著者
鴨志田 芳典 菊池 浩明
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.2156-2166, 2013-09-15

ボットによるアカウントの大量取得や,それにともなう不正行為への対策として広く用いられているCAPTCHAと呼ばれる機械判別方式は,コンピュータには判別が困難だが人間には容易である問題を利用することでプログラムによる入力と人による入力とを識別する.本稿ではOCR機能を持ったマルウェアやリレーアタック(クラウドソーシング)に耐性を持つCAPTCHAとして,ワードサラダと呼ばれるマルコフ連鎖による文章合成の不自然さを用いたCAPTCHAを提案する.提案手法への先にあげた攻撃と,文章校正を用いた攻撃に対する安全性の評価を行い,その改良方式を示す.さらに,日本語以外へ適用した実験結果を示す.The CAPTCHA is a widely used technique to prevent malicious software, called bot, from obtaining false account. It uses an easy problem for human but difficult for machines to distinguish an input made by a program and one by human. We have proposed a new CAPTCHA testing sentences synthesized from the Markov chain model, called "word salad", which is tolerant against malware with an OCR feature, or a "crowd sourcing" attack, called as "relay attack". In this paper, we estimate the security against the attack using proof-reading tool to distinguish the synthesized sentences, and present an improved protocol for the attack. Moreover, we show an experimental result of some languages other than Japanese.
著者
梶 克彦 磯村 奎介 高井 飛翔
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.235-245, 2021-01-15

歩行者のステップ認識は,屋内位置推定の一手法である歩行者自立航法(PDR)の構成要素として利用されているほか,歩数計・活動量計といったヘルスケアアプリケーションの根幹を担っている.ステップ認識には,歩行の際にセンサ信号が顕著に周期的な変化を示す加速度センサを用いるのが一般的である.我々はその代替として,角速度や磁気センサによって腰回転をとらえてステップ認識を行う手法を提案してきた.本稿では気圧センサを利用したステップの認識を行う手法について提案する.我々はスマートフォンを手持ちして意識的に腕振りをした場合,密閉型の腰巻きケースにスマートフォンを装着した場合,ズボンのポケットに装着した場合などについて,気圧センサの値が歩行にともなって周期的に変化する現象を発見した.この周期的な変化を,デジタルフィルタ・極値発見・閾値処理といった単純なアルゴリズムでとらえてステップ認識を行う.評価実験によって,推定誤差7.5%程度のステップ推定が可能であると確認できた.このような代替センサによるセンシングは,デバイスやシステム構成時に必要となるセンサ数の削減による省電力化,デバイス小型化,コンピュータリソースの開放につながる.たとえば活動量計は歩数や階段昇降といった情報から計算できるため,従来の活動量計はステップを加速度センサから取得し階段昇降は気圧センサから取得するが,本研究の成果を導入すれば,気圧センサのみによる活動量計の実現が期待できる.
著者
山崎 航 平石 広典 溝口 文雄
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.1932-1940, 2006-06-15

多くの現実的なコンピュータソフトウェアは,動的な側面を備えているが,この問題に対して,既存のアクセスコントロールメカニズムでは,十分に扱えないという現状にある.本論文では,動的なセキュリティポリシを扱うためのアクセスコントロールシステムについて述べる.我々が提案する方法は,RBAC(Role-Based Access Control)を基本としており,あらかじめコンテクスト情報と抽象ロールを用いて静的に定義されたルールを用いて,動的に具体的なロールを決定する.ルールを論理型言語による宣言的な表現で記述することによって,ユーザ,ロール,パーミッションに対して,双方向の問合せが可能となる.本論文では,プロジェクトマネジメントシステムのシンプルな例を用いることによって,提案する方法の有効性について議論する.
著者
小原 裕輝 中沢 実
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.246-253, 2021-01-15

単体のレーザレンジファインダ(LRF)を用いた人の検出手法は,貨物運搬ロボットなどに使われる.これらの検出では,入力が検出対象であるかどうかの判定に,hand-crafted特徴量と正であるか偽であるか分類する1クラス分類モデルを使用した手法が適用されている.本論文では,1クラス分類モデルへの入力をhand-crafted特徴量ではなく,深層学習モデルによって生成された特徴量に置き換えた手法を提案する.実験では,hand-crafted特徴を使用した手法との検出率の比較を行い,パフォーマンスが一部向上したことを示す.また,ロボットの利用など実応用のために,Jetson Nanoを使用して提案手法の処理速度の評価を行い実用可能性を評価した.
著者
梅田 三千雄
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.796-804, 1999-03-15

日本の苗字が備えている種々の性質を明らかにすることを目的として 苗字データベースを作成し その計量的分析を行った. ここでは より普遍的なデータの収集をねらいとして 約7.1万個から成る日本の苗字データベースを作成した. このデータベースをもとに 苗字に出現する文字の種類や頻度 文字位置とそこに出現する文字の種類など 文字と文字連接に関する統計データを求めた. これより 日本の苗字には文字位置によって 出現する文字の種類とその頻度に大きな偏りのあることが明らかになった. さらに 実際の使用頻度を考慮した分析として 市販の電話帳データベースを利用した検索により 苗字の使用頻度 苗字ならびに文字と文字連接のエントロピーなどを測定した. これより 苗字のエントロピーは英単語のそれにほぼ等しいことが明らかになった. また ここで得られた苗字の諸性質は 宛名や個人情報の文字認識において 苗字部分の文字切り出しでの知識として利用したり 認識対象文字の種類を決定 限定したりするのに利用することが可能であり 認識精度の向上につながることが期待される.In this paper, Japanese family names database is constructed and several characteristics of Japanese family names are extracted from this database to be utilized in the process of characters recognition. This database contains 71452 kinds of Japanese family names. For example, one to six characters are used in family names and 80% of names consist of two characters. All Japanese family names are composed of 3796 character categories. There are 1400 character categories which are used more than 10 times in the names. When 1000 character categories are selected in order of appearance frequency, the rate of those characters used in the names is to be 92%. The 84% of all the family names are perfectly constructed by high frequency 1000 characters. Furthermore, by accessing Japanese telephone numbers database, some characteristics of family names considered the usage frequency are extracted samely. From these metrical analysis, the lack of precision in the pattern recognition algorithm can be recovered by using such characteristics of Japanese family names.
著者
寺田 松昭 高木 悟 樫尾 次郎 安元 精一 伏見 仁志 中西 宏明
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.219-227, 1985-03-15

近年計算機制御システムの大規模化が進み 計算機間のデータ転送性能の向上が強く求められている.筆者らは 先に前置処理装置(FEP)によって データ転送性能を向上する方式をとりあげ FEPの方式提案(FEP I)と性能向上度合の実験的評価とを行った.本論文では FEP Iで問題になったハード量を削減するため 新しいFEPの方式提案(FEP II)と実測およびシミュレーションによる性能評価とを行っている.(1)ハード量削減のため FEPを1台の高速マイクロコンピュータで構成し 多数のコマンドを同時に処理する.(2)性能を向上するため FEPのソフトウェア構造をコンパクトなスケジューラのもとで動くマルチタスク構造とし 処理の並列化を行う.(3)この方式を満たすFEPをビットスライスマイクロプロセッサを用いて開発し 性能をシミュレーションで求め マイコン1台でも十分な性能が得られることを確認している.
著者
鳴海 拓志 伴 祐樹 梶波 崇 谷川 智洋 廣瀬 通孝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.1422-1432, 2013-04-15

本研究では,拡張現実感を利用することで満腹感の手がかりとなる要因を操作し,同量の食事から得られる満腹感を操作する「拡張満腹感」システムを提案する.近年の心理学や行動経済学等の研究の進展により,食事から得られる満腹感は,食事そのものの量だけでなく,照明環境や環境音,盛りつけや見た目の量,一緒に食べる人数等,食事の際の周辺の状況に暗黙のうちに大きく影響を受けることが明らかになってきている.こうした知見に基づき,食事そのものを変更するのではなく,満腹感に寄与する要素に対する知覚を変化させることで,満腹感と食事摂取量の非明示的な操作が可能になると考えた.そこで,満腹感に影響を与える要素の1つである食品の見た目の量に着目し,リアルタイムに視覚的な食事ボリュームを変化させてフィードバックする拡張満腹感システムを構築した.このシステムでは,デフォーメーションアルゴリズムであるrigid MLS methodを利用して食品を握る手を適切に変形することで,手のサイズは一定のまま,対象となる食品のみを拡大・縮小することができる.実験により提案システムがユーザの食品摂取量に影響を与えるかを評価したところ,得られる満腹感は一定のまま食品摂取量を増減両方向に約10%程度変化させる効果があるという結果が得られ,提案システムが無意識的に満腹感を操作し,食品摂取量を変化させる効果があることが示唆された.
著者
平 博順 春野 雅彦
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.1843-1851, 2002-06-15
参考文献数
24
被引用文献数
5

本論文では,トランスダクティブ・ブースティング法によるテキスト分類手法を提案する.テキスト分類器の学習に使用する大規模な訓練データの作成にはコストや時間がかかる.そのため訓練データが少ない場合にも高い分類精度が得られる学習法が求められている.トランスダクティブ法は学習の際に訓練データだけでなく,分類クラスの付与されていないテストデータの分布も考慮に入れることにより分類精度を上げる方法である.本論文ではこれをブースティングに対し適用し,実験を行った.その結果,従来のブースティングによる学習に比べて高精度のテキスト分類器を学習できた.特に少数の訓練データしかない場合にも高い精度が得られた.This paper describes a new text categorization method using transductiveboosting. It is time-consuming and expensive to assemble a large corpus of categorized textfor use with learning-based classification methods.Therefore, we require learning methods that are able to learn classifiersextremely accurately from a small quantity of training data.The transductive method takes account of bothtraining data and test data distribution and provides a highly accurate classifier.We adopt a transductive method in a boosting algorithm for text categorization. The categorization performance was better than that of the original boosting.Specifically the performance wasimproved significantly for small quantities of training data.
著者
上村 和人 清水 俊幸 石畑 宏明 堀江 健志
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.1569-1577, 1995-07-15

LINPACKベンチマークに並列化とベクトル化を施し、NCA付きAP1000を用いて性能を評価した。LINPACKの並列化では負荷が均等でかつデータパラレル実行が可能となるようにデータを分散させ、ブロッキングを施すことによって行列積演算や外積演算といったベクトル化が容易でかつ高い性能が得られる演算に帰結させた。理論ピーク性能に対して、単体実行時で61%、並列実行時で47%の性能が得られた。また、1000×1000の行列を解く場合、NCAを付加した16セセルで、NCAを付加しない128セルのAP1000とほぽ同等の性能が得られた。
著者
川谷 隆彦
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.1903-1917, 2006-06-15
参考文献数
14
被引用文献数
8

本論文では多文書間の共通性分析に基づく非階層的な文書クラスタリング法を提案する.文書クラスタリングにおいては,同じ話題を有する文書がグループ化されるので同じクラスタに属する文書にはなんらかの共通性が存在するはずである.また各話題には特有の単語や単語対が存在する.提案手法ではこのような点に着目し,文書・クラスタ間の類似度を,対象文書とその時点のクラスタに含まれる文書の共通情報との間で,単語の生起情報ばかりでなく共起情報も用いて定義する.また,話題特有の単語や単語対を用いて類似度を算出し,複数の話題に共通する情報の影響を排除する.提案手法ではクラスタは1 つずつ検出され,しかるべき方法で抽出された種文書と同じ話題の文書をマージさせつつ順次クラスタを成長させるという処理が繰り返される.TDT2 のコーパスから選択した21イベント6 788 文書,31 イベント7 306 文書,38 イベント7 546 文書のそれぞれに対し,検出クラスタ数21,30,36,クラスタリング精度95.17%,95.09%,94.82%を得た.また,上記の38 イベント7 546 文書に対するkNN(教師ありの分類法)の分類精度は97.02%であり,提案手法は教師なしでありながら,教師ありの分類手法に近い精度が得られることが確認された.This paper proposes a flat clustering method based on multi-document commonality analysis. In document clustering, documents with the same topic are grouped into a cluster so that documents in the cluster have certain commonalities. Furthermore, any topic has its own specific terms and term-pairs. Based on these aspects, the proposed method defines the document-cluster similarity between the given document and common information among the documents in the cluster. The similarity features that it uses not only term occurrence information but also term co-occurrence information. The similarity is obtained using specific terms and term-pairs of the cluster to avoid any impact from terms and term-pairs shared by two or more topics. The cluster seed grows by merging documents with high similarity into the current cluster. Through experiments using TDT2 as a corpus, it was confirmed that a proper number of clusters is obtained and that documents are assigned to clusters with high accuracy.
著者
田中 一晶 和田 侑也 中西 英之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.1228-1236, 2015-04-15

離れた場所にいる人同士の身体接触を再現する触覚提示デバイスが多くの先行研究で提案されており,そのようなデバイスを介した遠隔接触によって相手が近くにいる感覚,つまりソーシャルテレプレゼンスが得られることが示唆されている.しかし,映像と音声でのコミュニケーションが可能なビデオ会議において遠隔接触が有効に働くかどうかは明らかにされていない.本研究では,リアルな接触感覚を再現する握手用ロボットハンドを開発し,ビデオ会議端末に取り付けて遠隔握手の分析を行った.触覚とユーザの映像を両方提示するインタフェースを検討するうえで,ユーザとデバイスとの接触動作を映像で提示する必要があるか,遠隔接触を双方向で行う必要があるかという疑問が生じる.これらの疑問を実験的に検証した結果,接触動作を提示する必要性は示されなかったが,双方向性はソーシャルテレプレゼンスを強化することが分かった.さらに,最も効果的であった遠隔握手のインタフェースと通常のビデオ会議を比較した結果,遠隔握手はソーシャルテレプレゼンスを強化し,相手に親近感を与えることが分かった.A lot of haptic devices that reproduce touch between remote people are proposed in previous studies. Some studies suggested that mediated social touch via such devices produce the feeling of being close to a conversation partner, i.e. social telepresence. However, in videoconferencing in which users communicate with video and audio, it has not been clarified whether social touch still works effectively. In this study, we developed a robot hand which moves according to user's hand, and attached it to a videoconferencing terminal to analyze remote handshaking. Considering the interface which presents haptic sensation and user's video raises questions as to whether the partner's action of touching a haptic device should be displayed and to whether social touch should be bidirectional. As a result of experiments to confirm these questions, the bidirectional touch enhanced social telepresence but not need to display the touch action. Furthermore, the result of comparing the most effective interface of remote handshaking and a normal videoconferencing showed that remote handshaking enhanced social telepresence and gave the partner a sense of intimacy.
著者
二村 良彦 川合 敏雄 堀越 彌 堤 正義
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.259-267, 1980-07-15

「コーディングは流れ図の作成から始まる(Coding begins with the drawing of the flow diagrams.)」と言ったのは 1940年代のGoldsteinとNeumannだった.それ以来今日まで プログラムを書く前に流れ図 すなわちフローチャートを書くことが 多くのプログラマの習慣になってきた.ところが 高級言語が発達したり 構造化プログラミング技法が普及するにつれ フローチャートの欠点が目立つようになった.フローチャートに構造化プログラミングやプログラムの段階的改良(Stepwise Renfinement)の考えを取入れた図式としてはNSチャートやFerstlチャート等が提案された.また フローチャートを使わずに 直接 PASCAL 等の構造化プログラム言語やPDL等のシュードコードでプログラムの論理を記述することも提案されている.しかし これ等はフローチャートほどには広く使われていない.われわれは PAD(Problem Analysis Diagram すなわち問題分析図)と呼ぶ2次元木構造をした図面によりプログラムの論理を記述する方法を提案してきた.そして 多くの機種(プログラマブル電卓から大型計算機まで)に対する各種(OS アプリケーション等)のプログラムの開発を使用してきた.PADは ワーニエ図の問題点を改良するために (1)制御構造を強化し (2)図式から直接コーディングできるようにし さらに (3)ハードウェアの図面のような体裁を持つように図式を改良したものである.結果的には PADは 構造化プログラムを2次元的に展開した図式になった.特にPADが標準的に備えている制御構造はPASCALに基づいて定めてあるので PADはPASCALプログラムを2次元的に展開したような図式であり PASCAL Diagzamと言うこともできる.
著者
高村 大也 乾 孝司 奥村 学
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.627-637, 2006-02-15

単語の感情極性(望ましいか否か)を判定する方法を提案する.提案手法では,単語の感情極性を電子のスピンの方向と見なし,語釈文,シソーラス,コーパスによって構築された語彙ネットワークをスピン系でモデル化する.平均場近似を利用してスピン系の状態を近似的に求めることにより,単語の感情極性を判定する.また,系の状態に影響を与えるハイパーパラメータの予測方法も同時に提案する.提案手法を用いてWordNet に収録されている語彙に対して実験を行い,14 語という少数の単語を種とした場合は約80%の正解率で,3 000
著者
飯尾 淳 鵜戸口志郎 小山 欣泰 長谷川 祐子
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.2624-2634, 2012-11-15

健康維持を支援するウェブアプリケーション「イートスマート」は,会員(ユーザ)のダイエット活動をサポートする機能として食事や運動の記録はもとより日記やコメントといったユーザ同士のコミュニケーション機能を提供する.これらの機能はダイエットに効果的な影響を及ぼす.しかし同コミュニティに参加しているユーザの間でも,ダイエットに成功したユーザと成功していないユーザに分かれているという状況が見られる.そこで本研究では,それぞれのユーザによる情報の記録内容を分析することによって,効果的にダイエットを成功させるためには何が重要かを明らかにすることを試みた.その結果,やはりダイエットの成否を分ける潜在的な意識や意欲は記録に明示的に現れること,および,ダイエット支援サービスをより効果的なものとできる可能性が明らかになった.
著者
金藤栄孝 二木厚吉
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.770-784, 2004-03-15
被引用文献数
1

Dijkstraのgoto文有害説とそれに引き続く構造的プログラミングの提唱以降,goto文の使用に関する問題は長く議論されてきたが,goto文の使用法に関しての理論的裏付けを持つ研究としては,逐次的プログラムの制御フローは3基本構造(順次接続,条件分岐,反復)のみで表現可能であるからgoto文を用いたプログラムは3基本構造のみによる等価なプログラムに書き換えられる,という結果に基づいたMillsらのgoto文排斥論以外は皆無であり,Dijkstra本来のプログラムの正しさを示す手段としてのプログラムの構造化という観点でのgoto文の使用の是非は,プログラム検証論の立場から考察されなかった.本論文では,プログラムの正しさを示すという検証手段としてのHoare論理に基づきgoto文の使用を再検討する.特に,多重ループの打ち切りの場合,goto文を用いて脱出するプログラミングスタイルの方が,Mills流のBoolean型変数を追加してループを打ち切るスタイルよりも,Hoare論理での証明アウトラインが簡単に構成でき,したがって,前者のgoto文を用いたプログラミングスタイルの方が,そのようなプログラムに対するHoare論理による検証上からは望ましいことを示す.There have been a vast amount of debates on the issue on usages of goto statements initiated by the famous Dijkstra's Letter to the Editor of CACM and his proposal of ``Structured Programming''.Except for the goto-less programming style by Mills based on the fact that any control flows of sequential programs can be expressed by the sequential composition, the conditional (If-Then-Else)and the indefinite loop (While), there have not been, however, any scientific accounts on this issuefrom the Dijkstra's own viewpoint of verifiability of programs.In this work, we reconsider this issue from the viewpoint of Hoare Logic,the most standard framework for proving the correctness of programs, and we see that usages of goto's in escaping from nested loops can be justified from the Hoare Logic viewpoint by showing the fact that constructing the proof-outline of a program using a goto for this purpose is easier than constructing the proof-outline of a Mills-style program without goto by introducing a new Boolean variable.
著者
後藤 真孝 根山亮
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.299-309, 2002-02-15
被引用文献数
19

本論文では,Internetのような広域ネットワークを経由して,不特定多数のユーザが遠隔地間でジャムセッションできるシステムOpen RemoteGIGを提案する.本研究は,物理的に1カ所に集まらなくても,音楽的なインタラクションを楽しむことができるセッションを実現することを目的とする.従来,遅延の小さいネットワークを介したMIDI中継は実現されていたが,遅延の大きいInternet等を介した双方向のMIDI中継によって,調性とリズムのある音楽を合奏することはできなかった.そこで本研究では,不可避な遅延を積極的に利用した,調性とリズムのある音楽のための新たな形態の遠隔セッションシステムOpen RemoteGIGを実現した.Open RemoteGIGでは,同一のコード進行(12小節のブルース進行等)の繰返しを,テンポ一定で演奏することを前提として,遠隔地にいる複数の演奏者がInternet経由のセッションを行う.演奏者は,お互いの演奏をコード進行の1周期の整数倍の時間だけ遅れて聞き合いながら,即興演奏する.コード進行は繰り返すため,遅延した演奏は再び同じコードとなり調和する.さらに,Open RemoteGIGは,演奏相手の発見環境や打合せ用のチャット機能も提供する.MIDI中継は音楽用通信プロトコルRMCPに基づいて実装され,実際に遠隔地間で提案したセッションをできることが確認された.This paper describes a distributed session system called {\it Open RemoteGIG\/} which enables widely distributed musicians to join a worldwide jam session by using the Internet.Our goal is to have musicians participating in a truly interactive jam session without getting together physically.Although MIDI transmission via small-latency networks has been tried, performing a distributed jam session with tonality and rhythm has been considered difficult when we use a long-latency public network like the Internet.We therefore developed an innovative distributed session system for music with tonality and rhythm, {\it Open RemoteGIG}, which turns the long inevitable network latency to its advantage.In Open RemoteGIG, distributed musicians can interact over the Internet under the assumption that the tempo is constant and the chord progression is repetitive, like that of 12-bar blues.Each musician can improvise while listening to the others' performances that are intentionally delayed for multiples of the constant period of the repetitive chord progression; the delayed performance can fit the chords because the progression is repetitive.Open RemoteGIG also supports a musician-finding and group-chatting environment.The MIDI transmission was implemented by using a music network protocol called {RMCP} and we confirmed that the proposed distributed session was achieved.
著者
首藤 一幸 関口 智嗣 村岡 洋一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.1570-1582, 2003-06-15

IA-32プロセッサは,IEEE 754準拠であるにもかかわらず,ある浮動小数点演算に対して他のプロセッサとは異なる結果を返す.IA-32プロセッサ上で他のプロセッサと同一の演算結果を得るための対処をJava Just-in-Timeコンパイラに実装した.倍精度数の演算ではストア--リロードとスケーリングを行う必要があるが,単精度数の演算では丸め精度を倍精度としたままストア--リロードだけ行えば十分であることが明らかになった.また,いくつかの実装方法について性能への影響を調べたところ,スケーリング専用命令ではなく乗算命令を用いることで性能の低下幅は約40%にまで抑えられることが分かった.
著者
木浦 幹雄 大平 雅雄 上野秀剛 松本 健一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.204-215, 2010-01-15

本論文は,動的なインタフェースを持つWebサイトにおけるユーザ行動の把握を支援するシステムWebjigを提案するものである.従来システムは,Webブラウザに表示される内容に着目しないため,動的に変化するWebサイトにおけるユーザ行動の把握が難しいという問題があった.本論文で提案するWebjigは,WebサイトのDOM(Document Object Model)を解析することで,Webブラウザに表示されている内容の動的な変化を記録・可視化することができる.実務経験者を被験者とした実験の結果,従来システムでは発見できなかったWebサイトの問題点を発見することができた.In this paper, we propose a recording/visualization system of user behaviors on a dynamic Web site for usability evaluation. Several existing systems only record histories of user's operations without output displayed on a Web browser. Hence, understanding of user's behavior in a dynamic Web site is quite difficult. Our system called Webjig records sequential changes of browser output by analyzing DOM (Document Object Model) used in aWeb site. Using three subjects with over 5 years industrial experience of Web site development, we experimentally evaluated the effectiveness of the Webjig. As a result, we have observed that developers could found usability issues from user behaviors recorded by Webjig.
著者
是川 空 小谷 善行
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.1617-1624, 2012-06-15

本研究ではパズルの思考過程のモデル化の研究として,四川省と呼ばれる麻雀牌を利用したパズルの難易度推定を行う.これは四川省パズルの問題に対して,計算機によって算出された状態空間が持つ特徴量と,人間が実際に問題を解いているときの正答率や解答時間などの難易度に関わる項目との間にどのような相関があるかを測るものである.四川省パズルの持つ状態空間は解状態への経路を持つ状態と持たない状態の2つに分割することができる.解状態への経路を持つ局面をsolvable局面,持たない局面をunsolvable局面と定義し,問題から局面構造の特徴として平均可能手数,solvable局面とunsolvable局面の割合,平均unsolvable遷移パス割合,unsolvable局面空間の最長経路の4種類の特徴量を抽出した.それに対し人間のパズルを解く思考過程を得る方法として,Web上に四川省プログラムを設置しデータを収集した.収集されたデータから各問題に対する解答時間と正答率に対する難易度指標値を算出した.問題から得られた特徴と収集したデータから算出した難易度指標値の間の相関を測るため,回帰分析によって特徴から難易度指標値を推定する予測式を得た.この結果より平均解答時間を推定するには平均可能手数が大きく寄与していることが分かった.一方で正答率は平均可能手数に加え状態空間構造の特徴を回帰式に導入することで相関が向上した.
著者
中島 秀之
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.180-186, 1984-03-15

Prolog/KR は知識表現用言語として フレーム理論と述語論理を統合し 統一的な視点のもとに見なおすために設計・開発した言語である.また 総合的なプログラミング・システムとしての機能も備えている.フレーム理論に基づいた言語は 知識表現に必要なさまざまの概念を実現する機能をもっている反面 手続き的記述の面が弱い.一方 述語論理に基づいたPrologは 後者は申し分ない(セマンティクスが述語論理で与えられている)が 前者の機能に欠ける.Prolog/KR は Prologを基本とし その弱点を補強するとともに フレームを実現する機能として多重世界を導入した.これにより 概念の階層構造やそれらの間の述語の引き継ぎ等が記述できるようになった.