著者
早坂 忠裕 河本 和明 谷田貝 亜紀代 久芳 奈遠美
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、主に衛星データを用いて、低層雲を対象に、その雲量、光学的厚さ、鉛直積算雲水量、雲粒有効半径の日変化の実態を明らかにし、変化のメカニズムを解明した。まず、静止衛星GOESデータを用いて雲特性の日変化を調べた。1997年7月のGOESデータに前述の雲解析手法(太陽反射法)を適用し、カリフォルニア沖の雲の様子を解析した。その結果、雲の光学的厚さは午前中から正午にかけて減少、その後夕方にかけて増加すること、一方雲粒有効半径は逆に午前中から正午にかけて増加、その後夕方にかけて減少することがわかった。雲の光学的厚さの日変化は一日の中で日射量の変化による大気加熱の時間変化などの要因に依るものと考えられる。また雲粒有効半径の日変化は粒子が時間とともに成長し、大きな粒子が重力沈降で落下し雲1頂付近には比較的小さな粒子が存在することも考えられる。また蒸発などの熱力学過程や衝突併合などの微物理過程など複雑な機構が関与しているであろう。太陽反射法では近赤外チャンネルによる水の吸収率の関係から雲頂付近の様子を見ているため、このような現象を捉えている可能性が示唆される。次に、NOAA/AVHRRデータを用いて、衛星の赤道通過時刻のずれを利用して日変化を調べた。全球平均した雲粒有効半径の変化は、昼から夕方になるにつれて海陸ともに粒径が小さくなっていることがわかった。この傾向は前節で述べたGOESデータを用いたカリフォルニア沖の雲の解析例とも一致する結果である。雲の日変化の地上観測については同じくカリフォルニア西部において行われた例があり、この研究では地上からマイクロ波放射計と日射計を用いて雲の光学的厚さと雲粒有効半径を推定しており、午後から夕方にかけて雲粒有効半径が徐々に減少していることがわかった。これも本研究と整合性のある結果である。
著者
池 道彦 山下 光雄 清 和成 藤田 正憲
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

ハイテク産業での利用を中心に消費量が年々増加しているレアメタルによる環境汚染と資源としての枯渇防止を目的として、レアメタル還元・蓄積作用を有する特殊微生物の検索、それらを利用したレアメタル除去・回収バイオプロセスの構築を試みた。初年度は、セレン酸を元素態セレンに還元できるBacillus sp.SF-1株を利用したセレン含有廃水処理リアクターを構築し、1〜2mMの高濃度でセレン酸を含有する廃水を1日程度で元素態セレンまで還元できること、簡易な凝集沈殿処理や限外ろ過によって完全な処理・回収できることを示した。2年目には、SF-1株がヒ酸還元能を有することに着目し、ヒ素汚染土壌浄化のバイオレメディエーションプロセス構築の可能性を検討した。SF-1株は、ヒ酸塩還元に多様な炭素源を利用できる上、厳密な嫌気条件を必要とせず、有用な特性を持つことを明らかにした。また、ヒ酸塩、セレン酸塩、硝酸塩それぞれによって独立に誘導される別個の還元酵素を有する可能性が示唆され、セレン酸塩や硝酸塩が共存しても、ヒ酸塩還元が阻害されないことを明らかにした。さらに、同株が多様な固相中のヒ酸塩を還元できることを実証した。最終年度には、ラボスケールの回分式スラリーリアクター実験を行い、高濃度の菌体植種が不要であること、ヒ素溶出量が攪拌速度の影響をほとんど受けないことを明らかにした。これより、スラリーリアクターより低コストでの処理ができる連続式土壌充填カラムリアクターによってモデルヒ素汚染土壌浄化試験を行った。流入培養液の水理学的滞留時間1日の運転で、リン酸塩溶液による土壌洗浄と組み合わせることで300mg-As/kg-soil程度の汚染土壌を土壌含有量基準以下まで浄化できた。これら一連の研究により、微生物還元・蓄積作用を利用したヒ素汚染浄化・回収技術構築の可能性を示すことができた。
著者
田中 三郎 廿日出 好 岩佐 精二
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

核磁気共鳴(NMR)は静磁場中で原子が固有周波数の磁気エネルギーを吸収・放出する現象で、これを利用した地中の石油貯留層を探査する地下資源探査システムの研究開発に取り組んだ。rf-SQUIDに結合したシステムを作製し、地磁気レベルの低磁場を用いてプロトン1^HのNMR信号の計測を行なった。実験の結果、1^Hのピーク信号が確認でき、このときのSN比(信号対雑音比)は7以上の良好な結果を得ることができた。よって、地磁気中の1^H-NMRを計測可能なSQUID地磁気NMRシステムの基礎を構築することができたと考えられる。
著者
廣田 照幸 田原 宏人 筒井 美紀 本田 由紀 小玉 重夫 苅谷 剛彦 大内 裕和 本田 由紀 小玉 重夫 苅谷 剛彦 大内 裕和 清水 睦美 千田 有紀
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1990年代から現在に至る約20年の教育社会学の研究成果と教育現実の変動との関係の見直しの必要性が明らかになった。政治のレベルでの55年体制、経済のレベルでの日本的雇用システムを、暗黙の前提とした研究枠組みを脱する必要が浮かび上がった。特に、教育政策の立案-実施の過程に働く政治的な諸力が、1990年代初頭から大きく変容したこと、また、卒業生の受け皿である労働市場や雇用システムが、1990年代半ば以降、大きく変容したこと、その二つが、教育政策をめぐる議論に対しても、学校や生徒の現実に対しても、大きな意味を持っていた。とはいえ、実証性を研究の主要なツールとしてきた教育社会学は、そのような大きな構造変動を理論や研究枠組みのレベルで適切にとらえきれないまま、2000年代の教育改革の中で、部分的・断片的な実証データをもとにした推論を余儀なくされる状況に陥ってきたといえる。こうした検討を踏まえて、本研究から明らかになったのは、新たな政治・経済の枠組みをとらえた社会科学の知見を、教育社会学内部に取り込む必要性である。特に、グローバル資本主義の展開が政治や経済のあり方を左右する際、どういう選択肢が理論レベルであり得るのかをふまえ、それらの選択肢が教育政策に及ぼす影響を予測することの重要性が、明らかにされた。
著者
竹内 洋 富田 英典 稲垣 恭子 佐藤 卓己 井上 義和
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

総合雑誌を中心とする論壇の「衰退」や、インターネットを中心とする新しい論壇の「誕生」といった現象の背後で進行してきたメディア史的な変動の過程について、中長期的なスパンで実証的に分析した。論壇的公共圏の成立の重要な契機として、進歩的文化人による「革新幻想」公共圏の形成があったことを示し、さらに論壇的公共圏の変容を解明するために、様々なタイプの雑誌メディアの変容過程について調査している。
著者
佐藤 泰介 亀谷 由隆
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

PRISMは将棋の戦略や文章の曖昧性の解決といった複雑な確率事象を表現し、事象の分布の統計的パラメータをデータから自動的に学習する能力を持つ、世界的に見てもユニークなプログラミング言語である。今年度は確率的モデリング言語としての能力を更に強化するため、様々な改良を行い、PRISM1.11として公開した。PRISM1.11では、(1)PRISMの探索部分の実装言語であるB-Prologの最新バージョンであるB-Prolog7.0との統合を行い、メモリ効率を向上させた。(2)並列EM学習が行えるようになった。確率文脈自由文法のパラメータ学習ではCPU数にほぼ比例して数十倍の速度向上がみられた。(3)決定性のアニーリング方式に基づいたEM学習が利用できるようにした。これはEM学習の局所解の問題を避けるのに効果が期待できる。(4)N-viterbiアルゴリズムを実装し、上位N個のビタビ解を求められるようにした。(5)次に述べるようにベイズ的学習法である変分ベイズ学習法を実装した。確率モデリングでは通常最尤推定に基づくパラメータ学習を行うが、PRISMでは新たにパラメータにディリクレ分布を事前分布として導入し、ディリクレ分布のハイパーパラメータを変分ベイズ学習により学習出来るようにした。そのためPRISM用の変分ベイズ学習アルゴリズムを導出し、実装した。PRISMの変分ベイ学習は従来知られていた隠れマルコフモデルや確率文脈自由文法をはるかに越える範囲の変分ベイズ学習を可能にしており、例えば、バイオフィフォマティクスで使われるプロファイル隠れマルコフモデルの変分ベイズ学習が可能になった。
著者
浜井 浩一 辰野 文理
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

近時、日本では、凶悪犯罪の増加など治安の悪化が大きな社会問題として取り上げられている。マスコミには、凶悪犯罪が起こるたびに、凶悪犯罪が多発しているといった枕詞に続いて、認知件数や検挙率といった警察統計が頻繁に登場するようになった。多くの国民にとって治安の悪化は疑問の余地のないもののようにとらえられている。しかし、認知件数は、あくまでも警察に事件が届けられ、警察が犯罪として認知したものを計上したもので、警察の対応によって大きく数字が変化するなど、犯罪発生をそのまま反映したものではない。本研究プロジェクトは、こうした警察統計の持つ問題点を克服し、正確な犯罪動向を測定するため、日本版犯罪被害調査を開発することを目的としている。具体的には、日本だけでなく英米などの警察統計等を詳細に分析し、その犯罪指標としての特徴、限界等を明らかにすると共に、英米での犯罪被害調査の実情及び成果について調査研究を実施した。この部分の成果については、2006年1,月に『犯罪統計入門(日本評論社)』として刊行した。そして、その成果を踏まえつつ、2006年度からは、日本の犯罪事情を正確にとらえることのできる犯罪被害調査の開発に取りかかった。また、本研究では、新たに調査票(質問紙)を作るだけでなく、調査の実査方法についても検討した。調査対象者を二つのグループに分け、一つのグループについては、従来から日本の世論調査等でよく用いられている訪問面接方式によって調査を実施し、もう一つのグループについては訪問留置き方式によって調査を実施した。これは、近時、個人情報に対する国民の意識の高まり等によって、世論調査・社会調査の実施環境が著しく悪化し、調査の回答率が低下したことに加えて、調査実施に対する苦情も増大しつつある現実を踏まえてのものである。さらに、回収率の低下が調査の信頼性にどのような影響を与えるのかを検討するため、無回答者に対して、質問項目を絞った簡易質問紙を郵便で送付する追跡(二次)調査を実施し、その結果を訪問調査の結果と比較した。今後は、この成果を踏まえ、個人情報保護下における犯罪被害調査のあり方について検討する。
著者
山本 幹雄 乾 孝司
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、高精度かつ長距離のフレーズ並び替えを可能とするルールの抽出手法を開発した。抽出されたフレーズ並び替えルールの特徴は、フレーズの並び替えに重要な働きをする機能語(助詞など)の対訳関係を中心に語彙化されている点である。これにより、翻訳対象である文構造を的確に捉えながらフレーズの並び替えが可能となる。日英の翻訳実験において、提案ルールによって翻訳性能を改善できることを明らかにした。