著者
黄 潔
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第51回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B10, 2017 (Released:2017-05-26)

本報告は「憑く」という民俗現象に関する文化人類学的研究である。これまで積蓄してきた、日本民俗学の憑物信仰論や、中国華南少数民族の「蠱毒」に関する文化人類学研究の論点を、西南中国トン族の事例から考察する。調査地の語り及び呪術の実践のなかに表出する、鬼をめぐるトン族のもつ民間宗教や結婚禁忌との関係から、西南中国トン族の憑きもの信仰を論ずる。
著者
北原 次郎太 モコットゥナㇱ
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F09, 2021 (Released:2021-10-01)

本発表では、近代以降の人類学的研究の中で収集されたアイヌ民族の遺骨について、収集の経緯と返還運動の現状を述べる。また、遺骨の収集と同じ時期・環境のなかで、物質資料や言語資料も収集された。これらの収集行為を巡り、琉球民族やアイヌ民族と和人とでは、それぞれの立場性によって異なった情動が呼び起こされる。これまで意識的に論じられてこなかったこの差異を認識することが、両者の和解・共同に繋がることを述べる。
著者
木村 大治 亀井 伸孝 森田 真生
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第46回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.51, 2012 (Released:2012-03-28)

この研究は「数学することとは,きわめて身体的な行為であろう」という予想のもとに,数学研究者たちの会話・身体動作から,彼らが数学的対象をどのように扱って研究を進めているかを明らかにしようとするものである。分析からは,現実世界には具体的な対応物のない概念に対しても,身体的と呼びうる操作がおこなわれているさまを見ることができた。
著者
久米 正吾
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第53回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.G4, 2019 (Released:2019-10-01)

本発表では、中央アジア東部での「牧畜社会」開始の基盤となった青銅器時代における初期農耕牧畜の波及とその歴史生態学的意義について、キルギス、天山山脈とウズベキスタン、フェルガナ盆地での発掘調査成果に基づき議論する。山岳地帯と平地という異なる地理環境への農耕牧畜の適応は、異なる2つの考古学的文化集団がそれぞれ担っているため、両者の相互関係の実相解明に向けた展望についても述べる。
著者
片岡 樹
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第51回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B08, 2017 (Released:2017-05-26)

愛媛県菊間町の秋例祭に登場する牛鬼は、当初は妖怪として想像されたが、のちに疫病よけの御利益を期待され、今日に至っているものである。牛鬼は神輿とは異なり正式には神としての扱いを受けないが、にもかかわらずいくつかの場面では神の類似行為を遂行する。なかば祀られた存在であり、神に限りなく近づいてはいるがなおかつ神にはなれていない存在としての牛鬼から、神とは、宗教とは何かについて考えたい。
著者
野口 泰弥
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第54回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.D16, 2020 (Released:2020-09-12)

本発表ではアイヌ民族による、河川でのサケ捕獲を伴う儀礼、「アシリチェプノミ」の変遷を事例に、サケを軸としてアイヌ民族の先住権運動史を素描することを試みる。それにより、先住権は国家に認められないながらも、社会制度や環境変化を巧みに利用しながら儀礼や、サケ捕獲を内実として実現させてきた実態を明らかにし、近年は儀礼が、先住権をめぐる権利闘争の場であると同時に、交流の場としての機能の重要性が高まっていることを分析する。
著者
村橋 勲
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

本発表の目的は、ウガンダのキリヤドンゴ難民居住地を事例とし、南スーダン難民の生計における難民の「自立」と依存を考察することである。ウガンダは、1955年から現在に至るまで、多くの(南)スーダン難民を受け入れてきた。発表では、ウガンダの難民政策の下での難民の生計活動とホスト社会の形成に注目し、生計における難民の「自立」が、個々の生計活動だけでなく、ホスト社会との社会経済関係に依存していることを示す。
著者
大戸 朋子 伊藤 泰信
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.91-91, 2012

本発表は、(1) 同人誌作家の活動、作品の発表過程についての微視的な記述を提示しつつ、(2)腐女子コミュニティを、内部の様々な軋轢の存在や、評価軸が外部の様々な要因によって変化する流動的なものとして捉え、さらに(3)二次創作作品がどのようなプロセスの中で評価され、コミュニティに受け入れられていくのかについて明確化するために、事象を科学社会学(科学者コミュニティ)の議論に重ねることを試みる。
著者
佐々木 剛二
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.148-148, 2010

本発表では、ブラジルの人類学者エドゥアルド・ヴィヴェイロス=デ=カストロの略歴、及びその仕事の概要を紹介した後、彼の理論の核心となっている「ペルスペクティヴィズモ(perspectivismo)」の考え方について詳しく論じることによって、その思想的背景や理論的射程に言及し、関心を持つ日本語話者の研究者たちの議論の発展に資することを目指す。
著者
比嘉 理麻
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第48回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.64, 2014 (Released:2014-05-11)

いわゆる「工場畜産」と呼ばれる環境下で、飼育される家畜たちは、エージェンシーなき客体、あるいは肉を生み出す単なる機械なのだろうか。この問いを出発点に、本発表では、産業化の進んだ沖縄の養豚場の事例から、人とブタの個別具体的なかかわりを明らかにすることで、産業家畜と人間の関係について別の見方を提示することを目指す。
著者
奥野 克巳
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.53-53, 2010

マレーシア・サラワク州(ボルネオ島)ブラガ川沿いの、人口約500人の狩猟民プナンは、動物と人間の近接の禁止と魂の連続性をつうじて、動物に対する生殺与奪をいわば反省なしに行う西洋とも、動物を殺生する宿命を認めながらも、動物の魂に感謝する日本とも異なる動物との関わり方を発達させてきた。本発表では、プナン社会における動物と人間の関係を民族誌的に記述した上で、自然と社会の二元論について再検討する。
著者
清水 展
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第45回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.22, 2011 (Released:2011-05-20)

私の最初のフィールドワークは、友達の紹介をとおした偶然の出会いに導かれ、当初の予定とは別の地域・民族の村で行った。民族誌を上梓した直後、1991年にピナトゥボ火山が大爆発したとき、たまたまフィリピンにいた私は、噴火被災者の救援とその後の復興を支援活動に関わった。この10年は、世界遺産のイフガオ棚田村の住民主導の植林運動の同伴者として、日本のNGOとの連携に尽力している。自身の経験から人類学と支援について考える。
著者
中生 勝美
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第50回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.C17, 2016 (Released:2016-04-23)

第二次世界大戦中に、アメリカの人類学者の90%が軍事・政治組織にかかわっていた。人類学者を、軍事的な活動の必要に応じて差配していたのはクラックホーンであった。アメリカの対日戦を理解するためには、日本語資料を駆使する必要がある。今回、4つの事例から日本との戦争を通じて、アメリカの人類学がどのように変容し、国家機関や軍事部門に如何にかかわっていったのかという観点から、アメリカの人類学史を描いてみる。
著者
李 セイ
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第50回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.D15, 2016 (Released:2016-04-23)

本発表では日本東京都北区王子市での調査中に出てきた「カワイイ妖狐」について語りの読み解きから、現代日本都市部における「大衆的な妖狐」の認識について試論を展開する。「カワイイ妖狐」の特徴を捉え、「民俗的キツネ」と「学術的キツネ」から受け継いだ連続性を検討する。また、同じく「妖狐」として扱われているが、おおむね同じ存在ではないと主張する。
著者
松田 有紀子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.143-143, 2012

本発表では、京都市内の5つの花街(祇園甲部・祇園東・上七軒・先斗町・宮川町)に共通する、お茶屋の商業上の慣習に注目することで、「女の街」の現在を生きぬくための技法を考察することを目的とする。 慣習がお茶屋の商売感覚に由来することを明らかにした上で、これを「安全な商売」を実現するために客との長期的で親密な関係に依拠して商売を営む感覚と定義し、その意義と現状における変容を指摘したい。
著者
西村 大志
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.17-17, 2008

人体模倣の多様な現場(具体的にはダッチワイフ、ドール、人体模型、ヒューマノイド型ロボットなど)では、どこまでも人間そっくりをめざす技術と、そこから独自の距離をおく手法が開発されてきた。また、人体模倣が精緻をきわめるなかで、「性」の問題が浮上してきた。これを、具体的に考察することで、人工身体における「性」の利用と隠蔽の問題を明らかにする。
著者
田村 和彦
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第50回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.C16, 2016 (Released:2016-04-23)

本発表は、漢族社会の親族研究の蓄積にたち、東南アジアの宗教・社会組織に関する議論において洗練された「親密性」と「公共性」(黄・日下:2014)を補助線として、「広場舞」と呼ばれる、近年の中国において急速に普及した集団ダンスという、従来、人類学的研究がほぼなされてこなかった、流動的で非組織的な対象について、その中核的な人物を中心とする関係性構築のあり方について考察を試みるものである。
著者
土井 冬樹
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B16, 2021 (Released:2021-10-01)

先住民の文化は当該先住民によってのみ利用できるとする考え方がある一方、主流派と先住民の二つの文化を尊重する二文化主義体制をとったニュージーランドでは、国家的な組織の一つである警察が、先住民マオリの踊りであるハカに取り組むようになった。本発表では、他者による文化の利用を嫌うマオリが、警察によるハカの実践をどのように許容しているのか考察する。
著者
大石 友子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.D01, 2023 (Released:2023-06-19)

本映像「三月を待ち侘びて」(制作者・著作権者:大石友子、制作年:2023年、上映時間:37分)は、報告者が長期フィールドワークの中で出会った一頭のゾウ、三月の生と死を記録したものである。この映像では、わからなさに向き合う際に喚起される想像的連関を通じて、フィールドでの思考に視聴者を引き込むとともに、オープンエンドな物語を受け渡すことを試みた。
著者
杉田 映理
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 The 56th Annual Meeting of the Japanese Society of Cultural Anthropology 日本文化人類学会第56回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.A11, 2022 (Released:2022-09-13)

本報告では、コロナ禍の経済的影響として「生理の貧困」が2021年になって社会的に注目されたことをきっかけに、日本でも広がり始めた生理用品無償配布について考察する。現在、生理用品無償配布は、経済的困窮者の支援だけを目的とした施策となっているが、これまでの海外の動向および本研究におけるトイレ内無償提供の有効性の検証を通じて、生理用品無償配布の目的を問い直したい。