乳発酵食品の呈味性改善効果の高い乳酸菌としてS85-4株を見出した. (2) 豆乳の呈味性改善効果の高いS85-4株の同定を行ったところ,Streptococcus thermophilus又はStr.mitis近縁の株である事が判ったが,糖の分解性が若干異なる事から新規の乳酸菌としてStr. sp. S85-4株と命名した. (3) 各種乳酸菌(標準菌)を用いて豆乳発酵を行ったところ,Str. cremoris, Str. lactis, Str. diace. tilactisに改善効果を見出した. (4) 各種乳酸菌を用いて乳酸発酵を行い,得られた発酵液のHPLCによる分析を行ったところ,豆乳発酵において呈味性改善効果の高かった分離乳酸菌Str. sp. S 85-4株及び標準菌のStr. cremoris, Str. lactis, Str. diacetilactis共に大豆の不快味成分であるダイジン及びゲニスチンといった大豆イソフラボン類に変化は認められなかった.また,呈味性が改善されなかったLactobaeillus caseiなどの発酵液では,ダイジン及びゲニスチンが分解されてアグリコンであるダイゼイン及びゲニスティンに変化する事を見出した. (5) 分離乳酸菌Str. sp. S85-4株で製造した豆乳発酵食品をTLCで解析したところ,新たな糖の生成が認あられた.また新たな糖を含む画分を豆乳に加える事で大豆特有の収斂味が低減し,呈味性が大幅に改善する事が明らかとなった.
著者
三宅 義明 井藤 千裕 糸魚川 政孝
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.38-42, 2013-01-15
参考文献数
10
被引用文献数
1

小笠原&middot;島レモンに含まれる機能性成分のフラボノイド,フェニルプロパノイド,クマリン類の特徴を調べることを目的に,低熟度,高熟度の小笠原&middot;島レモン,マイヤーレモン,ユーレカレモン,温州みかんに含まれる各成分を定量分析し,比較検討した.小笠原&middot;島レモンはフラボノイドのヘスペリジンが主成分であり,未熟果実のアルベドに多く含まれていた.マイヤーレモンから単離報告<SUP>8) </SUP>されているフェニルプロパノイドのメイエリンは小笠原&middot;島レモンのアルベドに多く含まれ,ユーレカレモンより高含有であった.小笠原&middot;島レモンに特徴的な物質を単離し,7-メトキシ-5-プレニロキシクマリンと同定した.小笠原&middot;島レモンのクマリン類は,5,7-ジメトキシクマリンと7-メトキシ-5-プレニロキシクマリンが低熟度果実フラベドにユーレカレモンに比べて高含有であった.小笠原&middot;島レモンに含まれるこれら機能性成分の成分組成と含有量は全般的にマイヤーレモンと類似していた.
著者
三宅 義明 井藤 千裕 糸魚川 政孝
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.178-181, 2011-04-15
被引用文献数
1 1 2

マイヤーレモンは,レモン類とマンダリン類の自然交配種と考えられ,これのフラボノイド,クマリンの含有量の特徴をユーレカレモン,ウンシュウミカン,ネーブルオレンジとの比較により調べた.マイヤーレモンのフラボノイドの特徴は,eriocitrin, hesperidin, nobiletinの含量がウンシュウミカン,ネーブルオレンジに類似し,narirutin, 6,8-<I>C</I>-diglucosylapigenin, 6,8-<I>C</I>-diglucosyldiosmetin, diosminはユーレカレモンと類似していた.各果実のフラボノイド含量を主成分分析したところ,主成分第一と主成分第二の散布図ではマイヤーレモンは,ユーレカレモンとマンダリン類(ウンシュウミカン,ネーブルオレンジ)の中間位置であった.クマリンの5-geranyloxy-7-methoxycoumarin, 8-geranyloxypsoralen, 5-geranyloxypsoralenはユーレカレモンに特有に存在し,マイヤーレモンには含まれていなかった.5,7-dimethoxycoumarinはマイヤーレモンに特徴的に高含有であり,果皮緑色の未熟果実に多く含まれていた.
著者
柳内 延也 塩谷 茂信 水野 雅之 鍋谷 浩志 中嶋 光敏
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.87-91, 2004-02-15
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

動物エキス中に存在するアンセリンとカルノシンをヒスチジン含有ジペプチド(HCDP)総量として測定する迅速・簡便な定量法について検討した.熱水抽出した各種動物エキス(牛肉,豚肉,鶏肉及びマグロ煮汁)をTSKG-2500PWXlカラムへ注入し,0.1%トリフルオロ酢酸含有45%アセトニトニトリルを溶媒として流速0.5mL/minで展開し,波長210nmの検出器で検出した.動物エキス中のアンセリンとカルノシンは同じ単一ピークとして溶出され,他の蛋白質,ペプチド及びアミノ酸と分離された.アンセリンとカルノシンで構成される単一ピークにはリジンとアルギニンが微量混在していたが,これらのアミノ酸は波長210nmに吸収を持たないものなので,アンセリン又はカルノシンと同一の溶出位置に検出されたピークはHCDPピークと見なすことが可能であった.本法ではアンセリンとカルノシンの個別定量は出来ないが,各種動物エキス中のHCDP含量を1検体あたりわずか30分で定量が可能であり,この測定値はアミノ酸自動分析計で測定されるアンセリン-カルノシンの合計値と良く一致する結果であった.
著者
遠山 良 種谷 真一
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.223-231, 1998-04-15
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

単軸エクストルーダにより製造した冷麺(水分含量40%前後)に対する加熱殺菌処理(85℃40分程度)の効果について,でんぷんと小麦粉を4:6の割合で混合した原料粉により冷麺を試作して検討し,以下の結果を得た.<BR>1) 加熱殺菌処理は,バレイショでんぷん,サツマイモでんぷん,キャッサバでんぷんのいわゆる根茎由来のでんぷんを使用した麺の茹溶出量を低下させたが,トウモロコシでんぷんでは殆ど変化は見られなかった.<BR>2)多重バイト法により加熱殺菌処理が茹麺のテクスチャーに及ぼす影響を調べた結果,バレイショでんぷんを使用した麺では,加熱殺菌処理によりテンダネス,プラィアビリティ,タフネスは少し増加し,ブリットルネスは僅かに低下した.これに対して,他の3種(サツマイモ,キャッサバ,トウモロコシ)のでんぷんを使用した麺では,キャッサバでんぷんのタフネスが低下したことを除き大きな変化は見られなかった.<BR>3) 加熱殺菌処理前のX線回折像は結晶性を持たないV図形を示すのに対し,加熱殺菌処理直後のX線回折図形には,既に僅かながら結晶性の存在を示すピークが現れていた.また,5日間以上冷蔵した試料には3b,4a,5a,6a環が出現し,加熱殺菌処理前と加熱殺菌処理後では殆ど差は認められなかった.<BR>4) 製造直後の加熱殺菌処理前試料のうち,バレイショでんぷんを使用した麺とキャッサバでんぷんを使用した麺では最初から粘度が高く糊化状態であり,再糊化のピークは観察されなかったが,加熱殺菌処理により,再糊化のピークが出現した.冷蔵10日目試料では,いずれのでんぷんを使用した場合にも再糊化のピークが観察された.加熱殺菌処理により,粘度上昇開始温度や最高粘度時の温度が上昇したが,その効果はそれぞれバレイショでんぷん,サッマイモでんぷんで大きく,キャッサバでんぷん,トウモロコシでんぷんを使用した麺で小さかった.<BR>5) 以上のように,麺の加熱殺菌処理によりでんぷんを湿熱処理した場合に見られるアニーリングと類似した現象が観察された.この効果は特にバレイショでんぷんを使用した場合顕著であり,麺の茹溶出量を減少させるなどの物性改良効果があるものと考えられた.
著者
舘 和彦 小川 宣子 下山田 真 渡邊 乾二 加藤 宏治
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.456-462, 2004-09-15
参考文献数
13
被引用文献数
3 3

乾熱卵白を生中華麺に添加した時の影響について力学物性値の測定と官能試験の結果より評価した.また走査型電子顕微鏡を用いて中華麺の表面および断面構造を解析することにより,以下の結論を得た.<br>(1) 中華麺に乾熱卵白を添加することで茹で伸びを抑制し,破断応力,瞬間弾性率は上昇し,硬さおよび弾力性に改善が見られた.さらに付着性の低下より舌触りが良くなること,引っ張り時の歪率の上昇から伸長が良く切れにくくなっていることが推測された.<br>(2) 官能試験の結果より,乾熱卵白を添加した中華麺は噛みごたえ,弾力性,つるみ感,伸長度において無添加麺や乾燥卵白を添加した麺よりも良い評価となり,且つ高い嗜好性を示した.<br>(3) 走査型電子顕微鏡による観察結果より,乾熱卵白を添加した麺の表面構造は,無添加麺や乾燥卵白を添加した麺と比較して隙間が狭く,滑らかであった.また乾熱卵白を添加した麺の断面構造も,蛋白質によって構成される網目構造が細かく,密であった.
著者
杉山 純一 蔦 瑞樹
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.457-465, 2013-09-15
参考文献数
16
被引用文献数
5

光の指紋の説明をする前に,まず既存の蛍光という現象を説明する。通常,蛍光とは,図1(左)に示すように,ある特定波長成分だけからなる光(励起光)を試料に照射し,それによって生じる様々な波長の光(蛍光スペクトル)のことを指す。日常では,蛍光灯の白色光は,蛍光管の内側から目に見えない短波長の光が蛍光管内側に塗られた蛍光体に照射され,白色光を生じる蛍光現象である。また,よく遊園地のお化け屋敷などの暗闇で,ブラックライトという,これも目に見えない光が白いYシャツにあたると,青白く光ってみえるのも,洗剤やシャツ等に含まれるリン(p)による蛍光現象である。そして,このような蛍光現象を利用して,さまざまな化学成分の判別・定量を行うのが蛍光分析法である。しかし,この場合は,刺激(特定の励起波長)が1種類,それに対する応答(蛍光スペクトル)が1本というひと組の刺激と応答の情報を解析することになる。しかしながら,情報は多ければ多いほど,その中に含まれる有用な情報が抽出できる可能性が高い。そこで,情報量を多くすることを考える。それには,刺激を複数にし(つまり,複数の励起波長を順次走査して照射),それに対する応答(蛍光スペクトル)も複数本,得られれば,図1(右)のような3次元の膨大な情報が得られる。この3次元データを上から見れば,等高線図のようなパターンが観察される。このパターンは,その試料特有の蛍光特性が全て表現されたものと考えられ,蛍光指紋(Fluorescence Fingerprint),または励起蛍光マトリクス(Excitation Emission Matrix)と呼ばれ,本稿が主題とする「光の指紋」である。

1 0 0 0 OA 筋電位

著者
神山 かおる
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.273, 2010-06-15 (Released:2010-08-07)
参考文献数
3
被引用文献数
2 1

筋細胞(あるいは筋線維とも呼ぶ)が収縮活動するときに出される活動電位を筋電位と呼び,これを記録したものを筋電図という.古くから動物やヒトの生理学研究で用いられてきたが,近年,食品物性の研究にも応用され,食品を食べている時の咀嚼筋の筋活動が筋電位計測により解析されるようになった.筋電位には,針や細いワイヤー状の電極を筋細胞に直接刺して記録する方法と,目的とする筋肉上の皮膚に表面電極を貼り付けて導出する方法があるが,食品研究には,非侵襲的な後者が用いられることが多い.倫理的な問題が解決できても,痛みを伴う針電極では,普通の咀嚼運動が行いにくくなるためである.測定対象となる筋肉は,咀嚼筋の中でも,咬筋,側頭筋等の,顎を閉じたり,噛みしめたりするときに使われる閉口筋が一般的である.例は少ないが,開口筋や舌や頬の筋肉の筋電位を用いた研究もある.表面電極により得られた閉口筋の筋電位は,下顎を閉じる,すなわち噛みしめる動作毎に,筋活動が現れ,安静時や顎を開く時には,ほとんど電位が現れない.そこで,一回噛む毎の,筋電位振幅,筋活動時間を解析したり,食品咀嚼過程全体の咀嚼回数や咀嚼時間を計算したりできる.かたい食品を噛むときには,筋電位の振幅は大きくなるので,より強い咀嚼力を必要とする食品,噛みにくい食品が数値で表現される.また筋電位の時間積分値は,筋肉が行う仕事に相当するものと考えられており,咀嚼始めから嚥下までの筋電位を時間積分した値は,咀嚼仕事の感覚量とよく一致することが知られている.ヒトは咀嚼力が無理なく出せる,おおむね最大咬合力の20%くらいまでの範囲では,かたい食品ほど咀嚼力を上げるため,筋電位振幅が大きくなる傾向にある.それを越えると,一噛みの力を変えずに,咀嚼回数を増やしたり,咀嚼リズムを遅くしたりといった,時間で制御する咀嚼を行うようになるので,筋電位から食べにくい食品を検出することができる.食品の研究開発で用いられている機器による力学測定は,食べる前の食品の物理的状態を調べている.咀嚼中に,食品は小さく砕かれ,また唾液と混ぜられて,水分や温度も変わる.したがって咀嚼中に大きく変化する食品の力学特性により,時々刻々と変化していくヒトのテクスチャー感覚を表すためには,筋電位測定等のヒトの咀嚼計測は大変有効な手段である.食品による差は,咀嚼初期に大きく,咀嚼中に徐々に減少していくが,それでも異なる種類の食品では,嚥下できる状態になった食塊の物性も大きく違っている.また,テクスチャー感覚には,食品の硬さや粘性等の物性と,大きさや量の両要因が関係している.機器では後者の分析が難しいのに対し,筋電位データからは,一口に入れた食品量,切り方の影響等も解析できる.官能評価では他人の感覚は調べられないので,食べている人の個人差の解析をするには,筋電位等の咀嚼計測の方が向いている.咀嚼能力は,小児期に訓練によって発達し,高齢期になると加齢に伴う筋力低下,または歯の欠損や持病によって衰える.個人の咀嚼の特性を解析するために,咀嚼筋の筋電位は,歯科医学領域で長く活用されてきた.筋電位法の欠点としては,一般に食品間の差よりも個人間の差の方が大きいために,食品テクスチャーの分析を行いたい時には,解析に工夫が必要なことであろう.また,小児や高齢者等,テクスチャーを食べやすく制御した食品を要するような対象者では,若年成人に比べ咀嚼運動が不規則になりがちなため,より解析が困難である.筋電位測定値に大きな個人差があっても,同時に測定した一被験者による食品間の相対値は,年齢や性別,歯の状態が変わっても,比較的一致することが報告されている.当誌でも,食品テクスチャーや噛みにくさの解析に関して,最近論文が増えているが,筋電位は,装置も比較的安価で測定も難しくない,新しいテクスチャー解析のツールである.
著者
堀江 裕紀子 根本 英幸 藤田 仁 池川 繁男 熊木 康裕 大西 裕季 久米田 博之 出村 誠 相沢 智康
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.139-146, 2019-04-15 (Released:2019-04-18)
参考文献数
25
被引用文献数
1

Fermented brown rice and rice bran with Aspergillus oryzae (FBRA) is a processed food prepared from brown rice and rice bran. Although FBRA α-amylase activity is monitored as an indicator of fermentation, the evaluation of FBRA quality remains insufficient. We non-targetedly compared metabolite profiles in accepted FBRA, defective FBRA, and unfermented materials using 1H-NMR coupled with principal component analysis (PCA). Accepted FBRA was clearly separated from defective FBRA and unfermented materials. We also compared twenty-five accepted FBRA samples, where PCA showed that plotting of accepted FBRA results in dispersion that is unbiased toward different production dates and different fermentation apparatuses. These results indicated that accepted FBRA is manufactured with a consistent quality.
著者
吉田 充 市川 水音 富田 樹 知久 和寛 八戸 真弓 濱松 潮香 岡留 博司
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.47-51, 2019-02-15 (Released:2019-02-23)
参考文献数
11
被引用文献数
1

放射性セシウムを含む玄米をとう精加工し,さらにそれを炊飯した際の放射性セシウムの濃度と残存割合Frを調べた.精米歩合99.5%および98.8%の場合の放射性セシウムの除去率は3%および8%で,とう精により除かれた糠の質量の割合よりも米の放射性セシウムの濃度の低下割合が大きかった.また,とう精・洗米・炊飯後では,玄米に比べた放射性セシウムの除去率は,それぞれ21%および27%で,とう精以上に洗米による放射性セシウムの除去効果が大きいことが示された.放射性セシウムの濃度としてみると,精米歩合99.5%および98.8%の低とう精加工では,加工係数Pfは0.97および0.92であったが,炊飯までを含めると玄米を炊飯した場合の加工係数Pfの0.46に対して,0.38~0.34にまで低下した.既報の結果を合わせると,とう精による加工係数Pfは精米歩合99.5%の低とう精米から91%の精白米まで,炊飯まで含めた加工係数Pfは精米歩合99.5%の低とう精米から97%の3分づき米まで,精米歩合に比例して低下した.この実験結果は,放射性セシウムを含む玄米やとう精米の摂取による内部被ばく量の推定に役立ち,食品からの放射性セシウムの摂取に関するリスク評価やリスク管理に利用できるものである.
著者
御堂 直樹 徳永 美希 磯村 隆士 野口 孝則
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.262-267, 2012-06-15
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究は,摂取するスープの温度が温度感覚,体温および心拍数に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.健常女子大学生13名(22.2 _mls00b1/ 3.2歳)を被験者とし,ランダム化クロスオーバーデザインにて試験を実施した.前夜から絶食した状態で温スープ(87 kcal,70℃),冷スープ(87 kcal,10℃)または温湯(0 kcal,70℃)をそれぞれ異なる日の朝に摂取させ,摂取後60分間の温度感覚,鼓膜温,口腔温,心拍数などを測定した.温度感覚と口腔温の変化量は,摂取直後に温スープと温湯で冷スープに比べ有意に高値を示した.鼓膜温変化量は,3試験区間に有意差が認められなかった.心拍数変化量は,摂取直後に温スープで,冷スープと温湯に比べ有意に高値を示した.摂取直後の口腔温は局部的な温度を反映し,鼓膜温は核心温度を反映すると考えられる.従って,スープ摂取直後の温度感覚の変化には,核心温度ではなく局部的な温度変化が関与すると推察された.また,試験食の中で温スープのみに認められる要因はより高いおいしさであったため,温スープ摂取後の心拍数の変化には,おいしいと感じられる味刺激が関与すると推察された.
著者
稲垣 宏之 杉谷 政則 瀬戸口 裕子 伊藤 良一 織谷 幸太 西村 栄作 佐藤 進 加藤 正俊 齋 政彦 山本(前田) 万里 亀井 優徳
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.403-411, 2009-07-15 (Released:2009-09-01)
参考文献数
17
被引用文献数
6 6

エピガロカテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート(EGCG3″Me)を始めとするメチル化カテキンを含有する茶品種「べにふうき」と,国内流通量の大半を占め,かつメチル化カテキンを含まない茶品種「やぶきた」の抗肥満効果を比較検討した.12週齢のC57BL/6J雄性マウス(n=10/群)に低脂肪飼料,高脂肪飼料,高脂肪飼料に2%「べにふうき」茶葉または2%「やぶきた」茶葉を添加した飼料を与えて5週間飼育した.2%「べにふうき」茶葉高脂肪飼料を摂取した群は,高脂肪対照群に対し,体重,皮下および内臓脂肪組織重量,血中レプチン濃度が有意に低減した.一方,2%「やぶきた」茶葉高脂肪飼料を摂取した群では有意な抗肥満効果は皮下脂肪組織重量のみで観察され,相対的に抗肥満効果が弱かった.また工業的利用性の高い「べにふうき」熱水抽出エキスを1日1回体重1kg当りのカテキン総量として100mg,50mgおよび25mgを強制経口投与した結果,用量依存的な抗肥満効果が認められた.以上の結果より,「べにふうき」は「やぶきた」よりも強い抗肥満効果を示し,その効果は用量依存的であることが明らかにされた.また,「べにふうき」の強い抗肥満効果は,EGCGよりも吸収性および血中滞留性に優れたEGCG3″Meを始めとするメチル化カテキンが特異的に含まれているためと考えられた.
著者
鷲家 勇紀 西川 友章 藤野 槌美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.433-438, 2014-09-15 (Released:2014-10-31)
参考文献数
10
被引用文献数
4

市販のコーヒー焙煎豆は,通常エージング処理が施されている.エージング処理によってコーヒー抽出液中の多くの揮発性成分が減少する.エージング処理をしていないコーヒー焙煎豆は,血中のIgG,およびIgAの産生増強効果を誘導する.関与する成分は2,5-dimethylpyrazine,2,6-dimethylpyrazineであった.血中IgGの産生増強効果には2-methylpyrazineも関与した.これらの成分は何れもエージング処理時間の経過と共に減少する成分であった.以上の結果から,エージング処理をしていないコーヒー焙煎豆抽出液は,血中のIgG,およびIgAの産生増強効果を有することが分かった.エージング処理は焙煎豆中の有効成分の減少を招き,血中のIgG,およびIgAの産生増強効果を弱めることが分かった.