著者
高橋 法子 大竹 理恵 北郷 次郎 郡司 良治 谷口 知子 中尾 智佳子 原口 充宏 坂本 祐一郎 可児 毅
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.17-27, 2020-04-25 (Released:2020-06-01)
参考文献数
16
被引用文献数
4

我が国では1970年代より再審査制度が導入され,新たに医薬品が上市した後または既存の医薬品の新適応の承認取得後,多くの場合に製造販売後調査等 (以下,製販後調査) が実施されている.しかしながら,2018年4月に「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令等の一部を改正する省令 (改正 GPSP)」 が施行され,より科学的なアプローチに基づいた製販後調査の実施が求められるようになった.本調査では,改正 GPSP 施行後に,各社が計画する製販後調査に変化が生じているか確認した.調査方法は,各製品の審査報告書,医薬品リスク管理計画 (RMP),及び添付文書を確認し,必要な事項を抽出した後,集計及び分析を実施した.分析の結果,製販後調査では依然として使用成績調査が全体の 60%以上を占めていた.また,使用成績調査の目標症例数に関しては,500 例未満が 90 調査中 58 調査となっており,以前のような 3000 例を超えるような調査は 3 調査しかなかった.また,改正 GPSP 施行後に新しく導入された製造販売後データベース (DB) 調査に関しては,使用成績調査数には及ばないものの,13 製品 18 調査が確認された.利用する DB は,メディカル・データ・ビジョン (MDV) が 12 調査と最も多く,心血管系疾患や間質性肺炎等が複数の調査で安全性検討事項として設定されていた.なお,使用成績比較調査はなかった.一方で,追加の安全性監視活動なしで承認された製品が 2 件あった.また症例数設計では 135 調査中 88 調査で根拠が記載されおり,88 調査中 58 調査は統計学的理由を根拠にしていた.統計学的根拠は記載されているものの,多くは Rule of three という従来の製販後調査で汎用されている統計学的考え方が踏襲されていることが明らかになった.改正 GPSP 施行後,DB 調査を含む新しい製販後調査や PMDA が推奨する科学的なアプローチは企業に徐々に浸透している.今後,科学的アプローチを更に浸透させるためには,製販後調査に携わる企業側の人材の更なる向上が必要である.
著者
松本 佳代子 福島 紀子 小林 静子 津谷 喜一郎
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.47-57, 1999-05-31 (Released:2011-02-28)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

Objectives : High and medium-dose combination hormone agents have long been used in their off-label use as oral contraceptives. Oral contraceptives (the low-dose pill) are expected to be approved by the standing committee of the Central Pharmaceutical Affairs Council in June 1999, and are expected to be on the market by autumn, available to anyone bearing a doctor's prescription. A survey was conducted of pharmacy students to determine their acceptance and their perceptions of oral contraceptives (the low-dose pill). The results are discussed along with ways of dealing with the scientific information on the possible soon to be approved oral contraceptives (the low-dose pill), and some proposals are made for the future.Methods : The survey was conducted by distributing questionnaire sheets to female pharmacy college students in September 1996. Of the 670 subjects, 98 responded positively to the use of oral contraceptives (the positive group), while 572 preferred not to use them (the negative group). The two groups were compared and the data was analyzed. Mantel-Haenszel test was used to evaluate demographic and background data, their views on using oral contraceptives (the low-dose pill) and ways of obtaining necessary information.Results : In the responses to the questions on how the subjects feel about oral contraceptives (the low-dose pill), the positive group gave these reasons more frequently than those in the negative group : simple to use (p<0.001), a method with a high contraceptive rate (p<0.001), a means of contraception controlled by the woman (p<0.001). On the other hand, the reasons given more frequently by the negative group : feeling concerned about adverse drug reactions (p<0.001), a method allowing sexually transmitted diseases to propagate (p=0.009), a method increasing the burden on the woman (p<0.001).In terms of the subjects' knowledge of oral contraceptives (the low-dose pill), although there has been some improvement observed during their four-year college life, they did not seen to understand accurate information.Conclusion : The surveyed subjects had not understood accurate information, and this lack of knowledge may have formed their biased views on oral contraceptives (the low-dose pill). Given such results, it is anticipated that such misconceptions may affect their own decision-making in their use of the drug, and that it would cause inefficiency in providing future users with accurate information when these students become pharmacists. In the near future, there is expected to be a deluge of information concerning the low-dose pill. It is clearly necessary in pharmaceutical education to provide proper training of pharmacy students for self-education so as to increase efficiency when considering and evaluating information.
著者
神谷 昌子 渡辺 美智子 山内 慶太
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.75-87, 2018-09-20 (Released:2018-11-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1

目的:日本の公開医薬品副作用データベースの活用として,PMDA の医薬品副作用データベース(JADER)を使って,総合感冒剤(一般薬)の服用により有害事象を発生した症例の集団的背景とその特性を統計的分析により明らかにすることを本研究の目的とする.方法:2004 年 4 月から 2015 年 6 月までに報告された対象症例 990 例について潜在クラス分析を実施する.対象集団は複数のクラスに分類され,それぞれの集団の特性を明示する.さらに,有害事象の報告件数と薬剤別の有害事象報告件数をクラス別に集計して各々の特化係数を算出し,高い数値を示すクラスの背景と有害事象との関係性を調べる.また,同じデータでシグナル検出を実施し,特化係数から得られた結果との関連性について検討する.結果:潜在クラス分析を行った結果,集団は 3 つのクラスに分けられた.クラス 1 は全体の 53.7%を占める原疾患や服用薬を持たない人々の集まりであり, ⌈ 健康群⌋とした.このクラスに特化した有害事象はアナフィラキシー反応などの免疫系疾患であった.クラス2 は全体の 33.2%を占める自己治療に積極的な集団であり, ⌈ 自己治療志向群⌋とした.特化した有害事象は重篤な皮膚障害であった.クラス 3 は全体の 13.1%で,クラス内の 90%が 60 歳以上であり,ほぼ全員が原疾患を持ち医療用薬を服用しているため ⌈ 高年齢通院治療群⌋とした.主な有害事象は間質性肺疾患と神経系障害であった.シグナル検出でシグナルが検出された特定薬剤は,その薬剤の有害事象が最も特化して発生しているクラスに属しており,その集団の特性を特定有害事象発生の背景要因として関連付けることができた.結論:医薬品有害事象報告データベースに潜在クラス分析を適用することで,有害事象の発生とその集団的背景の関係性を明らかにすることができた.本研究は,総合感冒剤以外の医薬品についても応用が可能であり,JADER の新たな活用方法として寄与することが期待される.
著者
高田 充隆
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.155-162, 2013-02-20 (Released:2013-04-10)
参考文献数
7
被引用文献数
3

ここ数年の間,多くの健康保険請求が電子的に提出され,厚生労働省(MHLW)によりナショナルデータベース(NDB)に登録されている.NDB の医療サービスの質の向上における利用について評価する試行が始まった.筆者は,NDB を用いた医薬品使用状況研究を実施する機会を得たので,今回,MHLW による NDB 利用の手順を検討し,NDB の解析および薬剤疫学研究での活用における問題点について報告する.NDB は,他の医療データベースより大きく包括的であり,その知見は医薬品適正使用に関する貴重な情報の提供において,わが国の薬剤疫学研究に大きな影響を及ぼすと考えられる. (薬剤疫学 2012; 17(2): 155-162)
著者
稲角 嘉彦
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.62-70, 2022-10-20 (Released:2022-11-21)

新型コロナワクチンは予防接種法に基づく特例臨時接種として,国の指示の下,市町村において予防接種を実施することや必要な費用は国が負担すること等が特別に規定された一方で,接種の記録や副反応疑い報告制度等の枠組みについては,定期の予防接種と同じもので対応している.また,具体的な安全対策については,新型コロナワクチンの接種開始以降,副反応疑い報告制度に基づいて独立行政法人医薬品医療機器総合機構に報告された情報について,通常よりも高い頻度で審議会を開催して評価しているほか,国が研究班を設置してワクチン接種後の健康状況を調査し,その結果も審議会に報告するとともに,審議会の資料としても広く公表してきた.新型コロナワクチンの電子システムに着目すると,特例臨時接種の期間は,接種履歴についてはデジタル庁が構築したワクチン接種記録システム(VRS)を活用したり,流通情報については厚生労働省が構築したワクチン接種円滑化システム(V‒SYS)を活用したりして,安全性評価の基礎となる接種者数や納入されたワクチンのロット番号等を把握することができるようになっている.さらに,システムについて,経済財政運営と改革の基本方針2022 ではオンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し,レセプト・特定健診等情報に加えて,予防接種,電子カルテ等の情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームの創設等を進めることや,デジタル社会の実現に向けた重点計画ではマイナンバーカードを活用して予防接種事務全体のデジタル化に取り組むとともに,予防接種の実施状況,副反応に係る匿名データベースを整備し,レセプト情報・特定健診等情報データベース等との連結解析を可能とすることとされている.このように,ワクチンの安全性等を評価するための基盤整備は,今後さらに進むものと期待される.
著者
深澤 俊貴 岩上 将夫 原 梓 漆原 尚巳
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.39-55, 2023-10-31 (Released:2023-12-04)
参考文献数
55
被引用文献数
1

日常的に収集されるリアルワールドデータからエビデンスを創出し,医療や薬事規制の意思決定に役立てることに関心が寄せられている.リアルワールドデータを用いた縦断研究デザインは複雑であり,文章だけの説明では読者がその詳細を理解するのに苦労することが多い.この問題に対処するために,2019 年,薬剤疫学を国際的に牽引する研究者らが産官学から集結し,縦断研究デザインを可視化するフレームワーク「デザインダイアグラム」を開発した.デザインダイアグラムは,標準化された用語とグラフィカルな構成を用いて,読者に研究デザインの詳細を明確に伝えることを目的としており,これにより研究の再現性(reproducibility)が向上すると期待される.国際薬剤疫学会と国際医薬経済・アウトカム研究学会の合同タスクフォースによる過去の成果を基に,ダイアグラムには研究の再現性のカギとなる重要な設定項目が包括的に組み込まれており,研究デザインを曖昧さのない直感的な方法で可視化することに成功している.コホート研究,ネステッド・ケース・コントロール研究,自己対照研究のそれぞれに対して,個別のダイアグラムが提案されている.また最近では,研究に用いたデータの観測可能性をも可視化する新たなダイアグラムが考案された.リアルワールドエビデンス研究のプロトコルテンプレート(HARPER)や,薬剤疫学研究の報告ガイドラインの中でも,研究計画および結果報告の各段階において,デザインダイアグラムの使用が推奨されており,今後さらに普及することが予想される.本稿では,デザインダイアグラムの構成を解説するとともに,そのユースケースを紹介する.デザインダイアグラムの効果的な活用により,データベース研究の再現性と信頼性が向上することを期待したい.
著者
楠 正
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.3-12, 1996-03-25 (Released:2011-02-28)
参考文献数
42
被引用文献数
3
著者
浜 六郎
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.87-95, 1996-10-31 (Released:2011-02-28)
参考文献数
43

Objectives : To find the most important problems to be addressed by pharmacoepidemiology in Japan. My view presented in this article is personal conceived after having witnessed several drug-induced disasters (e.g., the SMON affair in 1970 and the Sorivudine case in 1993) and carried out a number of epidemiological studies while practicing as an internist.Methods : Preventive measures taken after having experienced major drug-induced disasters as well as the relationship between these measures and pharmacoepidemiology are compared between the foreign developed countries and Japan. The comparison is conducted based on my belief that pharmacoepidemiology must examine the major epidemic drug-related diseases, and find and verify the effective measures to prevent them.Results and Conclusion : It is found that in the USA and England, the drug-induced disasters have led the following effective countermeasures : revising the methods of approval of new drugs including the introduction of licensing for clinical trials of investigational products and improving postmarketingsurveillance according to the concept of “event monitoring”. Pharmacoepidemiology has been developed in association with those reforms. On the contrary, many measures posed after the drug disasters seen to have not worked well in Japan. Pharmacoepidemiology in Japan should have a more active role in (1) planning the measures to prevent drug disasters, (2) monitoring the methods and individual processes of approval of new drugs, (3) evaluating the investigational products particularly with respect to the safety (toxicity), and (4) carrying out orthodox pharmacoepidemiology researches including drug utilization studies, case-control studies, prescription-event monitoring, long term randomized controlled studies, pharmacoeconomic studies and so on.
著者
三木 竜介 髙原 大樹
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.25-33, 2022-06-25 (Released:2022-07-25)
参考文献数
5

神戸市では,科学的根拠に基づく保健事業の推進による市民サービスの向上を目指し,医療・介護のレセプトデータや健診データ等を連結・匿名化した「ヘルスケアデータ連携システム」を新たに整備し,2020年11月に運用を開始した.本システムには,国保・後期高齢者・生保医療レセプトデータ,国保・後期高齢者・生保健診データ,介護レセプトデータ,介護認定調査票,予防接種データ等,市民約60 万人分の公的データが,個人単位で連結された状態で格納されている.これらの連結されたデータは,研究目的であれば,学術機関に限定して無償で利用可能である.データ利用にあたっては,神戸市の倫理審査委員会の審査で承認を得る必要がある.提供されるデータセットは,研究内容に応じて必要最小限に形成され,個人が特定できないように匿名化処理が施されている. 神戸市はヘルスケアデータ連携システムに格納されたデータを,二つの用途で利用している.一つ目は,市民全体の健康状態や課題の把握,保健事業の効果検証である.比較的悉皆性の高いデータであることと,既存事業で収集されるデータであることが,市民の健康状態を永続的に追跡していく運用を可能にしている.二つ目は,学術機関へのデータの研究利用目的での無償提供である.公益性の高い研究が神戸市のデータを元に実施されれば,結果から得られる新しい知見を保健事業に反映させることができる.ひいては,科学的根拠に基づく保健事業の推進につながり,更なる市民サービスの向上が期待される.
著者
大賀 圭子 杉田 誉子 関 顕洋 本多 輝行 川口 源太
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
pp.26.e6, (Released:2021-07-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

医薬品の安全性監視活動は,すべての医薬品に対して実施する通常の医薬品安全性監視活動と,製品特異的な安全性検討事項に対して実施する追加の医薬品安全性監視活動からなる.通常の医薬品安全性監視活動の中においてシグナル管理は重要な部分であり,欧米では当局から規制およびガイダンス文書が発行されている.医薬品リスク管理計画の充実のため 2018年より活動を開始した日本医療研究開発機構(AMED)医薬品リスク管理計画(Risk Management Plan:RMP)研究班は,欧米のガイドラインおよび関連文献をレビューし,その考え方をまとめた.欧米のガイドラインにはシグナル管理の原則と手順に加えて,シグナル検出・評価の方法や実施において考慮すべき点,責任分担,当局内での活動結果の公表手順も記載されており,製薬企業を含めた公共に対する透明性が図られている.研究班では考え方をまとめるにあたって,まずは日本語のシグナル関連用語の定義一覧を作成した.また,これを基にシグナル検出からリスク特定に至る一連の活動を概念レベルで取りまとめるとともに,今後の日本のシグナル管理の在り方について考察した.
著者
石黒 智恵子 竹内 由則 山田 香織 駒嶺 真希 宇山 佳明
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.3-13, 2015-07-31 (Released:2015-09-18)
参考文献数
29
被引用文献数
5 3

独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)では,第2期中期計画(平成21~25年度)の柱の一つとして「医薬品の市販後安全対策の強化・充実」を掲げ,従来の副作用報告を中心とした評価に加え,電子化された診療情報データの二次利用による医薬品の安全性評価体制を構築するため,MIHARI Project -Medical Information for Risk Assessment Initiative を立ち上げた.第2期中期計画の目標は,各種電子診療情報へのアクセス基盤を整備し,薬剤疫学的手法を用いて医薬品による副作用のリスクを定量的に評価する体制を構築することであった.まず,データソースとして,レセプトデータ,病院情報システムデータ,DPC(Diagnosis Procedure Combination)導入の影響評価に係る調査用データ等の利用可能(アクセス可能)なデータベースを対象とし,それぞれの特性について評価した.そして,その特性に基づいて調査テーマを選択し,各種薬剤疫学的手法を用いた試行調査を実施するとともに,各種データベースの安全対策への活用可能性について検討し,平成25年度までに医薬品による有害事象のリスクを定量的に評価する体制を構築した.平成26年度からの第3期中期計画(~平成30年度)においては,厚生労働省およびPMDA内の各部署と連携し,電子診療情報を用いた調査および評価手法を実際の医薬品の市販後安全性評価へ積極的に活用していく「電子診療情報を用いた市販後医薬品安全対策の実運用の開始」および,厚生労働省とPMDAの共同事業として構築している医療情報データベース,厚生労働省が管理するレセプト情報・特定健診等情報(ナショナルレセプトデータベース)等を含む新規の電子診療情報データベースや新規薬剤疫学的手法を検討していく「副作用リスク分析手法の高度化」を目標に検討を進めることとしており,平成27年4月には,医療情報の安全対策への活用を推進するため,新たに医療情報活用推進室を設置し業務を開始した.本稿では,第2期中期計画における MIHARI Project 開始の経緯と目的,各種電子診療情報の特性,また,これまでに実施した試行調査の成果について述べたい.さらに,第3期中期計画での電子診療情報の安全対策への適用に向けた今後の取り組みについても紹介する.
著者
和田 一郎
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.63-70, 2021-06-20 (Released:2021-07-26)
参考文献数
8

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,社会の様々な領域に多大な影響を及ぼしている.わが国の政策の特徴を社会福祉や政策科学で活用されるアナロジー(analogy)の視点をもとに検討した.その結果,わが国の統計は実態を表していない,世界基準の政策対応ができない,現場の過酷な負担によりシステムが維持されている,地方自治体が国の政策と異なる方向性が取れる,非専門家が社会を混乱させる,集中投資や支援ができずに結果として他の分野に影響を及ぼすことが明らかになった.これを今回のCOVID-19 対応に適応すると,統計の課題,世界標準の政策対応ができない,政策の目的と手段が混乱する,人の命を軽視する世論誘導の増加,リソース不足により最適な対策が取れず悪化し他の分野に影響を及ぼすなどの課題となった.よって COVID-19 による社会への影響の被害にあった個人へのケアや補償が十分実施されず経済や社会の回復が遅れることが推測された.今後の対応として,一定レベル以上の感染症は災害として対応する,危機管理組織の設立と経験の蓄積,適切な統計情報の運用について提示し,危機になってからではなく普段からの準備を行い被害にあった方々の発見や支援等のシステムも併せて検討すべきと提言した.これらはすべて政治によって解決できるものである.つまりわが国の課題はすべて政治に集約できるため,政治による適切な政策が実行されない限り,現状の国民に過度に負担がかかる社会は長期的に続くと予測した.
著者
桑島 巖
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.67-74, 2019
被引用文献数
3

<p>ディオバン臨床研究不正事件とは,製薬会社ノバルティス社が発売する高血圧治療薬ディオバンの有効性を検証した 5 つの大規模臨床試験において論文不正が明らかになるとともに社員が統計解析などに深く関与していた事件である.本事件ではノバルティス社元社員が逮捕され,裁判になるという臨床研究の分野では極めて異例の事態にまで発展した.</p><p>裁判は,元社員の不正な関与と改ざん行為は認定したが,論文作成は法律で定める広告には当たらないとの解釈によって 1 審,2 審とも無罪となった. </p><p>本事件を契機として臨床研究法が制定されたが,事件の根幹にあるものは製薬企業と研究者の医療モラルの低下である.</p>
著者
今川 昌之
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.79-89, 2021
被引用文献数
1

<p>2019 年末に中国の武漢で報告された原因不明の肺炎は,その後の研究で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因の肺炎と判明し COVID-19 と命名された.その感染流行は瞬く間に全世界に拡大し,2021年1月時点で感染者数は 9,000 万人を超え,死亡者数は 200 万人を超えている.人類はペストやスペイン風邪以来の未曾有の危機を迎えており,前例のないスピードでワクチンや治療薬の開発を加速させることによって COVID-19 パンデミックの終息を成し遂げようとしている一方,Vaccine Hesitancy と呼ばれるワクチン接種を躊躇する動きもみられ,接種が思うように進まないことで集団免疫獲得へのハードルが高くなっている.また,将来に備え,新興・再興感染症が蔓延した際に輸入ワクチンのみに頼ることなく,自国でワクチンの研究開発・生産できる体制を構築することは重要な課題である.本稿では,これら課題及び解決策に対して,ワクチン産業及びプライベートセクターの立場から提言する.</p>
著者
宮内 秀之 米田 卓司 藤原 正和 馬場 崇充 宮澤 昇吾 本郷 良泳 北西 由武 小倉 江里子
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.15-26, 2021-06-20 (Released:2021-07-26)
参考文献数
25

目的:新たな作用機序を有する抗インフルエンザ薬である baloxavir marboxil(以下,baloxavir)のインフルエンザ外来患者における入院及び死亡の発生頻度について,既存の抗インフルエンザ薬であるノイラミニダーゼ阻害剤と比較検討した.研究デザイン:コホート研究方法:急性期医療機関由来のデータベースを用いて,2018/2019 年のインフルエンザシーズンにインフルエンザの診断日(Day 1)を有する 1 歳以上の外来患者を研究対象として抽出し,処方された抗インフルエンザ薬に基づき baloxavir 群,oseltamivir 群,zanamivir 群,または laninamivir 群に群別した.主要なアウトカムとして,Day 2〜14 の入院発生割合を集計し,入院発生の有無を応答としたロジスティック回帰モデルを適用し,年齢カテゴリーによる調整済みオッズ比を算出した.その他,死亡について入院と同様の解析を行った.結果:入院発生割合について,baloxavir 群(1.37%,223/16,309)は,同じ経口剤のoseltamivir 群(1.37%,655/47,843)と同程度であったが,吸入剤の zanamivir 群(0.77%,19/2,474),laninamivir 群(0.91%,234/25,831)よりもわずかに高かった.調整済みオッズ比(対照群/baloxavir 群)[95%信頼区間]は,oseltamivir 群,zanamivir 群及び laninamivir 群との比較において,それぞれ 1.125[0.961−1.317],1.173[0.726−1.897]及び 0.944[0.783−1.140]であり,差は認められなかった.死亡発生割合について,baloxavir 群(0.03%,n=5),oseltamivir 群(0.03%,n=16),laninamivir 群(0.01%,n=3)と同程度であった.一方,zanamivir 群には死亡の発生はなかったが,zanamivir 群の症例数が少ないことの影響が考えられ,他の抗インフルエンザ薬群と死亡発生割合に明らかな差はないと考えられた.結論:Baloxavir 投与によるインフルエンザ外来患者の入院及び死亡の発生頻度は他の抗インフルエンザ薬と同程度であり,インフルエンザ重症化を抑制する新たな選択肢として期待できることが示唆された.
著者
鈴木 英明 中村 富雄 原 泰久
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.65-73, 2006-02-15 (Released:2011-02-28)
参考文献数
24

As of April 2005, “Shihango-rinsyoushiken” defined in the GPMSP was renamed “Seizouhanbaigo-rinsyoushiken” in the revised regulations (GPSP). The relevant part of the GCP was also modified at the same time. Strictly speaking, therefore, post-approval clinical trials are not the same as postmarketing clinical trials. This report provides an explanation of post-approval clinical trials and the related regulations. It is generally considered that post-approval clinical trials, which help gather more clinical information, should be actively pursued for the further development of approved drugs in the post-marketing setting. However, the results of the questionnaire show that pharmaceutical companies are not willing to conduct them, mainly due to the high cost. To improve the economic efficiency of post-approval clinical trials, it is necessary to streamline monitoring activities that account for 40% of the cost.
著者
永井 洋士
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.87-93, 2019-08-27 (Released:2019-10-07)
参考文献数
5
被引用文献数
2

万人が願う医療の進歩には,新たな治療法の開発だけでなく,今ある治療法の最適化が必要なことは言うまでもない.両者を推進する手段が臨床試験であり,その成果は直接医療に還元されるが故,目の前の患者に不利益が無ければよいものではなく,未来の多くの患者にも不利益があってはならない.そのためには,実施する研究の科学性と信頼性を十分に確保する必要があり,国民に誤ったメッセージを与える研究は国民福祉上の脅威である. であるにもかかわらず,偽りのデータに基づいて論文が作成され,それを利用して大々的に自社薬の販売促進が図られたのがディオバン事件であった.当時,国やマスコミは犯人探しと企業の責任追及に躍起だったが,そのような問題の発生を許した背景として,わが国にはアカデミアで行われる臨床試験の信頼性を確保する科学の基本的ルールが欠如したことをよく認識せねばならない. 同事件をきっかけに,ようやくわが国でもアカデミア臨床試験の信頼性に関する議論が始まり,2018 年の臨床研究法の施行に至ったのである.臨床研究法によって,アカデミア臨床試験の信頼性はある程度向上するであろう.しかしながら,本法は外部との整合性や連携を十分に考慮しない法規制であり,本法の下で行われた研究でどんなに良い成果が得られても,それを具体的な国民利益に還元する仕組みがない.すなわち,薬機法との連携が無いため,本法下の臨床試験でどれだけ良い成績が得られても,医薬品・医療機器等の承認や適応拡大にはつながらないのである.換言すれば,この法律には臨床研究の成果を積極的に医療と国民福祉の向上に役立てようとする姿勢が見えないのである.そもそも臨床研究の原点は,たとえ目の前の患者は救えなくても,次の患者は救いたいという医療者の「心」である.今一度,その原点に立ち返り,医師とそれを支える医療者の「心」に報いる制度の確立を願って止まない.
著者
廣居 伸蔵 吉田 真奈美
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.41-47, 2018-05-31 (Released:2018-07-09)
参考文献数
10

2016 年より一定の条件を満たす医薬品・医療機器について費用対効果評価が試行的に導入された.費用対効果評価に必要なデータのうち,患者数や治療実態,評価対象技術や比較対照の費用や有害事象の発現率,合併症の罹患率およびそれぞれの費用については,既存の大規模な医療データベースの利活用によって推定することが可能である.日本の医療経済・アウトカム研究において,主に使用されているデータベースは,レセプトデータベースと,病院のデータベースとに大別され,製薬企業の立場から利用しやすい代表的なデータベースとして,それぞれ,株式会社日本医療データセンターの健康保険組合データベース,メディカル・データ・ビジョン株式会社の DPC 診療データベースがある.各データベースには特色があるため,分析に用いたデータベースの限界が研究結果にどう影響しうるかについて考察することが肝要である.これらのデータベースの限界を克服しうるデータベースとして,レセプト情報・特定健診等情報データベース (NDB) や MID-NET が挙げられる.しかしながら,これらのデータベースであっても,現状ではデータの充足性や一般化可能性に課題がある.また,利用者や利用目的が厳格に制限されているため,製薬企業の立場からは,利用するうえでのハードルが非常に高い.今後は制度化される費用対効果評価の目的においても,これらのデータベースが広く利用可能となることが望まれる.製薬企業では,今後急速に整備が進んでいく医療データベースにキャッチアップして,必要ならば複数のデータベースを組み合わせて,より妥当性のある分析をしうるリテラシー,能力を有することが喫緊に望まれる.これらは製薬企業のみで完結しうるものではなく,アカデミアや外部ベンダーと協働して,日本の費用対効果評価を含む医療経済・アウトカム研究を担う人材のキャリアプランを確立していくことが必要である.