著者
黒岩 真弓
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

○研究目的 :学生実験において、学生に日本国菌である黄麹菌と清酒酵母の並行複醗酵による日本酒醸造という日本古来から伝わるバイオテクノロジーにふれて欲しいという意向から試験醸造免許を取得し、小仕込による試験醸造を導入することとなった。美味しく香りの良い日本酒醸造をめざすために経過過程のもろみの状態を科学的にリアルタイムで検出できることが重要である。蔵元で従来行われている日本酒分析(比重・アミノ酸度・酸度等)のためのもろみの採取量(数百mL)では小仕込醸造では支障があるために1桁以上少ない採取量での分析を行う必要がある。そのためにもろみのリアルタイムの状態を知るためのQCMセンシングシステムによる微量分析法を導入することを検討する。このQCM(Quartz Crystal Microbalance)法は抗原抗体反応や電極反応の吸着解離現象をリアルタイムに高感度で周波数変化として検出できる方法であり、同じ吸着解離現象を検出する表面プラズモン法等に比べると比較的安価な装置である。導入するに当たり、従来の分析を行うシステムの構築、もろみ状態をモデル化してのQCMシステムの検討、実際の小仕込醸造実験の検討、従来の分析法との比較を行うことでQCMシステムの最適化の検討を目的とした。○研究方法と成果 :従来のもろみ分析をおこなう分析システムを構築するために醸造協会並びにいくつかの日本酒醸造の蔵元の見学をさせていただき情報収集及び情報交換を行った。それらをもとに検討することにより、分析システムを構築出来た。小仕込醸造の蒸きょう作業の簡略化のために餅つき機の“むし”機能を用いることを検討し、有効性が示唆された。さらに、QCMシステムの検討については、もろみ状態を考慮すると、センサ部、送液部等を検討する必要が生じた。今後さらに検討していきたい。
著者
築地 茉莉子
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究目的 : 治療抵抗性統合失調症の治療薬であるクロザリル(以下CLZ)は重篤な副作用の無顆粒球症を引き起こすことが知られ、アジア人では白人と比較して無顆粒球症の発現リスクが2.4倍であるという報告もある。血液毒性が発現する要因についてはいまだ解明されていないため、CLZの使用にあたっては白血球数のモニタリングが必須となっている。躁うつ病の躁状態改善薬である炭酸リチウム(以下Li)は、その副作用に白血球上昇作用を有する。千葉大学医学部附属病院(以下当院)ではCLZ投与患者においても、白血球減少を予防する目的で低用量のLiを使用しているケースが認められている。そこで本研究ではCLZ使用患者において、白血球減少をきたす要因ならびにLi投与による白血球増加の患者側の要因と白血球増多を目的としたLiの至適投与量を解明することを目的とした。研究方法 : 当院精神神経科においてCLZが投与開始となった症例について、患者背景、CLZ投与前後の白血球数〓iの使用の有無などを電子カルテより遡及的に抽出し、本年度は白血球減少をきたす患者の要因ならびにLi投与による白血球数の変動への影響の検証とその要因の検討を行った。研究成果 : 検討の対象となった症例は、2010年以降当院にてCLZが投与開始となった16例であった。このうちLiが投与された症例は10例であった。今回の検討により、CLZを投与された患者の白血球数は、長期的には減少傾向であったが、投与開始初期はCLZ投与前よりも白血球数が上昇する傾向が認められた。また、Liを併用した患者群のCLZ投与前の白血球数は、Liを使用しなかった患者群よりも低値であったことが明らかとなった。Liを併用した群では白血球減少の割合は軽度であったが、LiはCLZによる白血球減少を根治するものではなく、長期使用による副作用発現も懸念されることから、有効性と安全性の検証が必要であることが示唆された。
著者
濱野 悠也
出版者
京都府警察本部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2019

本研究では体液種識別の指標としてDNAのメチル化を検出することで、従来の手法では検査不可能な場合に代替方法として用いることができる手法を開発することを目的とした。DACT1領域に対してメチル化感受性高精度融解分析を行ったところ、精液由来DNAの融解温度はおおむね74.5度であるのに対して、血液・唾液DNAはおおむね77.6度となり、その差は3度近くになることが分かった。精液と血液あるいは精液と唾液の混合体液のDNAについて同様の操作をしたところ、その混合割合に応じた同様の二峰性の融解温度が得られた。
著者
田口 真二
出版者
熊本県警察本部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

目的刑務所等に収容されていない一般の男性に対して,未遂を含む性暴力の加害経験について自己報告研究を行い,性暴力の加害経験を持つ者の要因構造が,加害経験がない群と等質であるか異質であるか,あるいは連続性があるかについて実証的に検討した。方法(1)質問紙の内容■性暴力加害経験についてのスクリーニング質問■男性用性的欲求尺度(田口ら,2007)■新性格検査(柳井ら,1987)■性犯罪神話尺度(湯川・泊,1999),平等主義的性役割態度スケール短縮版(鈴木,1994),女性に対する敵意(大渕ら,1985)■性行動やメディア興奮度など。(2)調査対象者18歳以上の男性785名(東北地方から九州地方に居住する会社員319名,公務員205名,学生213名,その他48名)のデータを収集した。平均年齢34.1歳(SD=13.09,18-69歳)。(3)手続き平成18年7月下旬から8月上旬および平成19年7月下旬に調査協力者を介して個別に配布する宿題調査並びに大学での集合調査を行った。調査票は無記名。回収率は40.4%であった。結果と考察加害経験を持つ者151人(以下、加害群)の要因構造を検討し、「性的欲求」「性格」「女性認知」「性行動」の4因子からなる因子分析モデルが構築された。加害群から得られた因子分析モデルを使い,加害群と非加害群の2母集団同時分析を行った。群間に等値制約を置かないモデルで十分な適合度が得られたので,確認的因子分析モデルが非加害群にも適用できることが示された。両群のモデルにおいて因子不変が成立しているので,加害群と非加害群は質的な構造が同じといえる。以上から,加害群と非加害群は,質的構造は同じであるが因子の推定値が異なる,すなわち連続性があるということができる。性暴力行為すなわち広義の性犯罪を加害者として経験した群とそうでない群が異質ではなく連続性があることが確認されたことは,大学生や一般人を対象とした性犯罪研究の正当性を裏付けるものである。今後,性犯罪研究の分野における一般人を対象としたアナログ研究の進展が期待される。
著者
山本 浩貴
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

【研究目的】ワルファリンは、ビタミンKと拮抗することで抗凝固作用を示す薬剤であり、相互作用する薬剤が多く、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR値)を用いた維持投与量の調節が推奨されている。脂肪乳剤は、効率の良いエネルギー補給の目的でしばしば臨床使用されているが、近年、脂肪乳剤とワルファリンの併用は、ワルファリンの抗凝固能に影響を与えるという症例が報告されている。そこで、ワルファリン抗凝固能に対する脂肪乳剤の影響についての詳細を検討するため、カルテ情報に基づいた後方視的調査を行った。【研究方法】2011年10月1日から2014年3月31日の2.5年間に京都大学医学部附属病院にてワルファリンと脂肪乳剤を併用した症例をカルテから抽出した。なお、本調査は本院医の倫理委員会の承認を得て行った。【研究成果】解析対象となった7症例のうち、脂肪乳剤との併用によりPT-INR値が減少傾向を示した症例は3症例であった。この3症例のPT-INR値について詳細に解析すると、ワルファリン単独投与時は1.82-2.78であり、脂肪乳剤併用時は1.18-1.29であった。さらに、併用前後でワルファリン投与量が変更されている例もあるため、PT-INR値をワルファリン投与量で補正したWarfarin Sensitivity Index(WSI)値で評価した。その結果、WSI値は脂肪乳剤を併用することで減少傾向を示した。一方、併用の影響を示さなかった4症例においては、WSI値についても併用前後の値で変動は認められなかった。以上、ワルファリンの抗凝固能は、脂肪乳剤との併用により減弱する可能性が示唆された。脂肪乳剤の併用による影響を受けない症例も見られるものの、ワルファリン使用時には、脂肪乳剤に含まれるビタミンKの影響も考慮する必要があると考える。
著者
田坂 健
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

研究目的本研究は抗菌薬によるせん妄メカニズムを解明し手術後あるいは感染症患者におけるせん妄管理に資する基盤データの構築を目的とした。方法実験にはICR系雄性マウスを用いた。マウスにLPS(300μg/kg)を腹腔内投与し、その24時間後に行動薬理学的検討を行う。行動薬理学的検討は、ジアゼパム(0.3mg/kg, DZP)およびペントバルビタール(40mg/kg, PB)を腹腔内投与し、PB誘発睡眠の睡眠潜時および睡眠持続時間を評価した。本研究では抗菌薬としてミノサイクリン(50mg/kg, MINO)を用い、LPS投与前および投与後にMINOを投与することによる睡眠潜時および睡眠持続時間への影響を評価した。なお、本研究は申請者所属施設の動物実験委員会の承認を得て行った。主要な研究成果LPS投与マウスに単独で無作用量のDZPおよびPBを投与した場合、DZP非投与マウスあるいはLPS非投与マウスと比較して有意に睡眠持続時間が延長した。このLPS、DZPおよびPB投与マウスの睡眠潜時および睡眠持続時間に対するMINOの影響を評価した。まず、MINO後投与としてLPS投与直後、1、2および4時間後にMINOを投与した場合、ペントバルビタールによるマウスの睡眠潜時に影響はなかったが睡眠持続時間は有意に短縮した。一方、前投与としてLPS投与48, 36, 24, 12時間前、投与直前およびLPS投与12時間後にMINOを投与した場合、睡眠持続時間が有意に延長した。MINOは中枢および末梢神経に存在するグリア細胞のうち、ミクログリアの活性化を抑制することが知られている。ミクログリアは神経の炎症にも深く関与することから、現在ミクログリアの活性化に着目して行動実験後の摘出脳サンプルを用いて検討中である。
著者
戸井 和彦
出版者
愛媛県新居浜市立角野小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

「コンパニオンプランツ」とは、異なる種類の植物を植えることで、相互に成長を促進し合える作物種の組み合わせのことである。農薬や肥料を削減する取り組みとしても、農業において大変注目されている技術である。特に家庭菜園など小規模栽培において積極的に導入されており、学校教育の場においても導入可能な方法である。しかしながらWebサイト等で学校でのコンパニオンプランツの取組を調べてみたが、ほとんど例は見つからなかった。学校花壇は、ヒマワリやアサガオなどほとんど単一植物の栽培である。コンパニオンプランツは、農家や家庭菜園では浸透しているが、学校では全然行われていない。理科専門の教育者でさえ初めて知ったという人もいた。本研究では、農業現場の技術を取り入れたり、環境に優しい栽培方法を実践したりしていくという意味でぜひ、学校教育の場に導入したいと考え、その基盤作りとしてコンパニオンプランツを実施することことにした。それぞれ、単独で植えた場合と、コンパニオンプランツをした場合とを比較した。どのような結果が得られるか子どもたちと予想し、楽しみと意欲を持って栽培させることができると考えられた。ここでは、子どもたちに「コンパニオンプランツ」という栽培方法について教え、実際に単一栽培をしたケースと対比させることで、その有効性に着目させたいと考えた。対象は小学校の4年生の児童とした。このような体験をもとに、作物栽培のあり方により興味、関心を持たせ、生物多様性を含めた作物相互の関連性に着目させることを意図した。主な例である。(1)ヒマワリとトウモロコシ(トウモロコシによる風よけ効果)(2)ヒマワリとダイズ(大豆による窒素固定(養分供給))(3)トマトとトウモロコシ(空間の有効利用)(4)アサガオとトウモロコシ(空間の有効利用)子どもたちは実験にいる作物の成長の違いに驚いていた。一人一人の記録を見てみると、よく分かった。実際に家庭でも試してみた子もいた。該当年度末に実施児童に対してアンケートを行った。結果は次の通りである。コンパニオンプランツで作物を育ててみたいですか。はい23人…よく成長する農薬や肥料が少ない面白そうだおいしいのが作れる家族に自慢したいいいえ4人・…時間がない収穫できないこともある家で場所がない分からない2人…あまり興味がない(1)ほとんどの児童は「コンパニオンプランツ」について、養分を補いあう場合などお互いの成長がよくなることに気づいたと言える。(2)本校が学級編成を1年ごとに行っているため、コンパニオンプランツについて気づかせ、教え、実際にその良さを実験によって確かめさせるのは期間が限定されており難しい。(3)教師が別に栽培をするなどして、ある程度、事前に並行して栽培をするなどし、肝心な所を観察させるなどの工夫やスキルが必要である。(4)小学校の栽培学習にコンパニオンプランツという農学的・生態学的な視点を導入することにより、マンネリ化している栽培活動を活性化していけるのではないかと考えられる。
著者
垂水 良浩
出版者
詫間電波工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的急速に高齢化が進む日本たおいて、身体的な介護とともに認知症の予防は重要な課題となっている。そろばんは指先・目・耳を使い、高い集中力が必要で、脳神経細胞が活性化されるため、認知症予防に効果があると言われている。最近では認知症予防の講座を開くそろばん塾もある。しかし、従来のそろばんの習得には指導者が必要であり、自分の好きな時間にできなかったり、一人では練習が続期ないなどの問題がある。そこで、以下のことが可能な「USBそろばん」システムを開発し、これらの問題を解決することとした。1.初心者が画面の指示どおりにそろばん入力し、ゲーム感覚で楽しく指使いの練習ができる。2.画面表示による読み取り算、音声による読み上げ算ができる。また、早さと正確さにより段位認定を行う。3.ネットワークを使ったランキングや珠算大会ができる。研究方法・成果珠の状態を光学センサで読み取りパソコンにUSBインタフェースで繋がるそろばんを開発した。11桁のそろばん珠配列に対応した5*11個のフォトリフレクタをマトリックス状に配置したセンサ基板を設計製作した。列ごとにセンサの状態をスキャンすることで、珠の位置をパソコンに取り込む。また、外光補正用センサにより、外光の影響による誤動作を防ぐようにした。画面に実際の珠の動きと連動したそろばんの絵が表示されるソフトウェアを開発した。音声や画面表示で問題を出題し、そろばんで入力された値の正誤を判定する。出題は10問単位で出され、時間と正確さにより段位を表示する。現在、3の機能は実装することができていないが、早期に実現し、実用化を目指したい。
著者
藤田 勲
出版者
埼玉県立飯能南高校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

1、目的・方法高校化学における総合的な理科の学力が身に付くカリキュラム及び授業書の作成を目的とし、具体的な授業案とその方法論を演示実験も含めて詳細に記述した授業書を一時間ごとに作成する。本年度はそのうち「NO2、花火の化学」と「NO3、酒の化学」の作成を目指した。2、成果「NO2、花火の化学」については冊子(約100ページ)にまとめて印刷し、各方面に配布することができた。「授業編のパート1「銅元素の旅」では元素概念の導入・展開を記した。この中で、人の体を作る元素を切り口にして元素不滅から元素循環へと元素概念を広げ、地球環境で循環する炭素元素を取り上げた。その際に元素循環がイメージしやいように銅元素の循環を演示実験で示した。この実験は金属銅を塩酸・過酸化水素で溶かし、アンモニア錯体にしてビタミンCで再び金属銅に戻すというものである。ここで私はガラス面だけでなくプラスチック面にもメッキがつきやすくする前処理剤として、従来からの塩化パラジウムでなく安価な硝酸銀を使う方法を開発した。また、パート2「光を出す元素」では炎色反応を通して元素を追うというアプローチで授業案を展開した。具体的には銅元素を炎色反応で追い、その応用として花火を取り上げた。麻ヒモを硝酸カリウムから塩素酸バリウムと代えて燃やすことで酸化剤の概念を導入し、実用花火の作り方を提示した。なお、解説編前半では温暖化問題を根本から解説し、後半では炎色反応の原理を詳細に記述し、線香花火の松葉様火花の生成原理も検討した。「NO3、酒の化学」は今のところ雑誌『化学と教育』5月号にその概要を記すにとどまっており、冊子の完成た至っていない。
著者
鈴木 長寿
出版者
東京工業大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

有機合成の実験教材開発の基礎として、マグネチックスターラーを用いたポリスチレン微粒子合成において粒子径を制御するための諸条件を検討した。ポリスチレン微粒子は、窒素雰囲気にした反応容器内にペルオキソニ硫酸カリウム0.0620g、スチレンモノマー1.52gを含む溶液300mLを入れ、ホットマグネチックスターラーにより80℃で24時間撹拌しながら合成した。合成時の撹拌速度は50~1000rpmまで段階的に変えた。その結果、200~500rpmの範囲で200~250nmのほぼ均一な粒子径の微粒子が合成でき、粒子径は回転数に比例して小さくなることがわかった。100rpm以下の弱い撹拌では液面で膜状にポリスチレンが固化し、600rpm以上では溶液の回転の乱れが大きく粒子径が不均一になった。反応容器では、筒状のセパラブルフラスコより三角フラスコの方が安定的に粒子径を制御できた。また、筒状フラスコで合成した粒子は三角フラスコに比べ径が小さくなる傾向が見られた。撹拌子は、棒状のテーパー型以外の形状の異なるものも用いたが、粒子径の変化に大きな差は見られなかった。合成後、得られた白色のポリスチレン分散液から微粒子を遠心分離したものをガラスのプレート上に塗布し、乾燥後発色を確認した。また、走査型電子顕微鏡で形状と配列、粒子径を観察・測定した。今回、合成した粒子径の異なる微粒子を用いて、赤・黄・緑・青色の4色の構造色を呈するコロイドフォトニック結晶を作製できた。粒子の配列が充填構造でないものや粒子径が不揃いなものは構造色が発現せず白色のままであった。粒子径が均一な微粒子を充填構造な配列に塗布したガラスの反射光を紫外可視分光光度計で測定したところ、反射光を呈する結晶の粒子径と最大反射波長には比例関係が確認できた。将来的にはゲルや樹脂中への固定化も含めて生徒実験としても実施可能な教材を目指したい。
著者
青木 達也
出版者
宇都宮大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

近年、日本の近代化・産業化に寄与した歴史的遺産が地域再生の資源として活用されている。そして、歴史的調査・研究が地域の個性と魅力を引き出す支えとなっている。日光市足尾町について見れば、「近代足尾銅山と鉱害問題の歴史やその関連遺産」が、環境保護の大切さを伝える植樹活動や世界遺産登録を目指した取組みなどに活用されている。足尾地域の遺産を種別に分類すると、探鉱・採鉱、選鉱、製錬、精錬、輸送・通信、生活・文化・教育、維持管理、エネルギー・用水、浄水・廃棄物、経営などに分けられるが、本研究対象はその種別でいうところの「輸送」を担った遺産となる。
著者
福島 志斗
出版者
松江工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では、通常の太陽光発電に用いる太陽電池モジュールが発電効率の低下をまねく原因の一つであり、日光によるモジュール温度上昇を抑えることで発電効率の向上が可能であるか検討を行った。同時に、温度差を電気エネルギーに変換可能なペルチェ素子を併用し、冷却時の温度差を電気エネルギーに変換することで太陽エネルギーの効率的なエネルギー変換システムについての検討を目的として実験を行った。実験の結果、製作した実験装置で冷却に水道水を用いて冷却した場合、日光において10[℃]程度の冷却効果が実現できているため、発電電力全体の約4[%]を改善することが可能であると考えられる,また、この際に15[mW]とわずかではあるがペルチェ素子による発電を確認することができた。その後、夏場70[℃]程度まで上昇する太陽電池モジュールを再現するため、人工光源を使用して90[℃]程度まで温度を上昇させて実験を行った結果、ペルチェ素子により最大で240[mW]程度まで発電し、太陽電池モジュールの発電効率の改善も同様に4[%]程度確認することができた。これらの実験には、200[mm]四方の単結晶化型太陽電池モジュールを用いた。これらの実験により、太陽電池モジュールを冷却し発電効率の改善を図ることが可能であり、冷却時にペルチェ素子を介することで更なる電気エネルギーへの変換が可能であると言える。また、冷却水を循環させることで温水器としての利用も考えられる。この実験を通し、太陽電池モジュールの発電量や背面温度の測定方法を、本校にて卒業研究を行っている学生に対して実物を用いて測定方法の指導することができ、実験装置の教育効果としての役割も果たすことができた。
著者
野田 菜央
出版者
神奈川県警察科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

資料の劣化は法科学的資料によく見られる特徴であり、体液種の同定における劣化資料への対策は重要な課題である。法科学的資料としてしばしば扱う体液種の1つである唾液の同定法として汎用されているアミラーゼ活性検査も、劣化した資料では活性低下により唾液同定が困難になることがある。また、劣化の程度は資料ごとに異なり、採取状況や資料の外観から劣化度を知ることは困難である。劣化度を正確に把握できれば、劣化度に応じてより効果的な検査法を選択し、資料の消費を抑えることができると期待される。そこで本研究では、唾液同定法の一種であるELISA法に着目し、資料中のタンパク質の劣化度をタンパク質分解度(PDR ; Protein Degradation Ratio)という指標で定義して資料の劣化度を評価した上で、PDRの異なる資料に対してELISA法を実施し、劣化資料に対する有効性を明らかにすることを目的とした。まず、タンパク質分解酵素で段階的に断片化したBSAについて、280nmにおける吸光度により総タンパク質量、Bradford法により比較的断片化していないタンパク質量を定量し、それぞれの定量値の比をPDRとして定義した。その結果、分解酵素の処理時間に応じてPDRの増大が認められた。また、土壌環境下で処理した健常人の唾液斑についても同様にPDRを推定したところ、劣化資料は未処理の唾液斑に比べて高いPDRを示した。さらに同資料に対してアミラーゼ活性を測定したところ、劣化資料においてアミラーゼ活性の低下が認められた。また、アミラーゼ、スタセリンを指標としたELISA法を実施したところ、劣化資料においてアミラーゼは検出されたが、スタセリンはほとんど検出されず、ELISAマーカーによって結果に差異が生じた。本研究より、資料の劣化度をPDRという指標で推定できることが明らかとなった。また、PDRから資料の劣化度に応じたELISAマーカーの選択ができる可能性が示唆された。今後は新たなELISAマーカーについて唾液同定の有効性を検討していきたい。
著者
小川 正樹
出版者
函館ラ・サール高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、北海道における華僑社会の形成と発展について、その概略をまとめた。幕末開港以来、函館に海産商が移住し、現在ではほぼ全道で華僑が生活している。しかし、道内への移住経緯やその後の華僑社会の推移についても不明なところが多い。北海道は明治維新後「内地」に編入されながらも、「外地」としての性格ももつ、国内でも異質な地域であり、1910年から1941年までの間に、華僑人口が88人から299人に増加し、居住地域も函館、札幌、旭川、浦河から、ほぼ北海道全域へと拡大した。道内主要都市の華僑の出身地を調査すると、福建省福清県出身者が中心であり、職業も呉服行商のほか、料理人や商店員、毛皮商などであった。非常に小規模ではあるが、しかし、確実に華僑社会は北海道に形成されていったことがわかる。道内の都市を比較してみると、各都市はそれぞれ異なる性格を有している。函館は幕末以来の外国人居留地や貿易港として発展した。函館華僑は、幕末には、広東省出身者が中心であつたが、明治初期には、三江地方出身者が主流となり、日清戦争の勃発により海産商が帰国し始めると、福建省出身者の移住が本格化し、函館を拠点に呉服行商として道内各地に移住していった。札幌は道都として開発が進み、開拓使に雇われたお雇外国人の中に10名の中国人農夫が含まれていた。こうして札幌華僑は農業移民から始まり、戦前の一時期、函館や旭川をおさえて華僑人口が全道最大となった。しかし、戦後になると、北大の留学生が中心となって北海道札幌華僑総会が設立されるなど、戦前と戦後に大きな断絶が存在する。旭川は、1899年に内地開放されてから外国人が居住するようになり、この時期に道内に移住してきた福建省出身者が中心となって華僑総会を設立し、旭川華僑は現在まで続いている。この三都市の華僑は移住開始時期、性格も異なり、一つとしてまとめることは不可能である。福建省出身者以外に、札幌と小樽では山東省出身者の存在が確認でき、この華僑の進出の経緯は未だ明らかにされていない。この山東省出身者のネットワークについて、今後は中国東北地方や沿海地方との関連についても検討していく必要がある。北海道華僑を日本国内の華僑だけではなく、北東アジア全域の華僑の動きと関連して考えていくことが今後の大きな課題である。
著者
辻本 和子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

〔目的】エビデンスに基づいた感染防御の基礎データを得ることを目的に、小学生が日常環境で触れる材料に付着したウイルスがどのくらいの時間感染性を保っているかを調べた。【材料と方法】ウイルスには単純ヘルペスウイルス1型(HSV)、インフルエンザA型Aichi株(IAV)、ポリオウイルスセービンワクチン株(PV)を用いた。適当量を分取した材料にウイルス液2μlを置いて汚染し、経時的にウイルス希釈液を加えた試験管に汚染材料を移し、回収される感染性ウイルス量を定量した。【結果と考察】1、檜(机)や砂(運動場)ではウイルス液が汚染直後に吸収された、檜は汚染5分後に全ウイルス種で感染性が失われたが、砂は15分間有意に感染性が保たれた。2、ペットボトル、ゴム、ランドセル、など撥水性素材では15分から20分間は汚染直後と変わらない感染性が全ウイルス種で見られた。3、ステンレスではウイルス種によって挙動が異なったが5分から10分程度で感染性が低下した。4、種々の布地では汚染すぐにウイルス液を吸収するものは感染性維持も短かったが、撥水性では長かった。5、IAVで共存タンパク質の影響をランドセルを用いて調べた。0.5%BSAを加えてもウイルスの感染性に差はなかった。以上の結果は、ウイルス液の乾燥を早める材料では感染性維持の時間が短く、撥水性で液が残る材料では感染性維持が長い事を示す。ステンレスでは液が残っても金属による不活化の関係か感染性維持は比較的短い。液を乾燥させやすい素材か否かは、集団環境での接触感染経路になりやすいか否かに関連すると言える。感染性維持が15分以上の材料が多種あるが、通常ヒトがくしゃみをした後や感染者が触れた材料を15分間も気に留める人はいない事は留意点であると言える。【今後の課題】定量的に検出する方法が確立され結果も得られ始めており、材料の範囲を広げ消毒法など更に応用へ繋げたい。