著者
阿部 花南 築舘 多藍 桑宮 陽 横山 幸大 越後 宏紀 小林 稔
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.1547-1557, 2022-09-15

会議やグループワーク等複数人で行われる議論の場において,沈黙が生じることで会議が円滑に進まず,有意義な議論を行うことができないという問題が起こることがある.この原因の1つとして,会議参加者の気持ちが参加者間で共有されず,議論を深めるべきなのか,次の話題に進めるべきか,の判断が困難であることがあると考える.この問題を解決するために本研究では,意思決定型会議を対象に,会議進行に影響する意思を「気持ち」と定義し,賛同します・反対します・意見あります,の3つの気持ちの可視化を支援するボタンを参加者に使用させることで,会議進行を円滑にする方法について検討した.提案システムを用いた評価実験の結果,参加者の主観評価において「活発に議論ができたこと」と「参加者間で意思の疎通が取れていること」の2つの観点で,システムの使用条件と不使用条件の間に有意差が認められた.本論文では,評価実験の結果を報告し,可視化すべき気持ちの種類やユーザインタフェース,議論に与えた影響について議論する.
著者
大塚 和弘 竹前 嘉修 大和 淳司 村瀬 洋
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.2317-2334, 2006-07-15

複数人物による対面会話を対象とし,会話参加者の視線パターン,頭部方向,および,発話の有無に基づき会話の構造の推論を行うための確率的枠組みを 提案する.本研究では,まず,会話の構造として,話し手,受け手,傍参与者と 呼ばれる参与役割と会話参加者との組合せに着目する.次に,会話中の各人物の 行動は,会話の構造によって規定されるという仮説を立て,マルコフ 切替えモデルと呼ばれる一種の動的ベイジアンネットを用いた会話 モデルを提案する.このモデルは,会話レジームと呼ばれる会話の構造に対応 した上位プロセスの状態が,マルコフ過程に従い時間変化しつつ,その会話 レジームの状態に依存して,視線パターン,および,発話が確率的に生成され,さらに,各人の視線方向に依存して頭部方向が観測されるという 階層的な構造を持つ.このモデルにおいて,会話レジームは,会話中に頻出 する視線パターンの特徴的な構造に基づいて仮説的に設定される.また,ギブスサンプリングと呼ばれる一種のマルコフ連鎖モンテカルロ法を用いて,観測された頭部方向と発話の有無の時系列データより,会話レジーム,視線パターン,および,モデルパラメータのベイズ推定を行う方法を提案する.最後に,4人会話を対象とした実験により,視線方向と会話レジームの推定精度を評価し,提案した枠組みの有効性を確認する.
著者
朴聖俊 高田 彰二 山村 雅幸
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.898-910, 2005-03-15

爆発的に増加するタンパク質立体構造を比較することは構造ム機能相関の解析にきわめて重要である.既存の立体構造比較手法はタンパク質全体を剛体として扱う.しかし,進化的に新しい機能を獲得する際にタンパク質構造は部分的特異的に変形を受けるため,剛体としての取扱いには限界がある.本論文では機能進化過程において,構造変形を受けにくいビルディングブロックと構造変形が顕著なループ部分が存在することを考慮に入れた立体構造比較手法を開発する.提案手法は部分構造比較と全体構造比較を2層で並列探索し,遺伝的アルゴリズムの集団探索性能を活用してタンパク質の機能進化における構造変形の柔軟性を可視化する.2層比較の基本的なアイデアと実装について説明したうえで探索アルゴリズムと評価関数の特徴と性能について述べ,構造-機能相関の解析ツールとしての有効性を示す.
著者
松田 晃一 三宅 貴浩
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.2698-2707, 2000-10-15

?stepcounter{footnote}近年のコンピュータ技術とネットワーク技術の進歩により,サイバースペースを実現する基盤が整ってきた.このような環境の中,3Dのマルチユーザ仮想空間の実用化研究がなされ,ユーザが同じ仮想空間内で同じ体験を共有できるメディアとして実現されてきた.我々は,これまで開発してきたCommunityPlaceシステム上に,JavaとVRML97を用い,パーソナルエージェント指向の仮想社会PAW(Personal Agent World)を構築し,数百人の同時アクセス,数千人の延べアクセスを目標とした大規模仮想社会の実験を行ってきた.PAWは,アバタとチャットという従来の仮想空間の持つ機能に加え,ユーザと一緒に行動する犬型のパーソナルエージェント,社会的・環境的なインフラストラクチャを持つ仮想社会である.今回,8カ月間の運用経験をもとに,仮想社会構築のインフラストラクチャとして必要な機能追加を行ったPAWの第2版(以下,PAW2)を開発し,運用を開始した.本論文では,PAWとその現状,PAW2での新機能について説明し,運用を通して得られた評価について述べる.この評価をもとに,PAWのような仮想社会を構築するのに必要な仮想社会ミドルウェアを提案し,今後の課題について考察する.
著者
清水 裕介 大西 鮎美 寺田 努 塚本 昌彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.468-481, 2022-02-15

本論文では,パソコンを利用した作業時のキー入力を身体動作で置き換えることにより,運動不足を解消するシステム,DeskWalkを提案する.長時間の座位作業は健康に悪影響がある.歩行や立ち上がりを行うことでその影響を低減できるが,これらは作業の中断をともなう.DeskWalkは下肢に取り付けたストレッチセンサで歩行と同等に筋肉が動く動作を認識し,それらの対象動作にあらかじめ割り当てたキーの入力を行う.これにより,ユーザは座位作業を続けながら運動ができる.さらに,日常生活での運動を記録しておき,座位作業時にDeskWalkを用いて不足分の運動を補わせるアプリケーションを提案,実装した.評価実験の結果,DeskWalkは対象動作を平均F値0.98と高精度に認識できた.システム使用時は未使用時と比較して2割から3割程度入力速度が減少したが,通常のパソコン作業において問題のない速度で入力ができていた.
著者
相澤 彰子
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.1426-1436, 2008-03-15
参考文献数
23
被引用文献数
5

本論文では,タグなしテキストから類語関係を抽出するタスクを例にとり,自然言語処理における大規模コーパスの適用について考察する.近年ではウェブに代表される大規模なテキスト集合が利用可能となり,単純な手法でもコーパス規模が十分に大きければ,潜在的意味解析法(LSA)などの従来手法と比較しうる高い性能が得られるとの報告もある1).そこで論文中では,まず,大規模コーパスを用いた語の類似度計算における問題点を実際のデータに基づき調べる.次に,広範囲の語と共起する語が類似度計算におけるノイズとなるという前提のもと,ノイズ低減のためフィルタリング法,サンプリング法の2 つの方法を提案する.また,評価のための類語抽出タスクを設計し,新聞記事およびウェブ文書コレクションの2 つのコーパスを用いて,提案手法による性能改善を確認する.This paper focuses the utilization of large-scale text corpora in the task of synonymous relationship identification. Recently, large-scale text corpora became available for automatic synonyms extraction and it was reported that the performance of simple methods adapted to large-scale corpora was sometimes comparable to the one of more elaborative methods such as Latent Semantic Analysis (LSA) adapted to traditional linguistic resources 1). In this paper, assuming that the similarity calculation is affected by the co-occurrences with high frequent words, we propose two methods for reducing the bias. Also proposed is a method for extracting datasets for performance evaluation using both lexico-syntactic patterns and conventional human editing thesaurus. The effectiveness of the proposed methods is shown using newspaper and Web document collections.
著者
小林 紀之 上原 貴夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.3056-3063, 2002-10-15
被引用文献数
5

ブリッジは,他のプレイヤーのハンドが見えない不完全情報ゲームであるため,チェス,将棋などの完全情報ゲームとは異なる難しさがある.最近のコンピュータブリッジでは,モンテカルロシミュレーションを基本としたアルゴリズムが主流である.すなわち,見えていないカードの可能な配置(世界)を多数生成し,各世界でダブルダミーブリッジ(すべてのハンドを見て完全情報ゲームとしてプレイをする)として,ゲーム木におけるミニマックス値を求め,次に出すカードを選ぶ.現在,コンピュータブリッジの実力は中級者レベルにとどまっている.その原因の1つは,このアルゴリズムが,見えている自分Pのハンドと矛盾しない世界のみを対象としている点にある.本論文では,上級者のプレイテクニックの1つとして知られるディセプティブプレイを発見するアルゴリズムを提案する.敵を騙すプレイを可能にするためには,出されたカードを観察した敵がどのようなハンドを想定するかをモデル化する必要がある.著者らは,経験則に基づいて推論を行うエージェントAを敵のモデルとし,敵から見た世界を生成した.この世界は多くの場合,自分Pのハンドと矛盾する.ディセプティブプレイを発見する方法として,敵Aから見た世界では敵に有利であり,かつ,自分Pから見た世界では自分に有利なプレイを探索することを提案した.このアルゴリズムを実装して,典型的な例題でその機能を確認した.The Contract Bridge is an incomplete information game,that is, a player cannot look at the other player's hands.Its difficulty is different from that of complete information games such as Chess and Shogi.The Monte Carlo simulation is the most popular technique for modern Computer Bridges.Many random deals (worlds) are generated.The best card to play is selected according to minimax value of a complete information game-tree search as the double dummy Bridge in each world.Computer Bridges have never win the game against top players.It is partially because the algorithm does not generate a deal inconsistent with the hand of the player P.This paper proposes an algorithm to find a deceptive play that is one of the techniques used by top players.An opponent is modeled as an agent A who guesses P's hand by rule-based knowledge.Worlds generated by A may be inconsistent with the P's hand.The proposed algorithm finds a play line that is the best for opponent in the worlds generated by A and also good enough for P in the worlds generated by P.The algorithm is implemented and tested for some typical examples.
著者
伊土 誠一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.2534-2542, 1993-12-15

ソフトウェアの聞発において・潜荏バグ数を精度よく推定できれぱ、効率のよい信頼性保証活動が可能となり、適切なソフトウェア聞放時期が決定できる。従来は、開発途中までのバグの発生数の経時変化を把握し、それをソフトウェア信頼度成長モデルにあてはめることにより、潜在バグ数を推定する方法が主に開発されてきた。この手法はデバグや試験のプロセス、横軸として何を採用するかが堆定精度こ大きく影響する。本論文では、バグ摘曲工程の途中のプロセスが潜在バグ数推定精度に影響を与えない特徴をもち、野生動物の頭数なぎを捧定する手段としてよく知られている「蒲獲・再捕獲法」をソフトウェアのバグ数推定に適用することを考える。それには、2つの間題を解決する必要がある。1つは、対象プログラムに埋め込んだバグをどのように選定するかである。これはバグ数の推走精度に大きく影響する。2番目は、バグ数推定のために埋め込むバグが発生することによるトラブルである。本来の品質保証作業の進捗に影響を与えないような工夫が必須である。本稿では、これらの課題を解決する「バグ摘獲・再捕獲法」を提案する。さらに、ここで提案した方法論とバグ捕獲・再捕獲法のために聞発したツールを、実際に商用に供する大規模ソフトウェアに適用した事例を紹介する。最後に、本方式とソフトウユア信頼度成長モデルとの推定精度の比較等の考察により、バグ捕獲・再捕獲法の有効性を示す。
著者
山中 晋爾 古原和邦 今井 秀樹
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, pp.2025-2035, 2005-08-15
被引用文献数
2 1

ネットワークにおいて匿名通信を実現する手法は,これまでに数多く提案されている.しかしながら,ネットワーク構造が変化してしまうような非静的なネットワークを持つ通信基盤において匿名通信を実現する手法は,Peer to Peer(P2P)の基盤技術を用いた方法しか提案されていない.本論文ではP2P基盤技術を用いず,既存のオニオン・ルーティングをベースとした,新しい匿名通信方式Valkyrie を提案する.Valkyrieでは,オニオン・ルーティングに対して新しいオニオン:代替オニオンおよびバックトラックオニオン,を導入した.これらの新しいオニオンを利用すれば,メッセージ送信途中に分断された経路を迂回することが可能となる.この結果,Valkyrieを用いることで非静的ネットワークにおいて匿名通信を実現できる.This paper proposes new anonymous routing scheme Valkyrie. Although, previous works in the literature already addresses the question of anonymity in packet networks, these solutions usually cannot apply to unstable networks, where the network topology changes dynamically. Valkyrie is based multiple encryption scheme and routing technique that is adopted by Onion Routing scheme. Because of that, Valkyrie can transmit messages on (stable) network anonymously. In addition, Valkyrie has two new onions: Alternate Onion and Back Track Onion. These two onions can bypass disconnection on unstable network. Consequently, Valkyrie is anonymous routing scheme which can run on unstable network.
著者
藤原 克哉 中所 武司
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.1202-1211, 2000-04-15
被引用文献数
6

近年,ワークステーションやパソコンの普及およびそれらをつなぐネッ トワークの普及とともに,業務の専門家が自ら情報システムを構築する 必要性が高まっている. また,今日の情報システム構築においては,フレームワークやデザイ ンパターン,コンポーネントウェアなどの構成要素からアプリケーショ ンを再帰的に構築していく技法が追求されている. 本研究では,業務の専門家が自らのアプリケーションの構築に利用で きるような窓口業務のアプリケーションフレームワークを開発した. 窓口業務の例題システムとして図書管理システムを構築し,窓口業務 に共通の部分と個々の窓口に依存する部分を明確に分離することによ り,窓口業務アプリケーションフレームワークを抽出した. さらに,そのフレームワークを利用して業務の専門家がアプリケーショ ンを構築する方法を確立し,実際に別のシステムに適用し,その評価 を行った.The number of end-users increases on the inside and outside ofoffices. This paper describes an application framework forwindow work in banks, city offices, travel agents, mail-ordercompanies, etc. based on the philosophy of ``All routine workboth at office and at home should be carried out bycomputers.''We developed the application framework of the window workwhich the business experts were able to use for buildingapplication.The window work application framework has been extracted fromthe library system which was developed as an example of thewindow work.Then, the framework was applied to another system, and wasevaluated.
著者
安岡 孝一 ウィッテルン クリスティアン 守岡 知彦 池田 巧 山崎 直樹 二階堂 善弘 鈴木 慎吾 師 茂樹 藤田 一乘
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.355-363, 2022-02-15

Universal Dependenciesに基づいて,『孟子』『論語』『禮記』『十八史略』の依存構造(係り受け)コーパスを製作した.さらに,このコーパスを用いて,古典中国語の文切り・形態素解析・係り受け解析を統合的に行う解析システムも開発した.Universal Dependenciesは,書写言語における品詞・形態素属性・依存構造(係り受け情報)を,言語に依存せず記述する手法である.Universal Dependenciesの係り受け記述は,いわゆる動詞中心主義であり,言語横断的であると同時に,古典中国語における動賓終構造の記述にも適している.ただし,Universal Dependenciesにおけるコピュラ文の記述方法は,古典中国語のコピュラ文との間で微妙に齟齬があり,結果として,補語が節であるようなコピュラ文(約1.6%)に関しては,記述は行えるものの記法上の問題が残った.
著者
進藤 達也 岩下 英俊 土肥 実久 萩原 純一 金城ショーン
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.1560-1568, 1995-07-15
参考文献数
16

本論文では、分散メモリ型並列計算機のための新しいデータレイアウト法としてTwisted data layoutを提案する。データレイアウトは分散メモリ型並列計算機で並列プログラムを効果的に実行させる上での重要な要素である。配列デー一タの最適なデータレイアウトパターンは、プログラム全体を通して一つに決まらず、プログラムの部分ごとに異なる場合がある。Twisted data layoutは、最適なデータ分散法に関するこのようなコンフリクトの解消に用いることができる。並列計算機AP1000を用いた実験で、Twisted data layouの性能評価を行う。
著者
野村 恭彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.121-130, 2004-01-15

本論文では,新たなグループウェア設計の指針となる,ストラテジック・ナレッジ・パターン(SKP)を示す.SKPは,日米のナレッジ・マネジメント(KM)に成功している企業11社の半年にわたっての定性・定量調査を通じて構築された,企業の差別化戦略の3つのパターンである.これまでのグループウェア研究では,協業の目的を持ったグループの知識共有の支援には一定の成果をあげてきたが,KMの成功と失敗の分かれ目である,いかに組織の構成員に知識共有の動機付けを行うかという課題に関しては,十分な議論がなされてこなかった.本論文ではまず,KMに成功している企業は,部門を越えた知識共有が特別な取り組みではなく,「当たり前」の企業文化となっていること,その秘訣は,知識経営の「目的」,焦点を当てるべき重要な「知識」,各個人・組織の仕事の背景である「コンテクスト」の3つの可視化にあることを示す.続いて,本調査を通して発見された3つのSKP,ビジョン主導型KM,プロ型KM,創発型KMを示し,各SKPを実現するためのグループウェア設計指針について議論する.最後に,SKPに基づきグループウェア設計を行うことにより,グループウェアの提供価値を,ミクロなグループ活動支援から,経営戦略に基づく組織全体の知識創造活動支援へと,高めることが可能になることを示す.
著者
香田徹 柿本 厚志
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.289-296, 1986-03-15
被引用文献数
43 4

擬似乱数発生器として非線形写像で生成されるカオスを利用しようとする試みが行われている.この際 カオスが従来の擬似乱数と比較して 乱雑さに関する性質の良い乱数であるか否かがまず問題とされなければならないが これに関する検討は十分ではない.性質の良い乱数を定義することは容易ではなく また 実数値系列の乱雑さの度合いの測定も容易ではない与えられた実数値系列を闇値関数により2値系列に変換し 2値系列の乱雑さから実数値系列のそれを検討する方法が最近提案されている.本稿では 性質の良い乱数に関する一つの考え方を提案する.すなわち 変換して得られる2値系列がb閾値とは無関係に常にベルヌイ試行に十分近いとき もとの実数値系列を性質の良い乱数とみなすものである.このような考え方にたつと 従来の擬似乱数の検定法では 任意の閾値に対して得られる2値系列とベルヌイ試行との近さを議論していないので従来の検定法は十分ではない.本稿では ロジスティック写像で生成されるカオスの乱雑さと従来の擬似乱数発生法としての線形合同法 M系列 平方採中法による数列のそれとを比較検討した.なお 与えられた2値系列とベルヌイ試行との近さは連テストと組合せテストのχ^2検定により測った.その結果 従来の擬似乱数の方がカオスより性質の良い乱数であるとの結論を得た.
著者
平林(宮部) 真衣 吉野 孝 河添 悦昌
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.29-44, 2022-01-15

非常事態下では流言が拡散しやすく,マイクロブログ上での対策の検討は急務である.本論文では,新型コロナウイルス感染症流行(非常事態)下でのTwitter(マイクロブログ)上の流言の特徴を,約6カ月分の流言訂正データにより分析した.分析の結果,非常事態下におけるマイクロブログ上の流言には特徴が見られ,今後流言対策において考慮すべき特徴として以下の点を明らかにした.(1)期間全体では,収集される流言情報全体のうち非常事態関連の流言が占める割合は少ないが,日によって割合は異なり,多くの割合を占める日もある.また,割合が急増する前には,原因と考えられる実社会上の出来事が存在する場合がある.(2)非常事態関連の流言の内容は11種類の主題に大別され,人間の行動につながりうる内容や,社会的に影響を与えうる内容が含まれた.これらは,個人・社会一般の「経済状況」や「精神的健康状態」に対して悪影響を及ぼす可能性がある.(3)期間中の訂正数の推移を分析した結果,特定期間に集中的に発生した後に収束していくものと,訂正数の突出箇所が期間中に複数出現するものが見られた.(4)マイクロブログ上の流言拡散には,従来の流言流布に関する知見が適用できない可能性がある.
著者
松井 啓司 中村 聡史
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.970-978, 2018-03-15

人は楽しい時間が過ぎるのを早く感じたり,退屈な時間がいつまでも終わらないと感じたりすることがある.これは時間評価を変化させる要因の1つである時間経過に対する注意によって発生する現象であるが,2つ以上の事象に同時に集中することは容易でないため,なにか別の作業をしながら時間感覚を自分の思いどおりに変化させることは困難であるとされてきた.ここで,人間の周辺視野には視覚情報を無意識的に処理する特性があることが明らかになっている.この周辺視野の情報処理能力を活用し,無意識的に時間評価を変化させる要因を操作することで,人の時間感覚の操作が可能であると考えた.そこで,PCでの作業時に周辺視野へ視覚刺激を提示することで,人の時間感覚がどのように変化するのかを調査する.その結果,提示速度の変化量によって時間評価が変化し,視覚刺激の提示速度が加速するほど時間を短く感じ,減速するほど時間を長く感じる傾向が見られた.また,実験協力者の視線情報を分析することで周辺視野への視覚刺激提示が作業を阻害していないことを明らかにした.
著者
八田原 慎悟 藤井 叙人 長江 新平 風井浩志 片寄 晴弘
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.3859-3866, 2008-12-15
被引用文献数
1

脳活動とテレビゲームの関係に注目した関連研究の多くで,テレビゲーム実施時に前頭前野の脳活動が低下することが報告されてきた.テレビゲームに限らず,メディアインタラクションにおいては年齢,熟達度,さらには嗜好や没入の度合いに応じて,ヒトへの影響に違いが生じると考えるのが自然であろう.本研究ではテレビゲームにおける熟達度に焦点を当て,2つのジャンル(シューティング,リズムアクション)のゲームを実施している際のヒトの脳活動を熟達者,中級者,初心者の3種類の条件でfNIRS(機能的近赤外分光法)によって計測し,比較,検討した.その結果,熟達者においては,テレビゲーム実施時に前頭前野の脳活動が上昇するという関連研究とは異なる状況が観測された.またゲームタイトル,ジャンルを変えた場合の熟達者の脳活動を計測した結果,熟達したゲームにおける脳活動が最も上昇するという結果を得た.There are many studies that focused on the relation between playing video games and brain activities. Most of the studies have reported that the brain activity deactivates at the prefrontal cortex in playing video game. However, it is natural to regard that the influence on human varies with player's age, attitude or mastery level. In this paper, we focus on the mastery level of the video game. We measured the brain activity at the prefrontal cortex with fNIRS (functional Near-infrared Spectroscopy) while beginners, intermediate players, and masters playing video games. We observed activation of brain activity at the prefrontal cortex while masters were playing the game that they have mastered. The activation of the prefrontal cortex of the masters was higher when they played their mastered game than those when they played non-experienced games or games of non-mastered genre.
著者
齊藤 千紗 正井 克俊 杉本 麻樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.1681-1690, 2021-10-15

笑いは日常生活で頻繁に観察される表情の1つであり,非言語コミュニケーションに不可欠な役割を果たす.笑いには可笑しさや喜びといった快感情から生じる自然な笑いと快感情をともなわない作り笑いがある.この2つの笑いをコンピュータが適切に推測することができれば,ユーザへの理解が深まり,また,インタラクティブシステムに応用可能である.本稿では,日常の使用に適した形状である眼鏡型の装置に搭載した反射型光センサアレイを用いて,2種類の笑いの識別可能性を検証する.実験では,12人の参加者が動画を視聴して生じた自然な笑いとコンピュータ上の指示による作り笑いの2種類の笑いのデータを収集した.センサから得られた反射強度の分布である幾何学的特徴と時間軸の時間的特徴に対してサポートベクタマシンを適用した結果,ユーザ依存の学習の場合,12人の実験参加者で平均精度が94.6%であった.これはデータを収集した際の表情変化の動画から人間が判定した場合(90.2%)よりも高い精度であった.さらに,畳み込みニューラルネットワークを用いた個人間の学習においても82.9%であった.
著者
ジョヨンジュン 岩崎 敦 神取 道宏 小原 一郎 横尾 真
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.2445-2456, 2012-11-15

本論文では不完全私的観測付き繰返しゲームの均衡を分析するプログラムを提案する.不完全私的観測付き繰返しゲームは,プレイヤが相手の行動についてノイズを含むシグナルを観測し,そのシグナルを他のプレイヤは観測できないという特徴を持つ.こうしたゲームは人工知能や経済の分野において様々な適用領域を持つため,大きく注目されている.しかし,このゲームにおける均衡を求めるには,非常に複雑な統計的推論が必要になるため,従来難しい未解決問題として知られていた.近年,均衡における振舞いを有限状態オートマトン(finite state automaton,FSA)で記述し,部分観測可能マルコフ決定過程(partially observable Markov decision process,POMDP)の理論を用いることで,あるFSAが均衡を構成するかどうかを明らかにできることが示された.しかし,その具体的な実装方法や実際の問題へ適用するためのプログラムは提供されていない.そこで本論文ではまず,標準的なPOMDPソルバのラッパとなるプログラムを開発する.このプログラムでは私的観測付き繰返しゲームの記述とFSAを入力として,そのFSAが対称的均衡を構成するかどうかを自動的に確認できる.さらに,このプログラムを繰返し囚人のジレンマに適用し,k-期相互処罰(k-MP)と呼ぶ新しいFSAのクラスを発見した.k-MPにおけるプレイヤは,初めに協力し相手の裏切りを観測するとそれ以降自分も裏切るが,続けてk回裏切りを観測すると元に戻り協力する.このプログラムを用いて状態数3以下のFSAを全探索した結果,繰返しゲームにおける観測構造パラメータのいくらかの範囲で,2-MPが他の純粋戦略均衡より優れており,従来よく知られている均衡である無限期罰則のトリガ戦略(grim-trigger)よりも効率的,つまり高い平均利得を実現することが分かった.The present paper investigates repeated games with imperfect private monitoring, where each player privately receives a noisy observation (signal) of the opponent's action. Such games have been paid considerable attention in the AI and economics literature. Since players do not share common information in such a game, characterizing players' optimal behavior is substantially complex. As a result, identifying pure strategy equilibria in this class has been known as a hard open problem. Recently, Kandori and Obara (2010) showed that the theory of partially observable Markov decision processes (POMDP) can be applied to identify a class of equilibria where the equilibrium behavior can be described by a finite state automaton (FSA). However, they did not provide a practical method or a program to apply their general idea to actual problems. We first develop a program that acts as a wrapper of a standard POMDP solver, which takes a description of a repeated game with private monitoring and an FSA as inputs, and automatically checks whether the FSA constitutes a symmetric equilibrium. We apply our program to repeated Prisoner's dilemma and find a novel class of FSA, which we call k-period mutual punishment (k-MP). The k-MP starts with cooperation and defects after observing a defection. It restores cooperation after observing defections k-times in a row. Our program enables us to exhaustively search for all FSAs with at most three states, and we found that 2-MP beats all the other pure strategy equilibria with at most three states for some range of parameter values and it is more efficient in an equilibrium than the grim-trigger.
著者
松元 崇裕 松村 成宗 渡部 智樹 今井 倫太
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.181-199, 2020-02-15

高齢化による認知症予防や心理ケアの重要性が高まっており,情報工学の分野では対話ロボットを回想法などの心理療法に用いる取組みが進められている.一方で対話ロボットは目新しさにより最初は利用されるものの,長期間の利用を継続させることが難しい.そのため長期実施が前提の心理療法へ適用するには,ロボットが人と良い関係性を維持する技術・手法の確立が必要となる.本論文ではロボットが高齢者との関係性を構築・維持するため,手紙による非同期コミュニケーションを用いる方法を提案し,提案手法が長期関係性に与える効果について調査を通じた仮説を示す.本研究は単発の大規模実験で統計的な結論を出すのではなく,少数の参加者を一定期間にわたって追うケーススタディによって,関係性への効果の時間的な変遷事例を得て,傾向を確認することを重視する.我々は最初に6人の高齢者を対象として,手紙をロボットの作成したものとして渡す条件と,第三者の作成したものとして渡す条件でケーススタディを行う.ケーススタディではロボット対話と手紙提示を隔週で交互に4回実施し,ロボットの印象の時間遷移について調査を行う.また対話データから発話重要度を推定するアリゴリズムを提案し,提案アルゴリズムを用いた非同期コミュニケーションのための手紙生成システムを示す.最後に我々は8人の高齢者を対象として,提案アルゴリズムの有無で手紙内容が異なる2条件を用いた2つ目のケーススタディを実施する.ケーススタディ2も同様に,対話と手紙提示を隔週で交互に4回実施し,関係性の構築・維持に与える影響について,両ケーススタディを通じて形成した仮説を述べる.