著者
谷 陽子
出版者
徳島市北井上中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では,生徒が科学技術に興味を持ち,科学する目・発想する心を育てる授業を展開した。その課程が,生徒の科学技術に対する興味を高め,将来にわたり科学技術と関わっていこうとする意欲の向上につながる効果について,明らかにすることを目的とした。技術・家庭科(技術分野)の授業で研究を進めた。研究方法として,最初の授業で生徒の実態を把握するために,科学技術に対する関心度についてアンケートを実施した。特に,プログラミングについてどの程度興味があり,知識があるのか調査を行った。第一段階として,プログラムの基礎を学習し,LEDを点滅させるプログラムを作成した。プログラム言語には,「HSP」(Hot Soup Processor)を利用した。第二段階として,LEDとスピーカを利用した卓上ライトを製作し,その作品をどのように光らせ,メロディを鳴らすのかを考え,プログラミングをした。自分が制作したプログラムを卓上ライトに記憶させ,スイッチを入れると自分がプログラムをした光り方でLEDが光ったり,メロディが流れたりするようにした。その後,アンケートを行い,生徒の変容を調査し,この授業実践の効果を検討した。その結果,生徒の科学技術に関する興味は,一連の授業を展開することで向上する傾向が確認できた。指導に関する自由記述では「プログラムに関する学習をして,クリスマスのイルミネーション,電光掲示板を見る目がかわった」と回答した生徒もいた。このような実践的・体験的な学習活動により,科学する目・発想する心を育て,今まで意識していなかった部分(プログラム)に着目し,科学技術に対する興味を高めることが可能であることが確認できた。
著者
後藤 匡敬
出版者
熊本大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究は、知的障害教育と日本語教育における言語能力育成を志向したデジタル教材開発とWeb公開を通じ、知的障害教育と日本語教育の教材の共通項を明らかにすることを目的としている。まずは、知的障害教育向け及び日本語教育向けに開発された、言語能力育成を志向した既存教材を調査し、その共通項を探る。並行して、既に「Teach U~特別支援教育のためのプレゼン教材サイト~」(以下、Teach U)で開発・公開中の教材について、知的障害教育と日本語教育の指導者にアンケート調査を実施し、双方の専門分野の教材が自らの専門分野において活用できるか、実現可能性を探究し、得られた知見を基に開発した教材をWeb公開する。
著者
臼崎 翔太郎
出版者
宮崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2023-04-01

研究期間は、透過物体越しに撮影した際の反射(以降、透過的反射とする)も含むSNS投稿画像内の人間映り込み箇所の検出を目的とし、提案手法(反射成分を分離するモデル+人間の検出モデル)と、既存手法(人間の検出モデル単体)を比較し、提案手法が「通常の映り込み」と「透過的反射の映り込み」の両方を精度よく検出できるか検証する。2枚の画像を重ねた疑似透過的反射画像や、カメラで撮影して作成した実際の透過的反射画像で「透過的反射による映り込み」の検出精度を、反射成分の無い画像で「通常の映り込み」の検出精度を確認し、両者において高い水準で人間を検出できるかを確かめる。
著者
松口 義人
出版者
福島工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

【研究目的】化石燃料の代替え品として水-植物油エマルジョン燃料をディーゼル機関で使用するために,以下の項目を調査・実験・評価し,最適なエマルジョン燃料を精製する.(1)植物油の基礎特性調査,(2)エマルジョン燃料の基本的性質の調査,(3)エマルジョン燃料の燃焼評価.【実験方法】渦流室ディーゼル機関を用いて,軽油,大豆油100%,エマルジョン燃料について,各燃料の温度による粘度変化の測定並びに燃焼実験を行った.粘度変化は音叉型の粘度計を用いて,10℃から70℃までの変化を測定した.また,燃焼実験は全負荷で行い,回転数1000〜3000rpmまでの範囲でデータを採取した.【実験結果】各燃料ともに温度が上昇するに従い粘度が低くなる傾向が見られた.特に,植物油,エマルジョン燃料は温度による粘度変化が大きく,大豆油は10℃から70℃の範囲で90〜13.7mPa・s,エマルジョン燃料で81.4〜11.9mPa・sとなり,軽油よりも温度による依存性が高い結果となった.また,若干ではあるが植物油に水を加えることで粘度が低減されたことが伺える.また、燃焼実験では,各燃料ともに回転数が増加するに従って,トルクが減少し出力が増加する傾向となった.中でも,エマルジョン燃料はトルクの減少が少なく,トルク,出力は最も高い値となった.また,低出力時ではエマルジョン燃料の燃料消費率が最も多くなったが,出力が高くなるに従い各燃料ともほぼ同等の値となった.熱効率では,軽油に比べてエマルジョン燃料の方が高い値となった。水を加えることでミクロ爆発を起こし,油滴が微粒子化され燃焼していると考えられる事から,窒素酸化物や粒子状浮遊物質を削減する効果があるものと推測できる.今後,エマルジョン燃料の実用化を実現させるためには,適正な水と植物油の混合割合の見極めとともに低い燃料温度での特性を調査していくことが必要であると考える.
著者
坂東 寛
出版者
徳島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

ラモトリギンは、抗てんかん薬および双極性障害の再燃再発予防薬として幅広く使用されている。一方で、副作用に重篤な皮膚障害があり、安全性速報で注意喚起がなされた。申請者は医療ビッグデータ解析により、ラモトリギンの皮膚障害リスクを上昇させる薬剤を見出した。本研究の目的は、候補薬剤の併用によるラモトリギン血中濃度および皮膚障害発現への影響を電子カルテ調査により明らかにするとともに、in vitroおよびin vivo実験により基礎的知見を集積することで、薬剤間の相互作用を明らかにし、適正で安全な薬物療法に寄与することである。
著者
川西 秀明
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究の目的】バシリキシマブは腎移植における急性拒絶反応の抑制に対し適応を持つ薬剤であり、免疫抑制剤であるカルシニューリンインヒビターを減量しながら急性拒絶反応の予防が可能であるといわれている。しかしながら、肺移植におけるバシリキシマブの使用はその症例が少ないことから有効性や有害事象に関する報告はほとんどない。カルシニューリニンヒビターの有害事象として腎機能障害が知られているが、バシリキシマブ投与によりカルシニューリンインヒビターの血中濃度を低く維持することができれば肺移植後の腎機能障害を軽減できる可能性がある。本研究では、バシリキシマブ投与により急性拒絶反応や感染症のリスクを上げることなくカルシニューリンインヒビターの血中濃度を低く保ち、さらに腎機能障害を軽減することができるか検討を行った。【研究方法】平成21年1月から平成27年12月に当院にて肺移植手術を受け、カルシニューリンインヒビターとしてタクロリムスを投与された患者を対象とした。対象をバシリキシマブ投与群と非投与群に分け、バシリキシマブ投与前後の腎機能、タクロリムスの血中濃度、急性拒絶反応の発症リスクおよび感染症のリスクについてレトロスペクティブに検討を行った。【研究結果】肺移植後8週までのタクロリムスの平均血中濃度はバシリキシマブ投与群で有意に低い結果となった。術後8週のクレアチニン値はバシリキシマブ非投与群において有意な上昇が認められた。急性拒絶反応、サイトメガロウイルス感染およびアスペルギルス感染は両群に有意差は認められなかった。これらの結果より、肺移植において、バシリキシマブ投与は感染症および急性拒絶反応のリスクを上げることなくタクロリムスの血中濃度を低く保つことができることが明らかとなった。そして、タクロリムスの血中濃度を低く維持できることが腎機能障害のリスク軽減につながると考えられた。
著者
成相 裕子
出版者
島根大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

動脈硬化の発症あるいはその経過に深く関連する血管平滑筋細胞の増殖は、粥状動脈硬化巣(プラーク)の形成における重要な因子の一つである。PDGFはプラーク形成部位の活性化されたマクロファージ、平滑筋細胞、内皮細胞、あるいは血小板より産生放出され、血管平滑筋細胞の内膜への遊走、増殖を促進し、その結果内膜肥厚を引き起こし、動脈硬化症を引き起こすと考えられている。エピガロカテキンガレート(EGCG)は緑茶に含まれるポリフェノールで、近年、心臓疾患を引き起こす動脈硬化の発症の抑制や高血圧予防、体脂肪燃焼作用について効果があると研究されている。我々は培養ラット血管平滑筋細胞(A7r5 cell)をEGCG2時間前処理の条件下でPDGF刺激すると、PDGFによって誘導されるERK1/2、MEK1、AktがEGCG存在下では著しく減少し、PDGF-βレセプターのリン酸化は濃度依存的に減少すること、初期応答遺伝子c-fos,c-junの発現も抑制されることを明らかにした。従って、A7r5細胞株を用いEGCGによる細胞増殖抑制効果が、リガンド、受容体、または両者への作用によって引き起こされるかを分子レベルで明らかにすることを目的とし、1.EGCGのPDGF刺激によるERK1/2、MEK1のリン酸化に及ぼす効果、2.EGCGの増殖に関与する極初期遺伝子の発現に及ぼす効果、3.EGCGのPDGF刺激によ.るPDGFβ-受容体のリン酸化に及ぼす効果、4.EGCGのPDGF刺激によるAktのリン酸化に及ぼす効果、5.EGCGのPDGF刺激による細胞増殖に及ぼす効果について検討を行った。その結果、EGCGはPDGFシグナル伝達経路の鍵となる分子であるPDGFβ-受容体、ERK1/2、MEK1、Aktのリン酸化を有意に抑制し、さらに極初期遺伝子c-fos,c-junの発現を減少させ、細胞増殖を有意に抑制した。これらの結果は、EGCGが動脈硬化症の憎悪因子と考えられている血管平滑筋細胞の増殖を抑制する分子機構を明らかにし、動脈硬化やそれに基づく心血管疾患に対するEGCGの有用性を示すものである。
著者
西田 拓洋
出版者
高知大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

認知症疾患診療は、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の段階で診断し、治療開始することが望まれている。しかし近年MCIの中に児童青年期までに診断されなかった発達障害者に、加齢性の認知低下が加わった状態の人が混在している可能性が指摘されている。本研究では、神経画像検査やCSF中のADバイオマーカー検査、発達障害評価を実施し、AD、DLB、ASD、ADHD等の原因疾患同定のための鑑別診断を行い、発達障害MCIと認知症MCIの割合を計算する。また認知機能や巧緻運動評価を実施し、その結果を2群間で比較した上で有意差が認められた検査項目に対し判別分析を行い、判別式を作成することで臨床に役立てる。
著者
田原 豊
出版者
千葉県立生浜高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的本研究は30年以上に渡る試行錯誤により独自に開発してきたニワトリ胚連続観察用人工容器の作成方法や、無菌状態でない教室でも十分授業展開ができる実験方法と観察方法の改善。さらに授業活用可能な視聴覚教材のハイビジョン化も進めることを目的にした。○研究方法人工容器の改善、調整と実験方法の確定のため、簡単に作成可能な人工容器の新たな模索と千葉県立生浜高校生物受講者を対象に授業実践研究を実施した。観察記録映像のハイビジョン化は主に実体顕微鏡レベルと肉眼レベルの映像をハイビジョンデジタルビデオカメラとデジタルカメラ等で記録した。○研究成果授業用の人工容器は観察しやすく、さらに身近な材料で安価に作成可能な人工容器に改善できた。高校生が授業中に自分たちで人工容器を作成することが可能になった。さらに、不可能とされてきた保温前に食用有精卵を割卵し卵殻外へ出して人工容器に移し保温観察を開始することの実用化に成功した。従来、保温50時間前後で割卵しなければならなかった事による授業計画上の制約から解放されるだけでなく、いったん保温された卵が割卵後に冷えないように一連の作業を急がなければならなかった点からも開放され、授業展開が大幅に改善された。人工容器の改善や実践研究中に記録されたハイビジョン映像は授業実践中にも一部活用し効果を実感できた。授業活用が十分可能な映像であることを確認した。今回の研究では人工容器内で誕生直前までの連続観察がより手軽に可能になったが、授業中にヒヨコを誕生させる事は出来なかった。胚の連続観察と誕生を共に保障できる方法の確立をめざし今後も研究を続けたい。
著者
安谷 元伸
出版者
滋賀大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

本研究では、抽象的な概念である思考を具体化し整理することで深い学びを促す教材の開発を目指した。特に、生徒たちの思考という行為を学習を通して段階的に深められるものとして捉え、思考ツールなどによって段階的な思考を可視化ができる可能性に着目した。そして、段階的に階層化された思考を具体的に表現する一連の活動を学習の中で継続していくことで、学びを深めていく「ディープラーニング」を充実させることができると考え、その実現のための学習展開及び、学習教材の開発と研究に取り組んだ。既に、先行研究において意見や学習の成果を「思考ツール」によって可視化する事業実践を進めてきた。そこで、これまで活用していたイメージマップ、分解の木、ステップチャート、プラスマイナスシート、ピラミッドストラクチャーなどの「思考ツール」の機能を再検討して、利用する場面を模索した。また、利用する際には、得られた情報や結果の重みや順位、有用性の度合いの判断等の意識づけを通して階層化を明確にする授業展開を進め、階層的思考を可視化する手法と活動を定着させた。研究を進める過程で「ディープラーニング」と「深い学び」の概念を整理して明示することができた。また、継続的に階層化した思考の可視化に取り組むことで、生徒が思考に対する意味の理解をメタ認知的に把握する姿勢が見られるようになった。そして、思考の拡散、細分化、分類に取り組めるようになったことで、得られた成果を活用する姿勢も生徒に意識づけることができた。結果、生徒間で意見交流の活発化が見られた。これら教材活用の方略や実践の内容等の研究成果は、複数の学会で発表することで貴重な見識を賜る機会を得た。それらをまとめた成果や課題は研究紀要等で報告を行った。また、校内の研究会の機会を活用して教員間で情報共有を進め、次年度以降の様々な実践における素地として活用されるよう成果物のデータ化を進めた。
著者
後藤 匡敬
出版者
熊本大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、これまでの科研費採択の研究を基盤とし、児童生徒の実態に合わせてカスタマイズが可能なプレゼンテーション教材の効率的な開発及び普及を目的とした研究である。特に、一人一人の教育的ニーズの異なる知的障害教育の児童生徒向けの教材を中心に、SNSやクラウド型のコミュニケーションツールを活用して、全国の教材作成者とつながり、効率的な情報共有の基、教材を開発する。物理的距離に依らない協働チームで作った教材は、これまでに開発した「Teach U~特別支援教育のためのプレゼン教材サイト~(https://musashi.educ.kumamoto-u.ac.jp/)」を中心に、Web公開する。
著者
石場 厚
出版者
愛知県警察本部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

○研究目的2-アミノ-1-フェニル-プロパン-1-オンを基本骨格とするカチノン系薬物にはフェニル基に置換基が導入されたものが数多く存在する。しかしながらオルト、メタ、パラといった位置異性体の違いにより指定される法律が異なることもあり、これを正確に識別できなければ誤認逮捕につながりかねない。薬物分析で用いられるガスクロマトグラフ質量分析においては、位置異性体の識別が困難な場合が多く、他の分析法を併用する必要がある。そこで芳香族置換基の位置異性体を識別する方法として呈色反応に着目した。○研究方法今回、検討した薬物はα-PVP及びそのフェニル基に置換基(メチル基、メトキシ基、メチレンジオキシ基)を導入した化合物8種類の計9種類である。メチル基、メトキシ基が導入されたものについては当研究所で合成した。またメチレンジオキシ基が導入されたものについては当研究所保有の薬物を使用した。これらの薬物の溶液を呈色板に滴下し、風乾後、呈色試薬を滴下し室温で5分反応させた後、色の変化を観察した。呈色反応に使用した試薬は、マルキス試薬はじめ21種類の試薬を検討した。○研究成果メチル基が導入された薬物についてはいずれの呈色試薬を用いてもオルト、メタ、パラの異性体を識別することは困難であった。メトキシ基のものでは硫酸がオルトのみを呈色し、マルキス試薬がオルト及びメタを呈色することからこれらの呈色試薬を組み合わせることで異性体の識別は可能であった。メチレンジオキシ基のものではマルキス試薬で2, 3-体と3, 4-体を識別することが可能であった。カチノン系薬物はカルボニル基の電子吸引性により芳香環の反応性が低下しているため、電子供与性置換基が導入されている薬物については呈色反応による位置異性体の識別は可能であると考えられる。
著者
森口 裕之
出版者
京都市立堀川高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

プランクトン個体を発見し、捕獲し、個別の個体を飼育しながら追跡観察できる実験系を開発することで、学校における「プランクトンの観察」をその場限りに終わらせず、そのライフサイクルを実験を通して学ぶことができる学習へと発展させることを意図して、簡易なプランクトン個体単離飼育容器を開発した。容器の素材には、透明性や加工性などに優れるシリコーンゴム(PDMS : Polydimethylsiloxane)を用いた。スライドガラスにセロハンテープや寒天の小片を貼り付け、それらを凸版の鋳型としてPDMSを硬化させることで凹部を型取りし、鋳型から剥がしたPDMS小片を別の平坦なスライドガラス上に貼り付けることで、プランクトンを流す流路や、そこから分岐したプランクトンの飼育部屋などを作り込んだ透明なデバイスを多数製作した。ここで、市販のセロハンテープの小片1枚を鋳型にすると高さ50μm前後の流路が成形され、セロハンテープを重ねる枚数を調整することで飼育対象とするプランクトンのサイズに応じた高さの流路を作製できた。例えば、2枚重ねたセロハンテープを鋳型とした場合には、ゾウリムシ(Paramecium caudatum)の個体が余裕を持って通過し、縦方向には回転できないが横方向には回転できる程度の高さの流路が作製された。デバイス内の流体の駆動・操作は、「紙縒り」に水を吸わせる方法(毛細管力による方法)やシリコーンチューブ等を介して空気圧を操作する方法、流路出入口上に設けた液貯めの水面の高さの差による静水圧による方法等のほか、流路に刺し込んだガラス管マイクロピペットによる吸引や、二流路型のガラス管マイクロピペット(θ管)を用いた培養液の交換も可能であることを確認し、実際にゾウリムシの個体を飼育部屋に単離し、少なくとも1週間、飼育しながら顕微鏡観察を続けることが可能であることを確認した。
著者
徳田 篤志
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

人工呼吸器を装着した患者に気管支拡張薬やステロイド吸入薬等を投与する際、定量噴霧式吸入器(MDI)やネブライザーを用いて薬物をエアゾル化し蛇管の側管から投与を行う。しかし、経験上意図した薬物量が肺内に到達しないため、人工呼吸器を装着した患者に吸入薬を投与する際には、添付文書に記載されている必要量以上の薬物量が投与されているケースがしばしば見受けられる。このように薬剤の投与量を増加することにより、有効性が得られるのは事実であるが、全身への副作用などが問題となってくる。そこで、本研究では、人工肺を用いて人工呼吸器を装着した患者モデルを作成し、回路内に薬物を投与して人工肺部に到達する薬物量を測定した。使用薬物は、臨床現場で使用頻度の高い硫酸サルブタモールを用いた。また、薬物のエアゾル化にはMDIと超音波ネブライザーであるエアロネブとウルトラソニックネブライザーの3種を使用した。この方法でエアゾル化した硫酸サルブタモールをそれぞれテスト肺内に設置したフィルターに吸着させ抽出後、HPLC法により定量を行った。その結果、MDI、エアロネブ、ウルトラソニックネブライザー使用における硫酸サルブタモールの肺への到達率は、それぞれ0.95%、0.88%、2.02%とかなり低い用量であることが確認された。これは、3種の投与法によって放出されるサルブタモールの粒子径がほぼ変わらない事から、蛇管内に小さな水滴を多く含む人工呼吸器下では、薬物が蛇管や回路に吸着し到達量が減少したと考えられた。さらに、呼吸器回路や蛇管の長さや肺への到達までにかかる時間等の問題も原因の一つであると示唆された。人工呼吸器回路内のエアゾル沈着には多くの因子が影響するが、今回の条件下ではどれも数%しか吸入されないことから、人工呼吸器を装着した環境下では、吸入薬の肺への到達性が低下するために、添付文書の用量も考慮した上で薬物量を増加させる必要があると考えられた。
著者
池田 充 栗和田 隆
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2019

水田の稲を食い荒らす有害生物ジャンボタニシは、稲作栽培に大きな被害を与えている。このタニシには天敵がいないことで生息範囲を全国的に拡大している。稲の植え付け直後の段階からタニシの駆除が必要不可欠で、現在は農薬での駆除が行われている。しかしこの方法では一時的なもので、いったん水田に侵入した場合には爆発的に増殖し稲苗を食い荒らされてしまう。農薬による短期的な防除では長期的な効果を期待することはできない。そこで先に行った様々な植物由来成分からキョウチクトウがジャンボタニシに有効であることが予備試験で得られたためバケツ稲栽培での駆除試験を行った。
著者
伊藤 瑠里子
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究目的】自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder : ASD)における性別違和の特徴を明らかにする検査指標を開発することを前提とし, ASD者の性別違和についてジェンダー・アイデンティティ尺度を用いてコントロール群と比較検討して特徴を明らかにすることを目的とした.【研究方法】愛媛大学医学部附属病院精神科を受診したASD患者をASD群, 一般公募にて参加した対象者をコントロール群としてジェンダー・アイデンティティ尺度と成人用自閉スペクトラム指数日本語版(Autism-Spectrum Quotient : AQ)を実施した. 対象年齢は社会との繋がりを認識し始め, 性別違和を自覚する15歳以上30歳未満とした. コントロール群は, AQの得点がカットオフ値以上の事例は除外した.【研究成果】ASD群6名(M:F=4:2, 平均21.5±3.77歳)と, コントロール群21名(M:F=7:14, 平均24.38±2.21歳)を対象として統計的分析を行った。① ジェンダー・アイデンティティ尺度内の低次4因子及び高次2因子についての2群間比較・低次4因子の一つである, 自己の性別が社会とつながりを持てている感覚である“社会現実的性同一性”はASD群が有意に低値で, 自己の性別が他者と一致しているという感覚である“他者一致的性同一性”では, 有意に低値であった(<.01). 自己の性別が一貫しているという感覚である“自己一貫的性同一性”においてもASD群が有意に低値である傾向がみられた(<.05).・自己の性別での展望性が認識できているという感覚である“展望的性同一性”, “社会現実的性同一性”の高次因子の一つである現実展望的性同一性の総得点平均はASD群が有意に高かった(>.05).②AQ総点とジェンダー・アイデンティティ尺度間の相関・ジェンダー・アイデンティティ尺度の高次2因子, 低次4因子に対してAQの総得点の相関を調べた. ASD群では, AQ総点と, 現実展望的性同一性, 展望的性同一性が負の相関がみられた(>.05). また, 一致一貫的性同一性, 自己一貫的性同一性において正の相関がみられた(>.05). コントロール群では相関はみられなかった.【考察】ASD者は, 自己のジェンダー・アイデンティティと他者の認識が一致していないと感じている. また, 自己のジェンダー・アイデンティティを生かした社会生活の展望が曖昧であり, ASD者の中でもより強い特性を持つ者は, その傾向が強まることが示唆された.
著者
萩原 慎太郎
出版者
福山市立動物園
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

昨年度、アジアゾウ1頭の行動の左右対称性を調査し、肢の動かし方、および鼻を巻く方向に左右差がみられたが、鼻では飼料の提示方法等によってその方向に一貫性がないことがわかった。供試個体は形状や提示方法を認知し、鼻の巻き方向を変えていることが考えられた。供試個体が1頭だったことから、本研究では行動の左右差を種レベルで確認するため、国内ゾウ飼育施設を対象にアンケート調査、および複数頭において鼻を使う行動の左右対称性を調査した。また、昨年度の供試個体に異なる飼料提示方法を用いて、鼻を使う行動の左右対称性をさらに調査した。1)国内ゾウ飼育施設36施設、81頭を対象にアンケート調査を実施し、回答率は83%であった。回答した施設の80%がゾウの行動の左右差を知っており、72%の個体で行動の左右差がみられるとの回答を得た。2)落花生を透明円筒内中央に入れて50回提示し、4施設8頭(雄2頭、雌6頭)を供試し、鼻の巻き方向を調査した。左巻きで獲得した個体は5頭(雄1頭、雌4頭)、右巻きで獲得した個体は3頭(雄1頭、雌2頭)で、供試個体全てで鼻の巻方向に左右差がみられたが、その方向に種としての一貫性はなかった。3)雌1頭を供試し、棒状のサトウキビを異なる高さ(4mと0m)で提示した時と、落花生を太さの異なる透明円筒(鼻で直接獲得できる太さ直径11.5cmと獲得できない太さ直径6cm)の中央に入れて提示した時における、鼻の巻き方向を調査した。サトウキビ給餌では高さ4m、0mともに右巻きで獲得し、落花生給餌では直径11.5cm、6cmともに左巻きで獲得した。以上より、国内のアジアゾウにおいて行動の左右差がみられたが、その方向に種レベルでの一貫性はなかった。飼料提示時の高さや太さを変化させ、鼻でつかむ、吸うなどの使用方法を変えた場合でも獲得方向に違いがみられなかった。飼料そのものの違いにより鼻の動かし方を変えている可能性もあり、さらなる検討が必要であると考えられた。
著者
河原 昌美
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

研究目的:抗がん剤によって引き起こされる吃逆は、重症度は持続期間で患者のQOLを低下させることから、吃逆を引き起こす抗がん剤の種類と発現頻度および要因を明らかにし、化学療法施行患者への予防に役立てることを目的とした。研究方法:インタビューフォームから承認時および市販後の吃逆頻度が1%以上と報告されているオキサリプラチン、パクリタキセル、ビノレルビン、ドセタキセル、イリノテカン、ゲムシタビンの6薬剤を選択した。2008年4月から2009年9月の間に金沢大学附属病院で、上記6薬剤が投与された619名の入院患者を対象とし、性別、年齢、がん種、併用薬、吃逆の状態等を診療録から調査した。研究は、倫理委員会の許可を得て実施した。研究成果:調査薬剤すべてにおいて実際に報告されているよりも高頻度で吃逆が発現していた。吃逆の発現には、男性、ステロイドおよび5-HT3受容体拮抗薬の併用が関連していた。また、プラチナ系抗がん剤を併用すると、単剤投与に比べて吃逆の頻度は上昇した。一方、ステロイド投与量、抗がん剤の投与量、がんの臨床病期は影響をおよぼさなかった。吃逆の治療には、クロルプロマジン、リスペリドンが効果的であることがわかった。本調査結果をもとに、吃逆発現の可能性が高い患者に対して説明文書を作成して注意を促すこととした。また、医師に対しては、吃逆の可能性が高い患者であることを知らせ、早めに治療薬を処方するよう伝えることですみやかな対処が可能と考えられた。