著者
藤野 陽平
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.A17, 2023 (Released:2023-06-19)

台湾の「返校」というデジタルゲーム、そしてそこからメディアミックスした諸作品に現れる恐怖と記憶のあり方を、ダマシオのいう生得的な一次の情動と、成長とともに身につける二次の情動という視点から分析する。台湾の他の作品との比較を通じて、普遍性のある恐怖に関連する一次と、地域性の強い記憶に関連する二次の情動のバランスをとっている本作は、集合的記憶を構築しつつトランスボーダーに展開していることを指摘する。
著者
師田 史子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F01, 2023 (Released:2023-06-19)

本発表は、フィリピンにおける財宝伝説「山下財宝」の語りや宝探しの実践を通じて、不確実な存在が確実な存在として立ち現れていく様相を明らかにする。財宝譚を語ることで人びとは、戦時中の略奪された記憶を基層としながら、自らの生活世界に隠れる富のイメージを精緻化している。今は掴めずともいつか掴みうる潜在的な財として財宝の存在が据え置かれることに、財宝伝説が社会に残存し続ける現代的な意味が見出せる。
著者
岸上 伸啓 丹羽 典生 立川 陽仁 山口 睦 藤本 透子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第50回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B12, 2016 (Released:2016-04-23)

本分科会では、マルセル・モースの贈与論の特徴を概略し、それが文化人類学においてどのような理論的展開をみてきたかを紹介する。その上で、アラスカ北西地域、カナダ北西海岸地域、オセアニアのフィジー、日本、中央アジアのカザフスタンにおける贈与交換の事例を検討することによって、モースの贈与論の限界と可能性を検証する。さらに、近年の霊長類学や進化生態学の成果を加味し、人類にとって贈与とは何かを考える。
著者
ア ラタ
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第43回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.97, 2009 (Released:2009-05-28)

本報告では、民族言語を教授言語とし、共通言語の漢語を教科として学習するタイプを選択している内モンゴル自治区におけるバイリンガル教育を切口として、中国内モンゴル自治区の事例を内モンゴル自治区のモンゴル族の視点から、モンゴル族の民族らしさをどう維持してきたかについて考察を加えることを目的とする。それによって、中国の少数民族地域における民族教育のあり方の一端を提示することを試みる。
著者
田辺 明生
出版者
日本文化人類学会
巻号頁・発行日
pp.14, 2008 (Released:2008-05-27)

リンガ・ヨーニは、男女交合による豊饒のシンボルではなく、「女陰に生えた男根」のイコン的表象である。それは、フェティッシュの定義である「母のファルス」に等しい。植民地主義的言説は、西洋とインドの差異を認めつつ否認するのであり、フェティシズムと同様に、自己と他者の差異と同一性の揺れがある。リンガ・ヨーニの不二的関係性を理解することは、フェティシズムを植民地的な束縛から解放するために必要なことである。
著者
李 婧
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 The 56th Annual Meeting of the Japanese Society of Cultural Anthropology 日本文化人類学会第56回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.C06, 2022 (Released:2022-09-13)

日本の都市祭礼の中には、過去から持続する伝統的なものに限らず、現代になって「伝統」の名のもとに新しく創られたものの、特に1970年代以降は多数見られる。本発表はその一事例である東京都北区王子で実施されている「狐の行列」という都市祭礼を取り上げ、祭礼の現場における人々のパフォーマンスと物の使用に焦点を当てながら、新しく創られた都市祭礼における持続性について考察するものである。
著者
久保 裕子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第52回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.62, 2018 (Released:2018-05-22)

現在のフィリピンにおいて、一部の医療機関に生殖技術が導入され、先進国での先例に基づき、ある一定の年齢層に対して出生前診断が推奨されている。他方、中絶行為自体は違法であるが、一部の避妊法の保証と(中絶後の)母体の保護を認めるリプロダクトヘルス法が2012年に制定された。これは社会問題となっている10代の妊娠や貧困女性の中絶の実情を考慮してのことといわれている。フィリピンではネオリベラリズムを背景に、「胎児」をめぐる社会的規範と実態とが多層的に矛盾している状況だ。本発表の目的は、「胎児」をめぐる問題の背景にある、錯綜したいくつかの言説、すなわち「権利」や「倫理」といった言説の歴史的変遷を確認し、そうした言説を辿っていくなかで、フィリピンにおいて「胎児」そのものは不在であったという発表者の仮説について検証するものである。
著者
謝 黎
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.125-125, 2009

本発表は、多民族国家中国の博物館で展示されている民族衣装を取り上げ、「民族識別」と博物館とのかかわりや、「民族」に対する博物館の基本姿勢、また展示物としての衣装の意義や博物館の展示基準などについて考察するものである。
著者
廣田 龍平
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第50回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.D12, 2016 (Released:2016-04-23)

本発表は、日本の「妖怪」を人類学的に把握することを通じて、「無形と有形のあいだ」に現われるフィールドの諸対象を位置づける概念として提示するものである。事例として用いるのは、柳田國男が昭和初期に著した「妖怪名彙」に現われる妖怪、そしてネット怪談として知られる「くねくね」という妖怪の二つである。
著者
斉藤 成也
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第53回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.G5, 2019 (Released:2019-10-01)

本講演では、中央アジアにおける東西の人間の移動をDNAデータから考察する。まず、モンゴル帝国の始祖チンギス・ハンのY染色体の系統についての研究を紹介する。つぎに全ゲノムデータにもとづくウイグル人集団の起源に関する研究を紹介する。最後に東アジア人が東南アジアから北上した人々を主体としつつ、西から移動した人々とも一部混血して形成したという仮説を紹介する。東ユーラシアにおける稲作の起源についても時間があれば言及する。
著者
池田 光穂
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第54回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.C15, 2020 (Released:2020-09-12)

先住民の権利宣言(UNDRIP, 2007)の国連総会採択以降、これまでの人類学関連分野における先住民の遺骨(主に頭蓋骨)の研究のための収集の歴史が再検証され、それぞれのケースにおける倫理的・法的・社会的含意(ELSI)において今日的な意味でのインフォームドコンセントの欠如と反倫理行為が明らかになりつつある。歴史における研究の反倫理行為を現在から断罪するだけでなく、先住民への集合的謝罪と「和解」がどのような形で可能になるのかを文化人類学の立場から検証する。
著者
池田 光穂
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F11, 2021 (Released:2021-10-01)

先住民(族)を「異類の他者」として客観的な表象としてのみ扱ってきた学問の倫理的姿勢を、哲学者の植木哲也(2011)氏は「学問の暴力」と呼び、それを厳しく糾弾する。遺骨返還運動の抗議の矛先は自然人類学に向けられているが、このような歴史的な負債を負っているのは、はたしてわれわれのキョウダイ学問だけではあるまい。私は文化人類学もまた、過去の歴史からの反省し学問が倫理的にノーマライズすべきであることを主張する。
著者
玉城 毅
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第47回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.108, 2013 (Released:2013-05-27)

本研究は、沖縄の糸満漁民の移動から定住への過程に着目し、移住に始まった漁民の流動的な状況からどのような秩序がいかにして形成されたかを明らかにすることを目的としている。それによって、流動性の高さが指摘されてきた東アジア・東南アジアの多くの漁民と比べると、定住化の傾向が高い糸満漁民の特徴を明らかにするとともに、流動状況から秩序が形成され志向されるやり方についての沖縄的な文化モデルを提示する。
著者
桑原 牧子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第43回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.82, 2009 (Released:2009-05-28)

タヒチ社会では西欧人接触以前から現在に至るまで、生物学的には男性として生まれたが、家事や子育てなど、女性としての役割を担うマフ(mahu)と呼ばれる性を生きる人々がいる。近年になり、このマフに加えて、女装や化粧をする人々に対してラエラエ(raerae)という呼び名も使われるようになった。本発表では、そのようなマフとラエラエの名称の呼び名の使われ方をタヒチ島とボラボラ島の事例を比較して分析する。
著者
孫 嘉寧
出版者
日本文化人類学会
巻号頁・発行日
pp.113, 2018 (Released:2018-05-22)

まず、鳴釜神事の由来が結末に語られる桃太郎昔話の一モデルという吉備津地域温羅伝説の文献記録及び現在の神事を紹介する。鬼・温羅は製鉄技術を持つ渡来統治者とされ、伝説の語りには渡来集団と在地集団と中央政権など重層な対立関係やねじれが見られ、ローカル歴史が不断に語り直されることを、構造主義、伝承と歴史、記憶理論、両義性の概念や理論で考察し、今日観光文脈との関連と、地域アイデンティティの再構築を指摘する。
著者
長井 優希乃
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第51回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.A16, 2017 (Released:2017-05-26)

本発表ではインド、デリーにおいて働く不可触民であるメヘンディ描きの家族に焦点を当て、メヘンディ描きの仕事のなかでいかに彼らが他者のまなざしを操っているかということを考察する。その上で、まなざしを操る彼ら自身が、不可触民であるということを他者からまなざされることを恐れながらもそれを隠し、いかにビジネスをし、貨幣を介して装うのかということを考察する。
著者
丸山 道生
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第42回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.266, 2008 (Released:2008-05-27)

流動食は最も重症な病人が食する食事で、それぞれの民族や地域での健康を祈願し、生命の再生を願う儀礼的な食事である。世界20カ国の50病院を訪問し、流動食を中心とした病院食を検討した。東洋(アジア)の流動食は穀物の煮汁が主体で、西洋(ヨーロッパ、オセアニア、南北アメリカ)ではブイヨン、ブロスに代表される肉の煮汁である。東洋ではさらに、北方は雑穀(粟)、日本を含む中間では米、南では大麦の煮汁が流動食の代表であることがわかった。
著者
田中 雅一
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第42回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.64, 2008 (Released:2008-05-27)

本報告の目的は、強壮剤(精力剤)から見たヘテロセクシュアルな男性身体の分析である。具体的に考えたいのは勃起不全(ED)の男性身体である。あえて本質主義的な表現を使えば、勃起不全は、ヘテロセクシュアルな男性の否定であり、「死」を意味する。この「死」をいかに克服し、蘇ることができるだろうか。その方法のひとつが強壮剤である。強壮剤の分析を通じて、いままで隠蔽されてきた男性身体にあり方に迫りたい。
著者
足立 賢二
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第52回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.154, 2018 (Released:2018-05-22)

日本古武道にとって「文化財であること」は自明視された前提の一つである。近年、日本古武道の文化財指定を目指すロビー活動が盛んになっているが、古武道を「文化財」とする見方の政治性に関する批判的検討は不足する印象を受ける。本発表では「文化財」としての古武道像の成立過程を検討した。検討結果からは、「文化財」としての古武道像が、敗戦後の武道の再出発とその後の武道振興に関係して出現したことを明確化できる。
著者
小田 博志
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第52回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.151, 2018 (Released:2018-05-22)

19世紀後半から20世紀前半にかけて、人種主義を背景とする形質人類学的研究のため、世界各地で植民地化された人々の遺骨が持ち去られ、大学や博物館に収蔵された。この植民地主義の負の遺産に対して、遺骨が発掘されたコミュニティーからrepatriation(返還/帰還)を求める声が上がっている。アイヌ民族の遺骨も例外ではない。ここではアイヌ遺骨のrepatriationを巡る状況を報告し、それを通して脱植民地化に向けた人類学者の公共的役割を論じたい。