著者
坂元 章
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、2つの実験によって、攻撃型テレビゲームでの遊びがその後の攻撃行動に影響するか、などの問題を検討した。実験1では、女子大学生52名を5つの条件の1つに割り当てた。それらの条件は、被験者が現実的なゲーム(ヴァーチュアコップ)で遊ぶ条件、非現実的なゲーム(スペースインベーダ)で遊ぶ条件、現実的なゲームの進行をただ見る条件、非現実的なゲームの進行を見る条件、中性的な映像を見る対照条件であった。被験者には、ゲームや映像に接触した後で、サクラに対して電気ショックを与える機会が与えられ、そこで被験者がどれだけの電気ショックを与えたかが攻撃行動の測度となった。また、被験者の血圧や心拍を、ゲームや映像に接触する前後で測定した。実験2では、実験1の手続きを変更し、その知見の妥当化と拡張を行った。実験2では、現実的なゲームとして、エリア51をパァーチャガンとともに使用し、格闘ゲーム(鉄拳2)で遊ぶ条件を加え、更に、攻撃行動の指標としてサクラに対して雑音を聞かせる行動を測定した。ゲームの進行を見る条件は設置しなかった。被験者は、41名の女子大学生であった。これらの実験の結果、次のことが明らかになった。(a) テレビゲーム遊びは攻撃行動を促しうること。ただし、(b) テレビゲーム遊びの影響は、ゲームの種類によって大きく異なっていること(例えば、バーチュアガンを用いたエリア51では影響が検出されたが、バーチャルコップでは検出されず、スペースインベーダーについては、2つの実験で結果は一貫しなかった)。(c) テレビゲーム遊びが攻撃行動を促す影響は、その相互作用性のために生じている可能性があること。(d) テレビゲーム遊びの影響は、それが運動による生理的喚起を引き起こすからではないこと。
著者
染岡 慎一
出版者
安田女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

大学の付属学校等を除いて、従来、小学校が直接インターネットに接続された事例は皆無であった。本研究では、実際に小学校をインターネットに接続し、接続を維持し、さらに教育の場で活用する一連の研究を行った。本研究により、日本で最初の小学校ドメインとして広島市立鈴張小学校がUUCPによってインターネットに直接接続された。本研究により、以下の点が明らかになった。1)UUCPにより、小学校をインターネットドメインとして直接接続することは可能であるが、特に、公の機関がインターネット接続のために回線を利用するという概念がもともと無いため、電話回線等の外部との通信回線の確保が困難であった。また、現段階では、既存のワークステーションを利用したUUCP接続が最も接続が安定した。2)インターネットに公立小学校が直接接続する事例は日本において初めての試みであったが、地域ネットワークプロジェクトを介することにより、教育・研究目的の接続は可能であり、小学校の教諭が直接手続きを行った。3)UUCP接続後、1日の電子メールの出入りは平均20通であった。主な通信先は国内ドメイン40%、海外ドメイン35%、メーリングリスト18%、パソコン通信局7%等であった。4)カナダKingston and District小学校と、電子メールを利用した「クリスマスのすごし方」について
著者
石田 敏彦
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.分子レベルでの気泡モデルの改良本研究では単一気泡の内部を分子レベルで扱い,気泡界面の境界条件は従来の連続体の方程式であるKellerの方程式にしたがって決定するモデルを構築したが,気泡界面での水分子の蒸発と凝縮は組み入れられていなかった.また,以前のモデルで確認された気泡内部の衝撃波は,実際には界面での熱伝達により存在しないとも考えられた.今年度ではさらにモデルを改良して,界面での水の蒸発と凝縮,しいては熱伝達と質量流入を考慮し,境界条件も界面での蒸発と凝縮を考慮したYasuiの方程式に変更することで,最近報告された気泡内部における分子種の分布の変動や非平衡状態をシミュレートすることを可能にした.得られた結果では,気泡運動半径,気泡内部の温度,圧力の分布は他の研究者によるシミュレーション結果と一致したが,衝撃波らしき急激に変動する圧力分布が見られ,現在有力視されているソノルミネッセンス発生メカニズムの理論を裏づけるには到らなかった.今後,内部の水分子の解離や希ガス分子のイオン化を含め,より詳細に発生メカニズムの解析を行っていく予定である.2.発光の実験条件への依存性調査昨年度作成した実験装置により,単泡性ソノルミネッセンスから多泡性ソノルミネッセンスへの遷移を確認することができた.本研究では計上した熱電対による水温のモニター,及び計上したポータブルイオン・pH計によりpH値を予定していたが,既に実験で得られているpHの変化量が予定したポータブルイオン・pH計の分解能以下であることが判明し,購入および実験を断念した.しかし,ソノルミネッセンス発生の温度依存性,音圧条件と単泡性から多泡性ソノルミネッセンスへの遷移領域は現在も未知の部分があり,今後も多泡性および単泡性ソノルミネッセンスの差異の支配する要因を計測する手段を開発することを目指す.
著者
太田 出
出版者
神戸商科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

今年度は本研究課題に関わって8月3日〜19日まで中国北京、9月1日〜7日まで台湾台北で海外調査を行った.北京では、社会科学院歴史研究所に赴いて中国人研究者と交流を深めると同時に、第一歴史〓案館・国家図書館(旧北京図書館)・首都図書館で監獄・警察・裁判関係の史料を閲覧・複写した。また台北では、短期間であったが、中央研究院で同様の史料を閲覧・複写した。国内では、12月末に東京大学東洋文化研究所に赴き、広西省の模範(モデル)監獄など監獄関係史料を中心に閲覧・複写した。以上が本年度の史料調査の概要であるが、筆者の勤務先の変更もあって十分な時間を確保できず、当初の予定すべてを行うことはできなかった。今後の課題としたい。また今年度は昨年度に複写・蒐集した史料の読解・分析作業も同時に進めた。成果の一部は後掲の雑誌論文「「自新所」の誕生-清中期江南デルタの拘禁施設と地域秩序-」(『史学雑誌』111-4、2002)で公開する予定である。これは監獄に関わる調査の中で入手できた史料群に分析を加えることで、これまで全く未解明であった授産更正的な拘禁施設=自新所の実態を検討し、その誕生が刑罰制度や地域秩序の有り様と如何に関わっていたかを考察したものである。このほか監獄関係については興味深い史料を多数蒐集できている。今後さらに分析を進めていく予定である。犯罪現象については、京都大学人文科学研究所(明清班、班長岩井茂樹)において研究成果の一部を「清前中期江南デルタ社会と犯罪抑圧の変遷-労働力の流入、犯罪そして暴力装置-」と題して口頭発表した。これは犯罪抑圧の研究を江南デルタ開発の全体史の中に位置づけようと試みたものである。
著者
塚原 康子
出版者
東京芸術大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1.戦後の変化の前提となる戦前の軍楽隊と宮内省楽部の活動状況を調査した。(1)明治初年に創設された陸海軍の軍楽隊は、明治後期には独自の教育システムを作り上げ、大正・昭和期には管弦楽(明治末から導入)を通して東京音楽学校や当時の楽壇と関係を深めた。太平洋戦争末期に大幅な増員がなされたため、戦後には異例に多くの人材が軍から民間に転ずる結果となった。このうち海軍軍楽隊については、海軍歴史保存会編『海軍史』別巻「軍楽隊史」にまとめた。(2)明治7年から雅楽と西洋音楽を兼修した宮内省楽師は教育や管弦楽演奏などを通じて楽壇と交流し、大正・昭和期には楽家(世襲の雅楽専業家系)出身者にも西洋音楽に専心する者が現れた。2.戦後の音楽活動に関する聞き取り調査(海軍軍楽隊出身者4名、宮内省楽部出身者2名)を行った。(1)軍楽隊出身者は、戦争直後には進駐軍相手のバンド、最盛期にあった映画音楽の制作などに引く手あまたの時期があった。しかし、占領の解除、世相の鎮静化に伴ってこうした一時的な需要は急速に縮小し、その後は、オ-ケストラやジャズ・バンドで活動する者、音楽大学や初等中等学校の教員として活動する者(戦後の学校や民間での吹奏楽の普及に貢献した)、東京消防庁音楽隊・警視庁音楽隊・自衛隊の各音楽隊などに入隊した者、など音楽的適応力により分化した。(2)楽部定員は50名から25名に半減し、雅楽の演奏形態などに直接の影響が生じた。昭和21年には、昭和10年代に楽師となった当時20-30代の若い楽師のほとんどが楽部をやめ、民間での雅楽の指導・普及、オ-ケストラなどの西洋音楽楽壇へ転身した。この結果、戦死した人々と併せてこの世代の雅楽伝承者が欠落し、これまで楽家を中心に旧来の伝承形態を保ってきた雅楽界は、新しい事態を迎えることになった。今後、さらに聞き取り調査を重ね、その結果を来年度の『東京芸術大学紀要』に発表する予定である。
著者
梅野 哲義
出版者
久留米大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

成長・発達前の新生児の声帯を電子顕微鏡下に観察し,その超微構造を学会で講演し論文として発表してきた。本年度の研究実績の概要は,1.電顕的に新生児声帯の模様部は線維成分に比べて基質が豊富であった。また線維成分に関しては,膠原線維は比較的発達していたが,弾性線維は未熟であった。線維芽細胞は成人に比べて多かったが,膠原線維や弾性線維をほとんど産出していなかった。声帯靱帯はまだ形成されておらず声帯の層構造は認めなかった。振動体として新生児の声帯をみると,弾性線維は非常に未熟であり弾性が低く,声帯振動にとって有利な構造ではないと言えた。2.新生児声帯の前端と後端には黄斑がすでに形成されており,その大きさは成人の黄斑とほぼ等しかった。新生児の声帯黄斑は線維芽細胞,膠原線維,弾性線維,基質からなっていた。線維芽細胞の密度は成人に比べて大きかった。新生児の声帯黄斑では線維芽細胞が膠原線維と弾性線維の産生をすでに盛んに行っていた。出生後の声帯振動が黄斑の線維芽細胞をさらに活性化し,成長とともに声帯靱帯を形成し,声帯の層構造が完成することが予想された。新生児の声帯黄斑は声帯靱帯などの声帯の線維組織の成長・発達にとって重要な構造物といえた。以上のような新生児声帯の超微構造が本研究で新たに解明された。現在,研究結果の一部は論文として掲載された。残りの研究結果は現在投稿準備中である。またさらに新生児声帯の超微構造の研究を進めている。
著者
竹内 常道
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

1)SHK-1ヘアレスマウスに3x10^5PFUの単純ヘルペスウイルス1型を初感染させた.2)以下の2群を用意し,初感染4週後に紅斑量以下のUVB,100J/m^2,200J/m^2,400J/m^2,800J/m^2,1600J/m^2をそれぞれ2匹ずつ照射した.(1)全身照射群:初感染部位をアルミ箔で覆い,全身に紫外線照射を受けた群.(2)局所照射群:初感染部位以外をアルミ箔で覆い,初感染部位のみに照射を受けた群.3)照射後は,全身照射群では100J/m^2と200J/m^2では皮疹の誘発は無く400J/m^2,800J/m^2,1600J/m^2では2匹とも小水疱が認められた.一方,局所照射群では400J/m^2以下では皮疹の誘発は無く,800J/m^2で1匹,1600J/m^2では2匹とも小水疱が認められた.4)皮疹が誘発されなかった群における,皮膚へのウイルスの排泄を免疫組織学的に検討した.全身照射群では100J/m^2ではウイルスは認められなかったが,200J/m^2では皮疹の誘発はなかったにもかかわらずウイルスの排泄が1匹でみられた.一方局所照射群では,皮疹の誘発がなかった400J/m^2以下ではウイルスの排泄も認められなかった.5)免疫組織学的にウイルスを認めなかった群において,更にPCR法を用いて検討した.HSV-1の1930-2191のpol geneをプライマーとして初感染部位周辺の皮膚をPCRにかけたところ,全身照射群のでは100J/m^2で,また局所照射群では100J/m^2と400J/m^2で各々1匹ずつウイルスの存在を確認した.
著者
工藤 勲
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

ホタテガイの中腸腺は、肥料・飼料としての有効利用の可能性があるにもかかわらず、カドミウムが高濃度に含まれていることが問題となっている。そこで、本研究では、ホタテガイに濃縮されるカドミウムを例にとり、魚介類に濃縮される金属の濃縮機構を解明することを目的とした。調査は、前年に引き続き北海道噴火湾森沖のホタテ養殖施設内と養殖の行われていない湾中央部の定点において5月から11月にかけて計10回の調査を行った。毎回、水温、塩分、栄養塩、基礎生産量、懸濁態有機炭素・窒素、植物プランクトン量とカドミウム含量、それとホタテ一年貝の成長速度、中腸腺量とそのカドミウム含量を測定した。【結果】ホタテガイの餌となる植物プランクトン現存量は、5月から8月にかけて横ばいであったが、プランクトン中のカドミウム含量は、8月に他の3倍程度と高濃度を示し、その後減少した。ホタテ1年貝の成長速度は、平均で0.35g/月でほぼ直線的に重量は増加した。殻長もほぼ同様に増加した。中腸腺中のカドミウムは今回の測定値とこれまでの報告値を総合すると春から夏にかけ増加し、その後、冬にかけ減少する傾向がある。これらは、ホタテガイが餌として主に植物プランクトンなどの懸濁態有機物を摂取していることを考えあわせると調和的な結果である。植物プランクトン中のカドミウム含量の変化の原因について、これまでの知見より、噴火湾では、植物プランクトンの種組成が、春から夏にかけて珪藻類から渦べん毛藻類へ遷移することが知られており、この植物プランクトン種の変化がホタテ中腸腺中へのカドミウムの蓄積に影響を与えている可能性が示唆された。また、海水中のカドミウムの濃度は、他の海域と比較して特に汚染されているわけではなく、また春から夏にかけて減少傾向にあるため海水中の濃度がこの濃縮に与えている影響は少ないと考えられる。
著者
鳥養 祐二
出版者
富山大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

トリチウム水からトリチウムを効率よく回収するため,水素吸蔵合金電極を用いたトリチウムの回収法を提案し,検討を行った。平成12年度に吸蔵合金中に吸蔵された水素の同位体比測定装置を作成した。ガスの吸蔵反応において,重水素より軽水素の方が安定なPdを電極として使用すると,電解時間の経過とともに電極内部に軽水素が濃縮されるが,軽水素より重水素の方が安定なVを電極材料として使用すると,わずかではあるが,重水素が濃縮されることを見いだした。このような現象は今までに報告されていない。しかし,V電極は電解吸蔵の効率が悪く,濃縮率にばらつきが見られ,再現性に問題があった。そこで,Vの水素吸蔵量を増加させるためVにPdやPtを蒸着させたが。V単独では重水素の濃縮したのに対し,PdやPtを蒸着した場合、重水素の濃縮は見られなかった。次に,Vと同様に軽水素より重水素の方が安定なLaNi_5について検討した。電解時間1時間では重水素の比率が15%であったが,電解時間の増加とともに重水素の比率は増加し,電解時間10時間では40%に増加した。しかし,H/LaNi_5=4以上の水素を吸蔵させると,電極が壊れ,それ以上の水素を吸蔵させることはできなかった。水素吸蔵合金中での同位体濃縮挙動を説明するため,陰極上で軽水及び重水が電解され合金中に吸蔵される反応と,合金中からH_2, D_2, HDを放出する反応を仮定し,それぞれに反応速度定数を与え,反応を模擬した。Pd中では重水素の方が軽水素よりも脱離速度が速いと仮定すると電解時間の増加と共に吸蔵された重水素の比率が減少するという実験結果を再現することができる。反対に,VやLaNi_5では,軽水素の方が重水素よりも脱離速度が速いと仮定すると電解時間の増加と共に重水素の比率が高くなるという実験結果を再現することができる。この仮定が正しければ,電極を工夫し,更に水素を吸蔵させれば軽水素より重水素を濃縮できる可能性があることを示唆している。
著者
杉浦 正利
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、昨年度と本年度の2年間で、インターネットを使い直接外国とコミュニケーションを行なうのに必要な英語による情報発信能力を養う英語学習支援システムを開発した。本年度は、昨年度作成したオンライン英和・和英辞書と有機的に関連づけられた英語表現例文集の構築と公開を行なった。英語表現例文集としては、二種類のものを作成した。一つは、大学英語教育学会による基本4000語を基にした5300の基本英語例文とその対訳からなるデータベースである。もう一つは、日本の大学のWWWページおよびそこから直接リンクの張ってある英語もしくは日本語によるWWWページをデータベースにしたものである。英和・和英辞書と二種類の英語表現データベースとを有機的かつ動的に関連づけた英語による情報発信支援システムを試作し、7月に米国サンディエゴで開催されたコンピューター支援語学教育学会(CALICO)で発表した。さらに、その時点で問題となっていた検索速度と一般公開のための例文の著作権の問題を解決するために、独自に開発したWWWページ収集システムとSONYで開発された全文検索エンジンSGSEを利用したシステムを開発した。WWWページ収集システムは1時間に約200ページを収集する能力があり、全文検索システムによる検索対象語は約4万語(英語約2万5千語、日本語約1万5千語)にのぼっている。最終的に、本システムは、以下のモジュールから構成された、英語学習者向け英語情報発信支援システムとなった。1. 英和辞書2. 和英辞書3. 学習者向け日英対訳基本例文集4. WWWページ英語例文集5. WWWページ日本語例文集なお、本システムは、すでに、インターネット上で一般公開しており、日英両言語で辞書・例文集が利用できるという特徴から、日本国内の英語学習者だけでなく、海外の日本語学習者からも利用されている。
著者
川添 和義
出版者
徳島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1.各産地におけるArtemisia annua及びArtemisia apiaceaに含まれるアルテミシニンの含有率について,さらに評価を続けた.昨年開発を行った固層抽出法とGC-MSを組み合わせた分析法により,台湾産(高雄市場品)について分析を行った結果,黒竜江省で採集したA.annuaに匹敵する含量を認めた.今年度はさらにHPLCによる分析を行い,著者が開発したアルテミシニンの分析法を評価した.すなわち,昨年分析を行った大阪市場品,北京市場品,陜西省市場品,黒竜江省採集品,雲南省採集品の各石油エーテルエキスを作製し,それらをHPLCで分析したところ,GC-MSを用いた結果とほぼ一致することがわかった.さらに感度はGC-MSの方が数万倍上回ることから本方法の有用性が明らかにされた.2.ヨモギ属植物の評価をさらに国内産のヨモギについても行った.今年度はヨモギ,ワタヨモギ,リュウキュウヨモギなど国内に自生するヨモギ属植物13種について栽培し、その生物活性成分を検討した.その結果,日本において絶滅危惧とされているワタヨモギのアルコール抽出エキスに強い抗MRSA活性のあることが判明した.そこで,本エキスについて種々のカラムクロマトグラフィーを用いて分離精製を行い活性成分を単離した.本化合物については現在その構造を解析中である.抗MRSA活性を有するヨモギ属植物はワタヨモギ以外にも確認されており,今後さらに検討を続ける予定である.
著者
山田 伸一
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

今年度は主に、『日本外交文書』や外務省外交史料館所蔵史料など外交関係史料の調査と、北海道立文書館所蔵の開拓使文書・佐藤正克日記(北海道立図書館所蔵)や阿部正己文庫(鶴岡市立図書館所蔵)中の松本十郎関係文書の分析を進めた。既往の研究の成果を基本的には再確認し事実関係をより詳細に把握できた諸点以外に、今回特に確認できたのは次の点である。なお、樺太アイヌの石狩地方移住後の状況については分析が十分に進んでおらず、今後に課題を残している。1)1875年の樺太千島交換条約の交渉過程においては、先住民族の帰属をめぐる問題は無視されていたに等しく、条約締結後の東京での日露間の交渉で、先住民族にのみ国籍と居住地の合致を義務づけることを再確認したものである。2)樺太アイヌの対雁への移住は、アイヌ自身の意向や開拓使札幌本庁の意見を押し切って開拓長官黒田清隆が断行したものである。3)移住に際して開拓使は、樺太で漁業経営を請け負っていた商人とアイヌとの間の慣習や人間関係を利用しつつ、アイヌと商人との関係の断絶・官への直接の依存を図っていった。4)北海道へ移住させられたアイヌの樺太への帰還は、1905年の日露講和条約以前から活発だったが、郷土で生計を立てようにも日本国籍を持つ故に漁業経営から制度的に排除される点で不利な立場に置かれる一方、北海道へ移住しなかったアイヌは比較的有利な立場にあった。南樺太が日本領になるとその立場が逆転する。1875年の条約締結時に同民族内に生じさせられた分断は、日本領時代は日本岡籍の有無の差として存在し、長く影響を与えた。
著者
松田 聡
出版者
徳島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

[目的]アナンダミドは、カンナビノイド受容体の内因性リガンドとしてブタ脳より単離され、構造はアラキドン酸のエタノールアミドである。最近、アナンダミドの薬理作用が注目されているが、眼に及ぼす影響については、ほとんど解明されていない。今回われわれは、アナンダミドの眼、特に眼圧に及ぼす影響について検討した。[方法]体重2.0-2.5kgの雄白色家兎を使用し、日照時間などの環境因子による眼圧の変化を考慮し、照明時間や温度の管理された環境下で飼育した。対照実験としてバルミチン酸エタノールアミド(アナンダミドのアラキドン酸部分を飽和脂肪酸に置き換えたもの)を使用した。投与方法は、50mlのミネラルオイルに溶かした各種薬剤を片眼に点眼し、他眼には対照液を点眼した。その後ウサギを覚醒状態で点眼麻酔し、眼圧を経時的に測定した。角膜、虹彩、結膜の症状についても経時的に細隙灯下に観察した。[結果]150mgから1mgのアナンダミドの点眼により点眼1時間後から対照眼に比べ、眼圧が有意に下降し2時間後には最低値に達した。その効果は点眼7時間後まで持続した。バルミチン酸エタノールアミドには眼圧下降作用は認められなかった。細隙灯検査ではアナンダミドの点眼で充血をきたし、その程度は眼圧の変化と同様に2時間後で顕著であった。[結論]アナンダミドは用量依存性に眼圧下降作用があり、新しい緑内障治療薬としての可能性が示唆された。
著者
張 賢徳
出版者
帝京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

(1)自傷行為中に解離状態が生じている、(2)自傷行為中の解離状態が強いほど自傷は重症になる、(3)解離性向が強いほど自傷を起こしやすい、という3つの仮説を立て、これらを検証することが本研究の目的である。対象は精神科患者であり、自傷行為歴、自傷行為歴があった場合にはその行為中の解離度、そして普段の解離性向について、面接ならびに質問紙法によって情報収集を行った。解析方法は、仮説(1)に対して、自傷行為時に解離状態を呈した者の割合を調べる。仮説(2)に対しては、自傷行為中の解離度を質問紙(Peritraumatic Dissociative Experiences Questionnaire)で測定し、その程度と身体重症度との相関を調べる。仮説(3)に対しては、普段の解離性向を質問紙(Dissociative Experience Scale;DES)で測定し、自傷行為群と非自傷行為群の間でその得点を比較する。うつ病性障害の患者200名、精神分裂病患者50名が現在解析可能な段階にある。その他の疾患群では情報収集を続けてきたが、十分な解析に耐えうる数がまだ集まっていない。うつ病性障害では、上記の仮説3つとも支持される結果が得られた。精神分裂病では、仮説(1)、(2)は支持されたが、仮説(3)は支持されなかった。この解釈として、精神分裂病患者は解離性向に無関係に強い覚悟の上の自殺念慮によって自傷行為を起こすと考えられる。つまり、彼らの自殺念慮の高まりには解離はあまり関係せず、一旦強い自殺念慮を抱くと、解離性向に関係なく実行する(「覚悟の上の自殺」と考えられる)。しかし、DESの質問事項の一部が精神分裂病症状に近似しているものがあるため、これらの項目の扱いを再検討して解析することも予定している。本研究から、うつ病性障害では、希死念慮プラス強い解離性向が自殺の危険因子であることが示唆された。
著者
那須野 悟
出版者
九州工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

気体放電現象は真空度や放電管の形状等によりじつに多彩な放電パターンを呈することが知られている。非常に古くから知られている例としては、グロー放電にみられる縞状の明暗パターン(striations)がある。これらの縞模様は陽光柱と呼ばれる空間領域に電荷の流れ方向に沿って現れ、定存波的なものと進行波的なものとがあることが知られている。また現れるパターンは電荷の流れの方向ばかりではなく、電荷の流れと垂直方向にも縞状や六角状の空間パターンが形成されることが最近確認されている。このように気体放電系は、多彩な時空構造を自己組織するパターン形成系として非常に魅力的な物理系であるが、これらの時空構造が如何にして自己組織的に形成されるかという物理的メカニズムについては未だ完全には解明されていなかった。本研究ではまず流れに沿った方向の時空パターン形成現象とそのダイナミクスに焦点を絞り実験的研究を行い、その結果以下のことが明らかとなった。(1)気圧、放電電流等の制御パラメータに対して相図の作成を行い、どのような条件でstriationあるいはその他のパターンが現れるのか調べた。striationは混合分子ガス、純粋分子ガス(窒素)、希ガスのいずれでも生じることが明らかとなった。(2)窒素では非常に空間的に一様なstriationが生じるのに対して、混合分子ガスや希ガスではstriationの明暗のコントラストが陽光柱の陰極側から陽極側にいくにしたがい指数関数的減衰を示す。(3)各気体においてstriationの空間周期は与えられた制御パラメータに対して唯一決まる。(4)striationの間隔は、放電電流とともに増加し、気圧に対してはべき的依存をすることが明らかとなった。さらに、各気体に対するべき指数の定量的結果を得ることができた。(5)また、現在測定した時系列データからリアプノフ指数スペクトラム求めることにより系の動的安定性の解析を行っている最中である。分岐のタイプに関する詳細な測定も進行中である。
著者
花澤 豊行
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

1)手術時に得られる鼻粘膜標本(アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎)において、一酸化窒素合成酵素(NOS)の存在を免疫組織化学法を用いて確認した結果、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎の鼻粘膜ともNOSは、上皮細胞および血管平滑筋細胞に陽性所見を示した。しかし、両者における染色性に有意な差は認められなかった。このことより鼻腔内NOの産生部位は上皮細胞もしくは血管平滑筋であることが予想される。2)正常コントロール、アルレギ-性鼻炎患者における鼻腔内一酸化窒素(NO)濃度を測定するとともにacoustic rhinometryを用い鼻腔内容積を測定し、単位面積あたりの産生量を比較検討した結果、アレルギー性鼻炎患者においては有意に鼻腔内NO濃度が上昇していることを確認した。また、手術患者の協力のもと、鼻腔、上顎洞におけるNO濃度を副鼻腔炎症例、正常例にて上記同様単位面積あたりに換算し比較検討した結果では、副鼻腔炎症例においては鼻腔内NO濃度が上昇しているものの、NOの産生量に鼻腔と副鼻腔では有意な差がないことを確認した。この結果より鼻腔内NOガスは炎症により産生が増加することが確認できた。今後はこの機序にいかなるサイトカインが関与するかを検討する。3)鼻腔内NOの下気道における生理学的影響を検討するため、鼻呼吸と口呼吸において咽頭におけるNOガス濃度を比較するとともに、血液ガス交換の指標の一つである有効肺血流量を比較したところ、口呼吸に比べ鼻呼吸では有効肺血流量が増加する症例が多いことが確認できた。この結果は、鼻腔内NOガスが下気道の血液ガス交換に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。今後は吸気中のNOが関与することを確認するため、鼻呼吸時と同濃度のNOガスを口呼吸時に吸入させ有効肺血流量が改善するか否かを検討する予定である。
著者
山口 和巳
出版者
神奈川歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

幼稚園児を対象にフッ化物配合歯磨剤使用後の口腔内残留フッ素量を測定した。対象となった幼稚園は,園医が週1回歯みがき指導を行っており,園児の歯みがき技術は比較的一定している。169名の園児のうち,園児自身で歯みがきをする習慣があり,かつ歯磨剤を併用している園児で,本実験に参加を希望する園児39名を対象とした。その内訳は,3,4歳児19名,5歳児20名である。使用した歯磨剤はフッ化ナトリウム配合で,表示フッ素濃度は1000ppmの市販品である。日頃使っている量の歯磨剤をつけさせた後,十分な監督のもとで,日常行っている方法と時間で歯みがきをさせた。その後の洗口には8mlの蒸留水の入った紙コップを用意し,自由に洗口させた。ブラッシング途中と終了時の吐き出し液ならびにブラッシング後に使用した液,歯ブラシ上に残留した歯磨剤をロ-トによって回収し,微量拡散法を用いて口腔内残留フッ素量を求めた。年齢別の使用歯磨剤量および口腔内残留フッ素量とその割合は順に,3,4歳児で0.29±0.15g,48.0±35.6mug,16.4±7.7%,5歳児では0.40±0.34g,62.3±68.2mug,14.3±9.7%,全体では0.35±0.27g,55.3±54,6mug,15.3±8.7%となった。平均値の差の検定では両者にいずれも有意差はなかったが,使用歯磨剤量,口腔内残留フッ素量では5歳児にやや多い傾向が示された。しかし,残留率としては3,4歳児のほうがやや多かった。以上の結果より,1000ppmF配合歯磨剤を幼児が1日1回用いてブラッシングした場合の口腔内残留フッ素量は約0.055mg,2回では0.111mg,3回では0.166mg程度であり,フッ素症歯の発生など慢性毒性の心配はない。また,う蝕予防のために,他のフッ化物局所製剤を併用しても問題はないものと思われた。
著者
松本 邦夫
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

がん細胞の増殖能や侵潤・転移能はがん細胞をとりまく宿主細胞との相互作用を介して大きく影響されることががん細胞-宿主相互作用として知られてきた。本年度は宿主間質に由来するHGFならびにがん細胞に由来するHGF誘導因子ががん細胞-宿主相互作用のメデイエーターとして、がん細胞の悪性化に関与することを明らかにした。胆のうがんは一般に高転移性で致死率の高い悪性のがんである。ヒト胆のうがん細胞は宿主組織内では高い侵潤能を有するものの、コラーゲンゲル上に培養しても自らゲル内に侵潤することはない。ところが、正常線維芽細胞とコラーゲンゲルをはさんでco-cultureすると胆のうがん細胞はゲル内に侵潤し、液性因子を介した間質細胞との相互作用が胆のうがん細胞の侵潤能を誘導している。しかも、このco-culture系でのがん細胞の侵潤はHGFに対する抗体により完全にブロックされ、間質由来の侵潤因子の実態はHGFであることを明らかにした。さらに胆のうがん細胞のゲル内侵潤はHGF以外での代表的な増殖因子では誘導されず、HGFは強力な侵潤誘導因子であるといえる。一方、興味深いことにがん細胞は間質線維芽細胞に対しHGFの産生を高める因子を産生、このHGF誘導因子(インジュリン)の実体はIL-1βであることを明らかにした。また同様に線維芽細胞が産生する口腔粘膜上皮がん細胞に対する侵潤誘導因子の実体もHGFであることを明らかにした。その他、ヒト肺小細胞がんやオリゴデンドログリオーマの中にはvariant HGFを産生し、しかもこれらの細胞においては、HGFがオートクリン的にがん細胞の運動性や侵潤能を高めていることを明らかにした。一方、HGFによるmotilityの亢進にはp125^<FAK>(focal adhesion kinase)を一過的なリン酸化が関与することを明らかにした。p125^<FAK>はβ1インテグリン結合することが知られており、HGF刺激後、初期のfocal adhesionの形成、細胞骨格の再構成にはp125^<FAK>のリン酸化が関与しており、HGFによる細胞のmotility亢進において細胞-マトリックスとの相互作用はp125^<FAK>を介して調節されていると思われる。これらの観点から、HGFによる侵潤をブロックするアンタゴニストの開発は今後がん治療という点で極めて重要になることが予測される。
著者
立木 幸敏
出版者
国際武道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

Wistar系雄ラット(6週齢)を37匹を用い、1週間の予備飼育の後、実験を開始した。方法については、実際にスポーツ選手らが行っているドーピングの現状にできるだけ合わせ、複数の薬剤投与(いわゆる「スタッキング」)を行い、また、薬剤の投与方法は投与・休薬・投与を繰り返すいわゆる「ステロイドサイクル」を使用した実験を行った。A群(12匹)は薬剤3種類を1週間に1回皮下注射をする群、B群(12匹)は1種類を1週間に1回皮下注射する群、そしてC群(13匹)を対照群とした。また屠殺時期に関しては、動物の行動に『躁』の所見が得られたところで各群半数屠殺(4週後)し、残りの半数は『鬱』の飼育所見が得られたところで屠殺(8週後9を行うこととした。このような精神状態の変化が現れることは先行研究により観察されていたことからこの時期を決定した。また、ジャンプトレーニング群を作成し同系の薬物投与を行った。屠殺においてはエーテル麻酔下で心臓より血液採取し、生化学的、内分泌学的検索を行った。また屠殺後、骨格筋をはじめとした各臓器を摘出し、その湿重量を測定した後、パラフィン切片から組織染色を行い組織学的検索を行った。心筋では副作用が原因と見られる変化は8週後に起こることが明らかになった。精巣においても8週後にライディッヒ細胞の減少が明かであり、腺性肥大も認められた。内分泌学的には8週後にはエストラジオールが投薬群において有意に高値を示し、鬱的な観察所見を裏付ける結果となった。これらの実験からステロイドサイクルを1サイクル(6週)を使用しても生体へ影響は多大であり、筋へのトレーニング効果が出る以前すでに内臓諸器官に大きな副作用があることが本実験で解明された。ラットを使用した動物実験であるが、ステロイドはスポーツ選手が安易に競技力向上目的に使用すべきではない。
著者
北島 満里子
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

正倉院薬物「冶葛」の基原植物マチン科アジア大陸系Gelsemium elegansと同属北米産系G.sempervirensについて生理活性物質の大量供給と新規薬理活性物質・生合成中間体等の取得を目指し細胞・組織培養体の取得と二次代謝成分の探索を行った。また、これら植物についてDNA系統解析を試みた。1.植物本体と細胞培養体の含有成分の比較のためG.sempervirens植物本体について含有成分の精査を行った。その結果、茎部メタノール抽出物より既知アルカロイドGelsevirine,(Z)-Akuammidine,11-Methoxyhumantenineとともに新規オキシインドールアルカロイド4種、新規イリドイド1種を含む7種の化合物を単離することができた。また、HPLCによる部位別含有アルカロイドパターンの分析を行っている。2.タイ産G.elegans、北米産G.sempervirens葉・茎部より誘導したカルスの培養を行った。大量増殖したG.sempervirensカルスでは、β-Sitosterolなどテルペン4種が単離されたがアルカロイドは認められず、アルカロイド生産酵素系が発現していないことがわかった。また、G.sempervirensの液体培養においてジャスモン酸、イーストなどの添加による含有成分の変化について検討中である。3.G.sempervirens葉・茎部を用いてアグロバクテリウム感染による毛状根の誘導を試みている。4.タイ産G.elegansと北米産G.sempervirensについて遺伝子レベルでの差異を調査するため、DNA抽出を試みた。同じくマチン科のマチン、ホウライカズラとともにシュ糖含有抽出バッファーの使用により葉部からのDNA抽出に成功した。現在種々のプライマーによるPCRを行い、検出バンドの比較を行っている。