著者
小山田 正幸
出版者
鶴岡市立小堅小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

【研究目的】グリーンフラッシュは、太陽が水平線に沈む時に見られる緑色の閃光です。この現象は光線のプリズム効果によって起こりますが、国内の観測例はきわめて珍しく、気象データ等も不明であり、観測記録の集積が求められています。本研究は国内(日本海沿岸部)において、グリーンフラッシュ現象はどのような気象状況の下に起こるのかを調査することを目的とします。【研究方法】水平線に沈む太陽を年間観測し、グリーンフラッシュの有無、気象データ等を集積する・観測地 ; 山形県鶴岡市堅苔沢(鶴岡市立小堅小学校)付近から日本海をのぞむ・観測方法 ; 太陽の写真画像を記録し、太陽像の変化や気圧配置等の気象データを収集する【観測結果】1 年間でグリーンフラッシュを観測できた延べ日数・H23は2日、H24は4日、H25は6日すべて6月~9月に集中している2 グリーンフラッシュを観測できたときの共通の気象状況(1)日本海に高気圧が張り出し、等圧線の間隔が広く安定した夏型の気圧配置(2)空気が澄んで透明度が高く、大気中の水滴や塵等による霞や霧や雲の発生が少ない(3)水平線上に上暖下冷の大気の逆転層があり、太陽像が上位蜃気楼で上方にゆらめいて分離3グリーンフラッシュの表れ方に2つのタイプ(1)太陽面の上縁辺が水平線上に沈む一瞬、グリーンフラッシュ像が表れる(2)太陽面が水平線に接する時からその上縁が緑色に光る
著者
岡本 絵莉
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

本研究の目的は、日本の研究型大学における研究コミュニティの多様性に着目したモデル化とそれぞれのモデルに即した支援策の提示である。具体的な成果として、多様なコミュニティに関するケース教材の作成を目指して研究を実施した。本研究の社会的背景としては、大学における研究支援(Research Administration)の重要性が高まっていることがある。日本の研究型大学は、最先端の研究活動だけでなく、それにもとづく教育、社会貢献など、時には相反するように見える多様なミッションを担っている。これらの実質的な担い手は、多様な研究コミュニティである。本研究では、この研究コミュニティという単位に着目し、その多様性を踏まえた支援策として、ケース教材の作成を目指した。本研究の方法としては、主に教育学の分野で発展してきたコミュニティ理論にもとづき、大学の研究コミュニティに対するインタビュー調査を企画・実施した。主な調査対象となった工学系分野の大学研究室に関しては、過去に研究代表者が実施した質問紙調査のデータを再分析し、活用した。具体的なインタビュー調査は、再抽出した研究室に依頼し、それぞれの構成員(教員・学生)に対して、それぞれ30分~1時間実施した。実施したインタビュー調査を通じて、研究コミュニティを規定する要因(分野、資金、強調されるミッション、構成員の特性、存続期間等)が明らかになった。また、経営学の分野で実務者の教育目的で作成・活用されてきたケース教材の完成に向けて、必要な質的データを取得することができた。
著者
野口 悟
出版者
高知大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

国公私立525大学を対象に外部資金獲得に対しての研究支援事務サポートの実態調査をアンケート形式で実施し、252大学から回答を得た(回収率48%)。本調査では、修士以上の学位を持つ職員の研究支援部門への配置状況、URA(ユニバーシティ・リサーチ星アドミニストレーター)の配置、事務部門の一元化、特徴的な取組事例等についても研究支援事務サポートの新たな展開に繋げることを目的として行うた。当初、私が最も期待していた修士以上の学位を有する職員の積極的な採用や異動を行って事務サポートを強化している大学は、ほとんどなく(私学1大学/252大学)、現状では通常の事務職員の人事異動の一環で異動が行われており、専門的なスキルや知識の継承に支障をきたしていた。この現状を打破する施策として、平成23年度以降URA職(教職中間職の専門職)が注目されており、URA職の設置状況についても調査した。URA類似職も含めた設置割合は12%(30大学/250大学)であったが、設置していない220大学に対してURA職の必要性について尋ねると約半数の98大学が必要と答えた。今後、我が国での研究支援の在り方がURAの活躍によって変化してくることが推察される。また、各大学の特徴的な取り組みとしては、「ブラッシュアップ制度」「インセンティブ制度」が最も多く、その他には「若手への研究費の配分」「独自の研究業績DB開発」、経費のかからない対策としては「職員による各研究室訪問による情報収集」や「ワンストップサービスの実現」といった取組があった。なお、この調査結果は報告書としてまとめており、希望があれば配布することとし、全国の大学における外部資金獲得サポート業務の新たな展開の一助になると考えている。(jm-snoguchi@kochi-u.ac.jpへ連絡していただければ配布します)(調査協力大学へは別途配布)
著者
深見 かほり
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では居住者組織主体で住宅地および周辺環境の空間の維持管理に取り組んでいる戸建住宅地の居住者組織を対象に、ヒアリング調査および現地悉皆調査を行なった。本年度はこれまで対象としてきた開発住宅地だけでなく、既成住宅地の居住者組織も調査対象とした。今回の開発戸建住宅地の調査では、設計段階における開発コンセプトが現在のまちなみ維持活動や居住者組織の運営へのどのように影響をしているかという点も調査項目に加えた。まず、建築家宮脇檀が設計した東京都日野市の「高幡鹿島台ガーデン54」では、居住者が設計コンセプトを理解・継承しつつ、開発後30年を経た中で新規居住者を取り込みながら新たな住環境維持活動に取り組んでいる実態が確認できた。また、大手ディベロッパーが開発した、東京都武蔵野市の「ファインコート武蔵境」においては住環境運営活動を行なう居住者組織はないが、設計段階でまちなみ形成とコミュニティ形成を促すものとして敷地内に植栽帯を施すことでまちなみとして植栽帯が続く沿道となるような空間的な仕掛けをした結果、意図通り居住者は植栽を通してまちなみ維持への意識が高まり、また植栽管理を通した近所付き合いが行なわれていることがわかった。一方、既成住宅地の調査では東京都目黒区の既成住宅地の組織化されていない主婦グループが5年以上継続的に続けているハロウィンのイベント活動の事例から、これまで従来の地域組織が担ってきた地域活動とは異なる新しい地域運営の可能性が伺えた。また、沖縄県北中城村大城の「大城花咲爺会」では、世界遺産を有する村内の住環境維持を高齢者組織が中心となり村の伝統や文化を守りつつ美化活動を行っていること、高知県安芸市の「土居廓中保存会」の活動では伝統的集落の保存を中心とした住環境の維持を若手の新規居住者が中心になり取り組んでいる実態が確認できた。今年度の調査を通し、設計段階での住宅地の空間的デザインはその後の住環境運営活動に影響する可能性、また住環境運営活動を担う人材について従来型の地域組織によらない新たな組織構成の知見を得ることが出来た。
著者
直井 雅文
出版者
埼玉県立越谷北高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

月明かりは,一般に太陽光を直接月が反射したものである。しかし,三日月より細い月を見ると,太陽光が照らしていない部分も淡く見えることがある。これは,地球で反射した太陽光が月を照らしているもので,地球照である。また月が地球の影に入る皆既月食の時にも,月は完全に暗くはならずに赤銅色にほんのり見えることが多い。これは,太陽光のなかで散乱されにくい長波長の(赤い)光が地球の大気を屈折しながら回り込み,月を照らすためである。そこで,皆既月食および地球照を通常の月明かりと比較する分光観測をして,地球大気による吸収や散乱の影響を間接的に調べることが可能になる。これらの月の光を分析するために,低分散だが小型軽量の分光器を作成して観測に望んだ。2007年は6年ぶりに皆既月食が起こったが,曇天のため観測できなかった。しかし,地球照の分光観測に成功した。その結果,地球照の成分は地球大気によるレイリー散乱と地表や雲などによる反射光で説明できることが分かった。月の軌道は地球の赤道面に対して傾いている。そのため,日本で地球照が見えるとき,月から見た地球のすがたは,太平洋が大部分を占めたり,ユーラシア大陸が大部分を占めたり,インド洋が大部分を占めたりする。リモートセンシング技術の文献等をみると,地表の物質によって反射光の分光特性が異なる。そのことを利用して,人工衛星の画像から地球環境をモニターすることが可能になっている。今回観測に成功したとき,月からは太平洋が広く見えていたため,地球照には陸域の植生や土壌の反射光はほとんど無かったようである。
著者
樽木 靖夫
出版者
横浜市立菅田中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

1.研究の目的と意義本研究では、学校行事に対する中学生の成就感は、個人活動のレベルだけでなく、他者との協力による活動のレベルも含めた因果モデルを検討する。具体的には、自己活動の認知、他者との相互理解、学級集団への理解を説明変数として、個人活動のレベルである自主性に次いで、他者との協力のレベルの要因が成就感に影響するかを体育祭と文化祭での学級劇を対象として検討する。2.方法及び具体的内容(1)質問紙:(1)行事活動における成就感に関する尺度は、「この活動を成し遂げたという達成感」と「またやってみたい、今度やるならこうしたいなどの意欲」の複合的な認知を測定する目的で4項目を作成した。(2)生徒の自己活動の認知に関する尺度は生徒の自主性、協力、運営を測定する項目、(3)他者との相互理解に関する尺度は他者からの理解、他者への理解を測定する項目、(4)学級集団への理解に関する尺度は学級の肯定的理解、学級でのトラブルに関する項目を6段階評定で作成した。(2)測定:文化祭で学級劇を行った中学2年生114名に体育祭後と文化祭後に測定した。3.結果と研究の重要性成就感を目的変数、自己活動の認知(自主性、協力、運営)、他者との相互理解(他者からの理解、他者への理解)、学級集団への理解(学級の肯定的理解、学級でのトラブル)を目的変数として、体育祭後と文化祭後それぞれについて、ステップワイズ方式による重回帰分析を行った。その結果、体育祭後では自主性、協力、他者への理解、運営が有意な説明変数として選択された。文化祭後では自主性、他者への理解、協力、運営が有意な説明変数として選択された。体育祭後、文化祭後のいずれの成就感についても、自主性が最も強く影響しており、協力、運営とともに自己活動の認知、さらに、他者への理解も影響していた。すなわち、個人活動のレベルの変数だけでなく他者との協力のレベルの影響が確認された。以上のように、学校行事における集団体験の重要性について、成就感の自己評価の側面より、個人活動レベルの要因と他者との協力レベルの要因の影響の重要性が示唆された。
著者
山本 淳司
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

SDに係る議論は、FDと同様に具体論の展開が求められるが、一般論としてのアドミニストレーター論が中心で、現場の職員が業務の改善を実感できる道筋を提示しきれていない。これらを解決するため、(1)定型的な実務を含む現場の職員業務を階層化した上で分析し、OJT (On-the-Job Training)への組入れを念頭に置き、業務改善の具体化を検討すること、(2)業務改善案をシミュレートし強い職員組織を提案すること、を研究の目的として設定し、この目的を遂行するために以下のような段階で進めた。1) 対象となる職員業務と職員層の特定…教学関係のマネージャークラスを主対象2) 業務の適切性を判断し業務を分析…業務プロセス等を整理3) 実務分析に基づく業務内容の見直し…業務内容が明示できるかを確認4) 業務に必要な資質や能力等の検討…予め提示の場合も検討(事務分掌規程等を参考)5) 実務に基づくSD分析のOJTへの組入れ…人事制度と連動している先行事例を参照6) 強い職員組織の提案を行うべく検討…フィージビリティを考慮研究を進めるに当たっては、代表者が関与している他の研究課題における意識調査等の一部も参考に、先行研究にも意識しながら進めた。比較検討においては、業務改善を前提として業務フロー等を確認すると、組織論的にみてプレイングマネージャーがミドルアップダウンの機能を果たすか否かに関わらず、職務説明書が予め明示され、求められた業務遂行能力等を持った職員が大学のミッションやコンプライアンスを意識し、意欲を持って業務を誠実に遂行していれば、業務はスムーズに行われていることが分かった。また、業務の対象を限定してフロー等を確認すると、業務改善に資することもあるが、大括りのjob間の重複業務等の調整には至らないため、業務全体の組換えを前提として業務に適合した組織を構築する方が望ましい等の課題が見えてきた。個々の職員を見た場合の背景として、我が国の労働慣行ともいえる無限定な業務へのスタンス等を求めることは必ずしもプラス効果を発揮していないことが考えられる。強い職員組織の提案は、その裏付けとして単純な想定しかできなかったが、今後、実務に直結した面談調査も踏まえて、更なる成果を挙げ人事制度と連動したプログラムの試行に繋げて行く計画である。
著者
手塚 恒人
出版者
松川東小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

新しい学校に来て、竹踏み切り板、"竹低鉄棒(高さ1m)"、"竹高鉄棒(高さ1.7m)"を作って、体育館や廊下へ置き、竹踏み切り板では空中回転を、"竹鉄棒"では逆上がりや足掛け上がりや前後支持回転などを指導した。その結果、子供たちの技能は向上し、運動会に全校羽人ひとりひとりによる「ぼくのわざ、わたしのわざ」という種目で得意技を披露することとなり、参観者から大きな拍手をいただいた。また、竹フラフープ、竹カスタネットを作って全校ダンスも披露した。全校キャンプでは、竹のはし、竹さいばし、火吹き竹、竹ぼうきなどを作った。竹を使ったコンパスを開発した。3・5年の子供たちは、算数のとき、竹コンパスは使い易いといって、単元テストでも使っていた。大きな竹コンパスも作り、校庭いっぱいにコンパスアートを描いた。算数や理科の実験でも竹を大いに利用した。竹の皮を使った中華風ちまきや竹の子料理を作り、全校で賞味した。秋の遠足は全校、竹の皮に包んだおむすびを食べた。高学年は地域の高齢者クラブの方たちに指導していただき、竹の皮でぞうりを作り、遠足ではいた。12月に3年生以上、竹を使って来年の干支、寅を制作した。アイディアスケッチを3回させたので、構想がよく練られた。地域の話題になった。音楽会には、全校バンブーダンスや尺八を披露した。全校で竹うちわを製作した。低学年は参観日に父母といっしょに制作した。高学年はひとりでできた。その他、竹ぽっくり、竹水鉄砲、竹空気鉄砲、竹馬、竹掲示板、竹そり、たこなどを作った。今では子供たちは竹で何でも作ろうとする。地域の人たちも竹の教材化を賞賛している。こういった成果は近隣の学校へ広がりつつある。
著者
山田 文男
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

平成20年10月から平成21年3月末の期間に、東京都23区を主として神奈川県・埼玉県・千葉県・群馬県・栃木県・茨城県内に存在する木造建物による理髪店の現地調査を行った。なお、調査中理髪店の隣や近くに同業種で建築形態が似ている美容店の存在が多くあったので、理髪店の近隣に美容店があった時は調査に加えた。調査数は理髪店が184棟、美容店が60棟の合計244棟であるが、理髪・美容店舗は毎月第2・3週が連休であることや、お客が来店中は基本的には内部の調査は出来ないので外観・内部の調査及び、経営者のヒアリングまでできたのは理髪店71棟、美容店7棟、合計78棟で全調査数の約32%である。理髪店は国民の生活衛生を担っているが、理容師法により建物の構造設置基準の遵守、衛生設備等の管理、保健所の年1回の定期検査等がある中で、理容師法上理髪店と美容店の同居営業は認められていない。「1000円カット」の店舗は理容師法の構造設置基準を逸脱していないことや、お客の需要により今後増加傾向にあるが、衛生設備の維持管理がおろそかになりがちなので許認可権のある保健所の監視が大切である。さらに、駅前に床面積が広く低料金のチェーン店の進出によりこれまでの住宅街の理髪店へのお客が減っていることや、経営者の高齢化で店を閉じていること。東京都や他の六県でも大正時代や戦前の木造建物が存在しているが、東京都内は当時のままの造作が残っている店舗はなかったが、埼玉県内では4棟存在していたことで、当時の理髪店の建物の構法・使用材・プランや洗髪器具や衛生器具及び椅子といった設備からも室内の造り方にも大変に影響を受けており、建物の外内部の使用材や衛生設備の状況を判断することにより、建物の建設年代や経過年数がおよそ把握できるようになった。そして、経営者のヒアリング及び建物内の実測ができたことで、木造建物による理髪店の歴史的変遷や建築学形態について詳細な成果を得られた。
著者
吉田 竹虎
出版者
岐阜県可児市立蘇南中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

<研究の意義>平成20年3月に公示された新学習指導要領では,エネルギー変換に関わる学習内容が中学校技術・家庭科で必修の学習内容になった。そこで,「人力自転車発電機」を中核にしたカリキュラムを考え実践した。<研究の具体的内容と成果>希望教員20名が集まり,休日の一日を使い人力自転車発電機の製作を行った。この教具を持ち帰り,それぞれの学校で授業実践をした。以下は授業の様子である。(1)「人力自転車発電機」が回転したところで,負荷のスイッチを入れる。(2)この瞬間に急にペダルが重たくなる。負荷は,20W白熱電球,40W白熱電球,60W扇風機の順にスイッチを入れていった。(3)その都度重たくなるペダルから,発電の大変さを身をもって体験することができた。(4)白熱電球2つと扇風機を回すために120W以上の電力を出そうとすると,ほとんどの生徒は7秒くらいしか連続して漕ぐことができなかった。以下は,研究のまとめ報告会で示された生徒の感想の一部である。「扇風機をつけるには,とても力がいった。急にペダルが重たくなり,私は5秒つけるのがやっとだった。自分で発電するって大変なんだと実感した。電気を生み出すのはとても大変なことなので大切に利用しなければならないと感じた。」これは,具体物を用い体を使った実験を行ったからこその成果だと言える。中学校技術・家庭科では,生活の中での電気利用をイメージしながら,実践的・体験的な学習を繰り返していくことが重要であると再確認した。また,エネルギー変換分野の指導計画を作成し,希望者に配布した。さらに多くの学校で実践が広がることを期待している。
著者
山本 まゆみ
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

当研究は、1990年からつづく、あまりにも政治化した慰安婦言説に警鐘を鳴らし、慰安婦研究が脱政治化へと軌道修正をすることを目指し、1990年代前半の出版・研究言説から浮かび上がった「強制〔連行〕」をキータームとし、言説の政治化過程を検証した。当研究調査では、その言説を補助する史実として繰り返し登場するジャワ島中北部で1944年3月に起こった「スマラン慰安婦事件」に関する資料をオランダ公文書館で精査した。本事件は、慰安婦の女性たちが、敵性国人収容所から強制連行されたこと、日本軍上層部が状況を知りこれら慰安所を開設後2ヶ月あまりで閉鎖したこと、和蘭BC級戦犯裁判で2年余という異例の長さを費やし調査・審理したことから、日本軍のみならず当時の和蘭政府も「異常」な事件と認識していたことが明白となった。慰安婦言説の政治化を支える強制連行というキータームが、曖昧になりつつある近年、強制連行の代わりに単なる強制という言葉や権力という言葉に置き換え、言説に政治性を付帯させるという技法のほか、特殊例であったはずの「スマラン」が、慰安婦「強制連行」を支える一般例として登場し言説の政治性を精鋭していることが明確になった。本研究の意義及び重要性は、調査結果を踏まえ2009年3月にシカゴで開催された米国アジア学会年次学会で慰安婦言説の脱政治化を目指し発表した「慰安婦言説政治化への過程:スマラン慰安婦事件について」に対する歴史研究者の反応からも窺えた。当研究が警鐘を鳴らした歴史の過剰な政治化への懸念は、多くの歴史研究者から賛同を得ただけではなく、発表後、「近年慰安婦問題だけに拘わらず、単に語り出版することで「真実であった」かのように認識される現象を、研究者は真剣に考えなければならない時期に来ている」とし、世界史学会の一部の研究者たちが、「次期学会で慰安婦問題を取り上げよう」という意見を述べていただけでも大きな意義があったと考える。
著者
木浪 信之
出版者
神奈川県立鎌倉高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

たたら製鉄は原料を鉄鉱石から砂鉄に変えたことにより日本独自に発展した古代製鉄法である。砂鉄の成分は母岩をつくるマグマの違いにより地域差があり、チタンを多く含むものは赤目砂鉄、少ないものは真砂砂鉄として分類される。真砂砂鉄を産出する奥出雲地方では近代製鉄技術の導入後も大正時代末期まで操業が行われたが、赤目砂鉄を主体にしたたたら製鉄は室町時代から慶長時代に衰退した。その原因は諸説あり、赤目砂鉄では品質の良い鉄を得ることが難しく、安定した生産量を確保できなかったためと考えられている。近年、赤目砂鉄に分類される鎌倉砂鉄を使用した製鉄が実施されたが、良質のケラが得られる操業過程の報告はなされていない。このような背景を踏まえ、鎌倉砂鉄から良質の鉄を得る操業過程を確立し、鎌倉たたら製鉄衰退原因を探る研究を開始した。様々な条件での操業により、製鉄のパラメータになるのは砂鉄密度、選鉱方法、添加粘土量、装荷比(砂鉄/木炭)、炉内温度、送風量、炉の高さ、炉内構造、木炭の品質であることがわかり、安定して高品質の鉄が得られる設定値を見出し、鎌倉砂鉄によるたたら製鉄操業過程の確立に成功した。真砂砂鉄に比べて赤目砂鉄はパラメータの自由度が小さく、わずかな変化でも鉄が得られないことを確認した。古代製鉄では勘と経験に頼る操業のため、赤目砂鉄による製鉄は困難だったことに加え、伝承方法が一子相伝的であったことも衰退の一因であると結論づけた。さらに、原料となった砂鉄および生成鉄について鉄を含む17種類の元素の定量分析を行った。その結果、奥出雲砂鉄と鎌倉砂鉄の違いは砂鉄の種類によるチタンおよび採取場所の違い(山または海)によるカルシウムについて明確な違いが観察された。カルシウムは海水の影響によるものと考えられ、鉄生成の重要な要因となることがわかった。鉄生成の過程では、炭素(一酸化炭素ガス)は鉄酸化物の強力な還元剤であり、その反応は発熱反応である。吸炭が進むとより低い温度で鉄と炭素の合金液滴が形成され、炉底に不純物を含まない高純度の銑鉄(ケラ)が生成する。さらに、砂鉄とケラに微量に含まれる銅およびニッケルの成分割合はほとんど変化が見られない。このことから、生成鉄の原料になった砂鉄の産地を特定する手がかりになると考えており、今後の研究に期待できる。
著者
戸谷 登貴子
出版者
独立行政法人国立病院機構
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

1. 研究目的本研究は、学校音楽授業の歌唱学習プロセスを現象的に捉え、科学的な分析を行うことから歌唱指導の改善・向上を図ることを目的とした。小・中学校の授業の歌唱学習方法が模倣を中心としており、それにより起こる相似現象には、学習者が指導者の長所のみならず、短所までも習得している可能性がある。しかし、このことを現場教師の多くが気づかず指導に当っている。これは、歌唱指導法の問題に加え、子ども達の学習状況と喉の健康面にも問題が生じている。そこで集団歌唱の中で個々がどのように歌唱しているか、特に教師との模倣、学習者同士の模倣に焦点を当てて実態を明らかにすることから、学習プロセスにおける相似現象の特徴とメカニズムを明らかにすることとした。2. 研究方法(1)音声分析・解析国立病院機構東京医療センター臨床研究センターの医学博士・角田晃一研究部長に音声解析と研究助言を、東京大学附属病院耳鼻咽喉科の医学博士・今川博氏に音声分析の協力を頂いた。(2)音声検査千葉県内の公立中学校2校の音楽授業で、中学1年生を対象に音声検査を行った。3. 研究成果実際の音楽授業での集団歌唱場面で、教師の歌唱と個々の歌唱の音声検査を行うことができた。被験者が中学1年生だったため、変声期の生徒も多く、さらに部活動などが原因と思われる嗄声も両校共に見られた。それらの音声データから歌唱学習が個々の実態に即して行うことの難しさも明らかになった。また、教師と生徒との歌唱の相似は、今回の音声データにも見られたが、特に教師の嗄声が生徒の歌声の響きのポジションに影響していることがわかった。このことは、生徒たちの声の健康面にも影響するため、教師自身が気づいて指導することが大変重要である。これらの課題は、音声データと共に学会で発表を行った。歌唱指導法の向上だけでなく、学校教育において、子ども達の声についての関心と喉の健康について啓蒙する必要性を感じた。
著者
石原 正志
出版者
岐阜大学・医学部附属病院・薬剤部
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究の目的】我々は、多施設共同研究でオピオイドによる便秘対策に緩下剤の予防投与が重要であることを明らかにした。この研究の中で多くの施設で酸化マグネシウム(以下、MgO)が緩下剤として使用されていた。一方、MgOが緩下作用を発揮するには、1,000mg/day以上の投与量が必要であるが、MgOが1,000mg以上投与されていても便秘を発現している患者が見受けられた。一般的にMgOによる緩下作用は胃酸(HCl)が必要であるが、制酸剤の併用による胃酸分泌の低下がMgOの緩下作用に及ぼす影響は明らかではない。また、オピオイドを服用している患者の多くは、NSAIDsを服用しており、その胃腸障害予防の為にH2ブロッカー(以下、H2R-B)やプロトンオポンプ阻害薬(以下、PPI)などの制酸剤を併用している。そこで本研究では、オピオイドの便秘に対して、MgOが投与されている患者において、制酸剤の併用がMgOの緩下作用に影響を及ぼすか否かを検討する。さらに、制酸剤による影響が明確になった場合、緩下剤の種類、用量について解析し、オピオイド投与時の適切な薬剤の種類および投与量を明らかにすることにより、オピオイド内服薬投与時の投薬投与計画を確立する。【方法】2007年1月から2014年10月の期間に、当院においてオピオイドが新規に投与された患者441症例を対象とし、MgOが予防投与された患者において、制酸剤(H2R-BあるいはPP工)が併用されている場合と併用されていない場合の便秘の発現状況を比較検討した。また、MgOが投与されている患者において、便秘発現率に影響を及ぼす要因について解析した。【結果】全症例441例中、MgOが単剤で投与された患者は248例であった。また、このうち制酸剤が併用されていた患者は約60%を占め、これらの患者ではMgOの便秘予防効果は有意に阻害されていた(p=0.017)。ただし、MgOの投与量が2,000mg/day以上投与されている場合は、制酸剤併用の影響はほとんど受けていなかった。一方、センノサイドなどMgO以外の緩下剤が予防投与されていた場合は、制酸剤併用の影響はほとんどなかった。また、MgOが投与されている患者の中で便秘発現のオッズを有意に上昇させたのは、制酸剤が併用されている場合[オッズ比(OR)=2.335, 95%信頼区間(CI)=1.093-4.986, p=0.028]とMgOの投与量が1,000mg/day以下の場合[OR=4.587, 95%CI=2.287-9.198, p<0.001]であった。【結論】オピオイドによる便秘対策としてMgOを予防投与する場合、MgOの投与量として1日2,000mg未満では制酸剤の影響を強く受けることが明らかとなった。
著者
古田 貴志
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

エスシタロプラム(商品名 : レクサプロ錠)は, 2011年7月に薬価基準収載され, うつ病に対して用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害剤である. 添付文書の「用法・用量に関連する使用上の注意」として, 「肝機能障害患者, 高齢者, 遺伝的にCYP2C19の活性が欠損していることが判明している患者(Poor Metabolizer)では, 本剤の血中濃度が上昇し, QT延長等の副作用が発現しやすいおそれがあるため, 10mgを上限とすることが望ましい」との記載があるが, CYP2C19活性欠損患者が日本人で約20%と多く, 2012年6月に禁忌事項として, 「QT延長のある患者」が追記されたにも関わらず, 日本人においてCYP2C19活性欠損を含む因子と副作用のリスクについて考慮されていない. そこで, 本研究では, 日本人におけるエスシタロプラムのQT延長のリスクについて解析を行った.2013年度に鹿児島大学病院でレクサプロ錠を服用された患者は96名(入院25名, 外来71名)だった. そのうち, レクサプロ錠を10mg以上服用し, 肝機能などを元に減量の必要性を考慮すべき患者は28%(96名中27名)だった. また, そのうち心電図が検査されていたのは, 22%(27名中6名)だった. 一方, 心電図が検査されていた患者34名(入院20名, 外来14名)では, 82%(34名中28名)がレクサプロ錠の減量を考慮し10mg以下で服用されていた. 以上のことから, レクサプロ錠を減量する必要のある患者は多く, レクサプロ錠のQT延長のリスクが考慮されていないために, 心電図を検査されていないものと推測された.また心電図が検査されていた患者では, QTc間隔の平均は(Fridericia補正法, Bazett補正法で評価)は, 424/416msであり, 450以上が4名, 480以上が2名だった. QTc間隔が480以上の2名は, レクサプロ錠10mgで服用されており, QT延長のリスクとして, 女性・うっ血性心不全・高齢者(60歳以上)では一致したが, 低カリウム血症や添付文書で減量を考慮するように記載ある肝機能障害(Child-Pugh分類A)はみられず, 投与前の心電図を検査している1名は, レクサプロ錠追加後のQTc間隔増加はみられなかった. これらの症例は肝機能障害がなくレクサプロ錠の影響は少なかったものと思われるが, 今後は肝機能障害のある患者において, CYP2C19活性欠損の有無とエスシタロプラムの血中濃度を測定し, QT延長等の副作用のリスクを評価していく.
著者
三浦 靖弘
出版者
大阪府立藤井寺工科高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

ため池や水路のベントス20種から抽出した粗酵素を用い、セルロース・キシラン・マンナンを基質としたプレートアッセイ法で活性を調べた。その結果、ヤゴを除くすべてのベントスから、何らかの基質に対する酵素活性が示された。淡水貝類や水生ミミズ由来酵素は、3基質に対して強い活性を示し、なかでもスクミリンゴガイの活性は群を抜いていた。また、カゲロウやトビケラもセルロースに対する活性を示し、水生昆虫がセルロースの分解・同化を通してため池に蓄積される難分解多糖の系外持ち出しを担っている可能性が考えられる。セルロースを基質とした高感度ザイモグラフィーで、各ベントス粗酵素中のセルラーゼ分子量を測定したところ、固有のバンドパターンを示すことが多かった。この結果は、各生物が独自にセルラーゼを作っている可能性を示唆している。特に同所的に生息する貝類のセルラーゼのバンドパターンが大きく異なっていたことは、貝類のセルラーゼが生息場所からの持込細菌によるものではないことを示す有力な傍証と考えられる。分光光度計の購入が実現しなかったため、酵素活性の温度依存性を7℃、17℃、27℃、37℃におけるプレートアッセイの酵素反応面積比較により調べた。熱帯から進入したスクミリンゴガイは温度に比例して活性が強くなったが、それ以外の生き物は17℃か27℃で活性が最大となった。しかし低温でもさほど活性は落ちず、冬季においても活発にセルロースが分解されていることが予想される。4種の貝、2種の魚類の糞からセルラーゼ活性が確認された。酵素は糞に強く吸着(結合)しているようで、超音波破裁を行わねば活性がでなかった。ザイモグラフィーの結果から、貝はいずれも消化管内酵素と糞内酵素のバンドがほぼ一致したが、魚については異なっていた。今後さらに厳密な結果を得るため、糞から酵素を効率的に分離する方法を検討する必要がある。
著者
吉岡 学
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

近年、視覚障害児・者が白杖歩行中に巻き込まれる事故が相次いで報道されている。これらの事故は視覚障害者が白杖操作によって路面状況を把握できず起きた事故も含まれている。白杖は歩行の際に重要な3つの機能を有している. その1つは, 車のバンパーの役割と同様に視覚障害者が障害物に衝突した際の緩衝器としての役割. 2つ目は路面状況などの情報を白杖から振動として視覚障害者の手指に伝える役割. 3つ目として視覚障害者であることを健常者に知らせるシンボルとしての役割がある. また、白杖の構造はシャフト, 石突, グリップの3つの部品から成立している. この中でもグリップ部は白杖が路面から得た情報を手に伝える重要な役割を有している。しかしながら、通常使用されているグリップ部は白杖専用ではなく、ゴルフクラブのグリップを代用しているものばかりである。現在、全国の視覚障害特別支援学校及び盲学校において使用されている白杖グリップの実に93.0%はゴルフグリップの代用となっている。白杖操作時にグリップの形状が手指掌側面と一致していない場合はグリップを通して手指に伝える振動情報伝達が不十分であり、視覚障害児・者が路面情報を把握できず、白杖歩行技術習得への大きな障害となる。そこで、本研究では握りやすく、情報伝達性が良好な白杖グリップ部の開発を行うことを目的とした。新しく開発した白杖グリップは、従来のゴルフ型グリップとは異なり、白杖操作時の手指の握り方の形状に即したものとした。その結果、白杖操作に使われる筋群(橈側手根屈筋、尺側手根伸筋、長橈側手根伸筋)の筋活動を測定したところ、新規開発した白杖用グリップでは従来のグリップより手指による運動が盛んに行われていた。これにより新規開発グリップにおける白杖操作においては、手指における路面情報の収集が的確に行われるグリップであることが明らかになった。
著者
乗峯 絵理
出版者
茨城県警察本部
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

【研究目的】農薬を用いた中毒事件・事故のうち、約3分の1を占める有機リン系農薬の簡易検査キットを開発した。【研究方法】キットは検知管方式とし、炭酸水素ナトリウム層、反応層、保護層の3層構造とした。これまでの簡易検査キットでは二段階で行われていた反応を一段階で行うため、反応層にはアルカリ剤のトリスヒドロキシメチルアミノメタンとニトロベンジルピリジンを両方コーティングした担体を入れた。炭酸水素ナトリウムは反応促進のために入れ、保護層は加熱時の液体の漏洩を防ぐために付加した。使い方は、検知管の両端をカットして反応層が湿る程度まで試料を吸引し(約100μl)、2分間ドライヤーで加熱して反応層の色を確認し、反応層が青~紫に呈色すれば陽性と判断する。反応を確認するまでにかかる時間は3分程度であった。本キットは農薬の原液、それを薄めた水溶液および法医学的試料に対して使用することができた。対応できる法医学的試料は尿、血清、胃内容物、吐瀉物で、胃内容物や吐瀉物にも胃液を考慮したpH調製を行うことなく使うことができた。色が濃い試料、粘性がある試料等は水で希釈することでキットの発色を確認することができ、全血、溶血試料、希釈しても色が濃い試料は、有機溶媒による抽出を行えば発色の確認が可能であった。なお、これらの試料の簡易検査は、鑑定の一環として行った。ドライヤーや電源がない場合には、熱源としてライターを使用することも可能であり、その場合はさらに短時間(20秒以内)で発色が確認できた。有機リン系農薬と同様の中毒症状を示すカルバメート系農薬では検知管は呈色せず、他の農薬に対して使用しても有機リン系農薬と同様の呈色をするものはなかった。【研究成果】本簡易検査キットは、使用にあたり特別な器材が必要なく、短時間で結果が得られるため、検視や救急医療の現場での使用に適していると考えられる。
著者
遠山 紗矢香
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は, 学習ポートフォリオシステム(以下PFシステム)に蓄積されたログデータを, 大学生の授業内外の学びを包括的に促進するための手がかりとして活用する方法論を提案することである. 近年では個々の学習者を中心として授業外の学びも一連の学びとして評価することで学習の形成的評価やキャリア教育につなげようとする試みが盛んである. そこで本研究では, 大学での授業と日常生活が, 大学生の学習目標を設定し達成度を記録する場としてのPFシステムでどのように関連付けられているかを評価することとした.本研究では2つの分析を行った. 1つ目は, 大学生がPFシステムに書き込んだ学習目標と書き込み場所の関連性についての調査である. 静岡大学情報学部生のうち特にPFシステムの利用が多かった1年生約200名のデータを主に分析した結果, 学外の場所で記載された学習目標はボランティアやアルバイトといった大学外での生活に関係しており, 授業関係の学習目標の多くは大学内にて書き込まれていた. 2つ目は, PFシステムの大学内外での利用における事例分析である. PFシステムを恒常的に利用している就職活動中の大学生1名に対して1週間のPFシステム利用目的・回数等を尋ねるインタビューを行った. その結果, PFシステムへの書き込みは閲覧者からの反応が得られる場合に活発になり, 就職活動中は企業が閲覧・評価者としての役目を果たしていたことがわかった.以上より, 大学内外での大学生の学び・生活を一連の学びとしてPFシステムにまとめるには, (1)相互に閲覧し刺激し合うコミュニティをPFシステム上に用意すること, (2)大学外からもPFシステムに書き込みを行うよう動機づけること, が重要だと言える. 逆に言えば, これら条件を満たすことが, PFシステムに有意味なログデータを蓄積する上で必要不可欠だと考えられるため, いかに大学生の日常にPFシステムを組み込むかの工夫が急がれていると言える.