著者
宮崎 智己 伊原 彰紀 大平 雅雄 東 裕之輔 山谷 陽亮
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.2-11, 2018-01-15

オープンソースソフトウェア(OSS)開発はオンラインでの非対面コミュニケーションを通じた協調作業を基本とする.OSSコミュニティに参加する開発者が快適に継続的に活動を行うためには,開発者がお互いを配慮するためのコミュニケーション上の工夫(本研究におけるPoliteness)が必要になると考えられる.本研究では,Politenessを定量化するためのツールを用いて,OSS開発における膨大な量のコミュニケーションデータからPolitenessを数値化し,開発者のPolitenessと活動継続性との関係を分析する.Apache HTTP ServerおよびPythonプロジェクトを対象とするケーススタディを行った結果,開発者自身のPolitenessと活動継続性には一定の関係があることを確認した.本研究で得られた知見は,開発者の離脱を予防・阻止するための方策を立案することに役立てることができる.Developing open source software (OSS) is collaborative in nature through non-face-to-face communication online. Developers joining an OSS community would be necessary to make communicative considerations (Politeness in this paper) to each other, in order to comfortably continue their efforts for long periods of time. In this study, we analyze the relationship between Politeness and developers' continuous activities, using large-scale communication data in OSS development and a tool to measure Politeness quantitatively. As a result of our case study on the Apache HTTP Server and Python projects, we found that there exists a certain relationship between Politeness and developers' continuous activities. We believe that the findings in this study could be useful to plan a step to prevent long-term developers from leaving an OSS project.
著者
小野 芳彦
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.404-414, 1990-03-15
被引用文献数
2

2ストロークコード入力であるTコードの使い勝手を良くし また実務に就くまでの練習期間を短くするために 二つの補助入力方式を開発した.一つは字単位の合成を行うもので Tコードで入力した2文字の字形を組み合わせてその字形をもつ漢字を入力フロントエンドが探索することによってコード化されていない文字でも入力できるようにしたものである.JIS X 0208の全漢字について字形を二つの部品に分ける試みを行い 2文字から直接 あるいはその部品から間接に合成を行って目的の漢字を検索するアルゴリズムを実現した.これは 従来の字形入力がもつコードの重なりを極端に低くしている.もう一つはコード化入力方式に熟語のカナ漢字変換機能を融合したもので 被変換表記にTコードで入力できる漢字を交ぜるようにした方式である.これによってカナ漢字変換の欠点である同音語の選択の濃度を低くでき 変換結果を目視しないで打鍵を続ける可能性を高くした.通常の設計では辞書の大きさが数倍にふくれるのを コードの習得グレード別の辞書を作るという方式で押さえている.
著者
齊藤 鉄也
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.315-322, 2018-02-15

本論文では,古典籍に用いられている仮名字母の出現傾向を利用し,その資料の書写者の推定や年代の推定を行った調査結果を報告する.具体的には,書写者や年代ごとに資料を分類することを目的に,同音の仮名字母の出現頻度率を特徴量とし,藤原定家とその近親者や側近の人物が書写した資料の調査を行った.その結果,定家筆の一部の資料が,他筆の資料と分類できる可能性があること,定家筆の資料の中では,年代が近い資料が分類できること,が明らかになった.本提案手法により,古典籍の資料の書写者の推定や年代の推定を行い,古典籍の研究の基礎となるデータの蓄積とそれを活用した研究の進展が期待できる.
著者
小谷 亮太 綱川 隆司 西田 昌史 西村 雅史
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.306-314, 2018-02-15

本稿では,日本語文書中の語句に,Wikipedia記事へのリンクを付与するwikificationタスクにおいて,リンク付与に値する重要な語句等を選択するアンカー抽出器について検討を行う.本研究ではWikipediaにおけるリンクのガイドラインに準じたアンカー抽出基準をベースに,文書に適度にリンクを付与してWikipedia記事と結び付けることにより,文書の理解の可能性を高めることをねらいとする.日本語におけるアンカー抽出に有効と考えられる素性として,アンカーの前接語・後接語との関係をとらえた素性,および共起するアンカーの条件付きkeyphraseness素性の利用を提案する.また,一般的な日本語文書に対するアンカー抽出器の性能評価を行うため,日本語Wikificationコーパスに対して本研究で定めたアンカー抽出基準に従ってアンカー抽出作業を行い,評価用コーパスを構築した.評価実験により,提案した素性を既存手法に加えることで性能が改善することが示された.また,評価用コーパスを用いた実験では,正解率においてアンカー抽出作業者の2者間一致率の平均と同程度の性能が得られていることを確認した.
著者
耒代 誠仁 高田 祐一 井上 幸 方 国花 馬場 基 渡辺 晃宏 井上 聡
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.351-359, 2018-02-15

古文書の研究者にとって,古文書デジタルアーカイブの活用を促すことは重要な課題である.本論文では,字形画像をキーとした横断検索技術による古文書Webデジタルアーカイブ活用への効果について述べる.字種は文書に対する現実的な検索キーの1つである.しかし,古文書において字形との対応は必ずしも確定しない.この課題を解決するために,私たちは字形画像をキーとした古文書Webデジタルアーカイブの横断検索を実装した.5カ月間の実験で入力されたキー数は合計で200,000件を超えた.これは字種による横断検索の件数と比較しても十分に大きい.また,私たちは古文書解読の専門家による評価実験を実施した.専門家は,使いなれた画像処理ソフトウェアを搭載したPCもしくは筆者らが作成した画像処理ソフトウェアを搭載したiPod Touch,またはその両方を使用した.「検索結果にキーと類似した画像が含まれるか」という旨の質問に対しては,すべての専門家が肯定的な回答を示した.検索精度と使い勝手の向上,および字形テンプレートの整備を通した活用のさらなる促進は今後の課題である.
著者
長谷川 秀彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.402-410, 1989-04-15

本論文では帯行列を係数とする連立一次方程式の直接解法を検討した.方程式を少数回解く場合には帯ガウス 同一の係数行列に対して右辺の計算を繰り返す場合にはMartin とWilkinson の帯ガウス 係数行列が対称正定値ならば対称帯ガウスが良く 大規模問題用のプログラムヲ作成するうえではメモリ参照に注意を払う必要があった.ベクトル計算機デ高速化をするためには並列に実行される演算パイプに対して必要なロード・ストアパイプが少ない2段2行同時のアンローリングが良いベクトル計算機やIAPでは高速化のために制限三項演算の適用が必須だが コンパイラにはそれが識別できないこともあるので注意が必要である.またメモリとレジスタ間の無駄なデータのやりとりを減らすことも重要な点である.高速化手法の適用をコンパイラだけに期待するのは難しく アルゴリズムから検討しなおす必要があった.陽アンローリングはプログラムを複雑にするが 結果として得られたプログラムはベクトル計算機と汎用計算機の両方で高速に実行が可能となる.より多重のアンローリングは保守の問題を考えると問題である.本論文に述べられたこれらの高速化手法は精度を悪化させず しかも汎用的である.
著者
西田 知博 原田 章 中村 亮太 宮本 友介 松浦 敏雄
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.8, pp.2736-2747, 2007-08-15

制御構造などのプログラミングの基礎を短時間で習得することを目指したプログラミング学習環境PEN を開発した.本論文では,PEN の実装とその評価について報告する.PEN では,大学入試センターなどの入試で用いられている言語を用いているので,付加的な説明を行わなくても容易にプログラムが理解できる.また,プログラムの入力補助機能を備えることで,プログラム作成時の誤りの混入を減らすことに寄与している.また,ステップ実行機能,スロー実行機能,変数表示機能などにより,プログラムの動作を観察しやすくしている.授業実践のアンケート結果から,PEN は初学者におおむね好評であることを確認した.また,JavaScript を用いた授業との比較では,自己評価と試験による分析の結果,双方ともPEN を用いたクラスの方が理解度が高くなり,プログラミングの入門教育環境としてのPEN の有用性が示唆される結果が得られた.
著者
藤田 邦彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.745-753, 2017-03-15

自分自身の個人情報や所属する組織の秘密情報など,自身の管理する情報を不適切に開示する事例が増えつつある.不適切な開示を防止する対策の実施は,当該情報を管理する主体の行動に依存する部分が大きい.本研究では,開示する主体は,開示によって得られる利得と損失をそれぞれの量と確率を勘案して比較し,開示するか否かを意思決定すると仮定しモデル化を行う.このモデル化により,自身の管理する情報の不適切な開示の防止の対策実施に資する貢献が期待できる.本研究ではモデル化に際し,行動経済学において人がどのようにリスクをともなう決定を行うかを説明する理論であるプロスペクト理論を援用する.そして,本研究で提案するモデルを,電子商取引サイトの決済手段の選択の例と,組織の秘密情報を持ち出すか否かの意思決定の例に適用し,適用の結果と,他のアンケート調査の結果の整合性を検討することにより,提案モデルの有効性を評価する.The cases of inappropriate disclosure of information being managed by oneself such as personal information of one's own and secret information of organizations are increasing. Preventing inappropriate information disclosure depends on the behavior of the subject who manage the information. In this paper, I assume that the subject who discloses the information compares quantity and probability with respect to gains and losses by disclosing the information and makes a decision. This modeling can be expected to contribute preventing inappropriate information disclosure. In this paper, I apply the prospect theory, which models how people make decisions with monetary risk. I apply the proposed model to two case examples. One is to decide means of settlement in electric commerce cite, and the other is to to decide whether or not taking the secret information outside of the office. I evaluate the effectiveness of the proposed model by considering the consistency between the result of applying the model to two cases and the result of questionnaire surveys being conducted by other organizations.
著者
庄司裕子 堀 浩一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.1387-1400, 2001-06-15
被引用文献数
9

実購買行動で生じる消費者と店員との対話を分析した結果,購買時の意思決定プロセスにおいては,適切なタイミングで適切な情報が付与されることによって注目点が変化し,結果として意思決定がなされる場合が少なくないことが見い出された.このような「思考のジャンプ」ともいえる現象は,設計などの創造的活動や概念形成において観察される現象と共通するものである.したがって,創造性支援システムにおいて得られる効果は,オンラインショッピングシステムのインタフェースでも同様な役割を果たすと期待できる.欲しいもののイメージが曖昧なユーザの購買時の意思決定を支援する機能を付加することによって,このような(曖昧な要求しか持たない)消費者層に対して効果的なオンラインショッピングシステムのインタフェースを実現できるのではないか.本稿では,これらの仮説と,それを検証するための実験の試みについて述べる.Analyzing protocol of communication between customers and salesclerks in actual purchase activities, we have found that appropriate information given by the clerk in a timely manner often causes the customer's focus to be changed to lead him/her to make a decision on what to buy.This, so to speak, ``leap in thought'' phenomenon is similar to one often observed in creative activities such as designing or concept formation.Therefore, the effect provided by the creativity support systems can be expected to play a similar role also in online-shopping system interfaces.Features for assisting customers' decision making may enable the construction of online-shopping system interfaces which are useful for customers without clear image of what they want.This paper will describe these hypotheses and an attempt of experiment to verify them.
著者
田中 哲朗 岩崎 英哉 長橋 賢児 和田 英一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.9, pp.2122-2131, 1995-09-15
被引用文献数
7

多くの漢字は偏や旁などの基本的な部品の組合せからできている。本論文では、このことを利用して、漢字を具体的な座標を含まない抽象的な組合せ情報で定義しておき、プログラムによって部品を組み合わせてフォントを生成する方法を提案する。各部品は組合せによって大きさが変化するので、通常は様々な大きさの部品を用意しないと組み合わせて使うことができない。しかし、線の太さを自由に変えることのできるスケルトンフォントを使えば、あるサイズでデザインした部品をサイズを変更して使うことができる。そこで、本研究では論文(1)で提案した複数書体に対応可能なスケルトンフォントの形式で部品のデザインを表現する。組合せの種類として、横方向、縦方向、片方の部品の空白部分に他方の部品を配置する嵌込みが考えられる。JIS X0208に含まれるすべての漢字をこの3種類の組合せで表現して、最初の2つの組合せを扱うだけでもある程度デザインコストを減らせるが、嵌込みを扱うと更に効果があることを確かめた。また、未知の漢字が現われた時に、既知の部品の組合せだけで表現できる可能性を、JIS X0212の漢字の何割がJIS X0208の漢字の部品で表現できるかによって見積もった。表現した漢字を表示、印刷するためには組合せアルゴリズムが重要である。そこで、一番容易な横方向の組合せを実現するために単純な方法をいくつか実装し、評価をおこなった。その中でもっとも良かった組合せアルゴリズムをもとに縦方向、嵌込みのプログラムを実装し、JIS X0208とJIS X0212のフォントセットを作成した。これが単純なアルゴリズムで作成されたものにもかかわらず、ある程度の品質に達していることを確かめた。
著者
佐藤 直之 藤木 翼 池田 心
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.2337-2353, 2016-11-15

本稿は「戦術的ターン制ストラテジー」という,チェスや将棋と似た形式でアプローチしやすく,また同時に3つの興味深い課題を含むAI 設計の問題クラスを記述する.その課題とは,1つ目は行動数の組合せ爆発で,同ゲームでは1手番ごとのbranching factor がしばしば億のオーダーに達する.2つ目は局面評価に関するもので,毎回異なる初期局面から生じる多様な局面群に対し,駒間の循環的相性も考慮して駒価値を適切に与えなければならない.3つ目は攻撃行動組合せの扱いが要する繊細さで,同ゲームでは攻撃行動の適切な組み合わせで数十体の駒ものがたった一手番で消滅する事があり,そうした影響力の行使および相手からの行使の予防が重要になる.我々はこれらの課題を,具体的状況と既存のAI 手法を例に用いて論じた.複数のアプローチを提案しそれぞれの長所と短所を整理して,同問題においてAI設計者が考慮すべき課題の特徴を明らかにした.
著者
村永哲郎 守安 隆 友田 一郎 水谷 博之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.1395-1405, 1993-06-15
被引用文献数
6

共同文書作成作業における複数ユーザ間の情報の共有と、コミュニケーションを支援する環境を提供するために、マルチユーザ・ハイパーメディアシステムMuHyme(Multi-User Hypermedia)を開発した。Mu-Hymeでは墓盤データベースとしてハイパーメディアを採用し、相互に関連するマルチメディア情報を長期間にわたって共有一元管理することを可能とした。またリンクづげ操作として、ノードヘのコメントづけを導入することにより、協調作業における基本的なコミュニケーション手段を提供している。これにより複数のユーザが文字や図形、静止画、音声を含むマルチメディア文書を共有して、その文書に非同期的にコメントづけを行って議論することを可能とした、MuHymeの特徴は、(1)ハイパーメディアのノード更新に、チェックイン・チェックアウト操作に墓づくデータ更新モデルを導入し、長時間セッションにおいて他のユーザの作業進行を妨げないようにした、(2)他のユーザの操作をメッセージにより通知し合うメカニズムを提供することにより,協調的なアクセスを可能とした、(3)文書のバージョン管理と議論の履歴管理とを統合し、議論の繰り返しを防ぐようにしたことにある。MuHymeは実験システムの開発を終了し、利用評価を行っている。本論文では、MuHymeの特徴的なグループウェア機能の設計と実現、利用評価について述べる。
著者
大森 翔太朗 金子 知適
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.2374-2381, 2016-11-15

近年プレイヤの個性に関する研究が人工知能の分野で取り組まれ始めている.本研究では,将棋の指し手の選択に注目し,コンピュータプログラムで個性を実現する一手法を提案する.人間における指し手の選択による個性は通常棋風と呼ばれるが,客観的な基準で判定可能なプログラムの棋風について本稿では議論する.提案手法では,指し手の客観的な分類基準を実現したい棋風となるべく関連付けて定め,それに基づいて棋譜を分類し,選別された棋譜で評価関数の学習を行う.これにより,棋風を反映した評価関数が得られることを示す.主要な題材として将棋の攻めと受けという概念について,棋譜の分類と評価関数の学習を行い,得られた評価関数の性質を報告し議論する.対局実験により,攻めと受けの好みについて,意図どおりの変化が指し手に現れたことを確認した.また,提案手法で学習したプログラムと学習前のプログラムとの対戦実験から,棋力の低下は勝率40%程度に抑えられていることを確認した.There are several researches on playing styles of computer players in Artificial Intelligence research in recent years. This study proposes a method to give a computer player an intended playing style in shogi. We focus on playing styles that can be identified in an automated manner. We select a set of game records played by players having the intended playing style, based on statistical analysis proposed in existing researches. Then, we conduct a supervised learning of an evaluation function by using the selected records. The preference on attack or defense moves is used as an example of a playing style, because many moves in shogi are categorized in attack or defense. We implemented our method in shogi and evaluated the playing strength as well as how well an intended style is reproduced in self-play experiments. It is shown that learned evaluation functions have an intended playing style and that the playing strength is about 40% against original program.
著者
孫 英敬 山口 由紀子 嶋田 創 高倉 弘喜
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.1163-1174, 2017-05-15

情報セキュリティへの脅威はますます増加しており,高度な技術を備えた人材を求める声が増大している.それにともない,日本では高等教育機関における情報セキュリティ教育課程を今後拡充していく方針が示されているが,情報セキュリティ教育課程は,実際の現場から要求される技術能力を満たす,現実に即した人材を育成するものでなければならない.そこで我々は,アメリカ国立標準技術研究所の下に設置されているNICE(The National Initiative for Cybersecurity Education)が定義した情報セキュリティ技術能力を情報セキュリティ人材の要求要件ととらえて情報セキュリティ教育過程の開発を目指した研究を行っている.本研究では,NICEにおいて783項目に表されている技術能力を62種類に分類・集約した.さらに,日本および,セキュリティ教育が進んでいる韓国の大学についてカリキュラムを調査し,NICE技術能力との相関分析によりカリキュラム分析を行った.
著者
石橋 勇人 山井 成良 安倍 広多 大西 克実 松浦 敏雄
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.4353-4361, 1999-12-15
被引用文献数
10 7

計算機の小型軽量化にともなって,モバイルコンピューティングが急速に普及してきている.大学などの教育機関においては,これらの計算機に対してネットワークサービスを提供するために,図書館などのパブリックスペースに情報コンセントを設置するところが増えている.しかしながら,このような環境下では,利用者の計算機の設定を限定することは事実上不可能であるため,ネットワークの不正利用を防止することが困難であった.本論文では,事前に登録された正規利用者のみが情報コンセントを利用することができ,かつ,IPアドレスやMACアドレスを偽造することによる不正なネットワークアクセスを防止する方法を提案する.本方式では,利用者が登録されていればIPアドレスやMACアドレスの事前登録は不要である.本論文で提案した方式を実装し実験を行った結果,利用者認証なしにネットワークにアクセスすることやMACアドレスやIPアドレスを偽って不正にネットワークにアクセスすることは不可能であり,安全な情報コンセントの構築に役立つことが確認された.Personal computers are getting much smaller and easier to carry about in these days.LAN sockets providing network accessibilityfor those mobile computers are often set in public places like libraries, computer centers, and so on.However, it is difficult to prevent illegal access to networks in such cases.In this paper, we propose a protection method to cope with illegalaccess.Our method provides the following functions: (1) only validusers can access to the network, (2) preventing malicious users frominvalid use of the network by IP and/or MAC address spoofing, and(3) no need for pre-registration of IP and/or MAC addresses.We have implemeted this method as a system named LANA.The design and implementation of LANA are also discussed.
著者
金澤 裕治
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.2382-2391, 2016-11-15

厳密解を求めるのが困難でヒューリスティクスによって解かれている問題で,計算機が熟練者を上回ることが困難なものが存在する.そのような問題において,ヒューリスティクス手法を多数のパラメータで制御できるようにしておき,そのパラメータを機械学習によりチューニングすることで,熟練者の判断を再現できれば,解法の性能向上が期待できる.そのために解決しなければならない課題の1つが,教師データの不足である.本論文では,教師データが不足した環境で学習結果に含まれる誤りを改善する強化学習類似手法を提案する.提案手法を将棋プログラムBonanza 6.0の機械学習テーブル改善に適用し,1回の適用でイロレーティングが平均25程度,繰り返し適用することで,最終的には150程度向上した.
著者
義久 智樹 原 隆浩
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.898-907, 2017-04-15

センサなどのモノがインターネットに接続される流行は,IoT(Internet of Things)と呼ばれ,近年非常に注目されている.これらのモノから継続的に発生するデータを入力として,あらかじめ登録された問合せ(連続問合せ)を実行するストリーミング処理技術が研究されている.これらの研究では,データが入力されてから連続問合せの結果を得るまでのストリーミング処理にかかる時間を短縮している.近年のIoT環境の普及により,高頻度なデータの発生源が分散してインターネットに接続されており,さらなるストリーミング処理時間の短縮が求められている.そこで本研究では,IoT環境におけるストリーミング処理時間短縮手法を提案する.提案手法では,センサが接続された処理サーバが分散していると想定したうえで,各連続問合せを個別に処理できるいくつかの部分条件に分割してストリーミング処理を行う.評価の結果,提案手法は従来手法よりも最大通信ホップ数と平均通信量を削減でき,ストリーミング処理時間を短縮できることを確認した.
著者
中村 聡史 小松 孝徳
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.1402-1412, 2013-04-15

スポーツの試合の録画視聴を楽しみにしているユーザにとって,Web上で遭遇してしまう試合結果などのネタバレ情報は楽しみを減退させる忌むべきものである.本稿では,こうしたネタバレ情報との遭遇を防ぐための表現手法を4つ提案し,実装を行った.また,表現手法の有効性について評価実験をベースとして検討を行った.Seeing the final score of a sports match on the Web often spoils the pleasure of a user who is waiting to watch a recording of this match on TV. This paper proposes four information clouding methods to block spoiling information, and describes implementation of a system using these methods as a browser extension. We then experimentally investigate the usefulness of the methods, taking into account their differences, differences in the variety of content, and differences in the user's interest in sports.
著者
岡本 栄司 中村 勝洋
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.32, no.11, pp.1498-1504, 1991-11-15

暗号システムにおいて 暗号化鍵はシステム全体の安全性の要であり 暗号化鍵の保護には十分な注意が必要である長い間同一の鍵を使用していると 悪意の第三者に知られる可能性が高くなるこのため 暗号化鍵は時々変える必要がでてくるそこで データを暗号化する鍵(ワーク鍵)を随時変更し 別の上位の鍵(鍵暗号化鍵)で暗号化して相手に送る方法が用いられているさらにこの鍵暗号化鍵を多段階層にすることもあるしかしながら これらの暗号化鍵 特に最上位の鍵(マスタ鍵)の変更をどの程度に行うべきかに関する「鍵の変更周期」あるいは「鍵の寿命」については まだ議論が少ないこれでは 実際に暗号システムを導入する際 運用上不安が残るそこで 本論文ではアメリカ標準暗号DESを想定して 暗号化鍵(ワーク鍵 マスタ鍵)の変更周期を調べた解読方法には 例として最も単純な全鍵探索法(Exhaustive Key Search)を用いたこの結果 マスタ鍵は毎年 ワーク鍵はメッセージごとあるいはセッションごとに変更したほうが良いことがわかったなお 本論文で示した考えは 暗号アルゴリズムと解読法を変えても基本的に適用できるものであるまた本結果は 最も単純な解読法を仮定しているため 一般に守るべき最低基準を示していると考えられる
著者
野村 圭太 谷口 義明 井口 信和 渡辺 健次
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.672-682, 2017-03-15

今後,企業や大学などの既存ネットワークにおいてOpenFlowネットワークへの移行が進められると予測される.しかし,OpenFlowネットワークへの移行には,コントローラの設定やテスト環境の構築にコストを要すると考えられる.そこで本稿では,従来型のネットワークから,OpenFlowネットワークへの移行を支援するシステムを提案,設計,実装,評価する.提案システムを用いることにより,従来型のネットワーク上のルータから自動的に設定情報を取得し,その設定情報をOpenFlowネットワークで適用可能な形式に変換,その後,変換した設定情報をOpenFlowネットワークへ反映させることができる.これにより,従来型のネットワークと同等のパケット制御を行うOpenFlowネットワークを半自動的に構築できる.本稿では,実ルータを用いた評価の結果,最大10台のルータから構成される従来型のネットワークを6分以内でOpenFlowネットワークに移行できることを確認した.