著者
上水流 久彦
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第53回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.E21, 2019 (Released:2019-10-01)

台湾漢人社会では、男性子孫をもうけ、その子孫が祖先祭祀を行うことが当然とされてきた。男性は結婚し、男子を得ることでそれが可能となった。また女性は婚出し、そこで男子を生み、花婿側の祖先祭祀を継続させ、自分を祭祀する者を確保してきた。しかし、台湾社会では少子化と非婚化が進んでおり、男子が祖先崇拝を継承することを一層困難にしている。台湾の漢人はこの事態をどのように認識し、対処しているのだろうか。本発表では、伝統的な祖先祭祀から逸脱すると思われる「娘しかいない家庭」、「姉妹しかいない女性」、「未婚で子どもがいない女性」の聞き取りから、初歩的検討を行う。その検討からは、男性は「一族」という単位が祭祀の解決方法として選択肢に入っているが、女性にはない点、祭祀継承の観念よりも、「親と子」の単位の祭祀の重視されている点が明らかとなった。

1 0 0 0 OA 龍神の夢

著者
関 一敏
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第48回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.115, 2014 (Released:2014-05-11)

福岡市西部の一公園内に新たな神社が発生しつつあり、近隣の神主の助力を得て、月例祭に50名ほどの参詣者を集めている。きっかけは龍神の夢を複数の人々が見たことによるが、古代・中世・近世と重層的な史実と伝承の濃厚な場所でもあり、参詣者たちは甦った聖地であるかのようにふるまう。とくだん劇的な出来事をともなわない場所に、自然発生的に来参する人々の心性を追う。

1 0 0 0 OA いたぶる快楽

著者
西本 太
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第45回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.30, 2011 (Released:2011-05-20)

ラオスの山地民カントゥは、精霊など不可視の存在への供物としてスイギュウを差し出す場合、いたぶりながら殺す。これは他の動物の殺害では見られない特徴である。本発表では、スイギュウをいたぶることが、スイギュウに仮象された闘争状態を再現する契機になっていて、その闘争によって人間とスイギュウと不可視の存在の境界が揺らぐことを指摘する。
著者
中村 八重
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第45回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.43, 2011 (Released:2011-05-20)

本報告は韓国人による対馬観光を取り上げる。国境を超える韓国人の対馬観光はどのような行為であるか観光の動機と実態を探ることを目的とする。国境の島としての対馬のアイデンティティはむしろ、近接性や経済性そして韓国で広く共有されている「対馬は韓国の領土であった」という認識のもとに理解されて、韓国人観光客が対馬を訪れる動機になっていることを指摘する。
著者
島田 将喜
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第51回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F03, 2017 (Released:2017-05-26)

ヤンバルクイナは、やんばる地方のみに生息する無飛翔性鳥類である。琉球人の共存の歴史は長いが、民間伝承の中にクイナは明示的に登場しない。クイナは赤い嘴と足で忙しく地上を走り回り、道具を用いて大型のカタツムリを食べる。沖縄のキジムナーのもつ特徴は、クイナのもつ形態・行動的特徴と類似している。鳥と人間との境界的特徴が、現実世界と異世界の境界的存在としての妖怪のモチーフとなったとする仮説について検討する。
著者
相原 健志
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第50回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.H01, 2016 (Released:2016-04-23)

本発表は、ブラジルの人類学者E. ヴィヴェイロス・デ・カストロの多自然主義に含まれる身体の存在論の含意と射程を析出することを試みる。その記述を辿ると、多自然主義の機制における存在者間の食人的関係は、スピノザ哲学に由来するコナトゥス概念において捉えられる。そしてコナトゥスは、食人のみならず、「翻訳」といった人類学者の実践をも、つまり他者と人類学者のあいだの差異を横断する力として思考されている。
著者
井上 淳生
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第49回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F10, 2015 (Released:2015-05-13)

現在の日本には高齢者が社交ダンス(ballroom dance)を楽しむ施設が何種類かある。カラオケパブもその一つである。本発表ではそこで展開されている踊りの分析を通して、ダンスの領域における身体の規格化について考察する。なかでも、国家や社会的規範への反対運動の過程で構築されてきた「正しい/正しくない」という区分を取り上げ、現実に社交ダンスに参加する人びとの実践との関係に注目する。
著者
長島 節五
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第42回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.345, 2008 (Released:2008-05-27)

科学技術の現在、民俗民間信仰の場に於いて古い信仰形態を色濃く残した儀礼や習俗が見られる。御嶽講の成立はさほど古くは無いものの、その巫術を行う宗教活動において、弾圧の対象となったこともある。明治に入ると神仏分離政策による弾圧の可能性あった。普寛、覚明、一心等によって確立した御嶽講の神仏混淆習合形態は、他の習合形態を取る修験道やその影響を受けた信仰形態と同じように、弾圧の対象になっていたが、御嶽講は国家神道の流れに乗り教派神道を表に据えて神社になり御嶽教になった。
著者
合原 織部
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第51回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F05, 2017 (Released:2017-05-26)

本発表は、宮崎県椎葉村の猟師と猟犬の交渉を、日常の場である里の領域と、狩猟が実践される山の領域の異なる位相から考察することを通じて、人とイヌの交渉を一元的に捉えるハラウェイに新たな視座を加えることを目指す。里ではつながれているだけのイヌが、狩猟の際には猟師をリードする主体性を発揮し、猟中に命を落とした場合にのみ神格化されるなど、種横断的交渉が各位相において全く異なるさまを民族誌的に提示する
著者
片岡 樹
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第43回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.45, 2009 (Released:2009-05-28)

本報告は、フィールドの人々を「合理的精神の持ち主」あるいは「したたかな抵抗者」と祭り上げることからこぼれてくるフィールドのリアリティーをいかにしてすくいあげるかについて、タイ山地民ラフの事例から考察する。そこでは、人間の弱さそのものをいかに主題化しうるかを考察の軸に据える。ここで考えたいのは、非英雄的といってよい人々の行動原則や、「未知なもの」可能性を留保しようとする人々の宗教的・呪術的観念である。
著者
鈴木 和歌奈
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第51回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.C01, 2017 (Released:2017-05-26)

近年、「Anthropocene(人新世)」というキーワードがグローバルに注目を集めつつある。とりわけ欧米では、アカデミック内外で環境保護や人間の経済活動をめぐる論争など新しいムーブメントが生じつつある。本パネルでは、これらの「人新世」をめぐるポリティクスを紹介するとともに、それが欧米の人類学に及ぼしている影響について批判的に検討する。その上で、日本の人類学からの応答の可能性について示唆したい。
著者
陳 珏勲
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.22-22, 2009

日本の都市祭礼には、様々な儀式、風流、見物を伴った「見せる/見られる」という特徴がある。「近世以前からの日本の伝統」を守りつづけていると言われる浅草の三社祭はその代表である。本発表の主な目的は、東京都台東区浅草地域の宗教と社会を中心にして浅草の人々の関係について考察を試みることにある。浅草寺と浅草神社に関係する宗教行事は数多いが、その代表は3月の浅草寺本尊示現会と5月の三社祭である。本発表は主として浅草寺本尊示現会と三社祭の関係を取り上げ、祭礼を担う団体の現状(特に平成18年から平成20年の3年間に起きた変化)を事例とし、分析を加える。
著者
河野 正治
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第51回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.C12, 2017 (Released:2017-05-26)

本報告では、再分配が倫理的な問いにかかわる点に注目し、倫理の人類学の観点から再分配を再考する。倫理の人類学は、普通の人々の日常生活における倫理、すなわち日常倫理への注目を基礎的な研究態度とするものである。本報告の目的は、再分配の当事者による倫理的判断を観察しやすい比較的小規模な再分配として、ミクロネシア・ポーンペイにおける首長制にもとづく祭宴を取り上げ、再分配における日常倫理を考察することである。
著者
永吉 守
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.105-105, 2012

三池炭鉱が存在した大牟田・荒尾には、明治末期の集団移住を起点とするユンヌンチュ(与論島住民)が「大牟田・荒尾地区与論会」を組織して奥都城(集団納骨堂)の運営や三線教室の開催をしている。近年、大牟田夏祭りの「一万人の総踊り」にて、彼らは独自の法被をまとい、子どもたちにエイサー太鼓を持たせて炭坑節などを踊っている。本発表ではこうした動きをとらえながら、日本の中のエスニシティや文化的多様性を改めて考えたい。
著者
中生 勝美
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第52回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.97, 2018 (Released:2018-05-22)

新しい人類学史の構築を目指して、研究組織を立ち上げて共同研究を始めている。今回は、その紹介とともに、人類学の実践を歴史的観点から批判的に検討することで、現在的な問題を考えるヒントになることを提示したい。その実例として、アメリカミシガン大学の日本研究が、戦時中に対日本戦略として始まり、戦後は人類学という方法論を用いながら、大きな枠組みで戦後の国際環境と関連して進展したことを報告する。
著者
窪田 幸子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第43回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.228, 2009 (Released:2009-05-28)

我々が調査する地域では、多様な工芸/芸術活動が行なわれている。それらがグローバルな動きと連動して変化している場面には多くの研究者が立ち会ってきた。このような動きに注目することは、物質文化の現代的な研究として有用である。この分科会では、多様な地域の調査を背景とする議論を通じ、長くその調査対象としてきた物質文化を、工芸/芸術の視点から、人類学として議論する研究の視座の意味と有用性を検討する。
著者
唐木 健仁
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第48回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.68, 2014 (Released:2014-05-11)

沖縄県与那国島では、火葬が一般的になった現在でも、洗骨改葬が継続的に実施されている。本発表は与那国島で参与観察した2事例の洗骨改葬を紹介し、与那国島における社会的背景や儀礼を取り仕切る宗教的職能者の役割などをふまえて、与那国島における洗骨改葬の意義を考察する。
著者
徐 玉子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第46回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.68, 2012 (Released:2012-03-28)

本発表は在韓米軍基地村の米兵専用のクラブで「エンターテイナー」として働くフィリピン移住女性たちの生活に密着した参与観察とインタビューに基づいて、よく国際人身売買の犠牲者として表象される彼女たちが移住先の性産業で遂行する労働をミクロなレベルで考察する。それによって、これまであまり議論されなかったセックスワークにおける感情労働について論ずると同時に、労働過程で発現されるエイジェンシーを浮き彫りにする。
著者
吉村 美和
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第49回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.E11, 2015 (Released:2015-05-13)

旧ユーゴスラビア紛争における民族浄化は、大量虐殺、および組織的強姦や強制妊娠などの性暴力による排除が横行した凄惨なものであり今なお民族集団間に遺恨を残している。報告者は、コソボ紛争時にセルビア人男性からアルバニア人女性に対して行なわれた性暴力を対象に、性被害に遭遇した女性たちを支援しているコソボの民間施設を訪問し、紛争時の性被害とそれ以後の生活の実態について聞き取り調査を行った。その結果、アルバニア人の慣習法であるカヌン(Kanun)が、性暴力を受けた女性たちに大きな影響を与えていることが明らかになった。今回の報告では、先行研究とフィールドでの事例を照らし合わせながら、アルバニア人女性たちが経験した性被害の事例を3つ提示し、それらを分析することでカヌンと紛争時の性暴力の関係について考察していく。
著者
西尾 善太
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第51回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.C17, 2017 (Released:2017-05-26)

本発表では、従来の権力/抵抗といった二項対立的な空間認識の展開に対し、多様な軌跡・歴史のもつれ合いと配置として「ともに投げ込まれている空間」の可能性を考察する。具体的には、第二次世界大戦によるマニラの荒廃のなかで市井の人々によるジープニーという交通機関の発展と、近年、急激に増加した自家用車との間で発生した深刻な交通渋滞を事例とする。